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ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

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Research 2 Vol.81, No.12013

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

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エマージングウイルスの ワクチン 東京大学医科学研究所 河岡義裕

平成14年度研究報告

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DVDを見た後で、次の問いに答えてください

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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博士学位論文審査報告書

インフルエンザ、鳥インフルエンザと新型インフルエンザの違い

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を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

図 1 鳥インフルエンザの公式発表にもとづく分布 (2003 年 10 月以降 ) (2) 研究開発の概要と成果高病原性鳥インフルエンザの発生とヒトへの感染を防ぐためには 1 野鳥から家禽にウイルスを持ち込ませない 2 家禽の中での蔓延を防ぐ 3ヒトへの感染を防ぐの 3 つが重要である ( 図 2)

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

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TuMV 720 nm 1 RNA 9,830 1 P1 HC Pro a NIa Pro 10 P1 HC Pro 3 P36 1 6K1 CI 6 2 6K2VPgNIa Pro b NIb CP HC Pro NIb CP TuMV Y OGAWA et al.,

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新技術説明会 様式例

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

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も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

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るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

いることが推測されました そこで東京大学医科学研究所の氣駕恒太朗特任研究員 三室仁美 准教授と千葉大学真菌医学研究センターの笹川千尋特任教授らの研究グループは 胃がんの発 症に深く関与しているピロリ菌の感染現象に着目し その過程で重要な役割を果たす mirna を同定し その機能を解明しました スナ

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新興ウイルス感染症から学ぶ ( その 1) 新興ウイルスは人獣共通感染症ウイルスである 自然宿主と平和な共存関係にあったところへ 人間が入り込んだ 人知れず存続してきたウイルスを現代社会が招き入れた 人間の社会活動はたえまなく拡大する 新興感染症は次々と登場するであろう

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

豚繁殖 呼吸障害症候群生ワクチン ( シード ) 平成 24 年 3 月 13 日 ( 告示第 675 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した弱毒豚繁殖 呼吸障害症候群ウイルスを同規格に適合した株化細胞で増殖させて得たウイルス液を凍結乾燥したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

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別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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能書単頁9[1].5(2)

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

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免疫難病 感染症等の先進医療技術 平成 13 年度採択研究代表者 河岡義裕 ( 東京大学医科学研究所教授 ) インフルエンザウイルス感染過程の解明とその応用 1. 研究実施の概要インフルエンザウイルスの感染過程を細胞および個体レベルで明らかにし 得られた結果をウイルス感染症克服に応用するために インフルエンザウイルスの人工合成法を駆使して 感染細胞におけるウイルス増殖ならびに感染動物における病原性発現機構の解明を行った これまでに インフルエンザウイルスの8 本のゲノムRNA 分節は それぞれ選択的にウイルス粒子に取り込まれること そして各 RNA 分節のウイルス粒子への取り込みに必要な部分を明らかにした この結果を基に インフルエンザとパラインフルエンザウイルスの両方の防御抗原を発現するウイルスを作製し この組み換えウイルスが多価ワクチンとして有効であることを実証した また これまでに知られているインフルエンザの流行のなかでもっとも多大な被害を及ぼしたスペイン風邪ウイルスの病原性発現には ウイルスのHA ( 赤血球凝集素 ) 遺伝子が重要であることを解明した さらに エボラウイルスの粒子形成に関わるウイルス蛋白質の役割についても明らかにした 2. 研究実施内容 I. インフルエンザウイルス ゲノムのパッケージング シグナルの知見に基づく新規ワクチンの開発一度に複数の感染症に対する免疫を付加させる混合ならびに多価ワクチンの需要は高い 現在 利用されている混合 多価ワクチンならびに同時投与が可能なワクチンはいくつかあるが MMR ( 三種混合ワクチン ; はしか 風疹 おたふく風邪 ) を除いては不活化ワクチンの組み合わせが主である 多くのウイルス感染症において 自然感染に倣って投与される生ワクチンが不活化ワクチンよりも効果的で図 1. インフルエンザウイルスのNAの翻あるが 弱毒生ワクチンでは ウイルス同士訳領域をセンダイウイルスのHNの翻訳領の干渉作用によって免疫が誘導されないこと域に置き換えた組み換えウイルス

があるため 一ヶ月以上の間隔をおいて単品投与することが基本である そこで 呼吸器疾患を引き起こすパラインフルエンザウイルスの感染防御抗原を発現する組み換えインフルエンザウイルスを作製することによりウイルス性呼吸器疾患に対する多価生ワクチンの開発を試みた インフルエンザウイルスのNAは感染防御にはそれほど重要ではないので NA 遺伝子の翻訳領域をパラインフルエンザ ( センダイウイルス ) の感染防御抗原であるHN 蛋白質遺伝子に置き換えた組み換えインフルエンザウイルスを作製した ( 図 1) このとき HN 遺伝子を持つ分節がウイルス粒子に取り込まれるようNA 分節のパッケージング シグナルをこの組み換えHN 分節に導入した 作製した組み換えウイルスは 通常のインフルエンザウイルスと同様に発育鶏卵においてよく増殖し 感染細胞においてインフルエンザウイルスのHA とパラミクソウイルスのHNの両抗原を発現した また 発育鶏卵で10 代継代を重ねても増殖効率に変化は見られず HAとHNの両抗原の発現も安定していた しかも マウスでは組み換えウイルスの基にしたインフルエンザウイルスが致死的なのに対して 組み換えウイルスは弱毒化していた さらに 組み換えウイルスを経鼻接種したマウスでは 両ウイルスに対して有意な抗体価の上昇が見られた これらのマウスを 致死量のインフルエンザあるいはパラインフルエンザウイルスで攻撃したところ いずれのウイルスに対しても 100% 生残した これらの結果は この組み換えウイルスが2つの異なるウイルス感染症に対して有効な弱毒生ワクチンであることを示している これまで 様々なDNAならびにRNAウイルスがワクチンベクターとして検討され そのうちのいくつかは臨床応用もされている しかし これらのベクターでは 宿主のベクターに対する免疫応答が その繰り返し投与を制限するという欠点がある インフルエンザウイルスをベクターとする場合 ベクターそのものに対する免疫応答も求められており これまでのベクターでは欠点とされていたことが長所となる また インフルエンザ生ワクチンでは変異による病原性復帰が懸念されるが 本研究で作出されたような外来遺伝子を組み込んだ生ワクチンにおいては数箇所の変異によって野生株に復帰することは考えがたく より安定した弱毒化に成功したといえる 現行のインフルエンザ生ワクチンは弱毒 A 型インフルエンザウイルス2 株 (H1N1,H3N2) と弱毒 B 型インフルエンザウイルスを混合した多価ワクチンである 本研究の組み換えウイルスのように これら3 株のNAをヒトパラインフルエンザタイプ1と3のHNならびに Respiratory Syncytial virusのgまたはfに置き換えることで呼吸器感染症混合多価ワクチンとすることも可能であろう II. スペイン風邪ウイルスの病原性発現機構 1918 年に世界的な大流行を起こしたスペイン風邪は 世界中で2,000 万人以上の死者を出した 当時は ウイルスを分離培養する技術が確立されていなかったため その流行を引き起こしたインフルエンザウイルスは現存しない そのため なぜこのインフルエンザウイルスが 通常の流行とは異なりこれほどの大流行を引き起こしたのか その実態は謎であった しかし 最近 当時亡くなった患者の肺病理検体および永久凍土に埋葬された

遺体からインフルエンザウイルス遺伝子が抽出され その塩基配列の一部が決定された そこで リバース ジェネティクスを用いて HAとNA 遺伝子がスペイン風邪由来 その他の遺伝子が現在ヒトで流行しているインフルエンザウイルス由来の人工ウイルスを作製し その病原性をマウスで調べた その結果 現在ヒトで流行しているインフルエンザウイルスは 10 7 感染価を接種してもマウスは死亡しなかったが HAとNAがスペイン風邪由来のウイルスに感染したマウスは 死亡した そのLD 50 図 2. HAのみスペイン風邪由来のインフルエンザウイルス (50% 致死量 ) は10 5 感染価であに感染したマウスの肺の病理所見 好中球を含む炎症性った さらに 現在ヒトで流細胞の浸潤と強い出血病原が見られる 行しているウイルスに感染したマウスの肺では ウイルス感染細胞がごく一部散見されるだけで ほとんど病変は見られなかったが HAとNAがスペイン風邪由来のウイルスに感染したマウスでは 肺胞全体に感染が広がっており 脈間周囲組織への強い好中球浸潤が見られた これに伴って 肺胞組織の崩壊が見られ強い出血病変が観察された スペイン風邪の流行時 急性肺出血を起こす例が急性症状の特徴のひとつとして報告されている また HAのみスペイン風邪由来のウイルスもHAとNAがスペイン風邪由来のウイルスと同様の病原性を示したことから ( 図 2) スペイン風邪ウイルスのHAがその病原性発現に重要な役割を示していることが明らかになった III. エボラウイルスの粒子形成エボラウイルスは ヒトやその他の霊長類に出血熱を引き起こす その致死率は極めて高く 時には90% 近くに達する このウイルスに対する効果的な予防 治療法は開発段階であり実用化されているものはない そこで本ウイルスの増殖過程を明らかにするために ウイルス粒子形成のメカニズムを解析した まずウイルスのヌクレオキャプシドがどのように形成されるかを個々のウイルス蛋白質をさまざまな組み合わせで発現して解析したところ NPだけでらせん状の構造物を形成し それにVP24とVP35という2 種類の蛋白質を発現するとNPのらせん状構造物の集塊の周辺から ヌクレオキャプシドが形成されてくることがわかった 感染性粒子が産生されるためにはヌクレオキャプシドがウイルス粒子に取り込まれなければならないが そのためにはヌクレオキャプシドは形質膜下に運ばれなければならない この輸送に関与するウイルス蛋白質を同定するために 種々のウイルス蛋白質をさまざまな組み合わせで発現させた その結果 マトリクス蛋白質であるVP40を発現するだけでヌクレオキャプシドは形質膜直下に輸送されることがわかった

次にヌクレオキャプシドが取り込まれるウイルスの殻がどのようにして出来るかについて調べた その結果 VP40 蛋白質とウイルスのスパイク蛋白質であるGPを発現することによりエボラウイルスそっくりの粒子が形成されることがわかった しかも ヌクレオキャプシド合成に必要なウイルス蛋白質とVP40ならびにGPを同時に発現させると ヌクレオキャプシドを取り込んだウイルス様粒子が産生されることがわかった すなわち ヌクレオキャプシドを持ちしかもエボラウイルスに特徴的なひも状の粒子を形成するのには 以上 5 種類の蛋白質が必要かつ十分であることがわかった 尚 エボラウイルスそのものを使った研究は 日本には稼働中のP4 施設がないため カナダ科学研究所のクループとの共同実験として行った 3. 研究実施体制ウイルス解析 開発グループ 1 研究分担グループ長河岡義裕 ( 東京大学医科学研究所 教授 ) 2 研究項目 : 1. インフルエンザウイルス粒子形成に重要なウイルス構成物質間および宿主遺伝子産物とのインターラクションの解明 2. インフルエンザウイルスのワクチンベクターへの応用 3. 強毒インフルエンザウイルスの病原性 4. エボラウイルスの増殖過程と病原性の解明 1 研究分担グループ長 Heinz Feldmann( カナダ科学研究所 ) 2 研究項目 : 強毒インフルエンザウイルスおよびエボラウイルスの増殖過程の解析 4. 主な研究成果の発表 ( 論文発表および特許出願 ) (1) 論文 ( 原著論文 ) 発表 Iwatsuki-Horimoto K, Horimoto T, Fujii Y, Kawaoka Y. Generation of influenza A virus NS2(NEP) mutants with an altered nuclear export signal sequence. J Virol 78:10149-10155, 2004. Barman S, Adhikary L, Chakrabarti AK, Bernas C, Kawaoka Y, Nayak DP. Role of transmembrane domain and cytoplasmic tail amino acid sequences of influenza A virus neuraminidase in raft association and virus budding. J Virol 78: 5258-5269, 2004. Horimoto H, Fukuda N, Iwatsuki-Horimoto K, Guan Y, Lim W, Peiris M, Sugii S, Odagiri T, Tashiro M, Kawaoka Y. Antigenic Differences between H5N1 Human influenza viruses isolated in 1997 and 2003. J Vet Sci

66:303-305, 2004. Horimoto T, Takada A, Iwatsuki-Horimoto K, Kawaoka Y. A protective immune response in mice to viral components other than hemagglutinin in a live influenza A virus vaccine model. Vaccine 22:2244-2247, 2004. Hatta M, Goto H, Kawaoka Y. Influenza B virus requires BM2 protein for replication. J Virol 78: 5576-5583, 2004. Shinya K, Fujii Y, Ito H, Ito T, Kawaoka Y. Characterization of a neuraminidase-deficient influenza A virus as a potential gene delivery vector and a live vaccine. J Virol 78:3083-3088, 2004. Shinya K, Hamm S, Hatta M, Ito H, Ito T, Kawaoka Y. PB2 amino acid at position 627 affects replicative efficiency, but not cell tropism, of Hong Kong H5N1 influenza A viruses in mice. Virology 320:258-266, 2004. Horimoto T, Iwatsuki-Horimoto K, Hatta M, Kawaoka Y. Influenza A viruses possessing type B hemagglutinin and neuraminidase: potential as vaccine components. Microbes and Infection 6:579-583, 2004 Iwatsuki-Horimoto K, Kanazawa R, Sugii S, Kawaoka Y, Horimoto T. The index influenza A virus subtype H5N1 isolated from a human in 1997 differs in its receptor binding properties from a virulent avian influenza virus. J Gen Virol 85:1001-1005, 2004. Takada A, Fujioka K, Tsuiji M, Morikawa A, Higashi N, Ebihara H, Kobasa D, Feldmann H, Irimura T, Kawaoka Y. A Human macrophage C-type lectin specific for galactose and N-acetylgalactosamine promotes filovirus entry. J Virol 78:2943-2947, 2004. Maeda Y, Goto H, Horimoto T, Takada A, Kawaoka Y. Biological significance of the U residue at the -3 position of the mrna sequences of influenza A viral segments PB1 and NA. Virus Res 100:153-157, 2004. Kondo T, McGregor M, Chu O, Chen D, Horimoto T, Kawaoka Y. Protective effect of epidermal powder immunization in a mouse model of equine herpesvirus-1 infection. Virology 318:414-419, 2004. Garulli B, Kawaoka Y, Castrucci MR. Mucosal and systemic immune responses to a human immunodeficiency virus type 1 epitope induced upon vaginal infection with a recombinant influenza A virus. J Virol 78:1020-1025, 2004. Watanabe S, Watanabe T, Noda T, Takada A, Feldmann H, Jasenosky LD, Kawaoka Y. Production of novel Ebola virus-like particles from cdnas: an alternative to Ebola virus generation by reverse genetics. J Virol 78: 999-1005, 2004.

Kiso M, Mitamura K, Sakai-Tagawa Y, Shiraishi K, Kawakami C, Kimura K, Hayden FG, Sugaya N, Kawaoka Y. Resistant influenza A viruses in children treated with oseltamivir: descriptive study. Lancet 364:759-765, 2004. Kobasa D, Takada A, Shinya K, Hatta M, Halfmann P, Theriault S, Suzuki H, Nishimura H, Mitamura K, Sugaya N, Usui T, Murata T, Maeda Y, Watanabe S, Suresh M, Suzuki T, Suzuki Y, Feldmann H, Kawaoka Y. Enhanced virulence of influenza A viruses with the haemagglutinin of the 1918 pandemic virus. Nature 431:703-707, 2004. Fujii K, Fujii Y, Noda T, Muramoto Y, Watanabe T, Takada A, Goto H, Horimoto T, Kawaoka Y. The Importance of Both the coding and segmentspecific noncoding regions of the influenza A virus NS segment for its efficient incorporation into virions. J Virol 79:3766-3774, 2005. (2) 特許出願 H16 年度特許出願件数 :0 件 (CREST 研究期間累積件数 :1 件 )