膜小胞「エキソソーム」を介した経口免疫寛容誘導機構の解析

Similar documents
八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

Microsoft PowerPoint - 新技術説明会配付資料rev提出版(後藤)修正.pp

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

Untitled

<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

Microsoft Word - FHA_13FD0159_Y.doc

第一章自然免疫活性化物質による T 細胞機能の修飾に関する検討自然免疫は 感染の初期段階において重要な防御機構である 自然免疫を担当する細胞は パターン認識受容体 (Pattern Recognition Receptors:PRRs) を介して PAMPs の特異的な構造を検知する 機能性食品は

長期/島本1

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

(Microsoft Word - \226\306\211u\212w\211\337\213\216\226\ doc)

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

スライド 0

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

Microsoft Word _前立腺がん統計解析資料.docx

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関


前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

Untitled

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

第6号-2/8)最前線(大矢)

Microsoft Word - Ⅲ-11. VE-1 修正後 3.14.doc

医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

学位論文の要約

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

1-4. 免疫抗体染色 抗体とは何かリンパ球 (B 細胞 ) が作る物質 特定の ( タンパク質 ) 分子に結合する 体の中に侵入してきた病原菌や毒素に結合して 破壊したり 無毒化したりする作用を持っている 例 : 抗血清馬などに蛇毒を注射し 蛇毒に対する抗体を作らせたもの マムシなどの毒蛇にかまれ

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

Microsoft Word _肺がん統計解析資料.docx

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

考えられている 一部の痒疹反応は, 長時間持続する蕁麻疹様の反応から始まり, 持続性の丘疹や結節を形成するに至る マウスでは IgE 存在下に抗原を投与すると, 即時型アレルギー反応, 遅発型アレルギー反応に引き続いて, 好塩基球依存性の第 3 相反応 (IgE-CAI: IgE-dependent

Microsoft Word - 3.No._別紙.docx

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

スライド 1

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

研究成果の概要 今回発表した研究では 独自に開発した B 細胞初代培養法 ( 誘導性胚中心様 B (igb) 細胞培養法 ; 野嶋ら, Nat. Commun. 2011) を用いて 膜型 IgE と他のクラスの抗原受容体を培養した B 細胞に発現させ それらの機能を比較しました その結果 他のクラ

Taro-kv12250.jtd

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

平成14年度研究報告

研究成果報告書

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

Untitled

娠中の母親に卵や牛乳などを食べないようにする群と制限しない群とで前向きに比較するランダム化比較試験が行われました その結果 食物制限をした群としなかった群では生まれてきた児の食物アレルゲン感作もアトピー性皮膚炎の発症率にも差はないという結果でした 授乳中の母親に食物制限をした場合も同様で 制限しなか

プロトコール集 ( 研究用試薬 ) < 目次 > 免疫組織染色手順 ( 前処理なし ) p2 免疫組織染色手順 ( マイクロウェーブ前処理 ) p3 免疫組織染色手順 ( オートクレーブ前処理 ) p4 免疫組織染色手順 ( トリプシン前処理 ) p5 免疫組織染色手順 ( ギ酸処理 ) p6 免疫

年219 番 生体防御のしくみとその破綻 (Immunity in Host Defense and Disease) 責任者: 黒田悦史主任教授 免疫学 黒田悦史主任教授 安田好文講師 2中平雅清講師 松下一史講師 目的 (1) 病原体や異物の侵入から宿主を守る 免疫系を中心とした生体防御機構を理

<4D F736F F D DC58F49288A6D92E A96C E837C AA8E714C41472D3382C982E682E996C D90A78B408D5C82F089F096BE E646F6378>

Untitled

H28_大和証券_研究業績_C本文_p indd

生物学に関する実験例 - 生化学 / 医療に関する実験例 ラジオアッセイ法によるホルモン測定 [ 目的 ] 本実習では, 放射免疫測定 (Radioimmunoassay,RIA) 法による血中インスリンとイムノラジオメトリックアッセイ ( 免疫放射定測定 Immunoradiometric ass

ヒト胎盤における

妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

<4D F736F F D F4390B38CE3816A90528DB88C8B89CA2E646F63>

図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

腸管免疫系におけるペクチン認識機構の解明

Untitled

■リアルタイムPCR実践編

STAP現象の検証の実施について

博士学位論文 内容の要旨及び論文審査結果の要旨 第 11 号 2015 年 3 月 武蔵野大学大学院

Untitled

論文の内容の要旨

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

膚炎における皮膚バリア機能異常の存在を強く支持する結果が得られています ダニアレルゲンの性質即ちドライスキンの状態では 皮脂膜や角層 角層間物質に不都合があるため アレルゲンや化学物質が容易に表皮深部ないし真皮に侵入し炎症を惹起し得るうえ 経表皮水分喪失量も増加することが容易に想像されます ではダニ

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

<4D F736F F D A838A815B C8EAE814095CA8E E A2B8D4C95F189DB8A6D944694C5202B544

平成24年7月x日

研究成果報告書

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

第14〜15回 T細胞を介する免疫系.pptx

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

従来のペプチド免疫療法の問題点 樹状細胞 CTL CTL CTL CTL CTL CTL CTL CTL 腫瘍組織 腫瘍細胞を殺す 細胞傷害性 T 細胞 (CTL) の大半は 腫瘍の存在に気づかず 血管内を通り過ぎている! 腫瘍抗原の提示を考えると それは当然! 2

報道関係者各位

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

症発症のトリガーとなる共通抗原の候補として推測される 近年 自然免疫系で T 細胞を介さない T 細胞非依存性経路による免疫グロブリン産生過程が存在することが発見され その過程において BAFF(B cell activating factor belonging to the TNF family

コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

Untitled

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

Transcription:

ニッポンハム食の未来財団平成 28 年度個人研究助成研究完了報告書 研究課題名 膜小胞 エキソソーム を介した経口免疫寛容誘導機構の解析 フリガナ アオキアヤコ 代表者名青木綾子 所属機関 ( 機関名 ) 東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻食糧化学研究室 ( 役職名 ) 特任助教 本助成金による発 表論文, 学会発表 研究結果要約経口免疫寛容は 経口的に摂取した抗原に対し全身の免疫応答が抑制される機構のことであり その破綻は食物アレルギー発症に関与すると考えられている このため 経口免疫寛容誘導を強化できれば食物アレルギーを予防 治療できる可能性がある エキソソームは 血液 尿 母乳などの体液中を循環する 5 9 nm の膜小胞のことで 体内の離れた細胞や組織に情報を伝達し 生体機能を調節する役割を担っている 腸管上皮細胞から分泌されるエキソソームには MHC class II 分子が発現しており T 細胞への抗原提示に関わっていることが明らかになっているなど エキソソームは経口免疫寛容誘導に寄与していると考えられている そこで本研究では 経口免疫寛容におけるエキソソームの役割を解明することを目的とし 卵白アルブミンを投与したマウス血清由来エキソソーム ( エキソソーム ) が免疫応答に及ぼす影響を解析した その結果 エキソソームは完全フロイントアジュバントをアジュバントとする免疫応答に対しては Th2 応答を活性化し DTH 反応を抑制する一方 抗体応答を高めることを明らかにした 一方 アラムをアジュバントとする免疫応答に対しては 抗体応答を抑制し Th2 応答を抑制する方向に働く可能性が示唆された 以上より エキソソームは用いるアジュバントによって異なる免疫調節作用を発揮することが明らかになった 1

研究目的乳幼児における食物アレルギーはその発症頻度が高く問題となっている 乳幼児にとっては乳や卵といった高栄養食品がアレルゲンになりやすく 複数の食物アレルギーに罹患した場合に栄養不足に陥る危険性がある そのため 食物アレルギーをもつ乳幼児にとっては早い時期の寛解が望まれており アレルゲン除去のみに頼らない対処が重要となる また 食物アレルギーを発症した乳幼児は その後高い確率でアトピー性皮膚炎や喘息など一連のアレルギーを発症することが知られており 食物アレルギーに対しては早期寛解とともにその予防が重要である 経口免疫寛容とは 経口的に摂取した抗原に対し全身の免疫応答が抑制される機構のことであり その破綻は食物アレルギー発症に関与すると考えられている このため 経口免疫寛容誘導を強化できれば食物アレルギーを予防 治療できる可能性がある 経口免疫寛容誘導には 抗原特異的 T 細胞のアポトーシスや不応答化 抑制性 T 細胞の誘導が関係することが知られているが その誘導機構に関しては完全には解明されていない エキソソームは 血液 尿 母乳などの体液中を循環する 5 9 nm の膜小胞のことで 体内の離れた細胞や組織に情報を伝達し 生体機能を調節する役割を担っている エキソソームは異種細胞に mrna や microrna を運搬するなど 核酸による細胞間情報伝達に寄与する 1) 腸管上皮細胞から分泌されるエキソソームには MHC class II 分子が発現しており T 細胞への抗原提示に関わっていることが明らかになっているなど 2) エキソソームは経口免疫寛容誘導に寄与している可能性が考えられる そこで本研究では 経口免疫寛容におけるエキソソームの役割を解明することを目的とした 研究計画及び研究手法 1. 食物抗原を投与したマウス由来の血清エキソソームが遅延型過敏反応 (DTH) に与える影響 BALB/c マウスに卵白アルブミン () を.1%~1% 含有する水を1 日自由飲水させた 血液を採取し Total Exosome Isolation kit (Invitrogen) を用いて血清エキソソームを精製した ( エキソソーム ) 精製した エキソソームを静脈経由でレシピエントの BALB/c マウスに移入した 移入後 を完全フロイントアジュバント (CFA) とともにマウス尾基底部に免疫し 1 日後に 足に を投与することで DTH 反応を誘導した 48 時間後の足の腫れを比較することで DTH 反応に対する血清エキソソームの移入効果を検討した 2. 食物抗原を投与したマウス由来の血清エキソソームが 抗体産生応答に与える影響 1 と同様の方法により 投与マウスから血清エキソソームを精製した エキソソームを レシピエントの BALB/c マウスの尾静脈に 3 回移入した 移入開始から 7 日後 さらにその 14 日後 2

に をアジュバントとともにマウス腹腔に 2 度免疫した アジュバントは CFA/IFA とアラム (Alum) を検討した 最後の免疫から 1 週間後に採血を行い ELISA により 特異的抗体量を 測定した 3. 血清エキソソームの T 細胞への抗原提示機構の解明 DO11.1 マウスは に特異的な T 細胞を有するトランスジェニックマウスで このマウスの遺伝的背景は BALB/c マウスと同じである 3 ) DO11.1 マウスから脾臓細胞を調製し 1 と同様の方法で精製した エキソソームの添加が in vitro において DO11.1 マウス脾臓細胞の増殖およびサイトカインの IL-4 IL-1 IFN-γ 産生に与える影響を調べた 計画ではその後 脾臓細胞から抗原提示細胞を調製し その存在下および非存在下において 血清エキソソームが 特異的 T 細胞の増殖およびサイトカイン産生に与える影響を調べる予定であった さらに 血清エキソソームの抗原提示機構に抗原提示細胞が必要であることが明らかになった場合には 血清エキソソームを蛍光標識し どの抗原提示細胞にエキソソームが取り込まれるかをフローサイトメーターおよび蛍光顕微鏡観察により明らかにすることを予定していた しかし エキソソームに対する DO11.1 マウス由来脾臓細胞の応答が観察できなかったため これらは実施しなかった 一方で エキソソーム自体が T 細胞応答に与える影響がわかっていなかったため その影響を検討した T 細胞を anti-cd3/anti-cd28 で刺激した場合と T 細胞と抗原提示細胞 (APC) を共培養し anti-cd3 で刺激した際の T 細胞応答に与えるエキソソームの添加効果を検討した なお CD63( エキソソームのマーカー ) や A33( 腸管上皮細胞由来エキソソームのマーカー ) MHC クラスⅡ 等の抗体ビーズを用いてエキソソーム精製画分から当該分子を有する膜小胞を除去し これを 1~3 の試験に用いることで 各試験における免疫応答を誘導する成分がエキソソームであることを確認するとともに 免疫応答を誘導する膜小胞の特徴を明らかにすることを予定していたが 実施にはいたらなかった 結果と考察本助成研究の結果 1. 食物抗原を投与したマウス由来の血清エキソソームが DTH に与える影響 エキソソームは エキソソームを移入しなかった BALB/c マウスに比べ 投与濃度.1% と 1% で足の腫れを有意に抑制した ( 図 1) DTH 反応は Th1 細胞によって起こる反応である 我々はこれまでに エキソソームの移入により CFA で を免疫した際のリンパ節のサイトカイン応答が Th1 系から Th2 系に傾くという結果を得ている これらの結果から エキソソームは CFA による免疫を修飾し T 細胞分化を Th1 から Th2 に傾けることで DTH 反応を抑制していることが示唆された 3

-specific IgG (OD45 nm) 足の腫れ (x1-2 mm) -specific IgG (OD45 nm) 3 2 1 *.1% 1.% 1% * serum exosome transfer 図 1. 卵白オボアルブミン () を投与したマウス由来の血清エキソソームがDTH 反応に与える影響 (A) 群 ( 血清エキソソームを移入していない群 さらにマウスに投与した 水の濃度に対応して.1% 群 1.% 群 1% 群 あわせて4 群を用意した 実験開始 1,3,5 日目の3 回にわたり 尾静脈よりエキソソームを移入した 7 日目に CFAとともに を尾基底部に注射した 17 日目に PBSを左の足せきに / PBS(-) を右の足せきに注射した 48 時間後に左右の足の厚みの差を測定し 足の腫れとして評価した 各群の平均値 +SDを示した 有意差の検定は Student s t test 法を用いてcontrol 群との間で検定した (n=4, *: p<.5) 2. 食物抗原を投与したマウス由来の血清エキソソームが 抗体産生応答に与える影響経口免疫寛容誘導では 抗原特異的抗体応答が抑制されることが知られていることから エキソソームが 抗原特異的な抗体の産生に与える影響について検討した その結果 エキソソームの移入は Alum アジュバントを用いた場合には 特異的 IgG 抗体応答を抑制した ( 図 2-A) 一方で CFA/IFA を用いた場合には 特異的 IgG 抗体応答を高めた ( 図 2 -B) この結果は用いるアジュバントによって エキソソームが抗体応答に与える影響が異なることを示しており大変興味深い 抗原特異的抗体応答には Th2 細胞が介在することが知られている そのため CFA をアジュバントとして用いた場合には エキソソームにより Th2 細胞が活性化されていることが示唆される これは1の DTH に対する エキソソームの実験結果とよ く一致する 一方 Alum を用いた場合には (A) エキソソームにより Th2 細胞応答が抑制されている可能性がある 一般的に Th1 応答を活性化する場合には CFA を Th2 応答を活性化.8.6.4.2 する場合には Alum を用いるが エキソソームはアジュバントの効果を打ち消す方向に免疫を修飾することが示唆された (B).4.3 1% serum exosome transfer * 3. 血清エキソソームの T 細胞への抗原提示機構の解明 1 2の実験から エキソソームは抗原特異的な免疫応答を修飾していることが示されたが このような調節には 抗原特異的な T 細胞が関与していることが強く示唆される さらに 腸管上皮細胞由来のエキソソームが MHC クラスⅡ 分子と抗原の複合体を形成し 免疫応.2.1 1% serum exosome transfer 図 2. エキソソームの移入がマウス血中 -specific IgG 抗体価に与える影響 1% は 1.% 水を投与したマウスの血清エキソソームを移入した群 実験開始 1,3,5 日目の 3 回にわたり 尾静脈より エキソソームを移入した (A)7 日目 21 日目に アルミニウムゲルとともに を腹腔注射した (B)7 日目に /CFA を 21 日目に /IFA を腹腔注射した (A,B)28 日目に血清を採取し 特異的 IgG 抗体価を ELISA を用いて測定した 各群の平均値 +SD を示した 有意差の検定は Student s t test 法を用いて control 群との間で検定した (n=4, *: p<.5)(a) 群 : 血清を pool した値 4

IL-1 (pg/ml) IFN-γ (pg/ml) [ 3 H]- チミジン取り込み量 (cpm) IL-4 (pg/ml) 答を起こすという報告がある 4) よって エキソソームは抗原特異的 T 細胞を誘導する可能性が高いと考えられた そこで 特異的な TCR を持つ DO11.1 マウスの脾臓細胞を用い エキソソームが抗原特異的な T 細胞の応答を誘導するか検討した その結果 予想外に エキソソームは 細胞の増殖応答 ( 図 3-A) IL-4( 図 3-B) IL-1( 図 3-C) 及び IFN-γ( 図 3-D) のサイトカイン応答について ほとんど何の影響も示さなかった DO11.1 マウスがもつ TCR は ペプチドの 323-339 残基を特異的に認識するため がエキソソーム上に抗原提示されていたとしても の 323-339 残基以外の部分が抗原提示されているために T 細胞の増殖を引き起こすことができないという可能性が考えられた (A) (C) 35 3 25 2 15 1 5 16 14 12 1 8 6 4 2 exosome ( peptide) µg/ml ( µm) 1. µg/ml (.1 µm) 1 µg/ml (.3 µm) 1 µg/ml (1. µm).1%.1% 1.% exosome exosome 1.% positive positive (B) (D) 14 12 1 8 6 4 2 N.D..1% 1.% positive 図 3. エキソソームが DO11.1 マウス由来脾臓細胞の応答に与える影響 (A) 増殖応答 (B)IL-4 量 (C)IL-1 量 (D)IFN-γ 量 各群の平均値 +SD を示す 凡例の濃度はエキソソーム溶液中のタンパク質濃度を表し ( ) 内の濃度はポジティブコントロールとして加えた ペプチドの濃度を表す IFN-γ については ポジティブコントロール以外のサンプルについては検出できなかった (N.D.) 5 4 3 2 1.1% 1.% exosome exosome positive 一方 本研究では エキソソーム自体が T 細胞応答を調節しているという可能性も考え T 細胞 の単独培養と T 細胞と APC の共培養に与えるエキソソームの添加効果を検討した その結果 非 常に興味深いことにエキソソームは抗原非特異的に T 細胞単独の場合はその応答を増強させ APC 5

と共培養の場合は T 細胞応答を抑制す (A) Tcell (B) ることがわかった ( 図 4-A, B, C, D) 1 APC+T cell 6 この結果から エキソソームには T 細 8 5 胞を直接活性化する作用がある一方で APC に対しては T 細胞を抑制するよう IL-2 (ng/ml) 6 4 IL-4 (pg/ml) 4 3 2 働きかけているという非常に複雑な免疫調節作用を有することが示唆された 2 2 2 1 2 2 この作用機構に関しては現時点ではまったく分かっていない また エ (C) 8 7 4 3.5 キソソームが DO11.1 マウス由来脾臓に対して T 細胞応答を誘導できなかっ IL-1 (pg/ml) 6 5 4 3 IFN-γ (ng/ml) 3 2.5 2 1.5 た原因に関しては 上述の可能性ととも 2 1 に エキソソーム自体が APC を介して 非特異的に T 細胞応答を抑制してしま 1 2 2.5 2 2 っているという可能性も考えられる 図 4. T 細胞の単独培養および T 細胞と APC の共培養に与えるエキソソームの添加効果 (A)IL-2 量 (B)IL-4 量 (C)IL-1 量 (D)IFN-γ 量 各群の平均値 +SD を示す :T 細胞のみ :T 細胞と APC の共培養を示す 本助成研究で 所期の結果は得られたか? また 残された課題本研究では 所期の目的に従い エキソソームが免疫応答に与える影響を解析し エキソソームが抗原特異的に免疫応答を修飾することを明らかにした その修飾は 興味深いことに 用いるアジュバントの効果を打ち消す方向に働いていることが示唆された その作用機構に エキソソームによる抗原特異的な T 細胞の誘導が関わっているかについて検討したが 出産に伴う研究の中止期間もあり そこに関しては明らかにすることができなかった 学会や論文発表等の予定 これまでに得られた成果に関しては食品免疫学会での発表を予定している また エキソソ ームの作用機構の解明をもって 論文として取りまとめる予定である 今後の研究活動について今後の研究方針本研究では エキソソームが抗原特異的に免疫応答を修飾することを明らかにしたが その作用機構については あきらかにできていない そこで まずは DO11.1 マウス脾臓から T 細胞 6

のみを調製し エキソソームが T 細胞応答を誘導できるか 再度検討する予定である エキソソームが T 細胞応答を誘導できることが確認できた場合には 誘導された T 細胞の性質を調べることで エキソソームによる免疫の修飾が 誘導される T 細胞により引き起こされるのかについて明らかにしたいと考えている また 本研究により エキソソームが APC を介して T 細胞応答を抑制している可能性が見出されことから これがどのような機構により引き起こされているのか またこの効果は生体においても認められるのかということについても検討したいと考えている 今後の研究活動 これらのエキソソームに関する基礎的な知見を増やしていくことで エキソソームを基盤とする 食物アレルギー予防方法の研究につなげていきたい 参考文献 1) Valadi H, Ekström K, Bossios A, Sjöstrand M, Lee JJ, Lötvall JO. Exosome-mediated transfer of mrnas and micrornas is a novel mechanism of genetic exchange between cells. Nat Cell Biol. 27 Jun;9(6):654-9. 2) Van Niel G, Mallegol J, Bevilacqua C, Candalh C, Brugière S, Tomaskovic-Crook E, Heath JK, Cerf-Bensussan N, Heyman M. Intestinal epithelial exosomes carry MHC class II/peptides able to inform the immune system in mice. Gut. 23 Dec;52(12):169-7. 3) Murphy KM, Heimberger AB, Loh DY. Induction by antigen of intrathymic apoptosis of CD4 + CD8 + TCR lo thymocytes in vivo. Science. 199 Dec;21,25(4988):172-1723. 4) Van Niel G, Mallegol J, Bevilacqua C, Candalh C, Brugie`re S, Tomaskovic-Crook E, Heath JK, Cerf-Bensussan N, Heyman M. Intestinal epithelial exosomes carry MHC class II/peptides able to inform the immune system in mice. Gut. 23 Dec;52(12): 169-1697. 以上 7