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第 17 回臨床血圧脈波研究会症例検討会 1 ABI PWV 測定により血管機能を評価した症例の検討 市橋成夫 ( 奈良県立医科大学放射線医学教室 IVR センター ) 症例 1 図 1 症例 1 初診から 1 週後の計測値 60 歳代 女性 身長 150cm 体重 42kg 近医にて高血圧症 脂質異常症 左下肢に深部静脈血栓症 (DVT) で加療中です 数カ月ほど前に右下肢に痛みが出現 初回のABIは右が0.95 左が0.84でした 1 週間後に疼痛が増悪し 足趾のチアノーゼが認められたため 当院に紹介されました 本例は ABIが進行性に低下しています 初回は右が 0.95 左が0.84でしたが 1 週後には右が 0.62 左に至っては脈信号が小さく検出できないところまで下がりました ( 図 1) ABIが進行性に低下した原因はどこにあり どのような検査を施行しますでしょうか 質疑応答 吉川公彦( 座長 ) DVT の経過観察中に急激に ABIが低下している症例です DVT の経過についてはどうだったのでしょうか 市橋 DVT は何カ月前からあり 近医の血管外科にて抗凝固療法で様子をみられていました 今回 下肢が変色し ABI が急激に下がってきたため 紹介となりました フロアー 下肢の静脈瘤の既往はあったのでしょうか 市橋 ありませんでした フロアー 家族歴はあったのでしょうか 市橋 こちらもありません フロアー この波形を見ると 上腕の脈波の立ち上がりがとても早い 大動脈が詰まるなど行き先がないときにこのような波形になることがあります 吉川 上腕の脈の状態から 大動脈 あるいは両側の下肢の動脈の閉塞が考えられるということでしょうか 市橋 来院時のデータは 白血球 109 10 2 /μl 血小板 45.6 10 4 /μl プロトロンビン時間 (PT)20.7 秒 活性化部分トロンボプラスチン時間 (APTT)36.3 秒 血中フィブリノゲン濃度 (Fbg)62.4 mg/dl FDP65.2μg/mL D ダイマー 20.8μg/mL CRP 7.01mg/dL GOT 31U/L LDH 516 U/L ALP 448 U/L γ - GTP 131 U/L で 凝固系がかなり広範に乱れています CTでは右側の浅大腿動脈に閉塞があり 左側の浅大腿動脈には狭窄が少し認められました また 肝臓に多発性の肝腫瘍が認められました 画像からは悪性がきわめて高いことからバイオプシーを行ったところ 原発性の胆管細胞がんと診断されました 回答としては ABIの急激な低下は 悪性腫瘍に伴う凝固異常ということになります 腫瘍がかなり大きくなると組織因子やプロテアーゼなどが分泌され 凝固亢進が起こります 播種性血管内凝固症候群 (DIC) によって動脈血栓 静脈血栓が同時に起こったということが 本症例のキーとなります 吉川 悪性腫瘍に伴ってDVTが起こり 動脈閉塞も起こったということでしょうか 市橋 右は浅大腿動脈でしたが 左はかなり末梢の膝下 6

症例検討会 1 が詰まっていました 吉川 悪性腫瘍がベースにある場合は 症例のように急激に凝固系が異常になり 血栓が形成されるということですね 市橋 そうです それから 先ほどフロアーから脈の立ち上がりについての発言がありましたが それについて少し補足します われわれもステントグラフト内挿術を行っていますが グラフトを圧着する際にバルーンで大動脈弓部を膨らませると 上腕血圧がすごく上がります 行き場を失った血流が押し合ってシャープな脈波になる というのは鋭い指摘だと思いました 図 2 症例 2 ABI 低下時の計測値 症例 2 60 歳代 女性 身長 150 cm 体重 59 kg 高血圧症 脂質異常症 狭心症の既往歴があります この患者さんは1986 年より末梢動脈疾患 (PAD) バージャー病のため当科にてフォロー中で 2015 年よりABIが低下し 右下肢の間欠性跛行が出現しました ( 図 2) この症例に対し 次はどのような検査 治療を行いますでしょうか 質疑応答 市橋 主訴は右下肢の間欠性跛行です 症例の脈波とABI をみると 右のABIが下がっているため 下肢動脈狭窄がありそうです 波形もかなりなまっていて低い では 左はいかがでしょうか フロアー 左のUTが225msecなので 病変がある可能性は十分にあると思います 市橋 そうですね ABIの値はボーダーラインですが UTがかなり延長しています 解説に入りますが 右の浅大腿動脈は90% 以上の狭窄があったため ステントを留置し バルーンで拡張したところ 良好な血流を得ることができました 一方 左はCTではかなり強い石灰化が膝下動脈より少し上のレベルに認められまし た 狭窄度は50% 強ぐらいでしょうか ABIの低下だけみていると こういう軽度狭窄例を見落とす可能性が高いので 心血管イベントの予防という意味では 積極的にUTや % MAPの異常値から拾い上げていく必要があると思い この症例を提示させていただきました 吉川 この症例では左のABIが0.92でしたが 無症状であっても外来でフォローしていくことが大切ですね ABIの低下に伴って症状が出現すれば 治療適応になります 特にこうした波形分析は大事だと思います 7

第 17 回臨床血圧脈波研究会症例検討会 2 ABI PWV 測定により血管機能を評価した症例の検討 伊東範尚 ( 大阪大学大学院医学系研究科老年 総合内科学助教 ) 症例 3 87 歳 女性 身長 143 cm 体重 41 kg 近医にて高血圧 糖尿病 発作性心房細動で加療中 脳梗塞の既往歴があります 喫煙 飲酒ともにありません 3 週間前に突然 背部痛が出現して 近医で胸腹部大動脈解離と診断され 保存的加療となりました その後も背部痛が持続するため 当院への紹介となりました この症例では bapwv が右 4,477cm/ 秒 左 5,526cm/ 秒とかなり高値になっています ( 図 1) この原因についてどう考えますでしょうか 質疑応答 吉川公彦( 座長 ) 確かに bapwv が高値です フロアー これは再来院時の ABI ですか? 伊東 そうです 胸腹部大動脈解離を起こしてから3 週間後の入院時のABI PWV です フロアー 一度保存的に加療された解離が再解離する 症状的にはそれを疑いますが bapwvが高値になるかは分かりません フロアー bapwvの精度にも限界もあるので 値が 2,500 cm/ 秒を超え 3,000 cm/ 秒 4,000 cm/ 秒になった場合は もう一度測定を試みると違う数値になっていることもあります 伊東 再解離に関しては症状があるので 可能性はあっ図 1 症例 3 再来院時の測定値 たと思われます 血液検査ではDダイマーと白血球が多少上がっている以外の要素はなく 胸腹部造影 CTでは 胸部下行 - 胸腹部移行部の大動脈壁に三日月状低吸収域が連続していましたが 3 週間前のCTと比べて大動脈の拡大傾向は認めませんでした 心電図では心房細動が 心エコーでは左室肥大 僧帽弁閉鎖不全 三尖弁閉鎖不全症が認められました 頸動脈ではプラークスコアが右 4.5mmと左 5.4mmでした 3 週間後に取り直すと bapwv は 2,475 cm/ 秒と 2,112cm/ 秒でした 胸腹部大動脈解離を起こすと一時的にbaPWVが上がるという報告もあるようですが 異常高値が出た場合は もう一度取り直すことが必要だと考えています フロアー 解離があると 壁が厚く伸展性がなくなる石灰化と同じ状態になるため 波形の立ち上がりは早くなります 3 週間後に戻っていたのは 血栓が吸収されて壁が薄くなっていたからではないでしょうか 再度 CTを撮っていたら確認できたかもしれません 症例 4 68 歳 男性 身長 170cm 体重 88kg 近医にて高血圧 糖尿病 ( インスリン治療 13 年 ) 脂質異常症 高尿酸血症で加療中です 前立腺がんでホルモン治療の既往があります 喫煙は1 日 40 本を38 年間 飲酒は缶ビール1 本程度を毎日 両足背動脈触知は良好でした 今回 立ちくらみとふらつきを繰り返しているとのことで 当院を紹介されました この症例には どのような検査を施行しますでしょうか 質疑応答 フロアー 下肢の脈波がよく 足背動脈も触れていますけれど bapwvはかなり高値です 血圧を考慮しても高く 動脈硬化があると考えられます ふらつきや立ちくらみがあるので 脳血流のチェック 頸動脈のスクリーニングなどが必要だと思います フロアー 下肢の脈波の立ち上がりはいいですが 高さが少し低い こういうときは全身の動脈硬化が進んでいることが多い 立ちくらみの原因としては椎骨動脈の循環不全などが考えられますが いずれにしても立 8

症例検討会 2 位の血圧を測る必要があると思います 吉川 脳血流の障害が疑われるということで MRや頸部エコーはどうでしょうか 伊東 解説ですが この症例も bapwv が 4,024 cm/ 秒と 3,889 cm/ 秒と高値です ( 図 2) 心電図では第 1 度房室ブロックがあり 頸動脈では両側の内頸動脈の高度狭窄を認めました とくに左内頸動脈の最狭窄部は全周性の石灰化で 観察ができませんでした 頭部 MRIは脳室周囲に白質病変があったものの 新規の梗塞病変は認めませんでした 頭部 MRA では両側総頸動脈終末から内頸動脈起始部にかけて高度な狭窄があり 頸部エコーと同様の所見でした 左内頸動脈サイフォン部と右中大脳動脈起始部にも狭窄を認め 左頭蓋内内頸動脈領域の描出の低下を認めました 入院した矢先 一過性脳虚血発作を発症したため 緊急に頸動脈ステント留置術を施行しました 治療後は左大脳半球の灌流低下は回復しましたが 右大脳半球は分水嶺領域を中心に低灌流がありました 現在は投薬治療にてフォローしています 吉川 年齢的には若いですが 糖尿病 高血圧などハイリスクの人のbaPWV 高値は 速やかに次の手立てを講じないと 次々とイベントが起こる危険性があります 注意をしなければいけない症例でした 症例 5 52 歳 女性 身長 158cm 体重 64kgで少し肥満傾向があります 3 年前から続く起床時の頭痛 全身倦怠感の訴えにて 当院を紹介されました 前医からの紹介状では 高血圧 脂質異常症 糖尿病などは認めないとのことです 喫煙 飲酒ともにありません 両足背動脈の触知は良好でした 原因として どのような疾患を考えますでしょうか 質疑応答 伊東 bapwv は 1,861 cm/ 秒と 1,787 cm/ 秒で 年齢の割にbaPWVは高値です ( 図 3) 原因として どのような疾患が考えられますでしょうか 吉川 主訴は頭痛と倦怠感で PWVが高値 どうでしょうか フロアー これだけで類推するのは難しい 脈波速度が速いので 睡眠時無呼吸症候群 (SAS) の合併を考えます ただ 起床時の頭痛とは合いません フロアー 心機能はどうでしたか 伊東 心電図や心エコーでは大きな問題点はなく 頸動脈エコーはプラークスコアが右 1.9 mm 左 1.6 mm でした 実はこの症例は SAS の患者さんで ポリソムノグラフィを施行したところ 睡眠時の酸素飽和度が 90% 台後半から 84% 80% ぐらいまで低下し Arousal Index( 微小覚醒 ) は79.7 回 / 時でした 経鼻的持続陽圧呼吸療法 (CPAP) を行うと症状は改善し 頭痛も消失しました 現在フォローしていますが bapwv は下がっていません 一般的にSASの症状は日中の眠気といわれますが 高齢者では頭痛や夜間の頻尿なども起こります 冨山先生らの論文 1) では SAS の有無が bapwv の高値に関連しているという報告されていますし SASが重症になるほどbaPWVは上がります bapwvの高値の原因として 乖離や全身の動脈硬化以外にも SASの可能性があるということで 提示いたしました 吉川 SAS でbaPWV が高値を示すことがあることを 会場の皆さんもしっかり頭に入れていただければと思います 図 2 症例 4 来院時の測定値 図 3 症例 5 来院時の測定値 文献 1) Shiina K, et al. Concurrent presence of metabolic syndrome in obstructive sleep apnea syndrome exacerbates the cardiovascular risk: a sleep clinic cohort study. Hypertension Res 2006 ; 29: 433-41. PMID: 16940706 9

この論文は Arterial Stiffness WEBサイトに掲載されています その他の論文はこちら 第 17 回 臨床血圧脈波研究会 症例検討会③ ABI PWV 測定により血管機能を評価した症例の検討 冨山博史 東京医科大学循環器内科学教授 認めた症例です 脈振幅が小さいことと 上腕圧脈波 症例6-1 が足首圧脈波と比べて立ち上がりの傾きがかなり寝て いるのが特徴です まずは 心雑音が認められた症例 2 例を紹介します 75 歳 男性 身長 154 cm 体重 46 kg 喫煙歴は 1 日 10 本 50 年です 鈴木 弁口面積はどれくらいですか 冨山 0.9 cm2 ぐらいです 心音計はよほど上手に測らな 労作時の胸痛があったため 近医で心雑音と腎機能障 いと雑音を拾えないことがあるので 注意が必要です 害を指摘され 来院しました 外来受診初日で心エコー 症例 6-2 は 3 日後に予約が入っています この波形 ABI PWV だけで分かることはありますでしょうか 図 1 続 い て の 心 雑 音 の 症 例 は 67 歳 の 男 性 で す 身 長 178 cm 体重 75 kg 喫煙歴はありません 人間ドックで 心雑音を指摘され そこで測定された PWV 記録をその他 質疑応答 鈴木洋通 座長 会場から何か質問はございますか の結果と合わせて持参されました 図 2 フロアー 心雑音があるということは 大動脈弁狭窄症 こちらの心雑音の原因疾患はどんなものが考えられま か大動脈弁閉鎖不全症があると考えたほうがよいので すでしょうか しょうか 冨山 そうですね フロアー 脈圧があまり高くないので 大動脈弁狭窄症 質疑応答 フロアー 脈圧が結構大きいので 大動脈弁閉鎖不全で でしょう 冨山 その通りです カラードプラで大動脈弁狭窄症を しょうか 冨山 その通りです 症例 6-2 は 6-1 の大動脈弁狭窄症と 図 1 症例 6-1 来院時の測定値 図 2 症例 6-2 人間ドック時の測定値 10

症例検討会 3 逆で 圧脈波の立ち上がりの傾きが立っていて振り幅も大きくなっています 鈴木 フロアーから質問はありますか? フロアー 学生教育には非常に大事な症例だと感じました 学生には脈の感触をなかなか伝えられませんが 症例 6-2は下肢の脈波が急速に立ち上がっています 脈圧も94と95なので 脈に大きく触れることができます また ABIが右 1.30 左 1.37でしたが 本来はもっと大きくてもおかしくありません というのも Hill 徴候 といって 上肢に比べて下肢の脈圧が非常に高いからです 学生は速脈の知識はありますが 実際の脈に触れる機会がほとんどありません 大動脈弁閉鎖不全の典型例ということで 学生教育で経験させたい症例です 鈴木 貴重なコメントです ありがとうございました 症例 7 67 歳 女性 身長 146cm 体重 37kg 高血圧外来に通院中の患者さんで 喫煙歴は 1 日 15 本 45 年です ポイントは3 年前の脳梗塞の既往です 当時の脳 MRA では有意な狭窄は認めませんでした その後 当院で頸動脈超音波などを施行するも 粥状硬化病変や頸動脈の狭窄は認めませんでした 現在は バイアスピリンによる抗血小板薬で経過観察中です 1カ月前から家庭血圧が低下し 降圧薬を半分に減らしています 2 週間前にはテニス中にラケットを放り出し 右手がしびれる と これが外来にいらしたときの所見になります ( 図 3) この患者さんに 次にどんな検査を施行すればよいでしょうか また 3 年前の脳梗塞が今後に与える問題について 推察いただけますでしょうか 症状的にもそう考えます 冨山 この症例では 3 年前にも脈波速度を測定していますが このときは血圧に左右差はありませんでした 血圧に左右差があるときは解離性大動脈瘤を考えますが この症例は右の腕頭動脈の狭窄がありました おそらく3 年前は閉塞を起こさない程度のプラークが存在していたと考えられ そのために小さな脳梗塞 脳血栓症が起こったと推測されます 鎖骨下動脈の狭窄は血流の関係で左手に起こることが多く 私どもの医局で経験する例もほとんどが左手の鎖骨下動脈です しかし 症例のように左は正常で 右の腕頭動脈に狭窄が起こったケースは初めてでした 鎖骨下動脈狭窄の場合 概ね経過観察になり 症状があると治療の適用になります ただ この症例は腕頭動脈の狭窄のため バルーン形成術を行うと血栓が飛んで塞栓症を起こすリスクがあります 現在は抗血小板薬を使って経過観察しつつ 治療方針について脳神経外科と血管外科で考えているところです 血圧に左右差があると予後が悪いことはメタ解析で知られています 家庭血圧計で自己測定をされている患者さんには たまには右左の血圧を図っていただいて リスクの精査をすることは非常に大事だと考えます 図 3 症例 7 来院時の測定値 質疑応答 フロアー 主訴は運動中の右肘のしびれですよね 上腕跛行といい 歩行中に起こる足の間欠跛行と一緒で 血流が低下すると起こります 右の血圧が左に比べて 30mmHg 以上低くなっているので 右の腕頭動脈か鎖骨下動脈の閉塞性病変が疑われます 脳梗塞の既往があったので 腕頭動脈に病変があり 血行動態の悪化 (hemodynamic compromise) かそういうもので脳梗塞になった可能性があると思います フロアー 同意見です 上腕の波形がゆっくりですし 11