染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

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2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

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後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

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検査を行っています 検査方法は 血液検査や尿検査です ただし 確定診断ではないので 感染の疑いがある場合は さらに一般の医療機関で検査することが必要です なぜパートナーも一緒に治療しなければいけないのですか? 性感染は セックスで感染します このため 自分だけが治療しても パートナーが感染していれば

微生物学的検査 >> 6B. 培養同定検査 >> 6B615. 検体採取 患者の検査前準備検体採取のタイミング記号添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料採取量測定材料リグアニジン塩酸塩尿 5 ml 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 ク

平成23 年10 月平成 23 年 10 月 15 日発行広島市医師会だより ( 第 546 号付録 ) 3. 性器クラミジア感染症 ( 病原体 :C. トラコマティス ) の特徴 (1) 感染経路成人は性行為により感染します また 新生児は出生時に産道感染します クラミジアは円柱上皮細胞に感染して

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手術や薬品などを用いて 人工的に胎児とその付属物を母体外に排出することです 実施が認められるのは 1 妊娠の継続又は分娩が 身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害する恐れがあるもの 2 暴行もしくは脅迫によって妊娠の場合母体保護法により母体保護法指定医だけが施行できます 妊娠 22 週 0

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は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

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専攻医教育プログラム 5 女性のヘルスケア 1) 性感染 愛知医科大学産婦人科 野口靖之

審査結果 平成 26 年 1 月 6 日 [ 販 売 名 ] ダラシン S 注射液 300mg 同注射液 600mg [ 一 般 名 ] クリンダマイシンリン酸エステル [ 申請者名 ] ファイザー株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 25 年 8 月 21 日 [ 審査結果 ] 平成 25 年 7

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2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

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一について第一に 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号 以下 感染症法 という )第十二条の規定に基づき 後天性免疫不全症候群(以下 エイズという )の患者及びその病原体を保有している者であって無症状のもの(以下 HIV感染者 という )(以下 エイズの患者等

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

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肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

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第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

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クチ ワ ン で安心 予防接種は集団生活前に子育て応援券を有効活用 感染症発生動向速報 ( 平成 31 年第 10 週分 3 月 4 日 ~3 月 10 日 ) インフォメーション 予防接種をご確認くださいこの春から保育所 幼稚園に通い始めるお子さんも多いと思います 一般に乳幼児は感染症に対する抵抗

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1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

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15,000 例の分析では 蘇生 bundle ならびに全身管理 bundle の順守は, 各々最初の 3 か月と比較し 2 年後には有意に高率となり それに伴い死亡率は 1 年後より有意の減少を認め 2 年通算で 5.4% 減少したことが報告されています このように bundle の merit

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薬剤耐性とは何か? 薬剤耐性とは 微生物によって引き起こされる感染症の治療に本来有効であった抗微生物薬に対するその微生物の抵抗性を言う 耐性の微生物 ( 細菌 真菌 ウイルス 寄生虫を含む ) は 抗菌薬 ( 抗生物質など ) 抗真菌薬 抗ウイルス薬 抗マラリア薬などの抗微生物薬による治療に耐えるこ

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2015 年 3 月 4 日放送 淋菌 クラミジア感染症の現状と問題点 産業医科大学泌尿器科講師濵砂良一主な性感染症淋菌感染症およびクラミジア感染症は 性感染症の一つであり 性感染症のなかで最も頻度の高い疾患です 性感染症とは 主に性的な行為によって病原体が感染する疾患であり この淋菌 クラミジア感染症の他に 梅毒 性器ヘルペス 尖圭コンジローマ HIV 感染症など数多くの疾患が含まれます これらの疾患の一部は 性的な行動以外でも感染することはありますが やはり主たる感染経路は性行為ということになります 性感染症の原因となる性行為は いわゆる男女間の性交のほか 男性と男性間 女性と女性間の性行為 または性器と口腔 性器と直腸といったあらゆる種類の性行為が含まれます 特に わが国においては性器と口腔間の性行為 一般にはオーラルセックスといいますが オーラルセックスによる淋菌またはクラミジア感染症が問題となってきております また このオーラルセックスが抗菌薬に対する耐性淋菌の出現と関連があるのではないかという考え方もあり これは後ほど述べたいと思います わが国の性感染症の動向厚生労働省の研究班における検討では わが国の性感染症患者数は 2002 年を境に減少しております ただし 最近の 2 年間ではその減少傾向は止まっており 今後増加に転ずるのではないかという懸念があります 男性で最も多い性感染症は クラミジア感

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります 淋菌性尿道炎の約 2 割の患者さんからは クラミジアが同時に検出されます 女性ではクラミジア感染症が多く 淋菌感染症の発生頻度は男性に比べて低いと報告されています 女性の性感染症の主な病態は 子宮頸管炎であり 典型例では帯下の増加や臭い 時に膣からの排膿などの症状を呈します しかし 女性のクラミジア感染症では約半数が無症状 または患者本人が症状があることに気づかないといわれています この症状がないことが非常に問題であり 女性がクラミジアに感染した後 無症状または自覚のないまま 他の人に感染を広げている可能性があるということです また 近年わが国では性行動の様式が変化しております 異性間 同性間を問わず 性行為の際にオーラルセックスが広く行われるようになり オーラルセックスによっても性感染症の病原体に感染することがわかってきました 淋菌やクラミジアによる尿道炎や子宮頸管炎の患者さんの咽頭から 高い頻度でこれらの微生物が同時に検出されることがわかってきました さらに淋菌やクラミジアの咽頭感染はほとんどの症例は無症状か またはあっても咽頭痛などの軽微なものです したがって 無症状の方からオーラルセックスを介して 淋菌 クラミジア感染症に罹患するということになります 特に性風俗産業に従事する女性の

咽頭における淋菌保菌率はかなり高いと言われております 女性では淋菌感染症が少ないにも関わらず 男性で淋菌性尿道炎の頻度が高いのは これら性風俗産業に従事する女性からの感染が多いからであるという報告もされております さらに 咽頭以外でも直腸感染症や 眼の感染症 女性の腹腔内 骨盤腔内感染症も増加しており 今後 泌尿器科 婦人科 性病科以外の診療科に これらの患者さんが来院することが考えられます 淋菌 クラミジア感染症の治療淋菌 クラミジア感染症の治療は 抗菌薬による治療です 近年 淋菌の抗菌薬に対する耐性株の著しい増加が問題となっており 治療薬の選択に悩む場合があります わが国で推奨されている治療薬と 海外で推奨されている治療薬とでは 薬剤の選択や投与量で違いがあります さらに 淋菌とクラミジアを同時に治療するかに関しても議論のあるところです 淋菌感染症に対する推奨治療薬現在 淋菌感染症に対してわが国で推奨されている抗菌薬は セフトリアキソン セフォジジム スペクチノマイシンの注射薬の 3 剤となります 男性の尿道炎患者は再診率が低く 服薬規則を守らない人が多いということで 単回で 95% 以上の効果のある抗菌薬が選ばれているのです 淋菌感染症の特効薬とされてきたペニシリンに対しては わが国のほとんどの淋菌株は感受性がありません 淋菌とクラミジア両方に効果があると考えられていたキノロン系抗菌薬に対する淋菌の耐性率は 70% 以上に達しています テトラサイクリン系抗菌薬に対しても約 50% が耐性です 経口セファロスポリン薬の中で 淋菌に対して最も強い抗菌力を示すセフィキシムの耐性率は 10% 以上であり また多くの淋菌が経口セファロスポリンに対して耐性遺伝子を有しております 注射薬以外には有効な抗菌薬がないという 厳しい状況となっております 近年 淋菌とクラミジ

アに同時に治療可能な新たな薬剤としてアジスロマイシン 2g 徐放製剤が発売されましたが 海外ではアジスロマイシン高度耐性菌が出現し わが国でも耐性菌の報告や 臨床試験で高い有効性を得られなかったことが報告されています さらに 先ほど述べましたが 淋菌性尿道炎や子宮頸管炎の患者では 同時に咽喉にも淋菌が感染している可能性があるため 性器に対する治療と同時に 咽頭への治療も必要となります セフトリキソン 1g 点滴静注は咽頭感染に対しても1 回で効果があることがわかっておりますので 淋菌感染症では第一選択薬となります セフトリアキソンの投与量は わが国では 1g ですが 海外のガイドラインでは 250mg または 500mg の筋肉注射が推奨されております 低用量では咽頭に対する治療効果が低いことが 薬剤の体内動態研究にても示されておりますので 高容量の投与 つまり 1g の投与を我々は推奨しております しかし 2009 年京都の性風俗産業に従事する女性の咽頭より 世界ではじめてセフトリアキソン高度耐性淋菌が分離されました この菌株はキノロン テトラサイクリン 経口セファロスポリン マクロライドなど多くの抗菌薬に耐性を示す多剤耐性菌でした 幸いなことにそれ以降 わが国でセフトリアキソン耐性株の報告はありませんが フランス スペインなどでは同様な耐性株が分離されております 淋菌が 口腔内に常在するナイセリア属の細菌の遺伝子の一部を取り込むことにより耐性化したと考えられております つまり 淋菌の口腔内への感染と薬剤耐性は関連が深いということです このような耐性菌は世界中で増加していくと思われます WHO では耐性淋菌の増加に対して警告を出しており 我々は淋菌の薬剤感受性の動向に注意していく必要があります クラミジア感染症に対する推奨治療薬 クラミジア感染症に対しては マクロライド系 テトラサイクリン系 キノロン系抗 菌薬が有効です 現時点では これらの抗菌薬に対する耐性菌の蔓延は報告されており

ません テトラサイクリン系 キノロン系抗菌薬およびマクロライド系抗菌薬のなかのクラリスロマイシンでの治療は7 日間投与が原則です マクロライド系抗菌薬であるアジスロマイシンは1 回投与で有効です しかし 淋菌の耐性を誘導する可能性があることと 下痢や胃腸障害が起こる頻度が高いことに留意すべきです 淋菌感染症 特に淋菌性尿道炎の約 2 割にクラミジアが合併します 淋菌とクラミジアでは使用できる抗菌薬が異なりますので 別々の抗菌薬で治療を行うべきですが クラミジアの検査は遺伝子検査であり 患者さんの初診時にクラミジアが陽性であるかどうか判断できないわけです 検査なしでアジスロマイシンによる治療を行っておられる先生もおられますが 先ほど述べましたが 海外ではアジスロマイシン高度耐性淋菌株が出現していること わが国でもアジスロマイシンに対する耐性化が進んでいることより 我々は同時治療を推奨していません しかし 尿道炎患者は再診率が低いことより クラミジアが残ってしまう可能性があり クラミジア感染症蔓延の一因となっているのではないかという議論があります このため 最初から淋菌 クラミジアの治療を同時に行うべきとの考え方もあります 保険医療という観点からは 患者さんに説明して 再診を促すことが理想的であると思われますが 海外では同時治療をすすめるガイドラインもありますので 今後検討すべき問題点の一つであります 淋菌 クラミジア以外にも尿道炎 子宮頸管炎の原因となる微生物は数多く存在します このなかではマイコプラズマ ジェニタリウムという細菌の分離頻度が高くなっております わが国ではこの細菌に対する検査 治療は保険適用とはなっておりませんが アジスロマイシンやキノロン系抗菌薬に耐性を示す株の増加が報告されており 今後難治症例が増加する可能性が示唆されております

おわりに淋菌 クラミジア感染症は性感染症のなかで 最もポピュラーな疾患です 以前は抗菌薬により容易に治療できる疾患と考えられておりました しかし 淋菌の抗菌薬に対する耐性化は著明であり また 尿道や子宮頸管以外の部位にも感染することが明らかとなっており 特に淋菌感染症は 今後さらに治療が難しい疾患となる可能性が高いと考えられます