最近の動物インフルエンザの発生状況と検疫対応

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別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに


A 農場の自家育成牛と導入牛の HI 抗体価の と抗体陽性率について 11 年の血清で比較すると 自家育成牛は 13 倍と 25% で 導入牛は 453 倍と % であった ( 図 4) A 農場の個体別に症状と保有している HI 抗体価の と抗体陽性率を 11 年の血清で比較した および流産 加療

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領


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コラム 口蹄疫とは 口蹄疫とは 口蹄疫ウイルスにより 牛 豚等の偶蹄類が感染する伝染病です O 型や A 型等の様々なタイプ (7 種類 ) がありますが すべて同様の症状を示します すいほう発症すると 牛 豚等の口や蹄に水疱 ( 水ぶくれ ) 等の症状を示し 産業動物の生産性 を低下させます 口蹄

医療機関における診断のための検査ガイドライン

感染経路疫学調査及び申告者の他のペット ( 犬 2 匹 ) * の試料を採取して精密検査する一方 その動物を 居住地内隔離措置 斃死体で発見された 2 匹 ( 飼い猫オス 1 野良子猫 1) について 12 月 31 日 高病原性 H5N6 型 AI と確診 * 上記斃死した 2 匹以外に 斃死した

農林畜産食品部 ( 長官イ ドンピル ) は口蹄疫 高病原性鳥インフルエンザなどの家畜疾病防疫体系改善を反映した家畜伝染病予防法が 2015 年 6 月 22 日付けで改正 公布されたことをうけ 後続措置として 家畜伝染病予防法施行令及び施行規則 の立法手続きが完了し 2015 年 12 月 23

Research 2 Vol.81, No.12013

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

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3.2013/14シーズンのインフルエンザアップデート(12/25現在)

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も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

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2)HBV の予防 (1)HBV ワクチンプログラム HBV のワクチンの接種歴がなく抗体価が低い職員は アレルギー等の接種するうえでの問題がない場合は HB ワクチンを接種することが推奨される HB ワクチンは 1 クールで 3 回 ( 初回 1 か月後 6 か月後 ) 接種する必要があり 病院の

1. 鳥インフルエンザとは? 鳥インフルエンザとは A 型インフルエンザウィルスの感染によって起こる伝染性の疾病で ウィルスの種類 鳥種 ストレス 混合感染の有無により 症状及び致死率が異なる このウィルスには血清型 ( H1~ H15) があり 日本では急性で罹病率及び致死率の高い血清型 ( H5

表 症例 の投薬歴 牛 8/4 9 月上旬 9/4 9/5 9/6 9/7 9/8 9/9 3 Flu Mel TMS Flu Mel Flu Mel Flu 体温 :39.0 体温 :38.8 : エンロフロキサシン Flu: フルニキシンメグルミン Mel: メロキシカム : ビタミン剤 TMS

第 7 回トキ飼育繁殖小委員会資料 2 ファウンダー死亡時の対応について ( 案 ) 1 トキのファウンダー死亡時の細胞 組織の保存について ( 基本方針 ) トキのファウンダーの細胞 組織の保存は ( 独 ) 国立環境研究所 ( 以下 国環研 ) が行う 国環研へは環境省から文書

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顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

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免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

【参考資料1】結核菌病原体サーベイランスシステムと現状

2003 年後半から 新たな強毒型 H5N1 鳥インフルエンザの流行が東アジアから始まった その後 急速に 東南アジア 中国 韓国 日本 シベリア南部 中東 欧州 北アフリカへと拡大を続けている ウイルスは超強毒性で 家禽 野鳥 ネコ トラ イヌ ネズミなど多くの哺乳動物にも感染して 致死的な全身感

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検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

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かなりの程度低く抑えられると想定される しかし 現在の地球人口は 74 億人 (4 倍 ) に増加しており 生活様式も大きく変化した 航空機等による高速大量輸送の発展によって 2009 年の H1N1 パンデミックにおいて経験されたように パンデミックは 2 カ月以内に世界中に波及し ほぼ全世界で同

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免疫学的検査 >> 5F. ウイルス感染症検査 >> 5F560. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 検体ラベル ( 単項目オーダー時

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(地Ⅲ116)

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

Transcription:

講演要旨 最近の動物インフルエンザの発生状況と検疫対応 動物検疫所精密検査部衛藤真理子 1 はじめに近年 H5 及び H7 亜型の高病原性鳥インフルエンザ (HPAI) が世界的に流行まん延し 養鶏業に被害を及ぼすとともに 人への感染例が報告される国もあり 新型インフルエンザウイルス出現への脅威となることから対策が強化されている 我が国では 2004 年の 79 年ぶりの HPAI の発生以降 8 府県の家きん農場での発生と野鳥 ( オオハクチョウ クマタカ ) からの HPAI ウイルスの分離が報告されている 2009 年 4 月のメキシコでの発生に端を発した H1N1 亜型の豚由来新型ウイルスの人への感染が世界的流行となり 新型インフルエンザとして猛威をふるい 10 カ国以上から豚での発生事例と七面鳥や猫等への感染例が報告されている さらに 馬インフルエンザについては 2 型ウイルスの流行が常在化している地域があり 我が国でも 2007 年に競走馬を中心に 36 年ぶりの発生がみられたが 関係機関の防疫対策により 2009 年 7 月には清浄化宣言に至った 動物検疫では 輸出入動物 畜産物を介した各種動物のインフルエンザの侵入を防止し 国内発生を予防するとともに海外への拡大防止を図るために検疫対応を行っているので その概要と摘発事例について紹介する 2 馬インフルエンザの検疫対応と摘発事例輸入馬については 輸出国との 2 国間で衛生条件を締結し 飼養施設での未発生の疫学証明やワクチン接種を要求してきた しかし 2007 年の国内発生以後 水際防疫対策の強化を段階的に図り 2009 年 11 月に馬インフルエンザ検疫対応方針を策定し 現在はこれに基づき検疫を実施している 本方針においては 輸入馬全頭について 到着時に鼻腔スワブ材料の迅速抗原検出検査 ( 簡易検査 ) と RT-PCR による遺伝子検査を実施するとともに 係留期間中に臨床的な異常を認めた場合は必ず簡易検査と遺伝子検査を実施し 摘発時の隔離や再検査等の検疫対応についても規定している 2009 年以降に カナダ産肥育用素馬の輸入検疫において 本病の摘発が 3 群であり 1 群からはウイルスが分離され 2 群は遺伝子診断による摘発であった 以下にウイルス分離事例について紹介する - 1 -

摘発群は 1 群 94 頭中 12 頭が鼻腔スワブの簡易検査陽性で RT-PCR では A 型及び馬インフルエンザウイルス (EIV)2 型の特異遺伝子が検出された 発育鶏卵接種によるウイルス分離試験では 4 頭から 8~16 倍の HA 性を示すウイルスが分離され HI 試験と NI 試験の結果 H3N8 であったことから EIV2 型と同定した 分離株は HA 遺伝子の遺伝子解析の結果 2008 年のエジプトでの流行株と 99% 2007 年の日本や豪州での流行株とは 98% の相同性を示し 系統樹解析では 2000 年以後に世界的に流行している EIV2 型のアメリカ系統フロリダ亜系統に属していた 初回の簡易検査陽性馬 12 頭は 1 週後に RT-PCR で 9 頭が陽性であったが 簡易検査とウイルス分離は陰性で 2 週後には全ての検査で陰性となり 同一馬群での新たな摘発は認められなかった 当該馬群の入検時 EIV2 型アメリカ系統株に対する有効抗体 (40 倍以上 ) 保有率は 49% GM 値は 27.6 であり 1 週間後の HI 抗体価は 41 頭 (43.3%) が LaPlata 株及び分離株に対する抗体価の有意な上昇を示した 今回の摘発事例は ワクチン接種馬群であり 顕著な臨床症状は認められなかったが EIV2 型アメリカ系統株に対する有効抗体保有率と GM 値は低値で 感染防御に充分な免疫状態ではなかったと考えられる 入検後 1 週間隔のペア血清で有意な抗体上昇が約半数の個体に認められたことは 入検直前の馬群内での感染伝播を示唆する 分離ウイルス株は 近年の流行株である EIV2 型アメリカ系統フロリダ亜系統に属しており 本病の流行地や常在地からの馬の輸入検疫には 検査体制の強化と維持が必要であることを示す事例である 3 高病原性鳥インフルエンザの検疫対応海外での HPAI の発生に伴い 動物検疫所は これまでに中国産家きん肉の精密検査を実施し 鶏肉から AIV(H9N2) あひる肉から AIV(H5N1) を分離してきた 我が国では HPAI の発生国 ( 地域 ) からの家きん 家きん肉等の輸入停止措置を行っているが 現在も 58 カ国が一時停止状態となっている 近隣国である韓国や台湾でも 2003 年以降 日本での発生に先行するように本病の発生が何度も起こり 輸入停止と解除が繰り返されている 発生国からの加熱処理家きん肉については 全件解凍検査により加熱状況の確認と必要に応じて精密検査を実施している さらに 発生国からの旅客全員に対する靴底消毒 車両消毒を徹底している 2009 年 3 月 きじ及びほろほろ鳥が追加され 8 種類の鳥類が指定検疫動物となったが 発生国以外から家きん類が輸入される場合は 臨床観察の他に精密検査を実施している 初生ひなの輸入検査においても検疫強化疾病として 疫学的な理由や死亡率等の異常を認める場合は 迅速抗原 ( 遺伝子 ) 検出検査と発育鶏卵接種によるウイルス分離を行っており 昨年は 32 件 480 検体の検査を実施した 指定外鳥類は 感染症予防法の届出対象とされているが 到着時に異常があれば 動物検疫所が精密検査を行う体制になっている - 2 -

OIE と農林水産省が実施する アジア地域における鳥インフルエンザの防疫対策強化プログラム に関連した検査施設として 動物検疫所中部検査 診断センターが設置され 昨年 10 月から精密検査部海外病検査課として稼動し 本病の対策に貢献できるよう検査体制強化を図っている また 国内で環境省が実施する野鳥のウイルス保有状況調査にも協力し 一部の地域の検査を担当している さらに 国内発生の緊急時に備えた防疫資材として 泡殺鳥機 広域防除機 移動式焼却炉 防疫キット ( 服 マスク ゴーグル 長靴 ) 注射器類 消石灰等消毒薬を動物検疫所の 5 カ所に保管するとともに 鳥インフルエンザワクチンを備蓄している 4 豚インフルエンザの検疫対応過去の輸入検疫では 1978 年に呼吸器症状を呈する米国産輸入豚群において本病を摘発した事例があり 豚インフルエンザウイルス (H1N1) が分離され 遺伝子解析の結果 古典的豚型であることを確認している 本病は一般的に重要視される豚の疾病ではなく監視伝染病ではないが 豚が人及び鳥由来の A 型インフルエンザに感染し 新型インフルエンザウイルスへの変異が懸念されることから 公衆衛生面からサーベイランスが必要とされていた 2009 年 豚由来の新型インフルエンザウイルス (H1N1) の人での感染流行が世界的に拡大し カナダでは人から豚に新型ウイルスが感染し 農場での発生が確認された 我が国でも これまでに 2 件の飼養豚からの新型ウイルスの分離事例がある このような背景と人の感染症対策の観点から 生きた豚の輸入検疫にあたっては 水際検査を強化し 臨床検査に加え 全頭について精密検査を行うこととなり 鼻腔スワブを用いた簡易検査と感受性細胞接種によるウイルス分離を実施している 豚からインフルエンザウイルスが分離された場合は 型別と遺伝子解析による新型か否かの判別試験が必要となるが これまでに実施した 6 カ国からの 10 件 276 頭の検査は全て陰性である また 国内においても飼養豚のサーベイランスが行われている 5 おわりに H5N1 亜型の高病原性鳥インフルエンザは 依然としてベトナムや中国等アジアを中心として発生が繰り返されている インフルエンザウイルスの起源は野生水きん ( カモ類 ) にあり 野鳥 家きん 豚 馬 人へと感染環を拡げながら進化し 人への感染力を獲得した新型ウイルスの出現の可能性があるため 家畜衛生だけでなく公衆衛生上も注意が必要である 一度 家きん類に感染流行したウイルスが 再び水きん類や野鳥への逆ルートで感染伝播したり 抗原性と病原性の変異を起こし続けている 渡り鳥を介して侵入する危険性を否定したり それを阻止することはできないが 動物検疫では 生きた動物 畜産物や人を介したインフルエンザウイルスの国内侵入を防止するため 水際での監視体制を緩めることなく 動物のインフルエンザウイルスと戦い続けている - 3 -

10

2003 HPAI 2004 79 HPAI8

2007 2009 2009 H1N1

(H19) (H21)

H7N7) H3N8) ) 1980

3 2 21 11

H21 11 9 RT-PCR

No. 5 12 RT-PCR 12 Virus 5 2 RT-PCR 2 11 0 RT-PCR

No.1) ) (

1 12 RT-PCR12 4 7 RT-PCR9 15 16 RT-PCR

EIV2 M 13 19 37 51 61 67 68 69 71 75 77 94 NC PC M 1041 A

RT-PCR HA No HA

A/PR/8/Mount Sinai (H1N1) A/Singapore/1/57 (H2N2) A/duck/Ukraine/1/63 (H3N8) A/duck/Czechoslovakia/56 (H4N6) A/tern/South Africa/63 (H5N3) A/turkey/Massachusetts/ 3740/65 (H6N2) A/seal/Massachusetts/1/80 (H7N7) A/turkey/Ontario/6118/68 (H8N4) 1 9 2 3 4 5 6 7 8 S1 20 40 80 160 320 640 20 40 80 160 320 640 10 11 12 13 14 15 A/turkey/Wisconsin/66 (H9N2) A/chicken/Germany/N/49 (H10N7) A/duck/England/1/56 (H11N6) A/duck/Alberta/60/76 (H12N5) A/gull/Maryland/704/77 (H13N6) A/mallard/Astrakhan/263/82 (H14N5) A/duck/Australia/341/83 (H15N8) A/swine (H1N1)

NA Neuraminidase-inhibition NI tests i id i NI t t 1 2 3 4 5 6 7 8 9 C N1 N9 N8 N9 N8

A M S1 S2 S3 S4 N P P S1 S2 S3 S4 N P P H9 H3 H3 H9

EIV HA A/equine/Yokohama/AQS19/09 Eq/Egypt/08(FJ209731) 2008 99 Eq/Ibaraki/07(AB360549) 2007 98 Eq/Sydney/07(GU045763) 2007 98 Eq/Wisconsin/03(DQ222913) /03( 2003 98 Eq/Kentucky/02(AY855341) 2002 98 Eq/Xinjiang/07(EU794543) 2007 97 Eq/Argentina/99(AY048081) 1999 95 Eq/La Plata/93(D30686) 1993 95 Eq/Avesta/93 Y14057) 1993 94 Eq/NewMarket/77(X6255) 1977 56

Eq/La Plata/93(D30686,AR) 0.01 HA1 Eq/Newmarket/93 X85089,UK) Eq/Avesta/93 Y14057,SW) Eq/Hongkong/92(L27597,HK) HK) Eq/Kentucky/95(AF197247,UK) E Eq/Argentina/99(AY048081,AR) /99(AY048081 AR) Eq/Kentucky/94(L39914,UK) Eq/Florida/93(L39916,US) Eq/Kentucky/02(AY855341,UK) k /02 Eq/Bali/05(EF117330,IN) Eq/Xinjiang/07(EU794543,CH) Canine/Florida/03(DQ124157,US) id /03 Eq/Ohio/03(DQ124192,US) Eq/Ibaraki/07(AB360549,JP) q/ / (, ) Eq/Kanazawa/07(AB369862JP) A/equine/Yokohama/AQS19/09 / / / Eq/Egypt/08(FJ209731,EG) Eq/Wisconsin/03(DQ222913,US) E Eq/Sydney/07(GU045763,AU)

30 30 25 20 15 10 5 0 15 12 20 22 16 2 5 1 25 20 15 10 5 0 0 1 10 21 18 11 12 19 <10 10 20 40 80 160 320 640 <10 10 20 40 80 160 320 640

30 25 25 27 30 25 22 20 15 10 5 0 13 17 9 3 0 0 20 15 10 5 0 0 4 17 14 10 11 15 <10 10 20 40 80 160 320 640 <10 10 20 40 80 160 320 640

1 12 4 EIV 2 EIV2GM 3 43 EIV 4 EIV2 5

H5 H7

HPAI

HPAI

H10 H19 H19 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0

2001 2003

........

A/duck/Yokohama-aq/10/2003 k h /10/2003.

/ / / /

91 56,

19 1 21 3

594

H1N1 H1N2 H3N2 H9N2 H4N6 H5N1 1918 1980H1N H1N1 H3N2 / H3N2 / / H1N1 H3N2 H1N2

A H1N1) A H1N1) 2009 4 6 6 2010 2 212 15 292 15 292 2009 4 22

H1N1)

2009 H1N1

H1N1) ) 2009 5 22 2009 10 2010 1

1978 2007

21 4 24 21 4 30 WHO

21 4 22 2 6 10 276