圧損型粘度計による日用品流体の粘度測定 望月聡 小椋勝仁 山田重良 桜木俊一 概要 : 私達の日常生活で利用される 醤油やソース ドレッシングやマヨネーズなどの食品流体 さらに シャンプーやリンス 液体洗剤などの日用品流体は 充填機を利用して容器に自動充填され製品として出荷されている しかし この充填プロセスにおいて 日用品流体の流体物性 ( 粘度または粘性係数 ) に起因する様々な技術課題が存在している 一般的に 日用品流体は非ニュートン流体の性質を保有するものが多く 起動時にポンプに非常に大きな起動トルクを要求する場合や 充填時の発泡現象による容器からの吹きこぼれ問題の発生 ゴマや玉ねぎなどの具材入り食品流体の粘度測定法の確立など未解決な問題が多数存在する これまで これらの日用品流体は 回転トルク式の粘度計を利用して粘度の測定が実施されてきたが 回転円筒と固定円筒の間の間隙が mm 以下と非常に狭く 具材入りのタレなどの測定では具材が間隙に挟まってしまい正確な測定値が得られないという問題も発生していた 筆者らは 具材などの混入粒子の影響を受けることのない新たな粘度測定法として 円管の異なった 点間で発生する圧力損失を利用した粘度計を製作し その測定値と回転トルク式粘度計の測定値を比較検討し圧力損失型粘度計の精度を検証した またこの研究により得られた結果から 充填機から容器に噴出される食品流体の噴流構造の制御に有効な知見を得ることができた キーワード : 非ニュートン流体 粘度 ハーゲン ポアズイユの法則 レイノルズ数 乱流ジェット. 緒言ドレッシングやゴマダレ マヨネーズなどの食品流体 シャンプーやリンス 液体洗剤などの日用品流体は充填機を利用して容器に自動充填され製品として出荷されている これらの日用品流体は非ニュートン流体の性質を持つものが多く 流動特性も未解明なものが多い 筆者らは これまでの回転トルク式粘度計 ( 図 参照 ) では対応できなかった特殊な性状の流体にも対応できるように充填機流体回路の一部に圧損型粘度計を組み込み リアルタイムでの粘度特性の測定を試みた. 圧損型粘度計の理論的背景. 管路内速度分布と圧力損失図 は充填機に装着された圧損型粘度計の模式図である 距離 l ( 本実験では l = m とした ) だけ離れた 点間の圧力 P と P を測定することにより 流体の粘度計測が可能になる 図 3 は 管路内流速分布を求めるための解析モデルを示す () 同図より 半径 長さ の微小円筒流体要素の 左右底面に作用する圧力による力の合計は p ( p ) () 一方 微小円筒流体要素の側面に作用するせん断 図. 回転トルク式粘度計 図. 圧損型粘度計の概略図
水の粘度 (mpa s) y R φd p τ 図 3. 円管内流速分布の解析モデル 応力を τ とすると 円筒の全側面に作用するせん 断応力による力は となる 定常状態 では この力と圧力による力 () 式が釣り合うので これから τ を求めると () (3) 壁から円筒側面までの距離を y とすると = R - y であるから d = -dy が成り立ち ニュートン流体 に対するせん断応力の式は μ を粘性係数として du du () dy d () 式を (3) 式に代入して変形すると du d (5) 両辺を積分すると u p + d C (6) 積分定数 C は 管壁 = R において u = が成立 することから定められ 以下の管路内速度分布の 式が得られる u ( R ) (7) (7) 式より 速度分布は回転放物面になっているこ とが分かる 上式中の / は 下流方向への圧 力勾配であるから / < であることに注意が 必要である. ハーゲン ポアズイユの法則を利用した流体 の粘度測定 流速分布の式 (7) を用いて流量 Q を計算する 半 径が と +d に囲まれた環状部分の面積 πd を通過する流体の流量は d u である したが V u max x d って 管を流れる全流量 Q は R R Q d u ( R R 8 ) d (8) 長さが l の区間における圧力の降下量を Δp とする と - /=Δp / l であるから 上式は R p d p Q 8 l 8 l (9) また 管路の断面積を A 断面平均流速を V とす れば 連続の式より Q AV ( d / ) V こ の式を (9) 式に代入すると次の関係式を得る p d /(3lV ) () すなわち 圧力差 Δp と断面平均流速 V を知るこ とにより 流体の粘度を測定することができる ただし () 式は () 式の層流せん断応力の仮定か ら層流状態の流れに対してのみ成立することに注 意を要する 3. 実験結果と考察 3. 圧損型粘度計の検定 本研究で使用する圧損型粘度計の測定精度を検 定するために 粘度の知られている流体として水 を用いて粘度測定を実施した 図 に測定結果を 示す 水はニュートン流体であるため流れのせん 断速度に依存せず一定の粘度を持つ 図中では は一定値.33 mpa s の値を示して いる 一方 圧損型粘度計は Re 数 3 の値から 算出された臨界流量.5 cc/s 以上の流量で大き 5 3 層流 乱流 6 流量 (cc/s) (kpa センサ ) ( 測定値.33 mpa s) 臨界流量 (.5 cc/s) 理科年表掲載粘度 :. mpa s ( ) φ d = 6 mm 図. 水の粘度測定による粘度計の検定
リンス粘度 (mpa s) 醤油粘度 (mpa s) く逸脱した値となっている また cc/s 以下の 微小流量領域では 圧力センサーの発生電圧が小 さく誤差の増大が見て取れる なお 本実験では 圧損測定部の管内径は d = 6 mm である 3. 圧損型粘度計による醤油粘度の測定 充填機によるボトル充填用流体の例として 醤 油の粘度測定を実施した 図 5 に結果を示す 醤 油は水や空気などと同様のニュートン流体である ため 流れのせん断速度に依存せず一定の粘度を 持つ では一定値の.66 mpa s を示 している 一方 圧損型粘度計では 種類の圧力 センサー ( 定格圧力 kpa と 3kPa) による測定 結果を示している この場合も 臨界流量を超え た乱流領域では測定値の大きな逸脱が見られる 充填機を用いた醤油の充填では 充填流量を増 やしていくとボトル内で発泡現象が発生し 吹き こぼれによる不良品の発生が起こるが 今回の研 6 5 3 層流 3 5 流量 (cc/s) 乱流 図 5. 醤油粘度測定結果 ( 測定値.66 mpa s) 臨界流量 (.93 cc/s) (kpa) (3kPa) φ d = 6 mm 究で 臨界流量を境界として発泡現象の有無の領 域に分かれることが明らかになった 図 6 は醤油 の噴出流量と発泡現象の関係を撮影したものであ るが 臨界流量を超えると急激な発泡現象が現れ る これは ノズルから噴出される液体ジェット の構造が 臨界流量を超える流量では乱流ジェッ トに遷移し 周囲の空気を大量にジェット中に吸 引することにより発泡現象を引き起こすものと推 察される 圧損型粘度計ではグラフの形状から臨 界流量を明確に知ることができるので便利である 3.3 非ニュートン流体 ( リンス ) の粘度測定 日用品流体では 流れのせん断速度に依存して 粘度が変化する非ニュートン流体の性質を持つも のが多い では 回転円筒の回転速度 から流れのせん断速度 du/dy が容易に計算でき るが 圧損型粘度計では管壁面での流れの速度勾 配 ( 微分係数 ) を知る必要がある 前述の (7) 式を で微分すると du () d また - /=Δp / l と = R ( 壁面 ) の関係を () 式に代入して 次の壁面せん断速度の関係を得る du dy y du d R p d p R l l () 図 7 は 測定流体にリンスを使用したときのせん 断速度と粘度の関係の測定値を示す 同図より との測定結果は非常に良く (a) cc/s (b) 5 cc/s (c) 5 cc/s ( 層流 ) ( 臨界領域 ) ( 乱流 ) 図 6. ノズルからの噴出流量と発泡現象の発生 5 5 35 3 5 5 5 5 5 5 3 せん断速度 du/dy (/s) (3 kpa) (CPA 型 ) φ d = mm 図 7. 非ニュートン流体 ( リンス ) の粘度特性
玉ねぎジュース粘度 (mpa s) 液体洗剤粘度 (mpa s) 一致している このように 非ニュートン流体は ポンプ起動時の低流速時 ( 低せん断速度時 ) に粘 度が非常に高く ( 水の数千倍 ) 流速の増加とともに 急速に粘度の低下が起こる また このリンスの ような高粘度流体はポンプの最大吐出流量におい てもレイノルズ数が非常に小さく層流状態に保た れている 3. 具材入り食品流体の粘度測定 図 8 は玉ねぎの微粒子が混入している玉ねぎジ ュースの粘度測定結果である この図より 計測 流体はせん断速度に依存して粘度が変化する非ニ ュートン流体であることが分かる また 回転粘 度計 (CPA 型 ) の場合 具材と回転面の接触干渉 と思われる不規則な変動が見られる 一方 圧損 粘度計 ( 管径 mm) と隙間ギャップを大きく設定 できる Spindle 型は滑らかなデータの 接続ができており 具材の接触干渉の影響が微小 であることが窺える 5 5 35 3 5 5 5 6 8 せん断速度 du/dy (/s) 図 8. 玉ねぎジュースの粘度特性 3.5 その他の特異な粘度特性を持つ流体 (3 kpa) (CPA 型 ) (Spindle 型 ) φ d = mm 図 9 は液体洗剤の粘度測定結果であるが 特異 な性質を示した による第 回目の計 測では の測定値が示すようにせん断 速度に依存しない一定の粘度を持つニュートン流 体の性質を示した 次に同じ計測サンプルを 週 間後に測定した第 回目の測定では非ニュートン 流体の性質を示す結果となった さらに再度確認 のために 回目の測定から 週間後に 3 回目の 測定を行ったが同じく非ニュートン流体の性質を 6 8 6 図 9. 液体洗剤の粘度特性 示した この原因として 管路内の流動を繰り返 すことにより分子構造などの変化を誘発したとも 考えられるが 定かではない. 結言 ハーゲン ポアズイユの法則に基づく圧損型粘 度計を製作し 充填機流体回路に組み込み 各種 日用品流体の粘度測定を試みた その結果 回転 式粘度計とほぼ同等の精度で粘度測定が可能であ ることを確認した また 充填ボトル内での発泡 現象と噴流ジェット構造の相関も明らかになった 参考文献 資料 () 菊山功嗣 佐野勝志 流体システム工学 共 立出版 7, pp. 76~78. 著者紹介 3 5 せん断速度 du/dy (/s) 望月聡静岡理工科大学理工学部機械工学科 年 小椋勝仁靜甲株式会社 IT 推進室 山田重良靜甲株式会社専務付 桜木俊一静岡理工科大学理工学部機械工学科教授博士 ( 工学 ) E-mail: sakuagi@me.sist.ac.jp (3 kpa) 回目 (3 kpa) 回目 (3 kpa) 3 回目 (Spindle 型 ) φ d = mm
本論文は 日本技術士会中部本部 7 年 度研究業績発表会で 優秀論文 発表賞を受賞しました