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Jpn J Gen Hosp Psychiatry(JGHP) Copyright c 2011 by The Japanese Society of General Hospital Psychiatry Vol. 23, No. 4 Printed in Japan 総 Overview 説 特集 一般身体医療における認知行動療法 肥満, 糖尿病を有する患者のための認知行動療法 木村 穣 Cognitive Behavior Therapy for the Patients with Diabetes and Obesity Yutaka Kimura Kansai Medical University Health Science Center, 2-3-1 Shin-machi, Hirakata-shi, Osaka 573-1191, Japan Abstract:Cognitive Behavior Therapy (CBT) is a useful method for patients with diabetes and obesity for their life style related diseases as well as for their comorbid mental disorders. A number of obesity patients have various kinds of cognitive distortions related to their eating habits (e.g., "I never eat too much" "I gain weight even after just drinking water"). These cognitive distortions occur in the process of lose-and-gain weight cycles when the patients go on self imposed diets. Therefore it is important for those patients to identify and correct their distortions and to improve their self-efficacy for their exercise and diet. It is useful to evaluate patient's characteristics and personal traits such as all-or-none thinking and overgeneralization. In clinical situations, it is important that the patients notice the relation between their behavior (eating, exercise) and the change of their blood sugar and/or body weight themselves. It is also necessary to support improvement of their self-efficacy and encourage their behavioral change. CBT is very useful to modify patient's cognitive distortions and to enhance their selfefficacy. Therefore all medical staff involved in diabetes and obesity clinics should know the basics of CBT and apply CBT in clinical fields. Key words:cognitive behavior therapy, Diabetes, Obesity はじめに 認知行動療法は, 人間の思考 行動 感情の関係性に焦点を当て, 学習理論をはじめとする行動科学の諸理論や認知 行動変容の諸技法を用い, 思考 行動様式を修正し症状や問題を解決していく治療法として確立されてきている 1) これまでに, うつ病, パニック障害, 不安障害, 強迫性障害,PTSD, 摂食障害, 物質関連障害などの治療に用いられ, 多くの効果が実証されてきた 2) 一関西医科大学健康科学センター ( 573-1191 枚方市新町 2 丁目 3 番 1 号 ) 方, 肥満, 糖尿病などの生活習慣病の予防 治療においても, 生活習慣の行動変容は薬物療法とともに非常に重要である しかし, 現在の医療ではこの生活習慣の行動変容において, 一方的な情報提供に終わることが多く, 十分なアプローチがなされてないことが多い この認知行動療法は患者のセルフコントロールの獲得をねらいの一つとし, かつ患者の生活状態に応じた多様な行動変容の諸技法を提供でき, このような患者指導に非常に有用であるといえる 3) 欧米では, すでに生活習慣病のみならず, さまざまな慢性疾患のケアや予後管理に認知行動療法が適用され効果を上げているが, わが国においては, いまだ十分な普及に至っていない 本稿では, 筆者らの結果を含め, 348

肥満, 糖尿病を有する患者のための認知行動療法 Fig. 1. 高度肥満患者にみられる認知の歪みの機序 肥満, 糖尿病での認知行動療法の応用につき述べさせていただく 従来の食事 運動療法 糖尿病, 肥満などの生活習慣病の治療, 予防において食事, 運動などの生活習慣のコントロールが重要であることはいうまでもない しかし, この生活習慣のコントロールは, 現在の医療において薬物療法以上に施行困難な介入方法と考えられる 簡単な口頭による一方的な食事や運動の情報伝達では, 行動変容を促すには十分でないことは臨床の現場ではよく経験されることである 4) このことは, 平成 20 年からの健診およびその後生活指導の義務化をうたった厚生労働省の健診事業のガイドラインにも記載されており, 行政的にも従来の一方的な情報投与では行動変容は促せないと考えられている 5) 生活習慣の認知の歪みの原因とその対策 成人における高度肥満の多くは, 過食, 運動不足と自己ダイエットによる一時的な減量と, リバウンドの繰り返しによる蓄積された過剰脂肪状態である したがって, 減量に関しての自己効力感は極度に低下している場合が多く, その結果, 十 Fig. 2. 肥満患者の認知の歪みを来しやすい思考パターン分な情報提供をしても減量行動そのものに懐疑的な認識をもっている状態が多い すなわち減量に関する認知の歪みを有することが多く, その結果, 過剰摂取という認識は少なく, 私は食べていない 水を飲んでも太る 太る体質である と高度な認知の歪みを示していることが多い この歪みの原因として, 実際には適切な食事や運動療法により体重や血糖は必ず改善していくが, 実際の患者は過度な減量や血糖の改善を期待し, その効果を認識する以前に軽いリバウンドや停滞期を起こし, その効果を認識できていないことが多い 6) (Fig. 1) このような認知の歪みを来しやすい思考パターンとして,Fig. 2 に示すような二分割思 349

Jpn J Gen Hosp Psychiatry Vol. 23 No. 4 (2011) Fig. 3. 心理カウンセリングを併用した肥満 糖尿病治療 考などを認めることが多い したがって, このような場合, 実際の行動変容の実行の程度と体重や血糖の改善の度合いを確実に照らし合わせ, 実際には必ず行動を改善すれば効果は上がることを認識させることが必要である 同時に, これらの効果は, 患者が期待したほど大きくないことがあり, 過度の期待を訂正し, また行動変容の持続により必ず効果は期待できることを認識させる必要がある また, 多くの患者は体重や血糖改善の効果を過小評価しており, そのことが自身の自己効力感を減少させており, より行動変容を困難にしていることが多い したがって, この自己効力感の適切な評価も行動変容には非常に重要である 高度肥満, 糖尿病への具体的認知行動療法の応用 そこで用いられるのが, 個人の健康意識へのステージ分類と, そのステージモデルに合った個人指導である 7) この方法は, 各ステージによる個人の健康へのモチベーションを確認し, そのレベルに合わせた的確な情報を投与することにより, 行動変容を確実にもたらす方法論として有用である 特に, 関心期ではわずかな効果でも, 治療者側が積極的に評価し, 自己効力感を向上させていくことが重要である 実際の応用方法として, 筆者らの施設での OB ( 肥満 ) 外来では臨床心理士による認知行動療法を施行し, 同時にカウンセリングも重要視している 8) 以下, 認知行動療法の臨床応用, またカウンセリングシステムによる肥満介入システムの概要, その結果などにつき概説する 対象となる肥満患者は, 二次性肥満は除外されるが, 合併症としての糖尿病, 高脂血症, 高血圧, 脂肪肝などの生活習慣病は, ほとんどの場合認められている そのため, 事前のメディカルチェックとしての糖尿病, 高血圧, 脂質異常症などの評価は重要である 肥満治療としての食事, 運動療法のための栄養士による問診, 健康運動指導士による運動負荷試験, 運動処方, 運動療法も併用される 実際のカウンセリングでは, 初回にインテーク面接として受診動機 ( 減量動機 ), 受診経緯, 過去のダイエット経験, 社会的因子 ( 生活習慣, 生活環境, 家族関係, 職場環境 ) などの確認, 心理的因子としてのストレスイベントの評価, 対人関係, 性格特性などの評価を行っている これらの情報は, 医師のみならず栄養士, 運動指導士, 看護師に共通カルテや症例検討会で提供される 各スタッフは, あらかじめどのような対応が最も患者の行動変容に有効であるか理解して対応できるため, 適切な個人指導が可能となる (Fig. 3) 9) 350

肥満, 糖尿病を有する患者のための認知行動療法 Fig. 4. 肥満, 糖尿病における認知行動療法 カウンセリングでは, 認知行動療法としてセルフモニタリングによる自己効力感の育成, 陰性感情を助長する認知のくせの修正を一つの目標にしている 同時に, カウンセリングでは治療関係を重視しており, 対等な治療関係, 受容的な関係性の構築, 患者の主体性を引き出すカウンセリングを行っている (Fig. 4) また, 個別性の重視として, エゴグラム (TEG; 東大式エゴグラム ) による対人交流分析,POMS による気分状態の評価, 性格特性評価などを施行している 個人の目標に関しては, 栄養士, 運動指導士が患者にアドバイスした個々の目標から患者自身が選べるように再認識させ, 主体性のある目標設定を行えるようにしている さらに減量プログラムの初期においては, 患者も過度な期待を抱き, より多くの目標や困難な目標を選びがちであるが, このような場合, 得てして実行困難な目標が多く, 結果として自己効力感の消失につながることも多い したがって, できるだけ簡単な実現可能な目標をアドバイスすることも重要である (Fig. 5) 減量における認知行動療法の結果 認知行動療法の効果として, 直接的に認知の歪みや行動変容の程度を定量的に評価することは困 Fig. 5. 肥満 糖尿病治療における介入ステップ概要難である しかし, 対人交流パターンや自己効力感の変化より個人の認知パターンの変化を推察することは可能であり, これらの変化と減量や耐糖能の変化との関連を検討することは有用と考えられる 筆者らの 6 カ月間の肥満介入における認知行動療法に基づいたカウンセリングの結果では, TEG における CP,FC の有意な増加を認めた (Fig. 6) この CP の増加は, 厳格な側面, 意志の強さなどを表しており, 肥満患者においては, 日常生活において自身の生活習慣に対する自己管 351

Jpn J Gen Hosp Psychiatry Vol. 23 No. 4 (2011) Fig. 6. 肥満治療における治療前後の TEG 指標の変化 Fig. 7. 肥満治療における BMI 変化量と TEG 指標の関係 理意識, 認知の改善と考えられた また,FC の増加は, ストレスに対する積極的な対応が可能になった可能性があり, いずれも自己管理能力の向上につながっていると考えられた しかし, これら TEG 指標の変化の程度と, 体重の変化には有意な関係を認めなかった これは, 必ずしも体重の変化が行動変容だけで説明できるものではなく, むしろ食事量や運動量などの総合的な変容の結果が体重の変化と考えると, 妥当と思われた 統計的には, 体重の変化と,TEG の A の変化量とは有意な負の関係を認めた (Fig. 7) このことより, 客観的評価すなわち自己評価, 自己効力感などの増加と減量の程度とは関連する可能性が あり, 自己効力感の評価, 向上は減量において有用である可能性が示唆された 8) カウンセリングそのものについては, 筆者らの無作為抽出による RCT(randomized controlled trial) にて, カウンセリング群において有意な減量効果を認めており, 減量においてカウンセリングは非常に有効であると考えられる 9) 今後の問題点 本稿において, 糖尿病や肥満症における認知行動療法の有用性につき述べたが, 今後, わが国における現在の医療現場において認知行動療法を生 352

肥満, 糖尿病を有する患者のための認知行動療法 活習慣病の治療に導入していくにはさまざまな問題点がある まず生活習慣病の治療, 予防にあたる最前線の医師, コメディカルスタッフがこの認知行動療法をまだ十分には理解できておらず, また理解できていたとしても, そのスキルを十分に活用できていないことである したがって, 認知行動療法の基礎理論やコアとなる認知 行動変容の諸技法に関する研修システムの構築も重要と考えられる 次に, 誰がこの認知行動療法を施行するか, ということである 基本的には, 医師をはじめコメディカルスタッフが十分理解すれば問題ないが, そこには時間も必要であり, また現代医療の特徴であるチーム医療という概念からは, それぞれのエキスパートがその専門性を活かした治療を行い, 各々の情報を共有することで, その治療効果を最大にかつ効果的に発揮していくことが重要と思われる したがって, この糖尿病, 肥満などの生活習慣病の治療, 予防の現場に, 心理士が認知行動療法の専門性を活かし, 他のスタッフとともに現場でその専門性を発揮することで, 最も効果的でかつ最大の効果が得られる可能性も考えられる そのためには, 現在の医療システムのなかで, 心理士をどのように活用していくかに関する現実的な議論も今後必要となってくる 最後の問題は, 心理スタッフが現実に, これら生活習慣病治療, 予防の現場で臨床医, コメディカルと情報を共有し治療するためのトレーニングを受けていないことである これは逆に心理以外のスタッフが, 心理領域の情報をどのように扱うかに慣れていないことにもつながっている つまり, 心理側も一般臨床側もお互いに, 心理と臨床データの融合, 共有, 実際の治療に役立てるトレーニングなどの経験が少ないことである しかし, これらの職種が互いの情報, 知識を共有し, 患者の治療に用いることができれば, この生活習慣病の治療, 予防において飛躍的な効果が期待できる これらの観点より, 今後の生活習慣病の治療, 予防の臨床において, 心理士と医師, コメディカルが互いの情報を共有し, 効果的な治療システムを構築するためのスキル, 治療効果のエビデンス を確立するための共通の場が必要と考え, 筆者らは生活習慣病認知行動療法研究会を設立している 10) 今後の糖尿病, 生活習慣病領域での認知行動療法の普及の一石となれば幸いである 文献 1)Deacon BJ, Abramowitz JS:Cognitive and behavioral treatments for anxiety disorders: a review of meta-analytic findings. J Clin Psychol 60:429-441, 2004 2)Reinecke MA, Ryan NE, DuBois DL:Cognitive-behavioral therapy of depression and depressive symptoms during adolescence: a review and meta-analysis. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 37:26-34, 1998 3) 木村穣 : 運動指導と認知行動療法. 臨床スポーツ医学 26:353-357, 2009 4) 田嶋佐和子, 馬場天信, 有川愼子, 他 : 栄養指導が守れない背景分析と食行動指導の工夫臨床心理士を含めたチーム医療による栄養指導. New Diet Therapy 2:38-42, 2005 5) 厚生労働省健康局 : 標準的な健診 保健指導プログラム,2006. 7. 10 6) 馬場天信, 木村穣, 佐藤豪 : 減量を目的とした治療的介入に有効な心理的サポートのあり方. 日本臨床スポーツ医学会誌 12:207-214, 2004 7) 田嶋佐和子, 木村穣 : 肥満症患者の栄養管理 心理カウンセリングおよび間欠的低エネルギー食療法を用いて. 栄養評価と臨床 20: 131-135, 2003 8)Saito H, Kimura Y, Tashima S, et al:psychological factors that promote behavior modification by obese patients. BioPsychoSocial Medicine 3:1-9, 2009 9) 馬場天信, 木村穣, 田嶋佐和子, 他 : チーム医療における心身医学の役割肥満外来におけるチーム医療の効果, および減量効果からみた心理特性の差異. 日本心療内科学会誌 8:213-219, 2004 10) 生活習慣病認知行動療法研究会 HP,URL; http://www.kmuhsc.net/cbm/ 受理日 :2012 年 7 月 12 日 353

Jpn J Gen Hosp Psychiatry Vol. 23 No. 4 (2011) 要約 認知行動療法は, さまざまな精神 身体疾患において有用であり, 同様に糖尿病や肥満などの生活習慣病においても有用である 多くの肥満患者は 私は食べてない 水を飲んでも肥える などの認知の歪みを伴っている これは自己ダイエットとリバウンドの繰り返しによる自己効力感の低下から生じていることが多い したがって, 肥満や糖尿病の治療で重要なことは患者の認知の歪みを修正し, 運動や食事療法による減量や血糖の改善に対する自己効力感を向上させることである これらの認知の歪みを生じやすい性格特性として, 全か無思考や過度の一般化などを認めることが多く, 治療にあたり患者の性格特性を把握しておくことは有用である 実際の肥満, 糖尿病の治療では, 血糖や体重のセルフモニタリングと, 自己の行動 ( 食事, 運動など ) とその後の血糖, 体重の変化 ( 関連 ) に気付かせることが重要である 同時に患者の自己効力感を向上させ, 食事, 運動などの行動変容を促し, 維持させるサポートが必要である これら患者の認知の歪みを修正し, 自己効力感を維持, 向上させるうえで認知行動療法は非常に有用である 以上のことより肥満, 糖尿病の治療にかかわる医師, 看護師, 栄養士, 運動トレーナーなどすべての職種のスタッフが認知行動療法の基本を理解し, 臨床的に応用していく必要がある キーワード : 認知行動療法, 糖尿病, 肥満 354