2018 年度の公的年金額と 2017 年の高齢者世帯の収支 1 月 26 日に厚生労働省が発表した 2018 年度の年金額改定 および 2 月 16 日に総務省が発 表した 2017 年家計調査 ( 家計収支編 ) から高齢者世帯の家計収支について その概要をご紹 介します ポイント 2018 年度の国民年金 厚生年金額の水準は 2017 年度からすえ置き 2018 年度の国民年金保険料は 16,340 円 毎年の段階的引き上げが 2017 年度で完了 厚生労働省は5 年に1 度 公的年金の給付と負担のバランスが取れているか 財政検証を実施 前回は 2014 年に実施され 次回は 2019 年の予定 高齢者世帯の家計収支を見ると 勤労者世帯では月間収支が黒字なものの 無職世帯では赤字が継続 1.2018 年度の国民年金 厚生年金額 2018 年度の公的年金額は 2017 年度からすえ置きとなりました ( 図表 1) 図表 1 2018 年度の新規裁定者 (67 歳以下の方 ) の年金額の例 2018 年度 ( 月額 ) 国民年金 ( 老齢基礎年金 ( 満額 ):1 人分 ) 厚生年金 ( 注 ) ( 夫婦 2 人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額 ) 64,941 円 221,277 円 (64,941 円 2 人 +91,395 円 ) ( 注 ) 厚生年金は 夫が平均的収入 ( 平均標準報酬 ( 賞与を含む月額換算 )42.8 万円 ) で 40 年間就業し 妻がその期間すべて専業主婦であった世帯の給付水準 出典 : 厚生労働省報道発表資料 2018 年度の年金額改定について をもとに作成 図表 2 も同じ 2018 年度の年金額改定の考え方 年金額は 原則 新規裁定者 (67 歳以下の受給者 ) はの変動にあわせて 既裁定者 (68 歳以上の受給者 ) は物価の変動にあわせて改定されます ただし 水準の変動がマイナスで物価水準の変動がプラスとなる場合には 高齢者の年金収入が急激に下がらないよう配慮して 年齢にかかわらず スライドなしとするルールとなっています 2018 年度は 変動率がマイナス ( 0.4%) で 物価変動率がプラス (0.5%) となったた 1
め 上記のルールにより新規裁定年金 既裁定年金ともにスライドなし ( 年金額の改定なし ) とさ れました 2.2018 年度の国民年金保険料 2018 年度 (4 月以降 ) の国民年金保険料は月額 16,340 円で 前年度より月額で 150 円 ( 注 1) の引き下げとなり 毎年 280 円の引き上げが始まる直前の 2004 年度の保険料 13,300 円より 3,040 円高い水準となりました ( 図表 2) 図表 2 国民年金保険料 2017 年度 月額 16,490 円 2018 年度 月額 16,340 円 2017 年度から 150 円の引き下げ ( 注 1) 2019 年度 月額 16,410 円 2018 年度から 70 円の引き上げ ( 注 2) ( 注 1) 法律上は毎年 280 円ずつ引き上げられ 2017 年度に上限に達し 法律上の保険料は 16,900 円 さらに物価やの変動を反映した一定の率 ( 保険料改定率 ) を乗じるため 実際の保険料は 2017 年度と比べて 150 円の引き下げ 2018 年度の国民年金保険料 16,900 円 0.967 16,340 円 ( 法律上の保険料 ) ( 保険料改定率 ) ( 実際の保険料 ) ( 注 2) 国民年金第 1 号被保険者に対する産前産後期間の保険料免除制度施行により 2019 年度分より法律上の保険料が 17,000 円に 100 円引き上げ ( 実際の保険料は 70 円引き上げ ) 3. マクロ経済スライド (1) マクロ経済スライドとスライド調整率公的年金の額は 変動率や物価変動率にあわせた改定に加えて さらに マクロ経済スライド という仕組みによって給付水準が下方に調整されます 具体的には 公的年金の被保険者数の減少および平均余命の伸びに基づいて スライド調整率 が設定され 変動率や物価変動率からスライド調整率を控除した率によって年金額が毎年改定されます ( 図表 3) マクロ経済スライドは 少子高齢化の進行に対応するために 年金の給付水準を自動的に調整する仕組みとして 2004 年に導入されました マクロ経済スライドによる調整は 年金財政が長期にわたって均衡すると見込まれる ( 概ね 100 年後に十分な積立金を保有できると判断される ) まで行なわれます 調整期間中の所得代替率 ( 後述 ) は低下していき 調整期間終了後は 原則 所得代替率は一定 ( 政府は所得代替率の下限を 50% として設定 ) となります 2
図表 3 マクロ経済スライドとスライド調整率の関係 ( スライド調整率をマイナス 2% とした場合の例 ( 注 )) < マクロ経済スライドの仕組み > < 名目下限措置 > 物価の伸びが小さい場合 物価の伸びがマイナスの場合 ( 物価 ) -2% 3% ( 物 1% 1% -1% 改定率 ( 物価 ) 調整率改定率調整率改定率 (-1%) -1% -1% 改定なし ( 物価 ) ( 物価 ) 調整率 ( 物価 ) (-2%) 部分的な調整にとどまる 調整なし ( 注 )2018 年度マクロ経済スライドによるスライド調整率はマイナス 0.3% 出典 : 厚生労働省年金法改正 ( 平成 28 年法律第 114 号 ) 成立に係る資料をもとに作成 図表 4も同じ (2) マクロ経済スライドによるスライド調整のルール見直し (2018 年 4 月導入 ) 従来は マクロ経済スライドによって 年金の名目額が前年度と比較してマイナスになってしまう場合には 年金受給者の生活水準への影響を考慮し 前年度と同額とし マイナスにはしないこととされていました このように マクロ経済スライドを一部しか適用しない場合 その分年金額を引き下げる期間が長くなり 長期的な年金財政の収支のバランスにも影響が出てきます 将来 年金を受給する世代の年金の給付水準を確保するため 調整しきれなかった分を翌年度以降に繰り延べて ( これを キャリーオーバー と呼びます ) 物価が上昇した年に過去の未調整分を追加で調整する仕組みが 2018 年 4 月から導入されました ( 図表 4) 2018 年度の年金額においてマクロ経済スライドの未調整分はマイナス 0.3% であり 未調整分は繰り越されました 図表 4 マクロ経済スライドによる調整ルールの見直し ( スライド調整率をマイナス2% とした場合の例 ) < 景気後退期 > < 景気回復期 > ( 物価 ) -2% ( 物価 ) 4% -1% 1% -1% 改定率 1% (-1%) 調整率改定率改定なし ( 物価 ) 調整率 ( 物価 ) 未調整分をキャリーオーバー 4. 所得代替率の見通し (1) 所得代替率公的年金の給付水準は 所得代替率 という考えに基づき算出されます 所得代替率とは 給付開始時点の年金額を 現役世代の平均手取り収入額 ( 賞与込み ) に対する割合で示したものです 年金額を固定すると インフレや給与水準の上昇があったときに年金の価値が下がってしまうため 一定の価値を保障する方法として モデル世帯 (40 年間平均収入で厚生年金に加入していた夫と専業主婦の妻の世帯 ) と所得代替率を設定し 給付開始時の現役世代の手取り収入と比べてどの程度の年金額を受け取れるか という指標を設けています 3
この所得代替率は世帯の所得水準によって異なり 世帯の一人あたりの所得が低いほど高くなります 一般に高所得世帯は個人年金や貯蓄などで老後に備えることができますが 所得の低い世帯は十分な老後の備えをすることが困難です そのため公的年金では 世帯構成や現役時代の所得の違いを軽減するように設計され 所得の再分配が行なわれています ただし 実際に支給される年金は現役時代の収入に基づいて算出されますので 現役時代の所得が高い世帯の年金額が 所得の低い世帯の年金額を下回る訳ではありません ( 図表 5) 図表 5 現役時の収入と所得の再分配による受給時の年金額 ( 金額 ) 所得代替率 : 高所得代替率 : 中所得代替率 : 低 現役の時の収入 年厚金生 基礎年金 現役の時の収入 年厚金生 基礎年金 現役の時の収入 年厚金生 基礎年金 給付される年金 収入が低い人収入が中程度の人収入が高い人 ( 収入 ) 出典 : 厚生労働省ホームページをもとに作成 (2) 財政検証と所得代替率の予測公的年金制度は 現役世代の保険料負担で高齢者世代を支える 賦課方式 で運営されていますが 年金財政の長期的な持続可能性を確認するため 厚生労働省は少なくとも5 年に1 度 公的年金の財政検証 ( 給付と負担のバランスが取れているかの確認 ) を行なっています 直近では 2014 年に実施し 経済状況に応じて8 通りのケースを設定し おおむね 30 年後の厚生年金の水準を試算しています ( 図表 6) 経済が成長するケース ( ケースA~E) では モデル世帯の所得代替率は将来も 50% を上回る見通しですが 低成長ケース ( ケースF~H) では将来的に下回る見通しとなっています なお 次の財政検証 (5 年後 ) までに所得代替率が 50% を下回ると見込まれる場合には マクロ経済スライドによる調整期間の終了について検討を行ない その結果に基づいて給付および負担の在り方等について検討することになっています 2014 年におけるモデル世帯の年金支給額は 21.8 万円 所得代替率は 62.7% でした 4
図表 6 財政検証による将来見通し ( モデル世帯 ) ケース 将来の経済状況の仮定 ( 労働力率 ) 物価上昇率 上昇率 経済の前提 実質運用利回り 実質経済成長率 支給額 ( 万円 月額 ) 年金受給額 所得代替率 ( 注 1) ( 注 2) A 2.0 2.3 3.4 1.4 30.1 50.9(2044 年度以降 ) B 1.8 2.1 3.3 1.1 28.4 50.9(2043 年度以降 ) C 労働市場への参加が進むケース 1.6 1.8 3.2 0.9 26.9 51.0( ) D 1.4 1.6 3.1 0.6 25.9 50.8( ) E 1.2 1.3 3.0 0.4 24.4 50.6( ) F 1.2 1.3 2.8 0.1 23.4 45.7(2050 年度以降 ) G 労働市場への参加が進まないケース 0.9 1.0 2.2 0.2 21.6 42.0(2058 年度以降 ) H 0.6 0.7 1.7 0.4 17.8 39.0(2055 年度以降 ) ( 注 1) ケースF~Gでは 仮に 財政のバランスが取れるまで機械的に給付水準調整を進めた場合の数値 ( 注 2)( ) 内はマクロ経済スライドの調整終了年度 出典 : 厚生労働省 国民年金及び厚生年金に係る財政の現状及び見通し -2014 年財政検証結果 - をもとに作成 5. 高齢者世帯の家計収支高齢化 現役世代の減少等を背景に マクロ経済スライドによって今後さらなる公的年金の受給額の調整が行なわれる見込みです 安定した老後生活を送るために 現役時代から預貯金 個人年金保険等で備える等 自助努力の必要性が高まっています (1) 高齢勤労者世帯高齢者世帯のうち高齢勤労者世帯 ( 世帯主が 65 歳以上の勤労者 ) は 実収入が 1ヵ月平均 411,812 円で そのうち公的年金等が 132,486 円と実収入の 3 割ほどを占めており 可処分所得は 348,716 円となっています 実支出は 354,257 円 ( 消費支出 291,161 円 + 税金 社会保険料等 63,096 円 ) となっており 月間収支は 57,555 円の黒字となっています ( 図表 7) 図表 7 高齢勤労者世帯の月間家計収支 実収入 411,812 税金 社会保険料等 63,096 食料 76,606 勤め先収入 264,245 可処分所得 348,716 消費支出 291,161 1 2 3 4 5 6 8 実支出 354,257 7 公的年金給付 132,486 の消費支出 67,493 15,081 黒字 57,555 1 住居 (17,696 円 ) 2 光熱 水道 (22,815 円 ) 3 家具 家事用品 (13,416 円 ) 4 被服および履物 (9,905 円 ) 5 保健医療 (14,838 円 ) 6 交通 通信 (40,336 円 ) 7 教育 (670 円 ) 8 教養娯楽 (27,384 円 ) 出典 : 総務省統計局 家計調査報告 ( 家計収支編 )-2017 年平均速報結果の概要 - をもとに作成 図表 8~11 も同じ 5
(2) 高齢夫婦無職世帯高齢夫婦無職世帯 ( 夫 65 歳以上 妻 60 歳以上の夫婦のみの無職世帯 ) は 実収入が 1ヵ月平均 209,198 円で うち公的年金等が 191,019 円と約 9 割を占め 大半を公的年金等に依存しています 税金 社会保険料等を引いた可処分所得は 180,958 円となっています ( 図表 8) 一方 実支出は 263,718 円 ( 消費支出 235,477 円 + 税金 社会保険料等 28,240 円 ) と 月間収支は 54,520 円の不足が発生しています このため 毎月 預貯金取り崩し 24,729 円 保険金等受取 ( 注 ) 12,802 円などで補っています 年間では 預貯金を約 30 万円取り崩し 保険金等を約 15 万円受け取っていることになります 1ヵ月あたりの不足額は前年比では減少しているものの 過去 10 年間では増加傾向にあります ( 図表 9) ( 注 ) 受取保険金額から支払保険料を差し引いたもの 家計調査では貯蓄的要素のある保険を指しており 個人年金保険や終身保険のほか 企業年金保険等も含まれる 図表 8 高齢夫婦無職世帯の月間家計収支 実収入 209,198 不足分補てんの内訳 税金 社会保険料等 28,240 食料 64,444 公的年金給付 191,019 可処分所得 180,958 1 2 3 4 5 6 実支出 263,718 消費支出 235,477 18,179 不足分 54,520 教養娯楽の消費支出 25,077 54,028 1 住居 (13,656 円 ) 2 光熱 水道 (19,267 円 ) 3 家具 家事用品 (9,405 円 ) 4 被服および履物 (6,497 円 ) 5 保健医療 (15,512 円 ) 6 交通 通信 (27,576 円 ) 7 教育 (15 円 ) 有価証券純減 171 16,818 保険金等受取 12,802 預貯金取り崩し 24,729 図表 9 高齢夫婦無職世帯の月間収支不足額および預貯金取り崩し 保険金等受取の推移 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 61,560 62,326 57,592 54,711 54,519 49,388 51,674 46,221 42,125 41,191 42,950 36,037 36,534 35,003 30,950 36,438 28,732 28,857 30,353 32,298 31,415 24,729 4,842 7,672 9,980 9,619 10,239 11,477 12,990 15,420 14,340 14,231 12,802 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 ( 年 ) 預貯金取り崩し 保険金等受取 不足額 (3) 高齢単身無職世帯高齢単身無職世帯 ( 公的年金等を受給して生活している 65 歳以上の単身世帯 ) は実収入が 116,599 円で そのうち公的年金等の社会保障給付が 109,939 円と9 割以上を占めています ( 図表 10) 月間収支は 37,653 円の不足が発生しており 毎月 預貯金取り崩し 26,203 円 保険金等受取 914 円などで補っています 年間では 預貯金を約 31 万円取り崩し 保険金等を約 1 万円受け取っていることになります ( 図表 11) 6
図表 10 高齢単身無職世帯の月間家計収支 実収入 116,599 不足分補てんの内訳 社会保障給付 109,939 可処分所得 103,876 6,660 不足分 37,653 10,536 消費支出 141,529 税金 社会保険料等 12,723 食料 35,336 1 2 3 4 5 6 実支出 154,252 教養娯楽 16,760 の消費支出 31,446 保険金等受取 914 預貯金取り崩し 26,203 1 住居 (14,550 円 ) 2 光熱 水道 (12,896 円 ) 3 家具 家事用品 (5,877 円 ) 4 被服および履物 (3,792 円 ) 5 保健医療 (7,918 円 ) 6 交通 通信 (12,954 円 ) 図表 11 高齢単身無職世帯の月間収支不足額および預貯金取り崩し 保険金等受取の推移 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 38,280 37,653 35,876 32,938 29,429 25,900 25,994 26,899 27,214 28,265 24,580 23,125 22,692 23,764 17,356 13,132 19,792 19,661 15,695 14,886 20,070 26,203 1,915 1,662 408 5,250 1,539 4,720 3,079 3,617 2,456 2,667 914 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 ( 年 ) 預貯金取り崩し保険金等受取不足額 7