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- 電解研磨法材料の電気伝導性を利用したもので電解液中にて材料を陽極としてに通電し試料を溶解 薄片化する手法 材料に適した電解液の調製が必要な他 電流 電圧 温度などの調整が必要である -イオンミリング法 Ar イオンビーム ( 加速電圧 ~5 kv) を試料に照射し 試料中の原子をはじき出し薄片化する手法であり ほとんどの無機材料に適用可能である 加工する面が平滑である必要があり 前処理として試料表面の鏡面研磨を要する また イオンビームにより試料表面にダメージ層が形成されるため TEM 観察においては像質低下の要因となる このダメージの低減には加速電圧やビーム電流を下げる ビームの照射角を下げる等の調整が必要である -FIB 法 Ga イオンビーム ( 加速電圧 ~30 kv) を試料に照射し 試料中の原子をはじき出し薄片化する手法であり ほとんどの無機材料に適用可能である 試料の切り出しや切削研磨等の前処理を要するイオンミリング法と異なり バルク材から直接薄片試料を加工することが可能な他 SIM 像 ( イオンビーム照射により加工表面から放出される二次イオンを用いて結像した像 ) を利用しながら加工できるので μm オーダーの微小部からの選択的試料採取が可能である イオンミリング法と同様イオンビームにより試料表面にダメージ層が形成されるため その低減には低加速電圧での加工が必要になる 文献によると Si が試料の場合で表面に形成されるダメージ層の厚みは加速電圧 30 kv で約 20 nm( 試料を厚み 200 nm に加工した場合 両面に合計 40 nm のダメージ層が形成されている ) である一方 加速電圧 10 kv とすると約 10 nm まで半減できるという報告がある -ミクロトーム法ダイヤモンドナイフやガラスナイフ等鋭利な刃物を用いて材料から薄片を直接切り出す手法であり 前述の手法では加工できない高分子材料や生物材料等に利用できる 一般的にこれら材料は軟質であり加工の際に形が崩れ 薄い切片を得ることが困難であるため 樹脂に包埋する或いは凍結させる等の前処理が必要になる 特にミクロトーム法による試料作製においては作業者の技能に依存する部分が多いこと また超高圧電子顕微鏡施設内にミクロトーム法に関するノウハウがほとんどないことから 今回の研修ではミクロトームを用いた超薄切片の作製をテーマとした また 試料には超高圧電子顕微鏡にて撮影したフィルムを用いた ( 図 2 参照 ) この背景として 写真撮影時の電子照射部 ( 図 2 中の破線枠内 ) 以外に かぶり の現象が確認されたためであり この原因を究明することも合わせて今回の研修の目的とした 電子顕微鏡用フィルム 図 2 超高圧電子顕微鏡にて撮影したフィルム はフィルム下部が黒くかぶっている は正常 図中破線枠内が撮影時の電子照射部

及びフィルムの感光について図 3 に示す フィルムの乳剤層にはハロゲン化銀が含まれており 電子や光 X 線等の照射により銀イオンが還元され潜像核と呼ばれる銀微粒子が生成される 更に現像処理によりこれら潜像核を中心に銀イオンの還元が促進され銀微粒子が成長し これらを現像核と呼んでいる 電子顕微鏡のように高エネルギーの電子がフィルムに照射された場合 電子はそのエネルギーを周囲に付与しながら進むため現像核の分布は図 3 に示すように電子の飛跡に沿って分布する 一方 日常環境下の光がフィルムに照射された場合には 光が吸収されるとすぐエネルギーを失うので生成される現像核の分布は飛跡状にはならず図 3 (c) に示すようにランダムになる つまり 図 2 に示したフィルムの電子照射部 及び かぶり 部の現像核の分布状態を直接観察 比較することにより この かぶり の原因を考察できる 保護層 電子 光 X 線 切り出し TEM 観察 乳剤層 ハレーション防止層 (c) 図 3 電子顕微鏡用フィルムの断面構成と現像核の分布 電子顕微鏡用フィルムの断面構成 乳剤層中にハロゲン化銀が含まれている 電子線照射により現像核 ( 銀微粒子 ) は電子の飛跡に沿って分布する (c) 光照射の場合現像核はランダムに分布する 1. ミクロトーム法 ミクロトームを用いた超薄切片作製の具体的作業内容は 1ガラスナイフの作製 2 材料 ( 超高圧電子顕微鏡にて撮影したフィルム ) の前処理 即ち樹脂包埋及びトリミング そして3ミクロトームによる超薄切片の切り出しある 以下 それぞれの作業の詳細を示す 1-1. ガラスナイフの作製ガラスナイフの作製には市販のガラスナイフ用ガラス板 ( 幅 25 mm 長さ 400 mm 厚み 6 mm) 及び図 4 に示す装置 ( ナイフメーカー ) を用いた これはガラスを固定し表面に傷を入れ曲げのテンションを加えてガラスを割る装置であり 図 5 に示すようにまず 25 mm 四方 ( 図中 1) に割った後に更に対角線に割り ( 図中 2) これら先端の鋭利な部分をナイフとする 図 5 に示すように 対角線に割る際に頂点から約 0.5 mm 程度外れた位置で割れるように傷を入れておくことが重要であり 頂点から外れすぎると鋭利な部分が得られにくい上に歪な形状となりナイフに適さない 尚 極力ガラスがゆっくり割れるようにテンションを加えると比較的良質なナイフが得られる 適切なナイフの破面の状態を図 5 (c) に示す 表側 ( 割れ始め ) の端部はナイフが鋭利でなく また裏側 ( 割れ終わり ) の端部は破面の形状が悪くなり易く共に切片の切り出しには適さない 図中 印の領域が最も鋭利に仕上がるので最終的な薄い切片の切り出しに使用し 試料のトリミング ( 粗加工 ) には 印の領域を使用した

ガラス板 1 2 3 図 4 ナイフメーカーの概要 a) ガラス板をセットし ハンドル 1 を手前に回しガラス板を固定する b) レバー 2 を手前に引き ガラス板表面に傷を入れる c) ハンドル 3 を時計方向に回し ガラス板に曲げのテンションを加えて割る 1 25 mm 2 (c) 裏 表 25 mm t = 6 mm 図 5 ガラスナイフの概要 作成したガラスナイフの一例 対角線に割ったガラスの頂点 ( 図中円内 ) をナイフとする (c) 印部 ( 超薄切片切り出し用 ) と 印部 ( トリミング用 ) を使用する 1-2. 樹脂包埋 トリミング今回の研修で試料としている電子顕微鏡用フィルム ( 図 2 参照) は薄くかつ柔らかく ミクロトームを用いて加工する際に変形してしまうため そのままの状態では超薄切片を切り出すことは難しい そこで適当なサイズに切り出したフィルムをエポキシ樹脂で包埋した ( 図 6 ) エポキシ樹脂の特性として電子顕微鏡内での観察に備え電子線に対し安定であるもの 更には試料の確実な固定のため浸透性が良い ( 粘度が低い ) ものを採用した 更に これら (c) 15 mm 120 斜面は滑らかにする 6 mm 図 6 樹脂包埋及びトリミングした試料 ( 電子顕微鏡用フィルム ) 切り出したフィルムをエポキシ樹脂で包埋した状態 先端をトリミングした状態 (c) トリミングの詳細 台形と平面の成す角は約 120 また台形の斜面は滑らかにする

エポキシ樹脂に包埋した試料は ミクロトームでの加工に備えその先端を 1 mm 四方程度に小さく加工 ( トリミング ) した ( 図 6 ) 実際のトリミング作業はまずヤスリで大まかに先端の形状を整えトリミング用カミソリを用いて図 6 (c) のように台形に加工する 特に ミクロトームを用いて切片を切り出す際にナイフと接する斜面の部分は滑らかにする必要がある 1-3. ミクロトームによる超薄切片の切り出し樹脂包埋 トリミングした試料はミクロトームにセットし ここで超薄切片の切り出しを行った ミクロトームの概要を図 7 に示す 図 7 において ダイヤル1で切り出す切片の厚みを ダイヤル2で自動加工の際の加工速度を調整する 手動で切削する際にはダイヤル3を回す 図 7 は試料及びガラスナイフがセットされている部分の拡大図である 試料がセットされているアーム部分が上下にストロークしガラスナイフの部分で切片が切り出され 1 ストローク毎に設定された切り出し厚み分だけアーム部分が軸方向に送られるので 連続的に設定厚みの切片の切り出しが可能 という仕組みとなっている 切削中はルーペで確認しながら作業を進めた 切り出された切片はガラスナイフにセットしたボートに貯めた蒸留水上に浮いているので これを親水化処理した TEM 観察用メッシュに採取した 試料 1 ボート 2 3 ガラスナイフ 図 7 ミクロトームの概要 ダイヤル 1 は切り出す切片の厚み調整 ダイヤル 2 は自動加工の際の速度調整 手動加工はダイヤル 3 を回して行う 試料がセットされたアームが上下にストロークし ガラスナイフで切片が切り出される ストローク毎に設定厚み分だけアームが送られるので 連続した切片の切り出しが可能である 2. 超薄切片の観察結果 2-1. ステレオ観察法による現像核の分布の調査超薄切片の観察には超高圧電子顕微鏡施設の汎用電子顕微鏡 ( 加速電圧 200 kv) を用いた 超高圧電子顕微鏡で撮影したフィルムの 電子照射部及び かぶり 部から得られた切片厚み 1 μm の観察結果を図 8 に示す それぞれとに挟まれた領域 即ち乳剤層中に銀微粒子からなる現像核が分布している様子が確認できる ここで現像核が電子の飛跡に沿って分布していることを正確に把握するため ステレオ観察法を用いた これは二次元の情報である TEM 像から奥行きの情報も含む三次元の情報を得るための観察手法であり これにより飛跡に沿った現像核の分布を認識しやすくなる 具体的には TEM の試料傾斜装置を用いて

電子照射部 t = 1 μm かぶり 部 乳剤層 t = 1 μm 10 µm 乳剤層 10 µm 図 8 超薄切片の観察結果 かぶり 部及び電子照射部から切り出した厚み 1 μm の切片の観察結果 ステレオ観察法とステレオルーペ 試料を傾斜させ 二つの異なる角度から撮影し これら二枚の TEM 像 ステレオペアという を図 8 に示す専用のルーペを用いて観察する 尚 ステレオ観察法では試料の厚み方向の情 報が多いほど立体的に認識しやすいことから 切片厚みを 2 μm としてそれぞれの試料につい て観察した その結果 図 9 に示すように電子照射部では乳剤層に対しほぼ垂直な飛跡に沿っ た現像核の分布が確認され 一方 かぶり 部では乳剤層とほぼ平行な飛跡に沿った分布であ ることが分かった つまり かぶり 部についてもその原因は TEM 内の高エネルギーの電 子であること またそれら電子の入射方向がフィルム面とほぼ水平であるといえる 図 10 に 電子顕微鏡用フィルムを TEM 内に装填する際に用いるフィルムケースを示す TEM 観察 撮 影の際の電子はフィルム面の垂直方向から入射するが この かぶり の原因となる電子はフ ィルム面とほぼ水平方向から入射していることになる 以上の観察結果 及びこれら かぶり の現象が全てのフィルムに起こるわけではないこと また超高圧電子顕微鏡の加速電圧が 1000 kv と高エネルギーであることを含めて考察すると この かぶり の原因として ある TEM 観察モードにおいて顕微鏡内の電子が異常に散乱され それら散乱された電子がフィルムケー スに達した と考えられる 尚 二次的な X 線による影響も考えられることから これらにつ いても更なる検証 考察が必要と考える

t = 2 μm 電子照射部 飛跡が乳剤層とほぼ垂直 t = 2 μm かぶり 部 飛跡が乳剤層とほぼ平行 10 µm 10 µm 図 9 超薄切片の観察結果 電子照射部及び かぶり 部から切り出した厚み 2 μm の切片の観察結果 電子照射部では現像核が飛跡に沿って乳剤層とほぼ垂直に分布しているが かぶり 部では飛跡にそって乳剤層とほぼ平行に分布している 電子照射部の電子の入射方向 フィルム面 かぶり 部の電子の入射方向 フィルムケース 撮影時にフィルムケースから一枚だけ TEMの光路上に送られ電子が照射される 図 10 フィルムケースと電子照射の経路 TEM 観察 撮影の際の電子はフィルム面の垂直方向から入射するが かぶり の原因となる電子はフィルム面とほぼ水平方向から入射している 2-2. より薄い切片の状態観察 かぶり 部から採取した切片厚み 0.5μm 及び 0.2μm の観察結果を図 11 に示す 厚み 0.5μm ではかなり切片の加工性が悪いものの良質な切片においては図 11 に示すように現像 核 銀微粒子 の詳細が確認できるほど薄い領域を得ることができた 一方 厚み 0.2μm の 場合にはほとんど良質な切片が得られず これは図 11 に示すように乳剤層がに固 定されておらず剥がれてしまうためと考えられる この剥がれの原因として乳剤層が軟質 ゼ ラチン質 であり加工の際試料が逃げてしまいとの接着界面で剥がれるためと考えら れる 一般にミクロトームを用いた超薄切片の作製においては 試料が軟質なほど良質な切片 を得ることが困難とされ 図 11 に示すように比較的硬質な部分は比較的均一な薄 片が得られているが 軟質な乳剤層は全体的に凸凹であり 試料の硬さが加工性に影響してい ることが確認できた

t = 0.5 μm t = 0.2 μm 乳剤層 5 µm 0.1 µm 図 11 より薄い切片の観察例 厚み 0.5 µm の切片の観察例 比較的薄い切片が得られ 現像核 銀微粒子 の詳細が確認できる 厚み 0.5 µm の切片の観察例 軟質な乳剤層と硬質なの界面での剥がれが多く見られ 良質な切片を得ることができなかった 3. まとめ 今回の研修では ミクロトームを用いた電子顕微鏡観察用超薄切片の作製を行った その結果 試料の前処理 ガラスナイフの作製 及びミクロトームの操作等のミクロトーム法に関する基本 技能を修得することができた 特にミクロトームを用いた切片の切り出しに関しては ガラスナ イフの良否 試料の前処理の状態や硬度 加工速度等 様々の要因が切り出される切片の良否を 左右することを確認した 今回の研修ではより切削性の良いダイヤモンドナイフは高価なため使 用しなかったが ナイフの種類も含め様々な条件での切片作製の経験が技能向上に必要と感じた また 研修の試料として超高圧電子顕微鏡で撮影したフィルムを用い その かぶり の原因究 明を行った その結果フィルムの かぶり は 超高圧電子顕微鏡内の散乱電子若しくは二次 X 線がフィルム面とほぼ平行な方向から入射することに起因していることが判明した この かぶ り の現象が全てのフィルムにおいて発生しないことから 顕微鏡の撮影条件や構造的な側面を 含めた更なる調査 及び対策の検討が必要と考えられる 4. 謝辞 今回の研修ではミクロトーム法 及びフィルム解析法に関して以下の方々に技術的なご指導を いただきました 篤くお礼申し上げます エコトピア科学研究所 融合プロジェクト研究部門 医学部 工学研究科 化学 生物工学専攻 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 臼倉 教授 藤田 技術職員 松下研究室 山田君 F研 久保田君 若尾君