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Transcription:

第 3 分科会 宮崎で実施している学校における運動器検診について 3 宮崎県医師会 宮崎大学医学部整形外科 宮崎県医師会宮崎市郡医師会宮崎県整形外科医会宮崎大学医学部整形外科 山本惠太郎 稲倉 正孝 佐藤 雄一 中村 典生 髙村 一志 田島 直也 福嶋 麻里 帖佐 悦男 山口 奈美 1. 要旨 運動器の 10 年 日本委員会は事業の一つとして 学校における運動器検診体制の整備 充実モデル事業 を 2005 年度より実施している 小児運動器疾患 傷害の予防 を達成し 児童 生徒の心身の健全な発達を促進する目標であり 2007 年度より宮崎グループも参画した 小 中学校において実施した 宮崎方式は 対象者全員のアンケート調査および直接運動器検診を実施し その結果から二次検診としての医療機関受診を判断している 2011 年度までに約 19000 名を検診し 推定罹患率は約 10% であった 直接検診での異常項目としては 脊柱変形が多く その他はしゃがみ込み痛や肘関節可動性異常 上肢 下肢変形などであった 運動器機能不全として しゃがみ込み動作不全を約 10% に認めた 今後の全国展開に向けて現行の学校における検診体制に取り入れるべく 学校医を中心とした一次検診の実施導入を試みたが まだまだ課題が多く この検診が整備 確立されるべく更なる連携 協力が必要とされる 2. 目的児童 生徒の健康上の問題として 運動不足に伴う生活習慣病 ( メタボリックシンドローム ( メタボ ) ロコモティブシンドローム ( ロコモ )) と運動過多に伴う四肢および脊柱のスポーツ傷害 ( ロコモ ) がある その他にも心の問題 性に関する問題 アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の問題などが深 刻化しており 従来の学校医のみでは対応しきれないことが多くなってきた 文部科学省 日本医師会は 学校 地域保健連携推進事業 として精神科医 産婦人科医 整形外科医 皮膚科医などの各科専門医との連携事業を推進している 1994 年に旧文部省は文部省体育局長通知として 脊柱および胸郭の検査の際には併せて骨 関節の異常および四肢の状態にも注意すること と明記した しかし 学校における定期健康診断において 脊柱側弯症検診は従来から実施されてきたが 四肢の検診は未だに多くの学校では実施されていないのが現状である 運動の過多と過少の二極化現象により 児童 生徒の健全な運動器の発育 発達が阻害されつつあるが 運動器検診を実施することで運動器の形態異常 機能不全 傷害を早期に発見することができ 健全な運動器の発育 発達をサポートすることが可能となり 将来のロコモ メタボ予防へ繋がると考えている 小児期における運動器の傷害を予防するためには 発達段階である心身 ( 特に運動器 ) の特徴を運動器検診をとおして本人や保護者が理解し 運動器傷害の予防や早期発見が肝要である 3. 方法 1. 事前準備 ( 図 1) 学校長会や養護教諭会にて運動器検診の趣旨 実施方法の説明を行う 次にアンケートにて実施希望校を募る 実施希望校の学校医 養護教諭に対し実施説明会を行う 5

2. 一次検診の実際 1 検診時期 : 運動器検診の実施は 原則的に学校定期健康診断 ( 内科検診 ) に合わせて行う 2 実施前に問診票を配布する ( 図 2) 内容は 運動の状況 現在の運動器の症状 過去の既往とその現在の状態 質問や状況を含めた自由記入欄とした 3 実施者 : 学校医または整形外科医に 理学療法士や健康スポーツナースも参加協力した 4 評価項目 : 表 1に示す運動器チェック項目を実施し アンケート結果などを含め評価する ( 図 3) 5 判定 :2007 年度は 要受診 要注意 問題なし 判定不可の4 段階で 2008 年度からは治療中を加えた5 段階評価で判定し 二次検診へは要受診 治療中判定とした ( 図 3) 3. 二次検診 ( 医療機関受診 ): 一次検診で問題となった児童 生徒への医療機関受診を勧め 医療機関から調査票を回収する 4. 検診後の対応データを解析し 各学校 教育委員会などへフィードバックを行う 希望校には学校保健員会などで運動器の講話を行い ロコモ予防を含めた市民公開講座を実施することで啓発活動を行っている 4. 対象 結果実施総数は 2007 年度は小 中学校 5 校 1564 名 2008 年度は 16 校 2179 名 2009 年度は 26 校 3908 名 2010 年度は 35 校 4450 名 2011 年度は 67 校 6841 名に実施した 追跡調査群を除いた対象者数は 2007 年度 1564 名 2008 年度 2166 名 2009 年度 3727 名 2010 年度 4223 名 2011 年度 6472 名であった 1.2011 年度 ( 表 2,3) 実施総数は 6841 名 対象総数は 6472 名 ( 小学生 3016 名 中学生 3456 名 ) で 学年別では小 1:7 名 小 2:8 名 小 3:7 名 小 4:1442 名 小 5:363 名 小 6:1189 名 中 1:2245 名 中 2:1085 名 中 3: 126 名であった 性別は男子 3356 名 女子 3116 名であった 運動部所属は 4363 名 (67%) であった 2 運動器問診票現在疼痛ありは 585 名 () で 疼痛部位は頚部 20 名 肩 44 名 肘 39 名 手関節 21 名 手 29 名 背部 15 名 腰 69 名 股関節 35 名 膝関節 181 名 足 103 名 踵 48 名などであった そのうち整形外科での治療中は 311 名 (53%) であった 既往症ありは 2099 名 (32%) であった 3 運動器チェック項目 ( 総数 6335 名 欠席 137 名 ) チェック項目の結果では 異常あり 929 名 (14.4%) であった 内訳は 脊柱変形 566 名 しゃがみ込み異常 151 名 下肢変形 141 名 肘屈伸動作異常 61 名 上肢変形 39 名 肩関節挙上困難 16 名 歩容異常 7 名 その他 17 名であった また しゃがみ込み機能不全を 575 名 (8.) に認めた 4 一次検診結果問題なし :4380 名 (68%) 要注意:1007 名 (15%) 要受診 ( 二次検診へ ):759 名 (12%) 治療中:186 名 (3%) 判定不可 その他:140 名 ( 欠席 137 名 問診票不備 3 名 ) であった 5 二次検診二次検診 ( 医療機関 ) 受診者は 339 名 (391 件 ) で 要受診 治療中判定の 945 名中 35.( 総数 6472 名中の 5.2%) であった 受診者のうち異常なしは 112 名 (33%) であった 一方傷病名 ( 疑い病名を含む ) は 40 疾患以上であり その内訳は側弯症 147 名 肘関節傷害 15 名 膝関節傷害 10 名 足関節傷害 9 名などであった 二次検診結果では要治療が 19 疾患 要経過観察 ( 通院 )116 疾患 要経過観察 ( 著変時 )83 疾患であった 推定罹患率は 9.4% であった 2. 運動器検診の 5 年間の概要 2007 年度から 2011 年度までの運動器検診の概要を示す ( 表 2 3) 3. 学校側の運動器検診の評価 ( 図 4) 1 運動器検診は必要か? 思う やや思う という肯定的な意見は 2008 年度が 75% であったが それ以降は約 90% が必要と回答していた 2 運動器検診を実施したいか? 実施したい は 2008 年度は 24% で必要性は感じるが実施までは難しいという意見が多かったが その後年々実施したい学校が増加し 2011 年度は 72% と拡がった 5. 考察運動器検診の役割は 児童 生徒の健康上の問題 6

である運動不足に伴う生活習慣病 ( メタボ ) や運動器症候群 ( ロコモ ) と運動過多に伴う四肢および脊柱のスポーツ傷害 ( ロコモ ) の予防である 文科省も学校における運動器検診の必要性を述べているが 脊柱側弯症検診以外は実施されていないのが現状である 特に 近年運動の過多と過少の二極化現象により 児童 生徒の健全な運動器の発育 発達が阻害されつつある 運動器検診を実施することで運動器の形態異常 機能不全を早期に発見することが可能であり 健全な運動器の発育 発達をサポートすることで 将来のロコモ メタボ予防へ繋がり運動器検診の役割は大きいと考えている 実際 他の検診における被患率と比較しても同程度であり運動器検診の必要性が考えられる ( 表 4) そこで 宮崎では学校における運動器検診の全国展開に向けて現行の定期検診体制に取り入れるべく 対象者全員を直接検診する一次検診を春や秋の内科検診時に学校医または整形外科医により実施している 現行の内科検診と同時に行うため 運動器チェック項目は簡便な 7 項目 ( 歩容異常 しゃがみ込み動作 肩の挙上 肘の曲げ伸ばし 上肢の変形 下肢の変形 脊柱変形 ) とし 検診の実際の方法の紹介として DVD( 正常な流れ 異常状態 異常所見のチェック グループによる流れ ) を作成し 実施時の円滑な流れの啓発を行った ( 表 1) 検診方法に関しては 初年度 (2007 年度 ) の方法を元により簡便に有効な検診となるよう修正を加えている ( 図 3) 問診票に関しても 2007 年度では現症と既往症がわかりにくい 疼痛の程度や既往症の状況などの判別がわからないとの意見があり 内容を 1) 運動の状況 2) 現症 3) 既往症と分け 判定の精度を向上させるべく原本を改訂した ( 図 2) また 児童 生徒ならび保護者が記入しやすく 集計を容易にすべく 2008 年度より OCR(Optical Character Reader: 光学式文字読取装置 ) を採用した 判定入力などのデータ処理は Web site を利用した また 二次検診の回収率を上げるため 結果表は生徒から学校側への提出だけでなく 医療機関から大学への FAX を依頼し効果を上げた 運動器検診の実施における課題として 次のことが挙げられる 1) 対象者 ( 全員 抽出者 希望者など ) 2) 検診方法 ( 直接検診 問診などのアンケート ) 3) 検者 ( 学 校医 整形外科医 その他 ) 4) 時間的負担 ( 学校および医療者側 ) 5) 費用 6) 法的整備がない 7) フィードバックや啓発活動などである 特に時間に関しては 学校医による実施の場合 内科検診に加え一人当たり平均 20 秒余計にかかったので 児童 学校医ならびに学校側にとって負担増となった 整形外科医が並行し実施すればその負担は軽減されるが 全ての学校への派遣は現行の検診体制では費用などの面で制限される しかし 学校医の場合も毎年実施することで慣れてきており年々実施時間は短縮されてきている 対象に関しては他地域の多くは対象者を問診票で抽出し実施している その方法では検者の負担は軽減できるが 問診抽出時の偽陰性も否定できず 検診の観点から 宮崎では対象者全員を直接検診する一次検診の実施が必要と考えている また 抽出を誰が行うかの問題もある スポーツ障害が多いため運動クラブに所属している生徒のみの検診で効率的との意見もあるが われわれの結果では姿勢異常や運動部へ所属していない生徒にも運動器の異常を認めた 検診項目に関しては 一次検診の観点や学校医が実施することを考慮すると より簡便で効率的な検診が望まれる 検者に関し 学校医以外の整形外科医が実施する場合 内科検診とは別に検診の場を設定する必要があり 現在の学校を取り巻く環境では困難と考える 検診というスクリーニングの観点や時間的効率も考慮すると 現行の学校検診に組み込む方法が全国展開に向けて望ましいと考えている 従って 学校医に実施して頂くよう理解を深めるため体制の整備や検診項目などの簡素化が必要である また 時間的な負担を考慮し今後の普及に向け 体力テストやモアレ検診などの日程に合わせての実施の検討やチェック項目を養護教諭などで実施可能かの検討も必要と考えている 報道によると文科省が早ければ 2013 年度からスポーツ傷害を早期に発見するために学校における定期検診項目の見直しを実施するとのことであり 今後の動向が待たれる 7

参考文献 1) 武藤芳照ら : 学校における運動器検診ハンドブック, 南光堂, 2007 2) 運動器の 10 年 日本委員会 ( 編 ): 平成 17-23 年度 学校における運動器検診体制の整備 充実モデル事業 報告書, 2006-2011 3) 山本惠太郎ら : 学校における運動器検診モデル事業の成果と課題 - 宮崎県 -. 臨床スポーツ医学 ;26(2):171-181, 2009 4) 山本惠太郎ら : 学校における運動器検診の実施について (2007-2008 年度 ). 宮崎県医師会誌 ;34(1):59-66, 2010 5) 山口奈美ら : 運動器学校検診における運動部所属有無別の運動器疾患について日整会誌 ;86(3):S571, 2012 6) 山本惠太郎ら : 学校における運動器検診の実施 第 5 報 日整会誌 ;86(3):S612, 2012 7) 山本惠太郎ら : 学校における運動器検診の実施について全国学校保健 学校医大会大会誌 ; 40 : 137-143, 2009 図表の説明図 1 運動器検診の実施日程 ( 宮崎県 ) 図 2 OCR 形式の問診表図 3 検診システムの方法 (2011 年度 ~ ) 図 4 学校側の運動器検診の評価 ( アンケート調査 ) 表 1 運動器検診チェック項目 (2008 年度 ~) 表 2 運動器検診概要 1(2007-2011 年度 ) 総数 = 対象 ( 者 )+ 追跡調査群表 3 運動器検診概要 2(2007-2011 年度 ) 表 4 運動器疾患と他疾患の比較 図 1 運動器検診実施日程 ( 宮崎県 ) 201 年 月 日養護教諭会にて説明 201 年 月 日学校長会にて説明 学校長 養護教諭宛に調査票を配送 希望あり 学校医への連絡 協力あり 201 年 2-3 月実施説明 ( 学校医 養護教諭 ) 201 年 4 月 ~ 6 月を中心に実施 ( 秋以降も可能 ) 大学協力 協力なし 二次検診 ( 医療機関 ) 結果報告 各地区教育委員会の後援ならび医師会の協力 8

図 2 問診票 :OCR(Optical Character Reader) (2008 年度 ~) ( 運動器の 10 年 日本委員会, 学校保健委員会試案 2007 年 2 月 一部改定 ) 表 1 運動器検診チェック項目 (2008 年度 ~) 1 立って 動作チェックする目的具体的チェック項目 学校医の前に歩いてくる児童 生徒の歩容異常を診る あるいは足踏みさせて診る 麻痺や筋力低下をチェックする 1-1 歩容異常がある 2 立位姿勢を診る 下肢の変形や脚長差をチェックする 2-1 極端なO 脚がある 2-2 極端なX 脚がある 3 しゃがみ込み動作を行わせる 股 膝 足関節の可動性をチェックする 3-1 容易にまたは完全にしゃがみ込めない 4 5 座って ( 立ったままでも可 ) 手のひらを合わせておじぎをする立位姿勢を診る 肩を挙上し 頭の後ろで組む 側彎症をチェックする 肩関節の可動性をチェックする 4-1 前屈したときに背中の高さに左右差がある 4-2 両肩の高さに左右差がある 5-1 肩が完全に挙がらない 5-2 肩の開きに左右差がある 6 両手の手掌を見せて肘を伸ばす上肢の変形をチェックする 6-1 極端な外反肘がある 6-2 極端な内反肘がある 7 肘を曲げる 伸ばす 肘関節の可動性をチェックする 7-1 左右差なく完全に肘の曲げ伸ばしができない ( 運動器の 10 年 日本委員会, 学校保健委員会試案 2007 年 2 月 一部改定 ) 9

図 3 検診システムの方法 (2011 年度 ~) 検診当日 1 一次検診 ( 対象 : 全員 ) 学校医 and/or 整形外科医担当 ( 看護師 理学療法士 ) 問題なし 問題なし 経過観察 ( 著変時 ) 検診前日まで 2 問診票チェック ( 対象 : 全員 ) 整形外科医担当 要注意治療中要受診 二次検診 ( 医療機関受診 ) 経過観察 ( 通院 ) 要治療 1 一次検診チェック項目 (7 項目 ) 歩容状態脊柱変形肩関節挙上上肢変形肘関節屈伸動作下肢変形しゃがみ込み動作 ( 不全 ) その他 2 問診票項目 体育系部所属の有無 現在の疼痛部位 状況 既往症 既往症に対する現在の状況 その他 ( 質問など ) 表 2 運動器検診概要 1(2007-2011 年度 ) 2007 年度 2008 年度 2009 年度 2010 年度 2011 年度 総数 1564 名 2179 名 3908 名 4450 名 6841 名 追跡調査群 13 名 181 名 227 名 369 名 学校数小学校中学校 対象小学生中学生 チェック項目異常 疼痛 ( 問診 ) 一次検診結果要受診治療中要注意問題なし判定不可 5 校 3 校 2 校 1564 名 671 名 893 名 18 名 1.2% 428 名 28% 25.7% - 1.8% 70.0% 2.5% 16 校 12 校 4 校 2166 名 1215 名 951 名 103 名 4.8% 193 名 7.8% 4.6% 4.3% 81.0% 2.3% 26 校 13 校 13 校 3727 名 1426 名 2301 名 302 名 8.1% 361 名 10% 10.6% 5.1% 6. 74.5% 2. 35 校 19 校 16 校 4223 名 1849 名 2374 名 522 名 14.2% 346 名 13.4% 3.3% 8.6% 72.4% 2.2% 67 校 38 校 29 校 6472 名 3016 名 3456 名 929 名 14.4% 585 名 11.7% 2. 15.6% 67.7% 2.1% 10

表 3 運動器検診概要 2(2007-2011 年度 ) 2007 年度 2008 年度 2009 年度 2010 年度 2011 年度 対象 1564 名 2166 名 3727 名 4223 名 6472 名 二次検診対象者 二次検診受診者 402 名 25.7% 56 名 13. 268 名 12.4% 83 名 38.3% 585 名 15.7% 148 名 25.3% 705 名 16.7% 279 名 39.6% 945 名 14.6% 339 名 35. 受診歴受診医他医なし 32.3% 1.5% 64.6% 36.4% 9.1% 51.5% 16.1% 5.0% 75.2% 14.6% 3.1% 69.0% 14.1% 2.6% 70.3% 二次検診結果要治療経過観察 ( 通院 ) 経過観察 ( 著変時 ) 問題なし 5.4% 35.7% 17. 41.1% 12.1% 26.3% 27.3% 29.3% 9.3% 27.3% 19. 40.4% 6.2% 18.6% 29.1% 35. 4. 29.7% 21.2% 36.6% 推定罹患率 15.7% 8.8% 9.4% 10.2% 9.4% 表 4 運動器疾患と他疾患の比較 < 他疾患の被患率 (2007 年度学校保健統計調査 )> う歯 :65.47% - 58.06% 裸眼 (0.3 未満 ) :6.4-20.34% 耳疾患 : 5.13% - 3.74% 眼の疾病や異常 :4.76% - 4.23% 喘息 : 3.91% - 3.08% 心臓の疾病や異常 :0.70% - 0.98% アトピー性皮膚炎 :3.64% - 2.7 ( 小学生 - 中学生 ) < 運動器疾患の推定罹患率 > 島根県 :2005 年 4898 名中約 7% 2006 年 4738 名中約 6% 京都府 :2005 年 1515 名中 1.6-42.2% 2006 年 2043 名中 1.3-7.1% 宮崎県 :2007 年 1564 名中 15.7% 2008 年 2166 名中 8.8% 2009 年 3727 名中 9.4% 2010 年 4223 名中 10.2% 2011 年 6472 名中 9.4% (2008 年からは整形外科医の介入や問診票の問い方を改訂 ) 11

図 4 次年度への実施アンケート ( 宮崎市 ) 運動器検診は必要か? 12 22% 2 3% 28 51% 13 24% 7 12% 32 54% 0 0% 20 34% 8 12% 35 51% 1 2% 24 35% 26 3 6 ( 校 ) 34 52% 運動器検診を実施したいか? 9 1 13 16% 2% 24% 29 5 47% 28 51% 32 51% 29 43% 1 1% 38 56% 21 28% 54 72% 2008 年度 (55/70 校 ) 2009 年度 (62/71 校 ) 2010 年度 (68/71 校 ) 2011 年度 (75/76 校 ) 12