P _2-8長井沼ゲンゴロウ

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長井市内沼における希少昆虫等調査報告 1. 対象地の概要及び調査の趣旨長井市の山中に1つの沼がある ( 写真 -1) A 沼と呼ばれるこの沼には 希少な水生昆虫のゲンゴロウ ( 県 VU 国-) メススジゲンゴロウ等の生息が 植物ではヒメミクリ ( 県 VU 国 VU) イヌタヌキモ( 県 NT 国 VU) の生育が確認され 生物多様性の維持の観点からもその保全が重要となっている しかし 近年 ヨシの繁茂や土砂流入等により沼の開放水面の減少 ( 写真 -2) が指摘されており 地元保全団体が 減少の主な要因であるヨシ等の除去作業を続けているものの 作業が生態系に与える影響に関する検証は行なわれていない状況となっている 本調査は 1 当該希少水生昆虫等が生息する池の保全に必要な対策を検討すること 2ヨシ除去等の活動が沼の生態系に与える影響を 沼に生息 生育する生物を指標として その現状を把握するための調査を行い 将来同様の調査を行った際に比較できるデータを残すこと を主な狙いとして実施した 2. 調査日時 天候及び調査者 (1)2007 年 7 月 13 日 ( 曇 ) 渡邊潔 伊藤聡 ( 環境科学研究センター ) (2)2007 年 9 月 18 日 ( 曇 寒い ) 沢和浩 ( 山形県植物調査研究会 ) 佐藤滋子 ( 長井市植物愛好会 ) 松木満 ( 地元保全団体事務局長 ) 渡邊潔 伊藤聡 写真 1 A 沼開水面 (2007.9.18) 写真 2 A 沼を覆うヨシ等 (2007.9.18) 3. 調査方法 水生生物については トラップによる捕獲 同定調査を行なった トラップは魚キラー (25 25 45 cm ) にエサとしてサナギ粉を入れ ため池周囲の水際に 10 個設置し 約 1 時間後に回収して種 体長 個体数などについて調査した トラップ位置を図 -1 に示す その他昆虫については目視および捕虫網による捕獲同定による生物種の確認を行なった 植物については 目視及び採集による生育種の確認を行った 調査に当っては地元関 係機関に周知の上 その理解の下に実施した

図 -1 トラップ調査 4. 調査結果 4-1. 昆虫類主に行なったトラップ調査及び注目すべき種について述べる 末尾にこの度の調査で確認した種のリストを示す (1) トラップ調査調査は 2007 年 9 月 18 日に行なった 沼の管理を行っている地元保全団体担当者からの聞き取りによると A 沼はヨシの繁茂などにより 開水面が年々減少している状況にあり その防止対策としてウインチと筏を活用したヨシの除去等を行なっているとのことであった このことから トラップ 1~5 及び 10 の計 6 個はヨシ除去による改変のない箇所 6~9の4 個はヨシ除去を行なった箇所に設置した ( 写真 3 4) これまで 水生生物に関して定量的に調査し記録を残した事例は少なく 変化していく自然環境を把握するため 主にゲンゴロウ類等水生昆虫 淡水魚類 両生類の現在の生息状況について調査するとともに 状来に再現可能なデータを残すことを狙いとして実施したものである 調査方法は3. に示すとおり ( 写真 3) 調査地点は図 -1のとおりである 写真 3 トラップ設置状況 写真 4 採捕 水生昆虫等 調査の結果 ヨシ除去を行なっていない箇所において ゲンゴロウ メススジゲンゴロウ クロゲンゴロウの 3 種が確認されたが 現状を改変した箇所と近接する所では確 認できなかった 結果を表 -1 に示す

表 -1 A 沼トラップ調査結果表 種名 数量 メススジゲンクロゲンゴロニホンイモリフナゲンゴロウゴロウウ 1 4 1 2 8 1 1 1 3 5 4 1 1 1 4 8 1 2 5 2 4 1 1 備考 6 3 1 ヨシ除去箇所 7 10 6 ヨシ除去箇所 8 1 2 ヨシ除去箇所 9 6 1 ヨシ除去箇所 10 6 1 ヨシ除去箇所及び近接する箇所ではゲンゴロウ類を確認できず (2) 注目すべき種 1 ゲンゴロウ ( ゲンゴロウ科 )Cybister japonicus( 県 NT 国 EN) 世界的には朝鮮半島 中国 台湾 シベリアに分布し 国内では全国的に分布し垂直分布も広いとされるが 近年減少が著しく地域的な絶滅が相次いでいる 県内では置賜地方と最上地方に 比較的個体数の多い生息地域があり 庄内 村山地方にも小規模な生息地が点在している しかし 山形盆地や庄内平野では大部分の生息地が孤立化し危機的な状況となっているほか 外来魚による捕食が深刻である 主に平野部の植物群落を伴った池沼に生息し 春 (4~5 月 ) にオモダカ等の茎内部に産卵し 夏 ~ 秋 (8~10 月 ) に新成虫が出現 成虫越冬するとされる A 沼では9 月 18 日トラップ調査により 3 4の計 7 個体を確認した メススジゲンゴロウと生息域を共有している事例としても注目すべきである この度の調査では 9 月 18 日に成虫を確認しただけであるが 前述の活動サイクルを参考にすれば この沼において新成虫は9 月以前に出現するものと考えられた いずれも限られた時間での調査であり 未解明の部分が多いため 生態の解明など必要な調査を継続していく必要がある 2 メススジゲンゴロウ ( ゲンゴロウ科 )Acilius japonicus 日本特産種であり 北海道及び本州北部 ( 中部以北 ) に分布する 県内では真室川町 戸沢村 月山 米沢市 飯豊連峰 地蔵山 小国町 鶴岡市 山辺町において記録がある 産地は極限されるが 一般に生息地での個体数は多い 生息地は水生植物の多い池であることが多いものの まれに植物の見当たらない池にも見られる 北海道北部 東部では平地にも産し 道南部や本州では山地から高地の池沼に生息するとされ 県内では高地 寒冷性の種とされる 1979 第 2 回自然環境保全基礎調査では高層湿原標徴種及び減少著しく絶滅の危機に瀕している種 1997 自然環境現況調査では日本

特産種及びRDB 未登載種で減少傾向にある種とされている A 沼において9 月 19 日に成虫 1 頭を確認したが初記録である ゲンゴロウと生息域を共有している事例としても注目すべきある いずれも限られた時間での調査であり 未解明の部分が多いため 生態の解明など必要な調査を継続していく必要がある (3) その他昆虫類ハッチョウトンボ ( 県 NT 国-) が確認された 本種は低標高 丘陵地の湿地を代表するトンボで 生息域が開発されやすいため 全県的に減少傾向にある 沼の浮島のヨシが低密度の箇所において確認された 今後 自然遷移に伴いヨシがさらに高層化 高密度化していくことが予想されるため 指標種として継続したモニタリングが望まれる 4-2. 植物 A 沼及びその周辺において ヒメミクリ ( 県 VU 国 VU) イヌタヌキモ( 県 NT 国 VU) の絶滅危惧植物を確認した ミクリ類は全てが絶滅危惧種となっており 各種開発 泥水の流入 水質汚染 不法投棄 ヨシの繁茂などにより減少している イヌタヌキモは全県下 70 以上の池沼 休耕田などに生育する水生植物であり 泥水の流入 水質汚染 不法投棄 ヨシの繁茂などにより減少している ともに水辺環境の健全度に関する指標種として重要であり モニタリング調査の継続が望まれる また 過去に記録があるミズニラとヒメタヌキモについても確認につとめたが 確認することはできなかった 他に確認した植物リストを末尾に示す 4-3 その他の生物沼に隣接する樹林部にモリアオガエル ( 県 NT 国-) を確認した 本種は山麓から山村にかけて広く分布するが 個体数は少ない 適当な水域がないと産卵しないため 産卵地には留意する必要がある 末尾に確認した種のリストを示す 5 まとめ ( 今後の保全策について ) A 沼において ゲンゴロウやメススジゲンゴロウなど希少な昆虫の生息とともに ヒメミクリ イヌタヌキモなど希少植物の生育を確認した こうした貴重な自然環境ではあるが 沼の開放水面は減少しており 放置すればいずれ湿原へと姿を変えていくものと考えられる このまま自然遷移に任せるのか 現状の生態系を維持するために対策を実施すべきなのか 地元保全団体も試行錯誤しながら活動を行なっている こうした現状に鑑み 沼の生態系の維持保全に関する考察を試みた 以下 課題と対策について以下に記す 1 第 1に保全活動のあり方についてである 地元保全団体が行なっている 沼の陸地化防止対策としてのヨシ等の除去はある程度理解できる しかし 現場を見たところ大きな地形改変を伴う行為であることは明らかである 原因は不明だか過去に記録のあ

るミズニラやヒメタヌキモも確認できなかった こうした状況にありながら 着手前の調査データがないことは 活動が正しいのかを評価する指針を持っていない状況といえる 科学的なデータがなければ 行なった保全活動の意義や成果について客観的に説明できる根拠を持たないのと同じといえよう このたび水生生物を指標としたトラップ調査を行った こうしたデータを基礎資料として モニタリング調査を継続し 生態系の変化を把握していく必要がある 当然得られた調査成果を保全団体に周知することが最優先課題であるため 2007 年 11 月 27 日に 地元保全団体事務局を訪問し 成果の報告とともに今後の活動に関する打ち合わせを行い 関係者への理解を促した 2 次に調査精度の向上が必要である 前述のように 希少な水生昆虫や植物が確認されたばかりで 実態は殆ど不明なままであり まだまだ知見は不足しているといわざるを得ない 今後は 調査の質を高めるとともに地元保全団体との共同調査等を行ない 団体自らモニタリング調査を行なえるように支援していく必要がある またそのための体制整備も必要である 3 以上を踏まえて希少生物の絶滅回避である 当該地域では 当面開発の予定はないと思われる マニア等による大量採集やブラックバス等の違法放流に関しては対応を考えにくいが 地元住民の林業生産活動や山菜取りの際に監視活動を兼ねてもらうことは抑止力として有効であろう また 保全対策の手法についても他の事例を参考にするような柔軟さも必要であろう < 参考文献 引用文献リスト> 1) 第 2 回自然環境保全基礎調査動物分布調査報告書 ( 昆虫類 ) 山形県 1979 環境庁 2) 山形県自然環境現況調査報告書 ( 動物 : 無脊椎動物篇 )1997 年山形県環境保護課等 3) 山形県の絶滅の恐れのある野生生物レッドデーターブックやまがた動物編 2003 山形県 4) 絶滅危惧野生植物 ( 維管束植物 ) レッドデーターブックやまがた 2004 山形県 5) 希少野生生物保全調査報告書平成 15~18 年度山形県環境科学研究センター 6) 改訂版図説日本のゲンゴロウ 2002 森正人 北山昭 < 資料編 >