< F2D91E63689F181408EA F8A7782C A28B49838B>

Similar documents
2-1_ pdf

教科 : 地理歴史科目 : 世界史 A 別紙 1 (1) 世界史へのいざない 学習指導要領ア自然環境と歴史歴史の舞台としての自然環境について 河川 海洋 草原 オアシス 森林などから適切な事例を取り上げ 地図や写真などを読み取る活動を通して 自然環境と人類の活動が相互に作用し合っていることに気付かせ

Taro-4.トマス

キリスト教の発展 2016

Taro-オリエンテーション

学習指導要領

【古代4 キリスト教の成立と発展】

第 2 問問題のねらい青年期と自己の形成の課題について, アイデンティティや防衛機制に関する概念や理論等を活用して, 進路決定や日常生活の葛藤について考察する力を問うとともに, 日本及び世界の宗教や文化をとらえる上で大切な知識や考え方についての理解を問う ( 夏休みの課題として複数のテーマについて調

キーワード : 近代文化, ラインホールド ニーバー, 完全主義, ルネサンス, 宗教改革 modern culture, Reinhold Niebuhr, perfectionism, Renaissance, Reformation Ⅰ. はじめに 本論では, これまでに引き続きラインホールド

5月24日宿題小テスト

2

学習指導要領

年間授業計画09.xls

< F2D91E63889F A B C6836A B>

Ⅰ. はじめに 本論では, これまでに引き続きラインホールド ニー バーの思想を取り上げ, 彼の歴史の見方, つまりキリ スト教神学者として歴史をどのように解釈しているか を紹介することにする. ニーバーは, 新約聖書, 特に 注 1) 聖パウロの言葉を基礎にして 恵み を解釈した. ここでは, 初

平成 30 年度年間授業計画 教科 : 地理歴史科目 : 世界史 A 校内科目名 : 世界史 A 対象年次 :1 2 単位 使用教科書 教材 教科書 現代の世界史 改訂版( 山川出版社 ) 補助教材 ニューステージ世界史詳覧 ( 浜島書店 ) 1 学期 2 学期 指導内容指導目標評価の観点 方法 <

13_寺内.indd

CJT2C1Z1J154.indd

人間科学部専攻科目 スポーツ行政学 の一部において オリンピックに関する講義を行った 我が国の体育 スポーツ行政の仕組みとスポーツ振興施策について スポーツ基本法 や スポーツ基本計画 等をもとに理解を深めるとともに 国民のスポーツ実施状況やスポーツ施設の現状等についてスポーツ行政の在り方について理

代々木ゼミナール 2018|高校生コース|高1生~高3生

学習指導要領

2013 年 3 月 10 日 ( 日 ) 11 日 ( 月 ) 51 回目 Ⅵ-054 山上の垂訓 山上の垂訓 054 マタ 5:1~2 ルカ 6:17~19 1. はじめに (1) 呼び名について 1マタ 5:1~8:1 は 通常 山上の垂訓 ( 説教 ) と呼ばれる 2しかし この名称は 説教

Taro-ティリッヒ1

Microsoft PowerPoint - ppt_No18_国教となったキリスト教

年間授業画 地理 歴史 2 年必修世界史 A( 理系 ) 数 2 2 年 56 組 書 教材世界史 A( 実教出版 ) プロムナード世界史 ( 浜島書店 ) 1 近代ヨーロッパの成立以後の近現代史を全世界的観点から体系的に理解させる 今日的な諸課題の解決の一助として歴史的理解 意識を習得させる 2

指導内容科目世界史 A の具体的な指導目標評価の観点 方法 ユーラシアの諸文明 西アジア 西アジアにおける古代オリエント文明とイラン人の活動 アラブ人とイスラーム帝国の形成過程や文明の特質を理解する 5 ユーラシアの諸文明 ヨーロッパ 古代ギリシア ローマ文明 キリスト教を基盤とした東西ヨーロッパ世

KONNO PRINT

2011 年 06 月 26 日 ( 日 ) 27 日 ( 月 )26 ローマ人への手紙 7:14~25 律法からの解放 (3) ロマ書 7 章クリスチャン 1. はじめに (1) 聖化 に関する 5 回目の学びである 1 最大の悲劇は 律法を行うことによって聖化を達成しようとすること 2この理解は

< F2D91E F F82CC8D9182C68F F2E6A7464>

第 11 講キリスト教とローマの生活 文化 三位一体説 ( 父なる神 子なるイエス 聖霊は同質で不可分 ) に発展 異端: アリウス派 イエスに人性を強くみとめる 帝国外のゲルマン人に普及 ユリアヌス ( 位 361~363 年 ) 東方密議宗教のミトラ ( ミトラス ) 教を信仰し異教復活を企図教

Ⅰ. はじめに 2001 年 9 月 11 日の同時多発テロ事件に象徴されるように, 今日の国際政治の中で宗教的な要素は無視できないものとなっている. 多くの人は, 政治的対立が宗教的対立に置き換えられることを恐れて, 政治の問題を論じる時に宗教を取り上げないようにしているが, 実際の政治の場, 特

平成 0 年度 (018 年度 ) 教科年間授業計画表 教科 地歴 科 日本史 A 目 年 1 本城 今井 日本史 A 現代からの歴史 ( 東京書籍 ) 図説日本史通覧 ( 帝国書院 ) 中校までの歴史習の上に 世界的視野に立った歴史認識を形成する 現代社会を形成してきた人間の営みとして歴史を正しく

Taro-3.バルト1

Taro-6.イスラームと12世紀ルネサンス

Nagoya Bunri University 名古屋文理大学紀要第 11 号 (2011) キリスト教神学における歴史認識 -ラインホールド ニーバーによる宗教改革思想の捉え方- キリスト教神学における歴史認識 - ラインホールド ニーバーによる宗教改革思想の捉え方 - Views on Hist

告白 という書物 告白 は 397~400 年頃の著作で 原題はラテン語で Confessiones 動詞の confiteri は 罪を懺悔する 神の恵みを賛美し感謝する という両方の意味がある 懺悔 賛美 感謝という順番が重要 と川添教授 自分が悪いことを認める 悪いところが神の恵みによって正さ

Microsoft Word - D-15

XCX~ 角 'l' À(;)aacx

社会系(地理歴史)カリキュラム デザイン論発表

Taro-自然神学とコミュニケーショ

Microsoft Word E1.docx

<4D F736F F D20906C8AD489C88A778CA48B8689C881408BB38A77979D944F82C6906C8DDE88E790AC96DA95572E646F6378>

第 5 回大航海時代 (3) ヨーロッパの世界進出とその意義について考察します 今回は スペインが 新大陸 貿易を開始し ヨーロッパに 価格革命 が起こる様子を見ていきます 第 6 週 : 第 6 回大航海時代 (4) ヨーロッパの世界進出とその意義について考察します 今回は スペイン帝国の衰退の原

Microsoft Word ws03Munchhausen2.doc

PowerPoint Presentation

序章近代世界の成立とグローバリゼーションの諸段階 世界 商品交換 全地球 結合 500 年ほど前に始まった 近代化 それ以前の広大な地域の商品交換ネットワークは? モンゴル帝国の 世界 商品の生産は? Ⅰ グローバリゼーション とは グローバリゼーションと近代 グローバリゼーション 最近( 現代 )



【中世3ビザンツ】

T_BJPG_ _Chapter3

学習指導要領

<819A C976D91E58D918DDB934E8A778CA48B86328D B95B62E6D6364>

ついてる第一の理由です 白金チャペル C URRICULUM キ明治学院大学は ヘボン博士をはじめ 幕末から明治時代にかけて来日した多くの宣教師たちの熱心な祈りと 努力によってその礎 が作られました 宣教師たちは 日本人と日本の将来のために キ リスト教の精神を根本に据えた高等教育機関で 神に仕え

< F2D91E63889F181408F408BB393498FDB92A582C68F408BB38CBE>

  第八章 歴史論

Try*・[

神学総合演習・聖霊降臨後最終主日                  2005/11/16

Try*・[

国際哲学6.indd

Taro-3.アウグスティヌス

Ⅱ. 神の恵みの意味 1. キリストの 知恵 と 力 キリスト教のあらゆる啓示は, 人間は自分では人生の真の意味を成就させることができないことを明らかにしている. 聖書の中では, キリストを通してのみ 知恵 と 力 が人間にも可能になり, 人生の意味が明らかにされるばかりでなく, その意味を成就する

のである 次に 市民社会における労働も抽象化 さらに普遍化する 欲求の抽象化に応じて 労働も抽象化し 労働の抽象化は分業をもたらすことによって 労働の技能と生産量を増大することができ 人間の依存関係と相互関係を完成することになるのである さらに ヘーゲルの有名な労働教養説を提出する ヘーゲルは市民社

第一課程古代ギリシアにおける哲学の誕生 学習指導 第一節知の原初的形態としてのミュトス プロメテウスとエピメテウス この節のポイント さきちあとち人間の知が先知 ( プロメテウス ) と後知 ( エピメテウス ) の組み合わせによって成り立つことと そうしたわざわい成り立ちによって 人間の知が虚偽と

ゆめ基金.indd

O-27567

Microsoft Word - 世界史 第036講~第045講 テキスト

< F2D EE888F8288FA48BC E6A7464>

「改訂版 世界史A(世A019)」教科書シラバス案

人間文化総合講義 『1Q84』を哲学する!

名古屋文理大学紀要第 13 号 (2013) キリスト教神学における歴史認識 - ラインホールド ニーバーによる正義の捉え方 - Views on History in Christian Theology Reinhold Niebuhr s Perspective about Justice 佐

2017 年 7 月 2 日 ( 日 ) 3 日 ( 月 ) 1 回 ヘブル人への手紙のテーマ ヘブル人への手紙のテーマ ヘブル 1:1~3 1. はじめに (1) 著者 1いくつかの名が上げられてきた * パウロ * ルカ ( パウロがヘブル語で書いたものを ルカがギリシア語に翻訳した ) * バ

1

Microsoft PowerPoint - M1001_1_ ppt [互換モード]

アメリカの歴史 テーマで読む多文化社会の夢と現実 有賀夏樹著 有斐閣 2003UA0138 京免理恵 第 12 章 : アメリカ人への誘惑 アメリカ人 はいつ誕生したか アメリカ建国の起源だといわれる 1776 年の独立宣言と同時に アメリカ人 という国民が生まれるのであれば悩むことはない しかし

Taro-0.オリエンテーション+導入a

Taro-8.中世キリスト教世界のダ


Microsoft Word - aglo00003.学力の三要素

Taro-自然神学とコミュニケーショ

学習指導要領

AAAGames AAAGames AAAGames AAAGames Games as Design of Actions An Attempt to Redefine Games and Play

<96DA8E9F2E6169>

5. 政治経済学部 ( 政治行政学科 経済経営学科 ) (1) 学部学科の特色政治経済学部は 政治 経済の各分野を広く俯瞰し 各分野における豊かな専門的知識 理論に裏打ちされた実学的 実践的視点を育成する ことを教育の目標としており 政治 経済の各分野を広く見渡す視点 そして 実践につながる知識理論

2017 年 10 月 8 日 ( 日 ) 9 日 ( 月 ) 15 回さらにすぐれた契約 さらにすぐれた契約 ヘブル 8:1~13 1. はじめに (1) この手紙が書かれた理由を再確認する 1 信仰が後退しつつあった第 2 世代のメシアニック ジューたちへの励まし (2) ユダヤ教の 3 つの柱

創世記5 創世記2章4節b~25

目次 はじめに 1. 通信に関する適切な立法権限の行使の必要性 2. グローバル プラットフォームの影響力拡大と空間のシームレス化 3. 個人の自律とプライバシー 4. 表現の自由 5 規制のあり方に関する諸問題 2


Microsoft PowerPoint - 13economics5_2.pptx

2018 年 5 月 27 日 ( 日 ) 28 日 ( 月 ) 14 回 ペテロの第 2 のメッセージ (2) ペテロの第 2 のメッセージ (2) 使徒 3:17~26 1. はじめに (1) ペンテコステの日に教会が誕生した 1ペテロの第 1 回目のメッセージにより 3,000 人ほどの人たち

平成27年度第2回高等学校卒業程度認定試験問題(世界史A)

2012 年 1 月 22 日 ( 日 ) 23 日 ( 月 )54 ローマ人への手紙 15:4~13 希望から希望へ 1. はじめに (1) 文脈の確認 11~8 章が教理 29~11 章がイスラエルの救い 312~16 章が適用 (2)14:1~15:13 は 雑多な問題を扱っている 1 超道徳

第 2 問 歴史上, 政治権力にとって宗教をどう扱うかは統治における重要な問題であり, 世界各地の政治権力は宗教に対してさまざまな政策を実施してきた 世界各地の政治権力の宗教政策に関する以下の設問に答えなさい 解答は, 解答欄 ( ロ ) を用い, 設問ごとに行を改め, 冒頭に⑴~⑶の番号を付して記

2011 年 07 月 17 日 ( 日 ) 18 日 ( 月 )29 ローマ人への手紙 8:12~17 聖化の力 ( 聖霊 )(3) 養子の霊 1. はじめに (1) 聖化 に関する 8 回目の学びである 最終回 1 最大の悲劇は 律法を行うことによって聖化を達成しようとすること 2この理解は ク

授業概要と課題 第 1 回 オリエンテェーション 授業内容の説明と予定 指定された幼児さんびか 聖書絵本について事後学習する 第 2 回 宗教教育について 宗教と教育の関係を考える 次回の授業内容を事前学習し 聖書劇で扱う絵本を選択する 第 3 回 キリスト教保育とは 1 キリスト教保育の理念と目的

205 年度年間授業計画社会 世界史 B( 理型 ) 学年 2 年 東京書籍 新選世界史 B 単位数 4 単位 帝国書院 明解世界史図説エスカリエ 学習目標学習方法 世界の歴史の大きな枠組みと流れを踏まえ ヨーロッパとアジアの近現代を中心に 日本の歴史や現代の諸課題と関連付けながら理解し 歴史の発展

第 三 回

神性と人性の"混ざり合い(mingling)"


Microsoft Word - keiei04.doc

PowerPoint プレゼンテーション

Transcription:

2008 年度 キリスト教学講義中世キリスト教と科学 Ⅱ キリスト教思想史の諸問題 < 前回 > キリスト教神学の成立とその諸問題 1. 宗教運動から制度的宗教 教会へ ( パウロの位置 ) 2. 制度化の必然性と問題点 制度批判 = 反動 異端運動一定の硬直化をよぎなくされる ( 形式主義 官僚性 ) 平等主義の後退 階層制度 ( ヒエラルキー ) 3. 迫害 :66( ネロ帝 ) 95 頃 ( ドミティアヌス帝 ) 249( デキウス帝 ) 303( ディオクレティアヌス帝 ) キリスト教の制度化は着実に進行 正統教会への道 古代地中海世界の都市の文化状況への適合 都市型宗教としてのキリスト教 4. キリスト教迫害 ( ユダヤ教とローマ帝国からの ) への対応 (1) 弁明 ( 弁証 ) キリスト教思想の形成 学問としてのキリスト教神学の成立キリスト教の弁証と議論の基盤としての自然神学 (2) 国家批判 : ローマ帝国 =サタンの王国 5. キリスト教の公認と国教化 313: ミラノ勅令 ( コンスタンティヌス大帝 ) 325: ニケア公会議 381: コンスタンティノポリス公会議 392: 国教 ( テオドシウス帝 ) 6. 政治的秩序と宗教的秩序の相補性 国家神学 政治神学としてのキリスト教神学ストアの神学体系 ( 神話 民衆神学 ポリス 国家神学 自然 哲学的神学 ) と新しい神学類型としてのキリスト教神学 ( キリスト論あるいは三位一体論 ) 7. 絶対平和主義 ( 軍隊の宗教性 ) から正戦論 ( アウグスティヌス ) へ そして聖戦論へ 第 3 講 中世キリスト教と宗教改革 1 自然神学と 12 世紀ルネサンス (1) 中世社会の構造と動態 1. 西欧中世と時代区分ドウソン : 起源の時代 (~5 世紀 ) 発展の時代(5~10 世紀 ) 開化の時代 (10 世紀 ~) 時代区分とは 基本的に研究者 解釈者が設定する視点に依存したものであり 客観的な線引きが必ずしも可能なわけではない たとえば アウグスティヌスは古代末期と中世初期のいずれにも位置付けうるし またルターは中世末期あるいは近代初期のいずれに属するとの説も可能である 2. 中世社会の力学 : 教会と国王 都市と農村 キリスト教とイスラーム中世という時代は 1000 年を超える キリスト教史でもっとも長い時代であるが -1-

決して単調な停滞した時代ではない むしろ 実態は逆であり そこには様々なレベルにおいてダイナミックな動きが存在している ( 中世は面白い ) このダイナミズムを動かしている要因として 政治と経済における内的要因と 外的要因を挙げることができる 内的要因 : 教会と国王 ( 政治的要因 国教化体制内部での変動要因 ) 都市と農村 ( 経済的要因 都市のキリスト教と周辺に存在する異教的要素 ) 外的要因 : イスラム世界との関わり 3. キリスト教のダイナミズム古代に始まった制度化は 徹底的平等主義や絶対平和思想の後退をもたらしたが しかし イエス運動の宗教理念は作用し続けている ここにキリスト教世界の基本的なダイナミズムが成立する 4. 中世社会の変動と新しい宗教性の展開 農業革命 都市の発展中世世界においては 10 世紀頃までには農業技術の伸展などによって ( そして 気候の温暖化 ) 農業生産は大きく増大した 農業生産の増加は 余剰農産物の流通を促し これにさらに地方の特産物の登場によって 農産品取引の活性化をもたらした この商業の発展は その活動の拠点となる中世都市の隆盛を帰結する 都市民衆の宗教性都市は古代以来 キリスト教が発展する主要な場となってきたが 同時に都市は 人 物 情報の集積 交換の拠点であることから 新しい文化活動 思想の舞台となる ( 中世の大学 ) その新しい思想動向には 経済的な豊かさと時間的ゆとりを背景に主体的な精神文化を要求する都市住民が存在し 都市民衆の求める宗教文化の中には 伝統的なキリスト教から見て 異端的と判断されるものも少なからず見いだされることになった 異端的民衆運動と教会の対応都市における異端的思想は 周辺の農村や封建領主をも巻き込むようになると しばしば巨大な異端運動に発展することになり その鎮圧のために十字軍が出動することにもなった ( アルビジョア十字軍 ) 教会は 都市の発展がもたらした新しい宗教性の展開に対応するために 新しい修道院運動 ( ドミニコ会 フランシスコ会 ) を公認するようになる 5. 中世科学の発展 : 中世は暗黒時代ではない古代ギリシャの自然学 ( 古代科学 ) は ゲルマンの民族移動や西ローマ帝国の滅亡に伴った混乱期において 東ローマ帝国 そしてペルシャ帝国へと受け継がれ イスラーム世界において大きく発展することになる この当時の最先端の科学であったイスラーム科学がイスラームとキリスト教世界の接点となった地域 ( イベリア半島など 平和的共存と軍事的接触 ) などを介して中世ヨーロッパ世界にもたらさせることによって 中世における 12 世紀ルネサンス が開花した ( イスラームの科学文献の翻訳拠点としてのイタリアやスペインの修道会 ) 13 世紀になると 大学 ( たとえば パリとオックスフォード ) を拠点に独自の中世科学が展開し 後の近代の科学革命の基盤となる この時期 キリスト教は科学の積極的な担い手であった -2-

(2) 自然神学と知の宇宙としての大学 6. キリスト教と文化 の関係についての類型論( ヘルムート R ニーバー ) キリスト教と世俗文化との関係性をめぐっては これまで多くの議論がなされてきたが ニーバーの類型論はその古典的な研究といえる 断絶 対立 / 連続性 / 中間 ( 差異を前提とした関係付け 階層性 緊張 回心 変革 ) 中世世界は 階層性によるキリスト教と文化との統合 ( スコラ的な文化総合 ) を生み出し こうして成立した階層秩序は 1000 年間を超える中世世界の安定性をもたらした 7. スコラ的な文化総合階層的秩序 : 自然と超自然の区別と調和 一般的な日常性の倫理 ( 世俗的価値と妥協 ) とキリスト教的純粋な倫理性との二重構造 キリスト教超自然 恩恵 啓示 修道院的全体秩序 ( キリスト教世界 ) 自然 世俗文化 一般的な日常性 8. 二つの書物 啓示神学と自然神学神についての知識の獲得に関わる二つの道神の啓示 とくに聖書テキストに基づく神学 = 啓示神学人間の自然的理性 ( 理性本性 ) の能力による神認識 = 自然神学創造論 世界は神の被造物 その中には人間理性が理解可能な合理的な秩序 法則が存在する ( 知恵思想 ) 科学的探究は神の偉大な創造行為を讃美する宗教的に意義ある行為 ( 以下引用の詩編 19 編を参照 ) 類比 ( アナロギア ) の論理 : 作品から作者への推論神 : 人間 = 父 : 子 神 =( 人間 父 ) 子 9. 無神論者も異教徒も 神の律法の知識に制約されている ( 知らなかったから罪はない との理屈は通用しない ) 世界が造られたときから 目に見えない神の性質 つまり神の永遠の力と神性は被造物において現れており これを通して神について知ることができます 従って 彼らには弁解の余地がありません ( ローマの信徒への手紙 1.20) 10. 自然神学 : 世界の秩序の探求から神へ (1) 前提 : 古代ギリシャの自然学と哲学的神学 旧約聖書の創造論と知恵思想ヘレニズム的ユダヤ教 : 無からの創造 の背景 (2) 神の存在論証 (a) 存在論的類型 : アンセルムス デカルト ヘーゲル無限者の観念の存在から 神の現実存在を論証する (b) 宇宙論的類型 : トマス (5つの道) ニュートン 人間原理 -3-

経験的事実から神へ( 因果律 目的論 ) 運動 変化の存在/ 原因 結果 の連鎖 / 第一原因 これを神と呼ぶ 11. 中世の統一的な知の世界 ( 神の創造した合理性の客観化 ) 神学 ( 啓示神学 )/ 神学 ( 自然神学 )/ 哲学 / 自然学 諸科学自然神学は 人間の理性的営みの対象である諸科学と 啓示に基づくキリスト教神学とを合理的な推論によって架橋するものであり これが媒介項となって 諸科学は一つの知的世界を構成することになる ここに中世における 大学 の理念が成立した < 詩編 19 編 > 1 指揮者によって 賛歌 ダビデの詩 2 天は神の栄光を物語り / 大空は御手の業を示す 3 昼は昼に語り伝え / 夜は夜に知識を送る 4 話すことも 語ることもなく / 声は聞こえなくても 5 その響きは全地に / その言葉は世界の果てに向かう そこに 神は太陽の幕屋を設けられた (3) 歴史的思惟の形成自然神学とそれが支える統一的な知的宇宙は 中世のスコラ的な文化統合の実例であるとともに 中世社会の構造を映し出したものと解することができる しかし 構造的な安定性に優れた中世世界も よい大きなマクロレベルの変動の中にあったと言わねばならない こうした歴史のマクロな動向に関しても 中世の思想世界は独特の思想を生み出した とくに 近代以降の歴史哲学への影響において特筆すべきは フィオーレのヨアキム (1130 頃 ~ 1202) の歴史論である 12. 聖書解釈から歴史理論へ三位一体論 : 内在的 経綸的 歴史的 神が歴史を支配する 聖書がそれを語っている三位一体という内的構造を有する神は 歴史を支配する神 ( 摂理と予定 ) であると解されているが その神の歴史支配 ( 神の経綸 ) は 神の内的構造を反映し それと同型であると考えることができる こうして 歴史のプロセスが三位一体的な構造を持つという歴史理解が帰結し それを聖書の歴史記述から再構成することが試みられた 13. ヨアキムの歴史解釈とその射程 父の時代/ 子の時代 / 聖霊の時代という三段階で歴史は進展する 三つの時代の相互内在 歴史の弁証法歴史プロセスは単純な時代区分によって区切られる諸段階からなるのではない 前の段階は次の段階への萌芽を含み また前の段階は次の段階の中にまで入り込むという いわばオーバーラップ部分によって相互に重なり合った諸段階となる 古代末期には中世初期であり 中世末期は近代初期である 古代の影響は中世を -4-

超えて近代内部にも作用する これは ヘーゲルやマルクスの歴史理論 ( 弁証法 ) に受け継がれていると言える 未来としての聖霊の時代ヨアキムは 自らの生きた時代を 子の時代から聖霊の時代への移行が顕在化する時代であると述べたが これは 子の時代の担い手である教会から 新しい時代の担い手である修道会への移行をも含意するものであり 現時点での教会的秩序 ( 国教会的体制 ) が終わりを告げ 新しい歴史的秩序が始まるという革新的な歴史理解として解釈できる 14. 黙示的終末論の再興千年王国論のインパクト 農民戦争から近代の革命思想へ < 参考文献 > 1.C ドウソン 中世のキリスト教と文化 新泉社 2.E ジルソン 中世哲学の精神 上下 筑摩書房 3. 稲垣良典編 教養の源泉をたずねて 創文社 4. 今野國雄 修道院 祈り 禁欲 労働の源流 岩波新書 5. 堀米庸三 正統と異端 ヨーロッパ精神の底流 中公新書 6. 伊東俊太郎 近代科学の源流 中央公論社 一二世紀ルネサンス 西欧世界へのアラビア文明の影響 岩波書店 7. ヘルムート H ニーバー キリストと文化 新教出版社 8. 芦名定道 小原克博 キリスト教と現代 終末思想の歴史的展開 世界思想社 -5-