消化器センター

Similar documents
外来在宅化学療法の実際

1)表紙14年v0

頭頚部がん1部[ ].indd

胃がんの内視鏡的治療 ( 切除 ) とは胃カメラを使ってがんを切除する方法です. 消化器内科 胃がん 治癒 胃がん切除

Microsoft Word - 食道癌ホームページ用.doc

untitled

医療連携ノートとは 手術などの治療を行った病院とかかりつけ医が協力して ( 医療連携 ) 専門的医療と総合的な診療を適切に提供するために使用する患者さん用のノートです 安全で質の高い医療を切れ目なく提供するため 専門医が協力して新潟県共通のものを作成しました 医療連携ノートの内容 1 患者さんの病状

Microsoft PowerPoint - 印刷用 DR.松浦寛 K-net配布資料.ppt [互換モード]

遠隔転移 M0: 領域リンパ節以外の転移を認めない M1: 領域リンパ節以外の転移を認める 病期 (Stage) 胃がんの治療について胃がんの治療は 病期によって異なります 胃癌治療ガイドラインによる日常診療で推奨される治療選択アルゴリズム (2014 年日本胃癌学会編 : 胃癌治療ガイドライン第

食道癌手術さて 食道は文字どおり口 咽頭から胃まで をつなぐ管状の器官でまさに食物を運ぶ道です そして縦隔と呼ばれる背骨の前方の狭い領域にあり 大動脈 心臓そして気管などと密に接しています さらに 気管とは私たちの身体が構成される過程で同じところから発生し 非常に密な関係にあります さらに発生の当初

PowerPoint プレゼンテーション

平成 29 年度九段坂病院病院指標 年齢階級別退院患者数 年代 10 代未満 10 代 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 70 代 80 代 90 代以上 総計 平成 29 年度 ,034 平成 28 年度 -

「             」  説明および同意書

がん登録実務について

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

indd

<4D F736F F D208FC189BB8AED93E089C85F B CF8AB E646F63>

基礎知識 1. 食道について 食道は のど ( 咽頭 ) と胃の間をつなぐ管状の臓器で 部位によって 頸部食道 胸部食道 腹部食道と呼ばれています ( 図 1 左 ) 食道は体の中心部にあり 気管 心臓 大動脈や肺などの臓器や背骨に囲まれています 食道の周囲にはリンパ節があります 食道の壁は 内側か

PowerPoint プレゼンテーション

< E082AA82F1936F985E8F578C768C8B89CA816989FC92F994C5816A2E786C73>

限局性前立腺がんとは がんが前立腺内にのみ存在するものをいい 周辺組織やリンパ節への局所進展あるいは骨や肺などに遠隔転移があるものは当てはまりません がんの治療において 放射線療法は治療選択肢の1つですが 従来から行われてきた放射線外部照射では周辺臓器への障害を考えると がんを根治する ( 手術と同

3. 胃がんの診断について胃透視や上部消化管内視鏡検査により病変を検出するとともに病変の範囲や深さを詳細に観察し 内視鏡検査で採取します生検標本を病理組織学的に診断します 拡大内視鏡検査によりさらに詳細に観察したり 超音波内視鏡検査により病変の深さを観察します また 腹部超音波検査や CT 検査など

H26大腸がん

5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

< E082AA82F1936F985E8F578C768C8B89CA816989FC92F994C5816A2E786C73>

最終解析と総括報告書

PowerPoint プレゼンテーション

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れが見えると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください がんの疑い 体調がおかしいな と思ったまま ほうっておかないでください

Microsoft Word - 03 大腸がんパス(H30.6更新).doc

2. 予定術式とその内容 予定術式 : 腹腔鏡補助下幽門側胃切除術 手術の内容 あなたの癌は胃の出口に近いところにあるため 充分に切除するためには十 二指腸の一部を含め胃の 2/3 もしくは 3/4 をとる必要があります 手術は全身麻酔 (+ 硬膜外麻酔 ) の下に行います 上腹部に約 25cm の

この PDF では 大腸がんの治療方針を考えるお手伝いをします 大腸がんの治療法には 主に内視鏡的治療 外科療法 放射線療法 化学療法があります が 可能となる治療選択肢は がんの状態やあなた自身の状態によって変わります あなたのご自身の状態を知ることは大切です 不明なことは医師に相談しましょう 2

1. 来院経路別件数 非紹介 30 他疾患経過 10 自主受診観察 紹介 20 他施設紹介 合計 患者数 割合 12.1% 15.7% 72.2% 100.0% 27.8% 72.2% 100.0% 来院経路別がん登録患者数 がん患者がどのような経路によって自施設を受診し

院内がん登録集計報告

第13回がん政策サミット 2016秋

<303491E592B BC92B08AE02E786C73>

腹腔鏡下前立腺全摘除術について

2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

4 月 20 日 2 胃癌の内視鏡診断と治療 GIO: 胃癌の内視鏡診断と内視鏡治療について理解する SBO: 1. 胃癌の肉眼的分類を列記できる 2. 胃癌の内視鏡的診断を説明できる 3. 内視鏡治療の適応基準とその根拠を理解する 4. 内視鏡治療の方法 合併症を理解する 4 月 27 日 1 胃

094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

< A815B B83578D E9197BF5F906697C38B40945C F92F18B9F91CC90A72E786C73>

虎ノ門医学セミナー

スライド 1

原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ


Microsoft PowerPoint - 広畑病院市民公開講座(WIN).pptx

1 早期癌 表在癌の病態 食道癌は消化器癌の中でも予後不良の癌の代表であったが診断および集学的治療の進歩により予後が向上してきた. 特に早期癌の状態で発見できれば, その予後は大いに期待できるのみならず, 標準治療であるリンパ節郭清を伴う胸部食道切除に比し, 身体への侵襲が極めて小さい内視鏡的治療に

Vol 夏号 最先端の腹腔鏡下手術を本格導入 東海中央病院では 平成25年1月から 胃癌 大腸癌に対する腹腔鏡下手術を本格導入しており 術後の合併症もなく 早期の退院が可能となっています 4月からは 内視鏡外科技術認定資格を有する 日比健志消化器外科部長が赴任し 通常の腹腔 鏡下手術に

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 の相対生存率は 1998 年以降やや向上した 日本で

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

70 頭頸部放射線療法 放射線化学療法

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

1. はじめに ステージティーエスワンこの文書は Stage Ⅲ 治癒切除胃癌症例における TS-1 術後補助化学療法の予後 予測因子および副作用発現の危険因子についての探索的研究 (JACCRO GC-07AR) という臨床研究について説明したものです この文書と私の説明のな かで わかりにくいと

Microsoft PowerPoint - Ppt ppt[読み取り専用]

スライド 1

巽病院で大腸癌 巽病院で大腸癌手術をお受けになる方に 大腸癌手術をお受けになる方に 巽病院では,患者さんの人権を尊重し,患者さんにご満足頂け,喜んで退院して頂け るような治療を目指しています 手術前には十分な説明をし,ご納得頂いた上で,最も 良いと思われる治療法を選択して頂くことにしております 大腸

がん治療の現状

消化性潰瘍(扉ページ)

D961H は AstraZeneca R&D Mӧlndal( スウェーデン ) において開発された オメプラゾールの一方の光学異性体 (S- 体 ) のみを含有するプロトンポンプ阻害剤である ネキシウム (D961H の日本における販売名 ) 錠 20 mg 及び 40 mg は を対象として

性黒色腫は本邦に比べてかなり高く たとえばオーストラリアでは悪性黒色腫の発生率は日本の 100 倍といわれており 親戚に一人は悪性黒色腫がいるくらい身近な癌といわれています このあと皮膚癌の中でも比較的発生頻度の高い基底細胞癌 有棘細胞癌 ボーエン病 悪性黒色腫について本邦の統計データを詳しく紹介し

患者必携 がんになったら手にとるガイド 編著 国立がん研究センターがん対策情報センター 発行 学研メディカル秀潤社 患者必携 食道がんの療養情報 食道がんの治療ではまず手術が検討されますが 放射線治療と薬物療法 抗がん剤 治療 を組み合わせた治療が行われることもあります 担当医とよく話し合いましょう

Microsoft PowerPoint - __________________________ ppt

病気のはなし46_1版7刷.indd

Microsoft Word - r-胃がんKCC3.doc

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

したことによると考えられています 4. ピロリ菌の検査法ピロリ菌の検査法にはいくつかの種類があり 内視鏡を使うものとそうでないものに大きく分けられます 前者は 内視鏡を使って胃の組織を採取し それを材料にしてピロリ菌の有無を調べます 胃粘膜組織を顕微鏡で見てピロリ菌を探す方法 ( 鏡検法 ) 先に述

膵臓癌について

1. 部位別登録数年次推移 表は 部位別に登録数の推移を示しました 2015 年の登録数は 1294 件であり 2014 年と比較して 96 件増加しました 部位別の登録数は 多い順に大腸 前立腺 胃 膀胱 肺となりました また 増加件数が多い順に 皮膚で 24 件の増加 次いで膀胱 23 件の増加

NCCN2010.xls

大腸ESD/EMRガイドライン 第56巻04号1598頁

大腸ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を受けられる患者さんへ

<4D F736F F F696E74202D208E7396AF835A837E B814088DD82AA82F1975C966882C68C9F D838A8BDB82C682CC90ED82A >

患者 ID: 氏名 : ピロリ菌外来説明文書 1. ピロリ菌はいつ誰によって発見されたのでしょうかピロリ菌はオーストラリアのウォレンとマーシャルによって 1983 年ヒトの胃の中から発見されました その後 ピロリ菌がヒトの胃に与える様々な影響が解明

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

食道がん

6 月 25 日胸腺腫 胸腺がん患者の情報交換会 & 勉強会質疑 応答 奥村教授にお聞きしたいこと 奥村教授の話 1 特徴 (1) 胸腺腫 胸腺がん カルチノイドの違いについて 胸腺腫はがんの種類か 病理学的には胸腺腫はがんではなくて正常と区別つかず機能を残したまま腫瘍化したもの 一部 転移するもの

cm 以上の腫瘍では悪性化していることも考慮する必要があります ただし 良性腫瘍でも長期間放置すれば大きくなりますので サイズが大きいからと言って悪性とは限りません 成長速度: 悪性度の高い腫瘍では 大きくなるスピードが速くなります 腫瘍がいつからあったか 最近はどのくらいのスピードで大きくなってき


<4D F736F F D208CE38AFA97D58FB08CA48F438C7689E681698CE088E397C3835A E815B816A2E646F63>

          

腹腔鏡手術について 〜どんな手術かお話いたします

がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください

表 1. 罹患数, 罹患割合 (%), 粗罹患率, 年齢調整罹患率および累積罹患率 ; 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く ; 部位別, 性別 B. 上皮内がんを含む 表 2. 年齢階級別罹患数, 罹患割合 (%); 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く B. 上皮内がんを含む 表 3. 年齢

がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください

乳がん術後連携パス

スライド 1

<955C8E862E657073>

Microsoft PowerPoint - 大腸癌説明同意文書改訂版.ppt

TOHOKU UNIVERSITY HOSPITAL 今回はすこし長文です このミニコラムを読んでいただいているみなさんにとって 救命救急センターは 文字どおり 命 を救うところ という印象が強いことと思います もちろん われわれ救急医と看護師は 患者さんの救命を第一に考え どんな絶望の状況でも 他

<4D F736F F F696E74202D2088F38DFC B2D6E FA8ECB90FC8EA197C C93E0292E B8CDD8AB B83685D>

乳癌かな?!と思ったら


消化器がんの術式と栄養管理の実践講座_食道がん_第1回

PowerPoint プレゼンテーション

< 高知県立幡多けんみん病院 年院内がん登録 ( 詳細 )> 性 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 9~ 総計件数比率 口腔 咽頭食道胃結腸直腸肝臓胆嚢 胆管膵臓喉頭肺骨 軟部皮膚乳房子宮頸部子宮体部卵巣前立腺膀胱腎 他の尿路 女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男

Yonago Medical Center Magazine ARCUS #20 May 2018

当院外科における 大腸癌治療の現況

1. ウイルス性肝炎とは ウイルス性肝炎とは 肝炎ウイルスに感染して 肝臓の細胞が壊れていく病気です ウイルスの中で特に肝臓に感染して肝臓の病気を起こすウイルスを肝炎ウイルスとよび 主な肝炎ウイルスには A 型 B 型 C 型 D 型 E 型の 5 種類があります これらのウイルスに感染すると肝細胞


内視鏡検査のご案内

Transcription:

食道 Esophagus 食道グループでは 食道がん内視鏡及び外科治療を中心に取り組んでいます 食道がんは 消化器がんの中でも 比較的早い段階でリンパ節や肝臓や肺などの遠隔転移を認め また 周囲には大血管などの重要な臓器に浸潤しやすく 消化器がんの中でも難治のがんです 食道がんの内視鏡的治療 外科治療も日々進歩しており 化学療法 放射線治療 医療スタッフの積極的な関与による集学的治療 チーム医療を推進し 食道がんの根治を目指しています 主な治療対象疾患良性疾患 逆流性食道炎 食道裂孔ヘルニア 悪性疾患食道がん 1

食道がん 食道がんとは 食道がんは 男性で 60-70 歳代が多く 患者さんの数は男性でゆるやかに増加傾向にあります 比較的早い段階でリンパ節や肝臓や肺などの遠隔転移をしたり また 隣接する胸部大動脈などの重要臓器に浸潤したりと消化器領域では難治のがんの 1 つと言えます 食道がん発生の危険因子として飲酒や喫煙が挙げられ 近年 逆流性食道炎による下部食道の持続的な炎症により発生するバレット上皮に関連した食道腺癌 ( バレット食道腺癌 ) の発生が注目されています 時間が経過した後に複数の食道がんが発生することも特徴ですので 治療後も専門の医療機関での定期的な経過観察が大切です 食道がんの診断 食道がんの診断は 1 問診および視 触診 2 超音波検査 ( 腹部および頸部 )3CT,MRI 検査 4 超音波内視鏡 5FDG-PET 検査 6 骨シンチグラフィーなどの検査を行い 総合的に診断されます まず 食道がんは初期の段階では症状がでにくいという特徴があります 最も多く現れる症状が 食べ物や飲み物を飲み込んだ時に 胸がしみる 胸がやける感じといった症状ですが 初期の段階では自覚症状はほとんどありません 診断のファーストステップは 内視鏡検査での病変の確認です 進行度診断は 一般的に CT 検査が使用され 腫瘍の壁深達度診断 リンパ節転移の有無 遠隔転移の有無が診断可能です 進行度診断に加え 悪性度の把握および全身状態の評価を踏まえ治療方針を決定します 食道がんの治療 食道がんの治療は 内視鏡治療や外科手術に加え 化学療法や放射線治療などいろいろな治療を組み合わせて行う集学的な治療が行われます 粘膜の極表面にある段階 ( 転移が稀な段階 ) であれば上部消化管内視鏡 ( 胃カメラ ) を用いた治療 ( 内視鏡治療 ) が一般的です 理想的な内視鏡治療は病変を安全に一塊で切除すること ( 一括切除 ) ですが 近年はそれを高率に実現できる内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD) で治療することがほとんどになりました 粘膜より深く浸潤している場合など内視鏡でがんを切除しきれない場合やリンパ節への転移が疑われる場合は手術が必要です 手術の前後に放射線や化学療法を行う場合もあります また 治療後は 時間をおいて別の場所に食道がんができる ( 異時性発生 ) 場合もあるので 術後も専門医による厳重な経過観察が大切です 食道がんに対する内視鏡的治療 がんの深達度が粘膜までの早期の段階の病変に対し 内視鏡的切除術 (endoscopic resection: ER) を行います 内視鏡的切除術の中には 病変粘膜を把持しスネアにより切除を行う内視鏡的粘膜切除術 (endoscopic mucosal resection; EMR) と IT ナイフ Hook ナイフと言われる広範囲の病変が一括切除できる内視鏡的粘膜下層剥離術 (endoscopic submucosal dissection: ESD) という方法があります 早期の段階の食道がんは リンパ節転移はまれですので 内視鏡治療で根治できます しかし がんの浸潤の程度の評価には限界があるため 内視鏡治療後の病理検査結果で 粘膜より深く浸潤していたり リンパ管や静脈への進展が疑われる場合は 手術を含めた追加の治療が必要になることがあります 食道表在がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD) の実際 1. 上部食道の食道表在がん がんの部分は ヨードという色素に染まっていない白い隆起部分 ( ) 2

2. 食道がんの周囲の正常粘膜にマーキングを行う 3. 目印の外側を切開して食道表在がんの下側 ( 粘膜下層 ) を剥離 4. 食道がんの切除終了後 5. 切除した食道がん組織食道がんは遺残なく的確に切除されている 3

外科治療 食道がんは 消化器癌の中でも胃がんや大腸がんと比べると治りにくい癌といわれています 早期の粘膜がんであれば内視鏡的切除で治療を行いますが 比較的早期からリンパ節転移を起こしやすく また周囲への広がりが早いため 治すには手術療法 放射線療法 化学療法 ( 抗がん剤治療 ) を組み合わせて治療を行う ( 集学的治療 ) 必要があります ほかの消化器がんと比較すると 放射線治療や化学療法が効きやすいことも食道がんの特徴で これらの治療で治ることもありますが がんをすべて取り切るという点で治療の中心は手術療法といえます 食道がんの手術の基本は がんがある胸の中の食道 ( 胸部食道 ) のほとんどと胃の一部を切除し 残った胃を管状にして頚部まで持ち上げ 頚部の食道と吻合します また 頚部 胸部 腹部のリンパ節郭清も行います 胸部 腹部 頚部の 3 か所を切開することが必要で 消化器外科手術の中でも患者さんに与えるストレス ( 侵襲 ) が大きな手術になります そのため 合併症が起きる頻度も高く 手術の危険性も高いことが問題とされています 最近は 術前 術後の管理が進歩し また手術方法 技術の発展により治療成績はかなり向上しています 具体的には侵襲を少なくするための薬剤の使用や 胸腔鏡あるいは腹腔鏡を併用することにより 創部を小さくする工夫などが試みられています 治療戦略は 食道がんの進行度により異なります Stage I は手術が第一選択となりますが Stage II/III は術前抗がん剤治療を行うことが多くなりました 以前は リンパ節転移がなければ 手術を第一選択にしていましたが 臨床試験 (JCOG9907) の結果より Stage II/III は抗がん剤治療を先行したほうが良いことが分かっています Stage IV は 放射線治療と化学療法を組み合わせた治療の適応となります 胸腔鏡手術の適応は 周辺臓器への直接浸潤がなく 高度な肺機能障害や癒着がない症例で 合併症を少なくする方法として注目されています 当院における胸腔鏡併用食道がん手術の成績を示します 胸腔鏡手術を導入した平成 13 年 12 月以降 平成 29 年 3 月まで 87 例に手術を行っています 年齢は 42 歳 -84 歳 ( 中央値 65 歳 ) で 平均手術時間は 7 時間 46 分でした 腹腔鏡を併用した症例は 74 例で 併用しなかった症例は胃切除後のため大腸による再建が必要な場合や開腹既往にて高度な腹部癒着がある症例でした 進行度は Stage O 10 例 I 12 例 II 28 例 III 28 例 IV 7 例で 術前化学療法を行った症例は 19 例 21.8% でした 術後人工呼吸管理を行った症例は 41 例 47.1% で 平成 21 年以降 予防的な人工呼吸管理は行っていません 術後合併症ですが 何らかの侵襲的な治療が必要となった重症な合併症 (Clavien-Dindo 分類 III 以上 ) を示します 全合併症の発生率は 39.1% でした 縫合不全が最も多く 18.4% 創感染 13.8% 肺炎 12.6% 反回神経麻痺 11.5% 吻合部狭窄 4.6% 臓器不全 4.5% でした 手術関連死亡は 3 例 3.4% で その原因は肺炎でした 縫合不全が若干多い様ですが 再建経路を現在の後縦郭に変更して以降は 46 例中 6 例 13.0% に減少しており 概ね標準的な結果と思われます 5 年生存率ですが 全体でみると他病死を含む全生存率が 42% 他病死を含まない食道癌特異的生存率が 54% でした 進行度別に食道癌特異的生存率をみると Stage O 100% I 88% II 46% III 37% IV 0% でした Stage II/III がやや不良ですが 古い症例が多く含まれているため術前化学療法施行率が 26.8% と少なく 現在は改善していると思われます 合併症重症 (Clavien-Dindo III 以上 ) 例 患者さんの数 ( 全 46 人中 ) 4 発生数 縫合不全 16 人 18.4 % 創感染 12 人 13.8 % 肺炎 11 人 12.6 %

反回神経麻痺 10 人 11.5 % 吻合部狭窄 4 人 4.6 % 臓器不全 4 人 4.6 % 手術関連死亡 3 人 3.4 % 全合併症 34 人 39.1 % 化学療法 化学放射線療法 手術の前に病変の縮小を期待して行う術前化学療法は 一部の食道がん ( 切除可能な StageⅡ Ⅲ 胸部食道がん ) ではその有効性が科学的に証明されており 標準的治療として位置付けられています 手術後 がんの再発 予防を目的に行う術後補助療法については 術後化学療法を行うことで再発予防効果が認められています 食道がんは放射線が効きやすいがんの 1 つですが 放射線治療は がんを残さず切除できない場合 ( 非治癒切除例 ) や術後に局所に再発した例に対する治療法として施行されています 食道がんの外科治療の安全性向上のために 食道がんに対する外科治療は 患者さんに与えるストレス ( 侵襲 ) が大きな手術と言えます 当院では より安全な周術期管理を目指して クリニカルパスを導入し 術前呼吸器訓練や口腔機能管理に積極的に取り組んでいます また 栄養状態の改善を目的に NST(nutrition support team) チームの介入を行い 術後早い段階から経腸栄養を行って栄養状態の改善や感染性の合併症の予防に取り組んでいます 逆流性食道炎 近年 テレビコマーシャルなどで広く知られるようになってきましたが 逆流性食道炎とは胃酸が胃から食道に逆流して生じる ただれ です 一般的な症状は胸焼けですが その他 酸っぱいものが喉まで上がる ( 呑酸 ) 酸蝕歯 長期間続く咳 喘息などを生ずることもあります 原因は加齢などにより食道と胃の境界部がゆるくなることや唾液量の減量 肥満による腹圧上昇で酸が胃から食道に逆流しやすくなっていること なんらかの原因により胃運から酸が十二指腸に流れにくくなり結果的に食道側に移動しやすいことなどがあげられます 以前 日本においてはヘリコバクター ピロリ感染率が高いために 酸が出にくい萎縮性胃炎 ( ヘリコバクターピロリで生ずる胃炎 ) の人口が多かったために逆流性食道炎は低率でした 現在はその感染率の低下に伴い増加しつつあります 診断は上部消化管内視鏡 ( 胃カメラ ) で行います 治療としては減量 低脂肪食 甘いものやアルコールや酸っぱい食べものを控える 寝るときの体位 プロトンポンプ インヒビターや胃蠕動促進薬の内服などがあります 食道裂肛ヘルニア 胸部と腹部の間には横隔膜という隔壁があり 食べたものを胃に運ぶ食道は横隔膜の穴である食道裂孔を通っています 食道裂孔ヘルニアはその食道裂孔が大きくなったため 腹部にあるべきはずの胃が横隔膜の上に滑り出した状態で 高齢者や経産婦に多く見られます そうすると胃の内容物が食道に逆流しやすくなり 胸やけを主として様々な自覚症状を呈する逆流性食道炎の原因となります 逆流性食道炎に対する治療の基本は薬物療法で 多くの場合自覚症状は改善されます しかしそれでも症状が改善されない場合は手術適応となります また胸腔内への胃の脱出が大きくて 肺や心臓を圧迫し 呼吸困難 動悸 頻脈などの症状を呈する場合も手術適応です 手術に関しては 以前は開腹手術を行っていましたが現在は腹腔鏡手術を行っています 5 か所の小さな穴をあけて手術を行います 胸腔内に脱出した胃を腹腔内に引き戻し 大きくなった食道裂孔を縫合して狭くします そして逆流を防止するために食道下端を胃でえりまき状に包み込む様に固定を行います 腹腔鏡手術なので回復が早く 1 週間以内に退院となります 患者さんにとって楽な手術になったので 手術適応が増えている印象です 5

実績 年度別食道 胃内視鏡検査 治療 平成 23 平成 24 平成 25 平成 26 平成 27 平成 28 上部消化管内視鏡検査 3935 4037 4236 4279 4336 4369 食道内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD) 4 10 6 6 7 胃内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD) 63 78 61 65 68 内視鏡治療実績 (2000 年 4 月 ~2016 年 3 月計 164 病変 ) 1. 内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD)126 病変 2. 内視鏡的粘膜切除術 (EMR)38 病変 後出血率 1.8% 後出血率 0% 穿孔率 7.1% 穿孔率 5.3% 一括切除率 93.7% 一括切除率 26.3% 食道がんステージ別生存曲線 生存期間 1 年 3 年 5 年 全体 89% 73% 54% Stage 0 100% 100% 100% Stage I 100% 100% 88% Stage II 96% 76% 46% Stage III 77% 60% 37% Stage IVa 63% 31% 0% Stage IVb 100% 0% 0% 6