生理学 Ⅰ 講義 血液 熊本大学大学院生命科学研究部 分子生理学 富澤 一仁 血液 血液の成分 血液の機能 血球の種類 赤血球の構造 貧血 止血機構 血液型 血液の基本知識と成分 血漿と血清 比重 :1.05 1.06 ph:7.35 7.45 ヘパリン EDTA-Na がよく用いられる 量 : 成人で 4.5 5.5l( 体重の約 8%) 粘稠度 : 水の約 5 倍 血漿 ( 約 60%) 血液 血球 ( 約 40%)
血漿の組成 血球の組成 赤血球 白血球 血小板があるのは みんな知っている 1. 赤血球 (erythrocyte) 血球成分の 99% 以上を占める 赤血球数男 :420 万 570 万 /µl 女 :380 万 550 万 /µl (4 5 百万ぐらいと覚えたら良い ) ヘマトクリット値 (Ht) 赤血球の全血液量に対する割合( 赤血球容積率 ) 割合だから単位は% 男:40 50% 女:35 45% 貧血だと値が低くなる 多血症 脱水だと高くなる 血球の組成 血球の組成 2. 白血球 (leukocyte) 顆粒球 3. 血小板 (platelet) 数 :4,000 9,000/µl 顆粒球と無顆粒球に分けられる 機能は免疫 ( 詳細は免疫学で ) 白血球が増える疾患 好中球 (40-70%) 好酸球 (2-4%) 無顆粒球 好塩基球 (0-2%) 数 :15 万 40 万骨髄巨核球から分離した細胞質の断片止血機能 細菌感染症 好中球が増加 アレルギー 寄生虫感染症 好酸球が増加 白血病 伝染性単核球症 リンパ球増加 * カゼ インフルエンザウイルス感染では増加しない むしろ減少する 単球 (3-6%) リンパ球 (25-40%)
造血組織 生後は, 骨髄が造血組織である 骨髄 成人の造血部位 赤色骨髄の分布 赤色骨髄 造血を行う 胸骨, 肋骨, 脊椎, 鎖骨, 肩甲骨, 骨盤, 頭蓋骨などに分布 黄色骨髄 体肢骨に分布 造血能力が失われたのではない 多量出血や放射線被曝により赤色骨髄の造血能が失われた場合, 造血細胞が出現し, 赤色骨髄に置き換わる 細網組織 細網細胞 細網線維 造血細胞 造血幹細胞 すべての血液細胞に分化できる 骨髄 造血細胞の支持, 造血細胞の分化 ( 造血因子の産生 ) 骨髄の洞様毛細血管 血管周囲の骨髄実質には, 成熟途上の血液細胞が密に存在している 種々の成熟段階にある血液細胞が存在
血液細胞の分化 赤血球 直径約 7 8µm 厚さ2µmの扁平な円板状 表面が凹んでいる 同じ容積の球体に較べ表面積が1.3 倍になる ガス交換が有利 寿命は約 120 日 ( ちなみにラクダの赤血球は225 日で一番長い ) 酸素の運搬 赤血球はシンプルで柔軟性がある 成熟赤血球は 核や細胞内小器官を失っている ヘモグロビンを含む細胞質と細胞膜から成る ガスを運搬する袋に変化 弾性に富む線維状蛋白( スペクトリン ) により細胞膜が裏打ちされている 形を容易に変え どんな狭いところでも入れる ヘモグロビン 赤血球に関する臨床検査数値 赤血球の酸素運搬に不可欠 ヘムとグロビン蛋白質からなる ヘモグロビンは鉄を介して酸素を結合 1 分子のヘモグロビンは 4 分子の酸素を運搬できる おおよその値は覚えること 略語 RBC Ht 鉄が不足すると貧血になる! 鉄欠乏性貧血 ( 成人女性に多い ) 成人一日 1mg の鉄が失われる 鉄の吸収率は 10% なので一日 10mg の鉄の摂取が必要女性の月経出血では 一日約 2mg 喪失 ということは 基礎喪失量と併せて 3mg 喪失 一日 30mg の摂取が必要 平均赤血球容積 (Mean Ht (%) X 10 = corpuscular volume: MCV) 赤血球数 (10 6 /µl) 単位は fl( フェムトリットルと読む ) 貧血を分類できる 大球性正色素性貧血 小球性低色素性貧血など Hb 400 万 /µl なら 4 で割るということ MCV
ヘモグロビンは ミトコンドリアでヘムが合成されてグロビンが蛋白質でと習ったけど 赤血球は細胞小器官や核が無いのでは? 貧血の種類 貧血は どの成熟過程の赤血球が障害されるかで分類される ヘモグロビンは 赤芽球時に合成される 赤芽球系幹細胞 赤血球は嫌気的解糖のみでエネルギーを得ている 酸素運搬が役目の赤血球にとって 酸素運搬中に酸素を消費しないということは 合目的である 生化学のおさらい 嫌気的解糖とは? 1 分子のグルコースから 2 分子の ATP を使い 4 分子の ATP を合成 その後 ミトコンドリアのクエン酸回路 電子伝達系へ ここで 34 分子の ATP が合成 ( 好気性解糖 ) ミトコンドリアを持たない赤血球は 嫌気的解糖で得られた ATP のみで 120 日生きる なんでこんな非効率的なことをするのか? 赤血球の寿命 赤血球は約 120 日で寿命を終え 脾臓で壊される 脾臓 血液の濾過装置脾索と呼ばれる細かな網目がある 若い赤血球は脾索を通過 老化した赤血球は 変形能が衰え 破裂する 脾臓
遺伝性球状赤血球症 (Hereditary spherocytosis; HS) 主に常染色体優性遺伝 β-spectrin,ankyrin,protein3 などの欠損 HS 患者の赤血球像 止血機序 止血機序は 一次血栓と二次血栓から成る 膜の安定性の喪失 Na + ポンプの異常 赤血球の小型球状化 正常赤血球像 変形能が弱く, 脾臓を通過できない 溶血性貧血 止血機序に重要な働きをするのは 血小板 止血機序 1. 損傷した血管の収縮疼痛刺激やトロンボキサン A 2 (TXA 2 ) により 細動脈が収縮する 止血機序 偽足を出した血小板 血小板は 巨核球の細胞質がちぎれてできたので 核は存在しない ただし 成熟赤血球と異なり 細胞内小器官は有する 血小板 2. 血小板血栓の形成 1. により血流速度が遅くなる フォン ウィルブランド因子により血小板とコラーゲン因子が粘着する 粘着した血小板は活性化し 偽足を出し移動 互いに密着 一次血栓の形成
3. フィブリン形成一次血栓は 不安定ではがれやすい 止血機序 アセチルサリチル酸 ( アスピリン ) 古くからある非ステロイド系抗炎症薬 (NSAID) 要するに解熱鎮痛剤作用機序 : シクロオキシゲナーゼの阻害 PG 産生 血液凝固反応 最近になり 抗凝固作用を有することが分かった 作用機序 : 血小板に作用 トロンボキサン A 2 (TXA 2 ) の生成を抑制 PGI 2 >TXA 2 虚血性心疾患 脳梗塞の患者の多くが服用 ( プロスタサイクリン ) フィブリン線維の網が一次血栓を覆って 強化する 二次血栓 ( アラキドン酸の代謝産物 ) ( アラキドン酸の代謝産物 ) 外因系と内因系がある 外因系は 損傷組織から放出された組織トロンボプラスチンがトリガーとなる 内因系は コラーゲンに血中凝固因子が触れることでスタート ドミノ倒し的に反応が進み 最終的にフィブリンが形成 二次血栓 血液凝固反応 血友病 A の因子 血友病 B の因子 要するに 血液凝固反応は フィブリノゲンをフィブリンに変換する反応 血友病 : 性染色体の X 染色体上にある第 Ⅷ 因子 第 Ⅸ 因子の欠損 変異で起こる伴性劣性遺伝疾患 ほとんど男性に発症 脳梗塞の治療薬 播種性血管内凝固症候群 (DIC) の治療薬
凝固因子 Ⅱ Ⅶ Ⅸ Ⅹ はビタミン K 依存性 これら因子は肝臓で合成される 合成にビタミンKが必須 各種食品中のビタミン K 含有量 (µg/100g) ビタミン K の作用を抑制すると凝固阻害 ワルファリン (Warfarin) * ビタミン K の拮抗薬弁置換手術などを受けた患者, 脳梗塞患者 静脈血栓塞栓症の患者などに幅広く使用されている ( 納豆, クロレラの摂食に注意 ) 出血異常に関する臨床検査 プロトロンビン時間 (prothrombin time: PT) 活性化部分トロンボプラスチン時間 (activated partial thromboplastin time:aptt) 出血時間 プロトロンビン時間 (PT) 患者の血漿に Ca 2+, 組織トロンボプラスチンを加えて凝固時間 ( フィブリン析出 ) を測定 すなわち外因系 共通系の凝固異常を判定する検査 正常値 : おおよそ 10 12 秒 第 Ⅶ 因子異常 プロトロンビン異常 第 Ⅴ 因子異常 第 Ⅹ 因子異常 肝硬変, 肝癌など肝疾患 DIC( 凝固因子の消費が過剰 ) ワルファリン投与の時, 時間延長
活性化部分トロンボプラスチン時間 (APTT) 凝固因子と PT APTT のまとめ 患者の血漿に Ca 2+, 第 XII 因子や第 Ⅹ 因子活性化剤を加えてフィブリン析出までの時間を測定 すなわち内因系 共通系の凝固異常を判定する検査 正常値 :40 秒以内 血友病 von Willebrand 病 von Willebrand 因子の低下 Ⅷ 因子の不安定化 肝硬変, 肝癌など肝疾患 DIC( 凝固因子の消費が過剰 ) ヘパリン ワルファリン投与時 出血時間 生体の止血機能検査法 耳朶や上腕前膊部に細いメスなどで一定の刺傷を作り 毛細血管からの出血が自然に止まるまでの時間を測定する検査 一次止血機能を検査するもので 血漿中の von Willebrand 因子を介する血小板の粘着能, 凝集能, および毛細血管壁の状態が悪くなると延長する デューク法で正常値は大体 2 5 分 デューク法 出血時間が延長する疾患 薬剤 血小板の数や機能低下で延長 毛細血管の脆弱でも延長 凝固系の異常 ( 血友病 ビタミンK 欠乏症など ) では 正常 抗凝固薬 ( ヘパリン ワルファリン EDTA-Na) 血栓溶解剤 ( ウロキナーゼ ) は 正常 血小板の減少が原因 再生不良性貧血 急性白血病 特発性血小板減少性紫斑病 (ITP) 重症肝機能障害など 血小板機能異常が原因 血小板無力症 ベルナール スーリエ症候群 全身性エリテマトーデス (SLE) など 毛細血管が原因 遺伝性出血性毛細血管拡張症 ( オスラー病 ) など 抗血小板薬 アスピリン
血液型 赤血球膜上の抗原 ( 糖鎖 ) が血液型を決めている ABO 血液型は A, B, AB, O 型がある ABO 血液 それぞれ表面に特有の抗原を持っている ただし O 型は 持っていない それ以外にも Rh 血液型 HLA 型 MN 式など多数存在する ABO 血液型は メンデルの法則により遺伝する 血液型検査 ABO 血液型以外にも沢山の血液型がある 輸血の時 ABO 血液型検査だけでは不十分なので 輸血を受ける人 ( 受血者 ) と輸血に使う血液との間で 交差適合試験を行う もし血液型の異なる血液が輸血されるとどうなるか? 生体は 輸血された血液を異物と認識し 免疫応答がおこる 抗体が赤血球表面の抗原に結合 血液の凝集 毛細血管に詰まって 破壊される 血管内溶血 溶血が急速に進む 赤血球中のヘモグロビンが血液の中に遊離し 腎臓に詰まったりする 急性腎不全
輸血にはどの血液型が使用できるか? 大前提 : ABO 血液型が一致する血液を輸血する 理論的には AB 型の患者では抗体を保有していないので どの血液型も輸血できる 一方 O 型の患者では O 型以外の血液を輸血すると 凝集がおこる O 型の血液は A 型 B 型 AB 型の人にも輸血できる 緊急時に使用される Rh 血液型 6 種類の赤血球膜抗原が存在 なかでもD 抗原が最も抗原性が強い 日本人の99.5% はD 抗原を持つRh 陽性 (Rh + ) である ABO 血液型の場合 自然に抗体を獲得するが Rh の場合 Rh 陰性の人は 何も無ければずーっと抗 D 抗体を持たない 不適合輸血や妊娠によって Rh 陽性血が体内に入った時 はじめて感作され 抗体ができる 不規則抗体 Rh 血液型不適合妊娠