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マクロ インサイト FRB FRB 長期金利 FRB bp 図表 1 FRB と市場の金利予測の乖離 FOMC 予測 vs 市場予測 年末 年末 2.0 市場が

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第 3 節食料消費の動向と食育の推進 表 食料消費支出の対前年実質増減率の推移 平成 17 (2005) 年 18 (2006) 19 (2007) 20 (2008) 21 (2009) 22 (2010) 23 (2011) 24 (2012) 食料

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(3) 可処分所得の計算 可処分所得とは 家計で自由に使える手取収入のことである 給与所得者 の可処分所得は 次の計算式から求められる 給与所得者の可処分所得は 年収 ( 勤務先の給料 賞与 ) から 社会保険料と所得税 住民税を差し引いた額である なお 生命保険や火災保険などの民間保険の保険料およ

オーバルネクスト ETF 情報 2010 年 2 月 15 日号 ( 株 ) オーバルネクスト 東京都中央区日本橋兜町 13-2 TEL 03(5641)5777

共働きは 収入源の分散化や世帯所得の増加をもたらすことから 基本的には消費に対する自由度を高めるものと予想される つまり 配偶者収入も含めて 収入が消費に結びつきやすくなる可能性があるということだ しかし 実際には 共働き世帯が増加しているにも拘わらず 家計は消費に対して慎重になっているようだ 世帯

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第 1 四半期の売上収益は 1,677 億円となり 前年からプラス 6.5% 102 億円の増収となりました 売上収益における為替の影響は 前年 で約マイナス 9 億円でしたので ほぼ影響はありませんでした 事業セグメント利益は 175 億円となり 前年から 26 億円の減益となりました 在庫未実現

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サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

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2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

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1 1. 課税の非対称性 問題 1 年をまたぐ同一の金融商品 ( 区分 ) 内の譲渡損益を通算できない問題 問題 2 同一商品で 異なる所得区分から損失を控除できない問題 問題 3 異なる金融商品間 および他の所得間で損失を控除できない問題


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第 7 章財政運営と世代の視点 unit 26 Check 1 保有する資金が預貯金と財布中身だけだとしよう 今月のフロー ( 収支 ) は今月末のストック ( 資金残高 ) から先月末のストックを差し引いて得られる (305 頁参照 ) したがって, m 月のフロー = 今月末のストック+ 今月末

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( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

目 次 はじめに 1. 景気は減速 中国経済の重しとなる過剰債務 過剰投資 先行き 景気が大幅に下振れるリスクも おわりに はじめに GDP RIM 215 Vol.15 No.59

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28 GCC UAE GCC (2) 大きく上昇した食料価格と住居費 GCC GCC GCC 図表 2 湾岸協力会議 (GCC) 諸国の消費者物価上昇率 (28 年 ) 図表 3 湾岸協力会議 (GCC) 諸国の消費者物価指数に占める食料品と住居費の割合

(2) 資産構成割合の推移 ( 給付確保事業 ) 1 資産配分実績の基本ポートフォリオからの乖離の推移 2 実践ポートフォリオと資産配分実績の推移 3. 運用受託機関 平成 29 年 3 月末現在 2

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平成 23 年 3 月期 決算説明資料 平成 23 年 6 月 27 日 Copyright(C)2011SHOWA SYSTEM ENGINEERING Corporation, All Rights Reserved

Transcription:

欧州 2018 年 4 月 27 日全 5 頁 利上げを躊躇させる英国家計債務の増大 BOE が利上げを見送る理由 ユーロウェイブ @ 欧州経済 金融市場 Vol.106 ロンドンリサーチセンターシニアエコノミスト菅野泰夫 [ 要約 ] 英国中央銀行 (BOE) のカーニー総裁は 4 月 19 日の BBC のインタビューにおいて 市場コンセンサスである 2018 年 5 月中の利上げに関し曖昧な発言に終始した 多くの金融市場関係者が 5 月 10 日の次回金融政策委員会 (MPC) での利上げを予想していた中での見送り示唆は 大きなサプライズとして受け止められた 利上げを躊躇する理由のひとつとして 英国の家計債務の急激な増加も挙げられる 2017 年 11 月に英国の独立財政機関である予算責任局 (OBR) が発表した 2017 年英国秋季経済財政 ( 見通し ) 報告書は 英国家計債務の急激な増加を指摘している BOE はクレジットカードや自動車ローンなど住宅ローン以外の消費者信用の急激な拡大に警鐘を鳴らしている 足元の貯蓄率の大幅な低下も利上げを躊躇する要因のひとつであろう 今年 3 月に英統計局 (ONS) が発表したデータによると 2017 年の英国の貯蓄率は 1963 年以降の最低水準となる 4.9% を記録している BOE は 貯蓄率の低下に伴う 家計債務のさらなる増大を警戒している 株式会社大和総研丸の内オフィス 100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号グラントウキョウノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが その正確性 完全性を保証するものではありません また 記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります 大和総研の親会社である 大和総研ホールディングスと大和証券 は 大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です 内容に関する一切の権利は 大和総研にあります 無断での複製 転載 転送等はご遠慮ください

2 / 5 利上げ見通しが後退した BOE 英国中央銀行 (BOE) のカーニー総裁は 4 月 19 日の BBC のインタビューにおいて 市場コンセンサスである 2018 年 5 月中の利上げに関し曖昧な発言に終始した 多くの金融市場関係者が 5 月 10 日の次回金融政策委員会 (MPC) での利上げを予想していた中での見送り示唆は 大きなサプライズとして受け止められた カーニー総裁は 2018 年 2 月の MPC で早期追加利上げを示唆していた 足元 利上げに慎重な姿勢に転じたのは 利上げの影響は時間を掛けて感じられるとしながらも ( 昨年 11 月の10 年ぶりの利上げ以降 ) 足元 2018 年 3 月のインフレ率が 2.5% まで低下したことが挙げられる 45 年ぶりの水準に低下した失業率や実質賃金の上昇など いくつかの経済指標の好転を継続させたい思惑も 追加利上げに慎重な姿勢に転じた要因とみられている 図表 1 英国の消費者物価指数と BOE の見通し (2018 年 2 月 ) ( 出所 )ONS BOE より大和総研作成 英国の家計債務の急激な上昇 ただ追加利上げを早期に実施するかどうかは BOE 内で議論が紛糾していることは容易に想像できる 打つ手が限られている中 ブレグジットや財政政策を巡る不確実性という向かい風で 英国は追加利上げに躊躇する理由が数多くあるのが実情であろう 特にカーニー総裁が警戒しているのは 家計債務の急激な増加といわれている 2017 年 11 月に英国の独立財政機関である予算責任局 (OBR: Office for Budget Responsibility) が発表し

3 / 5 た 2017 年英国秋季経済財政 ( 見通し ) 報告書は 英国家計債務 1 の今後の見通しを示している 英国の家計債務は 1990 年代後半から 2008 年のグローバル金融危機まで急増した 同報告書によると 家計収入 ( 可処分所得 ) に対する家計債務の割合は 1997 年末の 93% から危機前の 2008 年末には 157% まで急増したという ただ危機以降の銀行の融資抑制により 2008 年のピークから順調に債務削減が進み 2015 年末までに 133% までに低下した とりわけ 2008 年から 2013 年までの 5 年間では家計債務総額は約 1.6 兆ポンド程度で安定し 世界経済の回復に伴う所得増の恩恵も重なり同割合は順調に低下していたと指摘している しかし英国では 2016 年の EU 残留の是非を問う国民投票以降 大幅なポンド安によりインフレ率が上昇したことで 実質賃金の低下を招き 貯蓄やクレジットカードを利用して日々の支出をやりくりしている兆候が顕著になっているという それ故 2015 年末を底にし 家計債務は増加に転じ 2017 年第 2 四半期には総額 1.9 兆ポンド ( 同割合 140%) まで急増したことを指摘している OBR はこのペースを続けると 同割合は 2023 年までにグローバル金融危機が発生した 2008 年のピークである 157% に匹敵する水準にまで上昇することを予測している 図表 2 英国の対家計収入費に占める家計債務の割合 ( 左 ) と家計債務のフロー ( 右 ) ( 出所 )OBR BOE より大和総研作成 また BOE は クレジットカードや自動車ローンなど住宅ローン以外の消費者信用の急激な拡大に警鐘を鳴らしている 英国の家計債務フローを確認すると クレジットカードの債務フローは ( 国民投票以降である )2016 年は前年から+40% と大幅な上昇を記録している とりわけ住宅ローンの金融機関の貸出厳格化に伴い 家計債務全体のフローが抑制されている中 2017 1 家計債務の定義は 個人が通常金融機関から借りるものであり 住宅ローン 個人ローン 学生ローン クレジットカードによる借入を含む

4 / 5 年末のクレジットカード借入額は継続して増加している BOE は さらなる利上げ前に 金融機関の貸出厳格化やリスク管理基準の強化による消費者信用の抑制も求めている 家計債務の高止まりは 過剰債務を抱える個人はもちろん 幅広く経済全体へも影響が波及する 債務の支払に追われ消費や住宅投資に向けた支出削減が起こることにより 企業の利益を圧迫し経済成長を停滞させる要因となる 英国経済のリスク要因 低貯蓄率が意味するもの さらに 足元の貯蓄率の大幅な低下も追加利上げを躊躇する要因のひとつであろう 今年 3 月に英統計局 (ONS) が発表したデータによると 2017 年の英国の貯蓄率は 1963 年以降の最低水準となる 4.9% を記録した 2017 年はインフレ率の上昇と賃金の低迷が家計を圧迫し 貯蓄率の低下を招いたとされる 貯蓄率は過去 55 年間で平均 9.0% を記録してきたが 所得や資産の増税により可処分所得が急激に減少する中 ( ラチェット効果 2 が働き ) それに応じた消費抑制が行われず 急激に低下したとされている 3 国民投票以降に小売売上高は前年比プラス圏を推移し 足元もほぼ横ばいとなっていることからもその傾向が読み取れる 図表 3 英国の貯蓄率の推移 ( 左 ) と消費者信頼感および小売売上高 ( 右 ) ( 出所 )ONS より大和総研作成 このような中 BOE は貯蓄率の低下に伴う 家計債務のさらなる増大を警戒している とりわ 2 インフレや増税などにより ( 実質的な ) 可処分所得が減少したときでも 消費はそれに伴い減少せず 貯蓄を取り崩すなどにより 一定期間 同じ水準を維持しようとする現象 3 ただし 貯蓄率は変動するものであり 将来の所得に自信があれば貯蓄せずに消費に回すため 低貯蓄率が即 過剰消費を意味するわけではない

5 / 5 け貯蓄を使い果たし 生活水準を維持するためにさらに借入を増やすことを余儀なくされている若年層への警戒を強めているとされる 学生ローンが多額に残っている 20 代後半 ~30 代前半は 返済を最小限に抑え 現時点の消費を優先する傾向がある 利上げ感応度が高い住宅ローンも家計債務問題を深刻にさせる 利上げの最も大きな目的はインフレ率の抑制であるものの 利上げは ( 通貨高を誘発するなど ) 様々なチャネルに影響を与える 借入の多様化が進んでいる英国では 企業や家計にその影響が及ぶまでに相応の時間を有するといわれている 一方 英国で利上げ時に即 影響が表れるのは住宅ローンの支払金利の増加であろう 長期固定の住宅ローンが殆ど利用できない英国では ( 現実的な固定金利型ローンも 2 年 ~5 年程度 ) 日本と比較して利上げに関して総じて家計への影響が大きい 英国各行が提供する変動金利型住宅ローンでは 1 回の利上げ (+0.25%) で 平均で月額 10 ポンド~30 ポンド程度利払いが増加することが指摘されている また英国では収入対住宅ローン比が高いほど 利上げの有無によらず債務を懸念して消費を抑えるとの調査結果も示されている 英国が選択したブレグジットは これまで進められてきたグローバル化を巻き戻すことを意味し 持続可能かつ力強い経済拡大にとっては打撃となることには違いない ただ 国民投票以降も英国の家計が借入と消費を続けたことから ( ブレグジットという ) 政治的不安定要素があったにも拘らず 経済成長が継続したと見る向きも多い 中銀の政策担当者は これ以上債務を増やしたくないものの 債務のデレバレッジには慎重にならざるを得ず 打つ手は限られるのが実情であろう G7 の内唯一 世界的な景気回復の恩恵を受けていない英国の利上げ判断は家計債務の増大とともに慎重な舵取りが求められている ( 了 )