180 日エンドメトリオーシス会誌 一般演題 特異部位子宮内膜症 その他 後腹膜に発生した子宮内膜症性N胞の症例 日本医科大学付属病院女性診療科 産科 同 病理部 尾崎 米山 緒 景子 山本 剛一 明楽 晃人 峯 重夫 川本 克也 雅司 竹下 俊行 等の所見なし 言 ミューラー管遺残組織の化生により発生する 血液検査所見 血算 肝機能 腎機能に明らか とされる後腹膜の深部子宮内膜症は 直腸 腟 な異常所見は認めず 腫瘍マーカーにおいては 膀胱 尿管といった周囲の後腹膜臓器に浸潤す ml CA ml と高値 CA ることが知られている 今回われわれは後腹膜 を示していた に発生した子宮内膜症が腹腔内へN胞状に進展 骨盤内に多房性腫 超音波断層検査所見 図 したと思われる例を経験したので 若干の文 瘍を認め 一部に充実成分を認めた 献的考察を加えて報告する 約 cm cm cm 骨 盤 MI 所 見 図 症 の多房性N胞性病変を認め N胞内は T TWI 例 歳 回経妊 回経産 患 者 で多様な信号強度であり 漿液性から粘液性の 主 訴 月経困難 頻尿 成分を反映していると考えられた 一部 造影 家族歴 特記すべき事項なし 効果を伴う不整な充実部分 mm を含 既往歴 特記すべき事項なし み 悪性が疑われた 病変は左卵巣と接してお 歳 周期 日 月経歴 初経 現病歴 検診にて骨盤内腫瘤を指摘され 当院 紹介となった cm 体重 kg BMI 現 症 身長 mmhg 脈拍数7 bpm 体温 血圧 7 腹部は平坦かつ軟で腫瘤を触れず 表在リンパ 節の腫大なし 内診所見 腟分泌物は白色少量 子宮腟部にび らんなし 子宮は腫瘤にて触れず 内診指にて 腟部は可動性良好で 挙上痛を認めなかった 付属器は小児頭大 軟 可動性のある腫瘤を触 図 超音波断層検査 知した 左右不明 ダグラス窩に圧痛 硬結 WBC BC µl µl Hb Hct Plt GOT GPT LH µl 表 血液検査所見 T-Bil Na Cl K BN CE TP Alb CP CEA CA CA ng ml ml ml
後腹膜に発生した子宮内膜症性嚢胞の症例 181 図 骨盤 MI T 強調画像 左 水平断 右 矢状断 図 図 摘出標本 矢印 A 充実性部分 後腹膜埋没部 点線 B N胞部分 腹腔内部分 開腹所見 uterus ovary 術中所見では 子宮および 手術所見 図 Posterior 両側卵巣は正常大で 腫瘍との連続性は認めな broad cyst かった 腫瘍は単房性N胞が多数連なるように ligament Solid tumor 図 rectum 存在し その基部は子宮左側後腹膜 左基靭帯 of the uterus の外側より発生し 子宮広間膜後葉を貫き腹腔 内へ進展していた N胞の解剖学的関係を 図 N胞の解剖学的関係 に示す 腫瘍の摘出を行い 術中迅速病理 り 卵巣由来の悪性腫瘍と思われた 対側の卵 組織検査にて子宮内膜症性N胞の診断であっ 巣および子宮は正常大であり 病的な腹水貯留 た 悪性所見は認めなかったため 術式は腫瘍 やリンパ節腫大は認めなかった 摘出術のみに留めた また 腹腔内は腫瘤を覆 術前細胞診 子宮腟部 頸部細胞診 NILM うように炎症性のきわめて軽度の癒着を認める 子宮内膜細胞診 Class のみで ダグラス窩の閉鎖や blue berry spot 上部 下部消化管内視鏡 異常なし 等 明 ら か な 子 宮 内 膜 症 性 病 変 は 認 め ず r 臨床経過 上記所見から 卵巣癌疑いにて 開 ASM スコアは点とした 腹手術を行った 矢印 A で示す充実部分が 摘出標本 図
182 尾崎ほか 図 HE 染色 左 右 り 子宮内膜腺間質様であった 図 また 染色においては腺管上皮ではCK 7 CK 7 CK で陽性 CK で陰性であり 子宮内膜症の 像として矛盾しなかった 図7 特筆すべき は 腫瘍の充実性部分の SMA 染色においては 子宮内膜腺周囲に SMA で染まる領域を認め このことから本症例は平滑筋組織を伴った子宮 内膜症性N胞と証明された 図 一方 N 胞性部分成分においては N胞壁は菲薄化し 拡張した血管内の血液鬱滞と広範な変性を伴 図 C染色 い 明らかな平滑筋組織は認めなかった 考 察 後腹膜に埋没していた腫瘍の基部であり 同部 今回われわれの経験した症例は後腹膜側に小 位に連続して点線 B で示すN胞部分が腹腔内 さな充実成分を有し 腹腔内部分は多数の単房 へ進展していた N胞の内溶液はチョコレート 性N胞から成る巨大なN胞性病変であった N 様であった 胞成分は周囲の腹膜との癒着は乏しく 後腹膜 術後経過 術後経過良好にて 術後 日目に退院となっ た の実質成分と唯一連続性が認められたため 手 術所見では後腹膜発生の腫瘤と考えた 後腹膜 術後の病理診断においても子宮内膜症性 に発生する深部子宮内膜症についてはすでに多 N胞の診断であった 現在外来にてフォローア くの報告があり ダグラス窩および仙骨子宮靭 ップ中であり 術前に上昇を認めた CA お Koninckx ら 帯からの発生が最も多い よび CA も正常範囲内となり 子宮内膜症 が 提 唱 す る E rectovaginal endometrio- の再発兆候も認めず 順調に経過している sis の概念によると 直腸腟中隔壁に発生す 病理診断 る子宮内膜症は E TypeÁに分類される 図 HE 染色では 線維結合織の壁を有する腺構 E TypeÁは腹腔内の子宮内 膜 症 造を認め 内面は子宮内膜腺に類似する立方上 病変に乏しいことを特徴とし ミュラー管の遺 皮に被覆されており 出血やヘモジデリンの沈 残が化生し発症すると考えられている 着を認め 子宮内膜症性N胞と診断された 図 今回の症例は 発生部位や r ASAM スコアが さらに各種免疫染色を追加したところ 点であったことより E TypeÁに相当す C 染色では腺管周囲の間質は C で染ま るものとして矛盾せず その腫瘤が広間膜後葉
後腹膜に発生した子宮内膜症性嚢胞の症例 183 図7 左 CK7染色 右 CK 染色 :uterus, :pouch of ouglas :vagina, :rectum 図 SMA 染色 : uterus, : pouch of ouglas : vagina, : rectum 図 E の分類 Koninckx らより改変 を貫き腹腔内へと進展し N胞性病変の形態を 呈していたものと思われる ミュラー管の化生により後腹膜に発生した深部 一般的に卵巣をはじめとする腹腔内発生の子 子宮内膜症が腹腔側へ進展した可能性を示すも 宮内膜症の大部分はN胞性を呈する一方で 後 のと考える 後腹膜および腹腔内の子宮内膜症 腹膜に発生する深部子宮内膜症の多くは比較的 の進展様式を示唆する興味深い症例であると思 小さな結節性病変の形態をとる その理由とし われた て 周囲を線維筋組織に囲まれる後腹膜内にお 結 語 いては内膜腺および間質細胞が周囲の線維筋組 ミュラー管の化生により後腹膜に発生した子 織に浸潤し 平滑筋の増殖を誘発するためと考 宮内膜症性腫瘤が 広間膜を越えて腹腔内へN えられている 7 今回の症例でも術後の 胞状に進展したと思われる稀な症例を経験し 病理所見において 後腹膜成分には内膜腺およ た 卵巣腫瘍の鑑別疾患のつとして念頭に置 び間質の周囲に平滑筋細胞を含む線維筋組織が く必要があると考えられた 豊富に認められた 腹腔内成分については典型 的な卵巣チョコレートN胞のように N胞性の 発育をしたものと考えられた すなわち本症例 において腹腔内成分に周囲の腹膜と癒着が認め られないこと 後腹膜に埋没する充実性成分周 囲に豊富な平滑筋の増生が認められたことは 文 献 Kinkel K et al. Magnetic resonance imaging characteristics of deep endometriosis. Hum eprod edwine B. The distribution of endometriosis in the pelvis by age groups and fertility. Fertil
184 Steril Chapron C et al. Anatomic distribution of deeply infiltrating endometriosis : surgical implications and proposition for a classification. Hum eprod Koninckx P et al. eep endometriosis : a consequence of infiltration or retraction or possibly adenomyosis externa? Fertil Steril Nisolle M et al. Peritoneal endometriosis, ovarian endometriosis, and adenomyotic nodules of the rectovaginal septum are three different entities. Fertil Steril Koninckx P et al. Suggestive evidence that pelvic endometriosis is a progressive disease, whereas deeply infiltrating endometriosis is associated with pelvic pain. Fertil Steril ercellini P et al. eep endometriosis : definition and clinical management. J Am Assoc Gynecol Laparosc