顔面神経麻痺

Similar documents
運動療法と電気療法の併用 ~シングルケース~

末梢神経障害

PowerPoint プレゼンテーション

saisyuu2-1

untitled

Microsoft Word - 頭頸部.docx

Ø Ø Ø

95_財団ニュース.indd

リハビリテーションを受けること 以下 リハビリ 理想 病院でも自宅でも 自分が納得できる 期間や時間のリハビリを受けたい 現実: 現実: リ ビリが受けられる期間や時間は制度で リハビリが受けられる期間や時間は制度で 決 決められています いつ どこで どのように いつ どこで どのように リハビリ

頭頚部がん1部[ ].indd

兵庫大学短期大学部研究集録№49

Microsoft Word - ①【修正】B型肝炎 ワクチンにおける副反応の報告基準について

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

脳卒中に関する留意事項 以下は 脳卒中等の脳血管疾患に罹患した労働者に対して治療と職業生活の両立支援を行うにあ たって ガイドラインの内容に加えて 特に留意すべき事項をまとめたものである 1. 脳卒中に関する基礎情報 (1) 脳卒中の発症状況と回復状況脳卒中とは脳の血管に障害がおきることで生じる疾患

心房細動1章[ ].indd

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4


pdf0_1ページ目

PowerPoint プレゼンテーション

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

pdf0_1ページ目

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

図表 リハビリテーション評価 患 者 年 齢 性 別 病 名 A 9 消化管出血 B C 9 脳梗塞 D D' E 外傷性くも幕下出血 E' 外傷性くも幕下出血 F 左中大脳動脈基始部閉塞 排尿 昼夜 コミュニ ケーション 会話困難 自立 自立 理解困難 理解困難 階段昇降 廊下歩行 トイレ歩行 病



M波H波解説

5. 死亡 (1) 死因順位の推移 ( 人口 10 万対 ) 順位年次 佐世保市長崎県全国 死因率死因率死因率 24 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 位 26 悪性新生物 350

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

第四問 : パーキンソン病で問題となる運動障害の症状について 以下の ( 言葉を記入してください ) に当てはまる 症状 特徴 手や足がふるえる パーキンソン病において最初に気づくことの多い症状 筋肉がこわばる( 筋肉が固くなる ) 関節を動かすと 歯車のように カクカク と軋む 全ての動きが遅くな

平成 28 年度診療報酬改定情報リハビリテーション ここでは全病理に直接関連する項目を記載します Ⅰ. 疾患別リハビリ料の点数改定及び 維持期リハビリテーション (13 単位 ) の見直し 脳血管疾患等リハビリテーション料 1. 脳血管疾患等リハビリテーション料 (Ⅰ)(1 単位 ) 245 点 2

中耳炎診療のすゝめ

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

2 片脚での体重支持 ( 立脚中期, 立脚終期 ) 60 3 下肢の振り出し ( 前遊脚期, 遊脚初期, 遊脚中期, 遊脚終期 ) 64 第 3 章ケーススタディ ❶ 変形性股関節症ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

豊川市民病院 バースセンターのご案内 バースセンターとは 豊川市民病院にあるバースセンターとは 医療設備のある病院内でのお産と 助産所のような自然なお産という 両方の良さを兼ね備えたお産のシステムです 部屋は バストイレ付きの畳敷きの部屋で 産後はご家族で過ごすことができます 正常経過の妊婦さんを対

今日勉強すること 1. 反射弓と伸張反射 2. 屈曲反射 3. 膝蓋腱反射の調節機構 4. 大脳皮質運動野の機能

科目名授業方法単位 / 時間数必修 選択担当教員 人体の構造と機能 Ⅱ 演習 2 単位 /60 時間必修 江連和久 北村邦男 村田栄子 科目の目標 人体の構造と機能 はヒトの体が正常ではどうできていてどう働くのかを理解することを目的とする この学問は将来 看護師として 病む ということに向き合う際の

復習問題

<4D F736F F D2089BB8A7797C C B B835888E790AC8C7689E6>

関節リウマチ関節症関節炎 ( 肘機能スコア参考 参照 ) カルテNo. I. 疼痛 (3 ) 患者名 : 男女 歳 疾患名 ( 右左 ) 3 25 合併症 : 軽度 2 術 名 : 中等度 高度 手術年月日 年 月 日 利き手 : 右左 II. 機能 (2 ) [A]+[B] 日常作に

<4D F736F F D204E FA967B8CEA94C58169E0D58BA6905F8C6F93E089C894C5816A E646F63>

臨床No208-cs4作成_.indd

2018 年 10 月 4 日放送 第 47 回日本皮膚アレルギー 接触皮膚炎学会 / 第 41 回皮膚脈管 膠原病研究会シンポジウム2-6 蕁麻疹の病態と新規治療法 ~ 抗 IgE 抗体療法 ~ 島根大学皮膚科 講師 千貫祐子 はじめに蕁麻疹は膨疹 つまり紅斑を伴う一過性 限局性の浮腫が病的に出没

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

Microsoft Word - ジュビダームビスタ同意説明書_201602_JAP docx

健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2

基本料金明細 金額 基本利用料 ( 利用者負担金 ) 訪問看護基本療養費 (Ⅰ) 週 3 日まで (1 日 1 回につき ) 週 4 日目以降緩和 褥瘡ケアの専門看護師 ( 同一日に共同の訪問看護 ) 1 割負担 2 割負担 3 割負担 5, ,110 1,665 6,

スライド 1

PowerPoint プレゼンテーション

甲状腺機能が亢進して体内に甲状腺ホルモンが増えた状態になります TSH レセプター抗体は胎盤を通過して胎児の甲状腺にも影響します 母体の TSH レセプター抗体の量が多いと胎児に甲状腺機能亢進症を引き起こす可能性が高まります その場合 胎児の心拍数が上昇しひどい時には胎児が心不全となったり 胎児の成

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

幻覚が特徴的であるが 統合失調症と異なる点として 年齢 幻覚がある程度理解可能 幻覚に対して淡々としている等の点が挙げられる 幻視について 自ら話さないこともある ときにパーキンソン様の症状を認めるが tremor がはっきりせず 手首 肘などの固縮が目立つこともある 抑うつ症状を 3~4 割くらい

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

臨床神経学雑誌第48巻第1号

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

rihabili_1213.pdf

prolaps of brow fat crow s feet Sulcus zygomaticopalpebralis prolaps of lower lid fat Tränentrog Sulcus nasolabialis marionette line Sulcus mentolabia

<4D F736F F D F90D290918D64968C93E08EEEE1872E646F63>

摂食嚥下訓練 排泄訓練等を開始します SCU で行うリハビリテーションの様子 ROM 訓練 ( 左 ) と端坐位訓練 ( 右 ) 急性期リハビリテーションプログラムの実際病棟訓練では 病棟において坐位 起立訓練を行い 坐位耐久性が30 分以上となればリハ訓練室へ移行します 訓練室訓練では訓練室におい

ER・ICU 100のdon'ts−明日からやめる医療ケア

pdf0_1ページ目

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

研究協力施設における検討例 病理解剖症例 80 代男性 東京逓信病院症例 1 検討の概要ルギローシスとして矛盾しない ( 図 1) 臨床診断 慢性壊死性肺アスペルギルス症 臨床経過概要 30 年前より糖尿病で当院通院 12 年前に狭心症で CABG 施行 2 年前にも肺炎で入院したが 1 年前に慢性

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

選考会実施種目 強化指定標準記録 ( 女子 / 肢体不自由 視覚障がい ) 選考会実施種目 ( 選考会参加標準記録あり ) トラック 100m 200m 400m 800m 1500m T T T T33/34 24

医療関係者 Version 2.0 多発性内分泌腫瘍症 2 型と RET 遺伝子 Ⅰ. 臨床病変 エムイーエヌ 多発性内分泌腫瘍症 2 型 (multiple endocrine neoplasia type 2 : MEN2) は甲状腺髄様癌 褐色細胞腫 副甲状腺機能亢進症を発生する常染色体優性遺

094.原発性硬化性胆管炎[診断基準]

カラーでわかる 顎口腔機能にかかわる解剖学 前頭骨 頭頂骨 前頭骨 側頭骨 頰骨弓 眼窩 蝶形骨大翼 後頭骨下顎窩 外耳孔 鼻腔 頰骨 下顎頭 上顎骨 筋突起 乳様突起 下顎骨 オトガイ隆起 舌骨 A 頭蓋骨正面 B 頭蓋骨側面 頭頂骨 頭頂骨 鋤骨 上顎骨 口蓋骨後鼻孔蝶形骨底部 頰骨弓 後頭骨

Transcription:

はじめに 顔面神経麻痺を呈した症例 ~ 経過を追えた症例と構音機能と筋力の関係を追う ~ 佐藤病院リハビリテーション科理学療法士土岐哲也 H27.11.2( 月 ) 当病院では年に 3~4 人ほど末梢性顔面神経麻痺を呈した症例が外来に来られる しかし 末梢性顔面神経麻痺は自然治癒をすることがほとんどで 外来リハビリ中来なくなってしまうことが多い 今回 末梢性顔面神経麻痺の患者様を担当させて頂き 復職までの経過をみることができた また 表情筋麻痺 咀嚼筋麻痺による影響が構音機能に及ぼす関係を探ってみた 顔面神経の解剖 側頭骨内の顔面神経管は生体内で直径が 1mm 長さ 35 mmと最も狭く長い円筒管である 小脳橋角部は 23~24 mmで この部位では慢性圧迫脱髄性神経障害による原発性片側顔面痙縮 (HFS) が発生する 直角に曲がる部位を膝部と呼んでいる 第 1 2 膝部があり迷路部から鼓室部への移行部が第 1 膝部でこの部位に膝神経節が位置している 第 2 膝部は鼓室部から乳突部への移行部ある 膝神経節部は Bell 麻痺や Hunt 症候群のウィルス (HS V)Ⅰ 型の再活性化で Hunt 症候群は水疱瘡帯状疱疹ウィルス (HZV) の再活性化によっておこる 顔面神経 顔面神経の機能 運動神経成分 感覚神経成分 副交感神経成分 顔面の表情筋アブミ骨筋 舌の前 2/3 外耳道 鼓膜の一部耳介後部 涙腺 鼻線 顎下腺 舌下線 表情筋の運動アブミ骨反射 舌の前 2/3 の味覚外耳道 鼓膜などの温痛覚 涙 鼻汁 唾液の分泌 顔面神経路 顔面神経の回路 顔面神経は内耳孔から内耳神経とともに内耳道に入り 途中で内耳神経と分かれて顔面神経管と呼ばれる骨の管を通り 副交感神経成分などを出した後 茎乳突孔から皮下へでる 橋に存在する顔面神経核を支配する皮質延髄路は大脳皮質運動野の 1/3 から始まり 内方膝部と大脳 1/3 を通過して顔面神経核へ至る 顔面神経核は背側部と腹側部に分けられ 顔面上半分の表情筋である前頭筋と眼輪筋の支配核が背側部から 下半分の表情筋支配核が腹側部である 顔面神経核は背側部は両側 腹側部は対側の皮質延髄路投射を受ける 1

顔面神経麻痺 顔面神経麻痺は表情筋の運動障害を特徴とする神経障害である Bell 麻痺の頻度が最も高いが脳神経外科では脳卒中や脳腫瘍による顔面神経麻痺を診察することが多い 原因末梢神経障害中枢神経障害 片側性 両側性 Bell 麻痺 Hunt 症候群 腫瘍 ( 耳下腺 小脳橋核腫瘍 ) 外傷 ( 頭蓋骨骨折 ) 炎症 Guillain-Barre 症候群 Lyme 病 サルコイドーシス 脳血管障害 多発性硬化症 脳腫瘍 末梢神経麻痺の原因と頻度 末梢神経麻痺の原因と頻度 17% 4% 6% 15% 58% Bell 麻痺 Hunt 症候群外傷耳性その他 Bell 麻痺の 85% は 3 週間以内に回復の徴候を示し最終的には 71% は全く正常に回復 13% で軽度の後遺症が残り 16% で永続する機能障害が残存したとされている 末梢性顔面神経麻痺の鑑別診断 末梢性顔面神経麻痺 疾患原因特徴 ベル麻痺 特発性 顔面神経麻痺の50~80% 性差なし 40 歳代にピーク危険因子 :DM 妊娠一側性の突発性発症単純ヘルペスウイルスとの関連は非確定 中耳炎細菌感染亜急性 慢性経過耳痛発熱感音性難聴 GuillainBarre 症候群サルコイドーシス 自己免疫疾患 多発ニューロパチー両側発症あり Ramsay Hunt 症候群 水痘 帯状疱疹ウイルス 膝神経節に潜伏感染した水痘 帯状疱疹ウイルスの再活性化疼痛と耳介 外耳内の小水痘 帯状疱疹聴力喪失顔面神経麻痺残存 外傷 腫瘍 小脳橋角部耳下腺腫瘍 側頭骨骨折横骨折 縦骨折 混合骨折 中枢性顔面神経麻痺の鑑別診断 中枢性顔面神経麻痺 脳卒中 梗塞 出血 片麻痺 脳腫瘍 神経膠腫 転移性膿腫など 亜急性 慢性景経過癌既往歴など 多発性硬化症 脱髄 両側突発あり 中枢性と末梢性顔面神経麻痺の鑑別 中枢性 末梢性 額のしわ寄せ 正常 障害 閉眼 正常 ( ときに障害 ) 障害 鼻唇溝形成障害障害 聴覚過敏正常ときに障害 味覚障害正常ときに障害 末梢神経障害の分類 1. 機能的分類 1 運動性ニューロパチー 2 感覚性ニューロパチー 3 自律神経ニューロパチー 2. 解剖学的分類 1 軸索変性型ニューロパチー 2 脱髄性ニューロパチー 3. 神経の分布による分類 1 単神経炎 2 多発性単神経炎 3 多発性神経炎 4. 原因による分類 1 薬物 中毒 2 代謝 (DM など ) ビタミン欠乏 3 炎症性や感染後ニューロパチー 4 外傷 圧迫 5 リウマチ疾患 膠原病 6 虚血性 7 癌性 神経変性の種類 脱髄や逆行変性線維では迷入再生を生じないが ワーラー変性に陥った神経断裂線維では迷入再生が生じる この迷入再生繊維が表情筋に達して病的共同運動が顕在化する 2

再生突起の指向性 迷入再生回路形成時間 再生突起は収縮筋方向に向かっていく 強い筋収縮によって迷入再生が生じる 逆行変性では求心性に軸索変性が生じる 重症例では回復まで 3 カ月要する 神経断裂線維では再生繊維の伝導遅延の他に 病変部での再生形成時間によって表情筋までの到達時間の遅延が生じる 最速で迷入再生繊維は発症 4 カ月で表情筋に到達する 過誤支配によって病的共同運動が顕在化する 3~4 カ月で完治しない症例では 4 カ月以降に迷入再生繊維が順次到達して 病的共同運動が顕在化する 随意運動あるいは低周波刺激による表情筋収縮を継続すると迷入再生回路が強化して病的共同運動はますます増悪する 表情筋の拮抗関係 T: 側頭枝 Z: 頬骨枝 B: 頬筋枝 M: 下顎緑枝 C: 頸枝 Fro: 前頭筋 Pro: 鼻根筋 Ocs: 上眼輪筋 Nas: 鼻筋 LLA: 上唇鼻翼挙筋 LLS: 上唇挙筋 Zym: 小頬骨筋 Ris: 笑筋 Oori: 下口輪筋 DLi: 下唇下制筋 Pla: 広頸筋 Cor: 皺眉筋 Ooi: 下眼輪筋 LAO: 口角挙筋 Zym: 大頬骨筋 Oors: 上口輪筋 DAO: 口角下制筋 Men: オトガイ筋 表情筋の役割 顔面の開口部を閉鎖することが第 1の目的である 目の保護が最も重要であり 突然の視覚 角膜 聴覚 平行刺激によって閉眼が生じる 感情を反映することが第 2の役割である 驚き 恐怖 嫌悪 怒り 幸福 悲しみの感情を映し出す 表情筋の拮抗関係は開口部を挟んで収縮と伸張が起こっている 表情筋と咀嚼筋 病的共同運動とスパズムの誘発 咀嚼筋 口蓋筋 顔面筋 側頭筋咬筋外側翼突筋内側翼突筋 口蓋帆張筋口蓋帆挙筋口蓋咽頭筋口蓋舌筋 口輪筋犬歯筋笑筋大頬骨筋オトガイ三角筋上唇方形筋下唇方形筋オトガイ筋広頸筋 外舌筋 内舌筋 舌骨上筋 オトガイ舌筋舌骨舌筋茎突舌筋 浅従舌筋深従舌筋横舌筋垂直舌筋 甲状舌骨筋胸骨舌骨筋肩甲舌骨筋胸骨甲状筋 顔面神経麻痺が生じると とにかくできるだけ早く開口部を閉鎖する生体反応が起こる このために顔面神経核に興奮性亢進が生じ 表情筋が同時に収縮することが生体防衛反応として合目的性である 神経束構造がなく神経線維が密接していることは できるだけ早く開口部を閉じるという役割と関連している 顔面神経麻痺後は表情筋は一塊となり病的共同運動が出現する また表情筋を強く収縮することによって病的共同運動やスパズムを誘発する 3

ワニの涙症候群 三叉神経麻痺 末梢性顔面神経麻痺の回復期に食事をすると涙が出てくることがありこれをワニの涙症候群という 神経再生の際に 唾液腺への線維が誤って涙腺に連絡したためと考えられている その他症状顔面拘縮 : 患側の顔面が持続的に収縮した結果 鼻唇溝は深く 眼裂は狭小化し 安静時も顔が非対称に見える状態を顔面拘縮という アブミ骨筋性耳鳴り : 表情筋を再生するはずの再生神経線維が誤ってアブミ骨筋を支配したために起こる現象 障害によって下顎は麻痺側に偏倚する 障害部位による症状の違い 中枢性 ( 核上性 ) 顔面神経麻痺 A. 中枢性顔面神経麻痺の特徴と病因上位運動ニューロンである皮質延髄路の障害で発症するので核上性顔面神経麻痺とも呼ばれる しわ寄せができ眼輪筋麻痺も軽度 笑顔など感情変化による表情形成を保たれることが多い さらに味覚や涙腺分泌など知覚 自律神経は障害されない B. 皮質延髄路の両側 片側支配顔面神経の運動機能を支配する皮質脊髄路は両側の前頭筋 眼輪筋と対側下半部の表情筋運動を支配している C. 情動性支配に関わる上位ニューロン中枢性顔面神経麻痺の患者で口角を動かせないのに笑うと麻痺側の口角があがり笑顔となる 皮質延髄路以外の上位運動ニューロンが関与すると考えられる 末梢性 ( 核性 核下性 ) 顔面神経麻痺 A. 核性顔面神経麻痺橋にある顔面神経運動核とその繊維束の障害は核性顔面神経麻痺をきたす また顔面神経運動核の周囲には外転神経核 同繊維束 傍正中橋網様体 錐体路 さらに三叉神経脊髄路核と脊髄視床路が存在するため 表情筋麻痺の他に脳幹症状を合併することがある B. 核下性顔面神経麻痺 小脳橋角部より末梢の顔面神経麻痺をきたす 核下性顔面神経麻痺は障害部位よって分類される 並走する内耳神経 中間神経 また大浅錐体神経 アブミ骨筋神経 鼓索神経に含まれる機能の障害によって難聴 涙腺分泌障害 聴覚過敏 唾液分泌障害 舌前 2/3 の味覚障害が表情筋麻痺に加わる 中枢性 末梢性顔面神経麻痺の特徴 A: 中枢性顔面神経麻痺額のしわ寄せはできるが口角を動かすことはできない B: 末梢性顔面神経麻痺額のしわ寄せができず口角も動かすこともできない C: 中枢性顔面神経麻痺での情動支配保持随意的に麻痺側の口角を動かせないが笑うと麻痺した口角が動く例がある D: 線条体内方梗塞による情動性支配の障害随意的に口角を動かせるが笑うと口角に麻痺を認める 4

重症度 顔面神経麻痺重症度評価法 House-Brackmann スケール 顔面神経機能 Ⅰ 正常すべての神経枝で顔面神経機能は正常 Ⅱ 軽度麻痺 わずかな麻痺と共同運動 安静時正常対称性 額しわ寄せ良好 完全開眼可能 口角軽度非対称 Ⅲ 中等度麻痺 明らかだが軽度の麻痺と共同運動 安静時ほぼ対称性 額しわ寄せ中等度障害 努力すれば完全閉眼 口角運動は最大限の努力でわずかな麻痺 Ⅳ やや高度麻痺 明らかな麻痺と非対称性 安静時非対称性 額しわ寄せ不可 閉眼不完全 最大限の努力でも口角非対称 Ⅴ 高度麻痺 ごくわずかな動きのみ 安静時非対称 額しわ寄せ不可 閉眼不完全 口角わずかな動き Ⅵ 完全麻痺 完全な麻痺 顔面神経麻痺重症度評価法 2 Sunnnybrook 顔面神経評価法 評価項目 評価点数 病的共同運動 安静時対称性 しわ寄せ なし :0. 軽度 :1. 中等度 :2. 高度 :3 目 正常 :0. 異常 :1 軽い閉眼 なし :0. 軽度 :1. 中等度 :2. 高度 :3 鼻唇溝 正常 :0. 変化あり :1. 消失 :2 開口微笑 なし :0. 軽度 :1. 中等度 :2. 高度 :3 口 正常 :0. 異常 :1 随意運動 上唇挙上口すぼめ なし :0. 軽度 :1. 中等度 :2. 高度 :3 なし :0. 軽度 :1. 中等度 :2. 高度 :3 しわ寄せ 完全麻痺 :1~ 正常 :5 評価点数 = 随意運動合計点 4- 安静時対称性合 軽い閉眼 完全麻痺 :1~ 正常 :5 計点 5- 病的合計点 ( 最高 100 点 ) 開口微笑完全麻痺 :1~ 正常 :5 上唇挙上完全麻痺 :1~ 正常 :5 口すぼめ完全麻痺 :1~ 正常 :5 柳原 40 点法 0: 高度麻痺 2: 部分麻痺 4: 正常 1. 安静時 2. 額しわ寄せ 3. 瞬き 4. 弱い閉眼 5. 強い閉眼 6. 片目つぶり 7. 鼻しわ寄せ 8. 口笛 9. 歯みせ 10. への字 予後診断 エレクトラニューログラフィー (ENoG) 臨床的予後診断 患側と健側 CMPA の振幅比 ENoG が 40% 以上であれば病的共同運動は出現しない ENoG =15% の症例は (40 EN0G) が神経断裂の可能性である 発症 2 週間で 50% 回復していれば 3~4 週間で完治する 4 週間で 50% 回復していれば 3 か月で完治する 20 点に達していない症例では 4 ケ月以降に少し病的共同運動が出現する可能性があり 随意運動を回避して 表情筋のストレッチを行う必要がある 量から質的回復 発症 3 か月までに完治していない症例は 4 カ月以降に病的共同運動が顕在化する 顔面拘縮などによって筋力低下が再出現する 最重度の症例でも 表情筋の頻回なストレッチングによって神経再生を抑制することによって 12 カ月後に納得いく表情が実現される リハビリテーション 急性期 1) 粗大な百面相の随意運動や低周波刺激による表情筋の収縮を制限する 2) 表情筋の頻回のマッサージあるいはストレッチングで筋短縮を制限する 3) 動眼神経支配である上眼瞼挙筋による開瞼運動を行い眼輪筋のストレッチングを頻回に行う 慢性期 1) 認知行動療法 2) ボツリヌス療法 3) 神経筋再教育 矢印の方向にマッサージを行う 渦巻き印は縦 横 丸くマッサージを行う 皮膚は擦らないように手指を置いたところだけ動かす 5

安静時対称点と病的共同運動点 低周波刺激 患側全体の粗大で強力な筋収縮を誘発するために 神経断裂線維の迷入再生も促通し 病的共同運動の原因となる さらに顔面神経核の興奮性亢進を一層促して 筋短縮による顔面拘縮を助長することになる 発症 6 カ月以降 伸張マッサージ群の方が Sunnybrook 法の安静時対称点および病的共同運動点に有意差が生じる 随意運動群では 安静時対称点は有意に得点が高く 顔面拘縮が著明なことを反映している また運動時の病的共同運動もより高くなっている 顔面神経核興奮性亢進しミオキミアやスパズムを出現させる 筋短縮による顔面拘縮を助長する ミラーフィードバック療法 ミラーフィードバックとボツリヌス療法併用 A: ウーと口を尖らせる B: イーと歯を見せる C: プーと頬を膨らませるのを 3 種類の口運動時の瞼裂比 EN0G 値が 0% の高度な神経障害をきたした末梢神経障害患者 27 例を対象とし 1 年間ミラーフィードバック療法で予防する群と予防しない群に分け瞼裂比を比較した ミラーフィードバック療法により顔面神経麻痺後遺症の病的共同運動を予防できるこが明らかになった ボツリヌス療法とミラーフィードバック療法を行い 瞼裂比を治療前と治療開始後 10 ケ月で比較した ボツリヌス療法の効果が消失した 10 カ月においても瞼裂比が高値であり 併用療法で発症した病的共同運動を治療できることが明らかになった 薬物療法 1 薬物療法 2 ステロイド (PSL) 抗ウィルス薬 (VCV) その他 軽度麻痺 (20 点以上 ) 中等度麻痺 (18 10 点 ) 高度麻痺 (8 点以下 ) 30mg / 日内服 60mg / 日内服 1000mg / 日 5 日内服 ビタミン B12 ATP 製剤 循環改善薬 120~200mg / 日点滴 1000mg / 日 5 日内服 ( 症例によって3000mg) ステロイド (PSL) 抗ウィルス薬 (VCV) その他 軽度麻痺 (20 点以上 ) 中等度麻痺 (18 10 点 ) 高度麻痺 (8 点以下 ) 30 mg / 日内服 60 mg / 日内服 VCV3000 mg / 日あるいは FCV1500 mg / 日 7 日 ビタミン B12 ATP 製剤 循環改善薬 120~200mg / 日点滴 ACV750mg / 日 7 日点滴 6

Hunt 症候群の治療法と成績 治療方針 Bell 麻痺 /Hunt 症候群 論文対象 ( スコア ) ステロイド抗ウィルス薬治療率 Devriese pp,1988 全症例 29% Murakami S,1997 22 PSL60mg ACV750mg点滴 or4000mg経口 53% Kinishi M,2001 22 MP500mg ACV750mg点滴 or4000mg経口 90% 稲村,2001 8 PSL200mg ACV750mg点滴 61% 著者ら,2013 10 HC1000mg ACV750mg点滴 79% PSL: プレドニゾロン MP: メチルプレドニゾロン HC: ハイドロコーヂゾン ACV: アシクロビル スコア 12 PSL60 mg +VCV3000 mg スコア 12 経過観察 スコア 10 高用量併用 スコア 10 HC1000 mg +VCV3000 mg (Bell) oracv1500 mg (Hunt 症候群 ) ENoG<5% 経過観察 ( リハビリテーション ) ENoG<5% 経乳突的減荷術 完全麻痺であれば Bell 麻痺であっても PSL60 mgに VCV3000 mgを併用する 不全麻痺例でも 経過中に麻痺が進行した場合は高用量点滴療法に切り替える 顔面神経減荷術 a) 経乳突法 b) 経中頭蓋窩法 c) 経乳突法 + 経中頭蓋窩法 顔面神経減荷術の目的は顔面神経管を解放することで神経絞扼を解除し 神経変性進行を防止することにある 症例紹介 57 歳女性 診断名 左顔面神経麻痺 (Bell 麻痺 ) 既往歴 頸椎椎間板症 右肩関節周囲炎 急性上気道炎 中耳炎 現病歴 平成 27 年 5 月 13 日に左顔面が動きが低下し 脳梗塞だと思い 当院の翌日脳神経外科を受診 左顔面神経麻痺と診断 同日リハビリテーションが開始となった 主訴 顔面が動かない 仕事に復帰したい 職業 事務業務 薬剤 プレドニゾロン ビタミン B12 製剤 介入頻度 週 3 回外来リハビリ MRI 顔面のアライメント House Brackmann スケール :Ⅴ( 高度麻痺 ) 柳原 40 点法 :12 点 Sunnybrook 顔面神経評価法 : 随意運動合計点 (12 点 ) 4- 安静時対称点 (15 点 ) 5- 病的共同運動 (10 点 )=17/100 点症状 ( ワニの涙 病的共同運動 顔面拘縮 味覚障害 ) 顔面アライメント : 右眉毛挙上 右眼球挙上 右口角挙上左眉毛下制 左眼球下制 左口角下制頸部右側屈 左回旋 右肩甲帯挙上 筋緊張 :( 右 > 左 ) 亢進 : 右肩甲帯周囲筋 右胸鎖乳突筋 右斜角筋 左右前頭筋 左右眼輪筋 左右笑筋 左右口輪筋 左右頬骨筋 左右口角挙筋 7

障害部位 治療 顔面のマッサージ ストレッチング 頸部周囲筋のストレッチ 全身調整 病的共同運動を抑制するように行った 顔面の動き (5 月 20 日 ) 顔面の動き (6 月 1 日 ) 顔面の動き (6 月 12 日 ) 顔面神経麻痺の経過 100 80 60 40 20 0 麻痺の回復過程 House-Brackmann 5 月 20 柳原法日 6 月 1 日 6 月 12 日 Sunnybrook 8

座位姿勢と歩行 (6 月 22 日最終 ) まとめ 矢状面前額面歩行 Bell 麻痺などの末梢性顔面神経麻痺は自然回復が主である しかし病的共同運動や 神経再生の阻害 顔面拘縮など起こさないように自然回復をより早く行わせることが重要である 顔面神経麻痺は良くなると外来リハビリに来なくなることがあり 経過を追うのが難しい そのため 今回は最後まで経過を追うことができた 予後予測や病態を考え提供していくことが大事である 末梢性顔面神経障害は構音機能や発声に関しては影響しなかった 中枢性顔面神経麻痺 開口動作顔面の動き開 閉口動作 言語中枢 PCF:210ml 形態認知や意味記憶が障害されると言語の出力 意味 構音が障害される 発声時の筋活動と筋緊張 A: 声帯 B: 喉頭蓋 C: 下咽頭 D: 破裂部 E: 破裂喉頭蓋ヒダ F: 仮声帯 外喉頭筋 ( 舌骨上筋群 ) の筋緊張亢進により喉頭の位置が高くなる その結果声帯が他動的に引き延ばされ仮声帯や喉頭蓋が閉じることもある 運動性構音障害 ( パーキンソン病など ) による筋緊張亢進が構音機能には影響を与えると考える 終わりに 中枢性の構音障害と筋力の関係は運動プログラムや意味記憶などに影響される そのため中枢性の構音障害は 言語中枢に左右されやすい 運動性構音障害などの筋緊張亢進や固縮は前頸部筋の筋緊張を亢進させ 内喉頭筋緊張亢進や筋力低下により発声や構音機能に影響を及ぼすことが考えられる ご清聴ありがとうございました 9