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第 3 部食生活の状況 1 食塩食塩摂取量については 成人男性では平均 11.6g 成人女性では平均 10.1gとなっており 全国と比較すると大きな差は見られない状況にあります 図 15 食塩摂取量 ( 成人 1 日当たり ) g 男性

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-3- Ⅰ 市町村国保の状況 1 特定健康診査受診者の状況 平成 23 年度は 市町村国保 (41 保険者 )98,439 人の特定健康診査データの集計を行った 市町村国保の診者数は男性 女性ともに 歳の割合が多く 次いで 歳 歳の順となっている 男性 女性 総数

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調査の概要 本調査は 788 組合を対象に平成 24 年度の特定健診の 問診回答 (22 項目 ) の状況について前年度の比較から調査したものです 対象データの概要 ( 全体 ) 年度 被保険区分 加入者 ( 人 ) 健診対象者数 ( 人 ) 健診受診者数 ( 人 ) 健診受診率 (%) 評価対象者

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図. 各要因による 9.4 年間での日英 ( イングランド ) の生存期間の差 ~ 日英高齢者の生存期間の比較研究から ~ 注 ) 調査開始時点の日英の年齢や健康状態の差を調整した上でも 9.4 年間の間に日本人が女性で319 日 男性で132 日 英国人よりも長生きをしていました グラフの数字は

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

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平成29年度沖縄県がん登録事業報告 背表紙印字

小学生のカルシウム摂取量に寄与する食品の検討 小学生のカルシウム摂取量に寄与する食品の検討 小川瑞己 1 佐藤文佳 1 村山伸子 1 * 目的 小学生のカルシウム摂取の実態を把握し 平日と休日のカルシウム摂取量に寄与する食品を検討する 方法 2013 年に新潟県内 3 小学校の小学 5 年生全数 3

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健康だより Vol.71(夏号)

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資料 4 明石市の人口動向のポイント 平成 27 年中の人口の動きと近年の推移 参考資料 1: 人口の動き ( 平成 27 年中の人口動態 ) 参照 ⑴ 総人口 ( 参考資料 1:P.1 P.12~13) 明石市の総人口は平成 27 年 10 月 1 日現在で 293,509 人 POINT 総人口

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平成17年

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第2章 第2期健康やまだ21プランの評価

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愛知県アルコール健康障害対策推進計画 の概要 Ⅰ はじめに 1 計画策定の趣旨酒類は私たちの生活に豊かさと潤いを与える一方で 多量の飲酒 未成年者や妊婦の飲酒等の不適切な飲酒は アルコール健康障害の原因となる アルコール健康障害は 本人の健康問題だけでなく 家族への深刻な影響や飲酒運転 自殺等の重大

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薬物乱用教室 学校薬剤師さんに来ていただき 薬物について授業をしていただいた 薬物乱用による心身への影響 薬物のこわさを知ろう 薬剤師と警察の少年補導課の方とのコラボで薬物の内容と怖さについて 学校薬剤師さんから 心身への影響 誘惑 断ることなど講義を受ける 喫煙 飲酒 公開授業日に実施 学校薬剤師

また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を

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高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

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どのような生活を送る人が インターネット通販を高頻度で利用しているか? 2013 年 7 月 公益財団法人流通経済研究所主任研究員鈴木雄高 はじめにもはやそれなしでの生活は考えられない このように インターネット通販を生活に不可欠な存在と位置付ける人も多いであろう 実際 リアル店舗で買えて ネットで

< アンケート結果 > 健康経営等に関する設問 Q. 貴社において 改善 解決したい課題はありますか Q. 貴社において 従業員が健康的に働けるよう独自に取り組んでいること ( または今後 取り組んでみたいことは何ですか Q. ご自身の健康のために独自に取り組んでいること ( または今後取り組んでみ

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夫婦間でスケジューラーを利用した男性は 家事 育児に取り組む意識 家事 育児を分担する意識 などに対し 利用前から変化が起こることがわかりました 夫婦間でスケジューラーを利用すると 夫婦間のコミュニケーション が改善され 幸福度も向上する 夫婦間でスケジューラーを利用している男女は 非利用と比較して

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2-2 需要予測モデルの全体構造交通需要予測の方法としては,1950 年代より四段階推定法が開発され, 広く実務的に適用されてきた 四段階推定法とは, 以下の4つの手順によって交通需要を予測する方法である 四段階推定法将来人口を出発点に, 1 発生集中交通量 ( 交通が, どこで発生し, どこへ集中

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(2) 高齢者の福祉 ア 要支援 要介護認定者数の推移 介護保険制度が始まった平成 12 年度と平成 24 年度と比較すると 65 歳以上の第 1 号被保険者のうち 要介護者又は要支援者と認定された人は 平成 12 年度末では約 247 万 1 千人であったのが 平成 24 年度末には約 545 万

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第 5 章管理職における男女部下育成の違い - 管理職へのアンケート調査及び若手男女社員へのアンケート調査より - 管理職へのインタビュー調査 ( 第 4 章 ) では 管理職は 仕事 目標の与え方について基本は男女同じだとしながらも 仕事に関わる外的環境 ( 深夜残業 業界特性 結婚 出産 ) 若

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第 7 回大阪市人口移動要因調査報告書 平成 27 年 3 月 大阪市都市計画局

Ⅰ. 調査の概要. 調査目的日本の全国民を対象に健康日本 2( 第二次 ) に関連する健康意識 認知度調査を評価することで 健康意識における重点課題を把握すること 2 経年的な健康意識の推移を把握することを目的とする これにより 今後の情報発信のあり方を検討する 本年調査は昨年調査に続いて2 回目の

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はじめに 1981 年以来 がんは日本人の死因の第 1 位となっています 2013 年にがんで亡くなった日本人は約 36 万 5 千人で 国民の 3 人に 1 人の死因となっており がんは国民病の一つになりました 一方 多くの研究成果により がんは生活習慣 生活環境の見直しにより予防できることがわか

最高球速における投球動作の意識の違いについて 学籍番号 11A456 学生氏名佐藤滉治黒木貴良竹田竣太朗 Ⅰ. 目的野球は日本においてメジャーなスポーツであり 特に投手は野手以上に勝敗が成績に関わるポジションである そこで投手に着目し 投球速度が速い投手に共通した意識の部位やポイントがあるのではない

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

Transcription:

喫煙のがん全体の罹患に与える影響の大きさについて ( 詳細版 ) 1 喫煙のがん全体の罹患に与える影響の大きさについて 本内容は 英文雑誌 Preventive Medicine 2004; 38: 516-522 に発表した内容に準じたものです

2 背景 喫煙とがんとの因果関係は既に確立しています 現在 日本人の大半は喫煙の害を既に認識しており 今後の予防の焦点は喫煙対策に向けられています 喫煙対策を効果的に実施していくためには 科学的根拠に基づいた数値目標が必要ですが 具体的には 日本人集団において 喫煙者がいなかったらどの位の人ががんにならずにすんだか すなわち 人口寄与割合 Population Attributable Fraction: PAF の算出が不可欠です がんを全体としてとらえた場合 喫煙がどの程度影響を及ぼしているかついては 主にがんの死亡に焦点を与えた研究がおこなわれてきましたが 喫煙のがん全体の罹患に対するリスクについて検討した研究はこれまでにほとんどありません 3 目的 そこで わが国のがん対策に資することを目的として 喫煙が中年日本人におけるがん全体の罹患にどの程度寄与しているかを疫学的指標 すなわち相対危険度や人口寄与割合などの数値で具体的に推計しました

4 研究の流れ 5 対象 対象は JPHC 研究対象者のうち東京葛飾地域と大阪吹田地域と除く 40-69 歳の男女です このうち 1)1990 年及び 1993 年におこなわれたベースラインアンケート調査に回答した者 2) 喫煙状況の回答のある者 3) がんの既往のない者 の条件をすべて満たす 92,792 人 ( 男 :44,521 人, 女 :48,271 人 ) を本研究の解析対象者としました

6 追跡 転出 死亡 がんの罹患について追跡調査をおこない ベースライン調査年初日から 2001 年末日までを追跡期間として解析をおこないました この間の平均追跡期間は約 10 年 行方不明者は 0.05% となっています 7 要因及び結果の評価 要因 Exposure として 喫煙は ベースライン調査時の喫煙状況により 吸わない やめた 吸っている の 3 つに分類し 現在喫煙者はさらに 1 日喫煙本数 開始年齢 Pack-year によって複数のカテゴリーに分類しました 結果 Outcome は 追跡期間中のがん罹患 (ICD-O-3:C00- C80) 及びがん死亡 (ICD- 10:C00-C97) と定義しました

8 分析方法 吸わない を 1 としたときの全がん罹患及び死亡のハザード比を男女別に算出しました 解析には Cox 比例ハザードモデルを用い 年齢 地域 エタノール摂取量 緑色野菜摂取 BMI を調整しました また たばこに起因してがんになる人口寄与割合 (PAF) についても求めました 9 がん罹患の分布 追跡期間に男性では 2,969 人が 女性では 1,953 人ががんに罹患しました 男性のがん罹患のうち最も多かったのは胃がん (26%) で 肺がん (13%) 結腸がん (13%) 肝がん (8%) の順に多く発生しました 女性では 乳がん (18%) に最も多く罹患し 胃がん (14%) 結腸がん (11%) 肺がん (7%) の順となっています

10 喫煙と生活習慣特性 ( 男 ) 喫煙と生活習慣との関連を見てみると 男性では 喫煙者の方が飲酒頻度や量が多く やせていて 緑黄色野菜の摂取量が低いという傾向が見られました 11 喫煙と生活習慣特性 ( 女 ) 女性でも男性と同様の傾向が見られ 非喫煙者と比較して 喫煙者が飲酒頻度や量が多くなる傾向が著明でした さらに 喫煙者はやせていて 緑黄色野菜の摂取頻度が少ないという傾向が見られました

12 喫煙のがん全体の罹患と死亡に対するリスク ( 男 ) 調査開始から約 10 年間の追跡期間中に 男性では 2,969 人が何らかのがんに罹患し 1,411 人が何らかのがんで死亡しました たばこを 吸わない 群と比較した 吸っている 群でのがん全体の罹患リスクは 1.64 倍でした 一方 やめた 群でも 吸わない 群に比較して 1.37 倍高くなっており 以前吸っていたたばこの影響が残っていると推察されます がん死亡については 吸わない 群と比較した 吸っている 群でのがん全体の罹患リスクは 1.78 倍で やめた 群でも 吸わない 群に比較して 1.35 倍と 罹患と類似のリスクが観察されました この結果をもとにして たばこに起因してがんになる すなわち たばこを吸っていなければ何らかのがんにかからなくてすんだ割合を推計したところ がん罹患で 29.4% がん死亡で 32.6% となっていました つまり この中年日本人の集団では男性でかかったがんの 29% 死亡したがんの 33% はたばこを吸っていなければ防げたはずであったことがわかりました 13 喫煙のがん全体の罹患と死亡に対するリスク ( 女 ) 一方 女性でも がん罹患及び死亡とも 吸わない 群と比較して やめた 群 吸っている 群でのリスクが増加していましたが 喫煙者割合が低いため たばこに起因するがん罹患及び死亡の割合は 3% 弱と 低い値にとどまっていました

14 喫煙のがん全体の罹患と死亡に対するリスク ( 男 ) 男性について 詳しくリスクを見てみると 吸っている 群の中でも 1 日当たりの喫煙本数の多い人や長年吸っている人 早く開始した人ではがん全体の罹患リスクが高くなっていく傾向が顕著でした がん死亡については 数や年数が増えることによってリスクが増加するというような量反応関係は観察されませんでしたが 早く開始した人の方が死亡リスクが高くなる傾向は見られました 15 日本人全体での予防可能性 日本人全体では 毎年約 48 万人 ( 男性 28 万人 女性 20 万人 ) が何らかのがんにかかっていると推計されています また平成 13 年度の国民栄養調査における日本人の喫煙率は 男性で吸っている人は 46% やめた人は 28% 女性で吸っている人は 10% やめた人は 3% です 最近のこれらの日本人全体のがんの罹患数と国民栄養調査における日本人の喫煙率に今回得られた相対危険度を当てはめてみると 男性のがん全体の 29% にあたる約 8 万人 女性のがん全体の 4% にあたる約 8 千人 合計約 9 万人は たばこが原因で起こっていることがわかりました すなわち わが国では もしたばこがなかったら 毎年約 9 万人ががんにかからなくてすむはずだといえます

16 考察 (1)- 他の研究との比較 既存の研究について整理してみると わが国ではがん死亡解析しかおこなわれていません その相対危険度は わが国での男性 1.5-1.7 女性 1.1-1.3 と 欧米男性での約 2 倍と比較して低い傾向にあります 一方 PAF で見てみると アジア人集団における結果は日本人と類似しており 例えばドイツでは PAF 男 : 39%, 女 : 12%( 喫煙率男 :33% 女 : 18%) であるのに対し 韓国では PAF 男 : 17%, 女 : 2%( 喫煙率男 :72% 相対危険度男 :1.4 女 1.3) 中国 ( 台湾 ) では PAF 男 : 21%, 女 : 2%( 喫煙率男 :47% 女 : 4% 相対危険度男 :1.5 女 1.7) と 本研究の PAF 男 : 22%, 女 : 3%( 喫煙率男 :52% 女 : 6% 相対危険度男 :1.6 女 1.8) と類似の値となっています 17 考察 (2)- 相対危険度の差 日本人集団における相対危険度は 欧米人集団の研究と比較して低い原因としては 1) たばこ消費量の増加が 1950 年以降と 欧米と比較して遅いこと 2) 受動喫煙の存在 3) 喫煙の影響を修飾する他の環境要因の違い 4) 遺伝的背景の違いなどが考えられ 今後これらについて解明していく必要があります

18 考察 (3)- 研究方法 本研究は前向き研究なので 要因 Exposure に関する情報はがんの診断や死亡など結果 Outcome より前に収集しており 要因のリコールバイアスが回避されています さらに 一般住民集団を対象としており 回答率が高いこと 追跡不能の対象者の割合が少ないこと 結果 Outcome の把握手段であるがん登録の精度が良好であることなどが 研究の長所としてあげられます しかし 大都市 2 地域を対象から除外しているため 特に研究対象の女性の喫煙率が 日本人全体と比較して低く 人口寄与割合 PAF% が過小評価されている可能性があります また 受動喫煙を考慮していないことにより リスクが過小評価されている可能性もあり 結果の解釈には注意が必要です 19 結論 結果をまとめると 本研究の中年日本人集団では 男の 29% 女の 3% のがん罹患は喫煙に起因していることが示唆されました この数値をもとに日本人全体について推計した場合 男性のがん全体の 29% にあたる約 8 万人 女性のがん全体の 4% にあたる約 8 千人 合計約 9 万人は たばこが原因で起こっていると考えられます

20 研究班の構成 ( 平成 16 年度 )