地震時の原子力発電所燃料プールからの溢水量解析プログラム 地球工学研究所田中伸和豊田幸宏 Central Research Institute of Electric Power Industry 1 1. はじめに ( その 1) 2003 年十勝沖地震では 震源から離れた苫小牧地区の石油タンクに スロッシング ( 液面揺動 ) による火災被害が生じた 2007 年中越沖地震では 原子力発電所内の燃料プールからの溢水があり 液面挙動や溢水が監視用ビデオカメラで撮影された また 津波発生時には 防波堤や護岸を超える長周期波が起こることが予想される Central Research Institute of Electric Power Industry 2
1. はじめに ( その 2) 消防庁告示においては スロッシング応答評価法として 速度ポテンシャル理論に基づき最大波高を算出する方法が用いられているが 地震時の水面変化や溢水などの複雑な非線形現象を評価する方法はまだない このようなことから 溢水を伴う非線形スロッシング現象を明らかにできる 数値解析手法の開発が望まれる Central Research Institute of Electric Power Industry 3 2. 溢水を考慮可能な当所開発のスロッシング解析コード (1)SLOSH-2D (2)SLOSH-3D 特徴 自由液面を有する流動現象を高精度に予測できる非圧縮性流体解析コード VOF(Volume of Fluid) 法による自由液面の取り扱い 高次の差分法による流体運動の解析 k-ε 乱流モデルによる乱流粘性の解析 SIMPLE 法による質量保存の厳密化 Central Research Institute of Electric Power Industry 4
3. 自由液面の解析方法の比較 (1) 高さ関数法 (2)MAC 法 (3)VOF 法 (4) 座標変換法 (5) 粒子法 Central Research Institute of Electric Power Industry 5 (1) 高さ関数法 ある基準面からの高さ ( 水位 ) で水面を表し 水位を計算することで水面を変形させる ( 長所 ) アルゴリズムが単純なためコーディングが容易 ( 短所 ) ある基準面からみて水面が二つ以上ある場合の解析ができない Central Research Institute of Electric Power Industry 6
(2)MAC 法 水面上にマーカーを配置し その動きにより水面の移動を表現する ( 長所 ) 水面の動きを簡便に追跡することができる ( 短所 ) 水量の保存を満足させた計算が出来ない Central Research Institute of Electric Power Industry 7 (3)VOF 法 流体を各計算格子の流体充填率 F で表現し, 次ページのように F を移流させて水面の移動を表現する ( 長所 ) アルゴリズムが単純で 水塊の分離合体 溢水などの大きな水面変形解析に適用可能 ( 短所 ) 自由水面の形状が階段状になるため, 水面の曲率などの高精度な水面形の予測ができない Central Research Institute of Electric Power Industry 8
流体の移動方法の概略 ( 流体の容積が保存される ) Central Research Institute of Electric Power Industry 9 (4) 座標変換法 自由水面に沿って曲線座標を生成して運動方程式を解き, 曲線座標を変化させることで水面形状を変化させる ( 長所 ) 水面形状を厳密に表現できるため高精度な解析が可能 ( 短所 ) 自由水面に不連続がある場合や変形が大きい場合計算が安定しない プログラムが複雑になる Central Research Institute of Electric Power Industry 10
(5) 粒子法 格子を用いず 流体を粒子に置き換えて 粒子相互間の影響を考慮して粒子の運動を計算する ( 長所 ) 他の水面解析法では取り扱うことができない細かい水滴の挙動解析が原理的に可能 ( 短所 ) 自由水面を明確に定義することが難しい Central Research Institute of Electric Power Industry 11 4. 溢水計算の特徴 溢水の計算では 大変形を伴う水面変動が計算可能であること 計算が安定で長時間の継続計算が可能であること アルゴリズムが単純で独自の工夫や三次元化が容易であること 水面形状の厳密な再現を必要とする場合が少ないこと などを考慮して 水面解析法に VOF 法を選択した Central Research Institute of Electric Power Industry 12
5. 溢水を伴うスロッシング解析例 ( その 1) 2 次元容器 ( 幅方向に変化が無い矩形容器 ) 内のスロッシング実験と SLOSH-2D での解析の比較 Central Research Institute of Electric Power Industry 13 SLOSH-2D により スロッシング実験のシミュレーションを行った 壁からの溢水 外側での水溜りが再現されている 色は 流速の大小 矢印は 流速ベクトルを表す 実験では 高速ビデオカメラを用いて液面を撮影し 画像処理により波形を求め 溢流を伴う複雑なスロッシング現象を把握した Central Research Institute of Electric Power Industry 14
Central Research Institute of Electric Power Industry 15 水位 (mm) 水位 (mm) 200 100 0-100 -200-300 解析結果実験結果 -400 0 20 40 60 80 100 120 140 160 時刻 (s) 200 100 0-100 -200-300 解析結果実験結果 -400 10 20 30 40 50 時刻 (s) 水位の時刻歴応答の比較は 地震応答の継続時間全域に亘り 解析精度が検証できた Central Research Institute of Electric Power Industry 16
平均水位 (m) 平均水位 (m) 1.50 1.45 1.40 1.35 1.30 水深 1.45m 実験結果 1.25 0 20 40 60 80 100 120 140 160 時刻 (s) 0.75 0.70 0.65 0.60 0.55 水深 0.69m 実験結果 0.50 0 20 40 60 80 100 120 140 160 時刻 (s) 平均水位の時刻歴応答の比較は 溢流による水位低下に関して 鉛直方向計算格子の分解能で評価することができた Central Research Institute of Electric Power Industry 17 6. 溢水を伴うスロッシングの解析例 ( その 2) 3 次元容器内のスロッシングの SLOSH-3D での解析の比較 Central Research Institute of Electric Power Industry 18
発生事象の映像記録 ( 東京電力殿提供 ) Central Research Institute of Electric Power Industry 19 スロッシング挙動のアニメーション例 青色部分 : 燃料プール内容水黄色部分 : オペレーティングフロア Z 軸 : プール底面からの高さ Z(m) Y(m) X(m) Central Research Institute of Electric Power Industry 20
映像記録のスナップショット ( 東京電力殿からの提供資料より ) 溢水が発生したと見られる箇所 Central Research Institute of Electric Power Industry 21 自由液面形状のスナップショット ( その 1) 三角波の発生箇所 Central Research Institute of Electric Power Industry 22
自由液面形状のスナップショット ( その 2) ( 低い視点からの描画例 ) スロッシング 1 次モードが支配的 Central Research Institute of Electric Power Industry 23 7. まとめ ه 溢水を伴う現象についての解析コードの2 次元版 (SLOSH-2D) と3 次元版 (SLOSH-3D) の開発を行った ه 実験などとの比較において 地震時の溢水を伴うスロッシング現象の再現が詳細にできることが検証された が ه ただし 溢水量の計算結果については 計算格子幅 ( とくに 鉛直格子幅 ) に依存する誤差を持つため 溢水量の正確な計算には 計算格子のかなりな細分化が必要であり 3 次元では実務レベルの計算機能力を超える ه しかしながら 溢水量の定性的変化やオーダー評価は 2 次元と3 次元を組み合わせることで可能である ه 今後は 入力の汎用化などを整備し 使い易いように実用化を図る Central Research Institute of Electric Power Industry 24