平成28年度 千臨技細胞診検査研究班精度管理報告

Similar documents
H29千臨技サーベイ 集計結果

第58回日本臨床細胞学会 Self Assessment Slide

各部門精度管理調査結果報告 ( 細胞検査 ) はじめに 細胞検査における精度管理調査は 日々のスクリーニング作業において誤判定を起こさないよう 自施設の判定基準が他施設と十分な同一性を保持しているかを確認することを目的としている 平成 30 年度の精度管理調査はフォトサーベイ 10 問としてた 精度

<4D F736F F F696E74202D2097E189EF90B893788AC7979D95F18D902E707074>

スライド 1

組織所見 ( 写真 4,5): 異型上皮細胞が間質および脂肪組織に索状, 管状に浸潤して おり, 浸潤性乳管癌 ( 硬癌 ) の所見である. 設問 2 78 歳, 女性. 左乳房上 C 領域の腫瘤 選択肢 1. 線維腺腫 2. 乳管内乳頭腫 3. 乳管癌 4. 小葉癌 5. 悪性リンパ腫 写真 4

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - ASC-Hの分析について.ppt

平成 30 年度青臨技細胞診精度管理調査報告書 八戸市立市民病院臨床検査科病理 須藤安史 はじめに 今年度の青臨技細胞診精度管理調査では フォトサーベイを実施した 評価対象問題では 各施設において細胞診業務を行う上で 日常遭遇する基本的な細胞像を適確に判定するための一定の水準と精度が保たれていること

(Microsoft Word \213\343\227\325\213Z\201i\215\327\226E\201j.doc)

問題 6 44 歳 女性 不正出血 子宮頸管 ブラシ擦過 1.NILM( 頸管腺細胞 ) 2.NILM( 扁平上皮化生細胞 ) 3.LSIL( 軽度異形成 ) 4.AIS ( 上皮内腺癌 ) 問題 7 49 歳 女性 腹部腫瘤 卵巣腫瘤 捺印 1. ブレンナー腫瘍 2. 顆粒膜細胞腫 3. 漿液性腺

<4D F736F F F696E74202D2089EF8AFA8CE38DB791D682A681478A7789EF2089F090E020284E58506F C E B8CDD8AB B83685D>

2. 分泌期内膜 3. 子宮内膜増殖症 4. 類内膜腺癌 G1 5. 漿液性腺癌 問題 6 43 歳 女性 不正出血 子宮内膜エンドサイト 1. 子宮内膜増殖症 2. 類内膜腺癌 G1 3. 類内膜腺癌 G3 4. 明細胞腺癌 5. 子宮内膜間質肉腫 問題 7 48 歳 女性 不正出血 子宮内膜吸引

設問1 子宮頚部擦過(TACAS)

テイーチングマッペ書式

平成20年度沖縄県医師会臨床検査精度管理調査

平成 29 年度細胞検査サーベイ報告 細胞 ( フォトサーベイ ) はじめに 今回の細胞検査は例年どおりフォトサーベイを行った 昨年度同様 各設問につき判定区分と推定病変を設け 回答していただくようにした また回答状況をよりよく把握するために わからないとした理由や細胞所見などを書いていただける欄を

ベセスダシステム2001の報告様式 ーASC-US、ASC-Hの細胞像と臨床的意義ー

細胞学的検査 はじめに 参加申し込みのあった登録衛生検査所 9 施設, 一般病院等 50 施設を対象に実施した. 回答があったのは登録衛生検査所が 9 施設, 一般病院等が 50 施設で合計 59 施設, 回収率は 100% であった. また, 参加施設数は昨年に比して登録衛生検査所が同数であったが

<4D F736F F D CB48D655F87562D31926E88E695DB8C928A E947882AA82F F4390B38CE32E646F6378>

高知赤十字病院医学雑誌第 2 2 巻第 1 号 年 5 原著 尿細胞診 Class Ⅲ(AUC) の臨床細胞学的検討 ~ 新報告様式パリシステムの適用 ~ 1 黒田直人 1 水野圭子 1 吾妻美子 1 賴田顕辞 2 奈路田拓史 1 和田有加里 2 宇都宮聖也 2 田村雅人

B精度管理_本文A4.indb

乳腺40 各論₂ 化膿性乳腺炎 (suppulative mastitis) 臨床像 授乳の際に乳頭の擦過創や咬傷から細菌が侵入し, 乳房に感染症を生じるものである 乳汁 排出不良によって起こるうっ滞性乳腺炎とは区別する 起炎菌は連鎖球菌や黄色ブドウ球菌である 自発痛, 腫脹, 硬結, 圧痛, 発赤

B精度管理_本文A4.indb

24臨床検査精度管理総括集_04.indd

問題 6 65 歳 女性 不正性器出血 子宮頸部 ブラシ擦過 1. HSIL( 中等度異形成 ) 2. HSIL( 上皮内癌 ) 3. AIS( 上皮内腺癌 ) 4. 非角化型扁平上皮癌 5. 小細胞癌 問題 7 75 歳 女性 不正性器出血 子宮内膜 ブラシ擦過 1. 角化型扁平上皮癌 2. 粘液

最初に事後指導項目規定をお示し致します これらは 陰性スメアに対して行っております まず 取り扱い項目は要医療 要治療の 2 項目あります 要医療扱いの細胞所見は 一つ目に 炎症を伴う強度細胞異型の見られるもの 二つ目として 萎縮像に炎症を伴った強度細胞異型の認められるもの 三つ目として 核異型の伴

<4D F736F F F696E74202D B893788AC7979D95F18D9089EF288DD E B8CDD8AB B83685D>

愛知県臨床検査標準化ガイドライン 細胞診アトラス 愛知県臨床検査標準化協議会 AiCCLS : Aichi Committee for Clinical Laboratory Standardization Aichi Committee for Clinical Laboratory Standa

モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の特性と

PowerPoint プレゼンテーション

れない 採取後 95% エタノールによって固定し パパニコロウ染色を実施した 標本は最初に細胞検査士によってスクリーニングされ 病理医によって確定診断された 細胞診標本の再評価は 著者と他 5 名の細胞検査士が行い病理医と評価した 判定はベセスダシステム 2001 に準拠し 上皮内腺癌の感度 scr

<4D F736F F D208DD F E8482BD82BF82CD82B182F182C88DD F082DD82C482A282DC82B72E646F63>

図 1 乳管上皮内癌と小葉上皮内癌 (DCIS/LCIS) の組織像 a: 乳頭状増殖を示す乳管癌 (low grade).b: 篩状 (cribriform) に増殖する DCIS は, 乳管内に血管増生を伴わない時は,comedo 壊死を形成することがあるが, 本症例のように血管の走行があると,

平成 23 年度千臨技細胞診検査研究班精度管理報告 EM /classⅡ 液状検体による細胞判定とえき LBC 法を用いた標本作製の評価 君津中央病院松尾真吾 千臨技細胞診検査研究班精度管理委員

バーチャルスライドセミナー 1 見なきゃ損するバーチャルスライド ピットフォールにはまり込むな! 症例番号 :3( 口腔擦過 ) 出題者田中瑞穂 ( 名古屋掖済会病院病理診断科 ) 症例番号 :4( 乳腺穿刺 ) 出題者今井律子 ( 公立西知多総合病院臨床検査科 ) 年齢 :70 歳代性別 : 男性

43048腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約第1版 追加資料

!"#$%&'() FNAC) CNB) VAB MMT!

PDF/開催および演題募集のお知らせ

病理 細胞診断セミナー 2 子宮頸部 腺系 症例番号 : 子宮腺 -1 出題者 : 仲本美智子 ( 公益財団法人東京都予防医学協会母子保健検査二科 ) 年齢 :20 歳代臨床所見 : 子宮がん検診, 最終月経より 18 日目, 月経周期不順採取部位 : 子宮膣部, 頸管採取方法 : 擦過 ( サーベ

院内がん登録について 院内がん登録とは がん ( 悪性腫瘍 ) の診断 治療 予後に関する情報を収集 整理 蓄積し 集計 解析をすることです 登録により収集された情報は 以下の目的に使用されます 診療支援 研修のための資料 がんに関する統計資料 予後調査 生存率の計測このほかにも 島根県地域がん登録


院内がん登録について 院内がん登録とは がん ( 悪性腫瘍 ) の診断 治療 予後に関する情報を収集 整理 蓄積し 集計 解析をすることです 登録により収集された情報は 以下の目的に使用されます 診療支援 研修のための資料 がんに関する統計資料 予後調査 生存率の計測このほかにも 島根県地域がん登録

症例4 消化器

16 岡山県臨床細胞学会 症 例 巨大嚢胞内の一部に良性乳管上皮を伴う男性乳癌の 1 例 成富真理, 畠 榮, 日野寛子, 高須賀博久, 物部泰昌 川崎医科大学附属川崎病院病理部 背景巨大嚢胞内腔側壁の一部に良性乳管上皮を伴う男性乳癌の1 例を経験したので, 細胞像を中心に報告する. 症例 70 代

/ NILM (negative for intraepithelial lesion or malignancy) IUD!"#$% CIN SIL(TBS*) &'()* +,'()* -'()*./01!"#$!"%&'#&(%&)*+'$,)(&-'./0001 2

HGB01訂N.mcd

筆頭演者の利益相反状態の開示 すべての項目に該当なし

EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

α

Microsoft PowerPoint - 印刷用 DR児玉2015 K-NET Kodama.ppt [互換モード]

がん登録実務について

第58回日本臨床細胞学会総会 スキルアップ講座 呼吸器(腺系以外)

参考文献 1. Hampe, J.F. and Misdorp, W. (1974) Tumours and dysplasias of the mammary gland. Bull WHO 50: Moulton, JE, (1990) Tumors of the Mamma

c 10 (1)May-Grünwald 染色液 10 (2)Giemsa 染色液 10 (3)1/15M リン酸緩衝液 (ph6.4) 11 d a 12 b 12 c % アルシアンブルー染色液 (ph2.5) 12 d 12 4 PAS periodic acid

目次 全部位の概要 - 部位別登録数 - 年齢階級 部位別登録数 - 来院経路 部位別登録数 - 患者住所 部位別登録数 - 症例区分 部位別登録数 - 発見経緯 部位別登録数 部位別詳細

目 次 はじめに... 独立行政法人国立病院機構北海道がんセンター臨床検査科病理主任平紀代美 Ⅰ. Liquid-based cytology(lbc) とは... 1 Ⅱ. 体腔液検体処理方法... 1 Ⅲ. 固定液の違いによる標本の違い (BD サイトリッチ レッド保存液 or BD サイトリッ

Microsoft PowerPoint - No4_スライド

質の高い病理診断のために 病理技術 診断基準の標準化を 目指した精度評価を実現します

Taro-18_2特別講演.jtd

日産婦誌61巻5号研修コーナー

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

例や経過観察して臨床的に推定 診断した症例は その診断に至る過程がわかるように説明し 考察すること 最終診断 簡潔に記載すること 貼付写真とシェーマによる説明 主要な超音波診断の根拠となり得る写真を数枚以内貼付すること 写真貼り付け方法は 紙焼き写真を糊付けしてもよいし 電子画像をコピー & ペース

プログラム 開会の辞 12:00 ~ 12:10 学術委員長伊東恭子 要望講演 12:10 ~ 13:20 ( ランチョンセミナー :( 株 )LSI メディエンス共催 ) 座長山野剛 ( 京都第二赤十字病院 ) 古市佳也 ( 京都市立病院 ) 泌尿器細胞診新しい報告様式 ~ 各カテゴリーの細胞像と

<4D F736F F F696E74202D208DD FC96E E B8CDD8AB B83685D>

「子宮頸癌取扱い規約 第3版/ 病理編」について

PowerPoint プレゼンテーション

32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

Microsoft PowerPoint - ★総合判定基準JABTS 25ver2ppt.ppt

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

子宮内膜細胞診従事者講習会 静岡

8 整形外科 骨肉腫 9 脳神経外科 8 0 皮膚科 皮膚腫瘍 初発中枢神経系原発悪性リンパ腫 神経膠腫 脳腫瘍 膠芽腫 頭蓋内原発胚細胞腫 膠芽腫 小児神経膠腫 /4 別紙 5( 臨床試験 治験 )

細胞診クラス分類 日本母性保護産婦人科医会 1978年 子宮頸部細胞診報告様式改定 クラス クラス Ⅰ クラス Ⅱ クラス Ⅲ Ⅲa 正常 異常細胞を認めるが良性 悪性を疑うが断定できない 悪性を少し疑う 軽度 中等度異形成を推定 このクラスから5 程度に癌が検出される Ⅲb 悪性をかなり疑う 高度

10. がんの部位別死亡率で誤っている組み合わせはどれですか. A. 肺癌は男女共に増加傾向にある. B. 胃癌は男女共に減少傾向にある. C. 大腸癌は男女共に減少傾向にある. D. 女性の乳癌は増加傾向にある. 4.C.D E. 肝臓癌は男女共に減少傾向にある. 11. 核に陽性所見を示す抗体を

モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の特性と

<4D F736F F D2091E63789F192B796EC8A6791E593E08E8B8BBE8CA48B8689EF82DC82C682DF>

NEO_list.txt - メモ帳

本文id11.indd

PowerPoint プレゼンテーション

実地医家のための 甲状腺エコー検査マスター講座

No

【登録総数】

調査 統計 歯科治療における細胞診の有用性 - 東京歯科大学千葉病院臨床検査部における細胞診の統計 - 1),2) 村上聡 * 松坂賢一 1),3) 監物真 3) 塚本葉月 1) 田村美智 1) 秦暢宏 川原由里香 1) 草野義久 1) 劉潁鳳 1) 杜岩 1) 辛承一 1) 井上孝 1) 東京歯科

乳管内乳頭腫!"#$!"%&'( )*+,-./,01/ /789:;/<=> 乳頭腫 乳頭状癌 二種類の細胞 一種類の細胞 アポクリン化生あり アポクリン化生なし 核クロマチン正 複雑な腺管構造 明瞭な間質結合織が介在 ghij "kl?ma ef" -cd bcd 平滑筋アクチン

PowerPoint プレゼンテーション

子宮頸部細胞診新報告様式について 子宮頸癌 子宮頸部細胞診における ベセスダシステム 2001 導入の意義 ー病理医の立場からー 早期発見が可能となった 本邦女性の死亡数は減少している しかし 20代 30代女性の罹患数や死亡数が増加 この年代においては 臓器別では最多 川崎医科大学 病理学2 現代

27愛知県臨床検査精度管理総括集_08細胞検査部門

目次 1 部位別登録件数 2 部位別 性別登録件数( 上位 10 部位 ) 3 部位別 年齢階層別登録件数( 上位 10 部位 ) 4 部位別 組織型別登録件数 5 部位別診断時ステージ分布( 主要 5 部位 ) 6 部位別 治療行為別登録件数( 上位 10 部位 行為別件数上位 5 項目 ) 7

Microsoft Word 病理所見の書き方(実習用).docx

参考資料2 平成19年度被認定者に関する医学的所見等の解析及びばく露状況調査業務報告書 医学的所見等の解析調査編

原 著 最近の動向から見た子宮頸がん検診の判定と事後指導に対する提案 人間ドック 26: , ,4) 岩﨑武輝 1,5) 奥村次郎 1,6) 山本嘉昭 松井 1,2) 薫 1,2) 水口善夫 1,3,7) 宇野正敏 要約 キーワード 目的 : 今までの子宮頸部細胞診のいわゆる

付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

第 38 回岡山県臨床細胞学会のご案内 ( 第 1 次 ) 第 38 回岡山県臨床細胞学会を下記の通り開催いたしますので, ご案内申し上げます. 記 1. 期日 : 平成 30 年 7 月 7 日 ( 土 ) 2. 会場 : 岡山大学医学部臨床講義棟 2F 第 1 講義室 3. 学会事務局 : 70

Photo. 1 大脳皮質 / 圧挫標本 a) パパニコロウ染色 (Pap, 対物 40) 正常組織では, 神経細胞, 星膠細胞, 乏突起膠細胞がバランスよく出現しているが, 胞体や突起, 線維とも不明瞭である. 神経基質は微細な網目状構造として認める. b) GFAP 免疫染色 (GFAP, 対物

松江市立病院 院内がん登録 2017 年 診断症例報告書

部位別 施設名 総数 がん診療連携拠点病院院内がん登録 2014 年集計 口腔咽頭 食道胃結腸直腸大腸肝臓 胆嚢胆管 膵臓喉頭肺 埼玉県立がんセンター 3, さいたま赤十字病院 1,456-2

Transcription:

平成 28 年度 千臨技細胞診検査研究班精度管理報告 青野卓矢 ( 千葉県がんセンター ) 千臨技細胞診検査研究班精度管理委員

目的 自施設内及び施設間の判定基準の較差を検討し, 問題の把握 改善を行うとともに, 細胞判定基準等の概念の共有化を図る. 参加 46 施設 方法 1. インターネットを利用したフォトサーベイを実施し, 同定問題 10 例 ( 評価対象 ), 教育症例 3 例 ( 評価対象外 ) を提示した. 2. 精度管理調査等について, アンケートを実施した. 研究班内でプレサーベイを実施し, 画像や選択肢の適 不適をより客観的に判断できるよう努めた. 同定問題で提示する画像を 4 枚に変更した. 各設問に難易度アンケートを追加した.

同定問題

設問 1 年齢 :30 代性別 : 女性採取部位 ( 方法 ): 子宮頸部 ( ブラシ擦過 ) 臨床所見 : 健診で異常を指摘 1. NILM: 修復細胞 2. LSIL: 軽度異形成 3. HSIL: 上皮内癌 44/45 施設 :97.8% 4. SCC: 非角化型扁平上皮癌 1/45 施設 :2.2% 5. Adenocarcinoma: 内頸部型粘液性腺癌 60 倍 100 倍 60 倍 100 倍

設問 2 年齢 :50 代性別 : 女性採取部位 ( 方法 ): 子宮頸部 ( ブラシ擦過 ) 臨床所見 : 不正性器出血 1. NILM: 良性頸管腺細胞 2. HSIL: 高度異形成 1/45 施設 :2.2% 3. SCC: 非角化型扁平上皮癌 4. Adenocarcinoma: 内頸部型粘液性腺癌 44/45 施設 :97.8% 5. Other malig.: 小細胞癌 60 倍 100 倍 100 倍 100 倍

設問 3 年齢 :60 代性別 : 女性採取部位 ( 方法 ): 子宮頸部 ( 綿棒擦過 ) 臨床所見 : 不正性器出血 1. LSIL: 軽度異形成 2. HSIL: 上皮内癌 3. SCC: 非角化型扁平上皮癌 45/45 施設 :100.0% 4. Adenocarcinoma: 内頸部型粘液性腺癌 5. Other malig. : 小細胞癌 20 倍 20 倍 40 倍 40 倍

設問 4 年齢 :50 代性別 : 女性採取部位 ( 方法 ): 卵巣 ( 腫瘍捺印 ) 臨床所見 :10cm 大の卵巣腫瘍 1. 漿液性腺癌 2. 粘液性腺癌 1/45 施設 :2.2% 3. 類内膜腺癌 4. 明細胞腺癌 44/45 施設 :97.8% 5. ディスジャーミノーマ 20 倍 40 倍 PAS 反応 40 倍 40 倍

設問 5 年齢 :70 代性別 : 男性採取部位 ( 方法 ): 気管支 ( 擦過 ) 臨床所見 : 胸部異常陰影 1. 基底細胞増生 2. 扁平上皮癌 3. 腺癌 41/45 施設 :91.1% 4. 大細胞神経内分泌癌 4/45 施設 :8.9% 5. カルチノイド腫瘍 20 倍 60 倍 60 倍 60 倍

腺癌と大細胞神経内分泌癌の細胞像の比較 腺癌 大細胞神経内分泌癌 20 倍 20 倍 泡沫状の細胞質を持つ. 不規則重積集塊で出現している. 細胞は多形性に富む. シート状配列から裸核状, 孤立性に出現している. 核線を伴いやすい.

腺癌 大細胞神経内分泌癌 60 倍 60 倍 腺腔様構造を呈する. 核の偏在傾向と核辺縁肥厚, 核小体腫大を呈する. 核辺縁は比較的薄い. 粗顆粒状から細顆粒状のクロマチンパターンを呈する.

設問 6 年齢 :70 代性別 : 男性採取部位 ( 方法 ): 膀胱洗浄液 ( フィルター法 ) 臨床所見 : 肉眼的血尿 1. 反応性尿路上皮細胞 1/45 施設 :2.2% 2. 低異型度尿路上皮癌 1/45 施設 :2.2% 3. 高異型度尿路上皮癌 43/45 施設 :95.6% 4. 腺癌 5. 小細胞癌 20 倍 40 倍 40 倍 40 倍

設問 7 年齢 :30 代性別 : 男性採取部位 ( 方法 ): 右耳下腺 ( 穿刺吸引 ) 臨床所見 : 右耳下部腫脹 1. 多形腺腫 44/45 施設 :97.8% 2. 筋上皮腫 1/45 施設 :2.2% 3. ワルチン腫瘍 4. 腺房細胞癌 5. 粘表皮癌 Giemsa 染色 10 倍 Giemsa 染色 40 倍 10 倍 40 倍

設問 8 年齢 :60 代性別 : 男性採取部位 ( 方法 ): 腹水臨床所見 : 腹部膨満 1. (A) 組織球, (B) 反応性中皮細胞 1/45 施設 :2.2% 2. (A) 組織球, (B) 腺癌細胞 41/45 施設 :91.1% 3. (A) 組織球, (B) 悪性中皮腫 4. (A) 反応性中皮細胞, (B) 腺癌細胞 3/45 施設 :6.7% 5. (A) 反応性中皮細胞, (B) 非ホジキンリンパ腫 20 倍 PAS 反応 40 倍 40 倍 40 倍

設問 9 年齢 :50 代性別 : 男性採取部位 ( 方法 ): 胆汁臨床所見 : 総胆管下部狭窄 1. 正常 ~ 良性 42/45 施設 :93.3% 2. 管状腺癌 3/45 施設 :6.7% 3. 粘液癌 4. 印環細胞癌 5. 腺扁平上皮癌 10 倍 20 倍 60 倍 60 倍

設問 10 年齢 :60 代性別 : 女性採取部位 ( 方法 ): 歯肉 ( 創部嚢胞内容物吸引 ) 臨床所見 : 口腔癌術後 9ヶ月 1. 炎症性変化 2. 歯根嚢胞 1/45 施設 :2.2% 3. 類表皮嚢胞 4. 扁平上皮癌 44/45 施設 :97.8% 5. 鑑別不可 20 倍 40 倍 20 倍 40 倍

各設問の正解率 (%) 設問 1 設問 2 設問 3 設問 4 設問 5 設問 6 設問 7 設問 8 設問 9 設問 10

総合評価 設問ごとに, 正解を 1 点, 不正解を 0 点とし, 設問 1 から 10 までの合計を算出した. 10~9 点を総合評価 A,8 点を B,7 点を C,6~0 点を D とした. 総合評価 A 41 施設 基準 を満たし, 極めて優れている 総合評価 B 2 施設 基準 を満たしているが, 改善の余地あり 総合評価 C 1 施設 基準 を満たしておらず改善が必要 総合評価 D 1 施設 基準 から極めて大きく逸脱し, 早急な改善が必要

難易度アンケート 1. 設問画像の所見から迷わず解答できた 2. 設問画像の所見と選択肢から, 消去法で解答した 3. 複数の候補が挙がり, 解答に迷った 4. 解答が分からなかった 5. 上記のいずれにも当てはまらない

難易度アンケート結果 ( 施設数 ) 40 35 30 25 3 8 51 10 2 設問 5 6 36 6 7 4 3 正解不正解 6 5 8 9 1 設問 6 13 29 4 9 5 4 5 正解不正解 3. 解答に迷った 4. 解答がわからなかった 5. 上記以外 2. 消去法で解答 20 15 33 29 36 31 37 30 30 27 30 35 1 設問 8 1. 迷わず解答 10 5 26 正解 不正解 0 設問 1 設問 2 設問 3 設問 4 設問 5 設問 6 設問 7 設問 8 設問 9 設問 10

正解率の比較 100 90 98 98 100 98 91 96 98 91 93 98 80 70 60 73 64 80 69 80 64 67 58 67 78 解答が正解 かつ 迷わず解答できた を選択した 50 正解率 40 30 20 10 0 設問 1 設問 2 設問 3 設問 4 設問 5 設問 6 設問 7 設問 8 設問 9 設問 10

教育症例

教育症例 1 年齢 :70 代性別 : 男性採取部位 ( 方法 ): 自然尿 ( 二回遠心法 /YM 固定 ) 臨床所見 : 肉眼的血尿. 腹部超音波検査で膀胱壁に, 豊富な血流を有する腫瘤を認める. 20 倍 60 倍

60 倍 60 倍 1. 不適正 2. 陰性 2/42 施設 :4.8% 3. 異型細胞 7/42 施設 :16.7% 4. 悪性疑い 17/42 施設 :40.5% 5. 悪性 16/42 施設 :38.1% 解答 : 3. 異型細胞 4. 悪性疑い 5. 悪性 40/42 施設 :95.2%

膀胱鏡所見 左尿管口部に広基性乳頭状腫瘍を認める.

組織像 組織診断 :Invasive urothelial carcinoma,grade1

細胞所見 臨床所見 背景は清明. 核形不整を呈する中層型尿路上皮細胞が単調な パターンで散在性に出現している. アンブレラ細胞の付着は明らかでない球状集塊. 肉眼的血尿. 超音波検査 豊富な血流を有する腫瘤. 高異型度尿路上皮癌を示唆しない細胞異型の出現. 低異型度尿路上皮癌 (LGUC) 新報告様式 泌尿器細胞診報告様式 2015 に基づき 3. 異型細胞 ~ 5. 悪性が適当となる.

フリーコメント N/C 比が高い 17 重積性集塊 15 クロマチン増量 13 中層 ~ 深層細胞主体 12 核小体 ( 明瞭 腫大など ) 12 核偏在傾向 3 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

教育症例 2 年齢 :60 代性別 : 女性 採取部位 ( 方法 ): 右乳腺 ( 穿刺吸引 ) 臨床所見 : 右乳腺腫瘤 20 倍 100 倍

40 倍 100 倍 1. 乳管内乳頭腫 2. 硬癌 3/42 施設 :7.1% 3. 浸潤性小葉癌 38/42 施設 :90.5% 4. 粘液癌 5. 非ホジキンリンパ腫 1/42 施設 :2.4% 解答 :3. 浸潤性小葉癌

フリーコメント 2. 硬癌 3. 浸潤性小葉癌 結合性 ( 緩い 弱い 見られない ) 18 核クロマチンは顆粒状 ~ 粗顆粒状 1 クロマチン ( 微細顆粒状 ) 12 数珠状配列 8 核と核が線で接するような結合 1 ICL がみられる 5 核偏在 2 0 1 2 0 5 10 15 20

小葉癌 硬癌 40 倍 40 倍 60 倍 60 倍

組織像と免疫組織化学染色 40 倍 E-cadherin 組織診断 :Invasive lobular carcinoma scirrhous type,nuclear grade 2

教育症例 3 (VS 問題 ) 年齢 :50 代性別 : 女性採取部位 ( 方法 ): 子宮体内膜 ( エンドサイト ) 臨床所見 : 不正性器出血染色 :Pap. 染色 10 倍 20 倍

40 倍 60 倍 1. 子宮内膜増殖症 2/41 施設 :4.8% 2. 類内膜腺癌 36/41 施設 :85.7% 3. 粘液性腺癌 2/41 施設 :4.8% 4. 小細胞癌 5. 癌肉腫 1/41 施設 :2.4% 解答 :2. 類内膜腺癌

フリーコメント 2. 類内膜腺癌 樹枝状集塊 ( ほつれ 突出 ) 12 乳頭状構造 10 不規則重積 8 クロマチン増量 6 核小体明瞭 4 0 2 4 6 8 10 12 14

組織像 組織診断 :Endometrioid adenocarcinoma,grade2

精度管理アンケート結果

アンケート結果 1-1. ひとつの設問につき,4 枚の画像を提示したことについてこれまでと比較して画像の枚数は適当と思われますか. 適当である 43 多すぎる 1 少なすぎる 0 1-2. 毎年行われる細胞診検査の精度管理調査 ( 外部精度管理 ) を行う目的について一番近いものをお選び下さい. ある一定レベルの細胞判定を維持する為 35 施設から業務の一環として指示がある為 5 各種学会等の認定を受ける為 2 難解症例を経験し, 施設 ( 個人 ) のレベルアップの為 1

アンケート結果 2-1. 施設に指導医がいますか. 常勤 28 非常勤 7 いない 8 2-2. 指導医が いない と回答された施設にお聞きします. 臨床的に病名診断が必要と判断される症例又は疑陽性例以上の結果報告はどのようにしていますか. 病理医のチェック 4 外部指導医のチェック 3 臨床医のチェック 0 その他 1

アンケート結果 3.1 日の検鏡枚数は平均何枚ですか. 50 枚以上 ~100 枚未満 23 50 枚未満 20 100 枚以上 1 4. 陰性報告書に細胞検査士以外の署名を行っていますか. 細胞診専門医 指導医 ( 非常勤 外部指導医を含む ) 19 病理医 13 臨床医 0 行っていない その他 10

アンケート結果 5-1. 陰性標本の細胞検査士間ダブルチェックを行っていますか. 行っている 35 行っていない 9 5-2. 行っている と答えた施設にお聞きします. どの程度の割合でダブルチェックを行っていますか. ほぼ全例 20 全体の 25% 程度ないしそれ未満 12 全体の半数程度 3 全体の 75% 程度 0

アンケート結果 6-1. 過去の報告書やデータの検索ができますか. 容易にできる 32 手間はかかるができる 12 できない 0 6-2. 6 1. で 容易にできる と答えた施設にお聞きします. 報告書やデータはどのように保管していますか. 過去から現在までの全てを電子化して保存している 13 過去から現在まで一部を報告用紙として保管している 13 期限付きで紙カルテとして保存している 0 その他 4 7. 少なくとも年に 1 回施設内での症例検討会を行いその記録を保存していますか. 行っていないが技師会等の合同検討会へは参加している 22 行い記録を保存している 10 行っているが記録は保存していない 5

1-1. ひとつの設問につき,4 枚の画像を提示したことについてこれまでと比較して画像の枚数は適当と思われますか. 適当である 43 1-2. 毎年行われる細胞診検査の精度管理調査 ( 外部精度管理 ) を行う目的について一番近いものをお選び下さい. ある一定レベルの細胞判定を維持する為 35 2-1. 施設に指導医がいますか. 常勤 28 2-2. 指導医が いない と回答された施設にお聞きします. 臨床的に病名診断が必要と判断される症例又は疑陽性例以上の結果報告はどのようにしていますか. 病理医のチェック 4 3. 1 日の検鏡枚数は平均何枚ですか. 50 枚以上 ~100 枚未満 23 4. 陰性報告書に細胞検査士以外の署名を行っていますか. 細胞診専門医 指導医 ( 非常勤外部指導医を含む ) 19 5-1. 陰性標本の細胞検査士間ダブルチェックを行っていますか. 行っている 35 5-2. 行っている と答えた施設にお聞きします. どの程度の割合でダブルチェックを行っていますか. ほぼ全例 20 6-1. 過去の報告書やデータの検索ができますか. 容易にできる 32 6-2. 6 1. で 容易にできる と答えた施設にお聞きします. 報告書やデータはどのように保管していますか. 過去から現在までの全てを電子化して保存している 過去から現在まで一部を報告用紙として保管している 13 13 7. 少なくとも年に 1 回施設内での症例検討会を行い, その記録を保存していますか. 行っていないが技師会等の合同検討会へは参加している 22

まとめ フォトサーベイ全体の平均正解率は 96.0% と良好な結果であった. 難易度アンケートの結果から A 評価の 2 施設が, 不正解の解答で 設問画像の所見から迷わず解答できた を選択していた. この事から,A 評価であっても細胞診検査の精度管理の観点からもう一度, 細胞判定を見直す必要があると考えられた. 同定問題において, 症例によっては強拡大の所見, 複数視野の所見が必要になる場合も考えられるため提示する画像を増やし 4 枚としたが, 精度管理アンケートの結果からは適切であると思われた. 教育症例の出題意図として近年正解率の低い領域から出題した. 臨床所見や細胞所見から総合的に考え, 判定できるように問題の作成を心掛けた. 結果, 症例 1( 正解率 95.2%), 症例 2( 正解率 90.5%) は良好であったが, 症例 3( 正解率 85.7%) はやや低い値であった.

今後の課題 今回実施した難易度アンケート 教育症例問題等, 地域レベルで行う利点を 生かし, 各施設内での細胞判定基準の統一化に貢献出来る精度管理事業 をこれからも検討し実施していきたい. 又研究班活動として, 施設間差是正, 判定基準等の橋渡しが出来る研修会, 検討会 報告会を企画し, 県内の標本作製技術及び判定基準の統一化を 目指していきたい.

謝辞 今年度の精度管理に参加していただいた施設の 皆様に感謝いたします. 千臨技細胞診検査研究班精度管理委員 田中雅美 ( 津田沼中央総合病院 ) 須藤一久 ( 千葉県立佐原病院 ) 若原孝子 ( 帝京大学ちば総合医療センター ) 青野卓矢 ( 千葉県がんセンター ) 加瀬大輔 ( 成田赤十字病院 ) 神原亜季 ( 東京歯科大学市川総合病院 ) 今野真緒 ( 千葉細胞病理診断センター ) 下境博文 ( 千葉県済生会習志野病院 ) 中村博 ( 順天堂大学医学部附属浦安病院 ) 三橋涼子 ( 千葉市立青葉病院 )