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新株予約権発行に関する取締役会決議公告

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式質権者 ( 以下 優先株質権者 という ) に対し 普通株式を有する株主 ( 以下 普通株主 という ) または普通株式の登録株式質権者 ( 以下 普通株質権者 という ) に先立ち 発行価額に 100 分の 10 を乗じた金額を 当該事業年度における上限として 発行に際して取締役会で定める額の配

に相当する金額を反映して分割対価が低くなっているはずですが 分割法人において移転する資産及び負債の譲渡損益は計上されませんので 分割法人において この退職給付債務に相当する金額を損金の額とする余地はないこととなります (2) 分割承継法人適格分割によって退職給付債務を移転する場合には 分割法人の負債

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て 次に掲げる要件が定められているものに限る 以下この条において 特定新株予約権等 という ) を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権等に係る株式の取得をした場合には 当該株式の取得に係る経済的利益については 所得税を課さない ただし 当該取締役等又は権利承継相続人 ( 以下この項及

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る (445Ⅲ) また 組織再編に際しては 設立会社や存続会社において資本金の額に関する事項を定める (749Ⅰ2イ 753Ⅰ6 758Ⅰ4イ 763Ⅰ6 768Ⅰ2イ 773Ⅰ5) ここでの資本金の額の定め方は 会社計算規則に従う (445Ⅳ 計算規則 35 以下 ) (4) 資本金の額の減少上記

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五有価証券 ( 証券取引法第二条第一項に規定する有価証券又は同条第二項の規定により有価証券とみなされる権利をいう ) を取得させる行為 ( 代理又は媒介に該当するもの並びに同条第十七項に規定する有価証券先物取引 ( 第十号において 有価証券先物取引 という ) 及び同条第二十一項に規定する有価証券先

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2. 制度の概要 この制度は 非上場株式等の相続税 贈与税の納税猶予制度 とは異なり 自社株式に相当する出資持分の承継の取り扱いではなく 医療法人の出資者等が出資持分を放棄した場合に係る税負担を最終的に免除することにより 持分なし医療法人 に移行を促進する制度です 具体的には 持分なし医療法人 への

2. 本制度の仕組み 株式市場 残余財産の給付残余株式の無償譲渡 消却94 当社株式 4 代金の支払 1 本株主総会決議 54配代当金の支6 委託者 議決権不行使の指図8当社 受託者( 共同受託 ) ( 予定 ) 三菱 UFJ 信託銀行 日本マスタートラスト信託銀行 BIP 信託 当社株式 金銭 4

第 6 章企業内容開示制度 我が国の開示制度には 主として金融商品取引法に基づく開示制度と会社法に基づく開示制度とがあります 企業には株主 債権者 投資者等の多数の利害関係者が存在しており 企業の財務内容に強い関心を抱いています そして これら利害関係者に対して企業内容を開示する必要があるため 金融

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[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

社法の成立に伴い行われた法改正 ) により 10 万円を特定目的会社の最低資本金の額としていた最低資本金制度の規定は削除されたため 法律上は 特定資本金の額はいくらでもよい (1 円でもよい ) しかし 現在でも特定資本金の額を 10 万円としているケースが多い もっとも 資産の流動化に係る業務の終

085 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 新株予約権 少数株主持分を株主資本に計上しない理由重要度 新株予約権を株主資本に計上しない理由 非支配株主持分を株主資本に計上しない理由 Keyword 株主とは異なる新株予約権者 返済義務 新株予約権は 返済義務のある負債ではない したがって

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1 繰越控除適用事業年度の申告書提出の時点で判定して 連続して 提出していることが要件である その時点で提出されていない事業年度があれば事後的に提出しても要件は満たさない 2 確定申告書を提出 とは白色申告でも可 4. 欠損金の繰越控除期間に誤りはないか青色欠損金の繰越期間は 最近でも図表 1 のよ

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日本基準でいう 法人税等 に相当するものです 繰延税金負債 将来加算一時差異に関連して将来の期に課される税額をいいます 繰延税金資産 将来減算一時差異 税務上の欠損金の繰越し 税額控除の繰越し に関連して将来の期に 回収されることとなる税額をいいます 一時差異 ある資産または負債の財政状態計算書上の

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Transcription:

資本金の果たす役割と最低資本金の撤廃について ( 文責 : 土橋正 ) 始めに資本金が100 億円の会社 Aと資本金 1 億円の会社 Bがあったときに A と取引をする方が安全だと思う人が多い もちろん 資本金が多ければそれに見合う財産があるという前提をとるのであればその見方も妥当するが 資本金に果してそのような機能があるのであろうか 大型倒産の場合には負債総額数百億円というようなこともあり 資本金を大きく上回る負債が生ずるケースもある 以下では 資本金の果たす役割と最低資本金制度の撤廃について解説する なお 本学の法学部 法学研究科では中国の諸大学 大学院と積極的な交流を図っているが 中国でも最近なされた最低資本金の撤廃に関して賛否の議論が活発となっている 1. 資本金制度の変遷会社 ( 以下では 会社 とは株式会社をいう ) の資本金については 明治 32 年商法 120 条が興味深い規定であり 定款で資本の総額を定めた上で これを1 株の額面金額 ( この当時は額面株式しかなかった ) で除して発行株式数が算出されることとしていた 資本ノ總額 と 一株ノ金額 は定款の絶対的記載事項であり 一株ノ金額 発行株式数 = 資本金額 という関係にあった その後 昭和 25 年の商法改正により授権資本制がとられることとなり 資本金額は定款の絶対的記載事項からはずされ 株式の発行予定総数が絶対的記載事項になった (166 条 ) そして この改正においては 従来の額面株式に加えて無額面株式が導入されることとなったが これにより 資本金の計算は この二つによって異なることとなった すなわち 額面株式の場合には額面金額の総額が資本金とされたが 無額面株式についてはそもそも額面金額がないので 発行価額の総額 ( 厳密に言えば 現物出資もあるので 払込と給付の総額 ということになるが 以下では発行価額の総額という ) が資本金とされた しかし 額面株式には超過発行がされることがあり 例えば額面 5 万円の株式を7 万円で発行す -1-

れば2 万円の超過が生じ その2 万円は払込剰余金 = 資本剰余金とされたが これとの均衡上 ( 無額面株式の利用にインセンティブを与えるためにということでもある ) 無額面株式についても会社設立時ならば発行価額の25% 以下を資本金としないことも認められることとなった いずれにしても 資本金額を先に決めた上で一株の額面金額によって発行する株式数を決めるという従来の方式は 無額面株式の導入によりとられる余地はなくなった なお 額面株式については 従来から額面株式が資本金とされ 額面を超過して発行された場合にはその超過部分は資本準備金とされていたが その結果 極端に言えば 額面 5 万円の株式が20 万円で発行された場合に 資本金は5 万円 資本準備金は15 万円となるので 資本金と資本準備金の比率が後者の方が多いという事態が生ずるようになった これに対して 無額面株式を20 万円で発行した場合には最大でも25%(5 万円 ) しか資本準備金にすることができないので 資本金は15 万円 資本準備金は5 万円ということになり 額面株式と無額面株式の間でアンバランスが生ずるようになった そこで 昭和 56 年の商法改正では 額面株式についても無額面株式と同じように 発行価額の総額を資本金とした上で 無額面株式でも額面株式でもその発行価額の50% を超えない額を資本準備金とすることができるものとした ( 但し 額面株式については額面相当額を資本に組み入れるものとされ 無額面株式については最低 5 万円は資本に組み入れるものとされていた 284 条ノ2 第 1 項 第 2 項 ) その後 平成 13 年商法改正により額面株式が廃止されたため 額面 という概念がなくなり 額面が資本金額の決定に意味をもつという制度そのものも廃止された このように 資本金については実際の株式の発行価額の総額をベースに決定することになったが この考え方は平成 18 年会社法でも踏襲されている すなわち同法 445 条 1 項は 株式会社の資本金の額は この法律に別段の定めがある場合を除き 設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする としている そして 同条第 2 項において 払込み又は給付に係る額の50% 以下を資本金として計上しないことができるものと -2-

し ( 同条 2 項 ) 資本に計上しない分については資本準備金として計上しなければならないものとしている 2. 資本金の果たす役割資本金には は配当規制としての機能がある すなわち 会社法はまず 剰余金 の概念を設ける これは 基本的には (1 資産の額 +2 自己株式の帳簿価額の合計額 ) から (3 負債の額 +4 資本金と準備金の額の合計額 +5その他省令で定められる額 ) を差し引くものである (446 条 1 項 1 号 ) これを簡略すれば 資産額- 負債額 - 資本金 準備金額ということになり 純資産から資本金 準備金を差し引いたものが剰余金とされている そして この基本構造に 6 自己株式を処分した場合の増加 ( 同 2 号 ) 7 資本減少の場合の増加 ( 同 3 号 ) 8 準備金減少の場合の増加 ( 同 4 号 ) を加算し 9 自己株式消却の場合 ( 同 5 号 ) 10 剰余金の配当をした場合 ( 同 6 号 ) 11 省令で定められる額を減算して剰余金を算出することになる 会社はこの剰余金を配当することができるが (454 条 ) その他に剰余金の額を減少して資本金の額を増加したり (450 条 ) 準備金の額を増加したり (451 条 ) 損失の処理 任意積立金の積立てにあてる(4 52 条 ) こともできる このように 会社は剰余金を配当することができるが その配当額は 分配可能額 を超えてはならないものとされており (461 条 1 項 ) 分配可能額は 臨時計算書関係を除けば 1 剰余金 ( 同 2 項 1 号 )-2 自己株式の帳簿価額 ( 同 2 項 3 号 )- 最終事業年度の末日後に自己株式を処分した場合における処分の対価 ( 同 2 項 4 号 )- 省令で定められる金額 ( 同 2 項 6 号 ) として計算される 自己株式の処分がない場合には 剰余金- 省令で定められる金額 ということになる 資本金は剰余金の算出及びそれを前提とした分配可能額の算出に影響するものであり 配当を規制する機能を有している 例えば 資産 100 億円 負債 200 億円 資本金 100 億円 ( 純資産の部に計上される ) とした場合には この会社は200 億円の欠損を生じており 会社は配当をすることができない この会社が配当することができるのは 資産が300 億円を超えた場合であり 例えば純資産が320 億円の場合には 剰余金 -3-

が20 億円生ずるので これを元に算出される分配可能額の範囲内で配当をすることができる 資本金は会社の元手であって 資本金が100 億円ということは 10 0 億円に見合う財産が本来あるはずである しかし 200 億円の欠損があるような状態であれば本来あるはずの財産はないということになるが このようなことは大いにあり得るものであって 資本金 100 億円の会社が負債総額 2000 億円で破産ということも現実にある ( 大型倒産の例 ) そうであれば 資本金には 会社の資産を負債と共に拘束する という機能すなわち元手分が確保されなければ配当できないという機能しかないことになる 従って 債権者保護という観点からは 欠損状態であるのに配当がされて会社財産が社外に流出することを防止するという消極的な役割しかないことになる そして 仮に資本金に見合う財産を確保して債権者保護を図ろうとするならば 欠損状態になった場合には増資などをしてその欠損を解消して資本金に見合う財産を確保するよう強制するしかないが これは現実的ではない 3. 最低資本金制度 1990 年 ( 平成 2 年 ) 商法改正においては 最低資本金制度が導入され 株式会社については1000 万円が最低資本金額として定められた しかし このような最低資本金制度は 2006 年 ( 平成 18 年 ) で廃止された その際の議論としては 最低資本金制度の果たす機能についての議論があった すなわち 改正にあたっての法制審議会では 1 設立時の出資額の下限額に関する規制 2 利益配当等を行う場合における純資産額規制 3 資本の額として表示し得る額の下限規制という観点からの最低資本金の意義の検討がなされた 2は既に上記で説明しているが 1については濫設の懸念 法人格の濫用の懸念によるものであり 3については純資産額が資本の額に満たない場合には会社を解散させたり増資を義務付けることを意味する そして 2については上記のように会社法で配当規制として定めること -4-

とし 1についても法人格の濫用規制や他の制度による会社債権者保護を図るべきとされ また3についてはそのような規制は不合理であるとされた そして 資本金は配当規制について意味を有するが 他方において資本減少手続などにより剰余金を増加すれば配当は可能となるため 設立時において最低資本金を要求してもあまり意味はないことになる そこで 最低資本金制度を廃止して 資本金の最低額を定めないこととしたのである 上記のように 最低資本金制度を撤廃する際の議論として会社の濫設の懸念が示された しかし 資本金の最低額を1000 万円としていたときでも 見せ金 によって会社を設立することは可能であった 見せ金 とは会社設立にあたって必要な金銭を借り入れて 実質的には会社の利益から返済するというものであり ( 形式的に借り入れるのは発起人であり 発起人はその後経営者として会社から報酬や配当を受けてこれを返済することになるが ) 借入れができるのであれば設立は容易であって 最低資本金制度を設けても濫設の恐れが解消される訳ではない むしろ 優秀な技術がありながら財産がなく借入れもできない者にとっては 創業の足かせになるという悪影響がある しかし 会社の濫設や法人格の濫用については 最低資本金の撤廃により会社債権者の保護が欠ける事態は避けなければならない そのためには まず法人格否認の法理も考えられる しかし 日本ではこの法理は明文化されておらず 一時は判例において用いられたこともあったが 現在の判例の主流は個々の規定を類推適用したり拡張解釈することにより同じ結論を導く傾向にある また 会社の濫設や法人格の濫用があった場合には 役員等の第三者に対する責任 (429 条 1 項 ) により会社債権者を保護することも必要であるが 同条は取締役や監査役などの責任を定めるものであり 会社を濫設して法人格を濫用する者が取締役等の役員にならず 背後で実質的経営者として経営を行っているときには 民法の不法行為による損害賠償責任 ( 民法 709 条 ) で対応するしかない この点で 会社法は十分に対応していないので 何らかの立法も必要になろう これらのことは 会社が破綻した場合のいわば事後的に会社債権者を救 -5-

済する手段である しかし 会社債権者が会社と取引を行う前に 予防的に自己を防衛することも必要である 大会社 ( 資本金 5 億円以上又は負債総額 200 億円以上の会社 2 条 6 号 ) には公認会計士又は監査法人である会計監査人がおかれており (328 条 1 項 2 項 ) その監査結果はある程度信頼ができるものであるが 大会社以外の会社では計算書類の信頼性には疑問もある もちろん 虚偽の計算書類が作成された場合には 取締役や監査役 ( 置かれている場合 ) に対する損害賠償請求も可能であるが (429 条 2 項 ) これは事後的な救済手段でしかなく 大会社以外についても計算書類の信頼性を高める方策が求められよう ( 以上 2014 年 2 月 1 日付 ) -6-