レム睡眠行動障害 :REM sleep behavior disorder(rbd)(150528) 70 代男性 朝起きると 血だらけで怪我をしていることがあるという 怖い夢と関連している レ ム睡眠行動障害について調べてみることにした 夜驚症との違いについてもチェック レム睡眠行動障害 (REM sleep behavior disorder:rbd) は 初老期以降に多く発症し 夢の行動化を特徴とするレム睡眠に関連する睡眠時随伴症の一つである 2) レム睡眠行動異常症 REM sleep behavior disorder(rbd) は通常のレム睡眠でみられる抗重力筋の筋緊張低下や消失がなく (REM sleep without atonia:rwa) 不快な恐怖を伴う夢内容によって殴る 蹴るなどの異常行動を特徴とする睡眠随伴症である 1) 好発年齢は小児を含めて全年齢層にみられるが 高齢者 特に 60 歳代以降でその頻度は高くなる 1) 一般人口や高齢者での有病率は 0.38~0.5% と推定さている.50 歳以上の初老期以降に多く発症し 平均発症年齢は 52 歳 (9~81 歳 ) である また 男性が 8 割以上を占めるという性差がある 2) RBD は臨床経過より急性型と慢性型に分類される 急性型はアルコールや薬物離脱期や薬物中毒などでみられる 慢性型は続発性 RBD やいわゆる 特発性 RBD でみられる 1) 急性症候性 RBD の原因は アルコールの離脱や中枢作用性薬物などであり 経過は一過性である ただし アルコールの離脱ではせん妄 ( 振戦せん妄 ) が出現しやすく RWA に類似した PSG 所見 (stageⅠ-rem with tonic EMG) が認められるが これを RBD に含めることには異論もある 2) 特発性 RBD は明らかな神経疾患のみられない症例に対して用いられていた しかし近年 多くの症例が蓄積されて長年の経過で神経変性疾患に移行することが明らかになっている その結果 特発性 RBD の用語の使用には注意が必要であることが指摘されている 1) Schenck ら (1996) は特発性 RBD と診断された 29 例を 3.7±1.4 年経過観察中 11 例 (38%) にパーキンソン病が併発したことを報告 そのうちの 8 例 (73%) は RBD を発症から 10~29 年経過でパーキンソン病を発症したことを報告した その後も 29 例を 16 年間経過観察して最終的に経過を観察可能であった症例 26 例の転帰について報告した その結果 パーキンソン病 13 例 レビー小体認知症 3 例 分類不可能認知症 1 例 多系統萎縮症 2 例 臨床診断はアルツハイマー病であったが 剖検でレビー小体病の診断が 2 例であった 特発性 RBD の診断後パーキンソン病あるいは認知症が併発までの期間は 14.2±6.2 年 (5~29 年 ) であった 26 例中 21 例 (81%) がパーキンソン症状あるいは認知症を併発したことを報告した 1) 神経変性疾患の併発の危険度は 5 年では 17.7% 10 年は 40.6% 12 年では 52.4% と経過とともに併発の危険度が高くなっていることが報告されている 1)
こうしたことから 特発性 RBD は存在せず 潜在性 RBD とよぶべきであるという主張もみられる 2) 続発性 RBD は基礎疾患に RBD の併発した病態である 基礎疾患としては神経変性疾患 脳幹腫瘍 聴神経腫瘍 ナルコレプシー アルコール 薬剤などが関係している 特に神経変性疾患として synucleinopathy( パーキンソン病など ) や taupathy( アルツハイマー病など ) の関係で注目されている 1) RBD の夢内容は 恐怖や怒りに満ちた不快な悪夢がほとんどであるが 日中の攻撃性とは関連しない 2) レム睡眠中の夢内容に関連した激しい行動が現実となり 自ら怪我をしたり寝室の同室者に暴行を加え怪我をさせる 夢内容に関連して寝言 叫び声 怒鳴る 上肢を挙上して何かを掴もうとする 殴る 蹴る ベッドから起き上がり寝室の物を投げる 部屋の中を歩き回る 窓に向かって突進するなどの異常行動がみられる 皮下出血 裂傷 骨折 硬膜下血腫 頸椎損傷など自ら外傷を受ける また寝室の同室者への投打 頭髪を引っ張る 首の絞拒がみられ 時には殺人に至ることもある 1) 夢は鮮明で不愉快な 恐怖に満ちた内容が多い 同僚と口論していた 誰かが殴りかかってきたので 殴り返した 誰かに追いかけられた 泥棒が入ってきたので追いかけた 動物や昆虫が襲ってきたので自分を守ろうとして手で払いのけた 偽の警察官が来て DNA 鑑定のために口腔粘膜を採取しようとした などの新鮮な夢内容に関連して異常行動がみられる 1) 特発性 RBD ではレビー小体関連疾患でみられる非運動症状である嗅覚識別能障害 MIBG 心筋シンチグラフィーの集積低下や心臓 R-R 変動係数の減少などの心臓自律神経障害 視空間認知機能異常のほか ごく軽微な運動障害 経頭蓋超音波による中脳黒質の高輝度変化 SPECT/PET における黒質線条体ドパミンニューロンの障害が報告されている これらはレビー小体関連疾患の clinical marker としても重要である 3) RBD は睡眠中に暴力的異常行動を呈して 患者自身のみならず 寝室の同室者にも怪我をさせることより 早期診断 治療が必要である 1) 睡眠中の異常行動は RBD 以外に他の睡眠随伴症や睡眠関連てんかんなどでもみられる NREM 睡眠随伴症の錯乱性覚醒 夜驚症 睡眠遊行症は鑑別疾患として重要である これらの睡眠随伴症は小児に多くみられるが 成人においてもみられる 1)
( 参考文献 1 より引用 ) 覚醒障害 てんかん ( 複雑部分発作 ) せん妄のいずれも RBD とは異なり 刺激によって速やかに覚醒しない 2) ノンレム期の睡眠時随伴症として覚醒障害 ( 錯乱性覚醒 睡眠時遊行症 睡眠時驚愕症 ) があげられる これらは小児に多く 徐波睡眠からの覚醒不全により生じる ストレス 飲酒や精神刺激薬によって誘発される 異常行動は睡眠の前半に生じることが多く RBD とは異なり 刺激による覚醒は困難である 3) ( 参考文献 2 より引用 ) インスリノーマでは慢性的な低血糖のために 低血糖を自覚せずに深昏睡とはならず 本検 討のように興奮 異常行動を主とした意識障害を呈する場合がある 成人の反復する夜問異
常行動の鑑別にインスリノーマも念頭に置き 数時間おき もしくは持続血糖測定により 日中だけでなく夜間も血糖値を測定することが重要である 3) RBD の診断には PSG が必須であるが PSG を施行できる施設は限られているため まずスクリーニングをおこなうことが重要である 3) RBD のスクリーニングには RBD screening questionnaire 日本語版 (RBDSQ-J) が有用である RBDSQ-J は 13 項目からなる RBD に特徴的な行動に関する自己記入式質問紙であり 質問に対し はい または いいえ で回答し 質問に対し はい と回答した個数が 5 個 (5 点 ) 以上の場合に RBD を疑う 3) ( 参考文献 3 より引用 ) その診断には詳細な臨床経過の把握と臨床脳波検査を含めて video-psg が必要になる 1)
( 参考文献 2 より引用 ) 2010 年 AASM は RBD の治療のガイドラインを報告している その中でクロナゼパムと melatonin( 本邦未承認 ) を推奨レベル B(evidence level 4) としている クロナゼパムは就寝前に 0.5mg を服用する しかしふらつき 錯乱状態などの副作用や睡眠時無呼吸の増悪が指摘されている melatonin は就寝前に 3~12 mg の服用で効果があったことが報告されている しかし起床時の頭痛 朝の眠気 妄想 幻覚などの副作用が報告されている 1) 薬物療法では ベンゾジアゼピン系薬物であるクロナゼパム (0.5~2mg/ 日 就寝前投与 ) が第一選択薬であり その有効性は 87~90% と高い 2) わが国では認可されていないが 海外ではメラトニンが第二選択薬として使用されている 2) RBD の異常行動は寝室の物を投げる 壁を蹴る 窓ガラスを割るなど 激しく暴力的であることより 寝室内の危険物を取り除く必要がある 特にベッドを使用している時には 床にマットレスなどを敷いて怪我からの予防処置をすることが必要である 1) 夜間にはコーヒーやチョコレートなどの興奮作用のある嗜好品は避ける 就寝前の飲酒は症状の発現や増悪させるので避ける必要がある 1) この患者の場合には RBD を強く疑い ベンゾジアゼピン系を就寝前に服用することで 怪我もなくなり 睡眠の質も大きく改善した PD や dementia その他の神経異常をフォローしているが 今のところその兆候は全く見られていない 本来なら 精査で確定診断するのが本当かもしれないが 50 km以上離れた PSG が可能な施設まで行くのは 家族が近くに住んでいない一人暮らしの高齢者にとって 簡単でないことがほとんどだ 参考文献 1. 野沢胤美. レム睡眠行動異常症. 臨床精神医学 43(7): 1025-1032, 2014. 2. 田村義之. 高齢者にみられる睡眠時随伴症 - レム睡眠行動障害を中心に -. ねむりとマネー
ジメント 2(1): 14-17, 2015. 3. 鈴木圭輔, 宮本雅之, 宮本智之, 渡邉悠児, 平田幸一. レム睡眠行動異常症の診断のコツ. ねむりとマネージメント 1(1): 45-48, 2014.