1. 背景ながはまコホート事業は 京都大学と滋賀県長浜市が共同して行っている 市民の健康づくりと最先端の医学研究を目的として実施されている事業です 5 年ごとに一般の特定健診項目に加えて 遺伝子解析を含む血液検査や睡眠検査などの様々な検査が行われています 私たちはこのコホート事業において 睡眠呼吸障

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宗像市国保医療課 御中

-3- Ⅰ 市町村国保の状況 1 特定健康診査受診者の状況 平成 23 年度は 市町村国保 (41 保険者 )98,439 人の特定健康診査データの集計を行った 市町村国保の診者数は男性 女性ともに 歳の割合が多く 次いで 歳 歳の順となっている 男性 女性 総数

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肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

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ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

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別紙様式 (Ⅱ) 商品名 : 伝統にんにく卵黄 (31 粒入り 62 粒入り ) 食経験の評価 1 喫食実績による食経験の評価 安全性評価シート 喫食実績の有無 : あり なし ( あり の場合に実績に基づく安全性の評価を記載) 本製品 伝統にんにく卵黄 と同等の製品は 1993 年 11 月より日

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

< 糖尿病療養指導体制の整備状況 > 療養指導士のいる医療機関の割合は増加しつつある 図 1 療養指導士のいる医療機関の割合の変化 平成 20 年度 8.9% 平成 28 年度 11.1% 本糖尿病療養指導士を配置しているところは 33 医療機関 (11.1%) で 平成 20 年に実施した同調査

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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,995,972 6,992,875 1,158 4,383,372 4,380,511 2,612,600 2,612, ,433,188 3,330, ,880,573 2,779, , ,

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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■● 糖尿病

日本スポーツ栄養研究誌 vol 目次 総説 原著 11 短報 19 実践報告 資料 45 抄録

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糖尿病予備群は症状がないから からだはなんともないの 糖尿病予備群と言われた事のある方のなかには まだ糖尿病になったわけじゃないから 今は食生活を改善したり 運動をしたりする必要はない と思っている人がいるかもしれません 糖尿病予備群の段階ではなんの症状もないので そう考えるのも無理はないです しか

セッション 6 / ホールセッション されてきました しかしながら これらの薬物療法の治療費が比較的高くなっていることから この薬物療法の臨床的有用性の評価 ( 臨床的に有用と評価されています ) とともに医療経済学的評価を受けることが必要ではないかと思いまして この医療経済学的評価を行うことを本研

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10075 口頭発表 身体活動 8 月 31 日 ( 金 ) 8:30~9:20 第 8 会場 朱鷺メッセ 3F 小会議室 口頭発表 診断 -その他 8 月 30 日 ( 木 ) 11:00~12:20 第 5 会場 朱鷺メッセ 3F 中会議室

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章 a 図 b 口蓋垂軟口蓋咽頭形成術 uvulopalatopharyngoplasty UPPP a 術前 b 術後 睡眠障害 睡眠呼吸障害クリニックの つではないかと思われる 当初多かった不眠症にかわって 睡眠呼吸障害が漸増し 耳鼻咽喉科などと連携し 病因の解明や治療法に向けた研究がスタートし

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3 睡眠時間について 平日の就寝時刻は学年が進むほど午後 1 時以降が多くなっていた ( 図 5) 中学生で は寝る時刻が遅くなり 睡眠時間が 7 時間未満の生徒が.7 であった ( 図 7) 図 5 平日の就寝時刻 ( 平成 1 年度 ) 図 中学生の就寝時刻の推移 図 7 1 日の睡眠時間 親子

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2) エネルギー 栄養素の各食事からの摂取割合 (%) 学年 性別ごとに 平日 休日の各食事からのエネルギー 栄養素の摂取割合を記述した 休日は 平日よりも昼食からのエネルギー摂取割合が下がり (28~31% 程度 ) 朝食 夕食 間食からのエネルギー摂取割合が上昇した 特に間食からのエネルギー摂取


第43号(2013.5)

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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事象 :2 健診項目の中で特定健診必須項目に未受診の項目が存在する 返戻事由健診結果データ異常備考検査項目エラー返戻コード 03 特定健診で必須となっている健診項目に実施されていない項目が存在します 別表: 特定健診項目存在チェックシート を参考に健診結果を入力してください 事象 :3 生活機能評価

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計画改訂の趣旨 社会構造が大きく変化し 少子高齢化が進む中 生活環境の改善や医療の進歩などにより 平均寿命が延びている一方で 肥満や糖尿病などの生活習慣病が増加しており 健康づくりや疾病予防の重要性はますます高まっています 子どもから高齢者まで すべての県民が 健やかな生活をおくるために ヘルスプロ

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Transcription:

睡眠障害と糖尿病および高血圧との関連を実証 世界最大級 7000 人以上を調査した ながはまコホート 資料から 概要睡眠呼吸障害の大部分を占める睡眠時無呼吸は 日中の過度の眠気などで社会生活に重要な影響を与えるばかりでなく 高血圧 糖尿病 心血管障害発生とも関連するため近年多くの注目を集めています また 短時間睡眠も 24 時間社会において増加し 日中の眠気のみならず生活習慣病との関連が注目されつつありますが これまでの報告は客観的睡眠時間ではなく 自己申告の睡眠時間によるものがほとんどでした さらに 肥満は生活習慣病発症予防 健康生活の最大の課題で かつ睡眠時無呼吸の最重要要因であり 短時間睡眠とも関連するとされます 京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学の松本健客員研究員と同研究科吸管理睡眠制御学講座の陳和夫特定教授らは 滋賀県長浜市と共同で行った ながはまコホート 事業において 睡眠呼吸障害 客観的な短時間睡眠 肥満の相互の関連性と それらが高血圧 糖尿病に与える関連について 性差 閉経前後もふまえて 7000 人以上の世界最大規模で検討しました すると 睡眠呼吸障害 ( 睡眠時無呼吸 ) は 肥満ばかりでなく睡眠日誌と加速度計で測定した客観的な短時間睡眠と関連することがわかりました 睡眠呼吸障害は男女とも高血圧に関連しており その重症度が高くなるにつれて関連度が高くなりましたが 糖尿病に関しては 女性においてのみ関連していました 特に 閉経前女性においては 中等症以上の睡眠呼吸障害があると糖尿病が 28 倍と著明に多くなりました なお 肥満は男女ともに高血圧 糖尿病と関連していましたが 客観的に測定した短時間睡眠は高血圧 糖尿病いずれにも関連が認められませんでした さらに 高血圧や糖尿病に対する肥満の関与は 睡眠呼吸障害により約 20% 間接的に媒介されており 性差が認められました 横断研究ではありますが 世界最大規模の参加者で客観的な睡眠時間と睡眠呼吸障害 ( 睡眠時無呼吸 ) 肥満の相互関連を調べた本研究から 短時間睡眠でなく 肥満と睡眠呼吸障害が高血圧 糖尿病と関連があり しかもその関連の度合いに性差 閉経前後で相違がみられることがわかりました なお 睡眠時間は肥満 睡眠呼吸障害が重症化すると短くなりました 本研究は 2018 年 5 月 9 日に国際学術誌 SLEEP にオンライン掲載されます

1. 背景ながはまコホート事業は 京都大学と滋賀県長浜市が共同して行っている 市民の健康づくりと最先端の医学研究を目的として実施されている事業です 5 年ごとに一般の特定健診項目に加えて 遺伝子解析を含む血液検査や睡眠検査などの様々な検査が行われています 私たちはこのコホート事業において 睡眠呼吸障害 ( 睡眠時無呼吸 ) の程度と客観的な睡眠時間を測定しました 肥満は高血圧や糖尿病といった生活習慣病のリスクであることは周知の事実ですが それ以外にも 睡眠呼吸障害の程度が重度であっても高血圧や糖尿病のリスクになることが知られています 同様に 短時間睡眠も高血圧や糖尿病のリスクになることが知られていますが 過去のほとんどの研究は アンケートを用いた主観的な睡眠時間で研究を行っており 客観的な睡眠時間に関するデータは不足していました また 最近では睡眠呼吸障害と短時間睡眠 肥満と短時間睡眠の関連も示唆されていますが それら 3 者の関係性 また 3 者を同時に考慮した場合の高血圧 糖尿病への影響を 大規模な対象者で検討した報告はなく 本研究ではこれらの点を解明することを目的としました また 睡眠呼吸障害のリスクは男女差 さらには閉経前後でも差が認められることが報告されているため 閉経を含めた性差についても検討しました 2. 研究手法 成果客観的な睡眠時間の評価のために腕時計型の認証されている加速度計と睡眠日誌を 睡眠呼吸障害の評価のためにパルスオキシメーターを用いて 健診会場にて受診者に機器の操作方法を説明し 前者は 7 日間 後者は 4 日間の測定を依頼しました 測定の同意が得られた参加者に対して 一人ずつ意義や測定方法を説明し これが参加者の測定意欲を高め かつ測定ミスを防ぐうえで重要な点と考えられます 2013 年から 2016 年までの 4 年間で ながはまコホート事業に参加したのは 9850 人でしたが 9109 人 ( 全体の 92.5%) が機器の持ち帰りに承諾し そのうち活動度計で週末 1 日を含む 5 日以上の測定とパルスオキシメーターで 2 日以上の測定のデータが取得可能であった 7051 人 ( 全体の 71.6%) を解析対象としました その結果 客観的な睡眠時間に関しては性別や閉経前後であまり違いは認められませんでしたが 睡眠呼吸障害は明確な違いが認められ 特に治療対象と考えられる 中等症以上の睡眠呼吸障害の頻度は男性で 23.7% と多いこと 閉経前女性では 1.5% と少ないものの 閉経後女性では 9.5% と頻度が高くなることが判明しました ( 図 1) そして 睡眠呼吸障害や肥満は重症度が高くなるにつれて 睡眠時間は短くなりました また 睡眠呼吸障害は男女とも高血圧に関連しており その重症度が高くなるにつれて関連度が高くなりましたが 糖尿病に関しては 女性においてのみ関連していました ( 図 2) 特に 閉経前女性においては 中等症以上の睡眠呼吸障害があると糖尿病が 28 倍と著明に多くなりました なお 肥満は男女ともに高血圧 糖尿病と関連がありましたが 短睡眠時間睡眠は高血圧 糖尿病いずれにも関連が認められませんでした そして 高血圧や糖尿病に対する肥満の関連は 睡眠呼吸障害により約 20% 間接的に媒介されており 性差が認められました ( 図 3) 以上の結果から次のことが明らかになりました 1 短時間睡眠が睡眠呼吸障害と関連している 睡眠時間が短い人は睡眠呼吸障害の有無の検索が有用である可能性がある 2

2 睡眠呼吸障害は高血圧 糖尿病の頻度の上昇と関連しており さらに 性差が認められる 治療すべき睡眠呼吸障害を有する人は高血圧 糖尿病の検索が望ましい 特に閉経前女性の睡眠呼吸 障害においては糖尿病に注意する必要がある 3 肥満と高血圧 糖尿病との関連は睡眠呼吸障害が間接的に媒介している 高血圧 糖尿病の基礎病態である肥満の治療としての減量以外に 睡眠呼吸障害の治療も加えて有用 である可能性がある なお 睡眠呼吸障害のほとんどが大きな鼾がみられる閉塞性睡眠時無呼吸と思われます 3. 波及効果 今後の予定今回報告した内容は 客観的な睡眠時間 睡眠呼吸障害 ( 睡眠時無呼吸 ) 同時測定データを用いた世界で最大規模の研究結果です しかし 横断的な研究結果であって実際の変化を確認できていないため 関係性は述べることができますが ここから因果関係を述べることはできません 現在第 3 期の長浜コホート事業として 今回の研究の対象者の 5 年後の睡眠時間や睡眠呼吸障害の程度 高血圧や糖尿病の状態などを調査中です このデータを用いて 睡眠時間や睡眠呼吸障害のもともとの程度 あるいはそれらの変化が高血圧や糖尿病にもたらす影響を縦断的に解析し 因果関係について検討する予定です また 今回の結果から 一般の健診受診者の集団において 治療が望ましいと考えられる睡眠呼吸障害が成人男性では約 4 人に 1 人 閉経後女性では約 10 人に 1 人の割合で認められることが判明しましたが この頻度は諸外国とほぼ同程度と考えられます また 高血圧や糖尿病の参加者ではさらに頻度は高くなっていますので 高血圧や糖尿病患者でいびきの大きい方や治療効果が乏しい方では睡眠呼吸障害 ( 睡眠時無呼吸 ) の検査も考慮する必要性を示しています 肥満があれば肥満の克服が極めて重要であることも示しています 4. 研究プロジェクトについてながはまコホート事業は日本医療研究開発機構 厚生労働省 文部科学省 科学技術振興機構からの研究費を用いて行われており 本研究は京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター 同研究科生活環境看護学 同研究科健康情報学 京都女子大学食物栄養学科との共同研究です 3

図 1: 客観的睡眠時間の平均値と 3%ODI で評価した睡眠呼吸障害の頻度 ( 左 ) 全体と性別 閉経前後ごとに分けた際の客観的睡眠時間の平均値 ( 右 ) 全体と性別 閉経前後ごとに分けた際の 3%ODI (oxygen desaturation index) で評価した睡眠呼吸障害の頻度 (*3%ODI は客観的睡眠時間で補正した値を使用 ) 図 2: 睡眠呼吸障害の重症度ごとの高血圧 糖尿病の調整後オッズ比睡眠呼吸障害は客観的睡眠時間で補正した 3%ODI が 5/h 未満を正常 5/h 以上 15/h 未満を軽症 15/h 以上を中等症 / 重症と定義 高血圧は投薬加療中 収縮期血圧が 140mmHg 以上 拡張期血圧が 90mmHg 以上のいずれかを満たすもの 糖尿病は投薬加療中 HbA1c が 6.5% 以上のいずれかを満たすものと定義 年齢 BMI 飲酒 喫煙 日中活動量 睡眠時間で調整して計算 4

図 3: 肥満と高血圧 / 糖尿病との関連のメディエーターとしての睡眠呼吸障害に対する媒介分析肥満は BMI が 25kg/m 2 以上 睡眠呼吸障害は客観的睡眠時間で補正した 3%ODI が 15/h 以上と定義 高血圧は投薬加療中 収縮期血圧が 140mmHg 以上 拡張期血圧が 90mmHg 以上のいずれかを満たすもの 糖尿病は投薬加療中 HbA1c が 6.5% 以上のいずれかを満たすものと定義 年齢 性別 飲酒 喫煙 日中活動量 睡眠時間で調整して計算 肥満の高血圧 糖尿病との関連は男女間に差がみられるがおよそ 20% は睡眠呼吸障害を介する関連と考えられる < 論文タイトルと著者 > タイトル :Impact of Sleep Characteristics and Obesity on Diabetes and Hypertension across Genders and Menopausal Status; the Nagahama Study 著者 :Matsumoto Takeshi, Murase Kimihiko, Tabara Yasuharu, Gozal David, Smith Dale, Minami Takuma, Tachikawa Ryo, Tanizawa Kiminobu, Oga Toru, Nagashima Shunsuke, Wakamura Tomoko, Komenami Naoko, Setoh Kazuya, Kawaguchi Takahisa, Tsutsumi Takanobu, Takahashi Yoshimitsu, Nakayama Takeo, Hirai Toyohiro, Matsuda Fumihiko, Chin Kazuo. 掲載誌 :SLEEP 5