23年度厚生労働科学研究報告書.indb

Similar documents
の補助にもなるといえよう 翌年 Sistoらは CFS 患者に対して運動負荷をおこない その前後における活動量の変化を検討している その結果 運動負荷 1 ~ 4 日までは明らかな変化はないものの5 ~ 7 日まで活動量が減少することを示した 4) CFS 患者においては運動によって筋肉中のATPが

平成18年度厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

のつながりは重要であると考える 最近の研究では不眠と抑うつや倦怠感などは互いに関連し, 同時に発現する症状, つまりクラスターとして捉え, 不眠のみならず抑うつや倦怠感へ総合的に介入することで不眠を軽減することが期待されている このようなことから睡眠障害と密接に関わりをもつ患者の身体的 QOL( 痛

医療連携ガイドライン改

cover

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

TDM研究 Vol.26 No.2

Microsoft PowerPoint - 身心14May29saiki

NIRS は安価かつ低侵襲に脳活動を測定することが可能な検査で 統合失調症の精神病症状との関連が示唆されてきました そこで NIRS で測定される脳活動が tdcs による統合失調症の症状変化を予測し得るという仮説を立てました そして治療介入の予測における NIRS の活用にもつながると考えられまし

wslist01

研究の背景近年 睡眠 覚醒リズムの異常を訴える患者さんが増加しています 自分が望む時刻に寝つき 朝に起床することが困難であるため 学校や会社でも遅刻を繰り返し 欠席や休職などで引きこもりがちな生活になると さらに睡眠リズムが不規則になる悪循環に陥ります 不眠症とは異なり自分の寝やすい時間帯では良眠で

untitled

4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

Microsoft Word - Ⅲ-11. VE-1 修正後 3.14.doc

Ⅰ. 緒言 Suzuki, et al., Ⅱ. 研究方法 1. 対象および方法 1 6 表 1 1, 調査票の内容 図

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

表紙.indd

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

2014 年 1 月 24 日 独立行政法人国立精神 神経医療研究センター (NCNP) Tel: ( 総務部広報係 ) 国立精神 神経医療研究センター 三島和夫部長らの研究グループが 睡眠医療 睡眠研究用プラットフォーム PASM を開発 本成果のポイント 1. 睡眠医療およ

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 庄司仁孝 論文審査担当者 主査深山治久副査倉林亨, 鈴木哲也 論文題目 The prognosis of dysphagia patients over 100 years old ( 論文内容の要旨 ) < 要旨 > 日本人の平均寿命は世界で最も高い水準であり

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

研究成果報告書

フレイルのみかた

調査 統計 歯科心身症患者における自律神経機能の評価 - 心拍変動に対する周波数解析を用いた検討 - 1, 三輪恒幸 * 天神原亮 ) 小笠原岳洋 ) 渡辺信一郎 ) 亀井英志 ) 1) 東京歯科大学臨床検査学研究室 ) 長栄歯科クリニック 抄録目的 : 長栄歯科クリニックでは 歯科心身症が疑われる

概要 特別養護老人ホーム大原ホーム 社会福祉法人行風会 平成 9 年開設 長期入所 :100 床 短期入所 : 20 床 併設大原ホーム老人デイサービスセンター大原地域包括支援センター 隣接京都大原記念病院

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

厚生労働科学研究費補助金 (地域健康危機管理研究事業)

Microsoft Word _nakata_prev_med.doc

H29_第40集_大和証券_研究業績_C本文_p indd

Microsoft Word - cjs63B9_ docx

<4D F736F F F696E74202D AAE90AC94C5817A835F C581698FE39E8A90E690B6816A2E >

PowerPoint プレゼンテーション

”R„`‚å−w‰IŠv†^›¡‚g‡¾‡¯.ren

- 日中医学協会助成事業 - 肺炎球菌ワクチンに対する免疫応答性の日中間における比較に関する研究 研究者氏名教授川上和義研究機関東北大学大学院医学系研究科共同研究者氏名張天托 ( 中山大学医学部教授 ) 宮坂智充 ( 東北大学大学院医学系研究科大学院生 ) 要旨肺炎球菌は成人肺炎の最も頻度の高い起炎

青焼 1章[15-52].indd

様式 3 論文内容の要旨 氏名 ( 神﨑光子 ) 論文題名 周産期における家族機能が母親の抑うつ 育児自己効力感 育児関連のストレス反応に及ぼす影響 論文内容の要旨 緒言 女性にとって周産期は 妊娠 分娩 産褥各期の身体的変化だけでなく 心理的 社会的にも変化が著しいため うつ病を中心とした気分障害

論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

Microsoft PowerPoint ⑤静岡発表 [互換モード]

後であるのに比べ, スリープスキャンは₃ 万円前後と安価であることから, 今後活用拡大が期待できる しかし, スリープスキャンは2010 年に商品化されたものでありその有用性については, 不眠を訴えることが可能な一般成人や睡眠 覚醒リズムに乱れが少ない青年期を対象とした研究が数例あるのみで 5),


抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

理学療法学43_supplement 1

簿記教育における習熟度別クラス編成 簿記教育における習熟度別クラス編成 濱田峰子 要旨 近年 学生の多様化に伴い きめ細やかな個別対応や対話型授業が可能な少人数の習熟度別クラス編成の重要性が増している そのため 本学では入学時にプレイスメントテストを実施し 国語 数学 英語の 3 教科については習熟

原 著 放射線皮膚炎に対する保湿クリームの効果 耳鼻科領域の頭頸部照射の患者に保湿クリームを使用して * 要旨 Gy Key words はじめに 1 70Gy 2 2 QOL

Microsoft Word - ①【修正】B型肝炎 ワクチンにおける副反応の報告基準について

セッション 6 / ホールセッション されてきました しかしながら これらの薬物療法の治療費が比較的高くなっていることから この薬物療法の臨床的有用性の評価 ( 臨床的に有用と評価されています ) とともに医療経済学的評価を受けることが必要ではないかと思いまして この医療経済学的評価を行うことを本研

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

H26_大和証券_研究業績_C本文_p indd

スライド 1

汎発性膿庖性乾癬の解明

機能分類や左室駆出率, 脳性ナトリウム利尿ペプチド (Brain Natriuretic peptide, BNP) などの心不全重症度とは独立した死亡や入院の予測因子であることが多くの研究で示されているものの, このような関連が示されなかったものもある. これらは, 抑うつと心不全重症度との密接な

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

愛媛県立医療技術大学紀要 別冊

研究計画書

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

運動負荷試験としての 6 分間歩行試験の特徴 和賀大 坂本はるか < 要約 > 6 分間歩行試験 (6-minute walk test; 6MWT) は,COPD 患者において, 一定の速度で歩く定量負荷試験であり, この歩行試験の負荷量は最大負荷量の約 90% に相当すると報告されている. そこ

総合診療

1. 背景統合失調症患者が一般人口に比べて暴力傾向にあるということは これまでにも多くの検討がなされている (Walsh et al., 2002) しかし統合失調症と暴力との関係についてはさまざまな議論が存在する (Monahan, 1992 Amore et al., 2008 Vevera e

             論文の内容の要旨

4氏 すずき 名鈴木理恵 り 学位の種類博士 ( 医学 ) 学位授与年月日平成 24 年 3 月 27 日学位授与の条件学位規則第 4 条第 1 項研究科専攻東北大学大学院医学系研究科 ( 博士課程 ) 医科学専攻 学位論文題目 esterase 染色および myxovirus A 免疫組織化学染色

要望番号 ;Ⅱ-183 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者学会 ( 該当する ( 学会名 ; 日本感染症学会 ) ものにチェックする ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 1 位 ( 全 8 要望中 ) 要望する医薬品

図 1 緩和ケアチーム情報共有データベースの患者情報画面 1 患者氏名, 生年月日, 性別, 緩和ケアチームへの依頼内容について,2 入退院記録, 3カンファレンス ラウンド実施一覧,4 問題点のリスト,5 介入内容の記録. 図 2 緩和ケアチームカンファレンス ラウンドによる患者評価入力画面 (

睡眠計スリープスキャン 専用データ管理ソフト取扱説明書

Microsoft Word - Malleable Attentional Resources Theory.doc

1. 多変量解析の基本的な概念 1. 多変量解析の基本的な概念 1.1 多変量解析の目的 人間のデータは多変量データが多いので多変量解析が有用 特性概括評価特性概括評価 症 例 主 治 医 の 主 観 症 例 主 治 医 の 主 観 単変量解析 客観的規準のある要約多変量解析 要約値 客観的規準のな

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

Microsoft PowerPoint - 【参考資料4】安全性に関する論文Ver.6

untitled

臨床試験の実施計画書作成の手引き

606 Dementia Japan Vol. 29 No. 4 October 2015 Table 1. The day care for people with severe dementia Outline Subjects Personal distribution Medical man

21-23年度厚生労働科学研究報告書.indb

13章 回帰分析


Microsoft PowerPoint - 統計科学研究所_R_重回帰分析_変数選択_2.ppt

統合失調症患者の状態と退院可能性 (2) 自傷他害奇妙な姿勢 0% 20% 40% 60% 80% 100% ないない 0% 20% 40% 60% 80% 100% 尐ない 中程度 高い 時々 毎日 症状なし 幻覚 0% 20% 40% 60% 80% 100% 症状

リグラフ検査による前夜の睡眠の客観的評価を行う また睡眠ポリグラフ検査時の入眠後 15 分以内にみられる REM 睡眠 (sleep onset REM period: SOREMP) は診断上重要な指標となる 睡眠を妨げる可能性のある睡眠時無呼吸 周期性四肢運動障害 てんかん発作などの同定とその影

2 14 The Bulletin of Meiji University of Integrative Medicine 7 8 V ,15 16,17 18,19 20,21 22 Visual analogue scale VAS Advanced trai

My DIARY ベンリスタをご使用の患者さんへ

要望番号 ;Ⅱ 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 1) 1. 要望内容に関連する事項 要望 者 ( 該当するものにチェックする ) 優先順位 学会 ( 学会名 ; 日本ペインクリニック学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 2 位 ( 全 4 要望中 )

jphc_outcome_d_014.indd

<8CF68F4F897190B68E478E8F82548AAA82518D E656339>

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

早稲田大学大学院日本語教育研究科 修士論文概要書 論文題目 ネパール人日本語学習者による日本語のリズム生成 大熊伊宗 2018 年 3 月

0 スペクトル 時系列データの前処理 法 平滑化 ( スムージング ) と微分 明治大学理 学部応用化学科 データ化学 学研究室 弘昌

第80回日本温泉気候物理医学会.indd

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

甲37号

弘前校 診断・アセスメント結果を基にした 地域機関との連携による子ども支援の取り組み

多変量解析 ~ 重回帰分析 ~ 2006 年 4 月 21 日 ( 金 ) 南慶典

研究成果報告書

介護における尊厳の保持 自立支援 9 時間 介護職が 利用者の尊厳のある暮らしを支える専門職であることを自覚し 自立支援 介 護予防という介護 福祉サービスを提供するにあたっての基本的視点及びやってはいけ ない行動例を理解している 1 人権と尊厳を支える介護 人権と尊厳の保持 ICF QOL ノーマ

1. 背景ながはまコホート事業は 京都大学と滋賀県長浜市が共同して行っている 市民の健康づくりと最先端の医学研究を目的として実施されている事業です 5 年ごとに一般の特定健診項目に加えて 遺伝子解析を含む血液検査や睡眠検査などの様々な検査が行われています 私たちはこのコホート事業において 睡眠呼吸障


A Precise Calculation Method of the Gradient Operator in Numerical Computation with the MPS Tsunakiyo IRIBE and Eizo NAKAZA A highly precise numerical

Transcription:

厚生労働科学研究費補助金 ( 障害者対策総合研究事業 )( 神経 筋疾患分野 ) ( 分担 ) 研究年度終了報告書 自律神経機能異常を伴い慢性的な疲労を訴える患者に対する 客観的な疲労法の確立と慢性疲労指針の作成 身体活動量から得られる睡眠指標および活動指標による慢性疲労病態別の感度 特異度の検討 研究代表者 倉恒 弘彦 ( 関西福祉科学大学健康福祉学部教授 ) 研究協力者 田島 世貴 ( 兵庫県立リハビリテーション中央病院 子どもの睡眠と発達医療センター医長 ) 研究要旨 本研究の目的は 睡眠関連指標が慢性疲労病態における客観的バイオマーカーとして有用であるかを検討することである 対象は十分な説明の後インフォームドコンセントを得た 175 名の健常人と208 名の慢性疲労症候群患者とした AMI 社のMicroMiniを用いてゼロクロス法による活動量計測を行い AW2ソフトウェアより覚醒時平均活動量 居眠り回数 睡眠時間 睡眠時平均活動量 中途覚醒 入眠潜時 睡眠効率の七つの睡眠関連指標指標を得た これら指標から 三つの異なる線形 / 非線形の別分析を行い それぞれの慢性疲労病態に関する感度 特異度を求めた 線形 非線形の三手法を用いて身体活動量からみた慢性疲労病態の感度と特異度を検討したが いずれも60 80% であった 線形別分析とランダムフォレスト分析の結果から 別に大きく寄与する因子は覚醒時平均活動量 睡眠時間 中途覚醒回数であることが示された A. 研究目的慢性疲労 (Chronic Fatigue, CF) 病態は感染症様 膠原病様あるいは睡眠異常等の症状に加えパフォーマンスの低下が特徴であるため これまでにも身体活動量を指標として睡眠異常と日中のパフォーマンスに関する検討 報告がなされている 我々も 代表的なCF 病態である慢性疲労症候群 (Chronic Fatigue Syndrome, CFS) 患者において 覚醒時平均活動量の低下 居眠り回数の増加 睡眠時間の延長 中途覚醒回数の増加が有意に認められることを報告している 1, 2) 1997 年にVercoulenらが強い疲労感を特徴とする2 疾患 CFS 患者 多発性硬化症 (Multiple sclerosis, MS) 患者と健常人の活動量の違いを論じている 3) 彼らの報告では CFS 患者 MS 患者ともに健常人より活動量が明らかに少ない が 自覚的疲労感と活動量の低下がよく相関しているのはCFS 患者においてであり MS 患者においては必ずしも疲労感とは相関がなかったことを示した このことは アクティグラフは disabilityを客観的に示しているが その原因が疲労にあるのか神経変性疾患によるのかを教えてはくれないことを意味する 別の見方をすれば 行動量からみた活動の制限とよく相関する指標は何であるかを検討することによっての補助にもなるといえよう 翌年 Sistoらは CFS 患者に対して運動負荷をおこない その前後における活動量の変化を検討している その結果 運動負荷 1 4 日までは明らかな変化はないものの5 7 日まで活動量が減少することを示した 4) CFS 患者においては運動によって筋肉中のATPが健常人よりも急速に減少することが知られている 5) が 疲労病態から運動による急性期 20

の影響だけではなく中 ~ 長期にわたる影響もあることが示されたという点でこの研究は興味深い 2000 年には van der WerfらによりCFS 患者では全体的に行動量が少ないことを再確認している 6) さらに CFS 患者の中でも活動量がピークを維持する時間が短く その後に続く休息状態の時間が長い群がみられることを報告しており そのような活動量の違いによって治療的な介入を検討すべきであると述べている 2002 年のOhashiらによる報告では トレッドミルによる運動負荷の前後でどのような活動量の変化が見られるかが示された 7) この報告では 自己相関係数から得られたサーカディアンリズムについて論じているが CFS 患者では運動負荷後のサーカディアンリズムが24 時間より延長しており生体リズムの異常を引き起こしていることが確認されている その結果から CFSの特徴的な症状である 軽度の負荷でも24 時間以上遷延する疲労感 と生体リズム異常の間に関係があるのかもしれないと結論づけている 2004 年 Tryonらも先行研究と同様 日中の活動量の低下と活動 休息リズムの規則性が低下していることを示した 8) 2005 年にはKopらにより 行動量の低下は先行する痛みや疲労感の増悪と関連があるが 行動量の低下に続く症状の変化とは関連がないことが示された 9) すなわち 主観的な疲労感が行動量の低下を惹起しているという一貫性が示されていると考えられる 覚醒時平均活動量の低下と居眠り回数増加については 2002 年 KorszunらがCFSの類縁疾患である線維筋痛症患者のうち うつを伴わない群ととでは覚醒時の活動量に有意な差はないと報告したのに対して 10) 我々のデータでCFS 患者のうち抑うつなどの精神科的問題を伴わないサブグループであるCFS1 群のみと健常人の比較を行うと覚醒時平均活動量の低下と居眠り回数増加に関する有意差が見られたことを報告した 2) この点はCFSの類縁疾患といわれる線維筋痛症患者において報告されていた結果と異なり 痛みを主とした疾患と疲労を主とした疾患の違いを示しているのかもしれない これらの研究にみられるような 活動量 睡眠時間 サーカディアンリズムの検討から 慢性疲労病態がどのような行動の変化をもたらすかが明らかにされてきた 近年 なぜそのよう な違いが出てくるのか その背景にあるダイナミクスの推を活動量データそのものから行う試みも始まっている 2004 年 Ohashiらは健常人とCFS 患者の活動量変化におけるフラクタル性の比較をし 特に日中 CFS 患者の活動量が示すフラクタル性の低下があると報告してい る 11) 活動量のような時系列データにおけるフラクタル性とは ごく短い時間スケールでみても全体的に俯瞰しても同じような変化の特徴を示すことである これは さまざまなイベントに対して適切な行動を選択して対応しているという柔軟性の中にも 生体としてもつ決論的な行動戦略が一貫していることを示している このような適応性の高さと背景の一貫性は 多種多様な環境の変化に対応しなければならない生体にとって必要不可欠なシステムであるが 病的慢性疲労状態によってその柔軟性が失われていることが行動という側面からも示されていることは大変重要な意味を持っていると考えている 我々もdetrended fluctuation analysis(dfa) による検討の結果 覚醒時間後 3 時間の活動量変化に注目すると健常人に比べて慢性疲労症候群患者はフラクタル性が低くなっていることを報告した 12) このようにCF 病態に伴う客観的指標としての有用性は示されているが における感度 特異度等の検討はほとんどなされていなかった そこで 本研究では身体活動量から得られる指標を用いてCF 病態を行う場合の感度と特異度を検討することを目的とする B. 研究方法対象 : 本研究を分担する各医療機関でCFSとされた患者 208 名と 年齢性別をマッチングさせた健常人 178 名を対象とした 健常人は医師の面談の結果 生活リズムが整っており 現在病的疲労感がなく日常生活に支障がない上に 疲労に関わる疾患の既往歴および現病歴がないことを確認し 特にCFS 基準におけるパフォーマンスステータスが0ないし1のものに限した 倫理面への配慮 : 対象者から本研究を分担する各医療機関の倫理委員会で承認された研究計画に基づき インフォームドコンセントを得た 21

方法 : 身体活動量は腕時計型加速度計 MicroMini ( 米国 AMI 社 図 1) を非利き手に72 時間装着した 2 3Hzの加速度変化を閾値 0.01G rad/sec で検知し 0をまたぐ回数を数え (Zero crossing method) 毎分の加速度変化回数を記録した 睡眠にはCole 式を用いた Coleらの式は睡眠ポリグラフと比較して90% 前後の精度があり 非侵襲的な簡易検査としては十分な精度と実績がある 図 1. アクティグラフ 解析 : 解析ソフトウェアAW2( 米国 AMI 社 ) を用いて 覚醒時平均活動量 (DA) 居眠り回数 (Naps) 睡眠時間 (TST) 睡眠時平均活動量 (NA) 中途覚醒 (Aw) 入眠潜時 (SL) 睡眠効率 (SE) の七つの指標を得た これら指標から 三つの異なる線形 / 非線形の別分析を行い それぞれのCF 病態に関する感度 特異度を求めた 線形の方法論としては線形別分析 非線形の方法論としてはサポートベクターマシン (SVM) とRandom Forest(RF) を用いた C. 研究結果結果 : 図 2に七つの指標のデータ分布を箱ひげ図で示す 図 2. 覚醒時平均活動量 (DA) 居眠り回数 (Naps) 睡眠時間 (TST) 睡眠時平均活動量 (NA) 中途覚醒(Aw) 入眠潜時(SL) 睡眠効率 (SE) のデータ分布 ( 箱ひげ図 ) 次に 七つの指標の線形結合が健常人か患者かを別すると仮し 線形別分析を行った 変数の選択はブートストラップ法により変数を選択し TSTとDA NAのみが採用された 以下に別式を示す Diag=-0.00420 TST+0.0259 DA-0.0617 NA-2.479 (Diag 0; healthy controls, Diag < 0; patients with CFS) 縦軸にDA 横軸にTSTをとりデータ分布を示したものが図 3である 22

図4 ツリー数による予測エラーの推移 赤線が のエラー 緑線がの エラー 黒線がOOB 図3 線形別分析に基づくデータ分布 青丸が 表3 RF分析結果 健常人 赤丸が この別式による別結果を集計したものが 表1である 表1 線形別分析結果 111 64 64 144 られたを原データに適応して得られたも のを示している 表2 SVM分析結果 122 54 53 154 表4 る 全てのデータを教師データとして用い 得 4に それらをプロットしたものを図5に示す SVMによる別結果を集計したものが表2であ に対する因子の寄与度を示す2指標を表 63.4% 特異度は69.2%である 度は74.0%である 予測精度は72.1%であった 表1より 線形別分析から得られる感度は 表3より RFから得られる感度は69.7% 特異 平均予測精度減少 平均Gini指標減少 DA 6.92 35.76 TST 6.06 33.03 Naps 6.78 30.76 Aw 5.15 25.32 SE 3.97 22.03 NA 3.65 21.54 SL 1.92 21.03 136 58 39 150 いずれの指標も大きいほどに対する寄 与が大きいことを示す この結果から 7つの指 標のうちDA TST Napsのへの寄与が 大きいことが示された 表2より SVMから得られる感度は77.7% 特 異度は72.1%である 交差検による予測精度68.7 であった RFによる別結果を集計したものが表3であ る ツリー数を20000として検討を行った場合の 予測精度の推移を図4に示す 図5 因子毎の平均予測精度 平均Gini指標減少 23

D. 考察線形 非線形の三手法を用いて身体活動量からみたCF 病態の感度と特異度を検討したが いずれも60 台 70 台 % であった 線形別分析とRFの結果から 別に大きく寄与する因子はDA TSTであることが示された 今後はSVMのカーネル関数の最適化を検討すること ベイズ推に基づく別法などさらに精度が高く安的な別の開発を行う必要がある E. 結論まとめ : 身体活動量からのCF 病態感度 特異度は60 80% であると推される また 睡眠関連指標でバイオマーカとして有用性が期待されるものは DA TSTであることが示唆された F. 研究発表 1. 論文発表 Daisuke K, Tajima S, Koizumi J, Yamaguti K, Sasabe T, Mizuno K, Tanaka M, Okawa N, Mito H, Tsubone H, Watanabe Y, Inoue M, and Kuratsune H. Changes in reaction time, coefficient of variance of reaction time, and autonomic nerve function in the mental fatigue state caused by long-term computerized Kraepelin test workload in healthy volunteers. World Journal of Neuroscience. In press. 2. 学会発表 慢性疲労症候群における睡眠異常の検討と, 新しい睡眠評価の試み : 田島世貴第 7 回日本疲労学会総会 学術集会, 名古屋市,2011 年 5 月 慢性疲労症候群における睡眠異常の検討と, バイオマーカー適性の検証 : 田島世貴, 中富康仁, 山口浩二, 稲葉雅章, 倉恒弘彦, 渡辺恭良日本睡眠学会第 36 回期学術集会, 京都市,2011 年 10 月引用文献 1) 倉恒弘彦 : 1. 1. 1 慢性疲労症候群 (CFS) の全体像の解明, 文部科学省科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究 疲労及び疲労感の分子神経メカニズムとその防御に 関する研究 報告書. 2) 田島世貴, 他 : 特集慢性疲労症候群アクティグラフ, アクティブトレーサーを用いた方法, 日本牀第 65 巻第 6 号 :1057-1064,2007. 3)Vercoulen JH, et al.: Physical activity in chronic fatigue syndrome: assessment and its role in fatigue. J Psychiatric Res 31(6): 661-673, 1997. 4)Sisto SA, et al.: Physical activity before and after exercise in women with chronic fatigue syndrome. QJM 91(7): 465-473, 1998. 5)Wong R, et al.: Skeletal muscle metabolism in the chronic fatigue syndrome. In vivo assessment by 31P nuclear magnetic resonance spectroscopy. Chest 102(6): 1716-1722, 1992. 6)van der Werf SP, et al.: Identifying physical activity patterns in chronic fatigue syndrome using actigraphic assessment. J Psychosom Res 49(5): 373-379, 2000. 7)Ohashi K, Yamamoto Y, Natelson BH.: Activity rhythm degrades after strenuous exercise in chronic fatigue syndrome. Physiol Behav 77(1): 39-44, 2002. 8)Tryon WW, et al.: Chronic fatigue syndrome impairs circadian rhythm of activity level. Physiol Behav 82(5): 849-859, 2004. 9)Kop WJ, et al.: Ambulatory monitoring of physical activity and symptoms in fibromyalgia and chronic fatigue syndrome. Arthritis Rheum 52(1): 296-303, 2005. 10)Korszun A, et al.: Use of actigraphy for monitoring sleep and activity levels in patient with fibromyalgia and depression. J Psychosom Res 52(6): 439-443, 2002. 11)Ohashi K, et al.: Decreased fractal correlation in diurnal physical activity in chronic fatigue syndrome. Methods of information in medicine 43(1): 26-29, 2004. 12) 田島世貴 : 疲労の生理学的計測行動量評価, 医学のあゆみ第 228 巻 6 号 :640-645, 2009. 24