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トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

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共同研究グループ 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子ナノ磁性研究チーム 研究員 近藤浩太 ( こんどうこうた ) 客員研究員 福間康裕 ( ふくまやすひろ ) ( 九州工業大学大学院情報工学研究院電子情報工学研究系准教授 ) チームリーダー 大谷義近 ( おおた

イン版 (2 月 22 日付け : 日本時間 2 月 23 日 ) に掲載されます 注 )R. Yoshimi, K. Yasuda, A. Tsukazaki, K.S. Takahashi, N. Nagaosa, M. Kawasaki and Y. Tokura, Quantum Hall

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

Microsoft Word - 01.doc

1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

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報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

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令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

マスコミへの訃報送信における注意事項

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

マスコミへの訃報送信における注意事項

【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

平成**年*月**日

互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

図は ( 上 ) ローレンツ像の模式図と ( 下 ) パーマロイ磁性細線の実際のローレンツ像

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2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

マスコミへの訃報送信における注意事項

超高速 超指向性 完全無散逸の 3 拍子がそろった 理想スピン流の創発と制御 ~ 弱い トポロジカル絶縁体の世界初の実証に成功 ~ 1. 発表のポイント : 理論予想以後実証できずにいた 弱い トポロジカル絶縁体 ( 注 1) 状態の直接観察に世界で初めて成功した 従来の 強い トポロジカル絶縁体で

平成18年2月24日

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平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

PRESS RELEASE (2017/6/2) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

報道機関各位 平成 29 年 7 月 10 日 東北大学金属材料研究所 鉄と窒素からなる磁性材料熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 特殊な結晶構造 型 Fe4N による熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋 発表のポイント 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で 熱を加える方向によって熱

スライド 1

高校電磁気学 ~ 電磁誘導編 ~ 問題演習

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予定 (川口担当分)

AlGaN/GaN HFETにおける 仮想ゲート型電流コラプスのSPICE回路モデル

スピントロニクスにおける新原理「磁気スピンホール効果」の発見

報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光

QOBU1011_40.pdf

マスコミへの訃報送信における注意事項

1 背景 物質を構成する陽子や電子はフェルミ粒子と呼ばれ 通常反粒子が別の粒子として存在します 例えば 電 子の反粒子は陽電子であり 異なる符号の電荷を持つためこれらは別の粒子と見なせます 一方で 粒子と反 粒子が同一という特異な性質をもつ中性のフェルミ粒子が 素粒子の一つとして 1937 年に予言

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

2. コンデンサー 極板面積 S m 2, 極板間隔 d m で, 極板間の誘電率が ε F/m の平行板コンデンサー 容量 C F は C = ( )(23) 容量 C のコンデンサーの極板間に電圧をかけたとき 蓄えられる電荷 Q C Q = ( )(24) 蓄えられる静電エネルギー U J U

PowerPoint プレゼンテーション

本研究成果は 平成 28 年 8 月 19 日 ( 米国東部時間 ) に米国化学会誌 Journal of the American Chemical Society のオンライン速報版で公開されました 研究の背景と経緯 超伝導現象はゼロ抵抗や完全反磁性 ( 注 2) を示す科学の観点から重要な物理

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2 磁性薄膜を用いたデバイスを動作させるには ( 磁気記録装置 (HDD) を例に ) コイルに電流を流すことで発生する磁界を用いて 薄膜の磁化方向を制御している

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非磁性原子を置換することで磁性・誘電特性の制御に成功

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振動発電の高効率化に新展開 : 強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) 兼科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明 ( やまだともあき ) 准教授らの研究グループは 物質 材料研究機構技術開発 共用部門の坂田修身 ( さか

世界最高面密度の量子ドットの自己形成に成功

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

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第1章 様々な運動

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研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

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平成22年11月15日

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

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ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注


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スライド 1

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

銅酸化物高温超伝導体の フェルミ面を二分する性質と 超伝導に対する上純物効果

報道発表資料 2000 年 2 月 17 日 独立行政法人理化学研究所 北海道大学 新しい結晶成長プロセスによる 低欠陥 高品質の GaN 結晶薄膜基板作製に成功 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 北海道大学との共同研究により 従来よりも低欠陥 高品質の窒化ガリウム (GaN) 結晶薄膜基板

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論文の内容の要旨

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報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

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4. 発表内容 : 1 研究の背景と経緯 電子は一つ一つが スピン角運動量と軌道角運動量の二つの成分からなる小さな磁石 ( 磁 気モーメント ) としての性質をもちます 物質中に無数に含まれる磁気モーメントが秩序だって整列すると物質全体が磁石としての性質を帯び モーターやハードディスクなど様々な用途

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

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平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質

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PRESS RELEASE 2017 年 10 月 5 日理化学研究所東京大学東北大学金属材料研究所科学技術振興機構 トポロジーの変化に伴う巨大磁気抵抗効果を発見 - 非散逸電流のスイッチング原理を確立 - 要旨理化学研究所 ( 理研 ) 創発物性科学研究センター強相関物性研究グループの茂木将孝研修生 ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 1 年 ) 十倉好紀グループディレクター ( 同教授 ) 強相関界面研究グループの川﨑雅司グループディレクター ( 同教授 科学技術振興機構 CREST 研究代表者 ) 強相関量子伝導研究チームの川村稔専任研究員 東北大学金属材料研究所の塚﨑敦教授らの共同研究グループ は 磁性層と非磁性層を交互に積み重ねた トポロジカル絶縁体 [1] 積層薄膜を開発し 磁気抵抗比 [2] 10,000,000% を超える 非常に巨大な磁気抵抗効果 [2] を発見しました 近年 磁性元素を添加したトポロジカル絶縁体で生じる 量子異常ホール効果 [3] は 試料の端や磁壁 [4] に沿ってエネルギー散逸のない 端電流 が流れることから注目を集めています 量子異常ホール効果の安定化 高温化を図るとともに 端電流を小さな外部刺激によって制御する新しい機能性創出の研究が進められてきました 今回 共同研究グループは 磁性元素 V( バナジウム ) や Cr( クロム ) を添加したトポロジカル絶縁体 (Bi 1-y Sb y ) 2 Te 3 (Bi: ビスマス Sb: アンチモン Te: テルル ) 薄膜を開発しました 薄膜の上部に V 下部に Cr を選択的に添加することにより 磁性 / 非磁性 / 磁性の三層構造を形成しました 二つの磁性層の保磁力 [5] の差を利用することで 互いの磁化方向を外部磁場によって平行 反平行と変化させることができます 本研究では 互いの磁化方向を平行から反平行に変化させることで 電気抵抗値が約 20k オーム (Ω) から 2 ギガ (G)Ω まで 10 万倍に変化する非常に巨大な磁気抵抗効果を観測しました この高抵抗状態は 量子異常ホール効果の端電流をほとんど流さない状態を意味し 非散逸電流をトポロジー変化によって開閉するスイッチング原理を確立しました さらに この電気抵抗の高い状態は アクシオン絶縁体 [6] と呼ばれる量子化された電気磁気効果 [7] の発現が理論的に予測される状態に相当します 本成果は トポロジカル絶縁体の学術的理解を深めるとともに 今後 観測温度の高温化や 超伝導体や強磁性体など多彩な物質との高品質なヘテロ構造化を実現することで エネルギー消費の少ないエレクトロニクス素子や量子コンピューティング [8] への応用にもつながると期待できます 本成果は 米国のオンライン科学雑誌 Science Advances (10 月 6 日付け : 1

日本時間 10 月 7 日 ) に掲載されます 本研究は 最先端研究開発支援プログラム (FIRST) 課題名 強相関量子科学 戦略的創造研究推進事業 (CREST) 課題名 トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物性研究グループ研修生茂木将孝 ( もぎまさたか ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 1 年 ) グループディレクター十倉好紀 ( とくらよしのり ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関界面研究グループグループディレクター川﨑雅司 ( かわさきまさし ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 科学技術振興機構 CREST 研究代表者 ) 上級研究員高橋圭 ( たかはしけい ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 強相関量子伝導研究チーム専任研究員川村稔 ( かわむらみのる ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 東北大学金属材料研究所低温物理学研究部門教授塚﨑敦 ( つかざきあつし ) ( 理化学研究所創発物性科学研究センター強相関界面研究グループ客員主管研究員 ) 1. 背景 エネルギー損失を伴わない電子の輸送現象として超伝導が有名ですが 近年 物質中の電子状態をトポロジー [9] によって特徴づけたトポロジカル物質においても エネルギー損失を伴わない トポロジカル電流 を流せることが分かってきました こうしたトポロジカル電流は 室温で利用できる可能性もあり 世界中で活発に研究されています トポロジカル電流を引き起こす代表例として 量子異常ホール効果 があります 量子異常ホール効果は 磁性元素を添加した トポロジカル絶縁体 において 2013 年に初めて報告されました注 1) この状態では トポロジカル電流の一種である 端電流 を磁性体薄膜試料の端や磁壁に沿って流すことができます 最近では 量子異常ホール効果をより高温で安定に実現するための研究と同時に 端電流を用いた新しい機能性創出の研究が進められています 端電流を小さな外部刺激によって自由に制御できれば ( 図 1) トポロジカル電流の応用の幅を大きく広げることにつながります 2

図 1 量子異常ホール効果を用いたトポロジカル端電流のスイッチング素子の模式図 トポロジカル絶縁体薄膜の上下表面における磁化が互いに平行 ( 赤の矢印同士 ) であればトポロジカル電流 ( 緑の矢印 ) を試料の端や磁壁 ( 薄緑の領域 ) に生じ 反平行 ( 赤と青の矢印 ) であれば絶縁体になる これらを組み合わせることで トポロジカル端電流を用いた回路が設計できる 注 1)C.-Z. Chang et al., Science 340, 167 (2013) 2. 研究手法と成果 共同研究グループは 高品質な薄膜を成長させる方法の一つである分子線エピタキシー法 [10] を用いて 磁性元素 V( バナジウム ) や Cr( クロム ) を添加したトポロジカル絶縁体 (Bi 1-y Sb y ) 2 Te 3 (Bi: ビスマス Sb: アンチモン Te: テルル ) の積層構造薄膜を開発しました 薄膜の上部と下部に選択的に磁性元素である V や Cr をそれぞれ添加することで 磁性 / 非磁性 / 磁性の三層構造を形成しています ( 図 2A) 電気抵抗とホール効果を測定するため 成長した薄膜はフォトリソグラフィ [11] によって長方形試料の両端に電極のついた形状のデバイスに加工しました ( 図 2B) まず 上下層ともに Cr のみを添加した三層構造において 電気抵抗を測定しました その結果 量子異常ホール効果が観測され 高品質な磁性トポロジカル絶縁体薄膜が成長していることを確かめました Cr のみ添加した構造では 量子異常ホール効果から読み取った保磁力は 0.2 テスラ (T) でした 次に 上下層ともに V のみ添加した三層構造においても同様の測定を行い 量子異常ホール効果が得られることを確認しました この場合の保磁力は 0.8 T で Cr のみ添加した場合よりも大きくなりました 続いて 上部に V 下部に Cr を選択的に添加した三層構造について 電気抵抗を測定しました ( 図 2C) 薄膜試料に対して垂直方向に強い外部磁場 (~-2T) を加えて V を添加した層と Cr を添加した層の磁化方向を揃えたところ 量子異常ホール効果が観測されました 外部磁場の方向を反転させてだんだん強くしていくと ある大きさの磁場 (~0.2 T) で保磁力の小さい Cr を添加した層の磁化が反転し Cr 層と V 層の磁化方向が反対向き ( 反平行 ) になりました さらに磁場を増大させていくと 約 0.2T から約 0.7T の間でホール伝導度がゼロになりました この磁場領域において 電流端子間の二端子抵抗を測定すると 量子異常ホール状態の約 20k オーム (Ω) より 10 万倍大きい 2 ギガ (G)Ω を超える抵抗値が観測されました ( 図 2D) これを磁気抵抗比に換算すると 3

10,000,000% を超える非常に大きな値となります この結果は 外部磁場による磁化方向制御を行うことで 量子異常ホール効果のトポロジー変化を引き起こし 端電流を流したり遮断したりできたことを示しています すなわち 非散逸電流のスイッチング原理の確立を意味しています さらに この高抵抗状態は アクシオン絶縁体 と呼ばれ 量子化された電気磁気効果の発現が理論的に予測されています Cr V 三層構造を開発したことで これまでに茂木研修生らが報告したもの注 2) と比較して より安定なアクシオン絶縁体が実現できました 図 2 積層薄膜のホール伝導度と二端子抵抗の外部磁場依存性 A: 作製したトポロジカル絶縁体薄膜 ( 白の層 ) と磁性トポロジカル絶縁体 ( ピンクと緑の層 ) の積層構造 1nm は 10 億分の 1m InP 基板上のトポロジカル絶縁体薄膜 1nm の層は 薄膜の質を向上させるバッファー層の役割を果たす B: 作製した薄膜を測定用にデバイス加工した試料の光学顕微鏡写真 C: ホール伝導度が ±e 2 /h のときが量子異常ホール状態 0 のときが絶縁体の状態を表している ホール伝導度は測定された縦電圧とホール電圧から計算される D: 電流端子間で二端子抵抗を測定すると 量子異常ホール状態から絶縁体の状態に変わるとき ( 約 0.2T ~ 約 0.7T 約 -0.2T~ 約 -0.7T) に 抵抗値が 20kΩ から 2GΩ へと非常に大きく変化したことが分かる 注 2)2017 年 2 月 14 日プレスリリース トポロジカル絶縁体の表面金属状態の絶縁化 http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170214_1/ 4

3. 今後の期待 本研究では 磁化が反平行の状態を非常に強固なものとすることに成功し より安定なアクシオン絶縁体が実現できました これにより 今後の電気磁気効果の測定に向けた研究に大きな進展が期待できます また 本研究で開発した積層薄膜試料と局所的磁気制御技術を組み合わせることにより 再構成可能なトポロジカル端電流回路を設計できると考えられます さらに 超伝導体などとの積層構造を実現することで量子コンピューティングへの応用にもつながると理論的に考えられており 本研究成果は 将来的なトポロジカルエレクトロニクスの基盤技術になると期待できます 4. 論文情報 < タイトル > Tailoring tricolor structure of magnetic topological insulator for robust axion insulator < 著者名 > M. Mogi, M. Kawamura, A. Tsukazaki, R. Yoshimi, K. S. Takahashi, M. Kawasaki and Y. Tokura < 雑誌 > Science Advances 5. 補足説明 [1] トポロジカル絶縁体物質中の電子状態のトポロジーを反映して 中身は電気を通さない絶縁体であるが 表面では電気を通す金属となる特殊な物質のこと [2] 磁気抵抗効果 磁気抵抗比磁気抵抗効果とは 外部磁場によって物質の電気抵抗が変化する現象のこと 抵抗値の変化分を変化前の抵抗値で割った比率を磁気抵抗比という [3] 量子異常ホール効果磁場中を電子などの荷電粒子が動くと ローレンツ力によって荷電粒子の動きが曲げられる 物質内では 電流を流したとき電子の動きが曲げられることで電流の垂直方向に電圧が生じる この現象を ホール効果 と呼び 得られる電圧値を 流す電流値で割ったものを ホール抵抗 と呼ぶ 物質が磁性体であれば 物質の磁化によって電子の動きが曲げられるため 外部磁場がなくてもホール抵抗が起きる これを 異常ホール効果 と呼ぶ 量子異常ホール効果は ホール抵抗が量子化抵抗 ( 約 25.8kΩ=h/e 2 ;h はプランク定数 e は電気素量 ) をとる また 電流の流れと平行方向の抵抗 ( 縦抵抗 ) 値はゼロとなり 電流は試料の端でエネルギー損失がなく流れていることを示す 縦伝導度 ホール伝導度は縦抵抗およびホール抵抗から計算され 0 e 2 /h という値をそれぞれとる 5

[4] 磁壁磁性体中で極 (N 極 S 極 ) の方向が入れ替わっている領域が存在するとき その境界面のこと [5] 保磁力磁性体の磁化を反転させるのに必要な外部磁場の大きさのこと [6] アクシオン絶縁体電子状態のトポロジーを反映して 電気磁気効果を発生する特殊な物質のこと アクシオンとは 素粒子物理学において存在が理論的に予測されている未発見の仮想粒子で 強い相互作用の CP 対称性を説明するための機構から生じる 暗黒物質 ( ダークマター ) の正体の候補としても知られる この仮想粒子と同等の電磁場応答が 固体中で発現する可能性が理論的に予言され 観測が期待されている その応答の代表例の一つが電気磁気効果であり トポロジカル絶縁体では 物質に必ず存在する欠陥や不純物の量に左右されない 量子化された ( ある決まった ) 巨大な値をとると予測されている [7] 電気磁気効果電場を加えることによって磁化が発生したり 磁場を加えることによって電気分極 ( 物質の片側にプラスの電荷がたまり 反対側にはマイナスの電荷がたまる現象 ) が起きたりする現象のこと 通常の物質では 磁場 ( 電場 ) の印加によって磁化 ( 電気分極 ) が発生する この現象を用いた省電力メモリー素子への応用が期待されている [8] 量子コンピューティング量子力学的な重ね合わせ状態を利用して計算を行う技術 超大規模な並列計算が行えるので 高速な情報処理を可能にすると期待されている 重ね合わせ状態は一般には外部雑音によって壊れやすく計算誤りを引き起こしてしまうが トポロジーの概念を用いると 外界の影響に対して誤りの起きにくい量子計算が実現されると期待されている [9] トポロジーある形を連続的に変形させても変わらない性質を研究する数学的概念 トポロジカル絶縁体では 固体中で電子がとり得るエネルギー状態 ( バンド構造 ) のトポロジーによって特徴的な性質を現す [10] 分子線エピタキシー法高品質な薄膜を成長させる方法の一つ 超高真空 (~10-7 パスカル Pa) 中で高純度の単体を加熱蒸発させ 加熱した基板上で結晶成長させる [11] フォトリソグラフィ感光性物質を薄膜表面に塗布し 露光する部分としない部分でパターニングする デバイス加工の技術 本研究では 露光した部分が溶解する感光物質を用い 溶解した部分をエッチングする ( 削る ) ことでデバイス加工した 6

6. 発表者 機関窓口 < 発表者 > 研究内容については発表者にお問い合わせ下さい理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生茂木将孝 ( もぎまさたか ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 1 年 ) グループディレクター十倉好紀 ( とくらよしのり ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物理部門強相関界面研究グループグループディレクター川﨑雅司 ( かわさきまさし ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 科学技術振興機構 CREST 研究代表者 ) 強相関物理部門強相関量子伝導研究チーム専任研究員川村稔 ( かわむらみのる ) TEL:03-5841-6858( 茂木 ) 048-462-1111 ex. 6114( 川村 ) E-mail:mogi@cmr.t.u-tokyo.ac.jp( 茂木 ) minoru@riken.jp( 川村 ) 東北大学金属材料研究所低温物理学研究部門教授塚﨑敦 ( つかざきあつし ) 茂木将孝十倉好紀川﨑雅司 川村稔 塚﨑敦 7

< 機関窓口 > 理化学研究所広報室報道担当 東京大学大学院工学系研究科広報室 東北大学金属材料研究所情報企画室広報班 科学技術振興機構広報課 8