Microsoft Word - todaypdf doc

Similar documents
抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

2006 年 3 月 3 日放送 抗菌薬の適正使用 市立堺病院薬剤科科長 阿南節子 薬剤師は 抗菌薬投与計画の作成のためにパラメータを熟知すべき 最初の抗菌薬であるペニシリンが 実質的に広く使用されるようになったのは第二次世界大戦後のことです それまで致死的な状況であった黄色ブドウ球菌による感染症に

2012 年 2 月 29 日放送 CLSI ブレイクポイント改訂の方向性 東邦大学微生物 感染症学講師石井良和はじめに薬剤感受性試験成績を基に誰でも適切な抗菌薬を選択できるように考案されたのがブレイクポイントです 様々な国の機関がブレイクポイントを提唱しています この中でも 日本化学療法学会やアメ

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

使用上の注意 1. 慎重投与 ( 次の患者には慎重に投与すること ) 1 2X X 重要な基本的注意 1TNF 2TNF TNF 3 X - CT X 4TNFB HBsHBcHBs B B B B 5 6TNF 7 8dsDNA d

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

Ⅰ One-compartmentmodel( 静脈内急速投与 ) [ シミュレーション実験上の全般的注意点 ] 実習書をよく読み 適切な器具 ( フラスコ, メスシリンダー ) を使用する の流速を 実際の実験状態に近い位置で 別々にしっかりと合わせる ( 最低 3 回 ) 精製水の補給用のチュー

で言われています このような 副鼻腔炎と喘息の合併のことを 同一の気道で起こるので One airway one disease と呼ばれ久しくなっています それぐらいに 上気道と下気道の関連が密接であることが 広く認識されています また 副鼻腔炎に下気道の慢性炎症を合併する疾患としては 副鼻腔気管

2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

針刺し切創発生時の対応

添付文書の薬物動態情報 ~基本となる3つの薬物動態パラメータを理解する~

SpO2と血液ガス

医療用医薬品最新品質情報集 ( ブルーブック ) 初版有効成分リトドリン塩酸塩 品目名 ( 製造販売業者 ) 後発医薬品 品目名 ( 製造販売業者 ) 先発医薬品 効能 効果用法 用量添加物 1) 解離定数 (25 ) 1) 溶解度 (37 ) 1 ウテロン錠 5mg サンド 2

TDMを活用した抗菌薬療法

Microsoft Word - JAID_JSC 2014 正誤表_ 原稿

スライド 1

Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx

Title 揮発性肺がんマーカーの探索 ( Digest_ 要約 ) Author(s) 花井, 陽介 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL R

耐性菌届出基準

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

シトリン欠損症説明簡単患者用

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

血糖値 (mg/dl) 血中インスリン濃度 (μu/ml) パラチノースガイドブック Ver.4. また 2 型糖尿病のボランティア 1 名を対象として 健康なボランティアの場合と同様の試験が行われています その結果 図 5 に示すように 摂取後 6 分までの血糖値および摂取後 9 分までのインスリ

査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品

診断ワークショップ5

解析センターを知っていただく キャンペーン

核医学分科会誌

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

木村の理論化学小ネタ 緩衝液 緩衝液とは, 酸や塩基を加えても,pH が変化しにくい性質をもつ溶液のことである A. 共役酸と共役塩基 弱酸 HA の水溶液中での電離平衡と共役酸 共役塩基 弱酸 HA の電離平衡 HA + H 3 A にお

添付文書がちゃんと読める 薬物動態学 著 山村重雄竹平理恵子城西国際大学薬学部臨床統計学

第2章マウスを用いた動物モデルに関する研究

現況解析2 [081027].indd

57巻S‐A(総会号)/NKRP‐02(会長あいさつ)

2.7.3(5 群 ) 呼吸器感染症臨床的有効性グレースビット 錠 細粒 表 (5 群 )-3 疾患別陰性化率 疾患名 陰性化被験者数 / 陰性化率 (%) (95%CI)(%) a) 肺炎 全体 91/ (89.0, 98.6) 細菌性肺炎 73/ (86

学会名 : 日本免疫不全症研究会 アンケート 1 1. アンケート 2 に回答する疾患名 (1) X 連鎖無 γ グロブリン血症 (2) 慢性肉芽腫症 2. 移行期医療に取り組むしくみあり :1 年に1 回の幹事会で 毎年 discussion している また 地区ごとの地方会で 内科の先生方にいか

Taro-H23.10

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規


輸液製剤


テイカ製薬株式会社 社内資料

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

トリアムシノロンアセトニド マキュエイド硝子体内注用 40mg 医薬品製造販売承認事項一部変更承認申請書 添付資料 CTD 第 2 部 ( 資料概要 ) 2.6 非臨床試験の概要文及び概要表 薬物動態試験の概要文 わかもと製薬株式会社 1

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

1508目次.indd

者における XO 阻害薬の効果に影響すると予測される 以上の議論を背景として 本研究では CKD にともなう FX および尿酸の薬物体内動態 ( PK ) 変化と高尿酸血症病態への影響を統合的に解析できる PK- 薬力学 (PD) モデルを構築し その妥当性を腎機能正常者および CKD 患者で報告さ


糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

外来在宅化学療法の実際


スライド 1

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

Taro-H24.10.jtd

放射線併用全身化学療法 (GC+RT 療法 ) 様の予定表 No.1 月日 経過 達成目標 治療 ( 点滴 内服 ) 検査 処置 活動 安静度 リハビリ 食事 栄養指導 清潔 排泄 / 入院当日 ~ 治療前日 化学療法について理解でき 精神的に安定した状態で治療が

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

記載データ一覧 品目名 製造販売業者 BE 品質再評価 1 マグミット錠 250mg 協和化学工業 2 酸化マグネシウム錠 250mg TX みらいファーマ 3 酸化マグネシウム錠 250mg モチダ 持田製薬販売 # 4 酸化マグネシウム錠 250mg マイラン マイラン製薬 # 5 酸化マグネシ

豚繁殖 呼吸障害症候群生ワクチン ( シード ) 平成 24 年 3 月 13 日 ( 告示第 675 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した弱毒豚繁殖 呼吸障害症候群ウイルスを同規格に適合した株化細胞で増殖させて得たウイルス液を凍結乾燥したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株

ルグリセロールと脂肪酸に分解され吸収される それらは腸上皮細胞に吸収されたのちに再び中性脂肪へと生合成されカイロミクロンとなる DGAT1 は腸管で脂質の再合成 吸収に関与していることから DGAT1 KO マウスで認められているフェノタイプが腸 DGAT1 欠如に由来していることが考えられる 実際

横浜市環境科学研究所

患者さんへの説明書

グリコペプチド系 >50( 常用量 ) 10~50 <10 血液透析 (HD) 塩酸バンコマイシン散 0.5g バンコマイシン 1 日 0.5~2g MEEK 1 日 4 回 オキサゾリジノン系 ザイボックス錠 600mg リネゾリド 1 日 1200mg テトラサイクリン系 血小板減少の場合は投与

研究成果報告書

づけられますが 最大の特徴は 緒言の中の 基本姿勢 でも述べられていますように 欧米のガイドラインを踏襲したものでなく 日本の臨床現場に則して 活用しやすい実際的な勧告が行われていることにあります 特に予防抗菌薬の投与期間に関しては 細かい術式に分類し さらに宿主側の感染リスクも考慮した上で きめ細

NEWS RELEASE 東京都港区芝 年 3 月 24 日 ハイカカオチョコレート共存下におけるビフィズス菌 BB536 の増殖促進作用が示されました ~ 日本農芸化学会 2017 年度大会 (3/17~

変更一覧表 変更内容新現備考 Peak 50~60 Trough 4 未満 Peak 20.0~30.0 Trough 8.0 以下 アミカシン 静注投与後 1 時間 Trough 1 未満 Peak 4.0~9.0 Trough 2.0 以下 トブラマイシン 静注投与後

それでは具体的なカテーテル感染予防対策について説明します CVC 挿入時の感染対策 (1)CVC 挿入経路まずはどこからカテーテルを挿入すべきか です 感染率を考慮した場合 鎖骨下穿刺法が推奨されています 内頚静脈穿刺や大腿静脈穿刺に比べて カテーテル感染の発生頻度が低いことが証明されています ただ


「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (


振動学特論火曜 1 限 TA332J 藤井康介 6 章スペクトルの平滑化 スペクトルの平滑化とはギザギザした地震波のフーリエ スペクトルやパワ スペクトルでは正確にスペクトルの山がどこにあるかはよく分からない このようなスペクトルから不純なものを取り去って 本当の性質を浮き彫

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

DVIOUT

助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

医薬品の添付文書等を調べる場合 最後に 検索 をクリック ( 下部の 検索 ボタンでも可 ) 特定の文書 ( 添付文書以外の文書 ) の記載内容から調べる場合 検索 をクリック ( 下部の 検索 ボタンでも可 ) 最後に 調べたい医薬品の名称を入力 ( 名称の一部のみの入力でも検索可能

スライド 1

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

審査結果 平成 26 年 1 月 6 日 [ 販 売 名 ] ダラシン S 注射液 300mg 同注射液 600mg [ 一 般 名 ] クリンダマイシンリン酸エステル [ 申請者名 ] ファイザー株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 25 年 8 月 21 日 [ 審査結果 ] 平成 25 年 7

untitled

情報提供の例

01-02(先-1)(別紙1-1)血清TARC迅速測定法を用いた重症薬疹の早期診断

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

Transcription:

2012 年 6 月 20 日放送 肺内抗菌薬濃度測定と感染症治療への応用肺内抗菌薬濃度測定と感染症治療への応用 北海道大学大学大学院大学院呼吸器内科学教授西村正治はじめにきょうは 気管支鏡下マイクロサンプリング法を用いた気道上皮被覆液中の薬物動態についてお話しします 薬物治療をする際に 血液中の PK/ PD 理論というのは大変重要です つまり 薬物を投与した場合に 体の中にどのように薬物が行きわたるかということを考える学問です その場合 肺は多くのコンパートメントからなる大変複雑な臓器であるということが重要です 血液中の薬物動態をみるのとは違って 肺内の薬物動態を知ることは容易ではありません 肺は 気道系 肺胞系 血管系が複雑に絡み合った臓器だからです 肺胞の表面には肺胞上皮を覆ういわゆる被覆液があり 肺胞腔内には肺胞マクロファージがいます また 肺胞間質には組織液があり 上皮被覆液との間で行き来があります さて 肺胞の中をさらに細かく見てみると 抗菌薬の血液 肺胞関門の移行ということを考えなければなりません その場合 血液から間質の組織液

中にしみ出た薬物は さらに肺胞上皮を介して あるいは 細胞間隙を通り抜けて肺胞腔の中に入ります そこには肺胞マクロファージがいますので 薬物によっては ABC トランスポーターによる能動輸送により肺胞マクロファージの中に取り込まれるものもあります こういった薬物はさらに肺胞内から細胞外へ再放出されますので 肺胞腔内の薬物動態は大変複雑です 以上は肺炎の場合の薬物動態ですが 一方 気道感染の場合は気道上皮細胞を覆う液性成分 つまり気道上皮被覆液中の薬物動態が重要となります 肺の中の薬物動態を知ろうという試みはこれまでも様々ありました しかし 気道上皮被覆液中の薬物動態を直接反復測定するという試みはこれまで一度もありませんでした 気管支鏡下マイクロサンプリング法そこで私どもは 気道上皮被覆液中の薬物動態を直接知るために 気管支鏡下マイクロサンプリング法という方法を導入いたしました この方法は 気道上皮被覆液を反復微量サンプリングすることによって その中の薬物動態を連続的に測定しようという試みです この方法は 慶応大学の故石坂彰人教授が開発された方法でありまして もともとは気道上皮被覆液中におけるバイオマーカーや腫瘍マーカー測定のために用いられました 気管支鏡下マイクロサンプリングを具体的に説明します 気管支鏡を肺内に導入した後 気管支鏡を介してプローブを挿入します このプローブの先には液体を容易に吸収する吸収体がついており その吸収体を約 10 秒間気管支壁に接触させることによって 検体を採取するという方法です その微量の採取標本から薬物濃度をどのように算出するかについて 次に説明いたします 1 回に採取される量は約 15 マイクロリットルです それを3 回繰り返すことによって 平均 50 マイクロリットル弱の採取液が得られます それを 2cc の生理食塩水に攪拌します プローべの湿重量と乾燥

重量を測定することで検体重量が正確に求められますので 結果として希釈濃度がわかります その結果 気管支上皮被覆液中の薬物濃度もわかるのです レボフロキサシンを用いてこの方法を使って 私どもは初めに レボフロキサシン単回内服後の血液と気管支上皮被覆液中の薬物動態を調べました 健常成人 10 人を対象といたしまして 採血と気管支鏡検査を繰り返すことによって 薬物動態を連続してモニターしたということであります その結果 気管支上皮被覆液においても血液と同様に 初め1 2 時間後にピークがあり その後 段階的に濃度が減っていく現象を確認することができました これは 世界で初めて気道上皮被覆液中の薬物動態を経時的にモニターした結果です テリスロマイシンを用いて次に テリスロマイシンを用いました テリスロマイシンを単回内服後と 5 日間継続的に内服して その最終日に内服した後に同じ時間経過で比較しました そうしますと 単回内服 1 回の場合と5 日間内服後では血液レベルでは同じような薬物動態を示すのに対して 気道上皮被覆液では 単回内服と比べて5 日間内服後には はるかに高い濃度レベルで推移しました この実験においては さらに別の機会に単回内服後あるいは5 日間の最終内服後 3 時間後に気管支肺胞洗浄も行なっています 気管支肺胞洗浄で得られるものは気道上皮ではなく主として

肺胞上皮被覆液の検体です つまり 今回は 血液 気管支上皮被覆液 肺胞上皮被覆液と3つの異なるコンパートメントにおける薬物動態の差異を示すことができたのです クラリスロマイシンを用いて次は マクロライド系にクラリスロマイシンです この薬剤は肝臓で代謝されて 14OH-クラリスロマイシンに変化します そこで クラリスロマイシンと代謝産物である 14OH-クラリスロマイシンの両者の濃度を異なるコンパートメントで比較しました 予想されたように 血液レベルに比べると 気管支上皮被覆液の薬物濃度ははるかに高く 肺胞上皮被覆液ではさらに高かったのです また 気管支肺胞洗浄で得られた肺胞マクロファージを壊して 細胞内液の薬物濃度を調べることによって肺胞マクロファージがたしかに薬物を取り込んでいることを証明しました ちなみに 代謝産物である 14OH-クラリスロマイシンは クラリスロマイシン本体とは異なる動きを示しました 3つのコンパートメント間の濃度勾配がはるかに小さいのです さらに 私どもは別のクラスの薬剤 ガチフロキサシンを使って 健常者と慢性気管支炎患者間で比較しました 結論だけ述べると 予想に反して 慢性気管支炎患者の気道上皮被覆液中薬物濃度は血液レベルと変わりがありませんでした 健常者において 血液より高い濃度勾配を呈したこととは対照的です

これまでの成績をまとめます 私どもは経気管支鏡下マイクロサンプリン法を用いることで 健常者及び慢性気管支炎患者において 初めて経口抗菌薬内服後の気道上皮被覆液中の薬物動態を明らかにすることができました そして 血液 気管支上皮被覆液 肺胞上皮被覆液の間には異なる薬物動態が存在することを証明したのです なお データは示しておりませんが この検査法の再現性も検討しています 同時に異なる気管支から採取した場合 あるいは期間を置いて同一条件で同一気管支から採取した場合 等々の検討をすることによって再現性も確かめています カルバペネム系の薬物動態最後に カルバペネム系の薬物動態について考えてみましょう この薬は 抗菌薬の濃度が MIC を超える時間 すなわちTオーバー MIC が抗菌効果と相関するということが既によく知られています そのため 30 分で行う急速静注よりも3 時間かけてゆっくり点滴静注するほうが 血液レベルで見る限りにおいて Tオーバー MIC が長いと報告されています それでは この点滴時間の長短による効果時間の差は気道上皮被覆液中においても見られるでしょうか? 血液レベルでみると 30 分点滴の場合には約 1 時間後にピークがあり その後急速に低下するというカーブを描きます それに対して 3 時間点滴の場合には ピークが点滴開始後 3~4 時間後にあり その後 なだらかに低下します 当然ながら 血液中のピーク値は 30 分点滴では非常に高いのに対して 3 時間点滴では中等度にとど

まります 次に気管支上皮被覆液の結果をみてみましょう 大変驚いたことには 30 分点滴に比べて3 時間点滴のほうがどの時間帯においても血液レベルより高い濃度で推移しているのです つまり Area of Under Curve (AUC) で見ると明らかに 3 時間点滴で面積が大きくなります 同一の薬物を同等量点滴しても 30 分点滴と3 時間点滴の場合では 気管支上皮被覆液中の薬物動態を見る限り 圧倒的に後者が有利であることがわかります この研究は 血液から気道上皮被覆液への薬物の移動がカルバペネム系では濃度依存性 時間依存性の特徴を有していることを意味します このような知見は 気道感染症あるいは肺炎に対する抗菌薬の開発 評価に大変有用な情報をもたらすものと私どもは考えております 気道上皮被覆液における薬物濃度勾配について最後に 肺の中 とくに肺胞と気道における薬物濃度勾配について改めて整理してみましょう ニューキロノン系やマクロライド系の薬剤は 肺胞マクロファージに能動的に取り込まれます こういった薬剤の場合には肺胞腔内の濃度が一番高くなるということがわかりました 薬剤は 肺胞マクロファージに取り込まれた後 再放出され それが繊毛運動による粘液繊毛輸送によって太い気道に向かって運ばれます そのため 肺胞から細気管支 気管支へと上皮被覆液中では薬物濃度勾配が生じている可能性があるのです 一方 気管支上皮被覆液の薬物濃度はそれ以外にも決定因子があります 言うまでもなく 気道壁を流れる血液からの直接的な移行が第一義的に重要です その移行には 薬物が脂溶性であるか水溶性であるか あるいは 薬物を運搬する蛋白との結合能力も重要かもしれません さらには 薬物の代謝が生体内のどこでどのくらいの速度で起こっているかも各コンパートメントの濃度に大きな影響を与えるはずです つまり 肺のような複雑な臓器では それぞれのコンパートメントによって薬物濃度

は異なり それぞれのコンパートメントではそれぞれ独立に多数の因子が薬物動態に影響を与えているのです 肺炎や気管支炎の抗菌薬治療を考えるときに 肺内のコンパートメントによって薬物動態が異なるのだという認識を持つことは大変重要であると考えます