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ミクロシミュレータから広域シミュレータへ受け渡される評価指標としては対象区間の旅行速度や渋滞長等も考えられるが, 本研究では, 交通運用施策を評価する重要な指標であり, ネットワーク交通流動を分析する際に最も基本的なパラメータとなる交通容量を扱うものとする. 以上の評価手法のメリットは以下のとおりである. 1 運用施策による局所的交通性能 ( 本研究では交通容量 ) が明確にわかる. 2 局所的交通性能の変化による道路ネットワーク全般への影響が評価可能である. 3 交通運用施策による道路ネットワークへの効果評価において, その因果関係が明瞭である. ただし, 動的な交通運用施策を評価するためには, シミュレーション上でも計算を継続しながら時間帯に応じてシナリオを動的に切り替えられることが理想的であるが, 現在のモデルではこれを実現することは困難であるため, 本研究では便法として以下の方法をとることとする. 1 考えられる動的な交通運用施策ごとにミクロシミュレータによる評価を行い, 各運用施策シナリオでの交通容量を求める. 2 得られたシナリオごとの交通容量を広域シミュレータのパラメータとして設定し, シナリオごとの広域シミュレーションを行う. 3 シナリオごとの広域シミュレーションの結果を比較検討し, 時間帯ごとに適切な交通運用施策を評価する. この方法の利点は, シミュレータの大規模な改変を必要とせずに交通運用施策を検討したい箇所だけを効率的に評価することができることである. ただし, この方法ではシミュレーション途中の局所的交通性能の変化が反映できないので, 動的交通運用の効果の厳密な評価には不十分であることに留意する必要がある. 可変チャンネリゼーション施策を実施した場合の評価として, 本研究では首都高速道路を対象としたケーススタディを行う. 首都高速道路ではのJCTをボトルネックとする交通渋滞が慢性的に発生しており, この合流部に可変チャンネリゼーションを適用することを想定する. 対象とするJCTは以下の 3 箇所とする. 1 (1 号羽田線上り+ 外回り ) 2 (上り+ 内回り ) 3 (上り+ 外回り ) (3) 評価する可変チャンネリゼーションのシナリオ本研究で評価する可変チャンネリゼーションのシナリオは図 -2のように設定する. を本線として扱うことにすれば, シナリオ1 は現状 ( 本線優先 ), シナリオ 2は合流側優先, シナリオ3 は 1 車線 +1 車線 の対等合流である. ただし, の現状は 2 車線 +2 車線 合流となっているため, 同区間におけるシナリオ1 も現状とおりとする. 本線側, 合流側ともに上流側は2 車線であるため,1 車線での合流の場合は流入部の前で車線減少が行われる. シナリオ1 ( 本線優先 ) シナリオ1: 現状 ( 優先 ) ( 合流側優先シナリオ2 ) ( 合流側優先 ) * ただし, のシナリオ 1( 現状 ) は 2 車線 +2 車線 図 -2 評価する交通運用施策 ( シナリオ対等合流 3 ) ( 対等合流 ) 3. ミクロシミュレータによる局所的な評価 (1) 使用モデル本研究ではミクロ交通シミュレータとして, 東京大学生産技術研究所で開発されたKAKUMOモデルを用いる.KAKUMOは追従タイプのシミュレータで, 速度 - 車間距離関係に基づく車両の加減速や車線変更, さらにハンドル角に応じた車両姿勢などを表現可能である. 道路ネットワークのリンクは車線の概念を持ち, 高速道路の分合流部, 一般道路の信号交差点などを詳細に表現することが可能である. 本研究ではこのシミュレータを用いて動的な交通運用施策を表現し, 施策の局所的な評価を行う. (2) 対象区間 (4) シミュレーションの条件 Sarvi 4) の研究によると, 合流部の交通容量は合流車線数のみならず, 合流角度等の合流部幾何構造によっても変動する. なお, 交通需要が容量に達していなくても合流可能な交通流率は本線側および合流側の交通量によって異なると考えられるが この点についての詳細な分析については今後の課題とし, 本研究では両流入部ともに渋滞が発生している状態, すなわち, 交通容量を大きく上回る交通量を発生させた状態で合流部の交通容量の推定に焦点を合わせたシミュレーションを行う. (5) シミュレーション結果シミュレーションのためにはモデルパラメータのキャリブレーションとモデルの検証が不可欠である. 本研

究ではSarvi 4) の研究で観測された実データに基づいてキャリブレーションおよび検証を行うが, 区間のデータはないため, 同 JCTにおけるモデルの検証はできなかった. したがって, 同 JCTについてはシミュレーションを行わず, 類似する合流 幾何構造の条件を持つのシミュレーション結果をに適用して広域シミュレーションを実施することにする. シミュレーション結果を表 -2にまとめる. の交通容量はより高くなっている. その原因としては, Sarvi 4) が分析したように, 合流角度の小さいことが考えられるが, 詳しい分析については今後の課題とする. この結果は, 次章で説明する広域交通シミュレータへの入力値として利用し, 各シナリオ別の局所的な効果による首都高ネットワーク全体への影響を分析する. 表 -2 ミクロ交通シミュレーション結果 ( 交通容量 ) 浜崎橋 一ノ橋 谷町 シナリオ1 シナリオ2 シナリオ3 2,266 984 1,953 1 号線 1,531 2,791 1,955 2,609 968 1,826 2 号線 951 2,540 1,813 2,540 951 1,813 3 号線 968 2,609 1,826 4. 広域シミュレータによるネットワーク評価 本章では, 前章で得られたミクロ交通シミュレーションの結果をJCT 合流部の交通容量としてパラメータ設定し, 広域シミュレーションを実施することで動的な交通運用施策のネットワークへの波及効果を分析する. 分析対象は首都高ネットワーク全線である. (1) 使用モデル本研究では広域交通シミュレータとして, 東京大学生産技術研究所で開発されたSOUNDモデルを用いる. SOUNDは一般にメゾスケールと呼ばれるタイプのシミュレータで, 交通流はいくつかの車両をひとまとめにしたパケットの移動により表現される. 各車両パケットは目的地をもち, リンクごとに設定されたリンク容量およびリンク走行速度に従い移動しつつ, ネットワーク状態に応じて目的地までの経路選択を行う. リンクに車線の概念はなく, 詳細な車両挙動を表現することはできないが, 大規模なネットワークを扱うことが可能である. またリンク容量を明示的に設定することができるため, 渋滞状況の再現, ネットワーク交通流動の評価に適している. 本研究ではこのシミュレータを用いて, 総旅行時間や平均走行速度, 総渋滞長といった観点から交通施策の広域ネットワークへの波及効果を分析する. (2) シナリオ設定本研究では首都高ネットワークの3 箇所のJCTにおいてそれぞれ3 通りずつのシナリオを設定しているため, 可能なシナリオの組合せは3 3 3=27ケースとなる. これらそれぞれについて,24 時間のシミュレーションを行うものとする. この際, 第 2 章で述べたように, SOUNDではシミュレーション実行途中に交通容量等の設定値を動的に変更することができない. したがって, 各ケースの24 時間のシミュレーションにおいては動的な車線運用は行わないものとみなし, 異なるケース間の結果の比較をもって可変チャネリゼーション施策の効果について考察する. 本稿におけるケース番号の3 桁は,,, の順番での各区間のシナリオ番号を表す. 例えば, ケース123は, ではシナリオ1, ではシナリオ2, ではシナリオ3を適用したケースである. (3) モデルの再現性シミュレーションの入力とするOD 交通量は 2008 年 3 月のETCデータから, 首都高のETC 利用率に基づき拡大処理を行ったOD 表を使用した. シミュレーション時間帯は平日の午前 4 時から翌日午前 4 時である. 現状を対象にシミュレーションを行って2008 年 3 月 24 日の実データと比較した結果, 交通量の観測値と推定値の相関係数は 0.86, 平均旅行速度の相関係数は0.50であった. (4) 分析結果 : 全体的な指標分析対象ネットワーク ( 首都高全線 ) の全体的な状態を示す指標として, 本節では総渋滞長, 平均旅行速度の時系列変動,24 時間の総旅行時間を用い, 前章で行った局所的な交通運用施策の導入によるネットワーク全体への効果を評価する. 図 -3は総渋滞長(km) に関する分析結果を示す. ケース211と213を除き, シナリオ2を含む全てのケースでは総渋滞長が急激に増加し,24 時間のシミュレーションが終わるまで減少しない. これは, 次節の分析で明らかになるが, 合流側優先によるへの大量の流入交通量により, 約 15km 延長のが閉塞し, 急速に首都高ネットワーク全体が閉塞状態になったことが原因である. 合流部シナリオ2 を含まない8 ケースのみを拡大して図 -4に示す. 現状を表すケース111のシミュレーション結果は他のケースに比べてそれほど悪くはないが, 例えば7 時から 9 時まではケース313,9 時から 12 時まではケース331,12 時から18 時まではケース133を適用したほうがもっとも低い総渋滞長を示しており, 動的な可変チャネリゼーションの効果の可能性を十分に示し

総渋滞長 (km) 500 400 300 200 100 0 211 213 * A: シナリオ 2 を含む 16 ケース (211, 213, 231 を除く.) * B: シナリオ 2 を含まない 8 ケース 総渋滞長 (km) 平均旅行速度 (km/h) A 図 -3 総渋滞長の時系列変動 (27 ケース ) 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 80 70 60 50 40 30 20 10 0 図 -4 総渋滞長の時系列変動 ( シナリオ 2 を含まない 8 ケース ) 図 -5 平均旅行速度の時系列変動 ( シナリオ 2 を含まない 8 ケース ) B 表 -3 総旅行時間 231 111 113 131 133 311 313 331 333 111 113 131 133 311 313 331 333 ケース # x11 x12 x13 x21 x22 x23 x31 x32 x33 1xx 36.5 34.3 35.9 35.1 2xx 58.4 66.9 3xx 36.2 34.7 35.8 39.2 * 単位 : 万時間 * 5:00 から 23 時間の総旅行時間 ていると考えられる. 図 5は首都高ネットワーク全体における平均旅行速度の時系列変動を示す. ここでもシナリオ2 を含まない8ケースの結果のみを示している. 総渋滞長の変動と相関関係があり, 例えば, 前述の時間帯別ケースにおいてもっとも高い平均旅行速度を示している. シミュレーションによる総旅行時間を集計したものが表 -3 である. ただし, シミュレータが発生させた交通量がネットワーク全体に流れるまでの時間を考慮し, 表 -3に示した値は午前 5 時からの23 時間分である. 本研究ではケースを動的に変化していないため, この表の値には大きな意味はない. しかし, 使用する広域交通シミュレータが設定パラメータの動的な変化に対応できれば, 表 -3のような総旅行時間を用いて, 動的な交通運用施策の評価も可能である. (5) 分析結果 : 各種指標の空間的分布前節では全体的な指標を用いて各ケース別の定量的評価ができたが, 各対象区間を中心とした周辺路線への影響, およびその影響の遷移については分析困難である. 本節では, 首都高ネットワークの各リンクにおける各種指標を空間的に視覚化し, その時系列変動の空間的分析を行う. そのためにはGISソフトウェアであるMapInfo を利用する. ここで使用する指標はリンク平均旅行速度と渋滞割合 (= 渋滞長 / リンク長 ) である. 分析の例として図 -6にケース111および313 午前 7~9 時におけるリンク平均旅行速度の空間分布の分析結果を示す. 分析対象は首都高全線であるが, この図には本研究の対象区間 3 箇所とを中心とする一部エリアのみを示す. 分析結果を次のようにまとめる. 現状の合流パターン ( ケース111) の場合,7 時には既に全線が渋滞 ( リンク平均速度 20km/h 以下 ) し,8 時に1 号羽田線とはそれぞれ天王洲アイル, 目黒入口まで渋滞が伸び, またこの影響により 11 号台場線もレインボーブリッジまで渋滞が伸びる.9 時になると目黒線は全線, 羽田線は品川シーサイド駅付近まで, 台場線は全線が渋滞状態になる. しかし, 現状の本線 ( ) 優先から対等合流 ( シナリオ3) に変更するだけで,7 時の渋谷線を 全線渋滞 から 渋谷入口まで混雑 (20km/h 以上 40km/ h 以下 ) に変えることができる. ケース333の場合はにおける合流優先の影響により, 内回りの渋滞によって渋谷線まで渋滞してしまうとの結果が得られた. しかし, ケース313の場合は目黒線が渋滞しても渋谷線および台場線, の交通状況はよくなり,27ケースのうち朝ピーク時にはもっとも適合するものと考えられる. なお, 本線優先にした場合に比べての平均速度は低下しても, その影響範囲は谷

(b) ケース 111 (a) ケース 313 07:00 07:00 08:00 08:00 09:00 09:00 凡例 ~ 20 km/h 20~40 km/h 40 km/h ~ 図 -6 リンク平均旅行速度の空間的分布の変化の例 (7 時 ~9 時 ) 町 JCT~ ~ 銀座の区間であり, その他の区間の混雑, 渋滞は他の路線によるものと考えられる. ところが, 合流側優先 ( シナリオ2) の適用には注意が必要である. この合流パターンは朝ピークのように都心へ向かう交通量の多い際に最も積極的な施策であると考えられるが, は比較的短く ( 約 14.8km), JCTや出入口の密度が高いので, ある1 箇所のJCTのみの合流側優先によってもの上流側, さらにその上流側に接続する他の路線への渋滞が急速に伸びてしまうからである. たとえば, のみをシナリオ2 にした場合 ( ケース211, 図 -7), 合流側 ( 羽田線 ) および台場線の渋滞 混雑は発生しない. しかし,7 時には銀座付近までのみ伸びていた外回りの渋滞が,8 時には江戸橋 JCT, 箱崎 JCT, 両国 JCTまで伸びてしまい, また, 渋滞 混雑のなかった,7 号 小松川線まで渋滞が発生する, さらに,9 時になると小松川線, 深川線のほぼ全線が渋滞してしまい, その影響は湾岸線, 中央環状線まで及ぶなど,10 時以降はの東側の首都高速道路ネットワークは麻痺する結果が得られる. やにシナリオ2を適用した場合も同様である. 今回の結果はあくまでシナリオの組合せを固定した2 4 時間シミュレーションの結果 27ケースを比較したものであるため, これをもって可変チャンネリゼーションの最適な運用戦略を決定することはできない. 例えば,27 ケースのシミュレーションにおいてシナリオ2はどのJC Tにおいても有効ではなかったが, これをある特定の時間帯だけ運用すれば, ネットワーク全体の交通状況を現在よりもさらに改善できる可能性は十分にある. こうした詳細な運用評価を行うには, チャンネリゼーションの動的な変更をより忠実に表現できるよう, 交通シミュレ

ータをさらに改良することが必要である. 5. おわりに 1 号羽田線 1 号羽田線 1 号羽田線 凡例 1 号羽田線 07:00 08:00 09:00 10:00 ~ 20 km/h 20~40 km/h 40 km/h ~ 図 -7 リンク平均旅行速度の空間的分布の変化の例 ( ケース 211,7 時 ~10 時 ) 本研究では, 今後 ITS 技術の発展により実現が期待される動的な交通運用施策を評価する技術として, 異なるスケールの交通シミュレータを活用した評価手法を提案 した. そして, 動的な交通運用施策の例として高速道路合流部の可変チャンネリゼーションを取り上げ, 首都高速道路のJCT 合流部に適用した場合の局所的な交通流動の分析とネットワークへの波及効果の分析を行った. 動的な交通運用対策の評価に関する今までの検討 研究が対象地点 区間のみを対象としていたことに対し, 本研究では局所分析とその分析結果を設定パラメータとする広域ネットワーク分析を体系的に行うことにより, 周辺ネットワークへの影響まで分析したことに大きな意義がある. 朝ピーク時のようにへの流入交通量の多い際には当然のように合流側優先 ( シナリオ2) の合流パターンが考えられるが, このパターンは中央環状線の渋滞を急速に起こしてしまい, ネットワーク全体に悪影響を及ぼす可能性の高いことがわかったことはその一例であると考えられる. しかしながら, 本研究では現状の交通シミュレータの機能面の制約から, シミュレーション実行中にチャンネリゼーションを動的に変更する計算は実施できなかった. そのため, 今回の結果は可変チャンネリゼーション施策の有効性を厳密には評価できておらず, これについては今後の課題としたい. 改良の方向性としては, シミュレーション実行中に交通容量等のパラメータを動的に変更可能, または任意の時刻からシミュレーションを開始可能 ( ホットスタート機能 ) にする改良が必要である. 動的な交通運用施策の実現可能性の検討にあわせて, 今後はこうした研究も推進することが必要である. 謝辞本稿は, 平成 20 年度国土交通省国土技術政策総合研究所委託研究 (ITS 各種サービスにかかる統合的交通シミュレータの活用に関する先端的研究 ) の一部の成果を取りまとめたものである. 関係各位に謝意を表す. 参考文献 1) 白石智良, 桑原雅夫, 割田博, 田中伸治 : 動的インフラに関する研究, 第 31 回土木計画学研究発表会 講演集,(CD-ROM),2005. 2) 蒲和也, 岡田知朗, 竹内秀城, 堤浩介 : 首都高速道路におけるJCT 合流部の車線運用変更の効果 ~5 号線下り竹橋 JCT 合流部の車線運用変更 ~, 第 26 回交通工学研究発表会論文報告集,pp. 69-72,2006. 3) 畠中秀人, 坂井康一, 浅野美帆, 西井禎克 : 首都高速道路の合流部における動的可変な車線運用の適用可能性, 第 28 回交通工学研究発表会論文報告集,pp. 41-44, 2008. 4) Majid SARVI:A Study on Merging Capacity of Urban Expressways, 東京大学博士学位論文,2009. 09.