医療関連感染サーベイランス

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(案の2)

公開情報 2016 年 1 月 ~12 月年報 院内感染対策サーベイランス集中治療室部門 3. 感染症発生率感染症発生件数の合計は 981 件であった 人工呼吸器関連肺炎の発生率が 1.5 件 / 1,000 患者 日 (499 件 ) と最も多く 次いでカテーテル関連血流感染症が 0.8 件 /

耐性菌届出基準

名称未設定

スライド 1

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症候性サーベイランス実施 手順書 インフルエンザ様症候性サーベイランス 編 平成 28 年 5 月 26 日 群馬県感染症対策連絡協議会 ICN 分科会サーベイランスチーム作成

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中医協総会の資料にも上記の 抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス から一部が抜粋されていることからも ガイダンスの発表は時機を得たものであり 関連した8 学会が共同でまとめたという点も行政から高評価されたものと考えられます 抗菌薬の適正使用は 院内 と 外来 のいずれの抗菌薬処方におい

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染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

情報提供の例

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

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それでは具体的なカテーテル感染予防対策について説明します CVC 挿入時の感染対策 (1)CVC 挿入経路まずはどこからカテーテルを挿入すべきか です 感染率を考慮した場合 鎖骨下穿刺法が推奨されています 内頚静脈穿刺や大腿静脈穿刺に比べて カテーテル感染の発生頻度が低いことが証明されています ただ

IV. 結果および考察 1) 回収率回収数は 133 部 ( 内未記入回答等無効回答 3) で 有効回答回収率は 31.0% であった 2) 回答者の属性 ( 表 1) 回答者は 男性 7 名 (5.4%) 女性 123 名 (94.6%) であった 平均年齢は 40.6±6.1 歳 ( 中央値 4

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生活保護医療券 財務経理部医事室 受給者の確認 登録 1 住所 2 氏名 3 生年月日 4 公費番号 国立長寿医療研究センターで生活保護医療を受けた患者様 行政機関からの通知 ( 所在地 ) 愛知県大府市森岡町源吾 35 訂正及び利用停止について 他の法律又はこれに基づく命令の規定に

U 開腹手術 があります で行う腎部分切除術の際には 側腹部を約 腎部分切除術 でも切除する方法はほぼ同様ですが 腹部に があります これら 開腹手術 ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術を受けられる方へ 腎腫瘍の治療法 腎腫瘍に対する手術療法には 腎臓全体を摘出するU 腎摘除術 Uと腫瘍とその周囲の腎

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インフルエンザ(成人)

割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

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2009年8月17日

はじめに 本章は, 医療関連感染 (healthcare-associated infection,hai) に関する CDC/ NHSN のサーベイランス上の定義と,HAI の全ての特異的種類に対する判定基準を含んでいる. 部位特異的な基準のあとに続くコメントや報告の指示は, さらに詳細な説明を提

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2 経験から科学する老年医療 上記 12 カ月間に検出された病原細菌総計 56 株中 Escherichia coli は 24 株 うち ESBL 産生菌 14 株 それ以外のレボフロキサシン (LVFX) 耐性菌 2 株であった E. coli 以外の合計は 32 株で 内訳は Enteroco



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院内感染対策サーベイランス(JANIS)

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通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

微生物学的検査 >> 6B. 培養同定検査 >> 6B615. 検体採取 患者の検査前準備検体採取のタイミング記号添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料採取量測定材料リグアニジン塩酸塩尿 5 ml 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 ク

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

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ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

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づけられますが 最大の特徴は 緒言の中の 基本姿勢 でも述べられていますように 欧米のガイドラインを踏襲したものでなく 日本の臨床現場に則して 活用しやすい実際的な勧告が行われていることにあります 特に予防抗菌薬の投与期間に関しては 細かい術式に分類し さらに宿主側の感染リスクも考慮した上で きめ細

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

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免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E301. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 イ ヘパリンナトリウム ( 緑 ) 血液 5 ml 全血 検体ラベル ( 単項目オー

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

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横須賀市立市民病院院内感染対策要領

訪問審査当日の進行表 審査体制区分 1: 主機能のみ < 訪問 2 日目 > 時間 内容 8:50~9:00 10 分程度休憩を入れる可能性があります 9:00~10:30 薬剤部門 臨床検査部門 画像診断部門 地域医療連携室 相談室 リハビリテーション部門 医療機器管理部門 中央滅菌材料部門 =

教育・トレーニング

背部痛などがあげられる 詳細な問診が大切で 臨床症状を確認し 高い確率で病気を診断できる 一方 全く症状を伴わない無症候性血尿では 無症候性顕微鏡的血尿は 放置しても問題のないことが多いが 無症候性肉眼的血尿では 重大な病気である可能性がある 特に 50 歳以上の方の場合は 膀胱がんの可能性があり

15,000 例の分析では 蘇生 bundle ならびに全身管理 bundle の順守は, 各々最初の 3 か月と比較し 2 年後には有意に高率となり それに伴い死亡率は 1 年後より有意の減少を認め 2 年通算で 5.4% 減少したことが報告されています このように bundle の merit

平成15年度8階病棟の目標                  2003/06/03

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Transcription:

医療関連感染 サーベイランス

学習内容 1. 医療関連感染サーベイランスの 定義 目的 2. サーベイランスの方法 3. サーベイランスの種類 4. 判定基準 ( 疾患定義 ) 5. データの収集 解析

医療関連感染 サーベイランスの目的 医療関連感染の減少 ( 監視効果 ) ベースラインの把握 アウトブレイクの早期発見 感染予防策と感染管理に関する介入の評価 感染の減少とそれによる医療の質改善

サーベイランスのおもな方法 包括的なサーベイランス 病院あるいは部門全体を対象 あらゆる医療関連感染を調査 感染の発生を明らかにする 労力 コストがかかる 対象限定サーベイランス 特定の医療器具 処置 微生物を対象 あるいは特定の身体部位に発生する感染を対象 費用対効果に優れているが 全体を把握できない

医療関連感染の種類と割合 ( アメリカ 2002 年 ) Klevens M, et al. Pub Health Rep 2007;122:160-6

対象限定サーベイランス 尿路感染 (Urinary Tract Infection, UTI) 尿道留置カテーテル関連 (Catheter-associated UTI, CAUTI) 肺炎 (Pneumonia) 人工呼吸器関連 (Ventilator-associated pneumonia, VAP) 血流感染 (Bloodstream Infection, BSI) 中心ライン関連 (Central line-associated BSI, CLABSI) 手術部位感染 (Surgical Site Infection, SSI)

デバイス関連 CLABSI サーベイランス CAUTI サーベイランス VAP サーベイランス 手技関連 SSI サーベイランス 病原体関連 医療関連感染 サーベイランスの種類 薬剤耐性菌 ( 微生物 ) サーベイランス

サーベイランスシステム 1970 年にアメリカで構築された全米病院感染サーベイランスシステム (NNIS) 2006 年には全米医療安全ネットワーク (NHSN) へと名称変更 世界中の多くの国がこれらのシステムをもとに自国のサーベイランスシステムを構築している NNIS NHSN に沿ったサーベイランスが一般的

日本のサーベイランスシステム (1) Japanese Healthcare-Associated Infections Surveillance 1998 年日本環境感染学会事業として立案 1999 年 2 月開始 当初の名称は JNIS Japanese Nosocomial Infections Surveillance NNIS に準拠 SSI を対象 一部手術手技を改変 (COLN,REC,ESOP) 2008 年よりデバイス関連感染 (CLABSI,CAUTI,VAP) も対象に JHAIS 2012 年より SSI は NHSN に準拠 ( 調査対象 49 手術手技 )

日本のサーベイランスシステム (2) JANIS Japan Nosocomial Infection Surveillance 院内感染対策サーベイランス事業 2000 年厚労省事業として立案 開始 全入院 検査 ICU 部門で開始 2002 年から NICU 部門と SSI 部門が追加 2007 年より参加施設が急増 現在では部門により数百 ~ 千を超える施設からデータ提出あり

医療関連感染を定義する ための診断基準 米国疾病対策センター (CDC) の医療関連感染の定義を使用 感染率の経時的比較 ベンチマークデータとの比較

中心ライン関連血流感染 (CLABSI) の判定基準 検査結果で確認された BSI(LCBI) 一般の皮膚汚染菌以外の病原体が 1 回以上の血液培養から分離され 他の部位の感染と関連がない 一般の皮膚汚染菌が 2 回以上の血液培養から分離 発熱 悪寒 低血圧のうち一つ以上 他の部位の感染と関連がない 臨床的敗血症 (CSEP 現在の NHSN システムでは廃止されている ) 発熱 低血圧 尿量減少のうち一つ以上 血液培養未実施 または陰性 他の部位に明らかな感染がない 医師が敗血症に対する治療を開始

尿道カテ関連尿路感染 (CAUTI) の 症候性尿路感染 (SUTI) (1) 尿培養で細菌数が 10 5 CFU/mL 以上かつ微生物の種類が 2 つ以下であり 尿道カテ留置中の場合は 発熱 (38 以上 ) 恥骨上圧痛 肋骨脊椎角の痛みか圧痛のいずれか 1 つがある 尿道カテを抜去されて 48 時間以内の場合は 発熱 (38 以上 ) 尿意切迫 頻尿 排尿困難 恥骨上圧痛 肋骨脊椎角の痛みか圧痛のいずれか 1 つがある あるいは (2) 上記の症状のうち 1 つ以上を認め 以下のうち 1 つ以上を認める 亜硝酸塩または白血球エステラーゼ陽性 膿尿 判定基準 遠心沈殿していない尿のグラム染色で微生物が確認

尿道カテ関連尿路感染 (CAUTI) の 無症候性菌血症性尿路感染 (ABUTI) 無症状 判定基準 培養検体採取前 48 時間以内に患者がカテーテル留置を受けており 尿培養で細菌数が 10 5 CFU/mL 以上かつ細菌の種類が 2 つ以下 尿培養で同定された細菌の少なくとも 1 種類に合致する菌による血液培養陽性 ( 皮膚汚染菌の場合は 2 回以上 それ以外は 1 回以上 )

人工呼吸器関連肺炎 (VAP) の 判定基準 放射線学的検査所見を含む診断のアルゴリズムあり ( 複雑 ) 臨床的な肺炎 通常の細菌性肺炎 ウイルスやレジオネラなどによる肺炎 免疫不全患者の肺炎に区分 # 放射線学的所見によらないサーベイランス ( 人工呼吸器関連事象 ) に移行しつつある

手術部位感染 (SSI) の判定基準 以下に分けて定義 表層切開創 深部切開創 臓器 / 体腔

SSI の定義 - 表層切開創 - 感染が手術後 30 日以内に起こる以下のうち一つ以上にあてはまる 切開部表層からの膿性排液 切開部表層から無菌的に採取した検体からの病原体検出 疼痛 圧痛 腫脹 発赤 熱感があり 手術医 主治医により創が開放され 培養陽性または未検 手術医 主治医による切開部表層 SSIの診断

SSI の定義 - 深部切開創 - 感染が手術後 30 日以内に起こる 埋入物を置いた場合は 1 年以内 感染が手術手技に関連している 以下のうち一つ以上にあてはまる 切開部深層からの膿性排液 自然に哆開または手術医が開放し 感染症状 ( 発熱 or 疼痛 or 圧痛 ) がある 但し切開創の培養陰性の場合は除く 当該部位の感染の証拠が 直接検索 再手術 組織病理検査 放射線学的検査で発見 手術医 主治医による感染の診断

SSI の定義 - 臓器 / 体腔 - 感染が手術後 30 日以内に起こる 埋入物を置いた場合は術後 1 年以内 感染が手術手技に関連している 表層 深部切開創を除く術中操作部位に及ぶ 以下のうち一つ以上にあてはまる 臓器 / 体腔のドレーンからの膿性排液 当該部位から無菌的に採取した検体からの病原体検出 当該部位の感染の証拠が 直接検索 再手術 組織病理検査 放射線学的検査で発見 手術医 主治医による臓器 体腔 SSI の診断

微生物サーベイランス 微生物の分離状況を検査室データをもとに監視 薬剤感受性 ( アンチバイオグラム ) 耐性菌の集積時は アウトブレイクを疑って調査を行うきっかけとする MRSA MDRP などの耐性菌や 一般の細菌

データ収集システム データ収集システムの確立 サーベイランスのためのワークシート作成 記入するタイミング 手順 担当スタッフ 医療関連感染の発生を判定基準に沿って判定 データ収集項目 患者の基礎情報 サーベイランスを行う感染に対するリスク因子 手術などの手技や処置に関する情報 病原体に関する情報

膿性排液署名発熱熱感疼痛圧痛発赤腫脹日勤者手術当日 データ収集シートの例 (SSI サーベイランス ) ID 番号患者氏名生年月日 術後 1 日目 術後 2 日目 術後 3 日目

サーベイランスデータの結果 デバイス関連感染の発生率 = 特定期間中に発生した医療関連感染件数 1000 特定期間中のデバイス使用のべ総日数 医療器具使用比 = 特定期間中の医療器具使用日数 特定期間中の入院患者のべ日数

サーベイランスデータの結果 手術部位感染の発生率 = 特定期間中に発生した手術部位感染件数 特定期間中に実施した手術件数 100 手術の種類別に計算するのが一般的症例ごとのリスクを考慮に入れた解析方法もある

Q & A (1) カテーテル関連の血流感染や尿路感染の 感染率を計算する際には 分母に特定期間 中の入院患者のべ日数を用いる YES N O 分母には特定期間中の医療器具使用のべ総日数を用いる 同じリスク集団を分母にした方が 医療器具使用頻度の差などに左右されないデータ比較ができる

Q & A (2) 医療関連感染サーベイランスの主な目的 は アウトブレイクの把握である YES N O 医療関連感染サーベイランスとは 医療器具や SSI 院内肺炎など医療に関連する感染データを収集 分析し 医療器具に関する処置を行っているスタッフにフィードバックし 対策を改善するために役立てる

Q & A (3) サーベイランスにおいて 主治医が感染と 判断できれば判定基準に沿った感染の判 定は不要である YES N O サーベイランスにおいては あくまで医療関連感染の判定基準に沿った判断を下すようにする

参考文献 Haley RW, et al. The efficacy of infection surveillance and control programs in preventing nosocomial infections in US hospitals. Am J Epidemiol 1985;121:182-205. Emori TG, et al. National nosocomial infection surveillance system (NNIS): description of surveillance methodology. Am J Infect Control 1991;19:19-35. 西岡みどり 他. サーベイランスの定義 目的. INFECTION CONTROL 1999;8:1114-1118. 森兼啓太訳 小林寛伊監訳改訂 5 版サーベイランスのための CDC ガイドライン (NHSN マニュアル 2011 年版より ). メディカ出版,2012.