幼児期 児童期児童期におけるにおける親と教師教師の身体接触身体接触が思春期思春期の心理的側面心理的側面に及ぼすぼす影響 The Effects of Physical Touch by Teachers or Parents in Childhood on the Psychological Aspects in Adolesence. 児童学研究科児童学専攻 04-0621 友井麻由子 Ⅰ. 問題と目的身体接触に関する研究の中で スキンシップは 欧米での母子分離 ホスピタリズムなどの育児における問題状況から 母子の愛着行動が子どもの成長に不可欠であることが説かれたことによって生み出された概念である 日本におけるスキンシップの考え方は 平井 (1995) により導入された 現在スキンシップは 母親と子どもの間で行なわれる肌と肌との触れ合いのこと 性格形成の重要な要因と考えられる と定義されている ( 多項目心理学辞典 1991) 身体接触 (Physical Touch) の研究では Montagu(1971) は 動物や人間を対象にした研究から 幼少期や児童期に接触の満足を得ることは その後の健全な行動の発育には欠かせないものだと述べている また 幼児期に母親からあまりあるいはほとんど接触されなかった赤ん坊は 将来他人との絆を結ぶことが困難になることなどが示されてきた (McNeeley, 1987) これらの研究から 子どもの心身の健康にとって 積極的に触れることの重要性が示唆されている 日本においても スキンシップの重要性が報告されている ( 山口,1998 山口 2003, 山口ら 1998 McNeeley, 1987) また 学校領域では 大宮ら (1987) の児童の内発的動機づけに及ぼす教師の外的強化の効果の研究で スキンシップが影響していると報告されている このように身体接触の重要性が明らかになる中 一方では学校におけるスキンシップがセクハラなどの問題点も含んでいる (Field,1998) しかし これまで述べてきたように 幼児期 学童期における親と教師の身体接触は 子どもの成長にとって非常に重要な役割を持つといえる そこで 本研究では 幼児期 学童期における親と教師の身体接触が思春期の心理的側面に及ぼす影響について検討することを目的とする 1
Ⅱ. 方法 研究 1 予備調査予備調査 1. 目的 : 幼児期 児童期に親と教師との間で経験した身体接触から項目を収集し 子ども用身体接触尺度 の項目を検討する 2. 方法 (1) 調査対象 : 千葉県私立女子大学生 45 名 および神奈川県公立中学生女子 44 名 (2) 実施日 :2005 年 7 月上旬 (3) 調査内容 : 幼児期 児童期に親や教師との間で経験したスキンシップを振り返る ( 自由記述 ) (4) 手続き : 大学生は 授業時間に質問紙を配布し 回収した 中学生については 担任に調査を依頼し 学級活動の時間に実施し回収した 3. 結果収集された項目を 山口 (2003) の身体接触調査票の 9 項目を手がかりに整理した結果 親の身体接触項目 12 項目 計 24 項目の身体接触が得られた 本調査本調査 1. 目的 : 子ども用身体接触尺度 を作成し 尺度の信頼性の検討を行う 2. 方法 (1) 調査対象 : 東京都公立中学校 1 年生 181 名 ( 男子 96 名 女子 85 名 ) (2) 実施日 :2005 年 10 月下旬 (3) 調査項目 : 子ども用身体接触尺度 ( 予備調査によって収集した項目 ) 親の身体接触項目 12 項目 経験頻度 4 件法 教師の身体接触項目 12 項目 経験頻度 4 件法 親の身体接触 教師の身体接触ともに 回想時期は小学校 2 年生までの身体接触と限定した 自由記述 あなたが今までに経験してきた出来事((1)1~12 の質問 ) は 今のあなたにどのように影響していると思いますか 思いつくまま自由にお答えください (4) 手続き :D 中学校 1 学年担任に調査を依頼し 学級活動の時間を利用して実施した 回答はその場で回収した 2
3. 結果親と教師に対する身体接触尺度について因子分析を行った ( 主因子法 バリマックスによる直交回転 ) 結果 得られた因子は 2 因子であった 親の項目を分析した結果 第 1 因子には 添い寝をしてもらった (.82) 抱っこをしてもらった (.82) など いずれもの身体接触においても 安心感や心地よさを感じる項目に高い負荷量がみられたため 親の快の身体接触 と命名した また 第 2 因子では 手や髪などの体の一部を引っ張られた (.89) など 身体接触において不快感を感じる項目に高い負荷量がみられたため 親の不快の身体接触 と命名した 教師の項目を因子分析した結果 第 1 因子には 頭をなでてもらった (.70) 手をつないだ (.68) 授業や休み時間など自分の不得意なもの ( 鉄棒や勉強など ) について手をとって教えてもらった (.66) など 身体接触において安心感や心地よさを感じると共に ほめることを表現とした身体接触の項目に高い負荷量がみられたため 教師の快の身体接触 と命名した 第 2 因子では 叩かれた (.85) など 身体接触において不快感を感じる項目に高い負荷量がみられたため 教師の不快の身体接触 と命名した 以上の結果から 親の身体接触項目 11 項目と 教師の身体接触項目 12 項目が得られた 構成概念妥当性構成概念妥当性の検討 : この尺度の内容妥当性を山口 (2003) の身体接触尺度の項目と検討したところ α 係数が 親の快の身体接触 ;.95 親の不快な身体接触;.95 教師の快の身体接触 ;.95 教師の不快な身体接触;.95 となり 構成概念妥当性が認められると判断した 回答回答の再検討 : 親と教師の身体接触項目の 心地よさ と 経験頻度 の回答をより具体的に求めていくことで検討し 4 件法から 5 件法に改正した 研究 2 1. 目的 : 研究 1で作成された子ども用身体接触尺度により幼児期 学童期における親と教師の身体接触が思春期の心理的側面に及ぼす影響について検討するため 対人信頼感尺度 ( 堀井 槌谷 1995) と向社会的行動尺度 ( 中高生版 )( 横塚 1989) を用いて明らかにする 2. 方法 (1) 調査対象 : 神奈川県公立中学生 1 年生 253 名 ( 男子 139 名 ) 女子 114 名 (2) 実施日 :2005 年 12 月上旬 3
(3) 調査項目 :1 子ども用身体接触尺度 ( 研究 1 で作成した尺度 ) 2 向社会的行動尺度 ( 中高生版 )( 横塚 19889) 20 項目 5 件法 3 対人信頼感尺度 ( 堀井 槌谷 1995) 17 項目 5 件法 (4) 手続き : 神奈川県公立中学校教員に調査を依頼し 朝の学級活動等を利用して実施してもらい その後回収した 1. 結果心地よさよさ度の検討子ども用身体接触尺度の心地よさ度得点について t 検定を行った その結果 親の快の身体接触快は (t(242)=-5.08, p <.01) と有意に高い得点を示していたが 教師の快の身体接触 (t(240)=-.459, n.s.) で有意な差はみられなかった 親と教師教師の快の身体接触身体接触と向社会的尺度向社会的尺度の検討親の快の身体接触と教師の快の身体接触が向社会的行動に与える影響を検討するために 男女込みの重回帰分析を行った その結果 親の快の身体接触から向社会的行動に対する標準偏回帰変数は有意であったが 教師の快の身体接触から向社会的行動に対する標準偏回帰変数は有意ではなかった さらに 男女別の重回帰分析をおこなった その結果 女子は 親の快の身体接触から向社会的行動に対する標準偏回帰変数は有意であったが 教師の快の身体接触から向社会的行動に対する標準偏回帰変数は有意ではなかった その一方で男子は 教師の快の身体接触から向社会的行動に対する標準偏回帰変数は有意であったが 親の快の身体接触から向社会的行動に対する標準偏回帰変数は有意ではなかった 以上のことから 女子は親の快の身体接触が向社会的行動に影響を及ぼすことが明らかにされた 親と教師教師の快の身体接触身体接触と対人信頼感尺度対人信頼感尺度の検討親の快の身体接触と教師の快の身体接触が対人信頼感に与える影響を検討するために 男女込みの重回帰分析をおこなった その結果 親の快の身体接触と教師の快の身体接触から対人信頼感に対する標準偏回帰変数は有意ではなかった さらに 男女別の重回帰分析をおこなった その結果 男子 女子ともに 親の快の身体接触と教師の快の身体接触から対人信頼感に対する標準偏回帰変数は有意ではなかった 以上のことから 男女ともに親と教師の快の身体接触が対人信頼感に影響を及ぼさないことが明らかにされた 4
Ⅲ. 全体的考察本研究では 幼児期 学童期における親と教師の身体接触が思春期の心理的側面に及ぼす影響について検討することを目的に まず 幼児期 学童期の頃の身体接触を解明し それを測定する子ども用身体接触尺度を考案した その結果 安心感や心地よさを感じる項目 快の身体接触 と 不安や恐怖感を感じる項目 不快の身体接触 の 2 つの因子が抽出され 尺度の内容妥当性を山口 (2003) の身体接触尺度の項目と検討したところ 構成概念妥当性が認められると判断した この結果から 親の身体接触 12 項目 心地よさ 5 件法 経験頻度 5 件法 教師の身体接触 12 項目 心地よさ 5 件法 経験頻度 5 件法からなる子ども用身体接触尺度を作成した 次に 幼児期 学童期における親と教師の身体接触が思春期の向社会的行動と対人信頼感に及ぼす影響について検討した その結果 女子は男子よりも親と教師の快の身体接触の影響を受けやすいことが明らかにされた これは 女子と男子の性役割の違いや 身体接触の受け取り方の違いが影響してくると思われる 向社会的行動においては 男子は教師の快の身体接触が向社会的行動に影響を及ぼし 女子は親の快の身体接触が向社会的行動に影響を及ぼすことが明らかにされた これは 子ども用身体接触の自由記述から 心地よさ と 経験頻度 の得点が高かった生徒をとり挙げてみると 女子は お母さんによしよして頭をなでてもらったりすると安心する 先生は男だと気持ち悪いし触られたくない 家族ならありだと思う など 親からの身体接触を心地よいと感じていることがわかった これらの結果から 幼少期に受けた身体接触はその後の社会性や情緒の発達に影響を及ぼすとする山口ら (1998) の研究を裏付けるものといえよう 対人信頼感においては 男女ともに親と教師の快の身体接触が対人信頼感に影響を及ぼさないことが明らかにされた 子ども用身体接触の自由記述から 心地よさ と 経験頻度 の得点が低かった生徒を取り上げてみると 手をつないだなんて覚えてない 親は信用できない 教師は怒るだけの存在 うざい など 身体接触の不足が思春期になってからの攻撃性に影響を及ぼしているのではないかと思われる回答もあり 今後もっと詳しく検討する必要があるだろうと思われる 以上の結果から 幼児期 学童期における親と教師の身体接触は 思春期の心理的側 5
面に影響を及ぼす行為であることがいえるのではないだろうか 今後の課題として 子ども用身体接触尺度の 心地よさ から向社会的行動 対人信頼感に及ぼす影響について着目し検討したが 経験頻度 についての研究が十分におこなえなかった また 調査の依頼の段階で中学校側が子ども用身体接触尺度の不快の身体接触項目が生徒とその保護者に与える影響を懸念し 調査を拒否されるという事態が多数起こったため 本研究では快の身体接触についての調査しか行うことができなかった しかし 不快の身体接触が子どもの心理的側面にどのように影響しているかを解明することは重要である そのため 今後も引き続き検討していきたい 最後に 今回の研究で明らかとなった 幼児期 学童期における親と教師の身体接触の重要性を実際の教育相談や子育て支援の現場で取り入れていくための方法を検討することも重要な課題であると思われる 6