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論文一軸引張試験と曲げ試験から得られる HPFRCC の応力 - ひずみ関係 河合正則 *1 森山守 * 林承燦 *3 * 内田裕市 要旨 : 打設方向を変えた HPFRCC の塊から切り出した同一の断面寸法の供試体について, 一軸引張試験と曲げ試験を行ないそれぞれ引張応力 -ひずみ関係を求め比較検討した 一軸引張試験では荷重 - 変位曲線を計測して直接, 応力 -ひずみ関係を求め, 曲げ試験ではモーメント- 曲率関係を計測して逆解析により応力 -ひずみ関係を求めた 実験値, 解析値ともに, せき板の影響と繊維の配向の影響が明確に現れることが示された また, 解析で求められた応力 -ひずみ関係は, ひずみの小さい領域では一軸引張試験で計測されるものより応力が小さくなる傾向がみられた キーワード :HPFRCC, 引張応力 -ひずみ関係, 逆解析, 繊維の配向, せき板効果 1. はじめに 複数微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材 (HPFRCC:High Performance Fiber Reinforced Cement Composite) は, 引張応力の増加に伴って, 幅の小さなひび割れが次々に生じ, 巨視的には完全塑性あるいはひずみ硬化を生じる材料である この HPFRCC の引張特性は既存のコンクリートとは異なり, 構造設計においてその特性を有効に用いるためには HPFRCC の引張特性を適切に評価する必要がある 現在, 引張特性の評価方法 1) としては, 一軸引 張試験と曲げ載荷試験が提案されている 筆者らは, 曲げ試験で得られるモーメント- 曲率関係から, 引張応力 -ひずみ関係の初期の段階から終局ひずみに至るまでを逐次逆推定する方法を提案した ) この方法を用いて 1 1 mm の曲げ供試体のモーメント- 曲率関係から引張応力 -ひずみ関係を求め, 断面を 1 3mm としたダンベル型の一軸引張供試体で計測された応力 -ひずみ関係と比較した結果, 図 -1 に示すように両者に差が生じることが明らかとなった (a) 一軸引張試験時の引張応力 -ひずみ関係 (b) 逆解析による引張応力 -ひずみ関係 図 -1 既往の研究における引張応力 - ひずみ関係 1) *1 岐阜大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻 ( 正会員 ) * 中日本高速道路 ( 株 ) 中部地区清見工事事務所飛騨工事長 ( 正会員 ) *3 ( 株 ) デーロスメンテナンス事業本部工博 ( 正会員 ) * 岐阜大学総合情報メディアセンター教授工博 ( 正会員 )

表 -1 HPFRCC の配合単位量 (kg/m 3 ) スランプ W/B S/B 空気量プレミックスポリマー繊維混入率フロー (%) (%) 水 (%) 粉体 ( エマルジョン系 ) (vol%) (mm) 9 1 59 5 71. 9.3 そこで, 本研究で 表 - 繊維の種類と物性 長さ直径引張強度弾性係数はこの差の原因を繊維の種類比重 (mm) (μm) (MPa) (GPa) 明らかにすること PVA 1 1 1.3 を目的として, 曲げ試験と一軸引張試 PE 9 1 1. 験を行ない両試験で得られる応力 -ひずみ関係を比較検討することとした 特にここでは, 試験体の打設方向とせき板効果について検討することとした 打設方向 33 33. 試験体の概要.1 配合今回用いた HPFRCC の配合を表 -1 に示す 繊維は, 表 - に示すように, 長さ 1mm( 直径 μm) のポリビニルアルコール (PVA) と長さ 9mm( 直径 1μm) のポリエチレン (PE) 繊維を混合したものを使用し, 体積で % 混入した. 作製方法および形状試験体の打設方向の影響およびせき板の影響を検討目的として, 図 - に示すような HPFRCC の塊を打設し, そこから曲げと引張の試験体をそれぞれ切り出した HPFRCC 塊の打設は, 木製型枠を用いて, 突き棒や内部振動機を使わずに木づちで振動を与えながら断面中央部から, 左右に流し込むように行った 打設後 日目に脱型し, 材齢 ヶ月までは実験室内 ( 室温 ~ 3 程度 ) において水中で養生を行った その後, 試験体の切り出しを行い, さらに 1 ヶ月間実験室内 ( 室温 1~ 程度 ) で気中養生行った 切り出しは, 打設方向と切り出し方向が平行になる試験体 (Series1 と呼ぶ ) と, 打設方向と切り出し方向が垂直になる試験体 (Series と呼 Series1 33 Series 図 - 打設方向と切り出し方向 33 5 5 33 図 -3 曲げおよび引張供試体 表 -3 試験体数一覧 引張試験 横方向 H 曲げ試験 [mm] 縦方向 V Series1 3 体 体 体 Series 体 体 体 Series3 体 体 3 体 ぶ ) の 種類とし, それぞれ図 -3 に示すような曲げ試験体と, ダンベル形状の一軸引張試験体を作製した なお, 試験体寸法の影響を排除するために, 計測区間の断面寸法はいずれも 3 3 3 [mm]

mm となるように切り出しを行なった 変位計 せき板の影響を検討するために, 切り出した 3 試験体の他に, 流し込みで打設した試験体 (Series3 と呼ぶ ) も同様の寸法で作製した 縦方向 [V] 3. 試験概要 3.1 一軸引張試験 ひずみゲージパイ型変位計 一軸引張試験は, 掴み具により供試体の肩を [mm] 掴んで引張力を伝達させる方法 3) を用いて行な 横方向 [H] い, その際, 変位計測の検長は mm とした 図 - 曲げ試験状況 3. 曲げ試験 曲げ試験は 3 等分点曲げ載荷とした 曲げ試験においては試験体の断面が長方形であるため, 高さと幅の影響を考え, 縦方向 ( 高さ 3mm 幅 mm, 記号 :V) と横方向 ( 高さ mm 幅 3mm, 断面諸量圧縮 σ-ε モーメント - 曲率実験データ 1 記号 :H) の 通りで試験を行った 試験では図 - のように, 荷重のほかに載荷点直下と試験体 引張 ( 縁 ) ひずみ εt = 中央の変位を変位計を用いて計測し, 試験体中 εt =εt + Δε 央部の圧縮側にはひずみゲージを, 同じく引張 側にはパイ型変位計を用いてひずみの計測を行 σ(εt) を仮定 った 試験体の寸法が小さく, たわみ量が小さいため, 載荷の初期段階では, ひずみゲージで計測された圧縮縁のひずみとパイ型変位計で計 断面のモーメント 曲率の計算 測された引張縁のひずみからモーメントスパンの平均的な曲率を求め, 変形の大きい領域では YES 1 = NO モーメントスパンの 3 点のたわみから平均曲率を求めた End. 逆解析の概要本研究で用いた逆解析は, 断面解析 ( ファイバーモデル ) を基本としており, 材料の応力 - ひずみ曲線を与えることでモーメント- 曲率関係 (M-φ) を求める順解析に対して,M-φ 関係から応力 -ひずみ関係を逆推定するものである 図 -5 に解析フローを示す 断面の引張縁のひずみを増分パラメーターとして, 各ステップでは与えられた引張縁ひずみに対して引張応力を仮定し, 計算される M-φが実験での M-φ 曲線上に乗るような引張応力を求める 次のステ 圧縮応力 [N/mm ] 図 -5 解析フロー 解析用... 図 - 圧縮応力 - ひずみ関係 ップでは, 前ステップまでに求められた引張応力 -ひずみ曲線は変更せずに, 引張ひずみを増

分した分のみの応力を同定するようにしている なお, 逆解析の入力値として必要となる圧縮応力 -ひずみ関係には,φ1 mm の円柱供試体の試験値を平均, 平滑化して, 強度点以降を完全塑性型としたもの ( 図 -) を用いた ) 5. 試験および解析結果 5.1 一軸引張試験一軸引張試験の結果を図 -7 に示す 前述のように打設方向の影響とせき板の影響を検討するため, 打設方向と切り出し方向が平行 (Series1), 打設方向と切り出し方向が垂直 (Series), 流し込み (Series3) で種類分けしている なお, 図中には最大荷重点をそれぞれ点で示してある 流し込み試験体 (Series3) と切り出し試験体を比較してみると, 引張強度, 終局ひずみともに切り出し試験体の方が小さいことがわかる この原因としては二つのことが考えられ, 一つはいわゆるせき板効果であると考えられる すなわち, せき板に接する部分では繊維がせき板と平行方向に配向するのに対して, 試験体を切り出した場合には, 試験体表面で繊維がそのように配向することはなく, さらに試験体表面では一部の繊維が切り出し時に切断され, 繊維長が短くなり, 定着長さが不足することも考えられる 二つ目の理由としては, 繊維の配向の影響が考えられ, 特に流し込みで作製される Series3 では, 打ち込み時に材料が試験体軸方向に流れるため, 繊維が試験体軸方向に配向する傾向が強くなることが考えられる 切り出し試験体の両者の比較をすると, 打設方向と平行に切り出した Series1 は垂直方向に切り出した Series に比べ, 強度, 変形ともかなり小さくなっていることがわかる これは,Series1 では, 打設方向の関係から繊維が試験体の断面に平行 ( 図 - において水平方向 ) に配向する傾向が強いのに対して,Series は断面に垂直, すなわち引張試験時の載荷方向と平行方向に配向するためと考えられる Series1 1 3 5 Series 1 3 5 Series3 1 3 5 図 -7 一軸引張試験で得られた引張応力 - ひずみ関係 5. 曲げ試験曲げ試験で得られたモーメント- 曲率関係を図 - に示す この場合も引張試験の結果と同様, 図中には最大荷重点を点で示してある 曲げ試験の場合も前述の一軸引張試験の結果と同様, せき板の影響と打設方向 ( 繊維の配向 ) の影響が明確に現れており, 切り出した試験体では強度, 変形とも型枠に流し込んだものに比べ小さくなっている また, 打設方向の影響についても, 一軸引張試験時と同様, 打設方向と平行に切り出した Series1 は垂直方向に切り出した Series に比べ, 強度, 変形とも非常に小さくなっている 5.3 逆解析による推定値図 - に示したモーメント- 曲率関係を逆解

3 1 Series1-H 1 3 3 1 Series1-V 1 3 曲率 [1 - /mm] 曲率 [1 - /mm] 3 1 3 Series-H 1 3 曲率 [1 - /mm] 3 1 Series-V 1 3 曲率 [1 - /mm] 1 Series3-H 1 3 3 1 Series3-V 1 3 曲率 [1 - /mm] 曲率 [1 - /mm] 図 - 曲げ試験で得られたモーメント - 曲率関係 析した結果, 図 -9 に示す引張応力 -ひずみ関係が推定された なお, 推定された曲線が滑らかでないのは, 入力するモーメント- 曲率関係の平滑度および解析時の誤差によるものである 当然のことではあるが, モーメント- 曲率関係の場合と同様に, 逆推定された引張応力 -ひずみ関係においても Series1,,3 の順に強度と終局ひずみの大きさが変化していることがわかる また, 試験体を縦に置いた場合と横に置いた場合では, 引張応力 -ひずみ関係に明確な差はみられなかった. 引張応力 -ひずみ関係の実験値と解析値の比較一軸引張試験で得られた引張応力 -ひずみ関係 ( 図 -7, 以下実験値と呼ぶ ) とモーメント- 曲率関係から逆解析によって得られた引張応力 -ひずみ関係( 図 -9, 以下解析値と呼ぶ ) を比較すると, 以下のことが言える i) 打設方向と平行に切り出した Series1 では, 実験値と解析値で強度はほぼ一致したが, 終局ひずみは解析値の方が大きくなった ii) 打設方向と垂直に切り出した Series では, 解析値の強度および終局ひずみは大きくばらつく結果となったが, 平均的には強度は解析値の方が若干小さくなり, 終局ひずみは解析値の方が大きくなった iii) 型枠に流し込みをした Series3 も解析値はばらつきが大きい結果となった 平均的には解析値の強度は実験値とほぼ一致したが, 終局ひずみは解析値の方が小さくなった iv) Series,3 とも実験値に比べ解析値の方が, 曲線が曲がる点 ( ひび割れ発生点であり,

曲線上で降伏に相当する点 ) の応力が低く, 硬化係数 ( 降伏後の曲線の傾き ) が大きくなる傾向がみられた 7. まとめ本研究で得られた主な結果をまとめると以下の通りである (1) 曲げ試験時のモーメント- 曲率関係から逆解析をして求められる引張応力 -ひずみ関係と一軸引張試験で得られるものを比較する目的で, 断面寸法を同一にした試験体を用いて実験ならびに解析を行なった その結果, 材料を型枠に流し込んだ試験体の場合には, 逆解析で得られる強度は実験値より若干小さくなるが, ほぼ一致した しかし, 終局ひずみは解析, 実験とも大きくばらつき, 定性的な傾向はみられなかった () 逆解析で得られる引張応力 -ひずみ関係は実験値に比べ, 降伏点が小さくなり, 硬化係数が大きくなる傾向がみられた (3) 型枠に流し込んで作製した試験体と切り出して作製した試験体では, 一軸引張, 曲げともに切り出した試験体では強度と変形が小さくなり, せき板効果が顕著に現れることがわかった () 打設方向を変えて作製した試験体においても, 引張, 曲げともに強度と変形が大きく異なり, 打設方向が試験値に影響することがわかった なお, これは打設方向が異なることで繊維の配向が異なるためであり, 繊維の配向の影響と考えることができる (5) 試験体の製作方法や寸法など引張応力 -ひずみ関係に影響すると考えられる要因を排除して検討を行ったが, 本研究の範囲では一軸引張試験の結果と曲げの逆解析の結果は一致しなかった この原因を明らかにするためには, 平均ひずみ, 平均応力といった巨視的な挙動のみではなく, 更に微視的な観点からの検討が必要と考えられる Series1 Series Series3 1 3 5 横方向 (H) σ u =.3 ε u = 1. 1 3 5 σ u =. ε u =.1 1 3 5 σ u = 7. ε u =.9 縦方向 (V) 図 -9 逆解析によって得られた引張応力 -ひずみ関係 参考文献 1) 日本コンクリート工学協会 : 繊維補強セメント複合材料の曲げモーメント- 曲率曲線試験法 (http://www.jci-web.jp/jci_standard/ ), JCI-S-3-5 ) 河合正則 稲熊唯史 内田裕市 六郷恵哲 : 複数微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材の応力 -ひずみ関係の逆解析, コンクリート工学年次論文報告集,Vol., 3) 森山守 林承燦 内田裕市 六郷恵哲 : 複数微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材料の引張性能と試験装置, コンクリート工学年次論文報告集,Vol.,