平成 23 年度新人教育 ( サポート ) 研修会 Ⅰ 一般検査部門 JA 愛知厚生連 江南厚生病院 臨床検査技術科伊藤康生
髄液の産生と循環 多くは脈絡叢で産生 約 1000~1500ml/day 成人の髄液量は約 150ml
髄液の機能 中枢神経系の保護と支持クッション= 水の中の豆腐 ( 脳 脊髄 ) 恒常性の維持 ( 機能維持 ) 血液脳関門を通して電解質や生化学物質の調整組織液としての機能異物 ( 細菌等 ) の排除老廃物の排除
髄液検査の意義 1 中枢神経感染症 ( 髄膜炎 脳炎 ) の診断と経過観察くも膜下出血多発性硬化症脳ヘルニア脊髄疾患ギラン バレー症候群ベーチェット症候群サルコイドーシス脳腫瘍髄膜白血病転移性腫瘍
髄液検査の意義 2 髄膜炎 脳炎の三大症状 発熱, 頭痛, 嘔吐 症状緩和のため髄液採取 髄液圧を下げる
髄液の採取法 腰椎穿刺 ( 第 4,5 腰椎関腔 後頭下穿刺 ( 大槽穿刺 ) 脳室 ( 脳室ドレナージ ) L4 5)
腰椎穿刺の禁忌と合併症 腰椎穿刺の禁忌 1 頭蓋内圧の亢進 ( 占拠性病変 ) 2 穿刺部に感染症がある場合 3 脊椎に変形や奇形があり 針挿入が困難場合 4 抗凝固療法や白血病などで出血傾向が強い場合 5 患者の協力が得られない場合 必要に応じて後頭下穿刺となる 合併症 1 脳ヘルニア 2 一過性の頭痛 ( 腰椎穿刺後痛 ) 3 Ⅳ 神経麻痺による複視 4 脊髄根性疼痛 5 局所感染による感染症 穿刺孔より髄液漏出による頭蓋内圧低下
髄液の取り扱い 腰椎穿刺では最初に流出する髄液中により多くの細胞が含まれる 一般検査用は原則 1 本目使用!
髄液の取り扱い ヘパリンは使用丌可!! ヘパリン添加で微細な粒子が多量に発生!!
髄液の取り扱い 髄液中には蛋白量が少ない 浸透圧が低い等の理由により細胞変性が極めて早い 細胞検査は採取後 1 時間以内に!!
保存による細胞の変化 % 100 80 60 40 4 保存 25 保存 20 0 0 2 4 8 12 24 時間後 特に多核球が単核球に比べ変性が速い!
髄液の保存 細胞検査 保存丌可 臨床化学検査 ( 蛋白 糖 酵素系 ) ウイルス抗体価 特殊蛋白 遠心後の上清を凍結保存 微生物学的検査 TGC 培地ならびに滅菌スピッツ採取し 37 保存
保存のまとめ 検体採取は 2 本以上の容器に小分採取 細胞保存は室温よりも冷蔵が良い 必要に応じて塗沫標本を作製する 微生物検査では基本的に 37 髄膜炎菌の疑いがなければ冷蔵 検査後に残り検体があれば -70 保存が有用である 一般検査での細胞保存は サムソン液混合保存が良い
髄液の外観 肉眼的所見 無色透明 混濁 日光微塵 キサントクロミー 血性 髄液の状態 正常 高度細胞数増加 軽度 ~ 中等度細胞数増加 頭蓋内出血後 頭蓋内出血穿刺時の血管損傷
髄液の色調 正常 細胞増加 頭蓋内出血 古い出血 無色透明混濁血性キサントクロミー
化学的検査法 蛋白糖 LD CK 緊急検査の現場で迅速かつ簡単に 正確性をもって測定できる項目であるかどうかが重要
蛋白 1 髄液中の蛋白 ( 組成 ) は血清に由来する 一部は中枢神経組織内でも産生される報告もある 脳室髄液蛋白は腰椎髄液蛋白の約 30% 年齢により蛋白濃度の基準値が異なる 生後 7 生日 35~180mg/dl 30 生日 20~150mg/dl 30~90 生日 20~100mg/dl 3ヶ月 ~1 歳 35~60mg/dl 2 歳 ~14 歳 15~30mg/dl 一般的には 50mg/dl 以上が病的増加
蛋白 2 髄液蛋白の病的変動と関連ある疾患 1: 血清蛋白の増加 多発性骨髄腫など 2: 血液脳関門の破壊や透析性亢進による血清蛋白の移行 髄膜炎 ギラン バレー症候群 3: 中枢神経組織内での免疫グロブリン産生 多発性硬化症 脳炎など 4: 出血による血中蛋白の混入 脳出血 くも膜下出血 脳腫瘍など 5: 髄液の循環阻害 脊髄腫瘍など
蛋白 3 ノンネ アぺルト (Nonne-Apelt) 反応パンディー (Pandy) 反応 本反応は髄液のグロブリン検出試験として理解されている向きにあるが いずれも真のグロブリン反応ではなく 古典的な髄液蛋白の半定量法として認識すべきである 正確な蛋白定量が可能となり さらには免疫グロブリンなどの詳細な検索が日常となった現在 これらの検査法を実施する臨床的意義は低い
糖 基準値は50~80mg/dl ( 血糖の60%~80% ) 嫌気性解糖作用の亢進 血液脳関門の破壊による糖移送の障害 判定は血糖値との対比が必要!! < 低下する疾患 > 細菌性髄膜炎真菌性髄膜炎結核性髄膜炎 悪性腫瘍髄膜浸潤
LD ウイルス性髄膜炎 細菌性髄膜炎の鑑別予後推定 治療効果 LD1: 広範囲神経組織障害 LD2: リンパ球 広範囲神経組織障害 LD3: リンパ球 LD4: 好中球 LD5: 好中球 正常髄液 LD1 2 3>LD4 5 細菌性髄膜炎 LD1 2 3<LD4 5 GSCC:50IU/L 以下新生児はやや高い JSCC:25IU/L 以下
CK 基準値は 6U/l 以下血中 CK と独立している髄液蛋白濃度差の影響もほとんど受けない CK-MM: 骨栺筋由来 CK-MB: 心筋由来 CK-BB: 脳由来 脳組織の破壊 脳挫傷 脳腫瘍 脳血管障害髄膜脳炎 多発性硬化症など
細胞数算定 髄液 10/9 倍希釈 プラスチック製の小試験管で! サムソン液髄液 20μl 180μl 軽く混和 フックス ローゼンタル計算盤へ 3~5 分間放置 200 倍で鏡検 ( 全 16 区画 )
細胞数の報告 F R 計算盤全区画数 = a 個 4mm 4mm 0.2mm=3.2mm 3 全区画面積深さ体積 細胞数 (μl)=a/3.2 10/9 a/3 希釈率 最小値は 1 とし 算定した数値が 1 未満の場合は 1/μl 以下と報告する
細胞分類の報告 単核球と多核球に分ける 細胞数多い :% 細胞数少ない : 実数 ( 表示例 ) 細胞数 6/μl 単核球 : 多核球 =5:1 細胞数 430/μl 単核球 : 多核球 =72%:28%
髄液細胞数の参考基準値 新生児 : 25/μl 以下 乳児 : 20/μl 以下 乳児以降 : 5/μl 以下
髄液細胞数の補正 髄液に血液が混入すると血液中の白血球が正誤差を不える場合がある 補正が必要!! 患者の末梢血の赤血球と白血球の比を髄液中の赤血球に乗じ求める
計算盤による分類 第 1 の目的は細菌性髄膜炎の早期発見 単核球 リンパ球 単球 ( 組織球 ) 多核球 好中球 好酸球 好塩基球
細胞の観察方向と核形態の変化 多核でも細胞の向きにより単核にみえることがある
サムソン液の特徴 細胞の核内にフクシン色素が入るのが速い 核と細胞質の染め分けが明瞭
サムソン液の注意事項 蒸発濃縮しやすいので必ず密栓保存 保存期間の経過により染色性低下 ( 自家製 市販製問わず 2 年に 1 度くらいで交換 )
サムソン液の注意事項 蒸発濃縮しやすいので必ず密栓保存 保存期間の経過により染色性低下 ( 自家製 市販製問わず 2 年に 1 度くらいで交換 )
サムソン染色での細胞形態
異型リンパ球について ウイルス性髄膜炎で高頻度に出現成熟リンパ球の1.5~2 倍計算盤上での鑑別は困難単球とも似通った細胞形態
髄液細胞塗抹標本の観察 サムソン染色での形態学的検索には限界がある 塗抹標本を作製してメイ ギムザ染色実施
塗抹標本の作製 自然沈降法 細胞収集装置 ( サイトスピン オートスメア ) 引きガラスによる細胞塗抹法 メンブレンフィルター法
引きガラスによる細胞塗抹法 800 回転 5 分間遠心 沈渣にヒト AB 血清を加える 静かに混和後引きガラスで塗抹する 強制乾燥 最後まで引き切らずに一歩前で止める
疾患と髄液細胞所見 中枢神経系感染症 ( 髄膜炎 脳炎が代表 ) ウイルス性 細菌性 結核性 真菌性 寄生虫性 アメーバ性など 無菌性髄膜反応 ( 病原微生物の存在なしで細胞増多 ) くも膜下出血 腫瘍性疾患 原発性腫瘍 (19%) 転移性腫瘍 (81%) その他の病態 ギラン バレー症候群 多発性硬化症 HTLV-Ⅰ-associated myelopathy(ham) 脳ヘルニア 医原的細胞 ( 髄液採取時の混入 )
ウイルス性髄膜炎 すべての髄膜炎 脳炎の 7 割以上を占める 通常は良好な経過である 病因ウイルス エンテロウイルス ( コクサッキー エコー )85% ムンプス, 麻疹, 日本脳炎, 単純ヘルペス, サイトメガロ 典型例ではリンパ球優位の細胞増加 ( 中等度 ) 病初期に異型リンパ球多く認める ( 成熟リンパの約 1.5~2 倍 )
細菌性髄膜炎 急激に発症 頭痛 悪寒 発熱とともに髄膜刺激徴候認める 好中球優位 (8 割以上 ) の著しい細胞増多 残りは単球 > リンパ球 ( 髄液が白濁 細胞数 1 万個 /μl 以上も ) 抗生剤による治療によりリンパ球優位へ 再燃すると好中球優位となる
主な原因菌 新生児 B 群溶血性連鎖球菌 大腸菌 他の腸内細菌 小児 肺炎球菌 インフルエンザ菌 成人 肺炎球菌 リステリア菌 緑膿菌 黄色ブドウ球菌クレブシエラ プロテウス
真菌性髄膜炎 原因菌 クリプトコッカス カンジダ アスペルギルス クリプトコッカス髄膜炎 免疫力低下の合併症として発症 一般にリンパ球主体の細胞増多
クリプトコッカス髄膜炎 免疫丌全を伴う場合 菌体は著しい増生 大型で大小丌同 細胞増多乏しい ( 細胞応答性 のため ) わずかにリンパ球 単球散在 免疫丌全を伴わない場合 菌体は小型で目立たない ( 計算盤で認識困難 ) 中等度細胞増加 7 割リンパ球 残りは単球が多い
墨汁法によるクリプトコッカス検出 3,000 回転 5 分間遠心 沈渣 1 滴と墨汁 1 滴混合する そのつど硯で作製 カバーグラスをかけ鏡検する 莢膜を備えた大小丌同の酵母様菌体白く抜けたリング状
医原的細胞出現する場合 腰椎穿刺時の混入 脳室ドレナージ 異型細胞と誤認しないためには形態を認識しておく必要がある!
腰椎穿刺時の混入 髄液に末梢血が混入し 多くの赤血球を認めることがある 頭蓋内出血との鑑別必要! 穿刺時出血では髄液腔内出血を反映する所見 ( キサントクロミー 組織球のへモジデリン貪食など ) を認めない