3. 巻きだれの現地調査について (1) 巻きだれの現地調査の方法 道内 3 箇所の雪崩予防柵を対象に 一冬を通じて 巻きだれの形状の調査 物性の調査 周辺の気象観測を行った 観測は 216 年 12 月から 217 年 4 月までの期間 一般国道 23 号札幌市南区の中山峠凌雲橋付近 ( 観測地

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平成 29 年度 雪崩予防柵に発生する巻きだれの発達について 寒地土木研究所雪氷チーム 高橋渉松下拓樹松澤勝 積雪期に雪崩予防柵上部に巻きだれが発生し その崩落による道路交通への影響が懸念される 道内 3 箇所の雪崩予防柵設置箇所において 一冬を通じて 現地での巻きだれの形状調査 物性調査 気象観測を行った その結果 降雪によって積雪が増加する際に 雪崩予防柵上に冠雪して巻きだれが大きく成長することを確認した また 巻きだれの成長過程と崩落条件に関して考察を行った キーワード : 雪崩予防柵 巻きだれ 積雪深 引張強度 せん断強度 1. はじめに 雪崩予防柵 ( 吊柵を含む ) は雪崩発生区の対策として 北海道内の国道にも多く設置されており 雪崩発生区対策の有効な手段として採用されている しかし これらの雪崩予防柵上部には巻きだれと呼ばれる雪塊が発生 発達することがある 巻きだれは 時に落下することで道路交通に影響を与える恐れがあるため 巻きだれが発達する場合には その除去作業が行われている しかし 巻きだれに関する過去の研究では 竹内ら 1) によって 危険な巻きだれの見分け方や 除去の判別フローが示されているものの 実際の巻きだれの大きさや強度の観測を行い 巻きだれの安定度を数値的に評価した事例はない 本論文では 雪崩予防柵に発生する巻きだれの実態を把握することを目的として 道路管理者を対象に担当する路線で巻きだれが気になる箇所の有無 巻きだれ処理の実態 巻きだれの崩落事例の有無についてアンケート調査を行った結果を報告する 次に 道内 3 箇所の雪崩予防柵設置箇所において 一冬を通じた巻きだれの形状調査 物性調査 気象観測を行った結果について報告する 最後に 巻きだれをモデル化し 雪の力学的な破壊による巻きだれの崩落条件の検討を行った 2. 巻きだれに関するアンケート調査について (1) 巻きだれに関するアンケート調査の方法 前述したように 雪崩予防柵の巻きだれについては 未解明な部分が多く 明確な処理の基準がない 各現場における巻きだれの対応は 各現場の臨機による対応に委ねられている そこで 平成 29 年 1 月に寒地土木研究所雪氷チームで 北海道の国道を管理する道路事務所を 対象にアンケート調査を行った 巻きだれに関するアンケートでは 以下の 3 項目について聞き取りを行った 1 管内で巻きだれが気になる路線 箇所 2 管内で巻きだれの処理や斜面の雪落としをしている路線 箇所 3 過去の巻きだれ崩落事例の有無 また その時の規模や概要について (2) 巻きだれに関するアンケート調査の結果 これらのアンケート調査の結果 雪崩予防柵が設置されていない事務所を除いた 27 事務所から回答を得た 1 の巻きだれが気になる箇所という質問については 2 事務所から巻きだれを気にしている路線 箇所があるという回答を得た 2 の雪落としを行っているかという質問についても ほぼ同数の回答を得た 3 の実際に巻きだれの崩落があったかという質問に対しては 11 事務所から巻きだれの崩落事例があるとの回答を得た 巻きだれの崩落事例のあった事務所は道北から道南の日本海側ならびに道央の地域となっており 道東やオホーツク海側で発生したという回答はなかった また 崩落事例については いずれも 3~cm 程度の雪塊が落ちたとの回答であった 以上の結果から 巻きだれの発生については雪崩予防柵を設置している箇所であれば起こりうるが 実際に巻きだれが崩落するケースには地域的な偏りが生じていた しかし 巻きだれの崩落が 巻きだれの強度などの性質によるものか 雪崩予防柵の設置されている状況や 巻きだれの処理の状況による違いなのか アンケート調査だけでは明らかにすることができなかった 今後も情報を収集していきたい

3. 巻きだれの現地調査について (1) 巻きだれの現地調査の方法 道内 3 箇所の雪崩予防柵を対象に 一冬を通じて 巻きだれの形状の調査 物性の調査 周辺の気象観測を行った 観測は 216 年 12 月から 217 年 4 月までの期間 一般国道 23 号札幌市南区の中山峠凌雲橋付近 ( 観測地 1, N44 2 23, E141 8 29, 標高 761m) 一般国道 393 号倶知安町の樺立トンネル付近 ( 観測地 2, N42 7 4, E14 2 47, 標高 479m) 一般国道 27 号幌加内町の朱鞠内湖付近 ( 観測地 3, N44 18 16, E142 1 16, 標高 297m) の雪崩予防柵を対象とした ( 図 1) まず 巻きだれの断面形状の時間変化を把握することを目的として 2~4 週間おきに雪崩予防柵の積雪断面形状を観測した 積雪断面形状の観測は 観測地 1 では 7 回 (12/19, 1/, 1/2, 2/3, 2/21, 3/6, 3/27) 観測地 2 では 7 回 (12/21, 1/, 1/2, 2/3, 2/21, 3/6, 3/27) 観測地 3 では 回 (12/2, 1/19, 2/18, 3/17, 4/14) 実施した 積雪断面の物性の観測は 巻きだれの断面を格子状に区切り 雪温 密 度 硬度 雪質を観測地 1 では 2 回 (2/22, 3/1) 観測地 3 では 2 回 (4/4, 4/14) 行った 雪温 密度 硬度 雪質の観測は 積雪観測ガイドブック 2) に従った 観測地 1 の雪崩予防柵の柵高は 3.m 斜面勾配は 36 であり 観測地 2 の柵高は 2.m 斜面勾配 41 であり 観測地 3 の柵高は 2.m 斜面勾配 42 である 観測地 1 と 3 の雪崩予防柵近傍には気象観測機器を設置し 1 時間間隔で積雪深 風向風速 気温 湿度の自動観測を行った また 静止画記録装置を設置し 1 分間隔で雪崩予防柵付近の積雪状況を記録した ただし 静止画記録は昼間 (:~19:) のみである なお 観測地 2 については 近傍に北海道開発局設置の道路テレメータがあることから その値を観測地の気象観測値とした (2) 気象観測の結果について 図 2 に各気象観測箇所における気温と積雪深の時間変化を示す いずれの箇所も 気温については何日かの例外はあったが 12 月 6 日 ~4 月 2 日まで 1 日の平均気温が氷点下であり 3 月 1 日頃から日中はプラスの気温となる 1 中山峠凌雲橋付近 2 樺立トンネル付近 3 朱鞠内湖付近 2 樺立トンネル付近 3 1 2 国土地理院の電子地形図 ( タイル ) に箇所を追記して掲載 1 中山峠凌雲橋付近 3 朱鞠内湖付近 凌雲橋 C 凌雲橋 B 凌雲橋 A 図 1 巻きだれの観測箇所図 ( 左上 ) 観測地 2: 樺立トンネル付近 ( 右上 ) 観測地 1: 中山峠凌雲橋付近 ( 左下 ) 観測地 3: 朱鞠内湖付近 ( 右下 )

状況であった 期間中の最低気温はいずれも 1/24 に観測しており 観測地 1 では -17. であり 観測地 2 では -17.1 であり 観測地 3 では -2.4 であった 積雪の状況は 期間中に 2 度ピークを迎えた 観測地 1 については 1/28 に 23cm を観測し その後は減少したものの 2/26 に再び 23cm を観測した 観測地 2 については 2/26 に 177cm を観測し 一旦減少したものの 3/9 に 17cm を観測している 観測地 3 についても同様に 2/26 に 229cm を観測し 一旦減少した後に 3/1 に 23cm を観測した これらの値と例年の値 ( 過去 1 年間における気温と積雪深の平均値 ) とを比較する ( 表 1) 観測地 1 と観測地 3 における気象観測は 216 年度冬期しか行っていないので 過去 1 年の 12 月 1 日から 4 月 1 日の間の気象を把握する目的で 近傍に設置されている北海道開発局設置の道路テレメータ ( 観測地 1 は東中山テレメータ 観測地 3 は朱鞠内テレメータ ) を参照した 平均気温に関しては ほぼ例年値に近い状況であった 平均積雪深に関しては 東中山と樺立は例年の 7% 程度の積雪深しかなかった 特に 東中山は過去 1 年で 最も積雪が少ない状況であった 朱鞠内は例年並みの積雪深であった (3) 巻きだれの発達状況について 各観測地で巻きだれの形状を観測した結果を重ね合わせたものを図 3 に示す 観測地 1 においては 3 箇所の柵について巻きだれの形状を調査した 起点側から凌雲橋 A 凌雲橋 B 凌雲橋 C と名付けた ( 図 1) 凌雲橋 A にいては 法面に小段が存在する斜面上に設置されている 凌雲橋 B と凌雲橋 C は近接しており 小段が存在しない斜面上に設置されている 観測した巻きだれの形状は 互いの柵において 観測期間中では大きな差はみられなかった 期間の前半 表 1 各観測地における 216 年冬期と例年値の比較 216 冬期 例年値 気温 ( ) 積雪深 (cm) 気温 ( ) 積雪深 (cm) 1 東中山 -7. 138-7.2 177 2 樺立 -4.3 1-4.7 23 3 朱鞠内 -6.1 146-6.1 143 気温 ( ) 気温 ( ) 気温 ( ) 1 中山峠 1 1 - -1-1 -2 12/1 12/26 1/2 2/14 3/11 4/ 2 1樺立 1 - -1-1 積雪深 気温 2 2 1 1 2 2 1 1-2 12/1 12/26 1/2 2/14 3/11 4/ 1 積雪深気温 2 3 朱鞠内 1 - -1-1 -2 12/1 12/26 1/2 2/14 3/11 4/ 積雪深 気温 2 1 1 図 2 各観測地における気温と積雪深の推移上段 : 観測地 1 中段 : 観測地 2 下段 : 観測地 3 積雪深 (cm) 積雪深 (cm) 積雪深 (cm) 1 中山峠 2 樺立 3 朱鞠内 図 3 各観測地における巻きだれの形状変化の推移上段 : 観測地 1 中段 : 観測地 2 下段 : 観測地 3

(~1/) は降雪直後に柵の上端に雪塊が付着し それが降雪の度に成長し やがて内側に崩落を繰り返した その後 (1/2~) は徐々に斜面全体の積雪が増加することで柵の背面が積雪で埋まっていき 上端で分離していたものが取り込まれていく形となる ただし 観測地 1 においてはそれ以降積雪が顕著に増加することがなかったため 頂部から巻きだれが下がるような状況にはならなかった 観測地 2 においても傾向は同様ではあった ただ 樺立トンネルは凌雲橋よりも積雪が多く 柵高も低かったことから 柵の背面が積雪で埋まる期間は長かった 観測地 3 においては 柵高程度の積雪があったことから 小さいながらも巻きだれの発生が見られた ただ 大きく垂れ下がるような巻きだれになることはなく 4 月の雪解けとともに消滅した (4) 巻きだれの物性調査の結果について 各観測地で巻きだれの密度 硬度を観測した結果の一例を図 4 に示す 観測地 1 において 観測した時期は最深積雪となる直前の 2/22 と 融雪が始まった 3/1 に行った 密度については 2 月の調査時 ( 図 4A) は積雪表面に近い部分は kg/m 3 以下で 断面の内部や柵と接している部分は 3 ~4kg/m 3 となっていたが 3 月の調査では積雪表面の 部分は 1~1kg/m 3 に変化した 硬度は 2 月の調査時 ( 図 4B) には積雪の内部は 1~2kPa であったが 大部分は kpa 以下であった 3 月の調査時には中心部は 12~ 7kPa となり 表面は 8kPa 以下と広く分布していた 観測地 3 においては 観測した時期は融雪が進み 1 日の気温が氷点下を下回らない時期 (4/4) と さらに融雪が進み 前日は氷点下まで下回ったものの 翌日は気温が 9 度まで上昇した日 (4/14) に行った ほとんどの断面で 密度は 3~4kg/m 3 となっていたが 硬度は 1 回目の観測では断面内部の硬度が大きく 表面に行くにしたがって硬度の小さい部分がある 一方で 2 回目の観測では表面部は kpa 以下の部分が多くなっていた こちらは水を多く含んだ雪によって硬度が小さく出ていたものと考えられる 今回の観測の結果 厳冬期における巻きだれの表面付近では硬度と密度はあまり大きい値ではなかった 融雪期には 密度は増加するものの 硬度はばらつきが大きく 特に内部に比べて表面が小さい結果となった このような密度と硬度の傾向が 巻きだれの崩壊にどのように関係するのか 今後も観測を継続して明らかにしていきたい C 3 朱鞠内 4/4 密度 A 1 中山峠 2/22 密度 D 3 朱鞠内 4/4 硬度 B 1 中山峠 2/22 硬度 図 4 巻きだれの物性値観測結果 A: 観測地 12/22 密度 B: 観測地 12/22 硬度 C: 観測地 34/4 密度 D: 観測地 34/4 硬度

4. 巻きだれの成長過程に関する考察 A 第 1 段階 B 第 2 段階 今回の観測では 定期的な形状調査 (3. 章 (3)) と 1 分間隔のインターバルカメラによって 雪崩予防柵付近の雪の堆積状況ならびに 巻きだれの形成状況について観を行った ( 図 ) 以下では 3 地点の観測結果において共通している部分を整理し 既往文献 2) も参考に一冬の巻きだれの成長について考察を行い 4 つの段階に分けられるとした C 第 3 段階 D 第 4 段階 第 1 段階 ( 積雪直後から雪崩予防柵背面が埋まるまで )( 図 A) この期間では 柵の前面にせり出すような巻きだれは観察されない ただし 雪崩予防柵頂部に冠雪による雪塊が見られることがある この雪塊はまとまった降雪時に成長し 降雪が止んだ後に小さくなるが 消滅する前に新たな降雪があると再成長する しかし ある程度の大きさになったときに バランスを崩し 雪崩予防柵の背面に落下することもある この場合に崩落する雪塊は比較的小規模であった 落下したときの日平均気温が前日に比べ高い傾向にあることから 気温が影響している可能性は大きい 図 観測地 3 における巻きだれ形成状況 A 12/1 B 1/11 C 3/1 D 4/8 以上 巻きだれの成長過程は 4 つの段階にわけることができる 巻きだれが成長し 崩落するのはおおむね第 2~3 段階ではないかと考えられる しかし 今回の観察期間では積雪が例年より少ないこともあって 顕著な巻きだれの発達と崩落する事例は見られなかった 今後の観測によって上記の巻きだれ成長過程と崩落のタイミングを明確に示したいと考えている 第 2 段階 ( 雪崩予防柵背面が埋まってから最深積雪深となるまで )( 図 B) 雪崩予防柵が積雪で埋まってからは 積雪深は全体的に増加する 巻きだれとなり得る柵上の部分も 降雪時に成長する 晴天時は圧密されることで積雪深が減少するが すぐに次の降雪となり徐々に成長していく 降雪が継続することで 巻きだれが顕著に発達すると考えられる 第 3 段階 ( 最深積雪深から雪崩予防柵背面が見えるまで )( 図 C) 圧密と融雪によって積雪が減少していく中で 柵上の巻きだれ部分が取り残されて目立つ時期である 今回の観測においては 巻きだれは顕著な発達を見せなかったが 融雪による積雪の全体的な減少に伴い 巻きだれも小さくなるが 柵上に巻きだれが取り残される状況になる このときに大きな雪塊として巻きだれが崩落する可能性があると考えられる 2) 第 4 段階 ( 雪崩予防柵背面が見えてから積雪消滅まで )( 図 D) この頃から日平均気温が 以上となり 融雪の進行が早まる この時期になると 巻きだれそのものが消滅し 崩落の危険性はほぼないと考えられる. 巻きだれの崩落条件に関する仮説 雪崩予防柵に発生する巻きだれの崩落条件について 巻きだれ形状をモデル化することにより 巻きだれが破壊して崩落するときの力学的な解を求めることを試みた モデルに関しては 壁から梁が出ている構造とし 破壊する箇所は壁と梁の接合部分とする ( 図 6) 接合部 ( 図 6の破線 ) には 梁部分の自重による引張力とせん断力が作用している 曲げモーメント Mと断面係数 Zの関係から 接合部に働く引張応力 σt せん断応力 σs は次のように表される 3) hb g 2 M l 2 2 h b Z 6 M 3 g 2 t l Z h hlb g s l g hb ここでM: 曲げモーメント Z: 接合部の断面係数 σt: 接合部に作用する引張応力 (Pa) σs: 接合部に作用するせん断応力 (Pa) h: 梁部分の高さ b: 梁部分の奥行き l: 梁部分の長さ ρ: 雪の密度である

2 ρ=3kg/m3 σ t ρ h σ s=σ s σ t=σ t σs l b 高さ h (m) 1 非破壊 (σ<σ) 破壊 (σ>σ) 図 6 巻きだれを梁材としてモデル化 一方 雪の引張強度 Σt (Pa) せん断強度 Σs (Pa) については Watanabe 4) や山野井 遠藤 ) が乾雪 湿雪ごとに次のような式を示している 乾雪 : 湿雪 : 乾雪 : 湿雪 : t t s s 3.4 9.36 9.4 4.97 1 1 1 4 1 4 4 3.24 3.23 2.91 2.91 ここで θ: 体積含水率 (%) である exp.23 これらから 湿雪 ( 体積含水率 %) の際の雪の密度に応じた 巻きだれが破壊する条件 (σ t>σ t σ s>σ s ) を計算した結果を図 7 に示す 巻きだれの観測結果 (3 章 (4)) より 雪の密度を 3kg/m 3 とした 図 7 の各線は 巻きだれを雪の梁材とした場合 ( 図 6) の接合部に働く応力が 雪の強度に等しくなるときの条件である 各線の右側が 巻きだれが破壊する条件となる 図 7 によると 引張力との関係からみた崩落条件 (σ t>σ t) に関しては 巻きだれがある程度大きくなったとしても 接合する面積も増えることで支えることができる 一方で せん断力との関係からみた崩落条件 (σ t>σ t) に関しては 高さ方向については 接合する面積が大きくなることで 理論上は無限に大きくなりうるが 張出し長さ方向についてはせん断力が増加しても 接合する面積が変化しないため 一定の大きさに至ると破壊すると考えられる 実際の現象としては 引張力とせん断力の双方が作用していることから 高さ方向の成長については 引張力が破壊に寄与すると考えられ 張出し長さ方向については ある大きさを境に引張力からせん断力が破壊に寄与すると推定される ただし 今後の観測によって巻きだれの断面形状や密度の実測データを習得し 図 7 の巻きだれ崩落条件を検証する必要がある 6. さいごに.. 1. 1. 2. 張出し長さ l (m) 図 7 巻きだれが破壊する高さと張り出し長さの関係 雪崩予防柵に発生する巻きだれの発達と崩落について 過去の研究のレビュー 道路管理者へのアンケート 現地での観測 理論的検討を行った 現地での観測については 昨年の冬期は積雪が少なかったため 顕著な巻きだれの成長が見られなかったが 今後も引き続き観測を行い 理論上の破壊条件と合致するか検証を行いたい 謝辞 : 巻きだれの現地観測にあたっては 札幌開発建設部札幌道路事務所 小樽開発建設部倶知安開発事務所 旭川開発建設部士別道路事務所に大変お世話になりました また 巻きだれのアンケート調査に関しまして 各開発建設部の道路維持担当者の方に大変お世話になりました この場を借りて御礼申し上げます 参考文献 1) 竹内政夫, 成田英器, 佐々木勝男 : 巻きだれ雪の形成と消滅 危険な巻きだれの見分け方, 北海道の雪氷,3,pp.111-114,211. 2) 日本雪氷学会編 : 積雪観測ガイドブック, 朝倉書店,p.136,21. 3) 土木学会構造力学公式集編集委員会 : 構造力学公式集,478pp,1974. 4)Zempachi Watanabe:The Influence of Snow Quality on the Breaking Strength,Sci. Rep Fukushima Univ,27,pp.27-3,1977. ) 山野井克己, 遠藤八十一 : 積雪におけるせん断強度の密度および含水率依存性, 雪氷,64,pp.443-41,22.