有機化学6(天然物化学)

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木村の有機化学小ネタ 糖の構造 単糖類の鎖状構造と環状構造 1.D と L について D-グルコースとか L-アラニンの D,L の意味について説明する 1953 年右旋性 ( 偏光面を右に曲げる ) をもつグリセルアルデヒドの立体配置が

第3回 糖類(炭水化物)

H27看護化学-講義資料13rev

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解糖系でへ 解糖系でへ - リン酸 - リン酸 1,-2 リン酸 ジヒドロキシアセトンリン酸 - リン酸 - リン酸 1,-2 リン酸 ジヒドロキシアセトンリン酸 AT AT リン酸化で細胞外に AT 出られなくなる 異性化して炭素数 AT の分子に分解される AT 2 ホスホエノール AT 2 1

細胞の構造

練習問題

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遺 伝 の は な し 13

1-1 栄養素の代謝と必要量 : 糖質 炭水化物 1 糖質の消化吸収 デンプンは唾液中のα アミラーゼの作用により加水分解され かなりの部分が消化を受ける ヒト の唾液中に存在するデンプン消化酵素は α アミラーゼがほとんどである 胃では糖質の消化酵素は 分泌されないが 食道から胃内に流入した食塊が

相模女子大学 2017( 平成 29) 年度第 3 年次編入学試験 学力試験問題 ( 食品学分野 栄養学分野 ) 栄養科学部健康栄養学科 2016 年 7 月 2 日 ( 土 )11 時 30 分 ~13 時 00 分 注意事項 1. 監督の指示があるまで 問題用紙を開いてはいけません 2. 開始の

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

平成 29 年度大学院博士前期課程入学試験問題 生物工学 I 基礎生物化学 生物化学工学から 1 科目選択ただし 内部受験生は生物化学工学を必ず選択すること 解答には 問題ごとに1 枚の解答用紙を使用しなさい 余った解答用紙にも受験番号を記載しなさい 試験終了時に回収します 受験番号

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

SSH資料(徳島大学総合科学部 佐藤)

必要ならば, 次の原子量および定数を用いなさい H = ₁.₀ He = ₄ C = ₁₂ N = ₁₄ O = ₁₆ S = ₃₂ 気体定数 :R = ₈.₃₁ # ₁₀[Pa ₃ L/(K mol)] Ⅰ. ~ に答えなさい ₃₅ ₁₇Cl の塩素原子の中性子の数はいくつか 1~5のうちから一つ

1 編 / 生物の特徴 1 章 / 生物の共通性 1 生物の共通性 教科書 p.8 ~ 11 1 生物の特徴 (p.8 ~ 9) 1 地球上のすべての生物には, 次のような共通の特徴がある 生物は,a( 生物は,b( 生物は,c( ) で囲まれた細胞からなっている ) を遺伝情報として用いている )

官能基の酸化レベルと官能基相互変換 還元 酸化 炭化水素 アルコール アルデヒド, ケトン カルボン酸 炭酸 H R R' H H R' R OH H R' R OR'' H R' R Br H R' R NH 2 H R' R SR' R" O R R' RO OR R R' アセタール RS S

切に分類することが重要である. 炭水化物は,1 単糖,2 二糖とオリゴ糖,3でんぷん, 非でんぷん性多糖ならびにグリコーゲンなどの多糖に分類される. そのなかでも食物として重要なでんぷんとグリコーゲンならびにスクロースの消化の過程を 1 に示した. 1 単糖ヒトの食物として量的に重要であるのは,3

イラスト 基礎からわかる生化学 (立ち読み)

ドリル No.6 Class No. Name 6.1 タンパク質と核酸を構成するおもな元素について述べ, 比較しなさい 6.2 糖質と脂質を構成するおもな元素について, 比較しなさい 6.3 リン (P) の生体内での役割について述べなさい 6.4 生物には, 表 1 に記した微量元素の他に, ど

木村の有機化学小ネタ セルロース系再生繊維 再生繊維セルロースなど天然高分子物質を化学的処理により溶解後, 細孔から押し出し ( 紡糸 という), 再凝固させて繊維としたもの セルロース系の再生繊維には, ビスコースレーヨン, 銅アンモニア

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第4回 炭水化物の消化吸収と代謝(1)

糖質は炭水化物 (carbohydrate) の一種で 昔 含水炭素 と聞いた方もいるでしょう 炭素に水がついた形の化合物です 糖質は生命維持と生活活動のエネルギーとして最も重要な栄養素です 化学構造は (C n H 2n O n )(n 3) の組成になります では糖質の分類を見てみましょう (2

EC No. 解糖系 エタノール発酵系酵素 基質 反応様式 反応 ph 生成物 反応温度 温度安定性 Alcohol dehydrogenase YK エナントアルデヒド ( アルデヒド ) 酸化還元反応 (NADPH) 1ヘプタノール ( アルコール ) ~85 85 で 1 時

スギ花粉の捕捉Ys ver7.00

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目次 1. 抗体治療とは? 2. 免疫とは? 3. 免疫の働きとは? 4. 抗体が主役の免疫とは? 5. 抗体とは? 6. 抗体の構造とは? 7. 抗体の種類とは? 8. 抗体の働きとは? 9. 抗体医薬品とは? 10. 抗体医薬品の特徴とは? 10. モノクローナル抗体とは? 11. モノクローナ

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2019 年度大学入試センター試験解説 化学 第 1 問問 1 a 塩化カリウムは, カリウムイオン K + と塩化物イオン Cl - のイオン結合のみを含む物質であり, 共有結合を含まない ( 答 ) 1 1 b 黒鉛の結晶中では, 各炭素原子の 4 つの価電子のうち 3 つが隣り合う他の原子との

1. 電子伝達系では膜の内外の何の濃度差を利用してATPを合成するか?

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報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

第4回 炭水化物の消化吸収と代謝(1)

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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第6回 糖新生とグリコーゲン分解

資生堂 肌の奥 1 からシミを増殖させる新たなメカニズムを解明 シミ増殖因子の肌の上部 ( 表皮 ) への流入量をコントロールしているヘパラン硫酸の 減少抑制効果が マドンナリリー根エキス に 産生促進効果が グルコサミン にあることを発見 資生堂は これまでシミ研究ではあまり注目され

(2) 二 糖 類 二 糖 類 は, 単 糖 が2つグリコシド 結 合 したものである たとえば,マルトース( 麦 芽 糖 )は,グル コース+グルコース,スクロース(ショ 糖 )は,グルコース+フルクトース,ラクトース( 乳 糖 )は, グルコース+ガラクトースのグリコシド 結 合 によるものであ

2017 年度茨城キリスト教大学入学試験問題 生物基礎 (A 日程 ) ( 解答は解答用紙に記入すること ) Ⅰ ヒトの肝臓とその働きに関する記述である 以下の設問に答えなさい 肝臓は ( ア ) という構造単位が集まってできている器官である 肝臓に入る血管には, 酸素を 運ぶ肝動脈と栄養素を運ぶ

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Dr, Fujita

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領


10 高分子化学 10.1 高分子序論炭素分子が共有結合で結びついていると 高分子化学物という 例えば ポリエチレンや PET ナイロン繊維などの人工物やセルロース たんぱく質などの生体化合物である 黒鉛は高分子に数えないのが普通である 多くの高分子は 小さな繰り返しの単位が 結びつき 高分子となっ

2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

解離度 ph 科目 Ⅱ( 生化学 応用微生物学 ) 問 1 次の文中の ( ) 内に入る適切な語句を解答欄に書きなさい 生物は大きく二つに分けられる

第1回 生体内のエネルギー産生

タンパク質の合成と 構造 機能 7 章 +24 頁 転写と翻訳リボソーム遺伝子の調節タンパク質の構造弱い結合とタンパク質の機能

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

相模女子大学 2016 年度 AO 入学試験 適性試験問題 栄養科学部 2015 年 8 月 29 日 ( 土 )10 時 00 分 ~10 時 50 分 注意事項 1. 監督の指示があるまで 問題冊子を開いてはいけません 2. これは 適性試験の問題冊子です 問題の本文は 1ページから 5 ページ

成人の人体に占める水の量 ( 重量 ) は細胞内液が 35%, 細胞外液が 25% を占める. 細胞外液は血漿, 組織間液, 消化液に分けられる. 血液は体重の ( 13 ) 分の 1 であり, 血漿は血液から血球 ( 赤血球, 白血球, 血小板 ) を除いたものである. 血液の ph は ( 7.

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第6回 糖新生とグリコーゲン分解

次の 1~50 に対して最も適切なものを 1 つ (1)~(5) から選べ 1. 細胞内で 酸素と水素の反応によって水を生じさせる反応はどこで行われるか (1) 核 (2) 細胞質基質 (3) ミトコンドリア (4) 小胞体 (5) ゴルジ体 2. 脂溶性ビタミンはどれか (1) ビタミン B 1

スチック その他の化学物質を生産する化学工業ではなく 生命最強のツールである酵素を使って化学反応を触媒し さらには 新しい酵素を設計して作り出すことによって 物質生産を根本的に変えることができると考えていました 当時 世界的なバイオテクノロジーブームが盛り上がる中で アーノルド博士と同様のことを多く

マンスリー・ヘルシートピックス(2015年1月号)

はじめに 液体クロマトグラフィーには 表面多孔質粒子の LC カラムが広く使用されています これらのカラムは全多孔質粒子カラムの同等製品と比べて 低圧で高効率です これは主に 物質移動距離がより短く カラムに充填されている粒子のサイズ分布がきわめて狭いためです カラムの効率が高いほど 分析を高速化で

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Ł\”ƒ-2005

研究の背景 B 型肝炎ウイルスの持続感染者は日本国内で 万人と推定されています また, B 型肝炎ウイルスの持続感染は, 肝硬変, 肝がんへと進行していくことが懸念されます このウイルスは細胞へ感染後,cccDNA と呼ばれる環状二本鎖 DNA( 5) を作ります 感染細胞ではこの

第90回日本感染症学会学術講演会抄録(I)

二糖類 ( 改訂 2.0) α グルコース 2 つ マルトース β グルコース 2 つ セロビオースグルコースとフルクトース スクロース ( サッカロース ) スクロースだけは還元力をもたない 糖の脱水単糖 2 分子が脱水縮合すると二糖類ができる このあたりは計算問題よりも名前が必要となってくる 分


日本内科学会雑誌第102巻第4号

Hi-level 生物 II( 国公立二次私大対応 ) DNA 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造, 半保存的複製 1.DNA の構造 ア.DNA の二重らせんモデル ( ワトソンとクリック,1953 年 ) 塩基 A: アデニン T: チミン G: グアニン C: シトシン U

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東京理科大学 Ⅰ 部化学研究部 2015 年度春輪講書 シクロデキストリンを用いた 包接化合物の生成 水曜班 Ikemura, M.(2C),Ebihara, K.(2C), Kataoka, T.(2K), Shibasaki,K.(2OK),Tsumeda,T.(2C),Naka,A.(2OK)

血糖値 (mg/dl) 血中インスリン濃度 (μu/ml) パラチノースガイドブック Ver.4. また 2 型糖尿病のボランティア 1 名を対象として 健康なボランティアの場合と同様の試験が行われています その結果 図 5 に示すように 摂取後 6 分までの血糖値および摂取後 9 分までのインスリ

第1回 生体内のエネルギー産生

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酵素消化低分子化フコイダン抽出物の抗ガン作用増強法の開発

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

核内受容体遺伝子の分子生物学

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糖鎖 複合糖鎖 糖鎖複合糖鎖 各種単糖類 ( グルコース, ガラクトース, マンノース, N- アセチルグルコサミン, フコース, シアル酸など ) がグルコシド結合で連なった一群の化合物 結合様式, 重合度, 構成糖による構造多様性に起因する機能性, 分子認識性を有する タンパク質や脂質などに糖鎖

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

2. なぜ 糖質の摂取を制限するのか 世界保健機関 (WO) の報告によると アジア を含む世界各国で生活習慣病がまん延し 有効な対 策をしなければ 2025 年までに世界の糖尿病人口は 7 億人以上に達すると予測されており 世界的にそ れらの予防対策が重要課題となっている 1) 特にア ジア人は


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スライド 1

酢酸エチルの合成

Transcription:

有機化学 6( 天然物化学 ) 糖類の化学

糖のいろいろ グルコース ( ブドウ糖 ) ガラクトースフルクトース ( 果糖 ) リボース マルトース ( 麦芽糖 ) スクロース ( 砂糖 )

糖類の特徴 ヒドロキシ基を数多く含む 低分子のものは甘い味がする 生体内に最も多い有機分子 種類も多彩 栄養源その他として 生体に必須 糖同士 または他の分子と結合しうる ( 糖鎖 ) 語尾に -ose がつく

( 余談 ) ルドルフォマイシンという化合物の先端についた糖にレッドノース (rednose) という名がつけられている ルドルフ は サンタのそりを引く赤鼻のトナカイの名前

単糖 トリオース ( 三炭糖 ) ペントース ( 五炭糖 ) テトロース ( 四炭糖 ) 5 3 6 4 2 1 ヘキソース ( 六炭糖 ) 単糖とは 炭素 3 個以上を含む直鎖のポリヒドロキシアルデヒドまたはポリヒドロキシケトンのこと 自然界に多いのは炭素 6 つのヘキソース

アルドースとケトース 2 2 D- グルコース D- フルクトース 2 アルデヒドを含む糖をアルドース ケトンを含む糖をケトースと称する

ヘミアセタール R' + R R' R ヘミアセタールは アルデヒド ( ケトン ) にアルコールが求核攻撃してできるが 通常は不安定で 平衡は大きく右に寄っている しかし 安定な 6 員環を形成できる配置であると ヘミアセタール型が優勢となる 6 員環を作り得ない時は 次に安定な 5 員環を形成する

D-グルコース D-フルクトース 2 6 員環形成 2 5 員環形成 フラノース 2 6 員環形成 ピラノース

アノマー互変 アノマー炭素 α- アノマー 両アノマーは 水溶液中では容易に移り変わる 互変異性体 これらは平衡状態にある β- アノマー

糖は多数の不斉点を含む 2 ( フィッシャー投影式の描き方 ) 同じアルドヘキソースでも 多数の異性体が存在しうる

2 2 2 2 D- アロース D- アルトロース D- グルコース D- マンノース 2 2 2 2 D- グロース D- イドース D- ガラクトース D- タロース

同じアルドヘキソースでも グルコース マンノース ガラクトース イドース

特殊な糖 アミノ糖 N 2 グルコサミン 糖アルコール キシリトール イノシトール デオキシ糖 フコース 3 デオキシリボース 昆布の粘り成分フコイダンから DNA の構成成分

カルボン酸を含む糖 グルコン酸 グルコノラクトン グルクロン酸 ノイラミン酸 ( この形では天然に存在しない )

グリコシド結合の形成 R R' R R' R'' - 2 R R' R'' ヘミアセタール アセタール R - 2 R 糖は 1 位のヒドロキシ基が他の糖のヒドロキシ基と置換することで 互いに連結することができる ( グリコシド結合 )

オリゴ糖の例 スクロース ( 砂糖 ) マルトース ( 麦芽糖 ) アカルボース ( 糖尿病治療薬 ) ラクトース ( 乳糖 )

糖誘導体による甘味料 l l l スクラロース マルチトール トレハロース エリトリトール

合成甘味料 N N 2 ズルチン ( 発がん性のため使用禁止 ) S N Na 250 50 シクラミン酸ナトリウム ( チクロ ) 2 N N 180 アスパルテーム N S Na 300 S N 200 K N N 10,000 サッカリンナトリウム アセスルファムカリウム ネオテーム 糖とはかけ離れた構造でも甘いものはある ( 赤数字は砂糖を 1 とした場合の甘さ )

セルロース グルコースがβ-グリコシド結合で長くつながったもの 隣のグルコース同士 また鎖どうしで水素結合し 丈夫な鎖を成す このためデンプンと異なり 消化分解を受けにくく 溶媒にも不溶 麻や綿などの繊維 食物繊維などはセルロースが主成分 植物により 毎年 1 兆トンのセルロースが作られる 生物圏の炭素の半分はセルロース シロアリなどはセルロースを消化可能だが 効率は極めて悪い

キチン N 3 N 3 N 3 N 3 セルロースの 2 位ヒドロキシ基が アセトアミド (3N-) に変わった構造 甲殻類 昆虫などの外骨格 細菌の細胞壁の主成分 年間 1000 億トンも合成されるが あまり利用されていない

グリコサミノグリカン N 3 n ヒアルロン酸 グルクロン酸と N- アセチル -D- グルコサミンが交互に連結した構造 S N コンドロイチン 4- 硫酸 ヒアルロン酸の N- アセチル -D- グルコサミンが N- アセチルガラクトサミン 4- 硫酸に変わったもの 3 n 負電荷の反発により 水を多量に含んだ丈夫な物質になる細胞間物質や 関節の潤滑液として存在する

デンプン ( アミロース ) グルコースが α- グリコシド結合で長くつながったもの グルコース約 6 個で 1 周のらせん状構造をとる アミロペクチンやグリコーゲンは 6 位ヒドロキシ基から枝分かれを持つ ( 矢印 ) 植物の栄養貯蔵庫 動物の栄養源

シクロデキストリン グルコース単位の数 6:α- シクロデキストリン 7:β- シクロデキストリン 8:γ- シクロデキストリン デンプンにシクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させて得られる 内部空間に各種化合物を取り込む このため 超分子化学の素材として 一世を風靡した

シクロアワオドリン 徳島文理大学の西沢麦夫らが合成 地元の名物にちなみ命名 グルコースの代わりに L- ラムノースが構成単位となる 西沢らは 地元の眉山 ( びざん ) にちなんだ Vizantine という化合物も報告している

配糖体 サリシン ( ヤナギの鎮痛成分 ) アスピリンの元となった アミグダリン ( 梅などの毒の元 ) 酵素によって糖が切れると シアンイオンを発生する グルコバニリン発酵によって糖が切れると バニラの香りを発する ステビオシド ( ステビアの甘味成分 )

配糖体 エリスロマイシン ( 抗生物質 ) バンコマイシン ( 抗生物質 ) ドキソルビシン ( 抗がん剤 ) イベルメクチン ( 駆虫薬 ) ジギトキシン ( 強心剤 ) 医薬として使われる化合物にも 配糖体は多い水溶性の向上 DNA の認識などに関わると見られる

抗がん剤カリチェミシン 糖鎖部分が DNA の配列を認識して結合し エンジインコア部分がビラジカルを発生して DNA2 本鎖をまとめて切断する ゲムツズマブオゾガマイシン の名で 抗がん剤として実用化された アレクサンダー大王はこの化合物で中毒死したという説もある

P P P P P P P P A T G A U G DNA と RNA DNA と RNA の反応性の差は リボースのヒドロキシ基の有無によるこの違いが 両者の役割を大きく分けている DNA RNA

糖鎖 : 細胞のコミュニケーター 細胞膜表面に出ているタンパク質の多くは 糖鎖が結びついた 糖タンパク質 糖と脂質が結びついた 糖脂質 も膜に突き刺さるように存在しており 細胞の表面には糖鎖がたくさん生えた状態 これらは 細胞同士の接着や認識に関わる 細菌やウイルスの感染 免疫応答 抗原抗体反応などに重要な役割を果たす

血液型を決める分子 赤血球の表面糖鎖のうち 0.8% だけが AB 式血液型に関与する

糖タンパク質に用いられる糖 D- グルコース D- ガラクトース D- マンノース N- アセチル - D- グルコサミン N- アセチル - D- ガラクトサミン L- フコース D- キシロース N- アセチル -D- ノイラミン酸 せいぜい 7~8 種類

糖鎖と感染 インフルエンザウイルスの仕組み 外皮膜 M2タンパク質 直径 100nm ほどの脂質膜でできたエンベロープに 8 本の RNA が遺伝子として内包されている ウイルスを構成するのは RNA とたった 9 種類のタンパク質 表面にはヘマグルチニン (A) とノイラミニダーゼ (NA) という 2 種のタンパク質が数百個突き出ている NA A RNA A には 16 種類 NA には 9 種類の 亜型 があり この組み合わせがウイルスの型を決める (1N1, 5N1, 9N2 など )

ウイルスのライフサイクル (1)~ 感染 ~ シアル酸 まず ウイルスが細胞表面のシアル酸に付着 宿主細胞

ウイルスのライフサイクル (2)~ 侵入 ~ エンドサイトーシスによって細胞内に侵入 宿主細胞

ウイルスのライフサイクル (3)~ 脱殻 ~ M2 タンパク質からウイルス内部にプロトンが流れ込むこの刺激でウイルスの膜が変形 融合し RNA が細胞内に放出される + M2 タンパク質 宿主細胞膜由来の脂質膜 RNA + +

ウイルスのライフサイクル (4)~ 複製 ウイルスの RNA は細胞質から核内へ侵入自らの RNA 鋳型や 必要なタンパク質の複製を行う 宿主細胞

ウイルスのライフサイクル (5)~ 準備 宿主細胞の膜直下に 必要なタンパク質と RNA が集合する 宿主細胞

ウイルスのライフサイクル (6)~ 形成 宿主細胞の膜の一部をちぎりとる形でウイルスのエンベロープが形成され 子ウイルスが細胞から放出される 宿主細胞

ウイルスのライフサイクル (7)~ 脱出 子ウイルスはそのままでは細胞表面のシアル酸にくっつき 脱出できない ノイラミニダーゼが働いてこれを切断 外界へ放出される シアル酸 宿主細胞

インフルエンザ治療薬のデザイン N N-アセチルノイラミン酸 ( ウイルスがとりつく場所 ) N N N N 2 リレンザ ノイラミニダーゼ阻害剤 インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼが切り離すシアル酸に似せた化合物で酵素の働きをブロック 感染の拡大を防ぐ N N 2 タミフル

今回のまとめ 糖類はヒドロキシ基を多く含むアルデヒドまたはケトン 基本的な糖は 栄養源などとして重要 構造は極めてバリエーションが多い 糖同士 または他の化合物とグリコシド結合を介して連結し 多彩な化合物を作り出す 繰り返し構造の糖鎖は 生体を作る高分子として重要 細胞表面の糖鎖は 細胞同士のコミュニケーションを担う