図 1 血栓閉塞型急性大動脈解離単純 CTにおいて偽腔が三日月状の高濃度域として認められる. 造影 CTでも真腔との交通を認めない. 間, 臨床病型, 合併症, 手術の有無, および予後を検討した. 臨床病型は造影 CTを用いてStanford 分類とDeBakey 分類で行った. 単純 CTにおい

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急性大動脈解離の臨床像と予後 The clinical characteristics and prognosis of acute aortic dissection 馬渡耕史春田弘昭大野朗中野治 鹿児島生協病院循環器科 Abstract 1995 年より 2005 年までに経験した急性大動脈解離 92 例を対象に, 臨床像と予後を検討した. 男性 41 例, 女性 51 例, 平均年齢 72±37 歳 (35 93 歳 ) で,Stanford A 型 ( 以下 A 型 )49 例,Stanford B 型 ( 以下 B 型 )43 例,DeBakey Ⅰ 型 33 例,DeBakey Ⅱ 型 16 例,DeBakey Ⅲa 型 10 例,Ⅲb 型 32 例, 腹部限局 1 例であった.A 型 49 例のうち少なくとも 2 例が DeBakey Ⅲ の経過中に逆行性解離をきたした症例であった. 偽腔開存型 45 例 (A 型 32 例,B 型 13 例 ), 血栓閉塞型 47 例 (A 型 17 例,B 型 30 例 ) で,A 型に偽腔開存型が多かった. 発症後, 来院までは平均 1.2±9.0 時間 (0.5 10.2 時間 ) で, 8 例は来院時心肺停止の心タンポナーデ例であった. 心タンポナーデ例は全体 25 例で, 偽腔開存型 18 例, 血栓閉塞型 7 例であった.25 例中 5 例 ( 偽腔開存型 1 例, 血栓閉塞型 4 例 ) で心嚢ドレナージ後の手術で救命できた. 心タンポナーデを呈さなかったが血性心嚢液を認めたのは 4 例で全例生存している. 1 週間以降の合併症として血管径の拡大 2 例, 瘤破裂 5 例, 再解離 1 例, 再交通 2 例, 脳梗塞 1 例, 急性心筋梗塞 1 例, 腹部臓器虚血 1 例, 下肢虚血 1 例であった. 手術例は偽腔開存型 15 例, 血栓閉塞型 7 例であった. 死亡率は偽腔開存型が血栓閉塞型と比べて高かった (40% vs 0 % p=0.049). 急性期の死亡は 31 例で A 型が 28 例を占めていた. 生存例 61 例中の慢性期死亡は 15 例 (24.6%) で大動脈解離関連の死亡は再解離と破裂の 2 例 (3.3%) のみであった. 急性大動脈解離は心タンポナーデの危機を乗り越えられれば, その後の予後は比較的良好である. Koushi Mawatari, Hiroaki Haruta, Akira Ohno, Osamu Nakano Cardiovascular Division, Kagoshima Seikyo Hospital Key words 急性大動脈解離 急性大動脈解離の臨床像 急性大動脈解離の予後 (2010.9.13 原稿受領 ;2011.7.20 採用 ) はじめに大動脈解離とは数 10 層の弾性線維からなる大動脈中膜が, ある範囲をもって解離する疾患である.Hirst らによる1958 年の論文 1) では, 発症後 24 時間で21%, 14 日で74% の死亡率とされ, 致死的合併症の原因は破裂や分枝閉塞による臓器虚血であり, 突然死を含め病院到達前に死亡する患者も多い. 現在においても, いまだに急性期の死亡率は高く, その予後は不良な疾患である. 発症後の死亡率は 1 時間ごとに 1 2 % といわれている 2). さらに近年, 典型的解離像である偽腔開存以外に, 早期血栓閉塞型解離の概念が普及した. その両者で, 急性期予後を観察した報告 3)4) がいくつかあるが, いまだ不明な点が多い. そこで, われわれは過去 10 年間に経験した急性大動脈解離の急性期臨床像とその後の予後を観察し分析したので報告する. 対象 方法 1995 年 1 月より2005 年 12 月までに経験した急性大動脈解離連続 92 例 平均年齢 71.6±36.6 歳 (35 93 歳 ), 男性 41 例 を対象に, 患者背景 ( 性別 年齢 ), 入院期 304 心臓 V o l. 4 4 N o. 3 ( 2 0 1 2 )

図 1 血栓閉塞型急性大動脈解離単純 CTにおいて偽腔が三日月状の高濃度域として認められる. 造影 CTでも真腔との交通を認めない. 間, 臨床病型, 合併症, 手術の有無, および予後を検討した. 臨床病型は造影 CTを用いてStanford 分類とDeBakey 分類で行った. 単純 CTにおいて, 凝血塊あるいは血腫によって満たされた偽腔が大動脈壁に沿って長軸方向に広範囲に存在する三日月状の高濃度域として認められる場合を偽腔血栓閉塞型とした ( 図 1). 入院中の合併症としては, 入院時よりさらに 10mm 以上の大動脈径の拡大や大動脈径が50mm 以上, あるいは偽腔の径がさらに 10mm 以上拡大する場合や, 破裂, 再解離 ( 従来の偽腔とは別の部位に新たに解離が出現 ), 再交通 ( 造影 CTで閉塞した偽腔が新たに造影されること ), 臓器虚血徴候 ( 脳血管, 冠動脈, 腹部血管, 四肢血管 ) を検討した. 心タンポナーデについては, 意識レベル低下があり, 心エコー検査で心嚢液の貯留と右心系の拡張期虚脱所見を認め, 頻脈や奇脈, 呼吸困難, 収縮期血圧 90mmHg 以下の低下と収縮期血圧の25% 以下の脈圧の低下が認めら れるものとした. この定義を満たさずにCT 値 40HU 以上の心嚢液を認めた場合を血性心嚢液とした. 手術については当院には心臓血管外科がないためA 型解離については合併症の有無にかかわらず診断の時点で心タンポナーデなどの緊急事態に備えるため他施設への転送を原則にした. 心タンポナーデに陥った場合は心嚢ドレナージ後, 他施設に転送し人工血管置換術が施行された. 発症 3 週間以降の手術を待機手術とした. 慢性期 61 例の平均観察期間は7.8 年 ±7.2 年 (0.6 10.8 年 ) で49 例が自施設で12 例が他施設で治療され, 全例フォローアップされていた. 血圧は, 主にCa 拮抗薬, アンジオテンシン変換酵素 (angiotensin converting enzyme;ace) 阻害薬やアンジオテンシン Ⅱ 受容体拮抗薬とβ 遮断薬のうちの 2 剤併用で120 148/70 86mmHgにコントロ ルされていた. 慢性期予後の後ろ向き研究として施設内学術委員会の了 急性大動脈解離の臨床像と予後 305

図 2 来院時心肺停止となった Stanford A 型血栓閉塞型で, その原因が心タンポナーデと考えられた (64 歳, 男性 ). 解を得た. 年齢や期間は平均値 ± ( 最大値 平均値 ) と ( 平均値 最小値 ) の大きいほう を記載し, 等分散検定を行い, その結果でt 検定を行った. 2 群間の比較は, χ 2 検定 ( 合計例数が 20の場合, または合計例数が 20 40で, 最も小さい期待値が 5 の場合には Fisher の直接確率計算法 ) を用い,p<0.05を有意とした. 結果 性別は, 男性 41 例 (45%) 女性 51 例 (55%) で女性が多かった. 年齢は70 歳以上が58 例 (63%) であり70 歳以上が半数以上を占めた. 男女別の平均年齢は男性 67.9 歳 ±32.9 歳 (35 88 歳 ), 女性 74.3 歳 ±34.3 歳 (40 93 歳 ) で有意に女性が高齢であった (p=0.02). 平均入院期間は 18±102 日 (0 120 日 ) であった. 臨床病型はA 型 49 例 (53%),B 型 43 例 (47%),DeBakey Ⅰ 型 33 例,DeBakey Ⅱ 型 16 例,DeBakey Ⅲa 型 10 例,Ⅲb 型 32 例, 腹部限局 1 例であった.A 型 49 例のうち少なくとも 2 例がDeBakey Ⅲの経過中に逆行性解離を 偽腔開存型 32 例 心タンポナーデ なし 14 例 Stanford A 型 49 例 あり 18 例 (56%) A 6 例 ( 死亡 ) 逆行性解離 2 例 ( 死亡 ) 9 例 ( 死亡 ) 手術 1 例 ( 生存 ) 血栓閉塞型 17 例 心タンポナーデ なし 10 例 あり 7 例 (41%) A 2 例 ( 死亡 ) 1 例 ( 死亡 ) 手術 4 例 ( 生存 ) 図 3 Stanford A 型心タンポナーデ症例の臨床経過 きたした症例であった. 偽腔の開存性については, 偽腔開存型 45 例, 血栓閉塞型 47 例で, ほぼ同割合であった.A 型では偽腔開存型 32 例 (65%), 血栓閉塞型 17 例 (35%) で, 偽腔開存型が多かった.DeBakey 分類ではⅠ 型の偽腔開存型 22 例 (65%), 血栓閉塞型 11 例 (35%) で,Ⅱ 型の 306 心臓 V o l. 4 4 N o. 3 ( 2 0 1 2 )

図 4 心タンポナーデを呈さなかったが, 血性心嚢液を認めた Stanford A 型血栓閉塞型の緊急手術例 (72 歳, 女性 ) 偽腔開存型 10 例 (63%), 血栓閉塞型 6 例 (37%) で同じ傾向であった.B 型では偽腔開存型 13 例 (30%), 血栓閉塞型 30 例 (70%) でA 型とは逆に血栓閉塞型が多かった. 発症後, 来院までは平均 1.2±9.0 時間 (0.5 10.2 時間 ) であった. 8 例は来院時心肺停止 (cardio pulmonary arrest;cpa) の心タンポナーデ例であった ( 図 2). 心タンポナーデ例は25 例で来院時診断ではA 型が 23 例,DeBakey Ⅲの逆行性解離が 2 例であり, 偽腔開存型が18 例で血栓閉塞型が 7 例 ( 図 3 ) であった. 5 例 ( 偽腔開存型 1 例, 血栓閉塞型 4 例 ) は心嚢ドレナージ後に人工血管置換術が施行され救命できた. 心タンポナーデを呈さなかったが血性心嚢液を認めたのは 4 例で, その全例が血栓閉塞型であり, 2 例に人工血管置換術が施行され ( 図 4 ), 2 例が保存的治療で全例生存している. 入院中の合併症として血管径の拡大 2 例, 瘤破裂 5 例, 再解離 1 例, 再交通 2 例 ( 図 5), 脳梗塞 1 例, 急性心筋梗塞 1 例, 腹部臓器虚血 1 例, 下肢虚血 1 例であった. 手術例は22 例で, 1 週間以内が20 例, 3 4 週後が 2 例であった. そのうちA 型 19 例 (39%),B 型 3 例 ( 7 %), 偽腔開存型 15 例 (68%), 血栓閉塞型 7 例 (32%) であった ( 図 6).A 型で手術が施行されなかった30 例 (61%) は, 心タンポナーデで死亡の 20 例 ( 来院時 CPA 8 例, 院内急変 12 例 ) と胸腔内破裂 2 例 ( 死亡 ), 手術を希望されなかった 8 例 ( 生存 ) であった. 死亡例は 6 例 (27%) で, 全例 A 型偽腔開存型で血栓閉塞型に比べると有意に高かった (40% vs 0 % p= 0.049). 全症例の急性期の死亡は 31 例でA 型が28 例を占め, そのうち20 例が心タンポナーデで, 残り11 例は保存的治療中の破裂や内科治療例の多臓器不全, 術後の多臓器不全が死亡原因であった.A 型血栓閉塞型で保存的治療を行った 8 例のうち 1 例が 1 週間後に心タンポナーデで, 1 例が腎不全で死亡した.B 型血栓閉塞型 30 例はすべて保存的治療で, 1 例 ( 3 %) が 10 日後に破裂で死亡した ( 図 7). 生存例 61 例中の慢性期死亡は13 例 (21%) で, 大動脈解離関連の死亡は再解離と破裂の 2 例のみで, そ 急性大動脈解離の臨床像と予後 307

A B 図 5 A:1999 年 3 月上旬 B:1999 年 3 月中旬 Stanford B 型で不完全な血栓閉鎖型で内科治療を行っていたが,10 日後に背部痛が再出現し, 造影 CTで再交通 ( 矢印 ) が疑われた症例 Stanford A 型 49 例 Stanford B 型 43 例 行 30 例 行 40 例 心タンポナーデ 20 例 ( 死亡 ) ( 来院時 A 8 例 ) その 生存 8 例死亡 2 例 行 19 例 (39%) 行 3 例 ( 7 %) 偽腔開存型 12 例 36% 血栓閉塞型 7 例 41% 偽腔開存型 3 例 20% 急 11 例 機 1 例 急 7 例 急 2 例 機 1 例 心タンポナーデ 1 例 ( 生存 ) 心タンポナーデ以 4 例 ( 生存 ) 6 例 ( 死亡 ) 1 例 ( 生存 ) 心タンポナーデ 4 例 ( 生存 ) 血性心嚢液 2 例 ( 生存 ) 瘤径拡大 1 例 ( 生存 ) 瘤破裂 1 例 ( 生存 ) 偽腔拡大 1 例 ( 生存 ) 1 例 ( 生存 ) 図 6 手術症例の転帰 のほかは肺炎 3 例, 悪性腫瘍 3 例, 敗血症 2 例, 脳塞栓 1 例, 急性心筋梗塞 1 例, 消化管出血 1 例, 突然死 1 例, 老衰 1 例であった ( 図 8 ). 考察 1. 性別と年齢急性大動脈解離の臨床像は 1996 年に始まった international registry of acute aortic dissection(irad) にまとめられ 2), 男女比は約 3:1, 平均年齢 63.1 歳, A 型解離が61.2% で多かったと報告されている.70 歳以上の男性は28.6% であったのに対し, 女性は49.6% と約半数を占めている. 本邦の報告 5) でも解離発症時の年齢は65.7 歳で ( 男性 63.7 歳, 女性 69.0 歳 ) で, 女性のほうが高齢である. 男女比は約 1.7:1 で,A 型解離は男性が57.7% であった. 自験例では逆に女性の比率がやや多く (55%), 平均年齢も71.6 歳でやや高齢であり, 女性のほうが男性に比べ 6 歳以上高齢で,80 歳以上の76% は女性であった. 年齢が上昇するにつれて女性の比率が増加する傾向にあるのは IRADの報告と同じである. 日本病理剖検輯報 6) でも急性大動脈解離の発症のピークは男女とも70 歳代で,80 歳代からは女性が多くなっている. 308 心臓 V o l. 4 4 N o. 3 ( 2 0 1 2 )

Stanford A 型 49 例 Stanford B 型 43 例 偽腔開存型 32 例 63% 血栓閉塞型 17 例 37% 偽腔開存型 13 例 30% 血栓閉塞型 30 例 70% 生存 8 例 25% 死亡 24 例 75% 生存 13 例 76% 死亡 4 例 24% 生存 11 例 85% 死亡 2 例 15% 生存 29 例 97% 死亡 1 例 3 % 心タンポナーデ来院時 A 6 例 心タンポナーデ 11 例 その 7 例 心タンポナーデ来院時 A 2 例 心タンポナーデ 1 例 全 1 例 破裂 2 例 破裂 1 例 図 7 急性期予後 Stanford A 型 49 例 Stanford B 型 43 例 死亡 28 例 生存 21 例 死亡 3 例 生存 40 例 偽腔開存型 8 例 血栓閉 型 13 例 偽腔開存型 11 例 血栓閉 型 29 例 生存 6 例 死亡 2 例 生存 10 例 死亡 3 例 生存 9 例 死亡 2 例 生存 21 例 死亡 8 例 血症 2 例 脳塞栓 1 例 肺 1 例 管 血 1 例 肺 1 例再解離 ( 腔 ) 1 例 肺 2 例 性 2 例 急性心筋梗塞 1 例 死 1 例 1 例 破裂 1 例 図 8 慢性期予後 2. 病型臨床病型はA 型が53.3% でIRADや本邦での報告と差はない. 内膜に亀裂を認めず, 偽腔に血流を認めない大動脈解離の存在はTyson 7),Gore 8) の剖検例の報告によって知られていたが,CTでの診断が本邦から報告され 9)10), 臨床的位置づけについての議論が深まってきた 11)12). 中原らは,1986 年以降の359 例のうち血栓閉塞型は 80 例 (22.3%) で, そのうち A 型解離は28 例でA 型解離全体の14.9% であり,B 型解離は52 例でB 型解離全体の30.8% であったと述べている 13). 大動脈解離診療ガ イドラインの多施設の集計でも血栓閉塞型大動脈解離の発生頻度はA 型解離全体の18.6%,B 型解離全体の38.3% と血栓閉塞型の発症は決して稀ではないこと, B 型解離のほうがより頻度が高いことを報告している 12). 急性大動脈解離の中での血栓閉塞型の発生頻度は, 14) 欧米 16) では5.7 22%, 日本 3)17)18) や韓国 19)20) では 32 42% と後者が多い傾向である. この違いの理由として欧米の報告 14) では, 重症例がすでに死亡しているためかもしれないと述べているが, 加地は,CT の普及率の差により比較的偽腔の小さい偽腔閉塞例 急性大動脈解離の臨床像と予後 309

が対象に含まれている可能性があると述べており, 急性期の診断の違いが示唆される 21). 自験例では血栓閉塞型の割合は全体で51% と半数を占めている. これまでの報告と比べると A 型は35% で変わらないが,B 型は70% でその割合が多かった. この理由としては, 女性が多いことと平均年齢がやや高いことが関与しているかもしれない. 3. 心タンポナーデ急性期の合併症で最も問題になるのが心タンボナーデであり, 剖検例の報告では死因の70% が心膜腔への出血によるものであったとされている 8). 自験例でもA 型 49 例のうち25 例 (50%) が心タンポナーデを合併しており, そのうちの 8 例 (32%) が来院時 CPA 例で救命できなかった. 救命できたのは手術が施行された 5 例 (20%) のみで, 残り12 例のうち 6 例は発症時の院内心肺停止で蘇生できず, 6 例は手術を希望しない症例であった. 同様な検討を栗本らが 146 例の A 型解離で行っているが 22),32 例 (21.9%) が術前死でその原因の 87.5% が心タンボナーデで, また手術に持ち込めた101 例のうち55 例 (54.5%) が心タンポナーデ合併例で, 手術例全体の在院死亡率は22.7% で術前ショック例では40.6% で, さらに不良であったと述べている. この結果はわれわれの結果とほぼ同様であった. 4. 治療指針これまでも A 型の内科治療の予後は極めて悪く外科治療の適応であるとされており,IRADのデータ 2) でも内科治療における死亡率は症状から 24 時間で20%, 48 時間で30%, 7 日間で40%, 1 カ月で50% と報告されている. 当院の治療指針もA 型は基本的に手術適応としているが,A 型のうち手術が施行されたのは39% のみで,CPAとなり緊急手術の適応にならなかった22 例 (45%) を除いても手術が施行されたのは 70% で, 本人や家族などの希望で内科的治療を選択した割合が多い結果となった. A 型血栓閉塞型に対する治療指針は欧米と日本, 外科医と内科医で必ずしも意見の一致をみていない. Songらは, 血栓閉塞型は偽腔開存型と比べて, より高齢者が多く大動脈弁閉鎖不全症や脳梗塞などの合併症も少なかったと述べ 23)24), 合併症のない例では初期内科治療を薦めている. 一方でA 型は血栓閉塞型であっても重篤な合併症が進展し, 急速な転帰をとることもあることから, 積極的に早期に手術をすべきとする意見も多い 25)26). 本邦でも多くの施設が初期には内科治療を施行しており 27), 日本循環器学会大動脈解離診療ガイドライン研究班の報告でもA 型血栓閉塞型群の転帰を治療別にみると解離関連事象の発生率に差はなく, 長期予後を生存率でみると内科群で良好な結果がみられたと報告されている 28). 一方で閉塞した偽腔の変化が予測できないことが臨床的に問題となる. 林らは血栓閉塞型 34 例中 4 例が開存型に移行 29), 池田らは 4 例中 3 例に心タンポナーデや再解離で手術を施行したと報告している 30). Kajiらは原則内科治療を施行し, 血栓化した偽腔が増大した例と偽腔開存型へ移行した例に対しては緊急 (24 時間以内 ) あるいは準緊急手術 (2 3 日以内 ) を施行した結果, 院内死亡率は 7 % と低く 5 年生存率も90% と長期予後も良好であったと報告している 31). 自験例ではA 型血栓閉塞型 17 例のうち生存例は13 例で 7 例 (54%) に手術が施行されており死亡例はなかったことから, 積極的な外科治療が予後改善につながるものと考えられる. 解離の経過については大動脈径が50mm 以上 32), あるいは血栓化した偽腔の径が11mm 33) を超える例は内科治療中に解離が進行しやすいとの報告もある一方で, 内田らはA 型偽腔閉塞型の手術に際し術中に偽腔内圧を計測したところ, 偽腔内圧は真腔内圧より低下していたがその程度はさまざまで, 術前の所見からは予測不可能であったと報告している 34). その結果, 破裂や解離の進展拡大といった重大な合併症を予防するためには, 超急性期症例では手術が確実な治療法であると述べている. 現状ではCTや心エコーを用いた綿密な経過観察がその後の手術適応の判断材料になると考えられるが, どのくらいの間隔で検査を施行すべきかなど一定の 310 心臓 V o l. 4 4 N o. 3 ( 2 0 1 2 )

基準はなく, 現時点での外科のない施設での内科的治療は避けるべきと考えられる. 最終的に急性期死亡率はA 型 57%( 来院時 CPAを除くと41%),B 型 7 % でこれまでの報告とほぼ同様である.A 型の死亡例の71% は心タンポナーデであり,29% は来院時 CPA 例であることから,A 型の急性期予後の改善は容易ではない. 来院時 CPA 例を除いたA 型で手術をしなかった22 例の死亡率も64% と高い. 日本胸部外科学会の全国調査では,A 型に対する緊急手術の病院死亡率はここ数年間 13 15% で推移している 35). 今回の手術施行例の死亡率は32% で高いが, 必ずしも死亡例が前半の 5 年間に偏っているわけでもない. 多くが術前にショックや心不全や腎不全を伴っていたことがその要因と考えられるが, 手術拒否例で術前の病態がよい症例の手術が加わわれば死亡率は改善したものと考えられ, 積極的な手術が望まれる. 5. 慢性期予後 A 型生存 21 例中大動脈解離関連死はなく,B 型生存 40 例中 2 例が大動脈解離関連で死亡したのみで,A 型 B 型とも比較的良好であった.Kozaiらは内科治療のみの263 例での 5 年生存率は,A 型では偽腔開存型 33.6%, 血栓閉塞型 85.7% で,B 型では偽腔開存型 64.3%, 血栓閉塞型 90.1% で両方とも偽腔開存型が不良であったと述べている 36). 安達らも267 例のA 型手術例の予後調査で, 5 年生存率は85.4% と良好であり, 手術を乗り切ったA 型の予後は比較的良好と述べており 37),A 型偽腔開存型は急性期の外科的治療が決定的な意味をもっている. 6. 研究の意義と限界心臓血管外科のない施設での急性大動脈解離治療の妥当性を予後との関連で論じた. 限界として後ろ向き試験であることに加えて, 対象症例の53% が1995 2000 年の症例であるため, 治療 ( 特に積極的な外科治療 ) に影響を与えている可能性がある. 今後, 多施 設前向きの症例収集による観察研究が必要である. 結論 急性大動脈解離は, 外科的適応を適切に選択し, 心タンポナーデの危機を乗り越えられれば, その後の予後は比較的良好である. 本論文の要旨は第 47 回日本脈管学会 (2006 年 10 月 21 日神戸 ), 第 104 回日本内科学会講演会 (2007 年 4 月 3 日大阪 ) で発表した. 文献 1)Hirst AE Jr, Johns VJ Jr, Kime SW Jr : Dissecting aneurysm of the aorta : a review of 505 cases. Medicine (Baltimore)1958 ; 37 : 217-279 2)Hagan PG, Nienaber CA, Isselbacher EM, et al : The International Registry of Acute Aortic Dissection (IRAD): new insights into an old disease. JAMA 2000 ; 283 : 897-903 3) 藤岡達雄, 不藤哲郎, 中江出, ほか : 早期偽腔内血栓閉塞を認めた大動脈解離症例の臨床的検討. 心臓 1991; 23:28-33 4) 国原孝, 俣野順, 明神一宏 : 早期閉塞型解離性大動脈瘤の検討. 日胸外会誌 1994;42:852-859 5) 福本仁志 :ERにおける循環器疾患の管理疾患各論 ER における急性大動脈解離の管理. 救急医学 2002;26: 1462-1467 6) 日本病理学会 編 : 日本病理剖検輯報.1998;41-2002; 45 7)Tyson MD : Dissecting Aneurysms. Am J Pathol 1931 ; 7 : 581-604.13 8)Gore I : Pathogenesis of dissecting aneurysm of the aorta. AMA Arch Pathol 1952 ; 53 : 142-153 9) 山田哲久, 高宮誠, 内藤博昭 :X 線 CTによる 内膜非破綻性大動脈解離 の診断. 日本医放会誌 1985;45:699-710 10) 松尾汎, 中島伸之, 安達盛次, ほか : いわゆるThrom- bosed Type 急性大動脈解離の臨床像の検討. 脈管学 1987;27:1088 11) 松尾汎 : 血栓閉塞型大動脈解離. 矢崎義雄, 島田和幸, 井上博, 永井良三 編 : 別冊医学のあゆみ循環器疾患. 東京 ; 医歯薬出版 :1996.p.701-704 12) 増田善昭, 井上寛治, 打田日出夫, ほか : 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (1998-1999 年度合同研究班報告 ) 大動脈解離診療ガイドライン.Jpn Circ J 2000 ; 64(Suppl.V): 1249-1283 13) 中原秀樹, 八丸剛, 渡辺正純, 川口悟 : 循環器症候群 ( 第 2 版 ) その他の循環器疾患を含めて大動脈疾患血栓閉塞型大動脈解離. 日本臨牀 2008( 別冊循環器症候 急性大動脈解離の臨床像と予後 311

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