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図 Ⅱ-1 平成 26 年度 (2014 年度 ) と平成 27 年度 (2015 年度 ) の調査地点の比較 2. 調査結果 2.1 海区別の漂流ごみ種類別の分布密度はじめに, 人工系漂流ごみ ( 人工物 ) と天然系漂流ごみ ( 自然物 ) について, 海区別の密度を比較した ( 図 Ⅱ-2, 図 Ⅱ-3) 今年度の人工系漂流ごみの密度は, 日本海北区の 86.0 個 /km 2 が最も高くなり, 次いで東シナ海区の 82.8 個 /km 2 となった ( 図 Ⅱ-2) 昨年度は, 東シナ海区の 154.4 個 / km 2 が最も高く, 次いで日本海西区, 日本海北区という西高東低の傾向が見られたが, 今年度は北 ( 東 ) よりの方が高くなった また, 昨年度と比較して, 全体的に漂流ごみの量が少なくなる傾向も見られた このように今年度と昨年度で漂流ごみの分布傾向に違いが見られた理由として, 今年度は, 昨年度多数の人工物が観測された奄美大島西方の東シナ海での調査が台風の影響により行えなかったことと, 今年度の調査が昨年よりも岸よりで行われたことによる調査海域のずれが関係していると考えられた 調査レグ ( 区間 ) 毎の分布密度を, 発泡スチロールを例に示すと, 今年度は室戸岬の沖 (123 個 / km 2 ) と津軽海峡の西部 (101 個 / km 2 ) で,100 個 / km 2 を超える高密度なレグが存在した 特に津軽海峡西部の高密度レグに注目すると, この点は今年度 2

の日本海側の調査地点でも特に沖側に位置している 昨年度と今年度の結果を合わせると, 日本海側には対馬海峡の周辺と能登半島の周辺, 津軽海峡の西部に漂流ごみが集まりやすい個所があると推測された また, 人工物は, 昨年同様に今年度も東シナ海区から日本海側の方が, 太平洋側よりも高密度という傾向は変わらなかった 自然物についてみると, 東シナ海区から日本海西区が 75.0~73.7 個 /km 2 と高い密度となった ( 図 Ⅱ-3) 昨年度は, 瀬戸内海区が高かったが, 今年度はむしろ少なかった 東シナ海区から日本海区が高くなった理由として, 今年度の観測ラインが昨年度よりも岸よりであったため, 岸近くの有光層を起源とする流れ藻が多数観測されたものと考えられる 種類別の分布傾向を比較すると, 年度によって大きな差が見られた 特に, 発泡スチロール (2015 年 <2014 年 : 図 Ⅱ-4) や流れ藻 (2015 年 >2014 年 : 図 Ⅱ-5) でその傾向が顕著に見られた 日本周辺は調査を行った夏期は, 主に南寄りの風が卓越している そのため浮上タイプの漂流物は, 海面を漂うタイプの漂流ごみより早く沖合に流されると考えられる すなわち, より沖合中心に調査を行った 2014 年と比較的岸よりを調査した 2015 年で, 発見された漂流ごみの傾向が異なったと考える また, ここで比較する分布密度は, 両年共に調査は夏期に実施された 日本周辺海域は, 夏期は南よりの風が卓越し, 冬季は北寄りの風が卓越する そのため, 風の影響を受けやすい漂流ごみは, 冬季になると岸側に寄せられる可能性が考えられる 季節を変えて調査を行えば, 分布傾向に違いが出てくる可能性がある 今後は, 季節的な変化も考慮しながら調査計画を立てる必要もあると考える 図 Ⅱ-2 人工物の海区別分布密度 ( 左 2015 年, 右 2014 年 ) 3

図 Ⅱ-3 自然物の海区別分布密度 ( 左 2015 年, 右 2014 年 ) 図 Ⅱ-4 発泡スチロールのレグ毎の分布密度 ( 左 2015 年, 右 2014 年 ) 4

図 Ⅱ-5 流れ藻の海区別レグ毎の分布密度 ( 左 2015 年, 右 2014 年 ) Ⅲ. 海表面を浮遊するマイクロ プラスチックスに係る調査 1. 調査目的 本調査では, 昨年度に引き続いて, 東京海洋大の練習船 2 隻運用体制での日本周回航路で採 取を行い, プラスチック微細片の漂流状況を精査した 2. 調査手法昨年度同様に日中で数回の採集を実施した ( 図 Ⅲ-1) 海鷹丸は 7 月 12 日から 8 月 7 日の日本周回航路で 31 測点, 10 月に三陸沖での 2 測点 神鷹丸は第 96 97 次航海に 45 測点 合計 78 測点で観測を実施した 濾水計を装着したニューストンネット ( 気象庁 (JMA) ニューストンネット No.5552: 口径,75cm 角 (0.56m 2 ); 測長 300cm; 網地ニップ, 目合 :350 μm ) を用いて, 原則として 2-3 ノットで 20 分の曳網を行い, マイクロ プラスチックスの採集を行った ( 写真 Ⅲ-1) 必要に応じて FTIR( フーリエ変換赤外分光法 ) で材質判定を行った後, 光学顕微鏡を通してモニタに拡大し, 画像処理ソフトを用いて最大長さを測定した なお, 国際的にはマイクロ プラスチックスを長径が 5mm 以下である微小なプラスチックと定義しているが, これにはプラスチックだけではなく, 発泡スチロール及び糸くずのうち長径が 5mm 以下であるものも含まれる しかし, 本報告書においては, 分析の都合上 3 種類の人工物を合計せず別々に集計し, 分析した このため, 以下 マイクロ プラスチックス という場合には, 特にことわりがない限り, 発泡スチロール及び糸くずは含まない ( 表 Ⅲ-1) 5

図 Ⅲ-1 調査位置 写真 Ⅲ-1 ニューストンネットの曳網風景と, ポリエチレン容器に採取した試料 6

表 Ⅲ-1 調査対象としたプラスチックの呼称とサイズ 形状による分類メソ プラスチック δ>5mm の微細片マイクロ プラスチック 5mm>δ> 数 μm ナノ プラスチック δ< 数 μm マイクロビーズ 1μm~0.1mm の球形 * プラスチック片の大半はポリエチレンとポリプロピレンであった * ここでは 5mm 以下のサイズであっても発泡スチロール及び糸くずは解析に含まない 3. 結果 5mmを下回る大きさで平均した, マイクロ プラスチックスと発泡スチロール, そして糸くずの浮遊密度を表 Ⅲ-2 に示す マイクロ プラスチックスの浮遊密度は, 昨年度調査を基にしたIsobe et al (2015) の 3.74 piece/m 3 と比較すれば, 若干少ない また, 発泡スチロールは昨年調査の 1.2 piece/m 3 と比較すれば, かなり少なくなっている 表 Ⅲ-2 サイズが 5 mm 以下のマイクロ プラスチックス, 発泡スチロール, 糸くずの浮遊密度 * 浮遊濃度が全体平均から著しく離れた場合 ( 平均値からの偏差が標準偏差の三倍を超えた場合 ) 流れ藻等に絡まった大量採集とみなして平均操作から除外した (list.txt には記録 ) 神鷹丸 7 月 26 日 1300(144.9002E, 39.9291N) のマイクロプラスチック濃度 87.2 pieces/m 3 が該当した 種別 密度 (piece/m 3 ) マイクロ プラスチックス 2.4 発泡スチロール 0.20 糸くず 0.06 マイクロ プラスチックス ( 図 Ⅲ-2) はメソ プラスチックスに比べて浮遊密度が高めであるが, 一様な分布ではなく, 海域によって密度に大きな差異が生じている 昨年と同様に日本海北部や九州周辺で高い密度を示す傾向にある メソ プラスチックス ( 図は略 ) は総じて低い値であるが, やはり昨年と同様日本海の南部で高めとなっている 発泡スチロール片 ( 図 Ⅲ-4) は, 明らかに太平洋よりも日本海で高めの数値となった この傾向は糸くず ( 図は略 ) でも同様である 発泡スチロールの浮遊密度が昨年度調査よりも少なくなった原因は, 太平洋側に調査点を増やしたことによるものと考えられる 7

図 Ⅲ-2 マイクロ プラスチックス浮遊密度の空間分布 スケールは右 図 Ⅲ-4 発泡スチロールの浮遊密度の空間分布 スケールは右 2014 年 2015 年の調査を経て 日本周辺海域のマイク プラスチックの分布データの蓄積が 進んできた 一方で 北海道周辺海域のデータ現在までのところ不足している より詳細な分布 傾向を明らかにするためには 今後 北海道周辺海域がカバーすることが望まれる 8

Ⅳ. 沖合海域における海底ごみの調査 1. はじめに海洋中のゴミ問題が注目される中, 平成 26 年度より大型練習船による実習航海の一部を利用した東シナ海における大陸棚上の海底ゴミの実態を調査が行われた その結果, 東シナ海の北緯 30.6 度, 東経 127.0 度の調査点で記録した 81.16kg/km 2 をはじめ, 漁具類をはじめとする多くの人工物の存在を確認した 平成 27 年度は, 常磐沖などで海底ごみの調査を実施し, 継続的なデータの取得を行った 2. 調査概要と方法調査当初は, 東京海洋大学練習船海鷹丸と神鷹丸 ( 東京海洋大学 ) による底引き網調査実習からサンプルを得る予定であったが, これらの航海が台風の影響で一部しか行うことができなかったため, 今年度は南星丸 ( 鹿児島大学 ) 底曳網漁獲物測定実習航海, 忠宝丸 ( 久慈町漁業協同組合 ) 試験操業, いばらき丸 ( 茨城県水産試験場 ) 定期調査航海のうち, いずれも底引き網を用いた調査の中からも海底ごみのサンプリングを行った それぞれの調査実施状況と海域は表 Ⅳ-1 と図 Ⅳ-1 の通りである 今年度は, 台風の影響により東シナ海での調査実施が困難となったため, 常磐沖でのデータ取得が多くを占めることとなった 調査では, トロール網を投入し曳網を開始 ( 着底 ) してから, 網を巻き上げるまでの間 ( 離底まで ) を曳網距離とし,GPS で測位したそれぞれの緯度経度から同距離を算出した 採集した海底ごみは分別したのち, デジタルカメラで撮影するとともに, 種類と大きさ ( 重さと長さ ) を記録し, 底引き網の網口幅の概算値と曳網距離から 調査地点の海底ごみ分布密度を推計した 3. 結果 3-3-1 人工物常磐沖では, 忠宝丸が北緯 36 度 30 分線上で行った沖合 15km から 35km の 3 点で 86kg/km 2 から 101kg/km 2 と高い密度を記録した 一方で, その近くの海域で行った神鷹丸で得られた人工物の密度は 0.79kg/km 2 と忠宝丸と比較するとその量は 1% にも満たなかった さらに常磐沖の南よりでいばらき丸が行った底引き網調査で得られた海底ごみは, 人工物の分布密度は 0.9 kg/km 2 から 27.2kg/km 2 となった ここで最も密度が低かった地点は, 神鷹丸で記録した密度に近く, 最も高かった密度は, 忠宝丸が最も沖合で行った調査で得られた密度に近い値となった これらの密度のばらつきは使用した漁具の採集効率の違いが影響したと考えられる一方で, スポット的に海底ごみが高密度になっている場所があり, それに遭遇すると極端に密度が高くなる可能性も考えられた いずれにせよ, 常磐沖には最高で人工物が 100kg/km 2 を超える箇所があり, これは昨年度の東シナ海の調査で得られた 81kg/km 2 を上回る結果となった 鹿児島周辺では, 薩摩半島の南約 10km で 34.96kg/km 2 を記録し, 鹿児島湾内では 11.61kg/km 2 が最も高い密度となり, 内 9

湾のほうが低い結果となった 今回の調査結果からだけでは, 人工物の分布に関する特徴的な傾 向は見られなかった 3-3-2 自然物常磐沖では, いずれの調査地点でも自然物が人工物の量を上回ることがなかった 最も密度が高かったのは, 北緯 36.53 度, 東経 141.00 度で忠宝丸が記録した 51.4kg/km 2 でその主な構成要素は, 潅木や小枝, 竹などであった 一方で, 鹿児島湾内では, 最高で 280.7kg /km 2 を記録した 常磐沖で採集された自然物は潅木や小枝, 竹などが主であったが, 鹿児島湾内では主に樹木の葉であった 調査地点を岸よりから沖合に向けて調査地点を設けた忠宝丸といばらき丸では, 沖合の密度が最も低かった 潅木や小枝, 樹木の葉などは, 陸岸がその発生起源と考えられる そのため, 自然物が沖合に行くほどその量が減るのは, 発生源から離れていくことが一つの理由と考えられる そして, 鹿児島湾内で大量に枝葉が採集されたのは, 調査海域の周辺に森林が多数あり, この枝葉が流入したのち湾外に流出することなく堆積していたと考えられる 3-4 採集された海底ごみの特徴前年度の東シナ海での調査では, 同海域を使用している漁船から海洋中に投棄または過って流入したと推測される漁具やその他の人工物 ( 漁船の船籍国の文字が印刷されているもの ) が多く見られた 一方で, 今年度の調査で人工物の密度が高かった常磐沖では, 言語表示等から日本製と断定できるものがほとんどであった このことから, これら海底ごみは陸域かこれらの海域で生産活動を行っている日本の漁船が発生起源と考えられた また, 同海域は船舶交通量の多い海域でもあることから, これら船舶から誤って流入した可能性もある 今回の調査で採集された海底ごみは, 製造年月日や賞味期限などからそのものがいつごろから海底にあるかの推定が可能な状態の物も見られた 本調査で採集された海底ごみのうち年代を特定できたもので最も古かったものは, 食品包装用の袋で製造年月日が昭和 56 年 6 月 9 日の物で, 商品名や価格まではっきりと確認できる状態であった 製造年月日や消費期限という点では, 金属類の空き缶でその特定ができたものも多数みられたが, 古くても 2012 年 3 月製造の物であった また, 多くの人工物にイソギンチャクの仲間やフジツボの仲間などの付着生物が宿っているものも多くみられた これらの成長速度が明らかになれば, 採集された海底ごみがどの程度海底などに滞在しているのかを推測することが可能になると考える 4. まとめと今後の課題海底ごみのうち人工物に注目すると, 常磐沖と鹿児島周辺海域 ( 薩摩半島南方沖と鹿児島湾内 ) を比較したところ, 推定された平均密度はそれぞれ 45.2kg/km 2 と 10.4kg/km 2 で大きく異なった 特に常磐沖と鹿児島湾内を比較すると, その違いは 10 倍以上となった 人工物の中でもプラスチック製品に注目すると,132 個中 35 個が, 食品包装や食品トレイなど食料品に関係するものが占めていた これらは人間の生活する上で発生するものである 今回調査を行った海 10

域の近傍の市町村の人口を比較すると常磐沖のひたちなか市が 1,571.89 人 /km 2 で鹿児島湾内の鹿屋市が 231.33 人 /km 2 (2015 年 10 月現在 ) と, その数はひたちなか市の方が約 7 倍多い結果となった この結果は, 沿岸の人口密度と人工物の海底ごみの量には相関がみられることを示唆している可能性があると考えられるが 今回は 2 か所のみでの比較となっているため, 今後調査地点を変えて引き続き同様の比較検証を行っていく必要があると考えられる また, 今回の調査では,35 年前の賞味期限が印刷された菓子パンの袋が採集された このように海底には数十年前からの陸域からのごみが蓄積し続けていることが確認された 海底ごみは, 紫外線や風雨にさらされる海岸の漂着ごみなどと違い, 安定した水温と暗所にあるため比較的良好な状態で残っていると考えられる 今年度の調査では, 食品包装では 7 点, 缶類では 10 点で日付情報を得ることができた また, 海底ごみにはイソギンチャクの仲間やフジツボなどの貝類の付着も見られた このような付着生物のサイズや個体数などは, ごみの海底での滞在期間を知る手掛かりになると考えられ, 海底へのごみの流入の経時的な変化の検証にも資することが期待されるため 今後はこうした情報を蓄積していくことも重要だと考えられる 11

図 7 常磐沖の海底ごみ分布密度 (kg/km 2 ) 12

図 8 鹿児島周辺の海底ごみ分布密度 (kg/km 2 ) 13