第 4 章ふく射伝熱 ふく射伝熱の基礎 1 は, 物体から, あらゆる波長で放射されるである. その中でも熱や光として検出される波長領域 ( およそ 0.38 m から 100 m ) は特に (thermal radiation) といわれる. この電磁波により熱エネルギーが輸送される伝熱形態を (radiative heat transfer) という 高温物体 電磁波 電磁波 低温物体 熱ふく射 温度に応じて振動する原子や分子から放射されるふく射 ふく射伝熱の基礎 ふく射は, 空間を光速 c (m /s) で伝ぱし, 通常の可視光と同様, 図に示すように, 物体により反射, あるいは吸収される. ガラスを含むセラミックスなどでは, 表面から比較的深くまで到達, あるいは透過する. (reflectivity), (absorptivity), (transmissivity) の間には の関係がある 金属などの不透明物体では, ふく射はその表面でのみ吸収や反射が行われ, 透過することはない. したがって, ふく射伝熱においては表面温度のみに着目すればよい. にはである. ふく射の反射, 透過, 吸収 1
ふく射と放射 3 物体からの放射電磁波や物体で反射された電磁波のエネルギーをまたはという. 表に示すように, 後者のradiationに対して という用語を使うとき, 前者のemissionは ということに注意する ふく射の用語 radiation ふく射放射 emission 放射射出 第 4 章ふく射伝熱 黒体放射 4 物体に到達するふく射を全て吸収し内部エネルギーに変換する仮想的な物体 を (blackbody) という 黒体は T [K] の黒体が単位面積当たりに放射する電磁波の強度である (blackbody emissive power) E b [W/m ] は次式で表される ここで で標記することに注意する これを という 4 [W/(m K )] はであり 次式で与えられる (Stefan-Boltzmann constant) ここで : (Plank constant), : (Boltzmann constant), :
黒体放射 5 温度 T (K) の黒体面から, 波長 と d の微小波長帯で放射される (spectral emissive power) Eb (W /(m m)) は 次式ので表される. 図の破線で示すように, 単色放射能の最大値を与える波長は, 温度の上昇とともに短波長側へ移動する. すなわち, これを という この関係は次式で近似される 各絶対温度の黒体から放射されるふく射の単色放射能 ( プランク分布 ) 第 4 章ふく射伝熱 6 例 4.5 太陽エネルギー ( 1kW/m ) が黒体面の屋根 ( 4m 8m ) に降り注いでいるものとする. 屋根温度が80 のとき, 正味として, 屋根が受けとるエネルギー量はいくらか. ここで, 対流による放熱は無視する. 太陽エネルギーを受ける黒体面屋根 3
第 4 章例題 7 解 4.5 太陽から屋根に入射するふく射エネルギーは である. 一方, 屋根から放射されるふく射エネルギーは である. したがって, その差し引きけ取ることとなる. を屋根が正味として受 第 4 章ふく射伝熱 黒体放射分率 8 全波長にわたって放射されるふく射エネルギーに対して, 波長からの波長帯で放射されるふく射エネルギーの割合を黒体放射分率という. 全ての黒体温度について波長帯における黒体放射分率は以下の式で表される. 1.0 F 任意の温度および波長について波長帯 0 T に含まれるふく射エネルギーの割合 F0 T ( T) は次式で表される その値を図に示している ò E dl 3 15 x ( ) ò dx x exp( x) -1 bl 0 0- lt lt = = 4 Eb ldl p ò0 l 黒体放放射分率 F 0-λT 0.8 0.6 0.4 0. 0 10 3 5 10 3 10 4 λt,μm K 波長帯 0 T の黒体放射分率 5 10 4 4
第 4 章例題 9 例 4.6 製鉄所の転炉内部で溶融した鉄 ( 銑鉄 ) の温度は約 000Kであった. 転炉出口を黒体面とみなしたとき, 13μm の近赤外領域に含まれるふく射エネルギーは, 放射する総エネルギーのおよそ何 % に相当するか. また, 可視光の波長帯 0.38~0.77 μm に含まれるふく射エネルギーについてはどうか. 転炉内部の模式図 第 4 章ふく射伝熱 10 解 4.6 波長帯 0 1μm に含まれるふく射エネルギーの割合は, であるから, 図または式より667% 6.67% となる 一方, 波長帯 0~3μm に含まれるふく射エネル ギーの割合は, 1.0 であるから, である. したがって, 13μm の近赤外領域に含まれる割合はその差し引きとしてとなる. また, 0.38~0.77 μm については同様に, となる. 黒体放射射分率 F 0-λT 0.8 0.6 0.4 0. 0 10 3 5 10 3 10 4 λt,μm K 5 10 4 5
第 4 章ふく射伝熱 実在面のふく射特性とキルヒホッフの法則 11 温度 T (K) の E (, T) とその温度における E (, T) との比 b を (spectral emissivity) という. 波長のふく射が実在面に入射したとき 面が吸収する割合を という 単色放射率と単色吸収率は次式の関係がある これを単色放射率と単色吸収率に関するという 黒体面, 実在面, 灰色面 図に示すように放射率が波長に依存しないものをあるいはという. 実在面のふく射特性 1 温度 T (K) の E( T) とその温度における Eb( T) との比 をという. 単色放射率から次式で放射率 が導かれる エネルギーの保存則より (1- 反射率 )= 吸収率だから 入射ふく射の全エネルギーに対して全吸収率もしくは吸収率 が定義される しかし 吸収率は入射ふく射の波長に依存するため 入射波長が物体と同じ温度の黒体放射以外では 一般には下記の全放射率と全吸収率に対するキルヒホッフの法則は成り立たない 灰色体の単色放射率は波長に依存しないので上式が成り立つ. 6
第 4 章ふく射伝熱 13 図は, 代表的な物体表面の常温における放射率の概略値を示したものである. 金属蒸着面のように清浄な金属面の放射率は小さい. 酸化物など, 電気伝導の小さい誘電体は, 放射率が大きい. 特に, 生体物質など水を多く含む物体は, 物体の色によらず 1 に近い放射率を示す. 代表的物質の常温における放射率の概略値 実在面のふく射特性 14 表は 物体の太陽光に対する全吸収率と常温近傍の全放射率を示している 白色塗料は太陽光の波長域 ( 0. 3 m ) での吸収率は小さいが 常温付近 ( 3 0m ) ではほぼ黒体として扱うことができる 水 ガラス 多くのセラミックス 人の皮膚などは 俗に遠赤外線といわれている長波長域の赤外線に対して良好な放射 吸収体である 7
第 4 章ふく射伝熱 灰色物体面間のふく射伝熱 15 物体面の放射率が波長に依存しないの場合 ふく射伝熱量が比較的簡単に計算できる このとき 物体面の温度は一様で 物体面間の空間によるふく射の吸収はないものとする 図に示すように 温度 T 1 凹面を含まない面積 A1 放射率 1 の物体 1が温度 T の黒体面 で覆われている場合 または 温度が等しく 物体面 1からへのふく射伝熱量は次式となる 灰色物体間のふく射伝熱 16 図 (a) に示すように 面積が等しく間隔に比べて十分広い平行 平面間を考える 灰色面 1はその表面からふく射を放射するだけでなく 面 から入射するふく射を一部反射する そのエネルギー収支を考慮すると は次式となる 図 (b) に示すように 半径に比べて十分に長いは (a) つの灰色平面におけるふく射伝熱 (b) 十分長い同心二重円管 図 (c) に示すようなは (c) 同心二重球殻 8
第 4 章ふく射伝熱 平面間にふく射シールドを挿入した場合平行 平面の間に図 (a) に示すような 面 1から への放射伝熱量は 17 (a) w 図 (b) に示すように 面 1との放射率がで 放射率 s のの放射伝熱量は 多重のふく射シールドは極低温流体の貯蔵タンクの真空断熱に使用されている (b) 第 4 章例題 18 例 4.10 図に示されるような平行な無限 灰色平面がそれぞれ温度 T1 600 K, T 300 K に保たれ, 放射率がそれぞれ, 1 0.8 0.5 であるとき, 平面 1からへの正味のふく射熱流束 Q A を求めよ. 1/ 解 4.10 平行平面間のふく射伝熱式より つの灰色平面におけるふく射伝熱 9
第 4 章ふく射伝熱 形態係数 を解析する場合 形態係数が用いられる 面 i から面 j への (configuration factor, view factor) は F ij, 19 図に示す面が 面内の微小要素の積分として 形態係数は次式で表される N 個の面要素で閉空間を構成する系を考える 面要素から放射出されるふく射はいずれかの面要素に到達するから 次式の成り立つ 形態係数の定義式よりが導かれる 形態係数 0 幾何学的に単純な形状については形態係数が解析的に求められている ここでは 代表的な例を示している 近年では やを用いて任意形状の形態係数がコンピュータで計算できる 1 F X X 4 R1 1 r R h r R h 1 1 R 1 R X 1 R 1 10
第 4 章例題 1 例 4.9 図 4.15に示されるような, 軸方向に無限長さの同軸 重円筒において, 半径 r 1 の円筒外表面と半径 r の円筒内表面とのふく射熱交換における形態係数 F F と, あるいは自己形態係数 F とを求めよ. 1 1 11 F F 解 4.9 半径 r 1 の表面から放射されたふく 射エネルギーは, 無限長さの 重円筒で あることから, 必ず半径 r の円筒表面に 達する. したがって, である. より, であるから, F11 0 である. また, より である. 最後に, F F より, となる. 1 1 半径との同軸 重円筒におけるふく射熱交換 第 4 章ふく射伝熱 灰色多面要素間のふく射伝熱図に示すように N 個の灰色 拡散面要素 i ( i 1,... N) で閉空間を構成する系を考える 面 i に入射するすべての単位面積当たりのふく射エネル ギー つまり (irradiation) をG i [W/m ] とする G i G の反射成分 G 4 i i と 面からの放射能 TT とを加えた単位面積当りの i i 放射エネルギー量が (radiosity) J i [W/m ] である 灰色 拡散面では キルヒホッフの法則からであることを考慮して 射度は次式で表わされる 面 i の単位面積当たりの加熱量をとすると 図に示すエネルギー収支から 面 i のふく射熱流 束 [W/m ] が 次式で得られる q i 面 i のは次式となる ただし 面に入射する熱量を正としている N 個の面で構成される系の外来照射量 G と射度 J との関係 i i 11
灰色多要素間のふく射伝熱 3 N 個の面で構成される系について 問題を定式化するために以下の変数を導入し 面要素間の伝熱量を求める 図を参照して射度とふく射熱流束の関係から次式が導かれる N 個の面で構成される系の外来照射量 G と射度 J との関係 {(1 - ei) Fi, j },{ eif, } D i j の転置行列をそれぞれ, A F F とし 各伝熱量 [W] の列ベクトルを Q とする 上式より QJ を消去することによって 放射伝熱量 Q X が次式で計算できる I -1 ここで は単位行列であり ( ) は逆行列を表わす 上式の行列式は 面要素の形態係数と射出率のみの関数として表わされる i i Q i 第 4 章ふく射伝熱 4 自動車用コネクティングロッドをヒータで加熱したときの伝熱モデル コンロッドは 788 多角形要素 ヒーターは1600の要素で構成されている コネクティングロッド表面の温度分布 1
任意形状物体のふく射伝熱 5 シリコン単結晶成長装置のふく射伝熱モデル シリコン結晶と融液表面の温度分布 第 4 章ふく射伝熱 6 表面温度分布 ニードルアイシリコン単結晶成長装置の伝熱解析モデル 熱伝導による内部の温度分布 13
ガスふく射 第 4 章ふく射伝熱 気体は図に示された炭酸ガスの吸収率に代表されるように, 特定の波長領域でのみ吸収が生ずる, を示す. これらをという. このように気体ではこれらの波長のふく射が入射するときに限り吸収され射す, 逆に気体の温度が上昇するとこの波長のふく射のみが放射されることになる. 7 ガスの放射率や吸収率は, 吸収係数, 波長選択性 ( 吸収帯 ), ガスの厚み, ふく射の吸収や放射に関与するガスの濃度 ( 分圧 ), さらに吸収率については入射ふく射の波長特性, 放射についてはガス温度に依存する. 窒素や酸素 水素等の 炭酸ガス ( 厚さ 0.388m) の吸収率 ガスふく射 8 下図に示す ホッテル (H.C.Hottel) らによって得られたが利用できる 図は G( ag ) を それぞれのガスについて, 分圧 pco, pho とふく射が通過する距離 R の積をパラメーターとして, ガス温度を横軸に整理したものである. ガス塊の代表長さ ガス分圧 温度が与えられると 次式でガス塊からのふく射熱流束が推定できる 炭酸ガスの指向放射率 水蒸気の指向放射率 14
第 4 章例題 9 例題 温度 840 で水蒸気を 5% 含む 1 気圧の空気が直径 6m の半球状の加熱炉内に充満している この炉床の中央における高温空気からのふく射熱流束を推定せよ ただし 炉壁温度は十分低く 壁からのふく射伝熱は無視できる 解 水蒸気の分圧は0.05 気圧であるから 距離と圧力のパラメータは である 温度 TG 840 73 1113 K におけるホッテルのチャートでは G 0.15 が得られる ガスによるふく射熱流束は となる da1 TG 1113 [ K] R 3m 一般の形状では としてガスからのふく射熱量を大まかに見積もることができる 火炉のふく射伝熱 30 例題 ( 液化天然ガス ) 火力発電所のボイラについて, 火炉壁と燃焼ガス間の伝熱量を計算してみよう. 火炉内の燃焼ガスの温度は T g 1600K, 水を加熱する蒸発管が配置された火炉壁温度は T w 60 K とし, その壁面の放射率は w 1 である. また, 天然ガスはメタンとし,1 気圧下で空気と理論混合比で燃焼している参考書 伝熱工学 例題 8.6 出力 60 万 kw の LNG 発電ボイラ 等温ガス塊による火炉内ふく射伝熱モデル 15
第 4 章ふく射伝熱 31 解法 反応後のガスのモル比から, 二酸化炭素と水蒸気の分圧はそれぞれ 火炉モデルの表面積と体積はそれぞれ pco 0.09atm, p HO 0.18atm であ る. ガス体の代表長さは A 500 m, 3 V 7000 m となるから ガス体の有 効長さは 4V R 11.m A 水蒸気と二酸化炭素で pco R 1.0atm m, p HOR.0atm m となるから ホッテルのチャートから ガスの放射率は CO 0.15, HO 0.30 燃焼ガス塊の放射率は g cco となる CO c HOHO 0.48 ここで c はガスの補正係数で c 1, c 1.1 である CO H O 最終的に火炉のふく射伝熱量は以下のように見積もられる Q A T T 4 4 ( g g w w ) 45 MW 実在火炉のふく射伝熱 3 炉内の二酸化炭素濃度を変化させたときの炉壁への熱流束分布 微粉炭燃焼発電所の実用火炉のふく射伝熱モデル 16
第 4 章ふく射伝熱 33 雲のふく射伝熱モデル Clear air elements 450m 600m Cloud elements Boundary elements 雲のふく射伝熱 34 Cross-sectional distribution of the heat generation rate the wavelength of (0.3-66.7mm). Cross-sectional distribution of the heat generation rate the wavelength of (4.0-66.7mm). Cross-sectional distribution of the heat generation rate the wavelength of (0.3-4.0mm). Heat Generation Rate due to Radiative Heat Transfer 3D radiative heat transfer in a cloud with smooth curved surface elements Nishikawa, Maruyama, and Sakai, J. Atmospheric Science, (004 ) 17
第 4 章 ふく射伝熱 35 第 4 章おわり 第 4 章ふく射伝熱 36 18