名称未設定

Similar documents
Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

2013_ここからセンター_発達障害

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

平成14年度研究報告

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

medicaljournal8.pdf

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

TRANSPORTSOME NEWSLETTER

Ⅰ 向精神薬の合理的な用い方 ④ 3 理学的および生化学的検査 身長 体重 体温 脈拍 血圧などの測定とともに 心電図およ び血液生化学的検査を施行し生体の病的状態の有無を評価してお く 脳波 CT MRI SPECT PET NIRS 等も必要に応じて施行 する 2 薬物療法の実際 ① 適切な薬剤

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典


用法 用量 発作性夜間ヘモグロビン尿症における溶血抑制 mg mg mg mg kg 30kg 40kg 20kg 30kg 10kg 20kg 5kg 10kg 1900mg mg mg mg

wslist01


計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン


9:

オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

Slide 1

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

神経発達障害診療ノート

DSM A A A 1 1 A A p A A A A A 15 64

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

研究成果報告書

統合失調症に関連する遺伝子変異を 22q11.2 欠失領域の RTN4R 遺伝子に世界で初めて同定 ポイント 統合失調症発症の最大のリスクである 22q11.2 欠失領域に含まれる神経発達障害関連遺伝子 RTN4R に存在する稀な一塩基変異が 統計学的に統合失調症の発症に関与することを確認しました

研究から医療へ より医療への実利用が近いもの ゲノム医療研究推進ワーキンググループ報告書 (AMED) 臨床ゲノム情報統合データベース公募 対象疾患の考え方の方向性 第 1 グループ ( 主に を目指す ) 医療への実利用が近い疾患 領域の着実な推進 単一遺伝子疾患 希少疾患 難病 ( 生殖細胞系列

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

Untitled

図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

研究の内容 結果本研究ではまず 日本人のクロザピン誘発性無顆粒球症 顆粒球減少症患者群 50 人と日本人正常対照者群 2905 人について全ゲノム関連解析を行いました DNAマイクロアレイを用いて 約 90 万個の一塩基多型 (SNP) 6 を決定し 個々の関連を検討しました その結果 有意水準を超

/‚“1/ŒxŒ{‚×›î’æ’¶

商談会案件編集要領 (案)

NIRS は安価かつ低侵襲に脳活動を測定することが可能な検査で 統合失調症の精神病症状との関連が示唆されてきました そこで NIRS で測定される脳活動が tdcs による統合失調症の症状変化を予測し得るという仮説を立てました そして治療介入の予測における NIRS の活用にもつながると考えられまし

Microsoft Word - 修正の経緯 docx

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

第6号-2/8)最前線(大矢)

Microsoft Word _02,final,0611

表紙.indd

シトリン欠損症説明簡単患者用

PR映画-1

II III I ~ 2 ~

中堅中小企業向け秘密保持マニュアル


- 2 -



1 (1) (2)

汎発性膿庖性乾癬の解明

新規 P2X4 受容体アンタゴニスト NCP-916 の鎮痛作用と薬物動態に関する検討 ( 分野名 : ライフイノベーション分野 ) ( 学籍番号 )3PS1333S ( 氏名 ) 小川亨 序論 神経障害性疼痛とは, 体性感覚神経系の損傷や疾患によって引き起こされる痛みと定義され, 自発痛やアロディ

PowerPoint プレゼンテーション

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

研究成果報告書

日本内科学会雑誌第98巻第12号

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

英和対照表


Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり


Database Center for Life Science Online Service

平成24年7月x日

「飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見」【岡澤均 教授】

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

創薬に繋がる V-ATPase の構造 機能の解明 Towards structure-based design of novel inhibitors for V-ATPase 京都大学医学研究科 / 理化学研究所 SSBC 村田武士 < 要旨 > V-ATPase は 真核生物の空胞系膜に存在す

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

介護者を悩ませる AD の BPSD は予測できるのか? オーダーメード医療 ( 介護 ) のために若年性 ADの臨床経験から 現状の抗精神病薬使用では 副作用予測も難しい中核症状の進行が早く さらに初期から妄想 易怒性などのBPSDが出現抗認知症薬の精神神経系 消化器系 介護負担が大きく 通院が困

, , & 18

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

ごあいさつ バイオシミラーの課題 バイオ医薬品は 20 世紀後半に開発されて以来 癌や血液疾患 自己免疫疾患等多くの難治性疾患に卓抜した治療効果を示し また一般にベネフィット リスク評価が高いと言われています しかしその一方で しばしば高額となる薬剤費用が 患者の経済的負担や社会保障費の増大に繋がる

関節リウマチ ( RA) 治療薬の効果評価法と応答性の個人差に関する 遺伝要因の検討 Studies on Scoring Methods of Drug E fficac y and G enetic Factors Associat ed with Inter-p atient Variab i

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

スライド 1

Microsoft Word - 日本語解説.doc

Microsoft Word - プレスリリース(EBioMed)180612_final.docx

精神障害者

2007 Vol.56 No.6 総説 丸山浩樹

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

Taro13-ADHDガイドブック最終

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

Generation of neural cells from embryonic stem cells Database Center for Life Science Online Service Takuya Yohei Okada Takahito Hideyuki Shimazaki Yo

プロジェクト概要 ー ヒト全遺伝子 データベース(H-InvDB)の概要と進展

【藤田】統合失調症リリース 1001_理研修正181002_理研2

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

Microsoft Word - 熊本大学プレスリリース_final

2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

第四問 : パーキンソン病で問題となる運動障害の症状について 以下の ( 言葉を記入してください ) に当てはまる 症状 特徴 手や足がふるえる パーキンソン病において最初に気づくことの多い症状 筋肉がこわばる( 筋肉が固くなる ) 関節を動かすと 歯車のように カクカク と軋む 全ての動きが遅くな

使用上の注意 1. 慎重投与 ( 次の患者には慎重に投与すること ) 1 2X X 重要な基本的注意 1TNF 2TNF TNF 3 X - CT X 4TNFB HBsHBcHBs B B B B 5 6TNF 7 8dsDNA d

統合失調症の病名変更が新聞報道に与えた影響過去約 30 年の網羅的な調査 1. 発表者 : 小池進介 ( 東京大学学生相談ネットワーク本部 / 保健 健康推進本部講師 ) 2. 発表のポイント : 過去約 30 年間の新聞記事 2,200 万件の調査から 病名を 精神分裂病 から 統合失調症 に変更

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 椎間板ヘルニアの新たな原因遺伝子 THBS2 と MMP9 を発見 - 腰痛 坐骨神経痛の病因解明に向けての新たな一歩 - 骨 関節の疾患の中で最も発症頻度が高く 生涯罹患率が 80% にも達する 椎間板ヘルニア

, , & 18


プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄

薬剤師扉ol

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word doc

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

Transcription:

1) Sato T, Oyake M, Nakamura K, et al. Transgenic mice harboring a full-length human mutant DRPLA gene exhibit age-dependent intergenerational and somatic instabilities of CAG repeats comparable with those in DRPLA patients. Hum. Mol. Genet. 8: 99-106, 1999. 2) Sakai K, Yamada M, Sato T, et al. Neuronal atrophy and synaptic alteration in a mouse model of dentatorubral-pallidoluysian atrophy. Brain 129: 2353-2362, 2006. 3) Sato T, Miura M, Yamada M, et al. Severe neurological phenotypes of Q129 DRPLA transgenic mice serendipitously created by en masse expansion of CAG repeats in Q76 DRPLA mice. Hum. Mol. Genet. 18: 723-736, 2009.

1) Bauer PO, Nukina N. The pathogenic mechanisms of polyglutamine diseases and current therapeutic strategies. J Neurochem. 110:1737-65, 2009. 2) Wong HK et al. Hum Mol Genet 17:3223-35, 2008. 3) Yamanaka T et al. EMBO J 27:827-39, 2008. 4) Bauer PO et al. Nat Biotechnol. 28:256-263, 2010.

1) Furuta M, Kunugi H: Animal models for sdhizophrenia: a brief overview. In: Biomarkers for Psychiatric Disorders (ed. by Turck CW), Springer, New York, pp163-184, 2008.

ENU ミュータジェネシスによる注意欠如 多動性障害 (AD/HD) モデル マウスの開発 理化学研究所バイオリソースセンター マウス表現型解析開発チーム古瀬民生 若菜茂晴 注意欠如多動性障害 (Attention Deficit/Hyperactive Disorder AD/HD は 発達段階に不相応な注意力障害 衝動性 多動性を特徴とする行動障害である この行動障害の発症に関しては 遺伝的要因の強い関与が知られているが その機序に関してはモノアミン系の異常を主とした複数の仮説が提案されているものの現在のところ明らかになっていない また 本障害の遺伝的要因は多因子疾患である事が知られており 多様な遺伝的モデル動物が必要であると考えられる 我々は理研 ENU ミュータジェネシスプログラム 1) において精神疾患 発達障害のモデルマウスとして行動異常を示すモデルマウスのスクリーニングを行うとともに 表現型異常の責任遺伝子の同定を行ってきた さらに我々は プログラムにおいて作出された行動変異体の詳細な表現型解析を行ない 精神疾患および発達障害モデルとしての評価を行なった 本シンポジウムにおいて この 上記の変異マウスの中で AD/HD モデルとなることが期待される変異マウスについて報告する また 一連の ENU ミュータジェネシスで開発した精神疾患モデル候補についても紹介したい 参考文献 1) Furuse T, Wada Y, Hattori K, Yamada I, Kushida T, Shibukawa Y, Masuya H, Kaneda H, Miura I, Seno N, Kanda T, Hirose R, Toki S, Nakanishi K, Kobayashi K, Sezutsu H, Gondo Y, Noda T, Yuasa S, Wakana S. (2010) Phenotypic characterization of a new Grin1 mutant mouse generated by ENU mutagenesis. Eur J Neurosci. 31(7):1281-91, 2010.

1) Nakatani et al, Cell 137:1235-1246, 2009. 2) Takumi. Brain Dev, in press.

統合失調症治療薬の開発と動物モデル 大塚製薬株式会社 Qs 研究所アリピプラゾールグループ廣瀬毅 二村隆史 統合失調症は陽性症状 陰性症状 認知機能障害 感情障害の大きく 4 つの症候論的次元を持つ複雑な精神疾患である 近年の分子生物学的手法や遺伝学の進歩により 病態関連遺伝子候補やその関連酵素などの同定がなされ 分子機構や成因などの解明が進んではいるが どれもが決定的な結論を得ておらず依然として病因は不明である 統合失調症薬物治療の端緒は 1952 年のクロルプロマジンの精神病治療効果の発見であるが その後の治療は現在に至るまでドパミン受容体を中心とした薬物 受容体反応に基づく対症療法に終始してきた 現在臨床使用されている治療薬は殆ど全てドパミン神経伝達を遮断する作用を持っており 陽性症状に対する治療効果を示すことから 神経薬理学的側面においては統合失調症の病因の一部にドパミン神経伝達の異常が関与するという点は現在最も広く受け入れられている理解であろう さて こうした統合失調症を治療する新薬を開発する上で利用される動物モデルとはどのようなものであろうか? 一般的に新薬開発のステップには以下のようなフローが考えられる 1コンセプト決定 ( 作用機序の特定を含む または含まない ) 2コンセプトバリデーション 3 スクリーニングフローの検討 4 化合物のスクリーニング 5 候補化合物選定 6 短期毒性評価 7 前臨床試験 (GLP 毒性試験 代謝試験 製剤検討 ) 8Phase I 試験 ( 安全性評価 : ヒト ) 9Phase II( コンセプトバリデーション : ヒト ) 10Phase III( 大規模検証試験 ) これらのハードルを全てクリアしなければ新薬とはなり得ないが 基礎開発段階でその開発化合物が真に対象疾患に有効かどうかを予測するために しばしば疾患特異的な病態モデルが利用される しかし 統合失調症の病態を反映する疾患特異的な動物モデルは依然として確立されていない 従って 比較的距離が近いと考えられる薬理学的側面での仮説を基にした薬原性統合失調症モデルや 現在判明しつつある遺伝因子の異常を反映した遺伝子改変 ( 又はノックアウト ) 動物モデル もしくは発達障害仮説に基づくモデルなどにおける評価のいずれかを組み合わせて 設定した薬理作用プロフィールで目的の治療効果を発揮するか慎重に見極めて臨床での評価を待つということになる 各種動物モデルの薬効評価における最終的なパラメーターとしては その動物が示す行動異常を評価することが一般的である こうしたモデルを用いた行動評価の手法はその目的に応じて様々に開発されているが 基本的には自発的もしくは課題付加により変容した動物の行動量を指標にしている点は共通している その理由として統合失調症の病態を反映する生化学的マーカーが特定されていないという点がある また 統合失調症との生物学的な相同性を利用したパラメーターを評価する試験法もある 講演では陽性症状 認知機能障害などの各症状に関連した動物モデルの背景と特徴を紹介しながら 治療薬開発との関わりについて言及したい 参考文献 1) Clin Schizophr Relat Psychoses. 4(2): 124-37, 2010. 2) Curr Opin Psychiatry. 22(2): 154-60, 2009. 3) British Journal of Pharmacology 159(2): 285 303, 2010. 4) World J Biol Psychiatry. 10(4 Pt 3): 778-97, 2009. 5) Drug Discov Today. 15(3-4): 137-41, 2010. 6) International Review of 41 Neurobiology 78: 41-68, 2007. 7) Psychopharmacology 206: 551 561, 2009. 8) Schizophrenia Bulletin 35(3): 528 548, 2009. 9) Neuropsychopharmacology. 33(9): 2061 2079, 2008.