6章 ランゲルハンス細胞組織球症 LCH

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6 章 ランゲルハンス細胞組織球症 LCH クリニカルクエスチョン一覧 CQ 1 CQ 2 CQ 3 小児 LCH の治療方針の決定に必要な検査と分類は何か 単一臓器型 LCH の標準的治療は何か多臓器型 LCH の標準的治療は何か

112 ランゲルハンス細胞組織球症 LCH Ⅰ はじめに ランゲルハンス細胞組織球症 (Langerhans cell histiocytosis:lch) は未熟樹状細胞の形質を持つランゲルハンス細胞が, 皮膚や骨, リンパ節, 肝臓, 脾臓, 肺, 造血器, 頭蓋内など様々な臓器で異常に増殖し組織破壊を来す疾患である 炎症と腫瘍の性格を併せ持ち, 炎症性骨髄性腫瘍 という概念が提唱されている 歴史的には, 好酸球性肉芽腫,Hand-Schüller-Christian 病,Letterer-Siwe 病の 3 疾患が統合され LCH と呼ばれ, 現在の分類では, それぞれ単一臓器型, リスク臓器陰性多臓器型, リスク臓器陽性多臓器型に相当する 3 歳以下の乳幼児に多いが, 成人も含め全年齢に発症する 日本では年間数十例の新規小児例があると推計される 症状は, 発熱, 皮疹, 中耳炎, 骨痛, 軟部組織腫脹, 呼吸不全, 黄疸, 貧血, 出血傾向, 運動障害など多彩である 単一臓器型で単独病変の場合には自然治癒することもあるが, 多臓器型では抗がん剤による治療が必須である リスク臓器陽性多臓器型で初期治療に反応しない急速進行例では半数が死亡するが, そのほかの病型では死亡することはまれである しかし, 一旦症状が改善しても再燃することがしばしばあり, 慢性に経過することが多い 多臓器型の約半数に尿崩症などの内分泌障害, 骨欠損などの整形外科的障害, 気胸などの呼吸障害, 閉塞性黄疸などの肝障害, 小脳失調などの中枢神経障害など様々な不可逆的病変を残す

CQ1 113 Ⅱ クリニカルクエスチョン CQ1 小児 LCH の治療方針の決定に必要な検査と分類は何か 背景ランゲルハンス細胞組織球症 (Langerhans cell histiocytosis:lch) に特異的な生物学的マーカーはなく, 組織所見により診断される 単一臓器型 (single-system) と多臓器型 (multi-system) に分類され, 単一臓器型は単独病変と多病変型に, 多臓器型はリスク臓器陰性型と陽性型に分けられる 病型により治療と予後が異なるため, 治療開始前に病型を決定することが重要である 1, 2) 推奨 1 診断は生検組織による病理学的検索により行う 推奨グレード ( 推奨度 エビデンスレベル ):1A ランゲルハンス細胞組織球症LCH6 生検組織による病理学的検索が必須である 組織生検では, 最も非侵襲的に組織が得られる病変部位を選択する 皮疹の生検が最も容易であるが, そのほか骨, 軟部腫瘤, リンパ節などが生検の対象となる 開放生検により十分な組織を得ることが望ましいが, 生検が困難な部位の場合には, 針生検でもやむを得ない 組織診断は WHO 分類 2008 年版 3) に準拠する HE 染色によりランゲルハンス細胞型組織球の集簇を認め, 免疫染色によりその組織球が CD1a あるいは CD207(Langerin) 陽性であれば,LCH と確定診断できる 推奨 2 病型分類のために詳細な病歴の聴取, 身体診察, 血液および尿検査, 画像検査を行う 推奨グレード ( 推奨度 エビデンスレベル ):1A LCH の病変として骨や皮膚病変が多いが, その他にリンパ節, 造血器, 肝, 脾, 肺, 軟部組織, 胸腺, 下垂体, 粘膜, 中枢神経系, 甲状腺, 腸管, 唾液腺など, 全身臓器に病変が出現する それに伴い, 初発症状も腫瘤触知や骨痛, 皮疹, 発熱, 耳漏, リンパ節腫張, 肝脾腫, 呼吸苦, 粘膜潰瘍, 下痢など様々である また, 不可逆的病変とし

114 ランゲルハンス細胞組織球症 LCH て, 下垂体浸潤に伴う尿崩症や成長ホルモン分泌不全, 中耳への浸潤に伴う難聴, 中枢神経変性に伴う小脳失調や認知障害などもある 4) よって, 詳細な病歴聴取, 身体診察, 血液および尿検査, 全身の画像検査が不可欠である 推奨 3 病型は, 単一臓器型か多臓器型か, 前者は単独病変か多病変か, 後者はリスク臓器浸潤陰性か陽性かに分類する 推奨グレード ( 推奨度 エビデンスレベル ):1A 1 臓器にのみ病変がある場合に単一臓器型,2 臓器以上に病変がある場合に多臓器型と定義される 単一臓器型は, 病変が 1 カ所のみの単一臓器単独病変型と, 病変が多発している単一臓器多病変型の 2 病型に, 多臓器型は, リスク臓器浸潤陰性型と陽性型の 2 病型に分けられる LCH の予後は幅広く, 単一臓器単独病変型は自然治癒することもある一方, リスク臓器浸潤陽性多臓器型の生命予後は不良である また, 単一臓器単独病変型では不可逆的病変を合併することはまれであるが, 単一臓器多病変型, 多臓器型と, 病型が進むにつれ不可逆的病変の合併頻度は高くなる 4) 病型により異なった治療方針が選択されるため, 病型を決定することは重要である 推奨 4 肝および脾, 造血器はリスク臓器である 推奨グレード ( 推奨度 エビデンスレベル ):1B リスク臓器とは, 浸潤がある場合生存率が低下する臓器を指す 肝または脾, 造血器のいずれかに浸潤がある場合をリスク臓器浸潤陽性とする これまで肺はリスク臓器とされてきたが, 肺以外にリスク臓器浸潤がない場合には生命予後は必ずしも悪くない 5) ことから, 現在, 本邦および海外で行われている臨床試験においては, リスク臓器から除外されている

CQ1 115 推奨 5 天蓋部を除く頭蓋顔面骨の病変は CNS リスク病変である 推奨グレード ( 推奨度 エビデンスレベル ):2C 検索式 文献 眼窩, 側頭骨, 乳突洞, 蝶形骨, 頬骨, 篩骨, 上顎骨, 副鼻腔, 前頭蓋窩, 中頭蓋窩 に病変があり軟部組織腫瘤を伴う場合に, 尿崩症および中枢神経変性 LCH の合併率が高いことが示された 6) よって, 天蓋部を除く頭蓋顔面骨の病変は CNS リスク病変と呼ばれ, 治療方針の決定要素とされる 本 CQ は関連キーワードが多岐に及び, システマテイックな文献検索方法は適用できないため, Histiocyte Society や Euro Histio Network のガイドライン, 班会議の研究報告書なども参考にした結果, 最終的に 6 件を引用した 1)Haupt R, Minkov M, Astigarraga I, et al. Langerhans cell histiocytosis (LCH): guidelines for diagnosis, clinical work-up, and treatment for patients till the age of 18 years. Pediatr Blood Cancer 2013 ; 60 : 175-84. 2)Minkov M, Grois N, McClain K,et al. Langerhans cell histiocytosis. Histiocyte Society, Evaluation and treatment guidelines. 2009. Available at : http : //www.histiocytesociety.org/document.doc?id=290 3)WHO Classification of Tumors of Haematopoietic and Lymphoid Tissues, 4th ed, IARC, 2008. 4)Haupt R, Nanduri V, Calevo MG, et al. Permanent consequences in Langerhans cell histiocytosis patients : a pilot study from the Histiocyte Society-Late Effects Study Group. Pediatr Blood Cancer 2004 ; 42 : 438-44. 5)Ronceray L, Pötschger U, Janka G, et al. Pulmonary involvement in pediatric-onset multisystem Langerhans cell histiocytosis : effect on course and outcome. J Pediatr 2012 ; 161 : 129-33, e1-3. 6)Grois N, Fahrner B, Arceci RJ, et al. Central nervous system disease in Langerhans cell histiocytosis. J Pediatr 2010 ; 156 : 873-81. ランゲルハンス細胞組織球症LCH6

116 ランゲルハンス細胞組織球症 LCH CQ2 単一臓器型 LCH の標準的治療は何か 背 景 単一臓器型の病変の多くは骨で, 次いで皮膚である 単一骨病変や皮膚単独病変に対 1, する前方視的介入試験はなく, 観察研究 2) や専門家からの提案 3) にとどまる 単一骨 病変や皮膚単独病変では, 自然軽快が期待できるため, 一般に無治療経過観察が基本的 2, な方針である 多発骨型では前方視的介入試験 4) がある 多臓器型では再燃率低下と不可逆的障害の回避を目的に全身化学療法が行われる 推奨 1 単一骨病変では無治療経過観察が基本方針であるが, 脊髄や視神経の圧迫がある場合, 強い痛みが持続する場合,CNS リスク病変である場合などでは, 全身化学療法が考慮される 推奨グレード ( 推奨度 エビデンスレベル ):2C 単一骨病変の場合, 診断のための生検や部分的な搔爬により治癒に向かい, それ以上の治療を必要としないことが多い 1, 2) 本邦の小児を対象とした後方視的観察研究 1) では, 海外の観察研究 2) に比べ, より多くの例に化学療法が行われ (33% vs 8%), 再燃率は低かった (7% vs 18%) 特に, 尿崩症の発症率が高いと言われる CNS リスク病変の例では 70% 以上に化学療法が適応され, 再燃率は 5% で尿崩症の発症はみられなかった 一方,CNS リスク病変以外の単一骨病変では,73% が無治療または局所療法のみで経過観察され, そのうち 90% 以上が再燃なく経過していた 骨病変から周囲へ進展した軟部腫瘤により脊髄や視神経の圧迫がある場合, 重度の変形や機能障害が予測される場合, 強い痛みが持続する場合,CNS リスク病変である場合には, 多発型に準じた 6 12 カ月の全身化学療法が考慮される 3) 5 cm 以上の病変の完全切除は, 治癒までの時間を遅らせるだけでなく骨欠損や変形など長期的な問題を生ずるリスクがあるため推奨されない また, 低線量の放射線照射は, 骨の成長や臓器障害, 二次がんの問題があるため, 推奨されない 3)

CQ2 117 推奨 2 有痛性骨病変に対し, メチルプレドニゾロンの局所注射を行うことを考慮する 推奨グレード ( 推奨度 エビデンスレベル ):2C 有痛性の四肢の骨病変に対してメチルプレドニゾロンの局所注射が有効であったとの報告 5) があり, 選択肢となりうる 推奨 3 皮膚単独病変では無治療経過観察が基本方針であるが, 乳児では多臓器型に移行することがあり慎重な経過観察を要する 推奨グレード ( 推奨度 エビデンスレベル ):2C 皮膚単独病変は, 本邦の小児を対象とした後方視的観察研究 1) では,68% が無治療または局所療法で経過観察され, そのうち 8% が再燃し, 無治療経過観察の 10% が多臓器型に移行した 皮膚単独病変の場合, 無治療経過観察が基本方針であるが, 乳児例では多臓器型へと進行することがあるため慎重な経過観察が必要である 6) ランゲルハンス細胞組織球症LCH6 推奨 4 多発骨病変に対し, ビンカアルカロイドとステロイドを基本とした 6 12 カ月間の全身化学療法を行うことを強く推奨する 推奨グレード ( 推奨度 エビデンスレベル ):1B 多発骨型は, 生命予後は良好であるが,30% 以上が再燃し, 再燃例では高率に整形外科的障害や尿崩症, 難聴などの不可逆的障害を伴う 海外の介入試験 DAL-HX 2) では, 多臓器型と同じエトポシドにビンブラスチン / プレドニゾロンを併用した強力な寛導入レジメンを用いた 12 カ月間の治療が行われた 再燃率 18%, 死亡率 0%, 尿崩症発症率 3%( 観察期間中央値 8.7 年 ) であった 手術単独またはステロイド単剤の治療による historical control の再燃率は 50 80% であったことより, この群に対する多剤併用化学療法の有効性が示された 本邦の介入試験 JLSG-96 4) では, ビンクリスチン / シタラビン / プレドニゾロンによる寛導入レジメンを用いた 30 週間の治療が行われた 再燃率は 24%, 死亡率は 0%, 尿崩症発症率 0%( 観察期間 7.8 年 ) であった これらのことより, 再燃率の低下および不可逆的障害を防ぐことを目的としてビンカア

118 ランゲルハンス細胞組織球症 LCH ルカロイドとステロイドによる 6 12 カ月間の全身化学療法が推奨される 検索式 PubMed で 2014 年 3 月 31 日までの文献に関して以下のとおり検索を行った 1. ( Langerhans cell histiocytosis AND single system )OR eosinophilic granuloma 1,072 件 2.1. child 330 件 3.2. treatment 236 件これに加えて,Histiocyte Society や Euro Histio Network のガイドライン, 班会議の研究報告書なども参考にした結果, 重要と思われる 6 件を引用した 文献 1)Morimoto A, Ishida Y, Suzuki N, et al. Nationwide survey of single-system single site Langerhans cell histiocytosis in Japan. Pediatr Blood Cancer 2010 ; 54 : 98-102. 2)Titgemeyer C, Grois N, Minkov M, et al. Pattern and course of single-system disease in Langerhans cell histiocytosis data from the DAL-HX 83- and 90-study. Med Pediatr Oncol 2001 ; 37 : 108-14. 3)Haupt R, Minkov M, Astigarraga I, et al. Langerhans cell histiocytosis (LCH): guidelines for diagnosis, clinical work-up, and treatment for patients till the age of 18 years. Pediatr Blood Cancer 2013 ; 60 : 175-84. 4)Morimoto A, Ikushima S, Kinugawa N, et al. Japan Langerhans Cell Histiocytosis Study Group : Improved outcome in the treatment of pediatric multifocal Langerhans cell histiocytosis : Results from the Japan Langerhans Cell Histiocytosis Study Group-96 protocol study. Cancer 2006 ; 107 : 613-9. 5)Mavrogenis AF, Abati CN, Bosco G, et al. Intralesional methylprednisolone for painful solitary eosinophilic granuloma of the appendicular skeleton in children. J Pediatr Orthop 2012 ; 32 : 416-22. 6)Lau L, Krafchik B, Trebo MM, et al. Cutaneous Langerhans cell histiocytosis in children under one year. Pediatr Blood Cancer 2006 ; 46 : 66-71.

CQ3 119 CQ3 多臓器型 LCH の標準的治療は何か 背 景 リスク臓器浸潤を伴う群の生命予後は不良である 1) 40 50% が再燃し, 再燃例では, 尿崩症をはじめとするさまざまな不可逆的障害を伴う率が 2 倍以上高い 2) これらのことから, リスク臓器浸潤を伴う群の生存率の向上, および, 再燃および晩期合併症発症率の低下が治療の目標となる 海外での前方視的介入試験として,1983 年からの DAL-HX83/90 3),1991 年からの LCH-I 4),1996 年からの LCH-II 5),2001 年からの LCH-III 6) がある 本邦での前方視的介入試験として,1996 年からの JLSG-96 7) がある これらの研究から, リスク臓器浸潤がなければ 2 歳未満の乳幼児であっても予後は良好であること, 治療開始 6 週での治療反応 ( 初期治療反応 ) が重要な予後因子であることが示された 推奨 1 エトポシドはファーストライン治療として使用せず, ビンカアルカロイドとステロイドを基本とした 12 カ月間の全身化学療法を強く推奨する 推奨グレード ( 推奨度 エビデンスレベル ):1A ランゲルハンス細胞組織球症LCH6 LCH-I で, ビンブラスチンまたはエトポシドのランダム化比較試験が行われた 再燃率 死亡率ともに差はなかった (3 年時点でそれぞれ,61% vs 55%,24% vs 17%) 4) LCH-II で, リスク臓器浸潤陽性または 2 歳未満の例に対し, ビンブラスチンまたはビンブラスチン / エトポシドのランダム化比較試験が行われた 再燃率 死亡率ともに差はなかった (3 年時点でそれぞれ,46% vs 46%,26% vs 21%) 5) これらのことより, エトポシドは二次性白血病のリスクがあることも合わせ, ファーストライン治療でのエトポシドの使用は推奨されない 海外, 本邦で行われた介入試験はいずれも, ビンカアルカロイドとプレドニゾロンを基本骨格としている LCH-III では, リスク臓器浸潤陰性例で, 治療期間は 6 カ月と 12 カ月のランダム化比較試験が行われた 治療期間 12 カ月群は,6 カ月群に比べ再燃率は有意に低く (37% vs 54%),6 カ月間の治療であった LCH-I と LCH-II と比べても再燃率は低かった ( それぞれ 52%,48%) 6) リスク臓器浸潤陽性例でも, 治療期間 12 カ月の LCH-III では,6 カ月の LCH-I と LCH-II に比べ, 再燃率は有意に低かった (26% vs 45%,40%) 6) 以上から, ビンカアルカロイドとステロイドを基本とした 12 カ月間の全身化学療法が推奨される

120 ランゲルハンス細胞組織球症 LCH 推奨 2 リスク臓器浸潤陽性で, 初期治療反応が不良な例は, 治療を強化することを強く推奨する 推奨グレード ( 推奨度 エビデンスレベル ):1B LCH-III では, リスク臓器浸潤陽性例の死亡率が LCH-I や LCH-II に比べ低下した (17% vs 36%,30%) その要因として, ビンブラスチン / プレドニゾロンによる寛導入療法に対し初期治療反応が不良な例は,2 回目の寛導入療法を行い治療強化したことによる可能性が考えられた 6) JLSG-96 では, 初期治療反応が不良な例は, ドキソルビシン / シクロホスファミド / ビンクリスチン / プレドニゾロンによる強力な治療に変更した 7) その結果, リスク臓器浸潤陽性例の死亡率は 7% と海外の介入試験と比較し良好であった これらのことより, リスク臓器浸潤陽性で初期治療反応が不良な例に対する治療の強化は, 死亡率の低下が期待でき, 推奨される 検索式 PubMed で 2014 年 3 月 31 日までの文献に関して以下のとおり検索を行った 1. Langerhans cell histiocytosis AND multisystem 254 件 2.1. child 126 件 3.2. treatment 87 件これに加えて,Histiocyte Society や Euro Histio Network のガイドライン, 班会議の研究報告書, 専門学会の抄録集なども参考にした結果, 重要と思われる 8 件を引用した 文献 1)Haupt R, Minkov M, Astigarraga I, et al. Langerhans cell histiocytosis (LCH): guidelines for diagnosis, clinical work-up, and treatment for patients till the age of 18 years. Pediatr Blood Cancer 2013 ; 60 : 175-84. 2)Minkov M, Steiner M, Pötschger U, et al. Reactivations in multisystem Langerhans cell histiocytosis : data of the international LCH registry. J Pediatr 2008 ; 153 : 700-5. 3)Minkov M, Grois N, Heitger A, et al. Trearment of Multisystem Langerhans cell histiocytosis. Results of the DAL-HX 83 and DAL-HX 90 studies. Klin Padiatr 2000 ; 212 : 139-44. 4)Gadner H, Grois N, Arico M, et al. A randomized trial of treatment for multisystem Langerhans cell histiocytosis. J Pediatr 2001 ; 138 : 728-34. 5)Gadner H, Grois N, Pötschger U, et al. Improved outcome in multisystem Langerhans cell histiocytosis is associated with therapy intensification. Blood 2008 ; 111 : 2556-62. 6)Gadner H, Minkov M, Grois N, et al. Therapy prolongation improves outcome in multisystem Langerhans cell histiocytosis. Blood 2013 ; 121 : 5006-14. 7)Morimoto A, Ikushima S, Kinugawa N, et al ; Japan Langerhans Cell Histiocytosis Study Group. Improved outcome in the treatment of pediatric multifocal Langerhans cell histiocytosis : Results from the Japan Langerhans Cell Histiocytosis Study Group-96 protocol study. Cancer 2006 ; 107 : 613-9.