Jpn J Psychosom Med 57:1237-1244, 2017 特集 : 皮膚とこころ 皮膚科における精神科的薬物療法 羽白 * 誠 抄録 : 皮膚科における心身症では, 皮膚科治療に加えて心身医学療法を行う. その中には向精神薬を用いた精神科的な薬物療法が含まれる. 狭義の皮膚科心身症に用いるほかに, 一次性精神疾患や二次性精神疾患, 皮膚粘膜感覚異常症などにも薬物療法は行われる. それ以外にも皮膚科的な治療で難治性のかゆみや搔破にも用いることができる. 主に用いられる向精神薬は, 抗不安薬と睡眠薬と抗うつ薬であるが, 抗精神病薬や抗てんかん薬も用いることがある. 薬物療法は心理療法と違って, 特殊な技術は必要とせず, 診療時間もあまりとられることがないために, 皮膚科医でも簡便にできるものが少なくない. 皮膚科医にもっと普及すべき治療法である. Key words: 皮膚科心身症, 精神皮膚科学, 抗うつ薬, 抗不安薬, 睡眠薬 皮膚科心身症の分類と向精神薬 皮膚科の心身症において心身医学療法を行うには, 大きく精神科的薬物療法と精神療法がある. それぞれに長所と短所があり, その比較を Table 1 に示す. 一般的には精神科的薬物療法のほうが, 特殊な技術を必要とせず, また診療時間も長くなることはないので, 精神療法よりは一般皮膚科医にとっては関わりやすい治療法と考えられる. 皮膚科心身症疾患には, アトピー性皮膚炎, 慢性じんましん, 乾癬, ざ瘡, 円形脱毛症, 限局性多汗症などさまざまな皮膚疾患がある. 皮膚科心身症は Koo ら 1) が 2000 年に分類したものを用いると理解しやすい. それによると以下のように大きく 4 つに分けられている注 ). これらの分類と向精神薬の関係を解説する. * はしろクリニック ( 連絡先 : 羽白誠, 530 0001 大阪府大阪市北区梅田 1 2 2 200 大阪駅前第 2 ビル 2F) Vol. 57 No. 12. 2017 心身医 1. 狭義の皮膚科心身症 Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, fifth edition(dsm Ⅴ) では, 他の医学的疾患に影響する心理的要因に該当する. アトピー性皮膚炎, 慢性じんましん, 乾癬, ざ瘡, 円形脱毛症や限局性多汗症などでは心理社会的要因でそれぞれの皮膚疾患が悪化することがしばしばみられる. その治療においては, 環境調整やものごとの考え方を変えることができればそれがよいが, そういったことが困難な状況にある場合は, 抗うつ薬や抗不安薬を用いて困難な気分を和らげることができる. 場合によっては睡眠薬も用いることがある. 2. 一次性精神疾患一次性精神疾患は本来精神疾患であるが, 皮膚に症状が出るものである. 治療は精神科的な治療となり, 皮膚寄生虫妄想 ( 妄想性障害 : 身体型 ) では抗精神病薬の適応になる. 抜毛症は衝動行為であるので, はじめに選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) を使う. それで効果が不十分なときは,SSRI に抗てんかん薬を 1237
Table 1 精神科的薬物療法と精神療法の比較 精神科的薬物療法 特殊な技術を要しない 有効率が比較的高い ( 治験データ有 ) 症例による効果のばらつきが少ない 病状の変化に対応しやすい ( 量調節 ) 効果発現が比較的早い 診療時間が短い 保険診療報酬でまかなえる 副作用がある 他剤と相互作用, 禁忌がときにある 小児, 妊婦, 授乳婦は制限される 画一化している 対症療法のため再発しやすい 精神療法 技法を習得しなければできない 有効率はさまざま 症例により効果はさまざま 病状の変化に対応する技術が必要 多くは効果発現までに時間を要する 診療時間が長い 保険診療報酬で不採算が多い 副作用は技法や症例による 薬剤の制限を受けない 小児, 妊婦, 授乳婦の制限は少ない 症例ごとに治療法が計画される 治療によっては再発しにくい 追加する. それでも不十分なときは抗てんかん薬を抗精神病薬に切り替えるなどを行う. 自傷性皮膚炎 ( 皮膚むしり症, 自らに負わせる作為症など ) は基盤となる精神疾患にもよるが, 多くは SSRI を用い, それで効果が不十分なときは抗てんかん薬もしくは抗精神病薬の併用をする. 3. 二次性精神疾患二次性精神疾患は皮膚疾患がストレスとなって不安や抑うつ状態になるものである. 皮膚疾患による適応障害である. それぞれの状態に応じて抗不安薬や抗うつ薬, 睡眠薬を用いる. あまりに気分が不安定な場合は抗てんかん薬を用いることもある. 4. 皮膚粘膜感覚異常症皮膚粘膜感覚異常症は, 妄想性障害 : 身体型か身体症状症によるものであるが, 症状に対して信念があるため, 抗精神病薬がよい適応となる. 症状が軽い場合は抗てんかん薬や抗うつ薬を使うこともある. 補足 :Koo らはこれらの分類のほかに補足として, 皮膚症状に対する向精神薬の利用 というものを提唱している. これは, 精神疾患がない場合でも皮膚科領域で向精神薬を使えることがあ ると言っているのである. 最も使う頻度が高いのは, 帯状疱疹後神経痛に対する抗てんかん薬である. そのほかかゆみや搔破が激しく, 抗アレルギー薬で抑えられないときに抗うつ薬や抗不安薬を用いる. それでも効果が不十分なときは抗てんかん薬か抗精神病薬を追加する. かゆみや痛みは皮膚での反応で生じているが, 最終的に感じるのは大脳である. 搔破も激しいと衝動的になっている. そのようなことからこれらが極度の場合は中枢を抑制する方法が治療法として考えられる. これら向精神薬のうち, 皮膚科医が現時点で使っているものは, 抗不安薬と睡眠薬が比較的多い. その次に多いのは帯状疱疹後神経痛における抗てんかん薬であろう. 一方抗うつ薬を使っている皮膚科医はまだ少なく, 抗精神病薬に至っては使える皮膚科医はかなり少ないのが現状である. 次にそれぞれの薬剤について解説する. 皮膚科における向精神薬使用の一般的な注意 まず皮膚科において向精神薬を用いる際に一般的な注意すべきことを述べる. 皮膚科における特徴としては, 多くの場合抗アレルギー薬との併用である. その点をふまえて配慮すべき点を解説する 2). 1238 Vol. 57 No. 12. 2017 心身医
1. 眠気, ふらつき, 口渇などに注意向精神薬の多くは眠気, ふらつき, 口渇などを生じるため, 皮膚科治療でよく用いる抗アレルギー薬との併用には注意が必要である. どちらも同様の副作用を生じるので, 相加あるいは相乗されることが考えられる. 特に高齢者では転倒や嚥下障害, 尿閉になることもあるため, 薬剤の選択に注意を要する. 向精神薬を用いるときは, できれば抗アレルギー薬は非鎮静性のものを選択するなどの配慮も必要である. 最近では眠気が少ない抗アレルギー薬として, 新たにビラスチンやデスロラタジンが発売されている. ただし向精神薬の眠気と抗アレルギー薬の眠気は薬剤によって作用が異なる. 抗アレルギー薬は抗ヒスタミン作用による眠気である. 抗不安薬や睡眠薬の大部分は GABA A 受容体のベンゾジアゼピン結合部位 ( 受容体 ) に働いて脳を鎮静させるものであり, 主に GABA A 受容体のα1 サブユニットの鎮静作用である 3). これは抗アレルギー薬の眠気とは異なる. しかし抗うつ薬の眠気は抗ヒスタミン作用が, 抗精神病薬の眠気は抗ドパミン作用と抗ヒスタミン作用の可能性が考えられる. 眠気の感受性はそれぞれの受容体によって個人差があるが, いずれにしろ鎮静作用が増える可能性は考えておかなければならない. 2. 抗不安薬, 睡眠薬の習慣性 依存性抗不安薬や睡眠薬の大部分はベンゾジアゼピン系である. この系統の薬剤は多少なりとも依存性や習慣性がある. 短期間であれば減量や休止はあまり問題にならないが, 投与期間が長くなるほど減量には時間をかける必要がある. 常用量でも依存性はみられるので, 注意が必要である. 急激な減量は反跳現象を生じて, 不安, 興奮や不眠をきたす. 減量の方法は皮膚科における内服副腎皮質ステロイドと同じかそれよりもゆっくりとするのがよい.2~4 週間かけて半減するなどである. 抗うつ薬, 抗精神病薬, 抗 Vol. 57 No. 12. 2017 心身医 てんかん薬は依存性や習慣性はないのでそれほど減量に問題はないが, やはり中等量以上を内服している場合は急激な減量や休止は筋硬直などを起こす可能性があるため避けたほうがよい. 3. 内服に際する説明向精神薬を処方する際には, 向精神薬であることを説明する必要がある. 皮膚科の治療のみよりも併用したほうが皮膚疾患の治療にも有用であることを伝える. 依存性 習慣性のあるものはそのことも伝える必要があるが, 内服副腎皮質ステロイドと同様できっちりと内服すれば問題はないことを説明し, 自分で用量を勝手には調節しないように伝える. 皮膚科における抗うつ薬 皮膚科において抗うつ薬を用いるのが有用な場合がある. それはどんなときであろうか. 皮膚科心身症で抗うつ薬を使うときは, 一般的な抑うつ状態として, 落ち込み気分が強い状態が続いているとき, 意欲が低下して仕事や家事ができていないとき, 寝つきが悪く夜間に何度も覚醒したり早朝に覚醒したりするとき, イライラしたり焦ったりして考えがなかなかまとまらないときなどがある. そのほかに皮膚科的な使い方として, かゆみが抗アレルギー薬で効果が不十分なときや搔破が激しいときなどにも用いることができる. またかゆみなどで眠れないときにも眠気の出やすい四環系抗うつ薬やノルアドレナリン作動性 特異的セロトニン作動性抗うつ薬 (NaSSA) を使うことがある.SSRI は抑うつ状態の改善だけではなく, 強迫性障害やパニック障害, 社交不安障害などにも有用なので抜毛症や皮膚むしり症などにも用いる. 抗うつ薬には, 三環系, 四環系,SSRI, セロトニン ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 (SNRI), NaSSA, その他といろいろな作用のものがある. 抗うつ薬は全般的に依存性 習慣性はない. また効果が発現するまでに 2 週間以上 1239
Table 2 皮膚科で使える抗うつ薬 ( 投与量は皮膚科心身症でよく用いる用量 ) 三環系四環系 SSRI SNRI NaSSA その他 薬物名製品名 1 日用量特徴主な禁忌 アミトリプチリン塩酸塩 トリプタノール 10~30 mg 眠気がややあり マプロチリン塩酸塩ルジオミール 10~30 mg 比較的マイルド眠気あり 緑内障, 心筋梗塞回復期, MAO 阻害剤など緑内障, 心筋梗塞回復期, MAO 阻害剤など ミアンセリン塩酸塩テトラミド 10~30 mg 眠気が強い MAO 阻害剤塩酸セルトラリンジェイゾロフト 25~100 mg マイルドピモジド,MAO 阻害剤初心者向け フルボキサミンマレイン酸塩パロキセチン塩酸塩水和物エスシタロプラムシュウ酸塩 デプロメールルボックス 25~150 mg 中等度の強さ パキシル 10~40 mg 作用が強い チオリダジン, ピモジド, MAO 阻害剤などチオリダジン, ピモジド, MAO 阻害剤 レクサプロ 10~20 mg 作用がやや強いピモジド,MAO 阻害剤 ミルナシプラン塩酸塩トレドミン 25~100 mg 作用が弱い初心者向け デュロキセチン塩酸塩サインバルタ 20~60 mg 慢性疼痛にも ベンラファキシン塩酸塩徐放性カプセル ミルタザピン トラゾドン塩酸塩 イフェクサー SR レメロンリフレックスレスリン, デジレル 75~225 mg 15~30 mg 25~75 mg 用量調節で効果を調節眠気が強いかゆみにも期待比較的マイルド眠気あり MAO 阻害剤, 尿閉 MAO 阻害剤, 重度の肝機能障害など MAO 阻害剤, 重度の腎機能障害など MAO 阻害剤 本剤過敏症 スルピリドドグマチール 150~300 mg 食欲が出るプロラクチン産生腫瘍 はかかるので時間を要する. なお抗うつ薬は 18 歳未満の大うつ病に投与するときは適応を慎重に検討すること,24 歳以下では自殺念慮, 自殺企図のリスクが増加する報告があるためリスクベネフィットを考慮することとなっている (Table 2). 1. 三環系今でも精神科では新しい抗うつ薬で効果が不十分な場合などに三環系抗うつ薬はよく使われている. 筆者も新しいタイプの抗うつ薬で不十分な際に使うことがある. 皮膚科では一般的には三環系は使う必要はないが,2016 年にアミトリプチリン塩酸塩が末梢神経障害性疼痛に保険適応となったため, 帯状疱疹後神経痛に用いることができる. 副作用に眠気, ふらつきのほか, 不整脈, 血圧低下など循環器系の副作用がみられる. 2. 四環系四環系は作用としてはノルアドレナリンを刺激する作用があるとされているが, それほど強くはないともいわれている. 副作用として眠気が比較的強いが, 循環器系の副作用はほとんどみられないため, 比較的使いやすい. 依存性のない睡眠改善薬として用いることもある. 3. 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) 三環系よりも安全性が高いため, 現在最も広く使われている抗うつ薬である. 抗うつ作用のほかに, 強迫症状, 衝動行為, パニック障害, 不安障害などにも有用であるため, 抜毛症や皮膚むしり症などの衝動行為にも有用である. 主な副作用は嘔気, 胃もたれなどの消化器症状であるが, 使用を継続するうちに慣れることもある. このうち塩酸セルトラリンはマイルドであ 1240 Vol. 57 No. 12. 2017 心身医
り, 皮膚科で抗うつ薬の使用経験のないものでも比較的使いやすいと思われる.SSRI での眠気はパロキセチン塩酸塩水和物以外は比較的少ない. 4. セロトニン ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 (SNRI) この系統は特に落ち込み気分を上昇させるのに有用である. 先に発売されていたミルナシプラン塩酸塩は作用が弱く, 相互作用も少ないので初心者向きである. 眠気も少ない. 最も新しいベンラファキシン塩酸塩徐放性カプセルは少量から投与して徐々に増量する. 低用量では SSRI 様の作用を示し, 高用量で SNRI 様の作用を呈するとされている. 5. ノルアドレナリン作動性 特異的セロトニン作動性抗うつ薬 (NaSSA) 新しいタイプの抗うつ薬とされているが, 構造式的には四環系抗うつ薬に近いものである. ノルアドレナリンを刺激し, セロトニン受容体の 5 HT 2 受容体と 5 HT 3 受容体を阻害して 5 HT 1 受容体の作用を増強する. 抗ヒスタミン作用もある程度もつため, かゆみを伴う疾患にはよい適応と考える. ただし眠気が強いために内服は就寝前にする. 経異常などがある. 制吐作用もあるため食欲がない場合にも使いやすい. 皮膚科における抗不安薬 皮膚科において抗不安薬はすでに使っている皮膚科医も少なくはない. 皮膚科心身症で抗不安薬を使うときは, 疾患に関する不安があるときや発疹が他人からみられるのではないかなど不安なとき, ついイライラしてしまうときなどがある. また寝つきが悪いとき, ぐっすりと寝た感じがしないときに睡眠薬と同様に使うこともある. さらに狭義の心身症としての皮膚疾患に自律神経の安定目的で使用することもある. 心身症の慢性じんましんでは抗不安薬が有用であることが報告されている 4). また限局性多汗症なども自律神経の安定作用により有用である. 皮膚科的な使い方としてはかゆみが抗アレルギー薬で不十分なときや搔破が激しいときにも用いることができる. この点は抗うつ薬と同じであるが, 即効性を期待するときには抗不安薬を選択する. 抗不安薬の大部分はベンゾジアゼピン系であるが, そのほかごく一部にベンゾジアゼピン受容体には作用しない非ベンゾジアゼピン系がある. この 2 つは作用がまったく異なる (Table 3). 6. その他の抗うつ薬そのほかには, トラゾドン塩酸塩やスルピリドがある. トラゾドン塩酸塩は, セロトニン受容体遮断 再取り込み阻害薬であり,SSRI よりはセロトニンに対する選択性が弱くなる. 比較的作用はマイルドであり, 副作用は眠気である. 依存性のない睡眠薬としても使うことができる. スルピリドはほかとはまったく異なった系統の薬剤であり, ドパミンの D 2 受容体を阻害する. ごく少量では胃 十二指腸潰瘍に, 中等量ではうつ病に, 高用量では統合失調症に使える薬剤である. 副作用として空腹感, 振戦, 月 Vol. 57 No. 12. 2017 心身医 1. ベンゾジアゼピン系抗不安薬の大部分はベンゾジアゼピン系である. 一部にチエノジアゼピン系というものがあるが, これもベンゾジアゼピン受容体に作用するのでこれに含める. 一般的な睡眠薬と同系統であるため, 睡眠薬を使い慣れている皮膚科医であれば使用は難しくないと思われる. ベンゾジアゼピン系の薬剤は依存性 習慣性があるため, 用量の増量や減量, 休止には慎重でなければならない. 増量は比較的容易であるが, その後の減量が難しくなるので安易には行わないほうがよい. 投与量よりは投与期間のほうが問題 1241
Table 3 皮膚科で使える抗不安薬 ( 投与量は皮膚科心身症でよく用いる用量 ) ベンゾジアゼピン系強さ 薬物名 製品名 1 日用量 作用時間 弱 クロチアゼパムリーゼ 5~30 mg 短時間メダゼパムレスミット 10~30 mg 長時間 アルプラゾラム コンスタンソラナックス 0.4~2.4 mg 中時間 中等度 フルジアゼパム エリスパン 0.25~0.75 mg 長時間 ロフラゼプ酸エチル メイラックス 1~2 mg 超長時間 エチゾラム デパス 0.5~3 mg 短時間 ロラゼパム ワイパックス 0.5~3 mg 中時間 レキソタンブロマゼパム強セニラン 2~15 mg 中時間 フルトプラゼパム レスタス 2~4 mg 超長時間 クロキサゾラム セパゾン 1~12 mg 長時間 非ベンゾジアゼピン系 弱 タンドスピロンクエン酸塩 セディール 10~60 mg 短時間 であり, 長期間投与するほど減量が難しい. 減量は内服副腎皮質ステロイドのように 2~4 週間以上かけて半減するのがよい. 副作用の多くは眠気や口渇である. 即効性があるので屯用で使うことができる. 欧米では依存性 習慣性の問題から常用は極力避けて屯用のみにする傾向がある. 投与日数に制限がある. 2. 非ベンゾジアゼピン系日本ではタンドスピロンクエン酸塩のみである. 海外ではブスピロン塩酸塩がある. セロトニン 1A 受容体のアゴニストである. 作用はベンゾジアゼピン系に比べて弱く, 効果発現に 2 週間以上かかる. しかし依存性 習慣性はまったくないという利点があり, 初心者でも使いやすい. 副作用はほとんどないと考えられる. 投与日数制限もない. 皮膚科における睡眠薬 睡眠薬は皮膚科医でしばしば用いられている. かゆみで眠れない場合に処方されることが多いと思われる. 睡眠薬には, バルビツール系, 非バルビツール系, ベンゾジアゼピン系 ( 非ベ ンゾジアゼピン系の Z ドラッグを含む ) があるが, バルビツール系と非バルビツール系は作用も強いが依存性 習慣性が強く, 皮膚科領域では用いる必要はないと考える. ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は同系統の抗不安薬と副作用はほぼ同じである. ベンゾジアゼピン系であるので依存性 習慣性はあるが, バルビツール系ほどではない. ゾルピデム酒石酸塩とゾピクロン, エスゾピクロンは構造式的にはベンゾジアゼピン系ではないので非ベンゾジアゼピン系といわれ,Z ドラッグともいわれるが, どちらもベンゾジアゼピン受容体に働くので作用はベンゾジアゼピン系と同様である. ただしゾルピデム酒石酸塩は GABA A 受容体のα1 サブユニット受容体に選択的に作用するので, 他の睡眠薬に比べて筋弛緩作用が少なくふらつきが少ない. 睡眠薬の使い方は作用時間によって使い分ける. 超短時間作用性の睡眠薬は, 内服後の記憶が欠落したり夢遊症状などを起こしたりすることがあるので処方の際に注意が必要である. 皮膚科では長時間型を用いることはまれと思われる. 早朝などの覚醒であればむしろ抗うつ薬を用いたほうがよい. 比較的新しいものにメラトニン受 1242 Vol. 57 No. 12. 2017 心身医
Table 4 皮膚科で使える睡眠薬 ( 投与量は皮膚科心身症でよく用いる用量 ) 作用時間 薬物名 製品名 用量 超短時間 ゾルピデム酒石酸塩マイスリー 5~10 mg ゾピクロンアモバン 7.5~10 mg 短時間 ブロチゾラムレンドルミン 0.25 mg リルマザホン塩酸塩リスミー 1~2 mg 中時間 ニトラゼパムベンザリン, ネルボン 5~10 mg フルニトラゼパムロヒプノール, サイレース 1~2 mg その他 ラメルテオンロゼレム 8 mg スボレキサントベルソムラ 10~20 mg Table 5 皮膚科で使える抗精神病薬 ( 投与量は皮膚科心身症でよく用いる用量 ) 薬物名 製品名 1 日用量 分類 リスペリドン リスパダール 1~2 mg SDA ブロナンセリン ロナセン 2~12 mg SDA クエチアピンフマル酸塩 セロクエル 12.5~25 mg MARTA アリピプラゾール エビリファイ 3~6 mg DSS 容体作動性のラメルテオンやオレキシン受容体拮抗薬のスボレキサントがある. どちらも依存性 習慣性はないが, ラメルテオンはやや作用が弱く, スボレキサントは翌日に傾眠をみることがある (Table 4). 皮膚科における抗精神病薬 抗精神病薬はもともと統合失調症で使う薬剤であるので皮膚科で使うことはめったにない. しかし皮膚寄生虫妄想や自傷性皮膚炎, 皮膚感覚異常症や化学物質過敏症などの妄想性障害や身体症状症や, 強いかゆみや激しい搔破に対して少量を投与することにより有用な場合が少なくない. 依存性 習慣性はない. 副作用は主に眠気とふらつきがある. 眠気は他の向精神薬よりは強くみられることが多い. そのほか振戦やジストニアなどの錐体外路症状がみられることがあるが, 非定型抗精神病薬は従来の定型抗精神病薬よりこの副作用は少ない. また非定型抗精神病薬では一部で糖代謝異常の副作用も報告されている. いずれにしても皮膚科で用いる場合は, 非定型抗精神病薬で, しかも統合失調症 Vol. 57 No. 12. 2017 心身医 Table 6 皮膚科で使える抗てんかん薬 ( 投与量は皮膚科心身症でよく用いる用量 ) 薬物名 製品名 1 日用量 カルバマゼピン テグレトール 100~400 mg バルプロ酸ナトリウム デパケン 100~400 mg ガバペンチン ガバペン 400 mg プレガバリン リリカ 300 mg の約 1/5 の投与量で効果があるため, 精神科で用いるよりは副作用は少ない (Table 5). 皮膚科における抗てんかん薬 抗てんかん薬には多数種類があるが, 皮膚科心身症で用いるのは, カルバマゼピン, バルプロ酸ナトリウム, ガバペンチン, プレガバリンくらいである. プレガバリンはガバペンチンのプロドラッグである. 最も使用頻度が高いのは帯状疱疹後神経痛である. 気分を安定させるのに用いるのはカルバマゼピンとバルプロ酸ナトリウムである. うつの焦燥感や自傷性皮膚炎などで不安定なときに用いる. 激しいかゆみや激しい搔破にも有用である. カルバマゼピンは薬疹の副作用で有名であるが, 心身症で用いる場 1243
Table 7 皮膚科心身症における処方例 疾患アトピー性皮膚炎による抑うつ状態アトピー性皮膚炎による激しいかゆみ心身症の慢性じんましん限局性多汗症帯状疱疹後神経痛皮膚寄生虫妄想皮膚感覚異常症 処方例塩酸セルトラリン 50 mg, 分 2 朝夕カルバマゼピン 200 mg, 分 2 朝夕アルプラゾラム 0.8 mg, 分 2 朝夕ブロマゼパム 6 mg, 分 3 毎食後バルプロ酸ナトリウム 200 mg, 分 2 朝夕リスペリドン 2 mg, 夕食後ブロナンセリン 2 mg, 夕食後 合はてんかんで用いるよりも投与量が少なく, 薬疹をみることはあまりない. そのほかのカルバマゼピンの副作用は振戦, 乳汁分泌, 眠気などである. バルプロ酸ナトリウムは副作用が比較的少ない. ガバペンチンとプレガバリンは眠気の副作用がある. なおここで挙げた抗てんかん薬 4 剤はいずれも依存性 習慣性はみられない (Table 6). 皮膚科心身症における主な処方例 皮膚科心身症における代表的な心身医学的な 薬物療法の例を Table 7 に示す. 文献 1)Koo JYM, Do JH, Lee CS:Psychodermatology. J Am Acad Dermatol 43:848 853, 2000 2) 羽白誠 : 皮膚科心身症に対する薬物療法. MB Derma 182:39 46,2011 3) 大熊誠太郎, 黒川和宏, 山本昇平 :BzRAs のファーマコダイナミックス. 薬局 66:27 33,2015 4)Hashiro M, Yamatodani Y:A combination therapy of psychotropic drugs and antihistaminics or antiallergics in patients with chronic urticaria. J Dermatol Sci 11:209 213, 1996 Abstract Psychopharmacological Therapy in Dermatology Makoto Hashiro, MD, PhD * * Hashiro Clinic Dermatology and Psychosomatics (Mailing Address:Makoto Hashiro, 1 2 2 200 Umeda, Kita ku, Osaka city, Osaka 530 0001, Japan) In psychodermatology, psychotropics are used in addition to ordinary dermatological therapy. These medicines are used not only in psychosomatic state but also in primary psychiatric disorder, secondary psychiatric disorder and mucocutaneous dysesthesia. Besides these conditions, psychotropics are useful in case of intractable itch and scratch. In most cases, sedatives, hypnotics and antidepressants are used. But in some other disorders, antipsychotics and anticonvulsants are used. Pharmacological therapy does not need a special technique and time as in psychotherapy. It is a simple and useful therapy for general dermatologists. It should be much more distributed to dermatologists. Key words:psychosomatic dermatology, psychodermatology, antidepressant, sedative, hypnotic 1244 Vol. 57 No. 12. 2017 心身医