特集 ロシア自動車産業とサプライチェーン 図表 1 ブランド別自動車買い替えサイクル ブランド名 買い替えサイクル ( 月 ) ブランド名 買い替えサイクル ( 月 ) UAZ 71 ボルボ 48 LADA 65 シボレー 48 三菱 53 ホンダ 48 スズキ 52 オペル 46 現代 51 シト

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Data Bank Data Bank 年 1~9 月期のロシアの乗用車市場 2005 年 1~9 月期もロシアの乗用車市場では 外国車の販売の好調さが目立った 一方 ロシア最大の純国産メーカーであるAvtoVAZ( ヴォルガ自動車工場 ) も 年初以来の不振から脱却し 9 月の生産量

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ロシア 3節 第 第3節 ロシア 1 マクロ経済動向 ロシア経済は 緩やかな回復基調にある 2014 年 7 以下 輸出 個人消費 消費者物価 金融市場の動 月以降のウクライナ危機発生及びクリミア併合に伴う 向を中心に概観する 欧米からの経済制裁に加え 2015 年以降 原油価格 の下落を主因として

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( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

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平成10年7月8日

丸紅経済研究所 Economic Review エコカー販売促進政策の効果 2009/8/11 1. 国内乗用車販売の現状 国内乗用車販売の最近の動向をみると ( 図表 1) 07 年までは 1 中期的な クルマ離れ ( 若年人口減尐 嗜好の変化など ) が進行する中 2 平均賃金の伸び悩みや 3ガ

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( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 金 25, 2, 15, 12, 営業利益率 経常利益率 額 15, 9, 当期純利益率 6. 1, 6, 4. 5, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 8 社 214 年度 215 年度前年度差 ( 単位 : 億円 ) 前年

I. 調査結果概況 景気判断 DI( 現状判断 ) は小幅に上昇し最高値を更新 仕入原価高止まりも客単価が上昇 10 月スーパーマーケット中核店舗における景気判断 49.1 と小幅に上昇し 2010 年 4 月の調査開始以降最高値を記録した 経営動向調査によると売上高 DI が 1.1 とはじめてプ

1 食に関する志向 健康志向が調査開始以来最高 特に7 歳代の上昇顕著 消費者の健康志向は46.3% で 食に対する健康意識の高まりを示す結果となった 前回調査で反転上昇した食費を節約する経済性志向は 依然厳しい雇用環境等を背景に 今回調査でも39.3% と前回調査並みの高い水準となった 年代別にみ

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平均車齢 平均車齢 ( 軽自動車を除く ) とは 平成 30 年 3 月末現在において わが国でナンバープレートを付けている自動車が初度登録 ( 注 1) してからの経過年の平均であり 人間の平均年齢に相当する 平均車齢は 新車販売台数が減少し 自動車が長く使われると高齢化が進む 逆に新車販売台数が

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年 車種 主な車種の平均車齢推移 乗用車貨物車乗合車 乗用車計普通車小型車貨物車計普通車小型車乗合車計普通車小型車 昭和 53 年 (1978 年 ) 昭和 54 年 (1979 年 )

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2. 利益剰余金 ( 内部留保 ) 中部の 1 企業当たりの利益剰余金を見ると 製造業 非製造業ともに平成 24 年度以降増加傾向となっており 平成 27 年度は 過去 10 年間で最高額となっている 全国と比較すると 全産業及び製造業は 過去 10 年間全国を上回った状況が続いているものの 非製造

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6 月調査 (5 月実績 ) 結果概況 景気判断 DI は現状 見通し共に小幅に下降も 50 を上回る高水準を維持 5 月のスーパーマーケット中核店舗における景気判断 DI 現状判断は前月から-0.3 の 54.8 見通し判断前月から-0.9 の 51.0 となり 共に小幅な下降となったが 引き続き

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第 3 節食料消費の動向と食育の推進 表 食料消費支出の対前年実質増減率の推移 平成 17 (2005) 年 18 (2006) 19 (2007) 20 (2008) 21 (2009) 22 (2010) 23 (2011) 24 (2012) 食料

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Transcription:

特集 ロシア自動車産業とサプライチェーン ロシア消費市場のブランド ランキング Data Bank はじめにリーマンショックの影響を受け ロシアの乗用車 ( 小型商用車 <LCV>を含む ) の市場規模は2009 年に約 147 万台にまで縮小したが その後 好調な回復ぶりを示し 2012 年の販売台数は過去最高であった2008 年を上回る約 294 万台に達した しかし 2013 年に入り 市況が再び悪化している 2012 年秋ごろから前年同月比の販売台数の伸びの鈍化傾向が顕著になり 2013 年 3 月には月間販売台数が前年同月の数字を下回ったのである その後も前年同月割れの状態が9 月まで続き 通年の販売台数が前年を下回るのはほぼ確実とみられている 本稿では 販売不振の原因やロシア政府が導入した販売促進策などに注目しながら 2013 年 1~9 月期のロシアの乗用車市場の状況をご紹介する 全般的状況 2012 年秋ごろから販売が伸び悩む傾向が見受けられていたものの 2013 年 1~2 月は 販売台数がごくわずかではあるが 前年同月を上回った 1) しかし 3 月の販売台数が前年同月比 4% 減となったのを皮切りに不振の度合いは加速し 5~6 月の2ヵ月連続で前年同月比 10% 以上の落ち込みを記録 7 月に政府が後述の自動車ローン金利負担軽減措置を導入した後 状況はやや好転しているものの 前年同月割れの状態から脱却できておらず 2013 年 1~ 9 月期の販売台数は前年同期比 7% 減の約 205 万台にとどまった 販売不振の理由はいくつか考えられるが 過去に何度か苦い経験をしているので ロシアの消費者は景気の動向に非常に敏感である 今回 は 欧州の経済危機に過敏に反応したことが自動車のような高価な耐久消費財の買い控えにつながったと推測される3 ロシア経済の命運を握るといっても過言ではない油価が高値で安定するなかでの市場の落ち込みは そのような心理的ファクターでしか説明できない という説が業界内では有力である また 2013 年に入りディーラー店への来客数 およびディーラーや輸入業者のサイトへのアクセス数が減少している ロシア人の車の買い替えサイクルの平均値は4~5 年だが ( 純国産車は6 年弱 外国ブランド車は約 4 年 高級車は3 年強といわれている : 図表 1) 2013 年は不振であった2009 年に新車を購入した人の買い替え時期に相当するため 自動車への関心が全般的に低下しているのではなかろうか という説 ロシアの人口 1,000 人当たりの乗用車保有台数の数字はまだ小さく 理論上はまだ伸びる余地のある市場だといえるが 1 購買力の底上げが進んでいない 2 大都市部では道路インフラが限界に達しつつある 3 国内を発生源とする中古車市場が拡大してきている といった要因を背景に 新車市場が飽和状態に近づきつつあるのではないか といった説もある 主要ブランド別販売状況図表 2によると ランキング6 位以内に入っているブランドに共通するのは いずれもロシア国内で生産されている比較的安価なモデルを主力としている点である ( 価格はいずれも 2013 年 9 月時点のもの ) 売上第 1 位のLADA(AvtoVAZのブランド ) は Granta Kalina Priora 4 4(SUV) と ロシア NIS 調査月報 2013 年 12 月号 45

特集 ロシア自動車産業とサプライチェーン 図表 1 ブランド別自動車買い替えサイクル ブランド名 買い替えサイクル ( 月 ) ブランド名 買い替えサイクル ( 月 ) UAZ 71 ボルボ 48 LADA 65 シボレー 48 三菱 53 ホンダ 48 スズキ 52 オペル 46 現代 51 シトロエン 45 フォード 50 ルノー 45 大宇 50 プジョー 45 マツダ 49 シュコダ 45 日産 49 起亜 44 トヨタ 48 ランドローバー 43 ( 出所 )Autostat いった価格 30 万 ~40 万ルーブル程度の低価格モデルを主力としているが 2012 年から顕著になっていた 新モデルのGrantaとLargusの販売が伸びる一方 Kalina Priora サマラといった既存モデルの販売が大きく落ち込む という傾向が2013 年に入ってさらに強まり 1~9 月期の同ブランドの販売台数は前年同期比 14% 減の34 万 3,368 台にとどまった LADAの場合 モデル間の市場での棲み分けがきちんとできておらず 今後も苦戦が続く可能性が高い 第 2 位のルノーの主力は アフトフラモス ( モスクワの現地工場 ) で生産されている低価格車のロガン ( セダンタイプのBセグメントカー :34 万 9,000ルーブル~) サンデロ( ハッチバックタイプのBセグメントカー :36 万 4,000 ルーブル~) およびダスター ( コンパクト SUV:47 万 9,000ルーブル~) で ロシアで販売されるルノー車の約 8 割が当該の廉価 3モデルにより占められている ロガンとサンデロはモデル末期にさしかかり売れ行きが落ちているが 2012 年初頭より本格的な販売が開始されたダスターは爆発的な人気を現在も維持し 2013 年 1~9 月期には前年同期を122% も上回る6 万 426 台の販売を記録した 第 3 位の起亜の主力は サンクトペテルブルグの現地工場で生産されている低価格車 リオ (Cセグメントカー:48 万 9,900ルーブル~) で ロシアで販売される起亜車の5 割近くが同モデルにより占められている その他 AvtoTOR で現地生産されているスポーテージ (SUV:88 万 9,900ルーブル~) シード(C セグメントカー :60 万 9,900ルーブル ) の人気も高く 2モデル合計でロシアで販売される起亜車の3 割強を占めている 現代も 上記の起亜同様に サンクトペテルブルグで現地生産されている低価格車 ソラリス (Cセグメントカー:44 万 5,000ルーブル~) を主力としているが 最近販売を開始したix-35 というSUV( 輸入車 :89 万 9,900ルーブル ) の販売も好調であった その結果 同ブランドの販売台数は前年同期比で3% 伸び ランキングも前年の5 位から4 位に上昇した シボレーは NIVA(SUV:44 万 9,000ルーブル~) アベオ(B セグメントカー :50 万 7,000 ルーブル~) クルーズ(Cセグメントカー: 59 万 9,000ルーブル~) といった低価格車を主力としているが いずれも販売が不振であった 期待されていた新モデル コバルト (Cセグメントカー :44 万 4,000ルーブル~) の販売も伸び悩み 1~9 月期の同ブランドの総販売台数は前年同期比 17% 減の12 万 7,742 台にとどまった このため同社のランキングは前年の2 位 46 ロシア NIS 調査月報 2013 年 12 月号

図表 2 主要ブランド別の販売台数 (LCV を含む ) ( 単位台 ) ブランド名 2012 年 1~9 月期 2013 年 1~9 月期 増減率 (%) 1 LADA 399,142 343,368 14.0 2 ルノー 138,530 155,081 11.9 3 起亜 140,677 146,986 4.5 4 現代 132,089 135,609 2.7 5 シボレー 153,994 127,742 17.0 6 VW 122,980 117,222 4.7 7 トヨタ 117,787 115,146 2.2 8 日産 118,930 101,965 14.3 9 フォード 95,877 77,474 19.2 10 シュコダ 71,808 64,498 10.2 11 GAZ 64,279 60,873 5.3 12 オペル 61,005 60,045 1.6 13 三菱自動車 52,853 56,240 6.4 14 大宇 66,485 43,093 35.2 15 UAZ 42,743 36,895 13.7 16 メルセデスベンツ 26,625 32,043 20.3 17 マツダ 35,809 31,462 12.1 18 BMW 26,097 29,692 13.8 19 アウディ 25,442 26,982 6.1 20 プジョー 34,160 25,921 24.1 21 双竜 22,937 25,738 12.2 22 スズキ 25,533 21,783 14.7 23 シトロエン 25,428 21,731 14.5 24 Geely 11,899 19,561 64.4 25 Lifan 14,961 19,323 29.2 ( 出所 )AEB から5 位に下降した 第 6 位のVWの主力は現地生産の低価格車 ポロ セダン (Bセグメントカー:44 万 9,000 ルーブル~) とティグアン (SUV:89 万 9,000 ルーブル~) で 2013 年 1~9 月期のVWの総販売台数の6 割以上をこの2モデルが占めた 第 7~8 位には日本のトヨタと日産が入っている 両社とも比較的高価なSUVが販売の中心である トヨタの場合は カローラや現地生産車のカムリといったセダンと並び RAV4 ランドクルーザー 200 ランドクルーザープラドなどのSUVが主力を形成し 2013 年 1~9 月期のロシアでの販売台数の過半をSUVが占めた 日産の場合は キャシュカイ ( 輸入車 ) エクストレイル ( 現地生産車 ) ジューク( 輸入車 ) 等のSUVが 2013 年 1~9 月期の同社の 販売台数の約 6 割を占めた 第 9 位のフォードの場合は SUVのクーガの売れ行きは好調であったものの 主力の現地生産モデル フォーカス (Cセグメントカー: 57 万 500ルーブル~) と モンデオ (Dセグメントカー :79 万 9,000ルーブル~) が深刻な販売不振に陥り 販売台数が前年同期比で19% も減少した 第 10 位のシュコダも 主力のオクタヴィアA 5(57 万 4,000ルーブル~) とファビア (40 万 9,000ルーブル~) の販売が伸び悩んだことが響き 前年同期比で10% も販売台数が減少した 11 位以下で好調さが目立ったのは プレミアムブランドのメルセデスベンツとBMWで それぞれ20% と14% と販売台数を伸ばした アウディ ランドローバー レクサス等のその他 ロシア NIS 調査月報 2013 年 12 月号 47

特集 ロシア自動車産業とサプライチェーン 図表 3 主要モデル別の販売台数 (LCV を含む ) ( 単位台 ) ブランド名 2012 年 1~9 月期 2013 年 1~9 月期 増減率 (%) 1 LADA Granta 80,965 128,477 58.7 2 現代ソラリス 84,430 85,757 1.6 3 起亜リオ 64,353 67,678 5.2 4 ルノー ダスター 27,250 60,426 121.7 5 5.VWポロ 52,158 53368 2.3 6 フォード フォーカス 68,332 50,406 26.2 7 LADA Kalina 96,513 49,072 49.2 8 LADA Priora 94,519 44,606 52.8 9 シボレー クルーズ 46,448 42,660 8.2 10 LADA Largus 7,017 40,402 475.8 11 シボレー NIVA 44,031 38,574 12.4 12 ルノー ロガン 47,820 38,341 19.8 13 LADA 4 4 40,496 38,100 5.9 14 ルノー サンデロ 36,647 32,490 11.3 15 LADA サマラ 51,009 31,482 38.3 16 シュコダ オクタヴィアA5 37,659 30,910 17.9 17 オペル アストラ 41,094 30,157 26.6 18 トヨタRAV4 20,632 29,981 45.3 19 日産キャシュカイ 29,093 26,744 8.1 20 トヨタ カムリ 25,752 26,091 1.3 21 起亜シード 5,212 24,485 369.8 22 起亜スポーテージ 23,834 24,464 2.6 23 現代 ix35 20,050 24,254 21.0 24 大宇ネクシア 40,724 23,010 43.5 25 VWティグアン 23,492 21,303 9.3 ( 出所 )AEB のプレミアムブランドの販売も堅調で 前年同期の数字を上回った その結果 プレミアムブランドの市場シェアは増加し 2013 年上半期時点で前年同期を0.8ポイント上回る7.3% に達した プレミアムブランドは不況に強いという特性を有しており リーマンショック後の2009 年の不況時にも安定した販売を記録したが 2013 年にも同様の現象が生じたといえよう また 双竜 ホンダ スバルも好調で それぞれ2ケタの伸びを記録した さらにDerways で現地生産を行っているブランドを中心に中国車の販売台数も急激に伸びており Geelyが前年同期比 64% の伸び LifanとGreat Wallも2 ケタの伸びを記録した 主要ブランド別販売状況図表 3からわかるとおり 販売ランキング上位 25モデルの大半は低価格車で占められている ランキング上位になるほどその傾向が顕著で 1 位のGrantaは30 万ルーブル未満での購入が可能となっている 以下 15 位までの大半が 50 万ルーブル未満での購入が可能なモデルにより占められており 50 万ルーブル以上を出さないと購入できないモデルは6 位のフォーカス 9 位のクルーズの2モデルのみである 15 位以内に入っているモデルのもうひとつの共通点は いずれもBセグメント以上のサイズを有しているということである ロシアでは いくら価格が安くともAセグメントカーは大ヒットモデルにはなり難い ロシアで最も人気 48 ロシア NIS 調査月報 2013 年 12 月号

の高いAセグメントカーは大宇のマチス (24 万 7,000ルーブル~) であるが 2013 年 1~9 月期の販売台数は1 万 8,357 台 ( 第 28 位 ) にすぎなかった 上位 15 位以内に入っているモデルをセグメント別に分類すると Bセグメントカーが5モデル Cセグメントカー (B+ 含む ) が7モデル SUVが3モデルとなるが Bセグメントカーに限定するとその大半が価格 35 万ルーブル未満のモデルによって占められている 車格のよさが評価されるロシア市場では Bセグメントカーは入門車もしくはセカンドカーという位置づけになっており 価格の安さが大ヒットの必須条件になっていると考えられる その関係で 価格の高い日本のBセグメントカーはロシア市場ではほとんど認知されておらず 販売ランキング上位 100 位以内に入っているのは日産のノート (52 万 9,000ルーブル~) だけである 上位 15 位以内に入っているCセグメントカーの価格を見ると 最も高価なクルーズでも約 60 万ルーブルからの購入が可能となっており 価格が60 万ルーブル未満というのがヒットモデルの条件だといえよう ただ 後述の通り 現在 ロシアではCセグメントの大衆化プロセスが急速に進行しており 今後 この上限値が急激に下がる可能性も考えられる 上位 15 位以内に入っているSUVは いずれも 50 万ルーブルを割り込む価格設定となっている SUV 部門では消費者の嗜好が分散し多品種少量販売の傾向が強く大ヒットモデルが出難くなっているのだが 価格を50 万ルーブル未満に設定すれば SUVであっても年間販売台数 5 万台をコンスタントに維持する大ヒットモデルを生み出すことが可能といえる もっとも 価格の安さが大ヒットに直結するわけではない たとえば UAZのSUVは旧式で性能が悪いため 価格が40 万 ~50 万ルーブルと安いにもかかわらず売れ行きは低迷している 次に主要モデルの販売台数の増減率に目を転じると ある異変に気づく 価格は非常に安 いものの 陳腐化した ( 市場に登場してから長い間フルモデルチェンジをしていない ) モデルが軒並み販売不振に陥っている事実である たとえば LADAのKalinaとPrioraは前年同期比で順に49% と53% 販売が減少し それよりさらに古いモデルであるサマラの販売も38% 落ち込んだ これはLADA 固有の現象ではなく ルノーの現地生産モデルのなかで市場に登場した時期が最も早いロガンの販売台数は20% 減少し 約 3 年前に市場に登場したサンデロの販売台数も11% 落ち込んだ また 10 年以上前に市場に登場した大宇 (GMウズベキスタン) のネクシアの販売も43% も落ち込んだ 一方 Granta ダスター Largusといった比較的最近市場に登場した廉価モデルは軒並み好調な販売を記録した 以前は 40 万 ~45 万ルーブル未満の価格帯においては 長い間モデルチェンジをしていない車であってもコンスタントに売れる傾向が顕著であった つまり つい最近までは 廉価モデルに関しては商品寿命が長いという傾向が見受けられたのだが 2013 年に入ってからの動きを見ていると 廉価モデルを購入する人々の間でも モデルの新鮮味を重視する傾向が顕著となってきたとの印象を受ける この傾向が定着することがあれば LADA 大宇 ルノーといった廉価モデルを主力とするメーカーは ロシア市場での戦略を抜本的に見直す必要に迫られるだろう 地域別販売動向 ( 外国ブランド車 ) ロシアの調査会社 Autostat によれば 2013 年 1~9 月期のロシア市場での外国ブランドの新車の販売台数は前年同期比 4.2% 減の160 万 3,160 台とされている 連邦構成主体別に見て最もシェアが大きいのはモスクワ市で 第 2 位はサンクトペテルブルグ市となっている ただ モスクワ市の場合は 前年同期比で6.3% 減と全国の平均値を上回る販売の落ち込みを記録し そのシェアは前年同期の31.71% から ロシア NIS 調査月報 2013 年 12 月号 49

特集 ロシア自動車産業とサプライチェーン 31.02% にまで減少した 一方 サンクトペテルブルグ市の市場の縮小規模は2.6% と小幅にとどまり 同市のシェアは前年同期の8.51% から8.65% に上昇した 売上ランキング25 位内に入っているその他の連邦構成主体の動向を見ると スヴェルフドロフスク州 (3 位 ) ニジェゴロド州(9 位 ) チェリャビンスク州 (11 位 ) クラスノヤルスク地方 (15 位 ) ケメロヴォ州(17 位 ) ノヴォシビルスク州 (20 位 ) イルクーツク州(25 位 ) において前年同期比で5% 以上販売が落ち込んでいるが 最も減少幅が大きかったのはケメロヴォ州で 21% も減少した また クラスノヤルスク地方でも14% 販売が落ち込んだ 売上ランキング25 位以内に入っている連邦構成主体のうち 前年同期よりも販売台数が伸びたのは クラスノダル地方 (4 位 ) タタルスタン共和国 (6 位 ) バシコルトスタン共和国 (7 位 ) モスクワ州(18 位 ) オレンブルグ州 (21 位 ) の5つだけだが とくにモスクワ州の伸びは著しく 前年同期を26.1% も上回る2 万 220 台の販売を記録した 連邦管区別の販売動向を見ると ロシア最大の市場であるモスクワ市を中心とする中央連邦管区と 第 3 位の市場である北西連邦管区の販売の減少幅は 全国平均値とほぼ同じ4.7% と4.2% であった このため両連邦管区の市場シェアは前年同期と変わらず順に約 42% と約 12% となっている 最も販売が好調だったのはタタルスタン共和国やバシコルトスタン共和国を中心とする沿ヴォルガ連邦管区で 前年同期比 0.5% の伸びを記録し 市場シェアを前年同期の18.49% から19.4% に上昇させた また ソチ オリンピック景気に沸く南連邦管区の販売も堅調で 前年同期と同じ販売水準 (13 万 1,120 台 ) を維持することに成功した その結果 同連邦管区の市場シェアは前年同期よりも約 0.4ポイント上昇し8.18% に達した 一方 シベリア連邦管区 ウラル連邦管区 極東連邦管区での販売は不振で 前年同期比の減少幅は順に12.9% 5.4% 20.1% であった セグメント別販売状況セグメント別の販売状況を見ると 不振ぶりが際立っているのはCセグメントで 2013 年 1 ~9 月期の市場シェアは前年同期から7ポイントも減少し23.4% にとどまった なかでもとくに苦戦したのが フォード フォーカス シュコダ オクタヴィア オペル アストラといった比較的高価な ( 約 60 万ルーブル~) のCセグメントカーで いずれも2ケタの販売の落ち込みを記録した 一方 同じCセグメントカーでも 列挙したモデルよりも安価で40 万ルーブル台での購入が可能な起亜リオや現代ソラリスといった外国ブランドのモデルの売れ行きは比較的堅調で わずかではあるが前年同期よりも販売台数を伸ばした これは Cセグメントの大衆化が急激に進んでいることを示す事象と判断される かつて Cセグメンカーを保有することはロシアの人々にとって一種のステイタスであったが 大衆化の進行に伴い Bセグメントカーとほぼ同列の入門車的な位置づけになりつつあると推測される このため 価格の高い本格的なCセグメントカーは売れなくなり サイズは小さめではあるが破格に安く かつ市場での鮮度をまだ維持しているCセグメントカーしか売れなくなっているのではないか ちなみに フォーカスなどよりもさらに価格の高い日本ブランドのCセグメントカーはすでに4~5 年前から売れなくなっており 現時点 (2013 年 1~9 月期 ) でモデル別売上ランキング50 位以内に入っているのは 26 位のトヨタ カローラだけとなっている 2) さらに C セグメントの大衆化プロセスの進行に伴い同セグメントにおける価格競争も激化しており たとえば 起亜のロシア担当責任者は リオが属するセグメントでは2013 年に入り価格競争が激化しており ダンピング合戦の様相を呈し 50 ロシア NIS 調査月報 2013 年 12 月号

ている このため リオの場合は 販売による利益をディーラーが確保することが難しくなっている そのような場合 われわれはディーラーの損失の大半を補填する と告白している ( RBCデイリー 紙 2013.4.4) また Cセグメントカーを主力とするプジョーのロシア担当責任者も ダンピング合戦に巻き込まれ同社のディーラーの多くが利益を確保できなくなっていることを事実上認めている (auto.ru 2013.10.18) こうした状況を勘案すると 日本の比較的価格の高いCセグメントカーがロシア市場においてかつての勢いを取り戻すことは難しいと判断される 3) Cセグメントカーが人気を落とすなか 逆にプレゼンスを強化しているのはSUVである ロシアでは以前からSUVの人気が高かったが 各社がSUVのラインナップを強化し比較的手頃な価格のモデルが市場に多数供給されるようになった結果 Cセグメントからシェアを奪う形で その存在感を強めつつある ロシアの調査機関 Autostat のデータによれば 2013 年 1~9 月期のSUVの市場シェアは前年同期を 5ポイントも上回る35.3% だったとされている ロシアの消費者には車格のよさを評価する傾向が強く見受けられるが おそらく SUV の方がCセグメントカーより車格がよくステイタスも高いとみなす消費者が多く そのことがSUVの売れ行きのよさの一因になっていると推測される なお 先に日本メーカーのCセグメントカーの人気が低迷していると述べたが 一方で日本ブランドのSUVの人気は非常に高く モデル別売上ランキング50 位以内 (2013 年 1~9 月期の実績 ) に入っている13の日本ブランドのモデルのうち11がSUVとなっている その結果 ほとんどの日本メーカーにおいて ロシア市場での新車販売台数の過半をSUVが占めるという傾向がみられる ( なかにはSUVの比率が約 90% に達するメーカーも存在する ) 金利負担軽減措置自動車ローンの金利のうち ロシア中銀の政策金利の3 分の2に相当する分を国が補助するという措置 経済危機直後の2009 年から2011 年末まで導入され効果を生んだ自動車販売促進策だが 2013 年に入ってからの市場の停滞傾向を受け 2013 年 7 月より再導入されることとなった 実施期限は2014 年末までになっているが それまでに予算を使い切り 2014 年 6 月ごろに打ち切りとなるのではないかとの見方もある いずれにせよ この措置は今後 販売の減少幅の縮小にある程度の貢献をするとみられている 今回も補助の規模は政策金利 (2013 年夏時点で8.25% であった ) の3 分の2に設定されているが WTOへの配慮から 前回は国産の低価格乗用車 ( 総重量 3.5t 未満の小型商用車を含む ) だけが対象だったものが 今回は輸入車も対象となり 価格の上限も前回より高い75 万ルーブルに設定された 条件が緩和されたこともあり 同措置は好評を博しており 導入後から 9 月末までの間に約 10 万台の車が当該の措置を利用して販売された このペースでいけば その総数は年末までに25 万台程度に達すると見込まれている 前回の自動車ローン金利負担軽減措置の場合は 価格が60 万ルーブル ( 当初は35 万ルーブル ) 未満の国産車に対象が限定されていたので 措置の枠内で販売される車の大半がLADA 車であった しかし 今回は価格の上限が引き上げられた上に輸入車も対象となったので シボレー 現代 起亜 オペル フォードといった外国ブランドの車も恩恵を被り 全体の約 70% を占めるといわれている 今後の見通し自動車ローン金利負担軽減措置が導入されたものの 同措置が劇的な効果を生み販売の大幅増加につながる可能性は低く 年末までは販売の停滞傾向が続くというのが市場関係者の ロシア NIS 調査月報 2013 年 12 月号 51

特集 ロシア自動車産業とサプライチェーン ほぼ一致した見解である ただし 中長期的な見通しに関しては楽観的な意見が多く 多くの市場関係者が 1ロシアの人口 1,000 人当たりの乗用車保有台数は300 台未満と先進国と比較するとまだ少なく伸びる余地が大きい 2ロシアに登録されている乗 用車の平均車齢は10 年以上と非常に高く 大きな買い替え需要が期待できる といった点を主要な根拠として 中長期的にみた場合 ロシア市場のポテンシャルは非常に高く 比較的早い時期に状況は好転し販売がプラスに転じる との見解を示している 図表 4 ロシアの石油生産量 ( ガスコンデンセートを含む ) の推移 ( 単位 100 万 t) 600 500 400 300 200 100 0 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 307 301 306 303 305 324 348 380 421 459 470 480 491 488 494 505 511 518 ( 出所 ) 石油ガス垂直統合 誌各号より 図表 5 ロシア原油 ( ウラルブレンド ) の国際価格の推移 ( 各年の平均値 ) * ( 単位バレル / ドル ) 120 100 80 60 40 20 0 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 11.8 17.2 26.8 23 23.8 27.1 34.4 50.4 61.1 69.3 94.4 61.1 78.2 109.3 110.5 ( 注 ) * 2013 年上半期の Urals の平均価格は 106 ドルで 通年でも前年の数字を若干下回る可能性が高いとみられている ( 出所 ) 石油ガス垂直統合 誌各号より 52 ロシア NIS 調査月報 2013 年 12 月号

より具体的に言えば 2014 年から市場は回復傾向に転じ その後販売の漸増傾向が続くと見る関係者が多いのだが なかにはBoston Consulting Group( 以下 BCG) のように 今後 ロシア市場は急激に回復し 2020 年までにその規模は440 万台 / 年に達する との大胆な予測を行う者もいる ( RBCデイリー 紙 2013.7.19) ロシアの乗用車市場に拡大の可能性が残っている点は否定しないが 2020 年時点で440 万台 / 年にまで販売台数を増加させることを可能にする爆発力がロシア市場に残されているとは筆者にはとても思えない その理由は以下の通りである ロシアは連邦予算の歳入総額の4 割以上を石油分野からの収入が占める典型的な産油国で 2000 年代に入ってからの乗用車市場の爆発的な拡大を牽引したのもやはりオイルマネーであった すなわち 2000~2004 年までは主として急激な石油の増産 ( この4 年間にロシアの石油生産量は約 1 億 3,000 万 tも増加した : 図表 4) が 石油の生産量の伸びが鈍化した2005 年以降は主として油価の急激な上昇 ( 図表 5) が それぞれロシアの乗用車市場の爆発的な伸びを牽引した ところが2009 年になり ロシアの乗用車市場はオイルマネーへの依存度の高さがもたらす弱点を露呈する 石油生産の停滞傾向が続くなか 油価が大幅に下落したため 市場規模が急速に縮小したのである その後 ロシアの乗用車市場は順調に回復したが それを可能にしたのもまた 油価の高騰だと考えられる ここで注目すべきは ロシアの石油生産分野にはもはや増産余力がほとんど残っておらず 2015 年以降は減産に転じる可能性が高いという事実である 一部には 最悪の場合は 2030 年にはロシアの石油生産量は3 億 6,000 万 t/ 年にまで減少する との見方もある 大陸棚鉱 床やタイトオイル層の開発が順調に進展すれば最悪の事態は回避できるだろうが いずれにせよ ロシアの石油生産量が今後急激に伸びる可能性は低い もはや 石油の増産がロシアの乗用車市場を浮揚させる要因として機能することはないと考えるのが妥当であろう となると 油価がさらに大幅に高騰し 1バレル当たり150ドルあるいは200ドルの水準にでも達しない限り かつてのような爆発力をロシアの乗用車市場に期待するのは難しいのではないだろうか 過度に悲観的になる必要はないが 産油国ロシアの現状を勘案すると BCGの予測は楽観的すぎる気がしてならないのである ( 坂口泉 ) 注 1) 年初の2ヵ月に前年同月を上回る販売台数を達成した主因は 多くのメーカーが2012 年製モデル ( 一部 2011 年製モデルも含まれていたという ) の在庫一掃セールを実施したことにあるといわれている なかには不振の欧州市場で売れ残った車をロシア市場に大量に投入したことで 2013 年秋時点でも在庫一掃セールの継続を余儀なくされているメーカーもあるようだ 2)51~100 位にはマツダ3 日産ティーダ 日産アルメーラ 三菱ランサーがランクされている うち日産アルメーラはAvtoVAZ で現地生産されている低価格車 (42 万 9,000ルーブル~) で 今後 生産が本格化すれば販売台数も増加し 上位に食い込む可能性がある 3) 日本ブランドのCセグメントカーの人気が最も高かったのは2008 年で モデル別販売ランキング上位 25 位以内に トヨタ カローラ (5 位 ) 三菱ランサー (6 位 ) マツダ3(13 位 ) ホンダ シビック (16 位 ) 日産アルメーラ クラシック (25 位 ) の5モデルがランクインしていた ロシア NIS 調査月報 2013 年 12 月号 53