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平成24年7月x日

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結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

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三浦光一 1 NASH 標準食 (Standard diet) CSAA 食 ( コリン欠乏食のコントロール食 ) CDAA 食 ( コリン欠乏食 ) を 22 週投与した WT マウスの所見 (A) 上段から HE,HE 拡大 α SMA 免疫染色, Sirius red 染色 CCR2 免疫染色 F4/80 免疫染色 Ly6C 免疫染色 (B) CCR2 F4/80 Ly6C の各陽性細胞数 (C) Real-time PCR による肝組織中遺伝子発現比較 (D) CSAA および CDAA 食投与マウスから分離したマクロファージの遺伝子発現 Real-time PCR 2

2 CCR2KO NASH WT および CCR2KO マウスにコリン欠乏食を 22 週投与した所見 (A) 左より HE 染色 Oil red O 染色 α SMA 免疫染色 Sirius red 染色 (B) 血清 ALT (C, D) Real-time PCR による肝組織中遺伝子発現比較 NASH 由来マクロファージでは TNFα IL-1βなどの炎症性サイトカイン MCP-1 CCR2 発現が増加していた ( 図 1D) これらのことから炎症性マクロファージが NASH において重要な役割を果たしていると考えられた CCR2KONASH 次にマクロファージの誘導が NASH に及ぼす影響を検討するため CCR2KO マウスにコリン欠乏食を 22 週投与した CCR2KO マウスでは脂肪肝 炎症細胞浸潤 肝細胞の風船様変化が軽減した ( 図 2A) 血清中の ALT 値も KO マウスで低値を示した ( 図 2B) 肝臓組織内の炎症性サイトカインの mrna 発現レベルにおいても KO マウスで TNFαや IL-1βが低値であった ( 図 2C) 次に進行した NASH の所見である肝線維化の評価を行った KO マウスでは NASH に特徴的な perisinusoidal fibrosis やαSMA 発現が軽減した ( 図 2A) さらに肝組織でのコラーゲンや TIMP-1 などの線 維化関連遺伝子発現も KO マウスで低値であった ( 図 2D) 以上の所見より CCR2 は NASH の進行に密接に関与していることが判明した CCR2 は NASH において炎症性マクロファージを誘導する CCR2KO マウスで脂肪性肝炎が軽減したことから 肝臓におけるマクロファージ数を計測した F4/80 陽性細胞や Ly6C 陽性細胞は WT マウスで NASH 進行とともに増加したのに対し CCR2KO マウスでは増加は軽微であった ( 図 3A,3B) 肝組織での mrna レベルでも MCP-1 F4/80 CD68 などのケモカインやマクロファージのマーカーは CCR2KO マウスで低下した ( 図 3A,3B) TLR MCP-1 NASH 次に TLR と炎症性マクロファージとの関連を検討するため TLR4KO, TLR9KO さらにはそれら下流のアダプター分子である MyD88 の KO マウスを用いて 3

三浦光一 3 CCR2 NASH WT および CCR2KO マウスにコリン欠乏食を 22 週投与した所見 (A) 上段より F4/80 免疫染色 (CSAA 食 ), F4/80 免疫染色 (CDAA 食 ), Ly6C 免疫染色 (B) F4/80 陽性細胞数および Ly6C 陽性細胞数 (C) Real-time PCR による肝組織中遺伝子発現比較 NASH を誘導した TLR4KO マウス TLR9KO マウス MyD88KO マウスでは NASH は軽減し それら肝臓において MCP-1 CCR2 F4/80 および CD68 発現は低下した ( 図 4A) それら KO マウスでは F4/80 陽性細胞 CCR2 陽性細胞 Ly6C 陽性細胞数は肝臓で減少した ( 図 4B) 肝マクロファージに TLR4 ligand である LPS や TLR9 ligand である CpG-DNA で刺激すると MCP-1 発現が増加した このことから TLR-MCP-1-CCR2 を介したマクロファージの誘導は NASH 促進のひとつのメカニズムと考えられる CCR2NASH NASH において CCR2 を介した炎症性マクロファージの誘導が重要との結果より まずコリン欠乏食開始と同時に CCR2 阻害剤を 2 週間投与した CCR2 阻害剤投与により肝臓における F4/80 陽性細胞 CCR2 陽性細胞 Ly6C 陽性細胞は減少し ( 図 5A,5B) 脂肪性肝炎の軽減を認めた ( 図 5A,5C) 脂肪肝の軽減は肝組織 中の中性脂肪量も減少でも証明された ( 図 5D) また血清 ALT 値 肝組織中 TNFαやIL-1 β 発現が減少した ( 図 5F) また遺伝子レベルで線維化マーカーは上昇したが CCR2 阻害剤により発現低下が認めた ( 図 5G) 次に NASH と診断されてからの治療介入をの効果をみるため NASH が完成してから CCR2 阻害剤を投与した 早期投与と同様に CCR2 阻害剤にて CCR2 陽性細胞や Ly6C 陽性細胞は減少した ( 図 6A,6B) 脂肪肝は有意に改善しなかったが ( 図 6A,6C) 炎症細胞浸潤 ALT 値 肝線維化が改善した ( 図 6A, 6D,6E) よって NASH が完成された状態からでも CCR2 阻害剤は有用である 本研究結果から NASH の発症や進行にはマクロファージの誘導や活性化が重要であることが判明した 最近の研究で マクロファージはおおまかに分けて炎症性作用を有する M1 マクロファージと抗炎症作用を有 4

4 TLR MCP-1 NASH WT TLR4KO TLR9KO MyD88KO マウスにコリン欠乏食および CSAA 食を 22 週投与した所見 (A) Realtime PCR による肝組織中遺伝子発現比較 (B-D) F4/80 陽性細胞数 CCR2 陽性細胞数および Ly6C 陽性細胞数 (E) WT マウスより肝マクロファージを分離し LPS および CpG で刺激した際の MCP-1 発現 Real-time PCR による遺伝子発現比較 する M2 マクロファージが存在することが知られている コリン欠乏食誘導による NASH では肝臓から分離されるマクロファージは TNF αや IL-1 βなどの炎症性サイトカインの発現レベルが高いことや骨髄由来炎症性マクロファージである Ly6C 陽性マクロファージが認められる よって本 NASH モデルで誘導されるマクロファージは炎症性マクロファージが主体であると推定される これら炎症性マクロファージは CCR2 KO マウスで誘導が抑制され その結果 NASH が軽減したことから MCP-1 および CCR2 を介するマクロファージの誘導が NASH 病態に関わっていることは明らかである 治療を考慮した場合 CCR2 阻害剤が有用であると考えられるが 実際 CCR2 阻害剤により炎症や肝線維化が改善した CCR2 阻害剤は海外で糖尿病治療の臨床治験も始まっており 今後治療薬として期待される 一方 肝臓には組織マクロファージである Kupffer 細胞が存在するが あらかじめ clodronate で Kupffer 細胞を除去しておくと その後の NASH 誘導において炎症が軽減する 3) 我々の検討では Kupffer 細胞は炎症性サイトカイン産生に加え MCP-1 産生源であると考えられ た よって組織マクロファージである Kupffer 細胞も炎症性マクロファージの誘導に関与し NASH 発症において重要な役割を果たしていると考えられた これら CCR2KO マウス CCR2 阻害剤 さらには Kupffer 細胞を除去した場合 脂肪肝の程度も軽減する所見がいくつかの実験で認められた すなわちマクロファージの変化により直接関係ないと思われた脂肪肝の程度も改善している よって脂肪性肝炎でみられる脂肪肝は炎症に付随する所見であることを示唆する これらの所見を合わせると脂肪性肝炎ではマクロファージをコントロールすることが治療においても重要であると考えられた 今後は骨髄移植によるキメラマウス作製により マクロファージに発現する TLR や CCR2 が 病的マクロファージ を生み出す原因となり得るのかを検討する また TLR ligand の供給源は腸内細菌叢にあると推定される よって抗生剤やプロバイオティクス投与により腸内細菌叢をコントロールも治療もオプションと考えられ 今後研究を展開していく予定である 5

三浦光一 5 CCR2 NASH WT マウスに CDAA 食を負荷し CCR2 阻害剤を 2 週間同時投与した所見 (A) 上段より F4/80 免疫染色, CCR2 免疫染色 Ly6C 免疫染色 HE 染色 (B) F4/80 陽性細胞数 CCR2 陽性細胞数および Ly6C 陽性細胞数. (C) NAFLD activity score. (D) 肝組織中性脂肪量. (E) 血清 ALT. (F,G) Real-time PCR による肝組織中遺伝子発現比較. NASH の発症原因は不明な点が多く その解明が有効な治療法の開発につながると考えられる 我々は NASH の発症原因としてマクロファージにフォーカスをあて 研究を行った WT マウスにコリン欠乏食を与えると典型的 NASH が誘導され 肝臓に多数の炎症性マクロファージが浸潤した CCR2KO マウスでは炎症性マクロファージ誘導抑制と伴に NASH が軽減した また MCP-1-CCR2 の上流に位置する TLR4 や TLR9 の各 KO マウスでは NASH が軽減し MCP-1 および CCR2 発現が低下し 炎症性マクロファージの誘 導が抑制された また CCR2 阻害剤を用いて炎症性マクロファージの誘導を抑制すると NASH が軽減した よって本研究では NASH の発症や進展においてマクロファージの重要と考えられた 6

6 CCR2 WT マウスに CDAA 食を 18 週負荷後に CCR2 阻害剤を 4 週間同時投与した所見 (A) 上段より CCR2 免疫染色 Ly6C 免疫染色 HE 染色 Sirius red 染色 α SMA 免疫染色. (B) CCR2 陽性細胞数および Ly6C 陽性細胞数. (C) 肝組織中性脂肪量. (D) NAFLD activity score.(e) 血清 ALT 本研究を遂行するにあたり 研究助成を賜りました公 益財団法人三島海雲記念財団に深く感謝申し上げます 1)Day CP and James OF. Steatohepatitis: a tale of two "hits"? Gastroenterology. 1998 ;114:842-5. 2)Miura K, et al. Toll-Like Receptor 9 Promotes Steatohepatitis by Induction of Interleukin-1beta in Mice. Gastroenterology. 2010;139:323-334. 3)Miura K, et al. Hepatic recruitment of macrophages promotes nonalcoholic steatohepatitis through CCR2. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2012;302:G1310-21. 7