腓骨筋腱炎における疼痛出現時期と足部アーチ低下との関係について -4 症例に認めた歩行時の特異的所見 - 小林諭史 1) 吉川友理 1) 山本昌樹 2) 1) 医療法人アレックス上田整形外科クリニックスポーツ関節鏡センター 2) 特定医療法人誠仁会大久保病院明石スポーツ整形 関節外科センターキーワード : 腓骨筋腱炎 歩行 長腓骨筋 足部アーチ はじめに 腓骨筋腱炎の発症には 後足部の内反や回外 腓骨筋滑車の肥大 慢性足関節外側不安定性 踵骨骨折後の合併症などが報告されている 今回 腓骨筋腱炎と診断された 4 症例に共通する理学所見と歩行時の特異的所見について若干の考察を加えて報告する 症例には 本発表の目的と意義について十分に説明し 同意を得た 症例紹介 症例 1 は 60 歳代女性 足関節内反捻挫をきっかけとして疼痛が発現した 症例 2 は 10 歳代女性 2 ヶ月前よりソフトテニスの練習中に疼痛が発現した 症例 3 は 60 歳代女性 数週間前より歩行時に疼痛が発現した 症例 4 は 60 歳代女性で 徒歩での通勤時に疼痛が発現した 全症例の疼痛は荷重時痛であり 足関節外側部に発現した 理学療法評価 全症例に共通する理学所見は 歩行時の初期接地期に後足部が回外し 立脚中期から踵離地期に足部アーチの低下と荷重時痛を足関節外側部に認めたことであった 荷重位単純 X 線画像における M1-5 角の平均値は 26.9±2.1 であり全症例において開帳足傾向であった 林らによるフットプリントの分類において 症例 1 は横アーチ低下足 症例 2 は後足部回内足 症例 3 は扁平足 症例 4 は後足部回外足であった 圧痛は全症例において長腓骨筋腱に認めた 治療内容 全症例に対して足底挿板を作製した 足底挿板は後足部回内誘導による初期接地期の踵骨直立化 立脚中期から踵離地期における足部アーチ低下に対して中足部から前足部まで保持し 足部マルアライメントを是正することを目的に中足骨パッドを組み合わせて作製した 全症例において 足底挿板により疼痛の消失ないし軽減を認めた また 運動療法として足部内在筋トレーニングを実施し 足部アーチ保持を促した 考察 今回 全症例に共通する理学所見は 歩行時の初期接地期に後足部が回外することと 立脚中期から踵離地期に足部アーチの低下と荷重時痛を足関節外側部に認めたことであった 初期接地期の後足部が内反や回外することは腓骨筋腱炎の身体的特徴として報告されており 足関節外反の作用を持つ腓骨筋群の過剰収縮を誘発したものと考えられる また腓骨筋のうち 長腓骨筋は楔状骨 第 1 中足骨底に停止し 足部外返しと足部アーチ保持に機能する 立脚中期から踵離地期に認めた足部アーチの低下は足部内在筋の筋力低下をうかがわせる所見であり 足部アーチの保持のために長腓骨筋への負荷が集中し 荷重時に長腓骨筋の収縮時痛が生じたことが 症状の発現につながったものと考えられる そのため治療としては 足底挿板による足部マルアライメントの是正を図り 足部内在筋トレーニングを実施したことで疼痛の消失や軽減を得ることができた 今回の症例のごとく 立脚中期から踵離地期にかけて足関節外側部の疼痛と足部アーチの低下を認める場合は 腓骨筋の中でも長腓骨筋が主たる障害組織である可能性が示唆された
外傷性肩関節前方脱臼に対する理学療法の一例 外旋位固定による保存療法 松平兼一 1) 風間裕孝 1) 1) 富永草野クリニックリハビリテーション科 キーワード : 外傷性肩関節前方脱臼 外旋位固定 肩関節後上方組織 はじめに 外傷性肩関節脱臼では前方脱臼が 95% を占めており 受傷時に前下関節上腕靭帯関節唇複合体 ( 以下 AIGHL-LC) の損傷を伴うことが多い 保存療法では外旋位固定が推奨されており 従来の内旋位固定より再脱臼率が少ないことが報告されている 今回 外傷性肩関節前方脱臼に対して外旋位固定による保存療法が適応となった症例を担当した 肩関節後上方組織の拘縮除去に着目し 順調な経過を辿りスポーツ復帰となったため若干の考察を加え報告する なお 症例には本発表の目的と意義について十分に説明し同意を得た 症例紹介 野球部に所属する 16 歳の男子高校生で 右投右打の内野手である 今年 4 月 23 日 ダイビングキャッチ時に受傷し 同日当院を受診し外傷性左肩関節前方脱臼と診断され 徒手整復後 3 週間の外旋位固定となる 運動療法は固定除去日より開始となった CT 検査および MR 造影検査では骨性 Bankart 損傷および Hill-Sachs 損傷を認めたが 関節包断裂や HAGL 損傷は認めなかった なお 1 年前に初回脱臼をしたが自己整復しており 医療機関は受診していない 理学療法評価 初回評価時 著明な疼痛および圧痛は認めなかった 関節可動域は肩関節屈曲 外転 160 肩関節屈曲 30 位での内旋 60 と若干の制限を認めた 徒手筋力検査は修復を考慮して行わなかった 全身関節弛緩性は陽性で器質的不安定性を有していた 治療内容 肩関節後上方組織の拘縮除去を中心とした関節可動域 ex. 段階的な腱板筋群 ex. 肩甲骨上方回旋筋 ex. を開始した 経過 受傷 6 週目までは修復過程を考慮して肩関節前方組織へのストレスとなる操作は避け AIGHL-LC の修復を優先させるように努めた 同時期における関節可動域は屈曲 外転 180 肩関節屈曲 30 位での内旋 90 と良好であり 徒手筋力検査における腱板筋群および肩甲骨上方回旋筋の筋力が 4 レベルであったため 漸増的にスポーツ復帰が許可された 受傷 7 週目における肩関節伸展 50 位での内旋は 30 ( 対側 30 ) であり エコー所見上 骨頭の前方偏位はなく肩関節後上方組織の拘縮改善を認めた 受傷 3 ヵ月にてスポーツ完全復帰が許可され 問題なく経過したため 運動療法終了となった 考察 外旋位固定は従来の内旋位固定と比較すると 損傷した関節唇を元の位置に戻して関節窩との間に組織癒合を作りやすい特徴を有し 再脱臼リスクの軽減に効果的である 本症例においても外旋位固定が施されたが その固定肢位が故に肩関節後上方組織に拘縮を生じやすいと考えた 同部位の拘縮は骨頭を前方にシフトさせて AIGHL-LC の組織的修復の阻害因子になると推察したため 運動療法では後上方組織の拘縮除去を優先的に行い 損傷組織へのストレス軽減に努めた結果 再脱臼なくスポーツ復帰に至ったと考えられた
手指牽引時の舟状骨の動態について ~ 超音波画像診断装置を用いての検討 ~ 山本紘之 1) 井坂晴志 1) 森統子 2) 浅野昭裕 3) 1) 医療法人優進会いまむら整形外科 2) まつもとペインクリニック整形外科 3) 碧南市民病院 キーワード : 手指 牽引 舟状骨 はじめに ギプス固定中の橈骨遠位端骨折に対する運動療法は 癒着 拘縮予防を目的に手指の ROM 訓練 ( 自動 他動 ) やギプス内での手関節等尺性収縮 また手根骨の可動性を維持する目的で手指の牽引操作を行なう そこで今回我々は 超音波画像診断装置 ( 以下 : エコー ) を用いて 各手指牽引時における舟状骨の動態について検討したので報告する 対象 健常成人 10 名 20 関節 ( 男性 5 名 女性 5 名 年齢 27.9±7.7 歳 ) を対象とした 対象者全てに対し本発表の目的と意義について十分に説明し 同意を得た 方法 端座位にて 肩関節 1st ポジション 前腕 手関節中間位となるように ベッドと前腕の間に台を置き調節した また牽引時に前腕が移動しないように ベルトを用いて椅子と上腕とを固定した 手指全体には滑り止めを巻き先端にはロープを結び ロープの先端には重錘を装着した 100g 単位で動態を確認し エコー上舟状骨の移動が制限される牽引力 ( 以下 : 最大値 ) を計測した 手指の牽引は全指で行い 中手骨の長軸方向に牽引を加えた エコーは日立メディコ社製超音波画像診断装置 MyLab25 を用い 12.0MHz リニア式プローブを使用した 計測は 橈骨遠位端上縁を通過する垂線と 牽引前の舟状骨結節頂点との距離を a 牽引中の舟状骨結節頂点との距離を b とし その差を水平距離として計測した 統計学的処理には paired t-test を用い有意水準 5% とした 結果 最大値の平均は母指 5300g 示指 4600g 中指 4200g 環指 4000g 小指 3900g であった 水平距離は a が 1.89±0.26cm b が母指 2.43±0.26cm 示指 2.04±0.26cm 中指 1.83±0.26cm 環指 1.72±0.23cm 小指 1.72±0.22cm であった 母指示指では統計学的には有意に遠位へ移動し ( 母指示指 p<0.001) 中指では有意差は無く 環指小指では有意に近位へ移動した ( 環指小指 p<0.001) また母指と示指 環指と小指を student s t-test を用いて統計学的処理を行ない 示指に比べ母指では舟状骨結節は統計学的には有意に遠位へ移動した (p<0.001) また環指と小指では舟状骨結節の近位への移動には有意差は無かった 考察 前腕に対して母指示指の中手骨は橈側に傾き 中指は平行 環指小指は尺側に傾いている そのため手指を牽引すると母指示指では手関節が尺屈 中指では牽引 環指小指では橈屈する方向に力が加わる 手関節が尺屈すると舟状骨は橈側へ移動しながら背屈し 手関節が橈屈すると舟状骨は尺側へ移動しながら掌屈する そのため母指示指の牽引では舟状骨が背屈 環指小指では舟状骨が掌屈したのではないかと考えた また手関節は橈屈より尺屈可動域のほうが大きいため 最大値が小指側より母指側で大きかったと考えた 今回の研究から牽引する手指により 舟状骨の動く距離や方向が異なることが分かった これよりギプス固定中の手指牽引操作は 舟状骨の可動性を促し拘縮予防に繋がると思われた
逆行性髄内釘固定術後に生じた膝関節の拘縮が改善した大腿骨骨幹部骨折症例の 1 例 吉永光恵 1) 奥田正作 1 ) 大野雅則 MD1) 1) 水無瀬病院 キーワード : 大腿骨骨幹部骨折 逆行性随内釘 可動域改善アプローチ 筋機能改善アプローチ はじめに 大腿骨骨幹部骨折に対して逆行性髄内釘固定術を受け 著明な左膝関節屈曲可動域の制限を呈した症例の理学療法を経験したので 経過ならびに運動療法について報告する 尚 症例には本発表の意義と目的を十分に説明し同意を得た 症例紹介 70 歳代後半の女性である 60 歳代に左大腿骨転子部骨折の既往があり compression hip screw(chs) にて骨接合術が施行されていた この度 自転車走行中に転倒し左大腿骨骨幹部螺旋骨折を受傷した 前医にて受傷 9 日後に逆行性髄内釘を用いた観血的骨接合術を受けた 手術はCHSを抜去後に髄内釘を挿入する予定であったが CHSの抜去途中で転子下の螺子挿入孔に一致した骨折を生じたため CHSの抜去は行わず予定より短い髄内釘を挿入した そのため骨折部の固定性が不十分と考えられ免荷状態のまま 積極的な運動療法は施行されずに術後 63 日で当院に転院してきた 前医では車椅子自立がゴールであると告げられていた 理学療法評価 初診時 左膝関節屈曲 45 度 伸展 -20 度と著明な可動域制限を呈していた 大腿部の筋萎縮も著明であった 左膝関節屈曲 25 度位より左膝関節屈曲 伸展ともに自動運動は不可能であり 左股関節周囲筋は収縮を認めるものの自動運動は困難であった 左膝関節最大屈曲時に膝蓋骨周囲の軟部組織に強い緊張が確認されたが それより近位の大腿部には屈曲に付随する伸張感は認められなかった 膝蓋骨の可動性はほぼ消失し膝蓋支帯 膝蓋上嚢 広筋群斜走線維を含めた広範な癒着が考えられた また大腿外側部には30cmにわたる皮切痕がみられた 左下肢への荷重は困難で ADLは車椅子移乗が見守りレベルであった 治療 膝蓋骨の可動性を拡大させるため 膝蓋支帯 膝蓋上嚢 広筋群斜走線維の癒着に対し徒手的に剥離操作を実施した 具体的には筋線維方向に対し横断的に骨膜から筋を剥がすように回転操作を加え 遠位部より順に癒着剥離を行った 剥離操作による関節可動域の拡大に併せ 筋収縮機能の改善を目的に自動介助運動を行った 剥離操作後に疼痛が出現しないことを確認し 再癒着 浮腫予防を徹底し理学療法を継続した 経過 左膝関節の伸展は受傷 68 日後に0 度 屈曲は84 日後に80 度 extension lagは-5 度となった 骨癒合の進行とともに荷重訓練を開始し 退院時の162 日後には左膝関節は屈曲 90 度 伸展 0 度 lagは0 度に改善し一本杖歩行が自立した 考察 一般に 60 日以上の膝関節固定では膝蓋上嚢を含めた関節内の強い結合織性癒着が完成すると言われていることより 本症例のROMの回復は極めて難しいと考えられた 不動に伴う膝蓋支帯 膝蓋上嚢 広筋群斜走線維の癒着は高度であり 膝関節の屈曲可動域の改善には限界があった しかし 伸展可動域は0 度を獲得し アンプリチュード機能の改善を得てlagの消失を獲得したことが 最終的に一本杖歩行を可能にしたと考察する
大腿直筋の起始部が鼡径部痛の原因と考えられた一症例栗林亮 1) 木村幹 1) 1) 松戸整形外科病院リハビリテーションセンターキーワード : 鼡径部痛 大腿直筋 変形性股関節症 はじめに 足組み動作と長時間歩行において鼡径部痛を主訴とする症例を経験した 本症例に対して大腿直筋 ( 以下 RF) へのアプローチが有効であったため 今回得た理学所見と実施した運動療法に考察を加えて報告する なお 症例には本発表の目的と意義について十分に説明し 同意を得ている 症例紹介 症例は 70 歳代女性の専業主婦である 誘因なく右鼡径部痛が出現し X 線所見により初期の変形性股関節症と診断されて運動療法開始となった 第 4 腰椎に変性すべりが認められたが 神経症状は表出していない 理学療法評価 圧痛は RF 筋腹と寛骨臼上縁に認めた 健患側ともに Thomas test Ely test PLF test は陽性 仙腸関節のストレステストは陰性であった 腹臥位における股関節内転 10 中間位 外転 10 での膝関節屈曲角度は健患側ともに 130 であった 股関節回旋可動域は腹臥位における膝関節屈曲角度が 90 110 130 と増大するにつれて 健側内旋 60 50 45 外旋 45 40 40 に対して 患側内旋 30 20 15 外旋 40 25 20 と患側に制限を認めた 股関節伸展角度は健側 10 患側-10 足関節背屈角度は健側 10 患側 0 であり 患側の立脚後期が短縮していた 治療内容 RF 筋腹のリラクゼーションに加え RF 起始部の柔軟性改善を目的として股関節包に付着する起始腱が筋腹に対して直線上となる股関節屈曲 90 での膝関節伸展運動と腹臥位において膝関節を屈曲した RF 伸張位での股関節回旋運動を行った また 患側立脚期の延長を目的として腸腰筋 長母趾屈筋 腓腹筋のリラクゼーションとストレッチを行った 経過 4 週後 股関節回旋可動域は膝関節屈曲角度を 90 110 130 と増大するにつれて 患側内旋 55 50 45 外旋 55 50 45 と拡大し 寛骨臼上縁の圧痛と足組み動作時痛が消失した また 患側の可動域が股関節伸展 10 足関節背屈 10 と拡大したことで患側立脚後期が延長し 歩行時痛が消失した 考察 膝関節屈曲角度が股関節内外転肢位に影響を受けないことと Ely test 陽性から膝関節屈曲の制限筋を RF と推察した また 寛骨臼上縁の圧痛や RF を伸張することで患側股関節の回旋可動域が低下したことより 寛骨臼上縁や股関節包といった RF 起始部の柔軟性低下を推察した 田中らは 股関節伸展制限により歩行中の股関節屈曲モーメントが低値を示し 立脚期後半に余分な膝関節伸展筋力が必要になると報告している 本症例の歩行時痛は 腸腰筋の収縮不全を RF が代償したことによる RF 起始部への伸張刺激の反復によって生じたと推察した 足組み動作時痛は RF 起始部の柔軟性低下と RF の収縮を伴った股関節屈曲 内転動作によるインピンジメントや関節内圧上昇によって生じたと推察した 膝関節屈曲位での股関節回旋可動域を指標として RF 起始部の柔軟性改善と歩行時の代償量を減少させたことが鼡径部痛に有効であったと考える
第一中手骨基部骨折に対する早期運動療法 早川智広 1) 岡西尚人 1) 1) 平針かとう整形外科キーワード : 中手骨基部骨折 早期運動療法 開窓ギプス はじめに 母指の骨折は中手骨骨折 特に基部骨折の頻度が多く 他の手指骨折と同様に早期運動療法が重要とされている 今回 空手競技中に第一中手骨基部骨折を受傷した症例の運動療法を担当した 早期の競技復帰を希望した症例に対し開窓ギプスを併用した運動療法を施行し 受傷後 6 週にて競技復帰可能となった この経過と結果に考察を加え報告する なお症例には本発表の目的と意義について十分に説明し同意を得ている 症例紹介 症例は 40 歳代男性である 空手の試合中に右拳にて回し打ちをした際に受傷した 翌日に当院を受診し第一中手骨基部骨折と診断され ピンニング固定及びギプス固定を施行された 6 週後の競技復帰の希望により同日運動療法開始となった 固定範囲は第一指 IP 関節 手関節 第 2 5 指は MP 関節近位までであった 2 週後 X 線透視下にて安定性が良好であったためギプスの中手骨基部背側を開窓し 第一指の固定範囲を IP 関節近位とした 3 週後に抜釘し 4 週後に X 線所見にて仮骨形成を認めギプス除去となった 理学療法評価 運動療法開始時 第 2 5 指の関節可動域は左右差を認めなかった 2 週後第一指 IP 関節は伸展 0 屈曲 50 4 週後のギプス除去時第一指 CM 関節は橈側外転 40 尺側内転 0 掌側外転 40 掌側内転 0 MP 関節伸展 0 屈曲 35 IP 関節伸展 0 屈曲 75 であった 治療内容 受傷後 2 週までは第 2~5 指の内外転運動 各指節間関節の可動域訓練を行った ギプス開窓後は短母指伸筋 ( 以下 EPB) 腱 長母指伸筋 ( 以下 EPL) 腱周囲の皮下軟部組織のモビライセーション IP 関節の他動的な関節可動域訓練 ギプス除去後は EPB 腱 EPL 腱の滑走性の改善 CM 関節 MP 関節の可動域訓練を中心に行った 運動療法は週 2~3 回の頻度で行った 経過 ギプス除去 4 日後には第一指 CM 関節橈側外転 55 掌側外転 55 MP 関節屈曲 50 IP 関節曲 75 に改善を認め その1 週間後には橈側外転に 5 の左右差を認めるも その他の各関節の左右差は消失した 握力は 5 週の時点で左 46 kg 右 38 kgであった 考察 開窓ギプス下における運動療法は足関節周辺骨折や膝蓋骨骨折等での報告が散見され いずれも有効性が示唆されている 本症例は競技特性上フルグリップの獲得が重要であり 医師と協議のうえ症例に十分な説明を行った後ギプスを開窓し CM MP IP 各関節全ての屈曲制限因子となり得る EPB 腱 EPL 腱の滑走性維持を中心とした運動療法を実施した 超音波画像において EPB 腱 EPL 腱はフルグリップ時に遠位への滑走とともに中手骨上を示指へ移動する動態を示す ギプスを開窓したことで腱の遠位への滑走を触知しながら IP 関節の可動域訓練を行うことが可能となり また骨折部周囲の皮下組織への直接的なモビライセーションによって腱の滑走が維持されたことが 早期のフルグリップの獲得と競技復帰につながったと考えた
膝蓋靭帯炎の圧痛部位がスポーツ復帰期間に与える可能性 1) 1) 2) 1) 1) 1) 1) 山下綾乃 八木茂典 小俣浩一 渡辺佳祐 舞弓正吾 開沼翔 境由 1) 1) 3 ) 加里 早川雅代 森戸俊行 1) 東京西徳洲会病院リハビリテーション科 2) 東京西徳洲会病院スポーツリハビリテーションセンター 3) 東京西徳洲会病院関節外科センターキーワード : 膝蓋靭帯炎 圧痛部位 スポーツ復帰期間 はじめに 膝蓋靭帯炎は 主にスポーツ選手の膝蓋腱部に疼痛を惹起する 症状の増悪によりスポーツ活動が制限され 階段昇降や歩行が困難となる例も少なくない また スポーツ復帰まで 6 ヵ月以上要する難治例は 39% を占めると報告されている 我々は初診時における圧痛部位とそのスポーツ時痛消失に要する期間を調査したので報告する 対象 2011 年 1 月から 2013 年 12 月に当院にて膝蓋靭帯炎と診断された 79 名のうち日常的にスポーツを実施している 48 名 70 膝 ( 男性 39 名 57 膝 女性 9 名 13 膝 ) 平均 23.5 才 (9~61 才 ) を対象とした スポーツ種目は野球 10 名 バスケットボール 8 名 サッカー 5 名 空手 5 名 陸上競技 4 名 テニス 3 名 その他 13 名だった なお 症例には本研究の内容について同意を得て情報の取り扱いについては倫理的配慮として個人を特定するものは削除して行った 方法 検討項目は 1) 病期分類 (Roels 分類 ) 2) 初診時各動作 ( スポーツ 階段昇降 歩行 立ち上がり ) における疼痛の有無 3) 初診時における圧痛 ( 膝屈曲位膝蓋腱部 (F 群 ) 膝伸展位膝蓋腱部(E 群 ) 膝蓋骨下極 (A 群 )) の有無と そのスポーツ時痛消失までの期間とした 統計学的検討には Bonferroni/Dunn 法を用い P 値 0.05 未満を有意差ありとした 結果 初診時 Roels 分類は全例 phase3 だった 動作時痛はスポーツ時痛 70 膝 (100%) 階段昇降時痛 30 膝 (42.9%) 歩行時痛 16 膝 (22.9%) 立ち上がり時痛 11 膝 (15.7%) だった 動作時痛消失までの期間は スポーツ時痛は 55.4 日 階段昇降時痛は 30.3 日 歩行時痛は 29.0 日 立ち上がり時痛は 39.3 日だった E 群は 23 膝 E+A 群は 35 膝 F+E+A 群は 5 膝だった F 群は 1 膝 F+E 群は 3 膝 F+A 群は 3 膝 A 群は 0 膝だった スポーツ時痛消失期間は F+E+A 群 ( 76 日 ) E+A 群 ( 74.6 日 ) は E 群 ( 26.5 日 ) に比し有意に長かった (p<0.05) 考察 膝蓋靭帯炎はスポーツ復帰に長期間を要する例が存在するが 難治例となる因子は解明されていない 今回 圧痛部位とスポーツ時痛消失期間との関係を検討し 初診時における圧痛が 膝伸展位膝蓋腱部に膝蓋骨下極を伴う群と 膝屈曲位膝蓋腱部 膝伸展位膝蓋腱部 膝蓋骨下極の 3 者の混合群が治療に長期間を要することが分かった しかし一方 今回症例数が少ないため今後症例を重ねる必要性があると考える また MRI にて膝蓋靭帯表層 ( 滑液包 ) 膝蓋下脂肪体 膝蓋靭帯深層に高信号が認められると報告があり 画像所見による客観的な分類も必要であると考える
一側の高位脱臼型変形性股関節症と対側の外側型変形性膝関節症との合併例に対する治療経験境由加里 1) 八木茂典 2) 山下綾乃 1) 渡辺佳祐 1) 舞弓正吾 1) 開沼翔 1) 早川雅代 1) 小俣浩一 1) 森戸俊行 3) 1) 東京西徳洲会病院リハビリテーション科 2) 東京西徳洲会病院スポーツリハビリテーションセンター 3) 東京西徳洲会病院関節外科センターキーワード : 高位脱臼型変形性股関節症 THA 脚短縮 屈曲拘縮 はじめに 高位脱臼型の変形性股関節症では 脚短縮がみられ 大きく屈曲拘縮していることが多い 相対的脚長差のため立位アライメントや歩容は大きく崩れている 今回 右高位脱臼型変形性股関節症と左外側型変形性膝関節症との合併に対し 右人工股関節置換術 (THA) と左人工膝関節置換術 (TKA) が施行された症例を経験したので報告する 説明と同意 症例には本報告の主旨を十分に説明し 同意を得た 症例紹介 54 才女性 右変形性股関節症 ( 高位脱臼型 ) と左変形性膝関節症 ( 外側型 ) にて 2013 年 10 月に他院にて右 THA 施行され 左 TKA 目的にて当院受診した X 線所見より 右臼蓋に移植骨 2cm の脚短縮 小転子の解離術を認めた 立位アライメントは 右股関節屈曲 左膝関節屈曲 外反位であった 関節可動域は 右股伸展 -20 左膝伸展 -15 であった 歩行は 右立脚相にてデュシェンヌ-トレンデレンブルグ徴候が著明で 左立脚相は短縮していた 10m 歩行時間は 12.1 秒であった 2014 年 1 月に左 TKA(Zimmer LPS flex fixed) 施行 展開は medial parapatella approach であった 経過 左膝屈曲拘縮に対して伸展可動域エクササイズ 大腿四頭筋セッテイング ( 坐位 立位 ) 足踏みエクササイズなどを行った 右股関節屈曲拘縮に対しても積極的にアプローチした 股関節屈曲に作用する大腿筋膜張筋 小殿筋前部線維に対して収縮とストレッチングとを繰り返した 股関節伸展に作用する大殿筋 中殿筋後部線維をエクササイズした 術後 3 週 関節可動域は右股伸展 -10 左膝伸展 -12 となった 歩行は独歩となったが 歩容は右立脚相にてデュシェンヌ-トレンデレンブルグ徴候が著明で 左立脚相が短縮していた 10m 歩行時間は 11.6 秒であった 術後 4 週 関節可動域は股伸展 -5 膝伸展 -4 となったが 歩容 10m 歩行時間に変化はなかった 股伸展にて 10 の lag が残存していたためエクササイズし 右脚に 1cm の補高を行った 歩容の異常は是正され 10m 歩行時間は 8.3 秒と改善した 考察 高位脱臼型の変形性股関節症は 脚短縮がみられ屈曲拘縮していることが多い 腸腰筋 恥骨筋は走行が乱れ 大腿筋膜張筋 小殿筋 中殿筋 内転筋は短縮している これに対する THA は 腸腰筋 内転筋を解離し骨頭を引き下げる しかし 3cm 以上の引き下げは坐骨神経麻痺を生じる可能性があるため それ以下に留められ脚短縮が残存することがある 骨頭引き下げによって恥骨筋 小殿筋 大腿筋膜張筋は更に緊張し屈曲拘縮が助長される 症例は右股関節 2cm の脚短縮と高度な屈曲拘縮があった 左 TKA 術後 膝伸展可動域が改善すると相対的脚長差は拡大することになる 脚長差 1.5cm までは骨盤で代償できると報告されているが 症例は骨盤での代償は困難と考えた そこで右脚に 1cm の補高をすることと右股関節屈曲拘縮を改善することで 相対的脚長差が是正され 歩容改善 歩行速度が向上したと考えられた
後骨間神経麻痺に対して手指伸展機能再建術を施行された一症例 小野正博 1) 見田忠幸 1) 服部司 1) 三倉一輝 2) 山本昌樹 3) 1) 医療法人秋山整形外科クリニックリハビリテーション科 2) 医療法人昇陽会城北整形外科クリニックリハビリテーション科 3) 特定医療法人誠仁会大久保病院明石スポーツ整形 関節外科センター キーワード : 滑走性 筋力 関節固定機能 縫合腱 はじめに 後骨間神経麻痺は 手指の伸展障害を呈するものである 今回 後骨間神経麻痺発症後 手指伸展機能再建術を施行された症例を経験し 良好な成績が得られたため 考察を加え報告する 尚 症例には本研究の趣旨を説明し 同意を得た 症例紹介 症例は 70 歳代の男性である 約 2 年前より誘因なく手指の伸展が困難となり 他院を受診した 約 1 年半 保存的に加療したが症状が改善せず 手指伸展機能を再建するため腱移行術が施行された 手術は 橈側手根屈筋腱を切離し 浅指屈筋の橈側 1/3 を切開して通した後 前腕骨間膜を通して総指伸筋腱と縫合した また 同様の操作で長掌筋腱を浅指屈筋の尺側 1/3 骨間膜を通して小指伸筋腱と縫合する方法が施行された 術後より 6 ヶ月間 他院にて加療されていたが 手指の伸展制限が残存したために当院を受診し 理学療法開始となった 理学療法評価 理学療法初診時の関節可動域は 手関節他動掌屈 65 背屈 70 前腕回内 75 回外 85 と制限を認めたが 母指から小指各関節の他動屈曲 伸展 母指の各自動運動に制限を認めなかった また 示指から小指中手指節関節 (MP) の自動伸展が制限され 手関節掌屈位に比べ中間位 軽度背屈位では制限を強く示した 握力は患側 31.5kg 健側 44.0kg であり 浮腫や圧痛は認めなかった 治療内容 運動療法は 手指 手関節 前腕の関節可動域訓練 縫合腱の滑走訓練を中心に実施した 腱滑走訓練は 手関節掌屈位 中間位での手指自動伸展と他動屈曲運動 同肢位での浅指屈筋収縮訓練 さらに橈骨手根関節を徒手的に固定した状態で手指自動伸展運動 grip exercise を実施した 経過 運動療法開始より 4 ヶ月後 箸での食事動作や排泄動作などの日常生活動作での制限は消失した 更なる筋力強化を目標に運動療法を継続し 加療 6 ヶ月後には手関節中間位での示指から小指 MP 関節の自動伸展が僅かに制限されるものの 患側握力が 41.0 kgと健側とほぼ同等となり 理学療法を終了した 考察 本症例では 縫合腱が浅指屈筋の橈側と尺側 骨間膜を通過するため 同腱の滑走障害が生じる可能性があった そのため 手関節掌屈位にて橈側手根屈筋 総指伸筋の縫合腱を遠位滑走させた肢位にて手指を他動屈曲して遠位滑走を促し 手指自動伸展により近位滑走を促して縫合腱の滑走性改善に努めた また 橈骨前面を走行する橈側手根屈筋腱 長掌筋腱 後面を走行する総指伸筋腱が移行腱として用いられたため 各筋による手関節固定機能が低下し 握力 手指伸展筋力は低下すると予想された そのため 徒手的に橈骨手根関節を固定した肢位で grip exercise 手指の自動伸展を実施し 良好な成績が得られた 本症例では 如何に縫合腱を滑走させ 手指伸展筋力 握力を向上させるかが治療のポイントとなると考えられた
内側膝蓋大腿靭帯 (MPFL) 修復術後に機能解剖を考慮して運動療法を行った一症例 1) 1) 2) 3) 3) 水谷隼大苅谷賢二佐藤文則齋藤正佳赤羽根和良 1) 野口整形外科内科医院 2) 岐阜市民病院 3) さとう整形外科キーワード : 内側膝蓋大腿靱帯 膝蓋骨脱臼 運動療法 はじめに 内側膝蓋大腿靭帯 ( 以下 :MPFL) は膝蓋骨外方脱臼に対する第一制動機構とされており 膝蓋骨脱臼ではまずこの組織が損傷する 今回 外傷による膝蓋骨脱臼にて MPFL 損傷をきたし 修復術が施行された症例を経験した 術後の修復過程と機能解剖を考慮した適切な運動療法により良好な成績が得られたため報告する なお症例には 本発表の目的と意義について十分に説明し 同意を得ている 症例紹介 症例は 18 歳の男性である 体育の際に転倒し受傷した 受傷同日に当院を受診し レントゲン MRI 所見にて左膝蓋骨脱臼骨折 左 MPFL 損傷と診断され 他院にて MPFL 縫合術が施行された 術後から knee Brace 固定を 1 週間装着後退院し 当院にて運動療法が開始となった 日常生活では Patella Brace の装着を義務づけ 医師からは術後 4 週までは屈曲 60 までと制限された 初回理学療法評価 術部の内外側膝蓋下ポータル部は 膝伸展時の膝蓋腱の浮き上がりがなく陥没しており 徒手による膝蓋腱の左右への滑走性も制限されていた また 大腿骨内側顆から内側 4.5 cmの切皮部は 触診より皮下組織との滑走性が乏しかった 術後 1 週での膝他動可動域は 伸展 -5 屈曲 45 extension lag15 flexion lag15 で屈曲最終域にて膝内側部に縦断的な疼痛を訴えた 膝蓋骨は健側と比較し約 2 cmの膝蓋骨低位を認め 徒手による内側方向の持ち上がりが制限されていた 治療内容および経過 運動療法初期は patella setting 膝蓋下脂肪体のストレッチング VM を中心とした筋力訓練を施行した 術後 4 週にて医師より屈曲 90 まで許可されたが 50 付近で膝内側部に縦断的な疼痛を訴えた また 徒手的に膝蓋骨を内側へ寄せると屈曲角度は 60 まで拡大し 外側へ寄せると屈曲角度は 45 まで減少した そこで 膝蓋骨を内側に寄せながら伸展機構のストレッチングと可動域訓練を施行した 術後 8 週にて屈曲 90 獲得し その後は術切皮部の後方への滑走性を促し 屈曲に伴う下腿の内旋を誘導した 術後 10 週で屈曲 120 術後 12 週で屈曲 145 術後 17 週で正座獲得し ADL での脱臼感や不安定性は認めなかった 考察 内側膝蓋支帯と膝関節包の間での癒着は膝蓋骨の長軸方向の滑走障害とともに MCL の後方への滑走障害が生じ屈曲制限を呈すると報告されている 本症例においても 術後 4 週での膝蓋骨の操作による屈曲可動域の変化や 膝蓋骨の内側への持ち上がりが制限されていたことより MPFL を含めた内側膝蓋支帯での癒着が屈曲制限因子であると考えられた MPFL の修復過程を配慮すると 屈曲に伴う膝蓋骨の運動にて過度な伸長ストレスが加わる危険性があるため回避し 徒手的に膝蓋骨を内側に寄せた状態で可動域訓練を行った 修復過程と機能解剖を考慮した運動療法を展開したことにより 不安定性を生じることなく屈曲可動域が獲得できたと考えられた