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隔年結果

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付図・表

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試験中 試験中 試験中 12 月下旬 試験中 試験中 試験中 12 月下旬 試験中 試験中 試験中 1 月中旬 試験中 試験中 試験終了 12 月中旬 試験中 試験中 試験中 1 月上旬 試験中 試験中 試験中 1

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Transcription:

マンダリン -2( 紀州ミカン コウジ ) 1. 原生地と産地形成 1) 原生地と伝播紀州ミカン小ミカン ( 紀州ミカン ) は わが国で長い栽培の歴史があるが 本種は中国原産とされる 中国では江西省南豊 浙江省黄巌県等 長江河岸及び東シナ海沿岸の温州以北に多いといわれ 蒔桔 金銭桔 等と呼ばれている 本種がわが国に伝わった時期は明らかでない 小ミカンは海流の関係で中国南部と往来のあつた九州西岸に伝わり 古くから栽培されていたようである その後次第に各地に広まり 産地の地名を冠した名称が生じた 八代ミカン ( 熊本 ) 河内ミカン( 熊本 福岡 ) 肥後ミカン( 熊本 ) 桜島ミカン ( 鹿児島 ) 津組ミカン( 大分 ) 蒲刈ミカン( 広島 ) 泉州ミカン ( 大阪 和歌山 ) 紀の国ミカン( 和歌山 ) 等である また 本ミカン 真ミカンとも呼ばれる 現在も各地でいろいろな名称が使われているが 園芸学会では キシュウミカン ( 紀州ミカン ) を採用しており ここでは小ミカン等のことを紀州ミカンと呼ぶことにする 紀州ミカンの導入について 和歌山県有田地方には天正 2 年 (1574) に伊藤孫右衛門が肥後の八代から苗木を導入し 宮原や糸我の荘内 ( 現有田市 ) に植えたのが始まりとされる 慶長年間 (1596~1614) の初め頃には大坂 堺 伏見等へ出荷するようになり また 寛永 11 年 (1634) には初めて江戸に出荷した 当時江戸へは伊豆 駿河 三河 上総からミカンが出荷されていたが 有田のミカンが優れていたという 鹿児島県の桜島では 文禄年間 (1592~96) に薩摩藩主島津義弘が朝鮮から帰陣の際に持ち帰って植えたのが桜島ミカンの始まりと伝えられる 一説では島津義弘が関ヶ原戦後 紀州から持ち帰ったとも伝えられる 熊本県ではいろいろな伝説があるように 紀州ミカンが古くから存在し 八代市の高田ミカンは朝廷や幕府への献上によりその名が知ら

れていたが 経済的な栽培は貞亨年間 (1684~88) に河内 小天で始まったとされる 紀州ミカンは 江戸時代初期から温州ミカンが一般に広まる明治時代中頃まで わが国における代表的カンキツであった 前述したように和歌山県下以外にも各地に中小の紀州ミカン産地が形成され 明治時代以降これらの産地は温州ミカンの産地に転換していった 現在 多くのカンキツ産地では紀州ミカンはその姿を消し わずかに古木が残っている程度であるが 鹿児島県 熊本県 和歌山県では 一部に特産果樹として栽培が続けられている 米国には 19 世紀末に日本から伝わり Kinokuni mandarin と呼ばれている コウジコウジ ( 柑子 ) は古くからわが国にあるカンキツで 三代実録 (901) にその名がみられ 延喜式 (927) には駿河 遠江 相模 因幡 阿波等から朝廷に貢進されたことが記載されている 本種は中国にはなく わが国で生じたタチバナの血を引く自然雑種とみなされている 九州には稀で 四国以東に多く分布していたとされる アイソザイム分析の結果から タチバナと中国産マンダリンとの交雑から生じたと考えるのが最も妥当である 上記の文献にも見られるように 8~9 世紀頃には発生し 一部に普及していたようである コウジは 長い間わが国の唯一の生食用カンキツとして 重要な存在であった その後 室町時代に導入されたと推定されているクネンボ また 江戸時代に入って一般に普及しだした紀州ミカンとともに 江戸時代の主要な生食用カンキツの 1 つであったが 前述のように紀州ミカンの普及が進むにつれてコウジは減少傾向をたどった 現在では返り見るものもないほどに減少し まれに古木が残っている程度の存在になっている 2) わが国における栽培概況紀州ミカン紀州ミカンの栽培には古い歴史があるが 経済栽培が始まり産地が形成されるのは江戸時代以降である 江戸時代にわが国の代表的カンキツ

となった紀州ミカンも 明治時代に入ると温州ミカンの普及が進み 明治時代中頃には主座を奪われた 明治時代末期から大正時代にかけてはナツミカン ネーブルオレンジの普及が進み 紀州ミカンは鹿児島県 熊本県 和歌山県 広島県等で特産果樹として栽培が続けられた それでも昭和 9 年の栽培面積は 303ha 存在した その後 昭和 38 年から昭和 55 年頃までは 70ha 前後で推移し 平成 15 年の栽培面積は 102ha 生産量は 1,205t となっている 主産県は 鹿児島県が 55.6ha 和歌山県 20.3ha 熊本県 12.4ha 佐賀県 大分県 広島県である コウジコウジは紀州ミカンの前の時代の主要カンキツであったが 昭和 40 年代前半までは散在樹として 茨城県や和歌山県等に 20ha 程度存在したが 現在ではほとんど栽培はなくなり 古木がわずかに残っている程度である

2. 分類と品種 1) 分類 マンダリンの分類につては マンダリン -1 に記述しているので参 照されたい 田中長三郎の分類によると 紀州ミカンはカンキツ属 後 生カンキツ亜属 ミカン区 コミカン亜区 小果亜類 狭葉品類 ( 葉が 細長い ) に属する 一方 コウジは小果亜類 広葉品類 ( 葉の幅が比較 的広い ) に分類されている 2) 品種 紀州ミカン ( 学名 :Citrus kinokuni hort.ex Tanaka 異名 : 小ミカン ) 紀州ミカンの形態については 形態と生理 のところで記述する 紀 ひらむかく州ミカンの品種として 平紀州 無核紀州 があるが 紀州ミカンと比べ果実に優位性が余りない ひらおおひらひら 平紀州 ( 異名 : 大平ミカン 平ミカン ) 果実重 50~60g 横径 5~5.5cm 縦径 3.5cm である 紀州ミカンより 果実が大きく 扁平である点が異なる 果面は凹点が目立たず比較的滑 らかで 油胞はやや小さく 突出せず 密に分布している 果皮は橙色 厚さ 1.5~2mm で薄く軟らかく 剥皮は容易である 果皮の香りは強い アルベドは黄白色である じょうのう数は 11~14 である 膜はやや薄いが丈夫である 果肉は 橙色で軟らかく多汁である 紀州ミカンに比べてやや早熟であるが 味 はやや淡白で風味も乏しい 含核数は 6~7 粒で単胚性である むかく 無核紀州 ( 異名 : 無核ミカン サネナシミカン ) 果実重 30~40g 横径 4.5cm 程度 縦径 3.2cm 程度で 紀州ミカンよ り小さい 果形は扁球形で 果頂部は凹んでおり 果梗部は普通平らで あるが ごく短いネックを生ずる果実もある 油胞は小さく 平らで 密に分布しており 果面は比較的滑らかである 果皮は橙色 厚さ 2mm 程度で薄く軟らかく 剥皮は容易である 紀州ミカンに比べて浮き皮に なりやすい 果皮の香りは強い アルベドは黄白色である じょうのう数は 10~12 で 膜はやや薄いが丈夫である 果肉は橙色 で柔軟多汁である 紀州ミカンに比べて果皮の着色 減酸が早く 早熟

性であるが やや風味に乏しい 11 月上 中旬頃から可食期になる 本品種は 花粉は健全であるが雌性不稔性であり 受粉しても全く種 子を生じない完全な無核性である この特性は後代に遺伝するので 無 核品種育成のための貴重な育種素材である コウジ ( 柑子 )( 学名 :C.leiocarpa hort.ex Tanaka] 種小名の leiocarpa は 滑らかな果実 の意味で 果皮が非常に滑ら かであることによる 現在はほとんど栽培されていないが 耐寒性が強 く栽培が容易なので 低温地での家庭果樹に向いている コウジの形態については 形態と生理 のところで記述する コウジ するがゆこうに近縁のカンキツとして 駿河柚柑 フクレミカンがある 本品種に ついても 果実形質についてのみ記述する 駿河柚柑 果実重 40~50g で小さい 横径 4.5~5cm 縦径 3.5cm 程度で 果形は 扁球形である 果梗部はほぼ平らであるが 果梗のまわりに少し凹凸が ある 放射条溝は不明瞭である 果面は平滑で光沢があるが コウジほ どではない じょうのうの形がわかる浅い筋状の凹みがある 油胞は小 さく 密に分布している 果皮は黄橙色 厚さ 1.5~2mm で 薄く軟ら かく剥皮は容易である 果皮の着色はコウジより早い アルベドは黄白 色である じょうのう数は 10~11 膜はやや薄く コウジよりやや軟らかい 果 心はやや大きく 裂開する 果肉は黄橙色でコウジより橙色が濃い 肉 質はやや軟で多汁である コウジより減酸が早く食味がよい 成熟期は 12 月上旬頃である 含核数は多く 約 15 粒である コウジと異なり単 胚性である 古い木がわずかに残っている程度である 生食に利用され る フクレミカン ( 学名 :C tumida Hort.ex Tanaka 異名 : 相模コウジ ) 田中長三郎の分類ではコウジとは別種になっているが 一般にコウジ 類として扱われることが多い 果実重 35g 程度 横径 4.5~5cm 縦径 3cm 程度で 果形は扁平である 果面は比較的滑らかで 油胞は小さく 平らで 密に分布している 凹

点は目立たない 果皮の着色は早く 黄橙色で黄色味が強い 果皮の厚さは 2mm 程度で薄く軟らかく 著しく浮き皮になり剥皮は極めて容易である 果皮は非常に弱く 軽い霜でも萎凋 褐変 乾固する アルベドは黄白色である じょうのう数は 10 程度 膜はやや薄いがかなり丈夫である 果肉は橙黄色で軟らかく多汁である やや酸味があり 爽やかな風味である 成熟期は 11 月中 下旬頃で 収穫が遅れると果皮が障害を受ける 含核数は約 10 粒で 種子は丸味があり大きい 胚は多胚性で淡緑色である わずかに古木が残っている程度である 古くは生食に利用されたが 現在はほとんど利用していない 栽培が容易であるので 観賞用として庭木に向く

3. 形態と生理 生態紀州ミカン 1) 形態と生理 (1) 樹の特性生育は緩慢であるが 強健で寿命が長いため大木となる 樹齢 200~ 300 年と推定されている古木が各地に残っている 葉は小さく 葉身の長さ約 8cm 幅 3~3.5cm 程度で 楕円状披針形である 葉は薄く 葉縁にはごく浅い鋸歯があり 葉脈は明瞭である 葉柄は細く 翼葉はない 花は小さく白色 5 弁で通常は単生する 開花期は 5 月上 中旬で 温州ミカンとほぼ同じである 結果性はよい かいよう病には強いが そうか病には弱い CTV には強い方である (2) 果実の特性果実重 50g 程度である 果形は扁球形であるが 木により変異が認められる 果面の粗滑はやや滑 ~ 中で 特に果頂部側に凹点の目立つ果実が多い 油胞はやや小さく普通平らで 分布密度はやや密である 果皮は橙色 厚さ 2mm 程度で薄く軟らかく 少し浮き皮になり剥皮は容易である 果皮の香りは強い アルベドは黄白色である じょうのう数は約 10 膜はやや薄いが丈夫である 果肉は橙色で軟らかく多汁で 風味は温州ミカンに勝る 成熟期は一般には 12 月であるが 暖地では 11 月下旬から可食期になる 含核数は 3~5 粒で単胚性である 2) 気象と土壌紀州ミカンは 樹勢は強健でわが国の自然条件によく適応し 豊産性で栽培は容易である 太い枝が土に埋まった部位から発根する性質がある 紀州ミカンの耐寒性は強く 温州ミカンの栽培地帯では特に問題はない 紀州ミカンは高温や乾燥には弱く 亜熱帯地方では生育が不良といわれる 果実は果皮が薄く弱いため 軽い霜でも低温障害を受けやすく 果皮が褐変乾固し す上がりが起る 紀州ミカンは年内に収穫するので果実の霜害の問題は少ないが 冷涼地では霜害の危険があり また 減酸が

遅く品質が劣る 病害虫の被害は比較的少なく かいよう病には強い CTV にも強い方である しかし そうか病には弱い 土壌条件としては 他のカンキツと同様に排水性 通気性がよい所が望ましい 土壌酸度は ph6 程度の弱酸性が適する コウジ 1) 形態と生理 (1) 樹の特性灌木性で根元近くから枝が分岐し 樹高 3~4m に達する 樹姿は扁球形を呈し 比較的コンパクトな樹形である 耐寒性は強い 枝梢は伸長力がやや弱く 細く短い トゲはない 葉は楕円状披針形で小さく 葉身の長さ 7~9cm 幅 3~4cm である 葉縁には浅い鈍鋸歯があるが ほぼ全縁に近い 葉脈は不明瞭である 葉柄は細く 翼葉はない 花は小さく白色 5 弁で単生する 開花期はやや遅い 結果性はよい かいよう病には抵抗性で CTV に対しても強い方である (2) 果実の特性果実重 30~40g 果形は扁球形である 果頂部はごく浅く凹む 凹みの範囲は狭い 果面はごく平滑で光沢がある 油胞は小さく 埋没しており 密に分布している 果皮は黄橙色になるが 着色は遅い 厚さは 1~1.4mm でごく薄く 軟らかである 果皮はよくしまっているが剥皮は容易である アルベドは黄白色である じょうのう数は約 10 膜は薄いが丈夫である 果肉は淡橙黄色でやや軟 多汁である 減酸が遅く 熟期は 1 月頃である 含核数は約 5 粒で 種子は大きく厚みがある 胚は多胚性で 淡緑色である 2) 気象と土壌樹勢は強健でわが国の自然条件によく適応し 豊産性で栽培は容易である コウジの耐寒性は強く 温州ミカンの栽培地帯では特に問題はない かつてコウジは 太平洋側では茨城県まで 日本海側では北陸地方まで栽培があり 石川県田鶴浜町のものは 能登ミカン と呼ばれ 陳皮 ( 果皮を乾燥したもの ) として富山の製薬原料に用いられたという

病害虫の被害は比較的少なく かいよう病にも強く CTV にも強い方で ある 土壌条件は 他のカンキツと同様に排水性 通気性がよい所が望 ましい 土壌酸度は ph6 程度の弱酸性が適する

4. 栽培管理 1) 栽植紀州ミカンは幼木の生長は緩慢であるが 成木になっても樹勢が衰えず 長命で大木になる コウジも同じような特性を持っている いずれも カラタチ台で樹勢が弱すぎることはないと考えられる このような木の特性から 栽植距離は最終的には 5~6m が必要であるが 初期生育が緩慢で収量が上がらないので 植え付け時は 10a 当たり 110 本程度 (3m 3m) とし その後樹冠の拡大につれて計画的に間伐を行うのが適当である 実際の圃場への植え付けは 温州ミカンと全く同じでよい 2) 整枝 剪定初期の生育が緩慢であるので 植え付け後 3~4 年間の幼木時代はなるべく切込まないで樹冠の拡大を図る その後 5~6 年生の時から枝を間引いて樹形を作って行く 樹形は開心自然形に仕立てるのがよいと思われる 紀州ミカン コウジは小枝が密生するので 日光が樹冠内部まで入るように亜主枝間隔を十分にとり 側枝の切り返しを加えて結果層を厚くするように努める 3) 摘果紀州ミカン コウジともに着果性がよく しかも小果であり 小枝が密生するので摘果には著しく労力を要する 摘果の目安は 30 葉に 1 果程度である 紀州ミカンの場合 大果過ぎても紀州ミカンらしさを失うので L M 果の生産に心掛ける 葉付きミカンとして出荷する場合には できるだけ有葉果を残すようにする 生食用の場合も直花の果実は有葉果に比べて肥大が劣り また 果実がくっついて果梗部がネック状になったり変形果になりやすく 着色むらやカイガラムシによるすす病も出やすいので なるべく有葉果を残す

5. 消費果皮の着色の進んだものから順次収穫する 収穫後 5 日前後予措し 果皮に弾力が出てから出荷する方が荷傷みが少ない 鹿児島県桜島町も紀州ミカンでは 11 月下旬 ~12 月が収穫期で 販売の盛期は 12 月である 熊本県や和歌山県の葉付きミカンの出荷は 12 月 20 日前後の約 1 週間である 紀州ミカンは生食が主であるが ワイン ジャム ミカン酢 ( 未熟果 ) 各種風味のドレッシング ( 未熟果 ) フルーツゼリー( 未熟果 成熟果 ) スパイス ( 未熟果 成熟果 ) 果皮を乾燥して七味とうがらし 漢方薬の生薬としての陳皮に利用されてきた 正月のお飾り用として葉付きで出荷している産地もある 果皮や葉に含まれるシネフリンは血管収縮 血圧上昇 気管支筋弛緩等 副腎髄質ホルモンであるアドレナリン様の交感神経作動性作用を持つ シネフリンは特に紀州ミカンに多く含まれている