鹿児島港耐震強化岸壁の整備について ~ 全国初 スパッド付き深層混合処理船を活用したシラス地盤改良 ~ 鹿児島港湾 空港整備事務所副所長 今林章二 企画調整課 黒岩寛 工務課 林田威将 1. はじめに鹿児島港は 桜島を擁する錦江湾の中程に位置し 東洋のナポリとも称され我が国有数の景観に囲まれた港湾であり 昭和 26 年 重要港湾に指定されている 同港は古来より旅客 交通 物資流通 あるいは都市開発の各般にわたり鹿児島市を中心とした背後圏の拠点港湾として また国内外クルーズ船が多数寄港する南九州の中核である鹿児島県の海の玄関口として発展している 特に 同港を発着とする県内離島 沖縄地方を結ぶ航路は 県内離島 沖縄の住民にとって重要な海上交通手段であるとともに 生活必需品 主要物資 郵便物等の輸送を行っていることから主要な生活航路となっている その中でも同港新港区の複合一貫輸送ターミナルは 奄美 沖縄地方への貨物量の 7 割を取り扱っており 人流 物流の拠点として重要な役割を果たしている 本報告では この新港区の複合一貫輸送ターミナル改良事業 ( 以下 本事業という ) の概要 本事業で整備した耐震強化岸壁 (-9m) 改良工事 ( 以下 本工事という ) の概要並びに 定期フェリーが輻輳する狭隘な水域での航行安全に対応した新型作業船の導入効果や鹿児島特有のシラス地盤の改良に対する施工上の課題と解決策への取り組みについて報告するものである 本港区 新港区 写真 -1 鹿児島港本港区 新港区
2. 新港区の複合一貫輸送ターミナル改良事業の概要 新港区では 主要な課題として次の (1)~(3) の 3 点が挙げられる (1) 既存の矢板式岸壁が供用開始から 40 年以上経過しており 施設の老朽化が進み倒壊の危険性がある (2) 貨物の増大や貨物輸送形態の変化に伴いシャーシやトラック等による輸送が増加していることから 背後の荷さばき地や駐車場等のふ頭用地の不足が深刻である また フェリー乗降客と荷役機械が輻輳しており 荷役効率が悪く 過去に荷役機械による人身事故が発生していることから 安全確保についても懸念されている (3) 鹿児島港は 県人口の約 3 割が集中する県都鹿児島市に位置し 県内離島及び奄美諸島を経由する沖縄への定期航路 ( 人流 物流 ) の基地港であることから 大規模地震時における交易機能 ( 生活物資輸送 ) を持続させるために耐震強化岸壁が必要である 写真 -2 既存岸壁の老朽化 ( 整備前 ) 写真 -3 狭隘なふ頭用地における荷役状況 ( 整備前 ) これらの課題に対応するため 本事業として 既存の岸壁 2 バースを海側に 30m 拡張 ( 前出し ) して新たな岸壁を整備することで 老朽化対策とふ頭用地を確保し その内 1 バースは大規模地震発生時において緊急物資輸送対応のため 10,000GT 級 RORO 船が着岸可能な水深 9m の耐震強化岸壁として整備するものである 写真 -4 乗降客と荷役機械の輻輳 ( 整備前 ) 完成イメージ 埠頭用地 2014 年 3 月 15 日一部供用 耐震強化岸壁 (-9.0m) 2014 年 3 月 15 日供用 貨物上屋 2014 年 3 月 15 日一部供用 旅客ターミナル 2014 年 3 月 15 日供用 航路 泊地 (-9.0m) 整備中 岸壁 (-7.5m)( 改良 ) 整備中 写真 -5 鹿児島港新港区複合一貫輸送ターミナル改良事業の実施状況 (H27.4) と完成イメージ
3. 耐震強化岸壁 (-9m) 改良工事の概要 本工事の構造形式 工法及び施工フローを以下に述べる 3.1 構造形式 工法の検討新港区における耐震強化岸壁の構造形式は 基本設計の結果から要求性能を満たし経済的な重力式岸壁を採用した 重力式岸壁の基本設計では この耐震強化岸壁に求める要求性能を大規模地震 ( レベル2 地震 ) 発生時に早期に利用可能な復旧ができる性能として許容変位量を 200 cm程度とした レベル 2 地震動に対する動的解析 (FLIP) を行った結果 地盤改良無しの残留変位量が 300 cm以上になったことから 地盤改良の必要が生じた そこで 最適な地盤改良工法を検討した結果 深層混合処理工法を採用した 3.2 施工フロー施工フローを以下に述べる なお 以下の1から11までの数字は図 -1 の施工フローチャートと図 -2 の耐震強化岸壁 (-9m) 標準断面図に記載している数字に対応している 1 地盤改良工スパッド付き深層混合処理船を用いて地盤改良を行い 本岸壁に必要な強度を持つ地盤を造る 2 床掘工硬土盤グラブ浚渫船を用いて 地盤改良によって盛り上がり固化した土砂を取り除く 3 基礎捨石工改良した地盤上に捨て石を投入し ケーソンの基礎マウンドを造る 新港区 国 谷山二区 1 地盤改良工 4 ケーソン製作 ( 陸上 ) 10 11 2 床堀工 3 基礎捨石工 6 ケーソン運搬 ( 海上 ) 5 ケーソン進水 45678 7ケーソン据付 8 中詰工 鹿児島県 建築 ( 旅客ターミナル ) 建築 ( 貨物上屋 ) 23 9 9 裏込工 ボーディングブリッジ 1 10 上部工 付属工 道路 駐車場等整備 11 舗装工 - 凡例 - 国 鹿児島県 供用 ( 平成 26 年 3 月 ) 図 -1 施工フローチャート 図 -2 耐震強化岸壁 (-9m) 標準断面図
4 5 6 7 ケーソン製作 進水 運搬 据付本工事に使用するケーソン ( 重さ約 1,600t) を鹿児島港谷山二区の陸上ヤードで製作し 起重機船 (2,200t 吊 ) を用いて海上に進水させる 進水したケーソンは新港区の現場まで引船を使って約 15 kmの距離を 4 時間掛けて曳航し 現場で起重機船 (120t 吊 ) を用いてケーソン全 13 函の据付を行う 8 中詰工ケーソン内部に中詰め材 (20kN/m 3 ) を投入後 蓋コンクリートを打設する 9 裏込工据付けたケーソンから既存岸壁の間にかけて裏込雑石を投入する 10 上部工 付属工上部コンクリートの打設 係船柱 防舷材 車止め等の取付けを行う 11 舗装工コンクリート舗装を行い エプロンを施工する 4. 耐震強化岸壁 (-9m) 改良工事の技術的な課題と解決策今回の地盤改良は 軟弱地盤にセメント等の安定材を混合攪拌し 現地盤を化学的に固結させる深層混合処理工法を採用し 海上施工となることから 深層混合処理船 ( 写真 -6) を採用している 本工事を施工する新港区は湾内の水域が狭い上に航行船舶が頻繁に輻輳するため 航行船舶への配慮が必要である また シラス層はせん断抵抗が大きく改良厚さが 20m 以上あり 改良が困難であることから これらの課題と解決策について以下に述べる 写真 -6 スパッド付き深層混合処理船 4.1 全国初のスパッド付き深層混合処理船の導入新港区の湾内は水域が狭く 定期フェリーや貨物船等の航行船舶が頻繁に輻輳し また 今回の施工範囲が港口付近にあることから 往来する船舶から退避行動を取りつつ作業を進めなければならないため 非常に困難な現場条件となった 図 -3 のとおり 深層混合処理船のアンカーワイヤーの展張範囲が定期フェリーの入出港の妨げとなり 作業船の退避に時間を要するなど ( 退避対象船舶約 3 隻 /12h) 十分な作業時間が取れない そこで 作業船の退避時間を短くするため 全国図 -3 作業状況図 ( 新港区 ) 初となるスパッドとアンカーワイヤーを併用したスパッド式深層混合処理船を採用した 図 -4のとおり 定期フェリー等の入出港の妨げとならないよう移動時以外はスパッド付き深層混合処理船のアンカーワイヤーを緩めて海底に自沈させ 柱状のスパッドを海底に打ち込み船体を固定し施工した
スパッドを深層混合処理船に取り入れたことにより 航跡波等による作業船や掘削ビットの動揺を抑え 約 30mを超える深度まで効率的かつ精度の高い施工を可能とした 作業船を移動させる際には 独自の船体位置管理システムを使って作業船 施工範囲 隣接港口航路の位置関係をリアルタイムに監視しながら 緩めていたアンカーワイヤーを引張することで移動し 施工時の移動時間及び直近の岸壁から定期フェリーが入出港する際の退避時間の短縮を図るなど 作業時間の確保に努めた また 定期フェリー等の運航に支障がないよう アンカー設置後 ( 図 -4) の水深 ( アンカー天端高 ) と位置を正確に把握し 関係各社 ( 海域利用社 ) に事前周知した スパッド スパッド 図 -4 スパッドとアンカーワイヤーの併用 写真 -7 船体固定用スパッド 4.2 シラス層に対応する深層混合処理装置の改良地盤改良するシラス層は厚さが20m 以上あり N 値が 10 前後で角張ったガラス粒子を多く含むことからせん断抵抗力が大きいため 掘削時の貫入 攪拌 引抜障害が発生する可能性が高い 改良前 改良後 そこで 写真 -8,9のとおり せん断抵抗が大きいシ 写真 -8 超鋼製掘削ビット増設 ラス地盤の貫入 攪拌 引抜障害に対応するため 攪拌 翼の形状変更 ( 引抜不能を防止するため攪拌翼端部に上 向きのビットの設置 ) ウォータージェットによる貫入 補助 超硬性掘削ビットの増設 ( 攪拌軸 1 本あたり7 基を 9 基 ) を行った また 層厚が20mを超えるシラス地盤では 施工の際 攪拌翼の摩耗が激しく 超硬性の鋼製部材が1 週間に 20mmも摩耗し 修理や部品交換の時間が作業工程を圧迫 した 作業工程を回復するため 定期フェリー等の入出港に伴う本船の退避時間 (1~2 時間程度 / 回 最大 4 回 / 写真 -9 攪拌翼の形状変更 日 ) を活用し アタッチメントの摩耗 損壊箇所の溶接補強と部品交換を行い 作業効率 向上を図った
5. おわりに鹿児島港新港区は 離島 沖縄向け定期航路が就航し 離島 沖縄の生活を支えるターミナルを有しており 利用頻度も高く ユーザーから耐震強化岸壁 (-9m) 改良工事の早期完成を求められ 平成 23 年に現地着手し 平成 26 年 3 月に供用した 工事期間の制約を受ける中 今回 スパット付き深層混合処理船の投入と掘削ビット等アタッチメントの改良により早期に完了することができた 現在 耐震強化岸壁 (-9m) に隣接する岸壁 (-7.5m)( 改良 ) の工事を進めているが 港口の可航エリア内で浚渫船と定期フェリー等が輻輳していることから 上記の航行安全対策 ( 退避 アンカー位置情報等 ) に留意しつつ ユーザーの早期完成に応えられるよう 作業を進めていきたい 整備箇所写真 -10-10 整備後の耐震強化岸壁 (-9m) 写真 -11 岸壁 (-7.5m)( 改良 ) 工事の施工状況