1. はじめに 1 日常生活や事業活動をめぐる様々なリスクに対応する損害保険の中で 賠償責任保険の存在は 我が国の損害賠償制度において今や欠かすことができないものとなっています 損害保険業界では 数多くの種類の賠償責任保険をご提供することを通じて損害賠償制度にのっとった被害の回復に向けたお手伝いをす

Similar documents
債権法改正が損害保険に及ぼす影響 ~ 中間利息控除に関する規律の見直しについて ~

< F2D95CA8E ED8EB CC8E5A92E895FB8EAE2E6A7464>

民法 ( 債権関係 ) の改正における経過措置に関して 現段階で検討中の基本的な方針 及び経過措置案の骨子は 概ね以下のとおりである ( 定型約款に関するものを除く ) 第 1 民法総則 ( 時効を除く ) の規定の改正に関する経過措置 民法総則 ( 時効を除く ) における改正後の規定 ( 部会資

第 1 民法第 536 条第 1 項の削除の是非民法第 536 条第 1 項については 同項を削除するという案が示されているが ( 中間試案第 12 1) 同項を維持すべきであるという考え方もある ( 中間試案第 12 1 の ( 注 ) 参照 ) 同項の削除の是非について どのように考えるか 中間

法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

1. のれんを資産として認識し その後の期間にわたり償却するという要求事項を設けるべきであることに同意するか 同意する場合 次のどの理由で償却を支持するのか (a) 取得日時点で存在しているのれんは 時の経過に応じて消費され 自己創設のれんに置き換わる したがって のれんは 企業を取得するコストの一

2017 年 ( 平成 29 年 )5 月に成立した 民法の一部を改正する法律 が 2020 年 4 月 1 日から施行されます 民法には契約等に関する最も基本的なルールが定められており, この部分は 債権法 などと呼ばれます この債権法については 1896 年 ( 明治 29 年 ) に制定されて

付加退職金の概要 退職金の額は あらかじめ額の確定している 基本退職金 と 実際の運用収入等に応じて支給される 付加退職金 の合計額として算定 付加退職金は 運用収入等の状況に応じて基本退職金に上乗せされるものであり 金利の変動に弾力的に対応することを目的として 平成 3 年度に導入 基本退職金 付

<4D F736F F D AD97DF88C DC58F4994C52E646F63>

< F31322D985F935F A6D92E8816A2E6A7464>

<4D F736F F D C5F96F182AA C5979A8D C82C682C882C182BD8FEA8D8782CC95F18F5690BF8B818CA082CC8B4182B782A45F8DC48F4390B3816A834E838A815B83932E646F6378>

2. 各検討課題に関する論点 (1) 費用対効果評価の活用方法 費用対効果評価の活用方法について これまでの保険給付の考え方等の観点も含め どう考 えるか (2) 対象品目の選定基準 1 費用対効果評価の対象とする品目の範囲 選択基準 医療保険財政への影響度等の観点から 対象となる品目の要件をどう設

これらの者の消極的損害も認められるようになった このように 差額説の考え方を貫 くと 不都合が生じるので 判例も事実説を加味した修正を施してきた 2 逸失利益と中間利息逸失利益とは 被害者が交通事故に遭わなければ得ることができたはずの利益 であって 1 被害者が事故に遭わなければいつからいつまで働く

1. 口座管理機関 ( 証券会社 ) の意見概要 A 案 ( 部会資料 23: 配当金参考案ベース ) と B 案 ( 部会資料 23: 共通番号参考案ベース ) のいずれが望ましいか 口座管理機 関 ( 証券会社 ) で構成される日証協の WG で意見照会したところ 次頁のとおり各観点において様々

平成  年(オ)第  号

マイナス金利の導入に伴って生ずる契約解釈上の問題に対する考え方の整理

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

金融商品取引法の改正 ~ インサイダー取引規制に係る見直しについて 1. はじめに 2013 年 4 月 16 日に 金融商品取引法等の一部を改正する法律案 が第 183 回国会に提出され 同年 6 月 12 日に成立 同月 19 日に公布されました ( 平成 25 年法律第 45 号 以下 改正法

「自動運転車」に関する意識調査(アンケート調査)~「自動運転技術」に対する認知度はドイツの消費者の方が高いことが判明~_損保ジャパン日本興亜


eam0473_補遺.indd

資料 3 時代の要請を受けた 消費者保護の課題について 平成 31 年 4 月 経済産業省商務 サービスグループ 商取引監督課

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - å§flè¨Šå¥‚ç´—æł¸_éłłå½¢.docx

                                 18

11総法不審第120号

第 5 無効及び取消し 1 法律行為が無効である場合又は取り消された場合の効果法律行為が無効である場合又は取り消された場合の効果について 次のような規律を設けるものとする (1) 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は 相手方を原状に復させる義務を負う (2) (1) の規定にかかわらず

資料の目的 平成 30 年 3 月 7 日の合同部会において 費用対効果評価に関する検討を進めるにあたり 科学的な事項については 医療経済学等に関する有識者による検討を行い 中医協の議論に活用することとされた 本資料は 当該分野の有識者による検討を行い 科学的な観点から参考となる考え方やデータを提示

五有価証券 ( 証券取引法第二条第一項に規定する有価証券又は同条第二項の規定により有価証券とみなされる権利をいう ) を取得させる行為 ( 代理又は媒介に該当するもの並びに同条第十七項に規定する有価証券先物取引 ( 第十号において 有価証券先物取引 という ) 及び同条第二十一項に規定する有価証券先

平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

きる ( 改正前民法 436 条 ) 1 改正法と同じ 2 前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる 本条は 負担部分の限度で 他の連帯債務者が債権者に対して債務の履行を拒むことができると規定したものであり 判

指針に関する Q&A 1 指針の内容について 2 その他 1( 特許を受ける権利の帰属について ) 3 その他 2( 相当の利益を受ける権利について ) <1 指針の内容について> ( 主体 ) Q1 公的研究機関や病院については 指針のどの項目を参照すればよいですか A1 公的研究機関や病院に限ら

<4D F736F F D2089EF8ED096408CA48B8689EF8E9197BF E7189BB A2E646F63>

為替リスクについてこの保険は 一時払保険料の払込通貨と契約通貨が異なる場合や 死亡保険金 解約払戻金 年金および定期支払金等 ( 以下 保険金等 ) 受取時の通貨が一時払保険料の払込通貨と異なる場合等に 為替相場の変動による影響を受けます したがって 保険金等を一時払保険料の払込通貨で換算した場合の

第 2 問問題のねらい青年期と自己の形成の課題について, アイデンティティや防衛機制に関する概念や理論等を活用して, 進路決定や日常生活の葛藤について考察する力を問うとともに, 日本及び世界の宗教や文化をとらえる上で大切な知識や考え方についての理解を問う ( 夏休みの課題として複数のテーマについて調

<4D F736F F D F4390B3817A4D42418C6F896390ED97AA8D758B60985E814091E63289F AE8E9197BF E646F63>

資料3

日商協規程集

<4D F736F F D D7390AD8BE689E682CC95CF8D5882C994BA82A4936F8B4C96BC8B60906C939982CC8F5A8F8A82CC95CF8D5882C98C5782E9936F8B4C8E9

IFRS基礎講座 IAS第11号/18号 収益

Microsoft Word 答申件数表

< F2D D89DB92B792CA926D816E906B8DD095DB8CAF>

参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

<4D F736F F F696E74202D20984A93AD8C5F96F CC837C A815B C F38DFC8BC68ED28D5A90B38CE3816A2E707074>

新旧対照表(第2分冊:保険会社関係)1-14-14

Ⅰ. 経緯 国際金融コミュニティにおける IAIS の役割は ここ数年大幅に増加している その結果 IAIS は 現行の戦略計画および財務業績見通しを策定した際には想定していなかった システム上重要なグローバルな保険会社 (G-SIIs) の選定支援やグローバルな保険資本基準の策定等の付加的な責任を

<4D F736F F D208FA495578CA0904E8A FD782C982A882AF82E991B98A F9E8A7A82CC8E5A92E82096F6E05694FC89C02E646F63>

Japan Academy of Personal Finance パーソナルファイナンス研究 No.2 総量規制の導入経緯と問題点 伊藤 幸郎 東京情報大学大学院 堂下 浩 東京情報大学 要旨 貸金業法は 2006 年 12 月に国会へ上程され 2010 年 6 月に完全施行へと至った 新たに導入

プライベート・エクイティ投資への基準適用

PPTVIEW

計算式 1 1 建物の価額 ( 固定資産税評価額 ) =2 長期居住権付所有権の価額 +3 長期居住権の価額 2 長期居住権付所有権の価額 ( 注 1) =1 固定資産税評価額 法定耐用年数 ( 経過年数 + 存続年数 ( 注 3)) 法定耐用年数 ( 注 2) 経過年数 ライプニッツ係数 ( 注

民法(債権関係)部会資料

その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の

夢のプレゼントの概要 (1) 仕組図 < イメージ図 > 円で目標設定タイプ 保険期間 10 年 (2) 主な取扱条件 米ドルで入金 3 万米ドル (1 米ドル単位 ) 最低豪ドルで入金 3 万豪ドル (1 豪ドル単位 ) 一時払保険料円で入金 300 万円 (10 万円単位 ) ( 基本保険金額

平成30年公認会計士試験

第 298 回企業会計基準委員会 資料番号 日付 審議事項 (2)-4 DT 年 10 月 23 日 プロジェクト 項目 税効果会計 今後の検討の進め方 本資料の目的 1. 本資料は 繰延税金資産の回収可能性に関わるグループ 2 の検討状況を踏まえ 今 後の検討の進め方につ

資料1 プロ・アマ区分について

従って IFRSにおいては これらの減価償却計算の構成要素について どこまで どのように厳密に見積りを行うかについて下記の 減価償却とIFRS についての説明で述べるような論点が生じます なお 無形固定資産の償却については 日本基準では一般に税法に準拠して定額法によることが多いですが IFRSにおい

2019 年 8 月 22 日 各位 インフラファンド発行者名 東京インフラ エネルギー投資法人 代表者名 執行役員 杉本啓二 ( コード番号 9285) 管理会社名 東京インフラアセットマネジメント株式会社 代表者名 代表取締役社長 永森利彦 問合せ先 取締役管理本部長 真山秀睦 (TEL: 03

労働法令のポイント に賞与が分割して支払われた場合は 分割した分をまとめて 1 回としてカウントし また 臨時的に当該年に限り 4 回以上支払われたことが明らかな賞与については 支払い回数にカウントしない ( 賞与 として取り扱われ に該当しない ) ものとされている 本来 賞与 として取り扱われる

Microsoft Word 資料1 プロダクト・バイ・プロセスクレームに関する審査基準の改訂についてv16

260401【厚生局宛て】施行通知

8 株式会社日本信用情報機構のホームページに 与信を補足するための情報 3 項目に契約見直し 債務者から過払金返還の請求があり 会員がそれに応じたもの とあるが 法定利息内での引きなおしで 最高裁でも判例の出ている行動に対しては 通常の完済と同様の対応をすべきではないか 9 現在 信用情報機関の中に

PowerPoint プレゼンテーション

untitled

標準例6

5 仙台市債権管理条例 ( 中間案 ) の内容 (1) 目的 市の債権管理に関する事務処理について必要な事項を定めることにより その管理の適正化を図ることを目的とします 債権が発生してから消滅するまでの一連の事務処理について整理し 債権管理に必要 な事項を定めることにより その適正化を図ることを目的

監査に関する品質管理基準の設定に係る意見書

険者以外の者に限ります ( 注 2 ) 自損事故条項 無保険車傷害条項または搭乗者傷害条項における被保険者に限ります ( 注 3 ) 無保険車傷害条項においては 被保険者の父母 配偶者または子に生じた損害を含みます ( 3 )( 1 ) または ( 2 ) の規定による解除が損害または傷害の発生した

の補正書 において, 審査請求の趣旨を この開示請求は本人の給与のみずましにかかわる書面である為 としているが, 原処分を取り消し, 本件対象保有個人情報の開示を求めている審査請求として, 以下, 原処分の妥当性について検討する 2 原処分の妥当性について (1) 給与所得の源泉徴収票について給与所

48

商品 CFD 取引契約締結前交付書面 注意喚起文書 新旧対照表 新 商品 CFD 取引のリスク等重要事項について 平成 31 年 3 月 1 日 ( 下線部分変更 ) 旧 商品 CFD 取引のリスク等重要事項について ( 省略 ) ( 省略 ) 商品 CFD 取引のリスクについて 本取引は 原資産の

< 目的 > 専ら被保険者の利益 にはそぐわない目的で運用が行われるとの懸念を払拭し 運用に対する国民の信頼を高める 運用の多様化 高度化が進む中で 適切にリスクを管理しつつ 機動的な対応を可能に GPIF ガバナンス強化のイメージ ( 案 ) < 方向性 > 1 独任制から合議制への転換基本ポート

設例 [ 設例 1] 法定実効税率の算定方法 [ 設例 2] 改正地方税法等が決算日以前に成立し 当該改正地方税法等を受けた改正条例が当該決算日に成立していない場合の法定実効税率の算定 本適用指針の公表による他の会計基準等についての修正 -2-

民法(債権法)改正の重要ポイント

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

回答企業の属性 < 上場市場区分 > 東証マサ ース (n=9) 2.9% JQ その他 (n=30) 9.6% 東証 2 部 (n=11) 3.5% 東証 1 部 (n=262) 84.0% 2/14

補償金テーブル表について

上乗部分Q1. 基金制度のどの給付区分が分配金の対象となるのか A1 基金の給付区分は 国の厚生年金の一部を代行している 代行部分 と 基金独自の 上乗部分 から構成されています 代行部分は 解散により国に返還され 解散後は国から年金が支給されますので 分配金の対象となるのは基金独自の上乗部分となり

) まとめ シート 複数の電源に共通する条件等を設定します 設定する条件は 以下の 6 つです. 割引率 - 0% % % 5% から選択. 為替レート - 任意の円 / ドルの為替レートを入力. 燃料価格上昇率 ( シナリオ ) - 現行政策シナリオ 新政策シナリオを選択 4. CO 価格見通し

山形県県土整備部資材単価及び歩掛等決定要領

<4D F736F F D BC696B195F18F568AEE8F808CA992BC82B582C982C282A282C42E646F63>

150130【物価2.7%版】プレス案(年金+0.9%)

「資産除去債務に関する会計基準(案)」及び

パワポテンプレ

本組よこ_y001-178/本組よこ_庄_P161‐177


<433A5C C6B617A B615C B746F705C8E648E965C8D7390AD8F918E6D82CC8BB38DDE5C CC2906C8FEE95F195DB8CEC964082CC92808FF089F090E E291E88F575C95BD90AC E937894C55C D837A A CC2906C8FEE9

民事訴訟法

被用者年金一元化法による追加費用削減について 昨年 8 月に社会保障 税一体改革関連法の一つとして被用者年金一元化法が成立 一元化法では 追加費用財源の恩給期間にかかる給付について 以下の配慮措置を設けた上で 負担に見合った水準まで一律に 27% 減額することとし 本年 8 月まで ( 公布から 1

< F2D8CA48B8689EF8E9197BF31352E6A7464>

従業員から役員になった場合の退職金計算の問題点【その2】

厚生年金基金に関する要望.PDF

085 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 新株予約権 少数株主持分を株主資本に計上しない理由重要度 新株予約権を株主資本に計上しない理由 非支配株主持分を株主資本に計上しない理由 Keyword 株主とは異なる新株予約権者 返済義務 新株予約権は 返済義務のある負債ではない したがって

< A F82528B C A1895E >

Microsoft PowerPoint - 14kinyu4_1.pptx

いる 〇また 障害者の権利に関する条約 においては 障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとされている 〇一方 成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度 ( いわゆる欠格条項 ) については いわゆるノーマライゼーションやソーシャルインクルージョン ( 社会的包摂 ) を基本理念とする成年

IFRS基礎講座 IFRS第1号 初度適用

PowerPoint プレゼンテーション

Transcription:

損害賠償額算定における中間利息控除について 1. はじめに P1 2. 中間利息控除に用いる割合に関する考え方 P2 3. 中間利息控除に 変動制の利率を用いること P3 4. 変動制の利率を用いること の妥当性 P4 5. 利率の改定がもたらす賠償額の格差 P5 6. 利率の改定がもたらす賠償額の逆転 P6 7. 利率の変動に対する当事者間の主張の相違 P7 おわりに P8 平成 26 年 6 月 10 日 一般社団法人日本損害保険協会

1. はじめに 1 日常生活や事業活動をめぐる様々なリスクに対応する損害保険の中で 賠償責任保険の存在は 我が国の損害賠償制度において今や欠かすことができないものとなっています 損害保険業界では 数多くの種類の賠償責任保険をご提供することを通じて損害賠償制度にのっとった被害の回復に向けたお手伝いをするともに 賠償事案において関係者への誠意をもった対応に努めております 現在 選択肢の一つとして検討されている 損害賠償額算定における中間利息控除 ( 以下 中間利息控除 ) に変動制の法定利率を用いること は 被害者救済のあり方に大きな影響を及ぼし得るものとして 日ごろ様々な形で賠償事案に関わっている損害保険業界としても強い関心を寄せているところです そのような立場から 第 83 回会議で示された 問題の所在 も含め 検討が必要と思われる事項について 具体例をお示ししながら問題意識をお伝えしますので 今後の部会でのご審議にお役立ていただければ幸いです 中間利息控除をめぐる検討等の経緯 第 29 回会議 (2011.6.28) における当協会意見の抜粋中間試案 (2013.2.26 決定 ) 中間利息控除の利率のみを取り出して検討することは適切ではなく 本来的には 不法行為の領域で賠償額全体の問題として検討されるべきである 中間利息控除に係る利率は 本来適用が予定される利息債権に係る利率とは性質が異なるものであり 中略 不法行為の領域での整理がなされるまでの間 現行実務 ( 中間利息控除にあたって 5% のライプニッツ係数の適用 ) が維持されるべきである 第 83 回会議 (2014.2.4) にも一般社団法人外国損害保険協会 一般社団法人日本共済協会基本政策委員会との連名で意見書を提出 参考資料 1 参照 損害賠償額の算定に関する現在の実務運用の当否に関する議論はまったく行っていないのであるから, そのような議論をしないままに損害賠償額の結論が変更されるような改正をすることは望ましくない ( 補足説明 記載 ) 法定利率 : 変動制による法定利率 を提案中間利息控除 : 年 [5 パーセント ] とする との提案 第 83 回会議 (2014.2.4) における審議 法定利率と中間利息控除における利率の異同については 同じ利率とするべきであるとする意見 必ずしも同じにする必要はないとする意見の両方があった * *NBL 1021(2014.3.15) 号 11 頁

2. 中間利息控除に用いる割合に関する考え方 2 部会資料 74B では 中間利息控除に用いる割合について三つの考え方を提示 (1) 法律上手当てをしないという考え方 (2) 中間利息控除をする場合に 年 5 パーセントの割合を用いることを法定する考え方 ( 中間試案第 8 4(3)) (3) 中間利息控除をする場合に 法定利率を用いることを法定する考え方 専ら中間利息控除に用いる数値を法定する 変動制の法定利率を用いる 社会的影響 新たに制定すべき事項 に関する指摘 社会的影響 1 賠償額の増加 および 社会的コスト 社会的影響 2 被害を受けた時期による損害賠償額の差異 新たに制定すべき事項 中間利息控除を行う場合の利率の基準時 詳細は参考資料 2 参照 詳細 詳細は参考資料 2 参照 被害者が被害を受けた時期によって 仮に他の要素が全く同じであったとしても損害賠償額が異なり得ることとなるが どのように考えるか なお これは 変動制を採る以上は不可避的に生ずる問題であるが 仮に固定制 ( 法律上 法定利率を 3 パーセントなど特定の数値で定める方式 ) を採用したとしても 改正法施行時には生ずる問題であり また 固定制を前提とした上で市中の金利に合わせて法改正をするとの施策をとる場合にも やはり改正法の施行時ごとに生ずる問題である ( 部会資料 74B 下線部は当協会が付加 )

3. 中間利息控除に 変動制の利率を用いること 3 モデルの設定 1 変動制利率 基準割合 ( 市中金利 ) 2 3 場面 1 P5 P6 賠償額の格差 逆転 場面 2 P7 当事者主張の相違 場面 3 P7 当事者主張の相違

4. 変動制の利率を用いること の妥当性 4 中間利息控除に用いる割合と能力喪失 ( 就労可能 ) 期間中の金利水準とが乖離することで 控除される中間利息が当事者にとって納得感の無いものとなる状況は 変動制においても生じ得る 中間利息控除に用いられる割合 ( 割引率 ) 変動制利率 基準割合 ( 市中金利 ) 差異 A 差異 B 不法行為 A ( 利率基準時 ) 能力喪失期間 (A) 不法行為 B ( 利率基準時 ) 能力喪失期間 (B) ( 更に次のようなことも ) 時期が異なっていれば 不法行為 A ( 利率基準時 ) 能力喪失期間 (A ) 重なる能力喪失期間 割引率と能力喪失期間中の市中金利との間に大きな差異 < 不法行為 A& 不法行為 A > 利率基準時の違いはわずか 能力喪失期間の重なりも大 差異 A と差異 A とでは大きな開き 差異 A 差異 A ( 例 )A の割引率が 5% A の割引率が 4% で能力喪失期間 30 年の後遺障害の場合 1% の金利差が 30 年間続く前提で換算されるため A の逸失利益は A の約 1.12 倍 ( ライプニッツ係数比 : 17.292 15.372 1.12)

5. 利率の改定がもたらす賠償額の格差 5 1 賠償額の格差 逆転 利率改定の幅次第では 被害を受けた時期による損害賠償額の差異 は 大きなものとなる 被害の内容が同じであった場合 ( 後遺障害 ) 8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 7% 3% 部会資料 77B グラフ 3 抜粋 モデル例中間利息控除割合逸失利益額 5%( 現行 ) との比較 27 歳男性 ( 全年齢平均賃金 : 月額 415,400 円 / 就労可能 ( 能力喪失 ) 年数 40 年 ) 一家の支柱 被扶養者 2 人 ( 生活費控除割合 35%) 利率が 7% となった時期の被害者 差は3,000 万円超 5%( 現行 ) 55,597,219 円 - (1.7 倍強の差 ) 利率が 3% となった時期の被害者 43,197,280 円 74,895,374 円 22.3% ( 1,239 万円 ) +34.7% (+1,930 万円 ) 第 29 回会議における当協会の説明資料 P4 の表をもとに加筆 割引率の違いだけで逸失利益額に大きな格差

6. 利率の改定がもたらす賠償額の逆転 6 1 賠償額の格差 逆転 被害を受けた時期による損害賠償額の差異 が生ずることにより 被害の軽重と賠償額の大小とが逆転する状況が発生する 被害の内容に軽重の差がある場合 ( 後遺障害 )- 被害規模と賠償額との逆転 ( 前ページのモデル例 : 能力喪失期間 40 年の後遺障害で 利率 7% 時と 3% 時とで逸失利益額に 1.7 倍強の格差 ) 当該モデル例の場合に 後遺障害の等級ごとに 逆転 が発生する範囲は 下表のとおり 利率 3 % 1 級 2 級 3 級 4 級 5 級 6 級 7 級 8 級 9 級 10 級 11 級 12 級 13 級 14 級 1 級 2 級 3 級 4 級 利 5 級 率 6 級 7 級 7 8 級 % 9 級 逆転 が発生する範囲 ( 能力喪失期間 40 年の場合 ) 10 級 11 級 12 級 13 級 片腕の肘関節と同じ腕の手首の機能を廃した場合 ( 後遺障害 6 級 ) 利率が 3% となった時期の被害者 逆転 の例 > 両腕の機能を全廃した場合 ( 後遺障害 1 級 ) 利率が 7% となった時期の被害者 このような 逆転 は 利率 3% 時と利率 4% 時など 利率差がより少ない場合においても 発生し得る

利低下局面利上昇局面7. 利率の変動に対する当事者間の主張の相違 7 2 当事者主張の相違 3 当事者主張の相違 変動制とすることで損害賠償に関する従来の考え方に変化が起きれば 新たな課題が生ずることも想定される 変動制とするためには 適切な 利率の基準時 ( 一義に決まり 賠償実務に整合するもの ) の設定およびその関連実務に関する整理 * が必要となる * 整理すべき関連実務については 参考資料 3 参照 基準割合法定利率 金5% 不法行為利率改定症状固定 後遺障害 4% 法定利率 基準割合 金4% 不法行為利率改定症状固定 後遺障害 5% 金利低下局面において想定される双方当事者の主張 ( 金利上昇局面では A が 5% B が 4% と主張が逆になる ) 一方当事者 A 割合は 4% を用いるべき 相違 他方当事者 B 割合は 5% を用いるべき 立法時検討資料*1 によれば 市中金利に近い割合を用いることが法の趣旨 実態に近い算定には 賠償金受取( 支払 ) 時の直近数値を使うべき *2 後遺障害に伴う逸失利益の請求権発生は 症状固定時 *2 事故の後に利率が決まるのでは 予測可能性が害される 利率の基準時は 客観的に定まるものであるべき 不法行為債権の請求権発生は不法行為時 *1 部会資料 74B 記載 中間利息控除は 中略 市中の金利とかけ離れた数値を用いるのは問題であるとの批判 *2 参考資料 3 参照

8 変動制の利率を用いること に関する課題としては これまでにお示ししてきたもののほか 当事者間における 損失の公平な分担 * という損害賠償制度の理念に沿うものとなるか 期間の長短による金利差を反映させたものとする必要は無いか などの論点が考えられます また 中間利息控除に用いる割合を法定利率とは異なるものとする場合には それにより生ずる課題に対して 例えば損害賠償金の支払遅滞時に付加される遅延損害金に関する一定の制度的手当てをするなどの対応について検討することも考えられます いずれにしましても 変動制の利率を用いた中間利息控除 は 過去に前例の無い制度と考えられることから このほかにも整理すべき課題は無いか 想定される課題への対応策はいかにあるべきかなど 十分に検討したうえで結論を得ていただくよう お願い申し上げます * 最判昭和 39 年 6 月 24 日 ( 民集 18 巻 5 号 874 頁 )