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5 名簿規模の縮小に伴う年間名簿使用率の上昇... 17 (1) 裁判員候補者名簿記載者数と名簿使用率... 17 (2) 同一年度内における名簿使用率の上昇に伴う辞退率上昇 出席率低下... 17 (3) 年間名簿使用率の上昇... 19 (4) 仮説の設定... 20 第 3 辞退率上昇 出席率低下の要因に関する分析... 21 1 審理予定日数の増加傾向... 21 (1) 審理予定日数と辞退率 出席率との相関関係の分析... 21 (2) 審理予定日数と辞退率 出席率との相関関係の経年変化... 27 (3) 選任手続期日から第 1 回公判期日までの期間と辞退率 出 席率との相関関係の分析... 29 (4) 審理予定日数が同じ事件における審理期間の長短と辞退 率 出席率との相関関係の分析... 30 (5) アンケート調査結果の分析... 31 2 雇用情勢の変化... 32 (1) 辞退事由の変化の分析... 32 (2) マクロ指標データの分析... 36 (3) 人口構成割合の推移の分析... 41 (4) アンケート調査結果の分析... 42 3 高齢化の進展... 46 (1) 辞退事由の変化の分析... 46 (2) 名簿記載者に占める 裁判員法 16 条 1 号 (70 歳以 上 ) を理由とする辞退申出者 ( 調査票段階 ) の割合の推移 の分析... 50 II

(3) マクロ指標データの分析... 53 (4) 人口構成割合の推移等の分析... 56 4 裁判員裁判に対する国民の関心の低下... 57 (1) 裁判員裁判に対する関心の有無, 変化に関する質問の分析. 57 (2) 裁判員裁判に対する関心の有無, 変化と裁判員裁判への参 加意欲 参加可能性との関係の分析... 58 (3) 各層における関心の有無, 変化に関する質問の分析... 61 (4) 裁判員裁判に対する関心の変化の理由... 64 5 名簿規模の縮小に伴う年間名簿使用率の上昇... 66 第 4 庁別の辞退率 出席率に影響を与える要素の分析... 67 1 分析の手法... 67 2 呼出状の不在不到達率 事前質問票の返送率と辞退率 出席率との相関関係の分析... 68 3 運用上の工夫の有無と出席率との相関関係の分析... 69 第 5 選任手続期日に出席した裁判員候補者の構成割合の推移の分析... 72 (1) 職業別... 73 (2) 年代別... 74 (3) 性別... 76 第 6 考察結果... 77 1 辞退率について... 77 2 出席率について... 78 3 選任手続期日に出席した裁判員候補者の構成割合について... 79 III

資料 1 アンケート調査 (1) 実施概要 (2) 設問及び単純集計結果 (3) クロス集計結果 ( 属性別 ) 2 分析資料一覧 IV

本報告書を読む際の注意 1 本報告書に掲載したグラフ等の図表は, 個別に付記したものを除き, 末尾の 分析資 料一覧 に記載した資料に基づくものであり, 特に出典を明示していない 2 今回のアンケート調査結果の属性別の分析においては, 都道府県別の分析や, 裁判員 ( 補充裁判員 ) 経験の有無別の分析は, 一部の都道府県の回答数や裁判員 ( 補充裁判員 ) 経験者の回答数が少なく誤差が大きいため, 行っていない ( 略語 用語の説明等 ) 裁判員法 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律 裁判員規則 裁判員の参加する刑事裁判に関する規則 辞退政令 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第 16 条第 8 号に規定するやむ を得ない事由を定める政令 選任手続期日 裁判員等選任手続期日 辞退率出席率名簿使用率審理予定日数 辞退が認められた裁判員候補者数を, 選定された裁判員候補者数で除して得られたもの選任手続期日に出席した裁判員候補者数を, 同期日に出席を求められた裁判員候補者数で除して得られたもの個別の事件で選定された裁判員候補者数を, 裁判員候補者名簿記載者数で除して得られたもの 裁判員等選任手続期日のお知らせ ( 呼出状 ) に記載した公判期日等が予定されている日数の合計 ( 評議のみの日, 判決のみの日を含み, 選任手続期日のみの日を含まない 裁判員法 103 条に基づく公表資料において 実審理予定日数 としているものと同じである ) i

( 相関分析の説明 ) 本業務においては, 辞退率 出席率に影響を与えている要因を分析するに当たり, 散布図 及び相関表を用いて相関関係を分析する手法を用いているので, その意義等を説明する 統計学における 相関関係 とは,2 つの変数 ( 変化する数量 ) について, 一方が増加あ るいは減少するに従って, 他方が同じように増加あるいは減少する関係性をいう そして, 相関係数 (r) とは, そのような関係性の強さを示す指標である 一般的に, 相関係数とは,Pearsonの相関係数を指し, 本業務においてもこれを用いている 相関係数 (r) は,-1.0~1.0の間の数値をとる その( 絶対値の ) 大きさにより, 相関の強さ ( 正の数であれば正の相関, 負の数であれば負の相関 ) を示す 完全に一直線の関係にある場合であれば相関係数は1.0 又は-1.0となり, 全く関係がない場合であれば相関係数は0となる 社会統計の分野では, 一般的に以下の基準に基づいて相関関係の強さを表現することが多いことから, 本業務においても, その考え方を踏まえて検討を行った 0.7< r 1.0 : 強い相関がある 0.4< r 0.7 : 中程度の相関がある 0.2< r 0.4 : 弱い相関がある 0 r 0.2 : ほとんど相関がない 次ページの図は,2つの変数間の相関関係の考え方を散布図で表したものである 2 変数の各点を散布図として見たときに, 直線に近い関係性が見られる場合に 強い 相関があるとの評価となり, 直線に近くはないものの, 一方が増加 ( 減少 ) するにつれて, 他方が増加 ( 減少 ) する関係性がうかがえる場合に 弱い 相関があるとの評価となる ii

図表相関関係の考え方 変量 Y 弱い正の相関がある 強い正の相関がある 相関なし 変量 X 弱い負の相関がある 強い負の相関がある 次ページの具体例は, ある年の東京における気温と消費電力との間の相関の強さを分析したものである まず, 散布図を見ると, 夏は, 気温が上がるに従って, 空調 ( 冷房 ) の負荷が高まり, 結果として消費電力が増え, 冬は, 気温が下がるに従って, 空調 ( 暖房 ) の負荷が高まり, 結果として消費電力が増えることがうかがえる 次に, 相関表を見ると, 夏最高気温 の Pearsonの相関係数 と 最大消費電力 がぶつかる箇所の数値を見ると,.645 (0.645) であり, 中程度の正の相関があることが分かる また, 冬最高気温 の Pearsonの相関係数 と 最大消費電力 がぶつかる箇所の数値を見ると, -.487 (-0.487) であり, 中程度の負の相関があることが分かる ここで, 夏の方が冬よりも相関係数が大きく, 気温と消費電力の相関が強いことに注目すると, その理由としては, 冬は夏に比べて, 電力以外のエネルギー ( 灯油, ガス等 ) が, 空調により多く使用されている点等が考えられる iii

図表相関関係の分析の具体例 ( 気温と消費電力との関係 ) そのほか, 相関表に記載されている 有意確率, 1% 水準, 度数 についても説明を加える 相関分析における 有意確率 とは, 実際には相関関係がない( 相関係数が0である ) にもかかわらず, 偶然,( 相関関係があるように見える ) サンプルデータが観察されてしまう確率 をいう 一般的に, 分析に用いるデータのサンプル数が増えるほど, また, 相関係数の絶対値が大きいほど, 有意確率が低くなり, 分析の信頼性が増すこととなる 上記具体例では, 夏最高気温( 冬最高気温 ) の 有意確率 と 最大消費電力 がぶつかる箇所の数値を見ると,.000 とある これは, 有意確率が0.1%(0.001) 未満であることを示す 1% 水準 とは, 有意水準の一つである 有意水準とは, どの程度の有意確率であれば結果を有意 ( 偶然ではなく意味がある ) と判断するかの基準である 例えば,5% 水準とは, 有意確率が5% 未満であれば結果を有意と考える判断基準であり, 統計学では, この5% 水準や1% 水準を用いるのが慣例となっている (1% 水準は,5% 水準よりも更に厳格な基準である ) 上記具体例における相関係数の数値の末尾の ** は, 相関表下部に記載されているとおり,1% 水準で有意であること, つまり有意確率が1% 未満であることを示している 上記のとおり, データのサンプル数が多いほど, また, 相関係数の絶対値が大きいほど, 有意確率は低くなるので, データのサンプル数が多い場合, 相関係数の絶対値が大きくなくても結果が有意であると判断されることがあり, 逆に, 相関係数の絶対値が大きい場合, データのサンプル数が少なくても結果が有意であると判断されることがある iv

度数 は, その項目における分析のもとになったサンプル数を示す 前記具体例では, 夏 については 92, 冬については 90 のサンプルがあることを示す さらに, この具体例を用いて相関係数の計算方法を説明する 図表相関係数の考え方 上図で, 最大消費電力の平均値に横線を引いたものをX 軸, 夏最高気温の平均値に縦線を引いたものをY 軸とし, 縦線と横線の交点 ( 夏最高気温と最大消費電力の両方の平均値 ) を原点 (0,0) とし, 各点を,(x i,y i ) と表す 正の相関があることを示している前記の具体例 ( 夏最高気温と最大消費電力 ) をもとに説明すると, 相関係数のイメージは,x i とy i を掛けた数値 ( 以下 x i y i という ) を合計した数値である 第 1 象限及び第 3 象限に属する点では,x i とy i の両方の値がプラス又は両方の値がマイナスとなるため,x i y i はプラスになる 第 2 象限及び第 4 象限に属する点では,x i がプラスの場合はy i がマイナスに,x i がマイナスの場合はy i がプラスになるため,x i y i はマイナスになる x i y i がプラスになる点が多い ( 点が第 1 象限及び第 3 象限に集中する ) ほど,x i y i の数値を合計した数値が大きくなり, 相関係数が大きくなる これに対し,x i y i がプラスとマイナスで同程度の割合で混在している場合 ( 点が第 1~ 第 4 象限にまんべんなく存在している場合 ), 互いに打ち消しあってx i y i の数値の合計値 v

は小さくなり, 相関係数が小さくなる 相関係数のイメージは上記のとおりであるが, 相関係数が-1.0~1.0の値を取るようにするため, 一定の計算 (x i y i の数値の合計値を分子として,x i の各値を二乗した数値の合計値の平方根とy i の各値を二乗した数値の合計値の平方根とを掛けた数値を分母として除す ) をして, 相関係数を出している 結果として, 相関係数 (r) は, 正 ( 負 ) の相関が強くなるほど1.0(-1.0) に近づき, 相関が弱くなるほど0に近づく vi

本編

第 1 本業務について ( はじめに ) 1 業務の趣旨及び目的裁判員制度が平成 21 年 5 月 21 日に施行され, これまで約 8 年間にわたり裁判員裁判が行われている中で, 近年, 裁判員候補者の辞退率の上昇及び選任手続期日への出席率の低下が問題となっている そこで, 辞退率 出席率の改善に向けた方策を検討するため, 辞退率上昇 出席率低下の要因を分析することが必要である この業務は, 平成 21 年 5 月から平成 27 年 12 月までの裁判員裁判に関する統計データを中心とした資料の分析等により, 辞退率上昇 出席率低下の要因を分析し, 辞退率 出席率の改善に向けた方策を検討する際の資料の一つとするものである - 1 -

2 裁判員等選任手続の概要業務の前提として裁判員等選任手続の概要を説明する 裁判員等の選任は, 次のような4 段階を経て行われる ( 図表 1-1のA~D 参照 ) 第 1 段階 (A) では, 各地方裁判所において, 前年度の秋頃に, 選挙人名簿から無作為抽出された名簿をもとに裁判員候補者名簿を作成し, 名簿記載者に対しその旨の通知を行う ( 翌年, 裁判員候補者として呼び出される可能性があることを, いわば予告するわけである ) 名簿記載者に対する通知の際には, 併せて辞退希望の有無等を確認する調査票を送付する 通知を受けた裁判員候補者は, 調査票により,170 歳以上, 学生など,1 年間を通じて裁判員になることを辞退できる事由 ( 定型的辞退事由 ),2 裁判員になることができない職業に就いている事実,3 裁判員になることが特に難しい特定の月がある場合に,2か月を上限として辞退を希望する月をそれぞれ申し出ることができる 第 2 段階 (B) では, 個別事件について審理の具体的な日程等が決まった段階で, 審理を担当する地方裁判所が, 呼び出すべき裁判員候補者の数を決めた上で, 裁判員候補者名簿からくじでその事件の裁判員候補者を選定する 選定後, 地方裁判所は, 第 1 段階 (A) で調査票を返送して辞退の申立て等をしていた裁判員候補者について, これを認めた場合には呼び出さない措置をとる 第 3 段階 (C) では, 呼び出さない措置をとらなかった裁判員候補者に対して, 選任手続期日の通知 ( 呼出状の送付 ) をするとともに, 予定された公判の日程等との関係で更に辞退希望の有無等を調べる事前質問票を送付する その後, 返送された事前質問票の記載に基づき, 辞退を認めた場合にはその候補者に対する呼出しを取り消し, 選任手続期日に出席する必要がないことを知らせる そして, 第 4 段階 (D) では, 選任手続期日に出席した裁判員候補者から辞退等が申し立てられた場合に, その許否を判断する その後, 最終的に残った裁判員候補者の中から, くじにより実際に事件に参加する裁判員 補充裁判員を選任する なお, このように複雑な手続をとることとされているのは, 調査票, 事前質問票, 選任手続期日と3 段階で辞退事由の有無を判断し, 裁判員候補者に過重な負担が生じることのないよう慎重な配慮がされたためである - 2 -

図表 1-1 裁判員等選任手続の流れ () 内のイ, ハ等の片仮名は図表 1-2 に対応し, その横の人数は, 平成 27 年の概数 前年の秋頃 A 裁判員候補者名簿に記載 ( イ 23.4 万人 ) 送付 名簿記載通知 調査票 裁判員裁判対象事件の起訴 B 裁判員候補者名簿からくじで選ばれた候補者を選定 ( ハ 13.3 万人 ) 6 週間前までに C 選任手続期日の通知 事前質問票を送付 ( ホ 9.2 万人 ) 調査票により辞退等が認められた人 ( ニ 4.1 万人 ) 事前質問票により辞退等が認められた人 ( ヘ 4.4 万人 ) D 選任手続期日に出席した候補者 ( チ 3.3 万人 ) 裁判員等選任手続期日 E 裁判員 補充裁判員選任 裁判員 6 人 + 補充裁判員数人 選任手続期日において辞退等が認められた人 ( ヌ 0.9 万人 ) ( ヲ ワ計 0.9 万人 ) - 3 -

図表 1-2 裁判員候補者名簿記載者数, 各段階における裁判員候補者数及び選任された裁 判員等の数 段階 累計 H21 H22 H23 H24 H25 H26 H27 A イ ロ 裁判員候補者名簿記載者数 1,970,906 295,036 344,900 315,940 285,530 259,200 236,500 233,800 名簿使用率 (%) ( ハ / イ ) 40.5 4.5 36.7 41.7 47.5 52.2 52.0 56.8 B C D ハ 選定された裁判員候補者数 798,390 13,423 126,465 131,880 135,535 135,207 123,049 132,831 調査票により辞退等が認めニられた裁判員候補者数期日の通知 事前質問票をホ送付した裁判員候補者数 ( ハ - ニ ) 事前質問票により辞退等がヘ認められた裁判員候補者数選任手続期日に出席を求めトられた裁判員候補者数 ( ホ - ヘ ) 選任手続期日に出席した裁チ判員候補者数出席率 (%) リ ( チ / ト ) 選任手続期日当日に辞退等ヌにより不選任決定がされた裁判員候補者数辞退が認められた裁判員候 a 補者の総数ル辞退率 (%) b ( ルa / ハ ) 229,465 3,785 32,245 37,771 38,488 39,666 36,755 40,755 568,925 9,638 94,220 94,109 97,047 95,541 86,294 92,076 245,139 3,185 34,147 37,756 42,443 43,451 40,351 43,806 323,786 6,453 60,073 56,353 54,604 52,090 45,943 48,270 243,488 5,415 48,422 44,150 41,543 38,527 32,833 32,598 75.2 83.9 80.6 78.3 76.1 74.0 71.5 67.5 64,943 1,326 11,850 11,308 10,933 11,055 9,321 9,150 486,550 7,134 66,977 77,909 83,426 85,615 79,288 86,201 60.9 53.1 53.0 59.1 61.6 63.3 64.4 64.9 E ヲ ワ 選任された裁判員の数 48,601 838 8,673 8,815 8,633 7,937 6,938 6,767 選任された補充裁判員の数 16,555 346 3,067 2,988 2,906 2,622 2,333 2,293 ( 注 )1 ニ 及び ヘ には, 辞退が認められた人のほか,(1) 欠格事由, 就職禁止事由に該当するとして, 呼び出さない措置又は呼出取消しがされたものが含まれ, 更に前者には,(2) 転居先不明等により裁判員候補者名簿記載通知等が不到達であったものが含まれる 2 ト には, そもそも呼出状が到達しておらず, 現実的には出席を期待し得ない裁判員候補者も含まれる 3 ル a のうち, 平成 21 年及び平成 22 年の人数には,(1) 欠格事由, 就職禁止事由に該当するとして, 呼び出さない措置がされたもの,(2) 転居先不明等により裁判員候補者名簿記載通知等が不到達であったものが含まれる 4 補充裁判員から裁判員に選任された場合は, 重複して計上した - 4 -

3 辞退率 出席率の推移について辞退率 出席率の推移について, 統計資料を適宜引用しながら説明する (1) 辞退率 2のとおり, 辞退は, 調査票, 事前質問票, 選任手続期日の3 段階で判断される 辞退が認められた裁判員候補者数の累計及びその年度別推移は, 図表 1-2Dルaのとおりである 個別の事件において選定された裁判員候補者数の累計及びその年度別推移は, 図表 1-2Bハのとおりである 個別の事件において選定された裁判員候補者数 ( 図表 1-2Bハ ) を分母とし, 辞退者数 ( 図表 1-2Dルa) を分子として計算したのが, 辞退率 ( 図表 1-2Dル b) である 辞退率の年度別推移は, 図表 1-3のとおりであり, 年々上昇している 図表 1-3 辞退率の推移 (%) - 5 -

(2) 出席率選任手続期日に出席した裁判員候補者数の累計及びその年度別推移は, 図表 1-2 Dチのとおりである 個別の事件において選定された裁判員候補者数 ( 図表 1-2Bハ ) から調査票により辞退等が認められた裁判員候補者数 ( 図表 1-2Bニ ) 及び事前質問票により辞退等が認められた裁判員候補者数 ( 図表 1-2Cヘ ) を除いた人数, つまり選任手続期日に出席を求められた裁判員候補者数の累計及びその年度別推移は, 図表 1-2Cトのとおりである ( ただし, この中にはそもそも呼出状が到達しておらず, 現実的には出席を期待し得ない裁判員候補者も含まれることには注意を要する ) 選任手続期日に出席を求められた裁判員候補者数 ( 図表 1-2Cト ) を分母とし, 選任手続期日に出席した裁判員候補者数 ( 図表 1-2Dチ ) を分子として計算したのが, 出席率 ( 図表 1-2Dリ ) である 出席率の年度別推移は図表 1-4のとおりであり, 年々低下している 図表 1-4 出席率の推移 (%) - 6 -

4 業務に当たっての方針と進め方 (1) 方針ア仮説の設定と分析まず, 辞退率上昇 出席率低下の要因を特定するため, 裁判員裁判に関する統計資料等を用いて, 辞退率上昇 出席率低下の要因に関する仮説を設定する その上で, 更にこれらの資料及び社会 経済状況を表す各種の統計資料 ( 国勢調査, 労働力調査等 ) 等について統計学的な分析を加えることにより, 仮説として設定した要因が辞退率上昇 出席率低下に影響を与えているのかを検証する また, 選任手続期日に出席した裁判員候補者の構成割合の推移を国勢調査の結果と比較することにより, 選任手続期日に出席した裁判員候補者の構成に歪みが生じていないかどうかを検証する イアンケート調査裁判員裁判に関する統計データでは分析が難しい仮説 ( 裁判員裁判に対する国民の関心の低下等 ) について分析を加えるとともに, 上記アの統計学的な分析結果を裏付けるという観点から, アンケート調査を実施し, その結果に基づき複数の観点からの定量的な分析を行うなどして, 辞退率上昇 出席率低下の要因を更に分析する ウ要因の考察上記のア及びイを踏まえ, 辞退率上昇 出席率低下の要因について考察を行い, 影響を与えていると考えられる要因について客観的に分析し, 今後の改善に向けた方策の検討のための資料とする - 7 -

(2) 進め方 前記の方針を踏まえ, 以下の 3 つの段階を経て実施した 図表 1-5 検討の進め方 ア仮説の設定と分析 要因の仮説設定のための資料の分析を実施 要因仮説の分析を実施 ウ 要因の考察 ア, イを踏まえた総合的な検討, 要因の把握 イアンケート調査 アンケート調査に基づき仮説の検証を実施 - 8 -