3. 資産購入プログラムの円滑な実施に向けた選択肢が検討されることに上述の通りECBの景気 物価見通しがほぼ変わらない中 記者会見においてドラギ総裁は 実施期間の延長や購入規模の拡大などは議論していない ことを明かした 理事会の前には 9 月理事会で資産購入プログラムの実施期間が延長されると予想する

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サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

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各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

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1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

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年 7 月 21 日 団体年金事業部 ECB 理事会レビュー : 総裁の夏休みの宿題 ~ 秋にテーパリング決定へ ~ 当社のシンクタンク 株式会社第一生命経済研究所の田中主席エコノミストによる EC B 理事会レビュー : 総裁の夏休みの宿題 ~ 秋にテーパリング決定へ~

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< E97708AC28BAB82C982C282A282C42E786C73>

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1. 30 第 2 運用環境 各市場の動き ( 7 月 ~ 9 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは上昇しました 7 月末の日銀金融政策決定会合のなかで 長期金利の変動幅を経済 物価情勢などに応じて上下にある程度変動するものとしたことが 金利の上昇要因となりました 一方で 当分の間 極めて低い長


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このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

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平成30年度第1四半期における運用状況等

目次 1. 平成 29 年度第 1 四半期 ( 平成 29 年 4 月 ~6 月 ) における運用環境について 2. 平成 29 年度第 1 四半期 ( 平成 29 年 4 月 ~6 月 ) におけるポートフォリオ別の運用状況 3. ベンチマーク インデックスの推移 ( 参考 ) 用語の説明 頁 1

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目次 ドイツにおける貸金業等の状況 2 フランスにおける貸金業等の状況 4 米国における貸金業等の状況 6 英国における貸金業等の状況 8 韓国における貸金業等の状況 9 ( 注 1) 本レポートは 金融庁信用制度参事官室において 外国当局 調査会社 研究者等からのヒアリング結果等に基づいて作成した

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< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

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政策課題分析シリーズ16(付注)

目 次 1. 平成 27 年度 ( 平成 27 年 4 月 ~ 平成 28 年 3 月 ) における運用環境について 2. 平成 27 年度 ( 平成 27 年 4 月 ~ 平成 28 年 3 月 ) のポートフォリオ別の運用状況 3. ベンチマーク インデックスの推移 ( 参考 ) 被保険者ポート

第 1 四半期運用実績 ( 概要 ) 運用利回り +1.54% 収益率 ( ) ( 第 1 四半期 ) (+1.02% 実現収益率 ( )) 運用収益額 +3,222 億円 総合収益額 ( ) ( 第 1 四半期 ) (+1,862 億円 実現収益額 ( )) 運用資産残高 ( 第 1 四半期末 )

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図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

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平成29年度における運用状況等

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経済・物価情勢の展望(2016年10月)

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野村資本市場研究所|顕著に現れた相続税制改正の影響-課税対象者は8割増、課税割合は過去最高の8%へ-(PDF)

○ 問合せ先専用フリーダイヤル

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Transcription:

みずほインサイト 欧州 2016 年 9 月 9 日 資産購入プログラムの円滑な実施を模索する ECB 欧米調査部主任エコノミスト松本惇 03-3591-1199 atsushi.matsumoto@mizuho-ri.co.jp ECB は 9 月 8 日の政策理事会において 金融政策を据え置いた 声明文や記者会見のポイントは 景気 物価見通しと 資産購入プログラムの円滑な実施に向けた選択肢の検討の表明である ECB の景気 物価見通しは ほぼ従来通りであった 英国民投票後もユーロ圏の景気指標は総じて改善傾向にあり 理事会が資産購入の延長 拡大を議論する状況ではなかった 資産購入に関しては 対象銘柄が不足していく中 円滑に購入を進めるための選択肢の検討が開始されることになった 複数の選択肢が想定されるが 年末までに内容が明らかになると思われる 1.ECBは金融政策を据え置き欧州中央銀行 (ECB) は 9 月 8 日の政策理事会において 金融政策の据え置きを決定した 0.4% の預金ファシリティ金利を含む政策金利 資産購入プログラムの最低実施期間 (2017 年 3 月 ) 毎月の資産購入額 (800 億ユーロ ) は いずれも据え置かれた 声明文やドラギ総裁の記者会見のポイントは2つある 第 1に ECBの景気 物価見通しが英国民投票前から殆ど変わらなかった点 第 2に 資産購入プログラムの延長 拡大は議論されなかったが 同プログラムを円滑に実施するための選択肢が検討されることになった点である 2.ECBの景気 物価見通しは殆ど変わらず英国民投票の翌月に行われた7 月理事会では その時点でEU 離脱という投票結果がユーロ圏景気 物価見通しに及ぼす影響を評価するには時期尚早であり 今後数カ月で発表される新たな情報 (ECBスタッフ見通しを含む) を踏まえて見通しを精査すると説明されていた 9 月理事会の声明文やドラギ総裁の記者会見では 下振れリスクに言及しつつも 7~9 月期のユーロ圏景気は4~6 月期並みの緩やかなペースで回復を続け それ以降も景気回復は途切れない インフレ率は今後数カ月は低位にとどまるが 年末以降は上昇する と 従来と同様の認識が示された 7 月理事会後に発表された景気指標は 7 8 月のユーロ圏合成 PMIが英国民投票前の水準から大幅に変化せず景気判断の節目となる50を上回るなど ( 次頁図表 1) 全般にユーロ圏の景気回復が続いていることを示唆していた また 7 8 月のユーロ圏インフレ率は 油価の下落幅縮小を背景に 極めて小幅ながらも上昇した ECBスタッフ見通しでも 2016~2018 年のユーロ圏 GDP 成長率 インフレ率の予測値は ほぼ据え置かれた ( 次頁図表 2) 1

3. 資産購入プログラムの円滑な実施に向けた選択肢が検討されることに上述の通りECBの景気 物価見通しがほぼ変わらない中 記者会見においてドラギ総裁は 実施期間の延長や購入規模の拡大などは議論していない ことを明かした 理事会の前には 9 月理事会で資産購入プログラムの実施期間が延長されると予想する見方があったが 総裁は 資産購入プログラムは効果的だ と述べ 持続的な景気回復 インフレ率上昇には 現在の金融緩和の規模で十分であるとの認識を示した 総裁によると 一連の金融緩和によって2016~2018 年のユーロ圏 G DP 成長率は累積 0.6%pt ユーロ圏インフレ率は累積 0.4%pt 押し上げられるという 1 ドラギ総裁は ECBの景気 物価見通しは金融緩和の効果を 完全に 織り込んだものであり 政策上の焦点は 資産購入プログラムの円滑な実施にあると指摘した その上で 総裁は 関連する委員会に対して 資産購入を円滑に実施するための選択肢を検討するように指示したと述べた ECBが円滑な実施に焦点を定めているのは ドイツなど一部の国において 公債購入プログラム (PSPP) の対象が不足していくのではないかとの懸念があるためだ PSPPでは 利回りが預金ファシリティ金利を超え 且つ 残存期間が2 年 ~30 年 364 日である公債 ( 国債 地方債など ) が購入対象となる ECBが保有する公債の残高は 銘柄毎にみて発行残高の33%( いわゆるissue limit) 且つ 発行体毎にみて発行残高の33%( いわゆるissuer limit) が上限となる マイナス金利が続く中 利回りが預金ファシリティ金利を上回るという利回り条件を満たせない銘柄が増えており 一定の前提を置くと ドイツのPSPP 対象銘柄は2017 年春先に不足する ( 図表 3) ECBはこうした点を懸念しており 購入条件を緩和し 購入対象を増やすことを企図しているようだ 拡張 景 気 縮小 55 54 53 52 51 50 0.3 (Pt) 49 2014/8 15/8 16/8 合成 PMI 製造業 サービス業 ( 前年比 %) ( 前年比 %) 1.2 0.9 0.6 0.3 0.0 図表 1 7 月理事会後の発表指標 ユーロ圏 PMI ユーロ圏インフレ率 0.6 2015/8 15/11 16/2 16/5 16/8 ユーロ圏インフレ率コア インフレ率エネルギー 食品 アルコール 煙草 ( 右目盛 ) ( 注 ) コア インフレ率は エネルギー 食品等を除く総合 ( 資料 ) Markit Eurostat よりみずほ総合研究所作成 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 図表 2 ECB スタッフ見通し ( 単位 :%) GDP 成長率 インフレ率 コア インフレ率 2016 2017 2018 9 月 1.7 1.6 1.6 修正幅 0.1 0.1 0.1 9 月 0.2 1.2 1.6 修正幅 - 0.1-9 月 0.9 1.3 1.5 修正幅 0.1 0.1 - ( 注 ) 修正幅は 6 月見通しとの比較 ( 資料 ) ECB よりみずほ総合研究所作成 図表 3 ドイツ購入対象期限の試算 2 月には銘柄不足 5,000 4,000 ( 億ユーロ ) に陥る可能性も PSPPによる購入残高 (16/8 以降は推計値 ) 3,000 2,000 1,000 購入可能なドイツ公債残高 8 月末から利回り変化が無い場合 の公債残高 0 2015/03 15/9 16/3 16/9 17/3 ( 注 ) PSPPで購入可能なドイツ公債残高は 1ドイツ国債 地方債 機関債 の内 残存期間 2~30 年 利回りが預金ファシリティ金利を上回る銘柄の残高に 33% を乗じた額 及び 2 過去にPSPPで購入した銘柄の内 金利低下によって 現在は購入不可である銘柄の残高 ( 推計値 ) の合計 各月とも月末の利回りで評価 ( 資料 )ECB Bloombergよりみずほ総合研究所作成 2

4. 資産購入の円滑な実施に向けた 4 つの選択肢 資産購入の円滑な実施に繋がる条件緩和の選択肢は何か 大別して 133% のissue limit 2 利回りは預金ファシリティ金利 超 という利回り条件 3 残存期間は30 年 364 日までという条件 4 キャピタルキーに基づいて購入するという条件 のいずれかを修正することが挙げられる ( 図表 4) 1 33% のissue limitの修正 33% のissue limitは 元々 ECBが集団行動条項 (CAC;Collective Action Clause) 発動に対する拒否権を有することを防止する目的がある CACとは 例えば 債権者の一定割合 (75% や 67% など ) が同意すれば 反対意見があっても強制的な債務再編の実行を認める条項であり 円滑に債務再編を実施するためのものだ ECBは救済禁止条項 2 に抵触し得る債務再編を積極的に受け入れる立場にないが 33% のissue limitによってcac 発動を防ぐのに十分な拒否権を持たないため 受動的には債務再編を受け入れる余地がある これに対し33% 超を保有した場合には 救済禁止条項に則って ECBは債務再編に反対しなければならなくなる CACに際してECB 保有分を考慮しない など CACを事後的に変更することは非現実的であり CAC 付帯銘柄に関して33% の上限を修正することは困難と思われる 3 しかし CAC 非付帯銘柄については上限の引き上げが可能だろう 例えばドイツ国債では 2016 年 8 月末時点で 国債の内 半分近くがCAC 非付帯となっている なお CAC 非付帯銘柄は相対的に残存期間が長いため CAC 非付帯銘柄のissue limitを緩和することで イールドカーブはブル フラット化することになるだろう また issue limitの緩和に際してはissuer limitも調整する必要がある 2 利回り条件の修正利回り条件は 金融面では逆イールドの防止 政治面ではECBの損失抑制が狙いであると思われる 後者に関しては 例えばECBが国債を100 億ユーロ購入すると ECBのバランスシートにおいて 資産側では国債が 負債側では超過準備 預金ファシリティが各々 100 億ユーロ増加する 4 超過準備 預金ファシリティへの付利金利は 0.4% 国債利回りは 0.4% 超 なので 国債利回りがマイナスでも この100 億ユーロの国債購入から得られるECBの収益はプラスとなる 1issue limit33% の緩和 現状 : 各銘柄において ECB 購入残高 < 銘柄残高の 33% ECB が CAC 発動に拒否権を有することを防止する目的 2 利回り条件の修正 現状 : 購入銘柄の利回り > 預金ファシリティ金利 ECB の損失抑制が狙いと思われる 3 残存期間 30 年超の銘柄の購入現状 : 購入対象は残存期間 2 年 ~30 年 364 日 クラウドアウト回避が狙い 4キャピタルキーに基づく購入方針の修正現状 : 国債購入総額に占める各国国債の購入は 各中銀のECBへの出資比率に基づく ( 資料 ) みずほ総合研究所作成 図表 4 資産購入プログラムの条件緩和の選択肢 修正案 :CAC 非付帯の銘柄に関して issue limit を緩和 ドイツでは国債の半数近くが CAC 非付帯のため 購入対象拡大への効果はある模様 修正案 : 預金ファシリティ金利の更なる引下げ または 利回りが預金ファシリティ未満でも購入 ただし 銀行の収益性に対する ECB の懸念や ECB の損失拡大リスクを踏まえると議論は難航しそう 修正案 : 残存期間 30 年超の銘柄を購入 ただし 30 年超の銘柄は少なく購入対象拡大への効果は大きくないと思われる 修正案 : 例えば 各国国債発行残高に比例して購入 しかし ドイツが反対するとみられ 意見調整に時間がかかりそう 3

預金ファシリティ金利を一段と引き下げれば あるいは 利回りが預金ファシリティ金利超である銘柄に限定するとの条件を撤廃すれば PSPPの対象銘柄は増え 銘柄不足という問題への対応が可能となる しかし 預金ファシリティ金利が深堀りされる蓋然性は低い 最近の議事要旨や理事会メンバーの発言を踏まえると ECBは 低金利によって金融機関の収益性が低下していることを懸念している模様である 他方 利回りが預金ファシリティを下回る銘柄をPSPPの対象に含める場合 購入対象は増えるがECBは損失を被る ECBの損失に関しては PSPPに反対だったドイツなどから反対意見が出ると思われ 理事会内での意見調整は難航するだろう 3 残存期間が30 年超の銘柄を対象に残存期間 30 年超の公債銘柄を購入対象から除いたのは クラウドアウトを避けるためと説明されていた 残存期間 30 年超の債券は少ないため ECBが介入することで 民間投資家の取引を阻害する恐れがあるとの理由である もっとも 銘柄が少ないということは 30 年超の国債を購入対象に含めたとしても 銘柄不足の解消には繋がらないということだ 実際 ドイツでは残存期間 30 年超の国債が取引されていない したがって より長い残存期間の銘柄が購入される可能性は低いと思われる 4 キャピタルキーに基づかない購入 PSPPでは 各国のECBに対する資本拠出割合 ( キャピタルキー ) に応じて国債を購入することになっている ECB 全体で500 億ユーロ分の国債が購入される場合 資本拠出割合が約 25% のドイツについては およそ125 億ユーロ分のドイツ国債が購入される なお PSPPで損失が生じれば その 20% がキャピタルキーに比例して各国に配分される キャピタルキーではなく 例えば 国債発行残高に比例してPSPPを行えば イタリア国債などを買い増すことが可能となり PSPP 対象銘柄が拡大するとの見方もある しかし それでは財政が不健全な国ほどPSPPの恩恵を受けることになり 欧州の財政健全化という方針に整合的ではないとして ドイツなどが反対すると考えられる また 財政が不健全な国の国債を買い増し 万が一 その国債がデフォルトした場合 損失はキャピタルキーに基づきドイツが多く負担することにもドイツは反対するはずだ キャピタルキーに基づかない購入を行うには 理事会内での意見集約に時間がかかるとみられる 4

5. 今後は資産購入の実施期間が延長される可能性も 9 月理事会では 英国民投票後のユーロ圏景気の底堅さなどを理由に 資産購入プログラムの最低実施期間の延長は議論されなかった その理由について問われたドラギ総裁は 景気見通しは殆ど変っておらず 今のところ 行動を起こす正当性は無いと述べている もっとも 今後は 毎月の購入額は800 億ユーロに据え置かれるものの 資産購入プログラムの最低実施期間の延長などが正当性を持つ可能性が高い ユーロ圏景気は回復を続けるとみられるが ユーロ安による押し上げ効果の剥落や賃金上昇圧力の弱さなどを踏まえると 年末にかけてユーロ圏インフレ率はECBの想定を下回ると思われる それを受け 12 月理事会ではECBスタッフの物価見通しが下方修正される公算が大きい 物価見通しが下方修正された中で資産購入が2017 年 3 月で打ち切られるとは考えにくく 最低実施期間は半年程度延長される公算が大きい 資産購入プログラムの条件緩和の内容も それまでに明らかとなると思われる 1 これらの数値は 2015 年 12 月と 2016 年 3 月に決定された金融緩和策の効果である 2 EU 運営条約 123 条では ECB が各国の政府債務などを引き受けたり 便宜を供与したりすることが禁止されており 救済禁止条項と呼ばれる 債務再編により 例えば ECB が債務減免に応じることは この条項に抵触する 3 2013 年以降にユーロ圏で発行された国債は全て CAC 付帯である 4 実際には ECB と各国中銀を含めたユーロシステムだが 本質的な議論に影響はないので ECB と表記した 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 商品の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保証するものではありません また 本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります 5