感染制御ベーシックレクチャー Q&A ー話題の微生物ー セラチア 東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座感染制御 検査診断学分野新井和明
Q セラチアってどんな細菌
Q セラチアってどんな細菌 A 種類は形態 : グラム陰性桿菌分類 : 科 (family) 腸内細菌科 (Enterobacteriacae ) 属 (genus) セラチア (Serratia ) 種 (species) セラチアマルセッセンス (Serratia marcescens ) 和名 : 霊菌 キリストの血がパンを赤く染めた 種類 : セラチア属は12 菌種 臨床材料からはSmarcescens S liqefaciens S plymuthica S rubidaea S odorifela が分離されるがほとんど S marcescensである.
Q セラチアってどんな細菌 A 特徴 1.Prodigiosinという赤色色素産生株が存在する ( 以前は26~75% の報告 : 近年非産生株がほとんど ) 濃赤紫淡桃色 2.DNase(DNエース ):DNAを壊す Lipase( リパーゼ ): 脂質を分解する炎症増強作用 Proteasae( プロテアーゼ ): タンパク分解 Protease activated recepter 以上の酵素を97% 位の菌株で産生する ( 病原性に関係 ) 3. 他の腸内細菌と同様に細菌膜がリポポリサッカライド ( リポ多糖体 ) つまりエンドトキシンである TLR4 炎症物質産生作用 4. 鞭毛 (Fllagela) が周毛である ( 病原性に関係 ) 鞭毛含有毒素フラジリン( 単毛より多い ) 炎症増強作用(TLR5) 5. 消毒薬に耐性である ( クロルヘキシシ ン, 塩化ヘ ンサ ルコニウム等 )
動物細胞膜の構造と酵素の働く場所 ( バリアーがなくなったとき ) 細胞外液 糖蛋白 ( 表面 ) インテク ラル蛋白 ( 中身 ) L L L P P L L L L P P L L 糖脂質 コレステロール りん脂質 D D DNAへ DNAへ P D DNA へ ヘ リフェラル蛋白 D DNAへ D DNA へ P D DNA へ 細胞内液 D:DNエース L: リパーゼ P: プロテアーゼ
Q セラチアってどんな細菌 A 生息環境は 土壌, 湿潤環境, 人の腸内に生息する. 家庭, 医療機関の流し, 洗面台, 風呂場で検出される. 温度条件 5~40,pH 条件 5~9.5の環境でも生育する. 乾燥に強い, 乾燥状態で 6 カ月経過しても生存 : 感染症雑誌 79,(6):470 471,2002 他の菌種別生存日数 最小生存日最大生存日平均生存日 MSSA 1 >60 12 E faqecium(vse) 22 >60 >60 E faecalis(vse) 11 >60 31 Enterobacter spp. 5 49 17.5 K.pneumoniae 4 27 7.5 E.coli 13h 25 2 Acinetobacter spp 1 >60 9 P.aeruginosa 2h 10 1.5 (P.Gastmeier:J of Hospital Infection,62,181 186,2006)
流し蛇口付近に付着しているセラチア
Q セラチアの感染とは
Q セラチアによる感染症とは A 日和見感染である 健康人には感染しない. 高齢者, 手術後, 糖尿病など極めて重篤な疾患後, 感染防禦能力が低下します. そのような状況の時, つまり易感染の状態の中での感染します. 原因 : 1 内因性 エイズ等免疫不全状態, 癌化学療法後や癌末期において腸管のバリアー機能破綻のため腸内の細菌が血液中に入る. 2 外因性 セラチアに汚染された輸液, 注射薬とそれらのルートにより直接体内に入った場合. 3 二次感染 ウイルスや他の微生物感染後 傷害を受けた細胞 組織が感染する.
JANIS の BSI サーベイランスより 2006 年血液分離主要菌種別年齢分布グラム陰性桿菌 ( 注 ) 陽性検体のみを報告している施設のデータも含まれています ( 注 ) 年齢不詳データは除いて表示しています
JANIS の BSI サーベイランス 2006 年血液分離主要菌種分離率 ( 分離件数 / 総検体数 ) 総検体数 =170,096 ( 注 ) 陽性検体のみを報告している施設のデータは集計から除外してあります ( 注 ) グラフには分離件数の多い方から上位 15 菌種のみ掲載しています
JANIS の BSI サーベイランス 2006 年血液分離主要菌種分離頻度 ( [ 分離件数 / 総分離菌数 ] X100) 総分離菌数 :32,955 件 ( 注 ) 陽性検体のみを報告している施設のデータも含まれています
Q セラチアによる感染症とは A 死亡率は他の細菌感染より高い 院内血流感染の1.4% はセラチアが原因であり セラチア感染の死亡率は26% と言う報告がある 菌名施設死亡 ( 名 ) 感染者 ( 名 ) セラチア S 病院 5 10 M 病院 7 15 I 病院 7 12 T 診療所 1 15 M K 大病院 2 11 D R S 大病院 6 100 P H 大病院 1 9 セレウス J 大病院 2 8 尿路感染の90% に手術や尿路へのデバイス装着あり 創部感染 呼吸器感染 髄膜炎 角膜炎等多彩な病態を示す
Q セラチアによる感染症とは A 特徴 1. 細胞や組織への侵入は多種 多機能な酵素を産生する事に由来し そのため多彩な病態を示し, 重症化し易い. 2. 糖尿病や免疫不全などの基礎疾患や術後患者に感染, 発症する. 3. 高齢者の咽喉頭部に菌が付着し, 一因となる. 4. 生育環境条件が広範で 輸液, 輸液ルート, カテーテルからの感染が多い.
Q セラチアの薬剤感受性
2006 年血液分離主要菌別耐性頻度 S. marcescens JANIS の BSI サーベイランス
Q セラチアの薬剤感受性 A 現状は 1. ペニシリン系 第一世代セフェム系抗菌薬に自然耐性である 2. 通常はアミノグリコシド系 モノバクタム系抗菌薬に感受性である 3.ESBL 産生株が出現し セファマイシン系以外のセフェム系抗菌薬に耐性を示す 4. メタロβ-ラクタマーゼ産生株が出現し カルバペネム系抗菌薬耐性を示す
セラチアの薬剤感受性菌と多剤耐性菌の比較 薬剤感受性菌 多剤耐性菌 ペニシリン系 ABPC : アンピシリン 第一世代セフェム CET : セファロチン 第三世代セフェム CAZ : セフタジチム CTX : セフォタキシム オキサセフェム系 LMOX : ラタモキセフ カルバペネム系 IPM : イミペネム セファマイシン系 CMNX : セフミノクス アミノグリコシド系 AMK : アミカシン フルオロキノロン系 CPFX : シプロフロキサシン LVFX : レボフロキサシン 資料 : 国立感染症研究所
Q セラチアによる院内感染事例
Q A セラチアの院内感染事例と感染原因平成 11 年 7 月東京都 S 病院 5 名死亡 /10 名感染 感染原因 : 輸液調製の際の不備 平成 12 年 6 月大阪府 M 病院 7 名死亡 /15 名感染 感染原因 : 末梢血静脈留置針, 超音波ネブライザー, 吸引操作, アルコール綿 平成 14 年 1 月東京都 I 病院 7 名死亡 /12 名感染 感染原因 : ヘパリンロックに使用する生食の汚染 平成 14 年 4 月群馬県 O 病院 2 名死亡 / 不明 感染原因 : 不明 平成 20 年 6 月三重県 T 診療所 1 名死亡 /15 名感染 感染原因 : 輸液 ( 点滴 ) の作り置き
2008.6.20 朝日新聞
6 月 7 日 6 月 9 日 20 本以上作り置き 6 月 8 日 ( 休診日 ) 常温で放置 7 本からセラチア検出 6 人の血液からセラチア検出 15 人が体調不良 ( うち 1 人が死亡 ) 使用済み 52 本を検査
Listeria monocytgenes Yersinia enterocolitica Aeromonas hydrophila Enterococcus spp Clostridium botulinum Serratia liquefaciens Vibrio parahaemolyticus Shewanella ptrefaciens
(2008 年 6 月 13 日日経新聞 )
Q 今回のセラチア院内感染の問題点は A 衛生上の問題点とコンプライアンスの欠如
輸液調整時の消毒 (T 整形 ) 手洗い 看護師は布製タオルを共有で使用 消毒綿 使い捨てペーパータオル 消毒用アルコールの代わりにグルコン酸 クロルヘキシジンを1000 倍に薄めて使用 輸液の消毒 医療器材消毒 0.1~0.5%,20% 原液 1000 倍希釈でも 0.02% 素手で容器から消毒綿を取り出して容器の注入口を拭いていた ディスポ手袋 水分が残る
有効性が高く コスト的にも安価
薬剤無菌室内クリーンベンチでの輸液の調剤作業
1 薬剤混合に関するプロセスチェック 物品準備 2 3 4 5 又は 又は 手指衛生 ( 手洗いまたは速乾性手指消毒液使用 ) 11 投与前 10 ミキシング台清拭 清拭後に手指衛生注射処方箋で薬剤の準備と ( または速乾性手指消毒液使用 ) 2 人で声だし確認誤薬防止 9 ボトルラベル再確認 8 薬剤の混合 穿刺部に垂直に刺す穿刺毎に消毒 7 物品準備 6 又は 又は インシュリンはボトルラベルに薬液名を記入 1 薬剤を手に取る時 2 薬液を吸い上げる時 3 アンフ ルを廃棄する時 PCによる確認誤薬防止 手指衛生 ( 手洗いまたは速乾性手指消毒液使用 ) 輸液ラインの接続とエア確認 薬剤のミキシング 穿刺部の消毒 手指衛生 ( 手洗いまたは速乾性手指消毒液使用 ) 薬剤の再確認誤薬防止
セラチアに関する余談
Q セラチアの事件 A 1)1951 年アメリカ海軍が Sea Spray 作戦 と称しサンフランシスコ上空でセラチアを散布 3 日後 11 人の感染者が出た 2)2004 年にイギリスのChiron Corporation factory 社で作成したインフルエンザワクチンにセラチアが混入アメリカ向けの供給がストップした
Q セラチアに対する行政の院内感染対策は
Q セラチアに対する行政の院内感染対策は A 行政対応は事件が起こる毎に通知 省令を出している セラチアによる院内感染防止対策の徹底等について [ 大阪 M 病院の院内感染をうけて ]( 医薬安 主幹長 :H12.7.4) セラチアによる院内感染防止対策の徹底について [ 具体的な対策 ]( 医薬安 主幹長 :H12.10.27 エンテロハ クター菌による院内感染防止対策の徹底 [ 都内の院内感染発生をうけ ]( 医薬安 主幹長 :H13.9.4) セラチアによる院内感染防止対策の再徹底について [ 都内 I 病院の院内感染を受けて ] ( 医薬安 主幹長 :H14.1.21) セラチアによる院内感染防止対策の徹底について [I 病院の原因を受け ]( 医薬安 主幹長 :H14.7.19) 院内感染関連通知及び省令文書 45 通のうち 4 通がセラチアに関する文書で第一位
セラチア ( 全ての微 物 ) の感染対策の要点 1. 標準予防策の遵守 ( 手洗いや手指消毒の徹底 ) 2. 点滴処置台などの環境整備 + ゾーニング 3. 点滴に限らず人が操作する各種薬剤調製は要事調製とし, 作り置きを禁止 保冷庫使用は? 保管禁止 厳しい環境下でも生育するセラチアが何時混入し 増殖しているか誰にも分からない まさにキリストしか知らない