鉄骨造建物の遮音性能に関する検討 耐火被覆材の遮音性能 河原塚透 *1 山口晃治 *1 *2 佐々木晴夫 Keywords : steel structure, fire resistive covering material, sound insulation 鉄骨構造, 耐火被覆材, 遮音性能 1. はじめに 2. 実験室における音響透過損失測定 近年, 都心部では付置義務等を背景として, 事務所と住宅が併設された鉄骨造の複合建物が増えている また, 従来から高層ホテルは鉄骨造で建てられる場合が多い 鉄骨造は鉄筋コンクリート造と異なり, 柱や梁に耐火被覆を施し, 火災時の熱から守る必要がある しかし, 昨今採用されている耐火被覆は比重が小さいため, 遮音性能を必要とする梁などとの取り合いにおいて, 経験的な判断により, 遮音補強を行ってきており, 耐火被覆の遮音性能を測定によって客観的に検討した事例は少ない しかし, 近年増加している鉄骨造集合住宅では, 複雑に梁と間仕切り壁が取り合っている部分が多く, 耐火被覆と遮音性能に関して検討する必要が生じてきた そこで, 本報では, 近年多く採用されている半乾式ロックウール吹付け工法 ( 以下, 半乾式耐火被覆 ) およびセラミック系湿式耐火被覆材 ( 以下, 湿式耐火被覆 ) を用いた遮音構造について検討を行い, それぞれ実際の現場に適用し, 高い遮音性能を得ることができた 本報では, その結果について報告する 2.1 実験方法梁下に間仕切り壁 ( 乾式壁 ) が設置された場合を想定し, 梁に施工した半乾式耐火被覆および湿式耐火被覆の遮音性能を実験室において測定を行った 測定は音響透過損失測定用残響室の上部開口枠 (RC) を梁と見立て, 乾式壁 ( メーカーカタログ値 :TLD-60 相当 ) との間 (40mm) に半乾式耐火被覆および湿式耐火被覆を施工し, 壁構造を含めた遮音性能を測定した 測定方法は,JIS A 1416: 2000 実験室における建築部材の空気音遮断性能の測定方法 に準拠して実施し, 実験条件は, 以下の3ケース ( 図 -1) とした case-01 湿式耐火被覆を用いた時の壁の性能を確認する仕様 case-02 半乾式耐火被覆を用いた時の壁の性能を確認する仕様 case-03 壁単体の性能を確認するために, 湿式耐火被覆材部分を油土で塞いだ仕様 3,000 40 case-01 case-02 case-03 *1 技術センター建築技術研究所環境研究室 *2 建築本部技術部 図 -1 試験体概要 Fig.1 Outline of test pieces 47-1
2.2 実験結果 3 ケースの音響透過損失測定結果を JIS A 1419-1: 2000 建築物及び建築部材の遮音性能の評価方法 - 第 1 部 : 空気音遮断性能 付属書 1 に規定された建築部材の空気音遮断性能の等級曲線に載せて図 -2 に示す この結果によると次のことが言える 1case-01 では,case-03 の壁単体の性能と比較して, 2000Hz 及び 4000Hz 帯域で,4dB 程度の遮音性能が低下している しかし,Rr-55 曲線を上回っており, 高い性能であると言える 2case-02 では,case-03 の壁単体の性能と比較して, 特に 250~1000Hz 帯域で遮音性能が低下しており,case- 01 と比較しても 3 ランク性能が低い 2.3 湿式耐火被覆材 ( 梁下部分 ) の音響透過損失 case-01 により得られた透過損失 ( 湿式 + 壁の総合透過損失 ) と case-03 により得られた音響透過損失 ( 壁単体の音響透過損失 ) から, 総合音響透過損失への影響の大きい 2000~4000Hz 帯域における梁下の湿式耐火被覆部分の音響透過損失を求めた また, 参考として本耐火被覆材の耐火認定書内に記された, かさ比重 ( 絶乾比重 )0.6 g/cm 3 と, 壁厚 15cm から質量則により音響透過損失を求めた 結果を図 -3 に示す この結果によると, 測定から求めた値と, 質量則から求めた値は, ほぼ一致しており, 梁下の湿式耐火被覆の遮音性能は Rr-40 程度であることが想定された 2.4 半乾式耐火被覆 ( 梁下部分 ) の音響透過損失 case-02 により得られた音響透過損失 ( 半乾式耐火被覆 + 壁の総合透過損失 ) と case-03 により得られた音響透過損失 ( 壁単体の音響透過損失 ) から, 半乾式耐火被覆部分の音響透過損失を求めた また, 参考として半乾式耐火被覆の代わりに鉄板 4.5mm を遮音材として通して入れた場合の総合音響透過損失を質量則により求めた 結果を図 -4 に示す この結果によると, 梁下の半乾式耐火被覆の遮音性能は Rr-30 以下であり, 湿式耐火被覆と比較すると 2 ランク以上性能が低いことが示された しかし, 鉄板 4.5mm と, 乾式壁との総合音響透過損失としてみると,Rr-50 が得られている 3. 湿式耐火被覆材を用いた鉄骨造集合住宅の例 ここでは, 遮音性能が高い湿式耐火被覆を採用した鉄骨造の集合住宅における遮音性能を考慮した計画およびその結果について報告する 3.1 建物概要本建物は,SRC 造の地下 2 階,S 造の地上 33 階, 事務所と住宅の複合建物で, 地上階 7 階分が集合住宅となっている 図 -2 音響透過損失測定結果 Fig.2 Sound transmission loss measurement results 図 -3 湿式耐火被覆の音響透過損失 Fig.3 Sound transmission loss of wet type fire resistive covering material 図 -4 半乾式耐火被覆の音響透過損失 Fig.4 Sound transmission loss of semi wet type fire resistive covering material 47-2
3.2 戸境壁 ( 耐火遮音間仕切壁 ) の遮音計画および実施内容戸境壁は, 耐火認定および遮音認定を受けた,TLD- 57 相当の遮音性能を有する壁を採用した この戸境壁が鉄骨や外壁のファスナーと複雑に干渉する配置となっていたため, 隙間が生じ遮音性能が低下することが危惧されたため, 腰部壁版や柱型 PCa 版との取合い部の隙間には, 基本的にラス張りの上, 湿式耐火被覆を施工することで隙間を塞いだ ( 写真 -1, 写真 -2) 耐火遮音間仕切壁と床スラブが取合う部分については, フラットデッキのリブを切断撤去し, ランナーを取付けた ( 写真 -3) 戸境壁が小梁と直交する部分は, ウェブにラス下地を設置し, 湿式耐火被覆を 80mm 以上吹付け, 面密度を確保した ( 写真 -4, 写真 -5) また, 梁下に戸堺壁が取合う場合は, 湿式耐火被覆に遮音性能を期待し, 梁下に遮音用通しアングルを設置せずに湿式耐火被覆を施工した 梁に施工した湿式耐火被覆の表面を鏝で押さえて平滑にし ( 写真 -6), 石こうボードとの隙間は, 遮音シールを施した 写真 -4 梁と壁の直行部位 ( 耐火被覆施工前 ) Phot 4 Beam and direct portion of wall (Before covering) 写真 -1 柱と外壁 ( 耐火被覆施工前 ) Phot 1 Pillar and outer wall (Before covering) 写真 -5 梁と壁の直行部位 ( 耐火被覆施工後 ) Phot 5 Beam and direct portion of wall (After covering) 写真 -2 柱と外壁 ( 耐火被覆施工後 ) Phot 2 Pillar and outer wall (After covering) 写真 -6 梁下の耐火被覆状況 Phot 6 Spraying situation under beam 写真 -3 フラットデッキ切断状況 Phot 3 Cutting situation of the flat deck 3.3 遮音性能測定結果竣工時に実際の戸境壁の遮音性能を, 測定によって確認した 測定は JIS-A-1417 建築物の空気音遮断性能の測定方法 に従い実施した 戸境壁を介した室間の遮音性能測定結果を図 -5 に示 47-3
す また, これらの結果を日本建築学会で定める性能基準 1) ( 室間音圧レベル差に関する適用等級 ) にあてはめ表 1 に示した 図 -5 の戸境壁を介した室間の遮音性能測定結果をみると, 全て Dr-55 以上の性能が得られており, これらの遮音性能は日本建築学会の性能基準によると特級と評価され, 高い遮音性能を実現していることが分かる 従って今回採用した仕様によって, 遮音上, 弱点となり易い部位においても遮音欠損は生じず, 高い遮音性能が得られることが確認できた 4.1 建物概要本建物は,SRC 造の地下 1 階,S 造の地上 22 階, 事務所と住宅の複合建物で, 地上階 7 階分が集合住宅となっている 設計図書に記された集合住宅住戸間の遮音性能目標値は Dr-55( 日本建築学会性能基準 : 特級 ) と高い性能が求められている 4.2 戸境壁 ( 耐火遮音間仕切壁 ) の遮音計画および実施内容 (1) 梁下に戸境壁がある場合の納まり戸境壁は, 耐火認定および遮音認定を受けた TLD-60 相当の遮音性能を有する壁を採用した 梁下の納まりは, 図 -6 に示すように遮音ピース C-60 30 10 2.3 を 2 本背合わせにして ( 鉄板 4.5mm 以上を確保 ) 通して取付け, 半乾式耐火被覆の遮音上の弱点を補った また, 確実にシール処理し隙間が無いように入念な施工管理を行った (2) 梁と戸境壁が直行する場合の納まり梁と戸境壁が直行する部位は, 耐火被覆と石こうボードとの間に隙間が生じ遮音性能上の弱点となりやすい そのため, 図 -7 に示すように T 型の遮音鉄板 4.5mm を工場で先行して取付け, 隙間が無いように戸境壁を施工した 半乾式耐火被覆 図 -5 遮音性能測定結果 Fig.5 Sound insuration performance measurement results 壁 TLD-60 相当 シール 遮音ピース C-60 30 10 2.3 ダブル ( 通し ) 表 -1 遮音性能測定結果のまとめ Table 1 Conclusion of sound insuration performance measurement シール 遮音性能 適用等級 A 壁 Dr-60 特級 B 壁 Dr-55 特級 C 壁 Dr-55 特級 D 壁 Dr-60 特級 E 壁 Dr-60 特級 図 -6 梁下の納まり Fig.6 Under beam 4. 半乾式耐火被覆材を用いた鉄骨造集合住宅の例 ここでは, 耐火被覆に遮音性能の低い半乾式耐火被覆を採用した鉄骨造集合住宅の遮音性能を考慮した計画およびその結果について報告する 図 -7 梁と壁の直行部位 Fig.7 Beam and direct portion of wall 47-4
4.3 遮音性能測定結果竣工時にタイプの異なる 3 箇所の戸境壁について遮音性能確認測定を実施した 測定は JIS-A-1417 建築物の空気音遮断性能の測定方法 に従った 測定結果を図 -8 に示す この結果によると,A,B,C 壁とも Dr-60 以上の性能が得られている B 壁においては 1000Hz 以上の周波数帯域において, 扉からの回り込みの影響がみられたが,Dr-60 の性能が得られている 従って, 目標性能値 Dr-55 を上回る Dr-60 以上の高い遮音性能が実現できたことが分かる 従って今回採用した仕様によって, 遮音上, 弱点となり易い部位においても遮音欠損は生じず, 高い遮音性能を得られることが確認できた 扉からの回り込み 5. むすび鉄骨造の建物では, 鉄筋コンクリート造と比較して, 乾式壁と梁や外壁部など遮音性能上に弱点となる部位が生じ易い 湿式耐火被覆は材料そのものの遮音性能が高いため, 遮音性能を確保するための施工計画や管理が比較的容易である 半乾式耐火被覆は遮音性能が低く, それを補う工夫が必要であるため湿式耐火被覆の場合よりも入念な施工計画 管理が必要である 本報告では, 実験室において耐火被覆の遮音性能を明らかにし, また, 実際の建物に適用した事例についても示した 図 -8 遮音性能測定結果 ( 竣工時 ) Fig.8 Sound insuration performance measurement results At the time of completion 参考文献 1) 日本建築学会編 : 建築物の遮音性能基準と設計指針第二版, 技報堂出版,1997.12 47-5