建築物の段階的な省エネ基準適合義務化始まる

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税幅を 1% ずつ小刻みに引き上げるべきであるといった意見も浮上しており 予定通り引上げが実施されるかは 不透明な状況です Q 消費税増税で住宅取得時の税負担は どのくらい増加しますか A そもそも住宅購入にかかる消費税は 土地にはかからず新築物件なら建物部分のみです 仮に図表 1の モデル のよう

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設 拡充又は延長を必要とする理由 関係条文 租税特別措置法第 70 条の 2 第 70 条の 3 同法施行令第 40 条の 4 の 2 第 40 条の 5 同法施行規則第 23 条の 5 の 2 第 23 条の 6 平年度の減収見込額 百万円 ( 制度自体の減収額 ) ( - 百万円 ) 東日本大震

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Transcription:

建築物の段階的な省エネ基準適合義務化始まる 建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の成立 国土交通委員会調査室 中村いずみ エネルギー資源に乏しい我が国において エネルギー需要側が合理的な省エネルギー対策に取り組むことが重要であるが 建築物におけるエネルギー消費量の増加は著しく 対策の強化が急務となっている 2020 年までに新築住宅 建築物について段階的に省エネルギー基準への適合を義務化するとの方針に基づき 第 189 回国会に 建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律案 が内閣から提出され 成立した 今後も省エネルギー基準への適合を段階的に義務化するための制度改正が予想されるところであるが 本稿では 一定の義務化等の措置を講ずることとした法律案の提出の背景 内容の概要とともに 主な国会論議等を整理することとしたい 1. 法律案提出の背景 (1) 建築物のエネルギー消費の現状 資源の大半を海外に依存している我が国のエネルギー需給構造は 東日本大震災以降一 ぜい 層脆弱化しており エネルギー需要側の徹底した省エネルギー対策を推進することが求め られる 我が国の最終消費エネルギーを産業 運輸 業務 家庭の部門別に見ると 産業 運輸部門が減少する中 建築物 ( 住宅を含む ) において居住 執務等のために消費されるエネルギー量 ( 業務 家庭部門 ( 民生部門 )) は著しく増加し 全体の3 分の1を占めるに至っている また 地球温暖化対策として 温室効果ガス削減に向けた国際的な取組が進められる中 我が国は 2030 年度の温室効果ガス排出量を 2013 年度比で 26% 削減する目標を国連に提出し そのうち業務 家庭部門では約 40% を削減することとしている 1 このことからも 建築物における抜本的対策が急務となっている 建築物におけるエネルギー消費量増大の要因としては オフィスビル等の非住宅建築物については床面積や建物使用時間 ( 営業時間 ) の増加 住宅については核家族化に伴う世帯数の増加やエアコン等の機器使用の増加 そして建築物の所有者 施工者等に省エネルギーに取り組む意欲がなかなか醸成されてこなかったことなどが指摘されている 2 (2) 建築物の省エネルギー推進に向けた課題建築物において省エネルギーを推進するに当たって 1 省エネルギー化に伴う光熱費の削減あるいは健康面におけるメリットなどが建築主 住宅購入者 建物所有者に十分認識 1 日本の約束草案 ( 平 27.7.17 地球温暖化対策推進本部決定 ) 2 第 189 回国会衆議院国土交通委員会議録第 13 号 2 頁 ( 平 27.6.3) 46 立法と調査 2015.9 No. 368( 参議院事務局企画調整室編集 発行 )

されていないこと 2 省エネルギー基準に適合させるための追加的費用 3 の負担感が大きいこと 3 中小工務店 大工に省エネルギー基準の内容及び基準に対応するための設計 施工技術が十分に浸透していないことなどが課題となっている 4 このため 1 規制の強化のほか 2 省エネルギー化に伴う光熱費削減の効果や健康増進効果などのメリットの周知や性能表示の推進 3 低コスト化に向けた支援に加え 4 特に住宅については 中小工務店 大工向けの断熱施工の技術講習等への取組が求められている (3) 建築物の省エネルギー対策の経緯建築物の省エネルギー対策については エネルギーの使用の合理化等に関する法律 ( 昭和 54 年法律第 49 号 )( 以下 省エネ法 という ) をベースに推進されてきた 省エネ法は 工場等 輸送 建築物 機械器具等の各分野において 事業者等に省エネルギー措置の届出や使用状況の定期報告を求めることにより自主的なエネルギーの効率向上の取組を求めるものである 建築物については 300 m2以上の建築物の新築時等に 建築主等から所管行政庁への省エネルギー措置の届出を義務付け 著しく不十分な場合には所管行政庁による指示 勧告等の対象としている この届出義務は 平成 14 年の法改正により 2,000 m2以上の非住宅建築物の新築 増改築を対象として創設されたものであり 平成 17 年の法改正では住宅も含めた 2,000 m2以上の新築 増改築 大規模改修等 平成 20 年の法改正では 300 m2以上の建築物の新築 増改築 大規模改修等へと対象が拡大されてきた また 平成 17 年の法改正では届出事項に関する維持保全状況の定期報告制度が創設され 平成 20 年の法改正では特定住宅 ( 建売戸建住宅 ) における省エネルギー性能の向上を図る住宅トップランナー制度が創設されている このような省エネ法による規制的措置のほか 住宅性能表示制度 建築物省エネルギー性能表示制度 (BELS) 等の表示制度の整備 省エネ住宅ポイント制度等の補助 ( 独 ) 住宅金融支援機構のフラット 35Sによる住宅ローン金利優遇 住宅取得資金の贈与税非課税枠拡充等の税制優遇など各種施策が講じられている (4) 省エネルギー基準適合率等の現状こうした取組により 建築物の省エネルギー基準適合率は従来よりも向上し 平成 25 年時点で 2,000 m2以上の新築非住宅建築物では 93% に達している 一方 300 m2以上 2,000 m2未満の新築非住宅建築物では 64% 2,000 m2以上の新築住宅では 49% 300 m2以上 2,000 m2未満の新築住宅では 34% となっている この適合率は省エネ法に基づく所管行政庁への届出により把握されたものであるが 届出率自体が7~9 割にとどまっており 5 届出率の向上も課題となっている 3 平成 22 年 6 月に国土交通省が示した試算では 当時の省エネ基準である平成 11 年基準と 1 代前の平成 4 年基準を比較すると 新築住宅では前者が 50~60 万円程度多くコストがかかり 平成 4 年基準相当の住宅を平成 11 年基準相当に改修する場合には 200~300 万円程度かかるとされている ( 住宅 建築物の低炭素化に向けた現状と今後の方向性 平 22.6.3 低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議 ) 4 第 189 回国会参議院国土交通委員会会議録第 17 号 15 頁 ( 平 27.6.30) 5 平成 26 年 4 月から 6 月に着工された確認済証交付物件の省エネ届出率 ( 国土交通省資料 ) 47

図表 1 建築物の規模別着工棟数 エネルギー消費量 省エネ基準適合率等の現状 床面積 年間着工棟数 (H25 年度建築着工統計調査 ( 推計 )) エネルギー消費量の割合 ( 新築フロー ) (2014 エネルギー 経済統計要覧 H25 年建築着工統計 ( 推計 )) 省エネ基準適合率 (H25 年度 ) 省エネ届出率 (H26.4-6 着工分 ) 2,000 m2以上 300~2,000 m2 300 m2未満 非住宅 3,586 棟 (0.6%) 35.6% 93% 86% 住宅 49% 91% 38,916 棟非住宅 27.6% 64% 72% (6.9%) 住宅 34% 85% 非住宅 住宅 522,558 棟 (92.5%) 36.8% ( 出所 ) 国土交通省資料より作成 (5) 建築物の省エネルギー基準適合義務化に関する政府方針等こうした中で 更に規制を強化することについては関係者の理解がなかなか得られない状況であったが 6 平成 22 年 4 月 当時の前原国土交通大臣と直嶋経済産業大臣は 地球温暖化対策として 全ての新築の住宅 建築物の省エネ基準への適合義務化を検討することを表明した 7 これを受けて経済産業省 国土交通省 環境省は 低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議 を設置し 広く関係業界と意見交換を行って義務化に向けた機運の醸成が図られた 同会議が平成 24 年 7 月に発表した 低炭素社会に向けた住まいと住まい方 の推進方策について中間とりまとめ では 住宅 建築物の省エネルギー性能を高めるためには 新築の住宅 建築物については少なくとも一定の省エネルギー性能を確保することが有効であると考えられることから 2020 年までに全ての新築住宅 建築物について段階的に省エネ基準への適合を義務化することに向けて 円滑な実施のための環境整備を着実に図っていくことが必要である とし 添付の工程表において 大規模 (2,000 m2以上 ) 中規模(300~2,000 m2 ) 小規模(300 m2未満 ) の順で適合義務化を進めることが示された 安倍内閣では 日本再興戦略 ( 平成 25 年 6 月閣議決定 ) 及びエネルギー基本計画 ( 平成 26 年 4 月閣議決定 ) の中で 規制の必要性や程度 バランス等を十分に勘案しながら 2020 年までに新築住宅 建築物について段階的に省エネルギー基準の適合を義務化することとしている 日本再興戦略ではさらに これに向けて 中小工務店 大工の施工技術向上や伝統的木造住宅の位置付け等に十分配慮しつつ 円滑な実施のための環境整備に取り組む とし 日本再興戦略 改訂 2014( 平成 26 年 6 月閣議決定 ) の中短期工程表では 新築住宅 建築物の省エネ基準への段階的適合義務化 ( 建築物 大規模から ) としている こうした方針を踏まえ 国土交通大臣の諮問を受けた社会資本整備審議会が平成 27 年 1 月に答申した 今後の住宅 建築物の省エネルギー対策のあり方について ( 第一次答申 ) 6 第 189 回国会衆議院国土交通委員会議録第 13 号 2 頁 ( 平 27.6.3) 7 前原国土交通大臣会見 ( 平 22.4.16) 48

( 以下 第一次答申 という ) では 民生部門の省エネルギー化に向けた規制的手法の在り方や 新築時の高度な省エネルギー対応 既存建築物の省エネルギー性能向上 エネルギーの使用の合理化を誘導する方策の在り方等について 講ずべき施策の具体的な方向性が示されている また 添付の工程表において 1 大規模非住宅建築物 2 大規模住宅と中規模建築物 3 小規模建築物の順で省エネ基準への適合義務化を進めることが示されている 図表 2 段階的適合義務化のスケジュール ( 出所 ) 社会資本整備審議会 今後の住宅 建築物の省エネルギー対策のあり方について ( 第一次答申 ) (H27.1) 別添 5 住宅 建築物の省エネルギー対策に関する工程表 より抜粋 2. 法律の概要以上のようなことを背景として 建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律案 が平成 27 年 3 月 24 日に内閣から提出された 本法律案は 省エネ法から建築物部門を独立させ 建築物の規模等に応じた規制的措置に加え 建築主等に自主的な省エネ性能の向上の取組を促す誘導措置を一体的に講ずることにより 我が国の建築物全体のエネルギー消費性能 ( 省エネ性能 ) を向上させようとする新たな法律で 衆参両院でいずれも全会一致をもって可決され 平成 27 年 7 月 1 日に成立した その概要は以下のとおりである (1) 規制的措置ア基準適合義務 適合性判定制度の創設一定規模 ( 政令で 2,000 m2とする予定 ) 以上の非住宅建築物 ( 特定建築物 ) について 新築時等 8 におけるエネルギー消費性能基準 ( 省エネ基準 ) への適合義務を課すとともに 基準への適合を担保するため 所管行政庁又は登録建築物エネルギー消費性能判定機関による適合性判定制度を創設し 基準に適合しなければ建築確認がおりないこと ( 着工禁止 ) とする 新規 イ届出制度特定建築物以外の中規模 ( 政令で 300 m2とする予定 ) 以上の建築物について 新築時等における建築物の省エネ性能確保のための計画の届出義務を課し これが省エネ基準に適合しないときは 必要に応じ 所管行政庁が指示等を行うことができることとする 省エネ法から移行 指示等の措置を強化 ウ新技術の評価のための大臣認定制度の創設基準化に至らないものの省エネ性能 効果の高い新技術についても評価を可能とするため 特殊の構造又は設備を用いる建築物について 基準に適合する建築物と同等以上 8 新築若しくは一定規模以上の増築又は改築時 49

の性能を有する旨の大臣認定制度を創設する 新規 エ住宅トップランナー制度国土交通大臣は 一定戸数 ( 政令で年間 150 戸とする予定 ) 以上の建売戸建住宅を新築する事業者が 最も優れている新築戸建住宅の省エネ性能等を勘案して定める基準 ( 住宅トップランナー基準 ) に照らして住宅の省エネ性能の向上を相当程度行う必要がある場合に 勧告等をすることができることとする 省エネ法から移行 (2) 誘導措置ア容積率特例省エネ性能の優れた建築物について 所管行政庁による建築物エネルギー消費性能向上計画の認定を受けて容積率の特例を受けることができることとする 新規 イ表示制度省エネ基準に適合している建築物について 所管行政庁の認定を受けてその旨を表示することができることとする 新規 (3) その他国土交通大臣による建築物のエネルギー消費性能の向上に関する基本方針の策定 国及び地方公共団体の責務 建築主及び建築物の所有者等の省エネ性能向上の努力義務 罰則等について定める 省エネ法の維持保全状況に係る定期報告制度及び修繕 模様替え等の届出制度は 手続の合理化等の観点から廃止する (4) 施行期日基本方針等や (2) の誘導措置は公布から1 年以内 (1) の規制的措置は公布から2 年以内に施行する 3. 主な国会論議と今後の課題 (1) 建築物のエネルギー消費性能向上の意義 効果国土交通大臣からは 本法律の直接の目的は 東日本大震災以降一層顕著となった我が国のエネルギー需給構造の脆弱性を改善することにあるとされ 一方で 建築物の省エネ性能の向上は その結果として 地球温暖化など環境悪化の軽減や国民の健康な居住環境の確保などにも資するとの認識が示された 9 エネルギー消費量削減効果としては 国土交通省から 非住宅建築物について 本法律による適合義務化等の措置を講じなかった場合には 床面積の増加等によりエネルギー消費量が 2030 年には現状より約 3% 増えると予測されるのに対し 本法律により これをゼロ又は減少に転じさせることができるとの見込みが示された 10 9 第 189 回国会衆議院国土交通委員会議録第 13 号 5 頁 ( 平 27.6.3) 10 第 189 回国会参議院国土交通委員会会議録第 17 号 7 頁 ( 平 27.6.30) 50

(2)2020 年までの義務化に向けた考え方及び義務化の意義前述したとおり 2020 年までに新築住宅 建築物について段階的に省エネルギー基準の適合を義務化するとの方針が閣議決定された一方 今後の具体的な進め方や規制の在り方は明らかでない 両院の国土交通委員会では 今後の対象拡大について 予定される時期 範囲等を早期に明らかにすべきであるとの指摘がなされた この点に関し 国土交通省からは 今後の規制の在り方については 省エネ基準への新築建築物の適合状況の推移を見ながら 規制による費用の負担と効果のバランス 規制の必要性に対する国民の理解 大工 工務店や建築主等の申請者側 審査側の体制整備の状況などを総合的に勘案しながら判断する必要があるとされ 痛みを伴う規制について 現段階でいつ どのように どこまでかを言う状況にはない旨の答弁がなされた 11 今回 住宅以外の大規模な建築物を義務化の対象とした理由としては 既に省エネ化が相当進んでおり追加的な費用負担が小さいこと エネルギー消費量が新築建築物全体の3 分の1をカバーするなど規制による一定の効果が期待できることなどが挙げられた 12 また これ以上自主的な取組の促進だけで更なる省エネを進めることには限界があり 現状のままでは今後 2030 年までに非住宅建築物のエネルギー消費量が3% 増えてしまうとして 省エネが定着している分野で最後の底上げを図る手段として義務化を行うとの考え方が示された 13 今後の義務化対象の拡大に当たっても まずは自主的に省エネ基準に適合する率を引き上げた上で 最後の底上げとして必要に応じて規制措置を考えたいとの認識が示された 14 (3) 省エネ基準の在り方省エネ法に基づく住宅 建築物の省エネ基準は エネルギー消費の状況等を見ながら順次引き上げられてきた 平成 25 年に改正された現行の基準 ( 平成 25 年基準 ) は 外壁 窓等の断熱性能及び空調等の設備機器の効率を一次エネルギー消費量換算で評価するものであり この省エネ法の基準に代わるものとして本法律で特定建築物の適合等が義務付けられるエネルギー消費性能基準 ( 以下 この基準を 省エネ基準 という ) は 経済産業省令 国土交通省令で定めることとされている なお 文化財を再現する建築物や 仮設建築物 空調設備を設ける必要がない建築物 ( 屋外駐車場 畜舎等 ) については 規制の適用除外とされている 現行の省エネ法の基準は 高気密 高断熱を基本としているため 我が国の伝統的な木造住宅で採用されている 通風の良さ 床下を高くして湿気を逃がす構造といった伝統的構法は評価されにくい このため 戸建住宅を含む小規模建築物の義務化に向けて 地域の気候風土に対応した伝統的構法の建築物などの承継を可能とする仕組みを検討する必要があることが附帯決議等で指摘された これに対して国土交通省からは 今後の課題とし 11 第 189 回国会参議院国土交通委員会会議録第 17 号 7 頁 ( 平 27.6.30) 12 第 189 回国会参議院国土交通委員会会議録第 17 号 3 頁 7 頁 ( 平 27.6.30) 13 第 189 回国会参議院国土交通委員会会議録第 17 号 10 頁 ( 平 27.6.30) 14 第 189 回国会参議院国土交通委員会会議録第 17 号 15 頁 ( 平 27.6.30) 51

て そのような我が国の気候風土 地域性に合った建て方を評価できるような基準の策定が必要との認識が示された 15 (4) 規制の執行体制の確保省エネ基準適合義務化を実効あるものとするためには 建築確認の前提となる建築物エネルギー消費性能適合性判定が適切に行われる体制が必要となる また 構造計算書偽装問題を契機として構造計算適合性判定を導入した平成 18 年の建築基準法改正時のように 建築確認手続の停滞を招かないようにすることも求められた この点について国土交通省からは 義務化の対象となる大規模非住宅建築物は現行の省エネ法でも届出の対象となっており所管行政庁の審査体制は既に整っていること さらに 新たに民間の登録建築物エネルギー消費性能判定機関による対応も可能となることや定期報告制度及び修繕 模様替え等の届出制度が廃止されることで 所管行政庁の負担は軽減される旨の答弁がなされた また 今回義務化の対象となる大規模非住宅建築物の年間新築棟数は約 3,600 棟 ( 全体の約 0.6%) でそれほど多くないため かつてのような混乱を招くことは少ないとしつつ 法施行に伴って着工への悪影響が生じないよう 規制措置については公布後 2 年以内の施行とし 申請側 審査側の準備期間を十分とっているとの説明があった 16 しかし 今後の義務化対象の拡大に当たっては 前述した第一次答申の工程表 ( 図表 2) で第二段階として想定されている大規模住宅及び中規模建築物の着工は 年間約 39,000 棟 第三段階の小規模建築物 ( 戸建住宅を含む ) の着工は 年間約 52 万棟あり 17 対象棟数が大幅に増加することが見込まれる ( 図表 1) このため 申請側 審査側双方にとって対応可能な制度設計が課題となると思われる (5) 省エネ性能の表示の普及建築物の省エネ性能は外観からは分からないため 信頼性の高い表示制度で 見える化 を図ることで 省エネ性能の高い建築物が適切に評価 選好される市場環境を整備することが重要である 本法律では 建築物の省エネ性能を買手や借り手が簡単に比較できるようにするため 1 建築物の販売又は賃貸を行う事業者に対し 省エネ性能を表示するよう努めなければならないこととしている また 2 建築物の所有者の申請により 省エネ基準に適合していることの認定を受けて その旨を広告等で表示する統一的な制度を創設することとしている 国会論議でも表示制度については高い期待が示された 一方 1は省エネ法から移行された規定であるものの 現状で表示が普及している状況になく 2も申請に基づく任意の制度である 今後 表示の具体化に当たって国民の興味を引く分かりやすい内容とすることや 普及のための工夫が期待される なお 委員会の附帯決議は 売買 賃貸等の契約における性能の説明などの促進の必要性についても指摘している 15 第 189 回国会参議院国土交通委員会会議録第 17 号 4 頁 ( 平 27.6.30) 16 第 189 回国会参議院国土交通委員会会議録第 17 号 2 頁 16 頁 ( 平 27.6.30) 17 平成 25 年建築着工統計調査に基づく国土交通省の推計 52

(6) 既存建築物の省エネルギー対策基準に適合せずに建築 使用開始された建築物を 後から省エネ基準に適合するよう改修することは コスト 18 や構造上の制約が大きいことから 新築工事の段階を捉えて対応させることが費用負担や工事の容易さの点で合理的であるとされる 19 このため 既存建築物については 建物全体の省エネ性能を左右する可能性のある一定規模以上の増改築を行う場合を除いては 本法律の規制の対象となっていない しかしながら 建築物ストック全体に対する新築供給の割合に鑑みれば 20 既存建築物対策も重要であり その推進策が問われた この点に関し 国土交通省からは 省エネ性能に優れた建築物が市場で高く売買 賃貸される市場環境を整えることが重要であるとして 本法律で省エネ基準適合の認定 表示制度を創設するとともに 省エネ性能の向上を誘導すべきより高い水準の基準に適合する改修を行った場合の容積率緩和 一般的な支援策としての補助 融資 税制優遇等の施策を通じて 既存建築物の省エネ性能の向上を図るとの答弁がなされている 21 (7) 住宅の省エネ基準適合義務化に向けた課題第一次答申では 住宅に関し義務化を検討する際には建築主の中に持家を建築する一般消費者が含まれること 基準への適合率や中小工務店 大工における対応状況 審査側の対応可能性 断熱化の意義などを総合的に勘案し 義務化する手法 基準の内容 水準を検討する必要がある とされており 単に本法律のような規制手法で対象を拡大するだけでは対処できない諸々の課題がある その義務化に向けては 住宅における省エネルギーの意義について広く国民の理解を得ていくことが求められる 住宅における今後のエネルギー消費量の見通しとしては 今後世帯数が減少することから 現状のままでも 2030 年にはエネルギー消費量が 2012 年と比較して 13% 程度減少する見込みである 22 このため 本法律の主目的であるエネルギー需給構造改善の観点からは 大規模非住宅建築物に比べて規制の必要性は低くなるとの見方もできる 光熱費削減効果に加え 住宅の断熱化による冷え等の改善による健康維持 増進効果など 副次的効果を含めた国民へのメリットを分かりやすく示していく必要があろう 住宅の断熱化を進めることが 住宅内の温度差に起因するヒートショック現象 23 の防止 冬期の生活の活発化による介護予防等に資することについては多くの質疑者から指摘がなされたところであり 平成 26 年度から国土交通省のスマートウェルネス住宅等推進事 18 脚注 3 参照 19 第一次答申 4 頁 20 建築物ストックの合計が約 73 億 6,567 万m2 ( 国土交通省 建築物ストック統計 ( 平 27.7.30)) であるのに対し 平成 26 年度の着工は約 1 億 3,079 万m2 ( 国土交通省 建築着工統計 ( 平 27.4.30)) 21 第 189 回国会衆議院国土交通委員会議録第 13 号 14 頁 ( 平 27.6.3) 22 第 189 回国会参議院国土交通委員会会議録第 17 号 7 頁 ( 平 27.6.30) 23 温度の急激な変化で血圧が上下に大きく変動する等によって起こる健康被害 失神したり 心筋梗塞や不整脈 脳梗塞を起こすことがあり 特に冬場に多く見られる また 高齢者に多いのが特徴 入浴時に多く発生し 2011 年の 1 年間で約 17,000 人がヒートショックに関連して入浴中に急死したものと推計されている 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 冬場の住居内の温度管理と健康について ( 平 25.12.2) 53

業の中で行われている断熱改修等による健康効果の検証の成果も期待される また 住宅の省エネ基準適合義務化による新築時等の負担増を国民に求める場合には 省エネルギー対策の実施に伴う住宅の高性能 高付加価値化が 将来 中古で販売 賃貸する際にも適正に評価され 資産価値が長く維持されるような市場環境を整えることで 国民の負担感が和らぎ 理解の促進に資すると考えられる 良質な住宅が長く使われれば スクラップ アンド ビルドによる二酸化炭素の排出も抑制することができる こうした観点からも 既存住宅流通市場の整備に向けた一層の取組が求められる さらに 光熱費削減のメリットが所有者ではなく入居者に帰属することとなる賃貸住宅については 所有者側に省エネルギー化を図る動機付けが弱く 対策が立ち遅れていることから その推進方策を検討することが求められる ( なかむらいずみ ) 54